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ノルウェーの保育カリキュラムの改革動向 ―男女平等に向けた取り組みに着目してー

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Academic year: 2021

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Eqquuaalliittyy aam

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Chhiillddrreenn

松田 こずえ(Kozue Matsuda)

お茶の水女子大学大学院(Ochanomizu University)

SUMMARY

It is important to correct inequalities between men and women and guarantee the freedom to choose life equally regardless of individual attributes. This study focuses on Norway, which is regarded as a gender equal society. Norway has changed from a conservative society with a strong sense of division of labor between men and women to one where men and women are treated equally. The purpose of this study is to clarify the changes in Norwegian childcare policy towards gender equality by focusing on early childhood curriculum in the country. Through this research, we will be able to clarify the meaning of promoting gender equality in childcare in early childhood, and to obtain suggestions for Japan.

Using early childhood curriculum (Rammeplan for barnehagens innloud og oppgaver), the way of promoting gender equality among children in ECEC is examined. In Norway, the first Act about ECEC was enacted in 1975, which unified kindergarten and nursery as ECEC (barnehage). The Norwegian ECEC Law (barnehageloven), and government political papers about ECEC were also examined. In addition, the ministries and agencies in charge, the government, the enrollment rate for ECEC, and the ratio of female lawmakers in the parliament were also examined to confirm the social background.

As a result, two things became clear. First, gender equality in ECEC has been divided into three stages according to time, and has been promoted step by step. The three stages are as follows: (1) Stage 1: transformation from a male-centered society to a gender-equal society (1975-1994); (2) Stage 2: improvement in the quality of childcare and gender equality (1995-2009); and (3) Stage 3: realization of an equal society that respects diversity (2010-2017). At Stage1, the goal was to increase the number of ECEC to increase in female employment. At Stage2, attention was focused on the “quality” of childcare. Gender equality among children at ECEC was also regarded as one of the “quality” of childcare. At Stage3, during this period, not only gender equality but also the elimination of all forms of discrimination and respect for diversity were pursued. It was also aimed at ensuring that children experience an equal society in ECEC.

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Eqquuaalliittyy aam

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Chhiillddrreenn

松田 こずえ(Kozue Matsuda)

お茶の水女子大学大学院(Ochanomizu University)

SUMMARY

It is important to correct inequalities between men and women and guarantee the freedom to choose life equally regardless of individual attributes. This study focuses on Norway, which is regarded as a gender equal society. Norway has changed from a conservative society with a strong sense of division of labor between men and women to one where men and women are treated equally. The purpose of this study is to clarify the changes in Norwegian childcare policy towards gender equality by focusing on early childhood curriculum in the country. Through this research, we will be able to clarify the meaning of promoting gender equality in childcare in early childhood, and to obtain suggestions for Japan.

Using early childhood curriculum (Rammeplan for barnehagens innloud og oppgaver), the way of promoting gender equality among children in ECEC is examined. In Norway, the first Act about ECEC was enacted in 1975, which unified kindergarten and nursery as ECEC (barnehage). The Norwegian ECEC Law (barnehageloven), and government political papers about ECEC were also examined. In addition, the ministries and agencies in charge, the government, the enrollment rate for ECEC, and the ratio of female lawmakers in the parliament were also examined to confirm the social background.

As a result, two things became clear. First, gender equality in ECEC has been divided into three stages according to time, and has been promoted step by step. The three stages are as follows: (1) Stage 1: transformation from a male-centered society to a gender-equal society (1975-1994); (2) Stage 2: improvement in the quality of childcare and gender equality (1995-2009); and (3) Stage 3: realization of an equal society that respects diversity (2010-2017). At Stage1, the goal was to increase the number of ECEC to increase in female employment. At Stage2, attention was focused on the “quality” of childcare. Gender equality among children at ECEC was also regarded as one of the “quality” of childcare. At Stage3, during this period, not only gender equality but also the elimination of all forms of discrimination and respect for diversity were pursued. It was also aimed at ensuring that children experience an equal society in ECEC.

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Second, in Norway, ECEC has a significant role in providing care and education for children, and also is thought that it has the potential to influence social change. In other words, politics influenced childcare policy. Thus, the conclusion is that emphasis on early childhood education before children developed stereotypes about gender actively promoted gender equality.

Further research will examine the realities and changes in gender equality among childcare workers at ECEC. It is also necessary to examine whether there are conflicts between gender equality and respect for diversity in the immigrant Norwegian society.

Keywords:

Early childhood curriculum, gender equality, Norway, ECEC, diversity 要 要約約 本稿は、男女平等社会とみなされるノルウェーの保育に着目し、ノルウェーの保育カリキ ュラムにおいて、どのように男女平等が目指されてきたのかについて、その改定の経緯と変 遷の内容を明らかにし、日本の保育を考える上での示唆を得ようとするものである。 ノルウェーは、1960 年以降、性別役割分業意識が根強い保守的な社会から、男性と女性 とが共に労働や育児を分担する男女平等社会へと変化してきた。その変化の過程では、保育 政策においても、男女平等の積極的な推進のための取り組みがあったことが先行研究によ り明らかにされている。また、伝統的なジェンダー規範を持たずに子どもが育つための取り 組みについての研究の蓄積がある。しかし保育カリキュラムの内容を男女平等の観点から 経緯を追って分析したものは見当たらない。 そこで、本稿はノルウェー社会が男女平等社会に変容を遂げる過程で、どのように保育カ リキュラムの中で男女平等が目指されてきたのかについて、時系列に沿って検討する。ノル ウェーで、幼稚園と保育所が保育施設(barnehage)として統一された 1975 年以降に発行さ れた保育に関する政策文書の中で、3 回にわたって改定された保育カリキュラムを分析対象 とし、社会的背景と共に時系列に沿って分析した。また担当省庁、政権、就園率、国会にお ける女性議員の割合、国民における移民の割合も検討した。 保育カリキュラムの改定動向を分析した結果として、以下の二点が明らかとなった。第一 に、保育施設における男女平等への取り組みは時期により 3 つのステージに分けられ、段 階を追って、男女平等が目指されたことが示された。それぞれのステージにおいて(1)ステ ージ1( 1975-1994)では男性中心の社会から男女平等社会への変容、(2)ステージ2(1995-2009)では保育の「質」の向上と男女平等、(3)ステージ3(2010-2017)では多様性を尊重 する平等社会の実現が目指されたことが明らかになった。男女平等の視点から分析するこ とにより、保育カリキュラムの内容の改定は社会的背景や政治の影響を受けたことが示さ れた。

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第二にノルウェーでは、保育施設は子どもたちの養護と教育を行う場としてだけではな く、社会の変革に影響を与える可能性を持つ場とみなされていたことが明らかとなった。幼 児の性別についてのステレオタイプに関して保育施設の保育内容が重視され、保育カリキ ュラムには保育者が子どもの男女平等を促進するための取り組みの方法が明示された。 今後の課題は、実際の保育者の男女平等意識の変容について調べることや、男女平等と多 様性の尊重との関係について検討することが挙げられる。 キ キーーワワーードド 保育カリキュラム、男女平等、ノルウェー、保育施設、多様性 1 1 問問題題とと目目的的 1 1..11 問問題題のの所所在在 本稿は、ノルウェーにおける保育と男女平等社会の実現との関係を保育カリキュラムの 改革動向に着目して検討し、男女平等が保育施設の保育において目指された経緯を明らか にすることを課題とする。 ノルウェーは、世界経済フォーラムが発表する男女平等指数ランキングにおいて世界153 カ国中第2 位(2019)であり、2018 年時点での女性の就業率は 75.4%(20-66 歳)、父親の育 児休暇完全取得率は 70.6%である(1)。男性優位の保守的な社会であったノルウェーにおい て、労働力不足から労働力としての女性に注目が集められた1960 年以降の男女平等政策は 多岐にわたり、保育の分野においても、積極的な男女平等政策がとられた(三井 2010: 111)。 特に1970 年以降は、女性労働者の要望に応える形で、子どもが日中に通う保育施設が増設 された(エリンセター 2018: 76)。複数のタイプが混在していた保育施設は 1975 年の保育 施設法以来統一され、「保育園」「幼稚園」などを包括し、すべてバルネハーゲ(barnehage、 以下、保育施設と表記する)と呼ばれるようになった(2)。社会政治学者であるエスピン-ア ンデルセンは、ノルウェーを「社会民主主義福祉国家」に分類し、国家としての目標を達成 するために多くの政策を取り入れ、保育を必要とする子どもに保育を受ける権利を保障し たと指摘する(Esping-Andersen 2008: 9)。 ノルウェーでは1995 年、2006 年、2011 年、2017 年に保育施設のための枠組み計画(以 下、保育カリキュラムと表記する)が発行された。これらの保育カリキュラムを支える法律 として、1953 年に制定された児童福祉法、1975 年に制定、1995 年、2005 年に改訂された 保育施設法がある。本稿では、ノルウェーが伝統的なジェンダー規範に縛られた保守的な社 会から、男女で家事育児を分担する男女平等社会に変容する時期の保育カリキュラムの改 定とその内容に着目する。国が定める保育カリキュラムの改定の動向を分析することによ り、ノルウェーの保育において男女平等がいかに目指されたのかについて明らかにしたい と考える。

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日本でも、男女平等社会実現のために幼児期から男女平等教育を実施することが有効で あると指摘されている(幼児期からの男女平等教育研究会 2001)。本稿を通じ、幼児期の 保育に男女平等の視点を持つ意義について示唆を得ることができるだろう。 1 1..22 先先行行研研究究とと本本稿稿のの目目的的 ノルウェーの保育における男女平等に向けての取り組みについての先行研究は、主に3 つ の関心によるものに分類することができる(3) 第一に、ノルウェーの子どもたちの男女平等意識についての研究である。公平な男女平等 意識を子どもたちに育てるための実践に基づく研究(Emilsen ed. 2015、三井 2010)がある (4)。これらにより、ノルウェーでは公平な男女平等社会の形成と幼児期の教育とが結び付け て考えられてきたことが明らかになっている。 第二に、ノルウェーの保育者に着目した研究である。保育者のジェンダー・バランス(男 女比)と男女平等との関係について言及する研究 (Olsen&Smeplass 2016、松田 2020)、 男性保育者を増やす取り組みを政策面から明らかにした研究がある(山中 2019)。これらは、 教育研究省(Kunnskapsdepartmentet: 以下 KD)から発行された『男女平等のための行動計

画』(‟Handlingsplane for likestilling”)を分析対象とし、これらと男女平等社会の実現との 関わりを論じている。 第三に、保育政策全般やカリキュラムの研究である。泉は2011 年に改定された保育カリ キュラムを詳細に分析した (泉 2017)。また平等を重んじる子ども観に根差した保育カリキ ュラムについての研究(Strand 2006)、保育政策についての研究(エリンセター 2018)、保育 カリキュラムを環境と持続可能な教育の視点から論じた研究(松田 2019)がある。 以上を踏まえると、本稿は主に第三の研究関心に含まれるものであるが、ノルウェーの保 育カリキュラムの三度にわたる改定の変遷を、時系列に従って男女平等の視点から分析し たものは管見の限り見当たらない。保育カリキュラムは国の保育に関する方針を表すもの であり、保育カリキュラムの改定には、その時代の政権の保育に対する観点が示されるとい える。したがって、その時期に発行された保育カリキュラムの内容の変移を年代を追って検 討し、幼児期の男女平等に向けての取り組みを見ることにより、社会構造が変革するときに 保育施設に求められた役割について知ることが可能になると考える。 よって本稿の目的は,男女平等政策をめぐってノルウェーの保育ではどのような対応が なされてきたのかを明らかにするために,男女平等の視点から保育カリキュラムの改革動 向について整理・検討し、考察を加えることとする。 2 2 分分析析のの対対象象とと研研究究方方法法

本稿では、4 つのノルウェーの保育カリキュラム (Rammeplan for barnehage)を分析対

象とする(表1 で太字により示す)。最初の保育カリキュラムは、保育施設法 (5)1975 年

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BFD)によって発行された。その後、保育の担当省庁が変わり、2006 年、2011 年、2017 年に教育研究省(KD)により改定版が発行された。 保育政策文書の中で保育カリキュラムを分析する理由は、保育カリキュラムは国の幼児 教育に対する方針を表すものであるからである。表1に示す政権交代や管轄する省庁の変 更、社会情勢の影響を受けながら 3 度にわたって改定されたノルウェーの保育カリキュラ ムに着目することで、本稿のテーマである保育における男女平等についてのノルウェー政 権の方針の変遷を検討することができると考える(6)1 保育施設関連法、担当省庁、男女平等政策、政権等の概略(1953-2017) 保育関連法、 政策文書 保育施設の 担当省庁 男女平等関連の政策 政権 1953 児童福祉法 制定 1975 保育施設法 制定 1995 保育施設法 改定 11999955 保保育育カカリリキキュュララムム 発発行行 ( (BBFFDD)) 1997『保育施設における男性保 育者のための行動計画』 2001『保育施設における男性保 育者行動計画2001-2003』 2004『保育施設におけるジェン ダ ー 平 等 の た め の 行 動 計 画 2004-2007』 2005 保育施設法 改定 22000066 保保 育育 カカ リリ キキ ュュ ララ ムム 改改 定定 ( (KKDD)) 2006『保育施設に男性を採用し 雇用を継続するための小冊子』 2006『保育施設における平等の ための教育的な仕事の小冊子』 2008『保育施設におけるジェン ダ ー 平 等 の た め の 行 動 計 画 2004-2007 の最終報告レポー ト』 2008『保育の質 政府白書』 2008『男性の役割と男女平等白 書』 2008『保育施設と基礎教育にお ける男女平等のための行動計 画』 2009『ジェンダーの輪』 2010 保育施設法 改定 22001111 保保育育カカリリキキュュララムム 改改定定 ( (KKDD)) 2011『男女平等のための行動計 画2014 に向けて』 2012 保育者養成カリキュラム の新カリキュラム 発行 22001177 保保育育カカリリキキュュララムム 改改定定 ( (KKDD)) 1972 消費者行政 省設立 1990 家族消費者 省に移管 1991 子ども家族 省(BFD)に移管 2006 子ども家族 省から子ども平 等省に名称変更 2006 保育施設に 関する管轄が子 ども家族省から 教育研究省(KD) に移管 1960 男女平等法 制定 1978 男女平等推進法 1981 初の女性(ブルント ラント)首相 1988 クォータ制導入 1993 父親の育児休暇制度 導入4 週間 2001 ジェンダーフリー教 育カリキュラム 2003 保育施設に関する合 意採択 2005 罰則付きクォータ制 度導入 2011 父親の育児休暇制度 12 週間 2013 父親の育児休暇制度 14 週間 2014 父親の育児休暇制度 10 週間 1973-労働党(ブラッテ リ) 1976-労働党(ノルドリ ィ) 1981-労働党(ブルント ラント) 1981-保守党(ヴィロッ ク) 1983-保守党、中央党、 キリスト教民主党(ヴ ィロック) 1986-労働党(ブルント ラント) 1989-保守党、中央党、 キリスト教民主党(シ ーセ)1990-労働党(ブ ルントラント) 1996-労働党(ヤ-グラ ン) 1997‐キリスト教民主 党、中央党、自由党 (ボンデヴィーグ) 2000-労働党(ストル テンベルグ) 2001-保守党、キリス ト教民主党、自由党 (ボンデヴィーグ) 2005-労働党(ストル テンベルグ) 2013-保守党、進歩 党、自由党、キリスト 教民主党(ソルベル グ) (泉 2017, および Norsk regjering HP より筆者作成)

保育カリキュラム発行の背景として分析する時期は、ノルウェーで最初の保育施設法が

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制定された1975 年から、保育カリキュラムが最後に改定された 2017 年までである。 本稿では、ノルウェー社会が伝統的なジェンダー規範に縛られた保守的な社会から、男女 で家事育児を分担する男女平等社会に変容する時期の保育カリキュラムの改定に着目し、4 つの保育カリキュラムにおける男女平等に関する言説を取り上げ、比較検討し分析する。ま た各時期における男女平等に関する社会的背景を示すものとして、就園率(7)、国会における 女性議員の割合(8)、国民における移民の割合等の状況との関わりについても分析する(9) 3 3 分分析析のの結結果果とと考考察察 3 3..11 子子どどももとと保保育育へへのの注注目目のの始始ままりり――保保育育カカリリキキュュララムム制制定定前前((11997755 --11999955)) ここでは、初の保育施設法が制定された1975 年から、初の保育カリキュラムが制定され た1995 年の前年までの時期の特徴を検討する。 表1の男女平等関連の政策の年表において示されるように、この時期は国の経済発展に 伴う労働力不足から、初の男女平等法制定や父親の育児休業制度導入など、積極的に女性労 働者を増やす政策がとられた時期である(泉 2017: 36)。国会議員に占める女性議員の割合 は 15.5%(1975 年)から 39.4%(1995 年)に上昇した。また消費者行政省(Forbruker-og administrasjonsdepartmentet)により 1975 年に制定された保育施設法により、それまで は別のものであった保育所と幼稚園とが統一され、保育はそれを望むすべての親の権利で あることが明示された(エリンセター 2018: 76)。その結果、1975 年に 8.6%だった就園率 (0-7 歳)は、1993 年には 47.0%(1-5 歳)へと上昇した(10)。すなわち保育施設法の制定以降、 初の保育カリキュラム発行までの時期は、家庭で行っていた育児を社会化するための政策 がとられた時期であると考えられる。 しかし、この時期に目指されたことは、子どもを持つ女性の就労を可能にする保育施設の 数を増やすことだけではなかった。エリンセターによると、1975 年の保育施設法制定以降、 一部の子どものためから全ての子どもの普遍的権利として、日中に保護者の代わりに保育 をするための施設を増やすことだけでなく、それらが子どもにとってのより良い保育内容 を提供する施設であることが目指されるようになったのである(エリンセター 2018: 76)。 さらに、保育施設は就学の前段階となる教育施設であることから、この時期の小学校以降 の学校における男女平等教育について確認する必要がある。学校教育においては、1978 年 の男女平等推進法の成立以降、KD に男女平等事務局が設置され、学校及び教師が男女平等 教育の指導を行うことが規定された。当時の KD 男女平等教育局のバックアップのもと専 門委員会が立ち上げられ、1983 年から 1985 年にかけて全 8 冊からなる児童及び指導する 教師対象の『男女平等の本』シリーズが発行された(Arnrsen, Langbo&男女平等の本を出版 する会 1998)。これは学校における男女平等教育の具体的な方法が学年別に示されたもの であり、これらを用いて学校において男女平等を推進することが目指された。 一方で保育に目を移すと、1975 年に制定された保育施設法には、ノルウェー北方をルー ツとする先住民族のサーミ族の子どもへの教育的配慮が強調されているが、男女平等につ

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いての言及は見られない。つまり1975 年時点での保育政策においては、男女平等への取り 組みは、まだ中心的な課題ではなく、サーミの子どもの権利を尊重することへの配慮のほう がより強く意識されていたことに特徴がある。 以上、この1975 年から 1994 年までの時期は、保育施設に通う子どもたちの男女平等の 意識を育むという視点はまだ見られず、子どもの親である大人にとっての男女平等を可能 にするための政策が制定された時期であったことが示された。 エスピン-アンデルセンは、社会における平等について「質の高い保育サービスと就学前 教育への参加は、より平等な機会を産むような真に有効な政策となる」(Esping-Andersen 2009=2011: 140)と主張する。普遍的なサービスとしての保育が目指された 1975 年から 1994 年の時期を経て、1995 年に初めての保育カリキュラムが発行されることになる。 3 3..22 保保育育ににおおけけるる男男女女平平等等のの視視点点のの登登場場((11999955 年年版版保保育育カカリリキキュュララムム発発行行のの背背景景)) ここでは、1995 年に BFD により発行された初めての保育カリキュラム(1995 年版)の内 容を男女平等の視点から検討する。就園率は 47.0%(1993 年)から 87.1%(2008 年)に上昇 し、多くの子どもが家庭ではなく、保育施設にて日中を過ごすようになった。また国会にお ける女性議員の占有率は39.4%(1995 年)や 36.1%(2009 年)であり、数値の上では政治の世 界における一定の男女平等が実現しつつあったといえる。一方、国民総人口に対する移民の 占有率は6.8%(1999 年)から 8.2%(2005 年)と上昇しており、移民が増加する時期であった。 このような社会状況の変化の中、1995 年度版保育カリキュラムが発行された。これは同 じ年に改訂された保育施設法に基づく手引き書であり、145 ページにわたり保育内容につい て領域ごとに詳しく述べられた(11)。男女平等に関しては、例えば第 1 章で次のように述べ られている。 家庭生活と生活スタイルは、保育施設に影響を与える。家族単位は小さくなり、家族の 状況は変わっていくであろう。男女平等と女性の労働参加は、両親と子どもの状況を明ら かに変えてきている。(BFD 1995: 17)(以下、傍線筆者) ここでは、就労する女性が増え、家族の状況や生活スタイルが変わりつつあることが明示 されている。つまり保育施設が社会状況の影響を受けるものであることに言及し、社会と保 育との結びつきを示唆している点に注目することができる。また、次のようにも言及される。 子どもは保育施設において男性女性両方と関わりを持つ必要がある。大多数の子ども は保育施設に通うため、男女平等の観点からみると保育施設が女性多数の環境でありつ づけていることは好ましくない問題である。(BFD 1995: 17)

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このように、女性保育者が大多数を占める状況が子どもの育つ環境として好ましくない ことが指摘されている。つまり社会全体が男女平等社会へと変わりつつある時期に、保育施 設も男女平等を促進する視点を持つ必要があるという課題が示された。一方で、この時点で は保育施設における男女平等に向けた取り組みについては言及されない。すなわち1995 年 版保育カリキュラムでは、具体的方法の提示には至らないものの、保育と男女平等社会の実 現とが関わりを持つことが認識され始めたとみることができる。 3 3..33 「「質質」」のの高高いい保保育育とと子子どどもものの男男女女平平等等((22000066 年年版版保保育育カカリリキキュュララムム改改定定ののポポイインントト)) 次に保育カリキュラムが改定された2006 年は、保育の担当省庁が変更した年であり「質」 の高い保育と子どもの男女平等を考える上で重要な年である。すなわち、担当省庁がBFD から KD に移管されたことにより保育施設での保育と学校教育との一貫性が保障され、保 育施設が生涯学習の最初の段階として考えられるようになった。また、保育施設が養護と教 育を一体的に提供するものであることが強調された。KD は、研究者と実践者からなる実行 委員会を設置し意見をまとめ、前年の保育施設法改正を反映させた2006 年版保育カリキュ ラムを発行した(泉 2017: 40)。 KD により発行された 2006 年版保育カリキュラムの序文において、保育施設は保育施設 法、およびノルウェーが署名した国際条約、ILO の条約、先住民族および種族民族に関する 169 条および国連子どもの権利条約を守る責務があることが述べられている(12)。このよう に世界における子どもへの視点が変容を遂げたことを受け、2006 年版保育カリキュラムは、 その影響を反映させたものになっている。 2006 年版保育カリキュラムは、全 34 ページ、5 章からなり、章のタイトルは以下の通り である。第1 章は「保育施設の目的、価値、保育内容」、第 2 章は「ケア、遊びと学び」、第 3 章は「学びの領域」、第 4 章は「計画、記録、評価」、第 5 章は「協力関係」である。 2006 年以前に政府より発行された保育施設法や、保育カリキュラムにおいては、男女平 等については独立して述べられるのではなく、「平等、寛容」を大切にするといった他の概 念と並列に述べられていた。しかし、2006 年版カリキュラムにおいては、第 1 章において 「異なった人間の平等、平等な機会、知的な自由と寛容が社会的な価値を持つ」と他の概念 と並列に述べた後に、項を改めて男女平等の重要性について言及している。また、保育にお いて男女平等の視点を持ち、保育者が子どもたちへの接し方に配慮することが推奨された。 それは例えば次のように示される。 保育施設は、性別間の平等の原理に基づいた保育の活動を行う必要がある。男の子と女 の子が同じ機会を持つように目指されるべきであり、保育施設におけるすべての活動に 積極的に参加するよう促されるべきである。保育者は男の子と女の子に対する接し方の 態度を配慮し、社会から期待されるものを反映させる必要がある。(KD 2006: 10)

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このように、性別間の平等の原理に基づき保育者が男の子にも女の子にも平等な機会を 提示し、すべての活動に平等に参加できるように配慮することが重要であると述べられて いる点に注目したい。1995 年版保育カリキュラムと比較し、この 2006 年版では男女平等 に関して明確な説明がなされ、保育者の子どもに対する態度について言及された。1995 年 版保育カリキュラムよりも、さらに具体的な内容になり、平等な社会を創造する子どもたち を育てるために保育者の接し方が重要であることを指摘した。これはカリキュラムに新た な視点が加えられたと考えられる。また、2008 年には政府白書『保育の質』(St.meld.nr.41 2008)が発行され、保育の「質」に対する議論も盛んになった。この中で議論された「質」 の中に、男女平等の実現も必要な要素の一つとして挙げられたことに注目する必要がある。 さらに2006 年版保育カリキュラムで特筆すべきこととしては、多様という語句が使われ るようになったことである。例えば、以下のように述べられている。 保育者は全ての子どもが発達の段階や年齢、性別、家庭環境に関わらず、自分が共同体 の中で重要であると感じるように保育を実施する責任を負う。保育施設は多様な個人と 多様な表現がそれぞれの違いを尊重する環境を提供する。相違と類似に目を向けること は理解と見識を深めることに役立つ。(KD 2006: 12) ここでは、保育者は子どもの育つ環境が人により異なることを心に留め、それぞれの子ど もの多様性を尊重する必要があることについて記述されている。このように違いを受け入 れる必要性については、1 章に限らず、全体を通して繰り返し述べられている。多様性 (mongfold)という語句は、保育カリキュラム全体で 5 回使われているが、そのうちの 1 回はサーミ人、サーミ文化との共存という文脈で使われ、また別の 1 回は自然の多様性と いう文脈で使われる。多様性という言葉は、これ以外では「文化の多様性」という文脈(1 回)、 「それぞれの子どもの文化的な多様性を考慮する」という文脈(2 回)で用いられる。ノルウ ェーにおける移民の総人口に占める割合は1970 年には 1.5%、1999 年には 6.6%、2005 年 には8.2%と年を追うごとに増加しており(Statistic setralbyrå、以下 SSB)、それぞれの 子どもが抱える背景の相違についての言及は、ノルウェー社会の中で移民や移民の子ども が増えてきたことへの対応も必要と考えられるようになったことの表れと考えられる。 3 3..44 男男女女平平等等をを含含むむ多多様様性性へへのの注注目目((22001111 年年版版保保育育カカリリキキュュララムム改改定定ののポポイインントト)) 2010 年年の保育施設法の改訂を受け、翌2011 年に保育カリキュラムが改定された。2006 年版保育カリキュラムと比較すると、2011 年版ではすべての人にとっての平等をさらに強 調し、男女平等を積極的に推進することが目指されたことを指摘することができる。サーミ 人や移民が急増する社会背景を考慮した内容であり、新しい教育事業であることが明記さ れた(KD 2011)。 2011 年版カリキュラムにおいては、以下の 3 つの視点から、保育内容における男女平等

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に関して目指されたことを確認できる。第一に、保育者の意識や態度による男女平等の促進、 第二に保育のあらゆる場面での男女平等の促進、第三に社会に参加する一員として異なる 文化圏の子どもと互いに直接やりとりをすることによる男女平等の促進の3 つである。 第一の、保育者の意識や態度による男女平等の促進の視点は、次の文に表されている。 保育施設は教育実践において男女平等を促進するよう努めなければならない。(中略) 保育施設は、子どもたちを育て平等な権利の社会に遭遇し創造する場である。保育施設の 活動は男女平等の原則に基づいていなければならない。男の子と女の子は経験の機会が 平等でなければならず、保育施設で行われているすべての活動に一緒に参加することが 奨励されている。保育者は、男の子や女の子に対する社会の期待に応えるように、自分の 態度に積極的に反映させなければならない。(KD 2011: 12) 以上のように、2011 年版では 2006 年版との表現の違いを確認することができる。つま り、2006 年版カリキュラムでは「男女平等は、保育施設によって提供される教育に反映さ れる」と表されたものが、2011 年版では、「教育実践において男女平等を促進する」と言及 され、男女平等をさらに積極的に推進していく姿勢が表されている。また、2011 年版では 「保育者は、男の子や女の子に対する社会の期待に応えるように、自分の態度に積極的に反 映」させなければならないと、2006 年版保育カリキュラムと比較して主張の度合いを強め ている。このように、2011 年版においてはより具体的に、保育者が保育施設における男女 平等を推進する役割を担うという意図が示されていると考えることができるであろう。 次に第二の視点である、保育におけるあらゆる場面での男女平等の促進については、2011 年版では以下のように表されている。 伝統的なジェンダーの役割を破るような体を動かす遊びと活動を促進し、男の子と女 の子があらゆる形態の活動に平等に参加できるようにする。(KD 2011: 42) 2011 年版では、保育内容の「健康」の項で「伝統的なジェンダーの役割」を超えた遊び や活動ができるように、保育者に積極的に体を動かす遊びの提案を求めるなど、男女平等に 向けて保育施設の果たせる積極的役割を具体的に説明する点に着目することができる。 第三に、異なる文化圏の子どもと直接やりとりをすることにより、社会の一員として男女 平等を促進することが目指されたことについて、次のように分析をすることが可能である。 2011 年版保育カリキュラムでは、2006 年版と比較して、多様な文化を受け入れることに関 する保育者の心がけが詳細に説明されている。例えば以下の文を参照する。 保育者は、機能レベル、年齢、性別、家族の状況にかかわらず、すべての子どもたちが、 グループ内の他の子どもがコミュニティーにとって重要であると確実に感じさせる責任

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がある。保育施設のすべての子どもは、年齢、性別、民族的背景、能力水準にかかわらず、 他の子どもと共に有意義な活動に参加する機会が均等に与えられなければならない。 (KD 2011: 47) ここで引用したように、さまざまな背景を持った子どもたちが互いに認め合い、言葉を交 わすことによって多様性を学ぶことができると述べられている。2006 年版と比較して、子 ども同士のやりとりに価値を見出すと考えられる内容が増えている。つまり2011 年版にお いては、保育施設で過ごす幼児期に、異なる環境で育った者同士がお互いを尊重し合い、実 際にやりとりをして交流する関係性の中で育まれるものを重視する視点が表されている。 また、「男の子と女の子に均等な注意を払う」、「異なる伝統やライフスタイルの理解を深め る」の表現がある。これは、男女への異なる考え方を持つ移民の文化を尊重した上で、男の 子と女の子を同等に扱うなど、ノルウェーの男女平等を実践する機会を保育施設で提供す ることが目指されていることが読み取れる。 2011 年時点での社会背景について考えると、ノルウェーにおける全人口に占める移民の 割合は 11.6%であり、2005 年の 8.2%から短期間にポイントをおよそ 3.5%上昇させてい る。このように移民が急激に増えた時期に、保育施設での男女平等への取り組みを通して、 異なる文化背景をもつ子どもたちに、ノルウェーの男女平等の考え方を伝えていくことが 志向されていた。つまり、子どもが日中を過ごす保育施設にて男女平等の社会を体験するこ とを通じて、ノルウェーの文化的社会的背景に馴染むことが強く目指されたと考えること ができる。 ここまでの内容に加え、2006 年版と 2011 年版保育カリキュラムの、男女平等に関連す る語句の使用回数を比較し、さらに考察を深める。「性別」「平等」「多様性」「連帯」の4 つ の語句について、その使用回数と使用の文脈を検討した(13)。すると「性別」は7 回から 11 回に、「平等」は6 回から 17 回に、「多様性」は 5 回から 7 回に、「連帯」は 4 回から 10 回 に、それぞれ増加したことが確認できた。 ここで最も注目したいのは、「連帯」の語句の使用回数である。2006 年度版では、第 2 章 においてキリスト教との連帯を述べる文脈で4 回使用されている。「連帯」の語句は、この 項以外では見られない。それに対して、2011 年度版では、「連帯」の語句がさまざまな項目 において計10 回使用され、そのうちの 4 回は「平等と連帯」のように、他の語句との同時 使用の形で確認できる。このことは、社会の変容に合わせ、「多様性」を受け入れ、「平等」 と「連帯」を保育施設で実現していくことが重要であるというメッセージを伝えるものと考 えられる。すなわち、保育施設において、「平等」と「連帯」を同時に促進し、「平等」と「男 女平等」をさらに積極的に推進することが多文化社会への対応として求められたことが示 された。

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3 3..55 多多様様性性をを尊尊重重すするる平平等等社社会会のの実実現現((22001177 年年版版保保育育カカリリキキュュララムム改改定定ののポポイインントト)) 2017 年に改定された保育カリキュラムが発行された。ここでは多様性の尊重という概念 がますます強調された。つまり男女平等を目指す社会という面にとどまらず、多文化社会に おける保育に着目し、平等の概念を子どもたちに伝える方法に関する内容が含まれた。 保育施設では平等と反差別の原則に基づいて活動し、子どもたちが平等な社会を体験 し、創造することができるようにする。誰もが保育施設で共有されるすべての活動に参加 し、見聞きし、そして奨励される同じ機会を持つべきである。公平性と平等を最もよく伝 え、促進するために、保育者は自らの態度を熟考しなければならない。(KD 2017: 10) 上記の引用からは 2017 年版保育カリキュラムでは、性別のみに限定せず、あらゆる点で 公平および平等を重視するべきことや、差別をせずに包括的な態度を身につけることを意 図した表現となっていることがわかる。具体的には、保育施設に通う子どもたちが、多様な 背景を持ったクラスメートと共に平等な社会を築く経験をすることが目指されている。 保育施設は、多様性と相互尊重を可視化し、評価し、促進することにより、人間の尊厳 の尊重を促進する必要がある。(中略)保育施設は価値観、宗教、人生観の違いを強調する。 (KD 2017: 9) このように男女平等の重要性を中心に主張する段階から、出自、民族等、様々な要素を含 んだ多様性を尊重する中で個人の平等を積極的に推進することを目指す段階へと移行した と考えられる。就園率が上昇し多くの子どもが保育施設に通うようになった時期であるか らこそ、平等の概念が拡張されたとみなすことができる。保育カリキュラム全体を通して、 偏見や差別の意識を持つ以前の幼児期に、子どもたちが平等社会を経験することが重視さ れている。すなわち、平等社会を築く意識を育てる場としての役割が保育施設に期待された と考えることができる。以上の分析から 2017 年版保育カリキュラムで目指されたことは、 多様な文化的背景を持つ移民の増加等の社会的状況を反映し、男女平等だけを強調するの ではなく多様な観点から多様性を尊重することに中心的な課題が置かれたと考えられる。 ここでも、改定のポイントを明らかにするために2011 年版と 2017 年版とにおける関連 語句の使用頻度を比較する。すると「性別」の語句の使用回数が11 回から 2 回に減少して いる。また、「平等」の語句も、17 回から 8 回へと減少する。これらの語句の代わりに急激 に使用回数が増加している語句は「多様性」である。2011 年度版では 7 回であったのが、 2017 年度版では 21 回と 3 倍に増加し、さまざまな章や項で、頻繁に使用されていること を確認することができる。一方、「連帯」の語句の使用回数は10 回から 6 回へと減少して いる。 ここからは、以下の内容を導くことができる。「性別」や「平等」の語句の使用回数は減

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少してはいるが、このことは保育において男女平等の実現が目指されなくなったことを意 味するものではない。そうではなく、時代の社会状況の影響を受け、平等の概念にさらに広 い意味が含められるようになり、男女平等を含めた多様な価値観を平等に尊重する社会を 保育施設において目指すことがカリキュラムによって示されたと考えることができる。異 なる背景を持つ一人一人の子どもたちの存在を尊重し、「連帯」を大切にしながら差別する ことなく平等な社会を作ることのできる人を育成することが保育施設の使命として求めら れた。これこそが、改定された2017 年版カリキュラムが発行された大きな理由であったと 考えられる。 4 4 全全体体考考察察 これまでの議論を踏まえ、4 つの保育カリキュラムの内容を就園率と移民の比率、また国 会における女性議員率と共に検討したところ、対象とする時期(1975 年以降)はその時期に よる特徴から、以下の図1 に示されるように第 1、第 2、第 3 の 3 つのステージに分けて考 えることができる。 図図11 女女性性議議員員のの割割合合、、就就園園率率、、移移民民のの割割合合のの変変化化 (出典:SSB および IPU 列国議会同盟を基に筆者作成) まず1975 年からの保育カリキュラム制定前の時期は、第 1 ステージと考えることができ る。理由として、この段階ではまだ保育カリキュラムが存在しないこと、1975 年に初の保 育施設法により幼稚園と保育所が統一されたこと、1978 年に男女平等推進法が制定される など、就園率も国会の女性議員の割合も増加の一途を辿り、男女平等社会に変わりつつある 時期であったことを指摘することができる (図1参照)。よってこの時期を (1)第 1 ステー ジ:男性中心の社会から男女平等社会への変容(1975-1994)と名付けよう。

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次の1995 年からの時期には、表 1 と図1に示すように、就園率が過半数を超え、保育政 策文書がたびたび発行された。これと同時に、保育施設は教育の最初の段階として保育の 「質」を高めるための議論が生まれた。保育の「質」の内容に男女平等に向けての意識の育 成も挙げられたことにも特徴がある。この時期を(2)第2ステージ:保育の「質」の向上と男 女平等(1995-2009)と名付けることとする。 次の2010 年からの時期は、移民が増加した時代の変化に合わせ保育カリキュラムの内容 に多様性の尊重や連帯の概念が多用されたことに特徴がある。したがって(3)第3ステージ: 多様性を尊重する平等社会の実現(2010-2017)と名付ける。 これら 3 つの時期のステージに分類したことにより、保育カリキュラムの内容の改定を 通して、保育施設で男女平等社会の実現が段階を追って目指されてきたことが示された。ま た保育者の意識の転換を促すことにより、保育における男女平等が積極的に目指されたこ とが明らかとなった。すなわち保育における男女平等への取り組みが、保育カリキュラム発 行時期の社会状況の影響を受け、カリキュラムの内容に反映されていたことが示された。 5 5 結結論論とと今今後後のの課課題題 以上、本稿ではノルウェーの保育における男女平等について、保育カリキュラムの改定の 内容と社会的背景に着目して時系列を追って分析し、社会の変化に対する政策の影響の変 遷を考察した。その結果、次の二点が明らかとなった。 第一に、1975 年以降の保育施設における男女平等は、時期による特徴や内容により 3 つ のステージに分けられ、各ステージにおいて志向される内容は変化し、段階を追って目指さ れてきたことが示された。すなわち、保育カリキュラムにおいて使われる語句や強調される 内容は少しずつ形を変えながらも、一貫して男女平等への積極的な取り組みが指向された。 またそのような取り組みは目標提示にとどまらず、保育者の子どもへの態度や遊びの方法 など、子どもへの具体的な接し方についても言及された。 第二に、ノルウェーでは保育施設は子どもたちの養護と教育を行う場としてだけでなく、 社会の変革に影響を与える可能性を持つ場としての役割を与えられていたことが明らかと なった。21 世紀以降の国際的潮流として幼児期の教育に注目が集められている。ノルウェ ーの保育は、男女平等への取り組みも保育の「質」の高さの一つとして考えられ、将来の社 会を担う子どもたちが幼児期に伝統的なジェンダー規範を持たず公平な平等意識を持つこ とが強く指向されていたことが示された。ノルウェー政府が幼児期の保育の重要性につい て認識し、社会へ与える影響の大きさを重視していたことの表れと考えられる。つまり、子 どもたちが保育施設に通う時期だけを取り出し、その限定された期間にだけ良い保育を提 供することが重視されていたのではない。保育施設を一人の子どもの将来に続く最初の教 育的な施設と考える長期的な視点が持たれていた。つまり、子どもたちの男女平等意識の形 成において保育施設が果たしうる役割があるという期待があり、そのための場として重視 され、社会の中に位置づけられていたことを強調したい。

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本稿は、保育カリキュラムの改定の動向の分析を通して、男女平等社会の実現に向けての 保育施設の取り組みの経緯を明らかにした。すなわち、平等社会実現に向けて子どもたちに 積極的に働きかけるという保育施設の持つ重要な役割の一つを提示したことに本稿の意義 がある。日本ではいまだに男女平等社会実現に向けての課題が山積し、保育における男女平 等への取り組みという視点は不十分であり、本稿により重要な示唆を得ることができた。 一方、本稿は保育カリキュラムの言説分析であるため、実際のノルウェーの保育施設にお ける男女平等に向けての取り組みの様子については検討していない。今後は、実際の保育施 設での具体的な取り組みや、保育者や保護者による受け止められ方について研究し (14)、男 女平等や多様性の尊重と保育政策との関わりについて、さらに研究を進めていきたい (15) 【註】 (1) 育児休暇完全取得率は、法律で定められた育児休暇を全期間にわたり取得する親の割合 である。(https://www.ssb.no/en/befolkning/statistikker/likekom/aar 2019/12/15 取得) (2) 文献により、保育施設は保育所、幼稚園、こども園など表記が異なる。本稿では、1975 年以降のバルネハーゲ(barnehage)は、すべて保育施設と表記することとする。 (3) ノルウェー語による先行研究はノルウェーの大学文献検索システム Oria、英語による

ものはSCOPUS、また日本語によるものは CiNii Articles の各検索システムにより、「ノ

ルウェー」「男女平等」「保育政策」等の語句による検索を用いた。

(4) 日本の幼児期の男女平等に関しては、青木や藤田による幼児期の男女観の形成過程に関

する研究(藤井 2005,青野 2007)、諸外国の動向に関する視察報告書(幼児期からの男女平

等教育研究会 2001)などの研究の蓄積がある。

(5) 保育施設法:2005 Barnehageloven, Lov 17 juni 2005 nr.64 om barnehager.

(6) 例えば初の女性首相を務めた Brundtland は、子ども家族省を新設し、父親育児休業制 度を充実させるなど、積極的な男女平等政策を推進した(Brundtland 2002) (7) 就園率については、SSB を参照した。年齢ごとの子どもの総数に対する就園している 子どもの数の割合であり、統計の年度により対象となる子どもの年齢が異なる。 https://www.ssb.no/en/statbank/table/09293/tableViewLayout1/(2019/12/15 取得) (8) 国会における女性議員の割合は、各国の政治における女性参画のバロメーターとして、 列国議会同盟(IPU)により発表される。 https://www.ipu.org/our-impact/gender-equality(2019/12/15 取得) (9) 本稿の統計データはノルウェー政府統計局データ(Statistic setralbyrå 以下 SSB)を 用いる。https://www.ssb.no/(2019/12/15 取得) (10) 木下によると 1975 年以降 10 年間のうちに 10 万人分の保育施設を整備することが目 指され、地方自治体は保育施設の拡大と管理責任を負うこととなった。(木下 2004: 172) (11) ノルウェー語とサーミ語によるもののみ発行されている。例えば 1995 年版保育カリキ ュラムの目次は以下の通りである。(目次) 第1 章:地域における保育施設の役割、第 2 章: 保育施設のための目的と価値、第3 章:カリキュラム全体と解説、第 4 章:社会的な相互作用、 遊びと日々の活動、第5 章:文化とカリキュラム、第 6 章:サーミ語とサーミ文化、第 7 章:計 画、実行、評価、第8 章:責任、形式、運営、協力、第 9 章:保育施設の発展(BFD 1995) (12) 子どもの権利に関する条約は、1989 年に国連によって採択、1991 年にノルウェーによ って批准され、2003 年にノルウェー法に組み込まれた。国家および組織が行う子どもに関 するすべての措置において、子どもの最善の利益が考慮される必要があると述べられた。 (13) これらの語句の分析に関しては、便宜上ノルウェー政府発行英語版を使用した。 (14) 筆者は現地調査(2019/9)においてノルウェーの男性保育者 5 人へのインタビューを実施

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した。この際、男性保育者として男女平等を実現していく上での課題が語られた。 (15) 筆者によるクウィーンモード幼児教育大学のカーリ・エミルセン(Kari Emilsen)教 授へのインタビュー(2019/9/20)では、保育における男女平等を推進するための国の取り組 みは、近年では国や自治体の予算が削られ転機を迎えているという課題が語られた。 【 【引引用用文文献献】】 青野篤子,2007,「男女平等とジェンダーに対する保育者の意識」『福山大学人間文化学部 紀要』7: 65-79. Arnesen,I.J., A.Langbo・男女平等の本を出版する会編, 1998,『男女平等の本:このように 歴史は始まった――ノルウェー女性史』男女平等の本を出版する会.

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参照

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