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安全で効果的な赤かび病防除剤の開発に向けて

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JSM Mycotoxins is issued twice a year, one volume a year, by the Japanese Society of

Mycotoxicology and the purpose of the journal is to publish results and technical

information regarding mycotoxins. JSM Mycotoxins publishes Reviews, original results

(Research Papers, Technical Notes, Notes, and Letters), Proceedings of special lectures,

symposia, and workshops of the meeting of Japanese Society of Mycotoxicology

www.jstage.jst.go.jp/browse/myco

Japanese Society of Mycotoxicology

(http://www.jsmyco.org/MYCONTENTS/Eng/index_eng.html)

O O O O O OMe H H O O OH OH O OH O O O OH N H COOH O O O Cl OH

The control of Fusarium head blight in

wheat and barley using plant-derived

metabolites.

Takumi Nishiuchi, Makoto Kimura

JSM Mycotoxins, 71(1):13-19 (2021)

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ミニレビュー

www.jstage.jst.go.jp/browse/myco/-char/ja/

安全で効果的な赤かび病防除剤の開発に向けて

西内 巧

1

,木村 真

2 1金沢大学・学際科学実験センター・遺伝子研究施設(〒920-0934 石川県金沢市宝町13-1) 2名古屋大学大学院・生命農学研究科(〒464-8601 愛知県名古屋市千種区不老町) キーワード 抵抗性誘導剤;トリコテセン系かび 毒;病害抵抗性;ムギ類赤かび病; メタボロミクス 連絡先 西内 巧,金沢大学・学際科学実験 センター・遺伝子研究施設    〒920-0934 石川県金沢市宝町 13-1 電子メール: [email protected] (2021年1月13日受付, 2021年1月18日受理) J-STAGE早期公開日: 2021年2月2日 要旨  赤かび病菌(Fusarium graminearum等)が,コムギやオオムギ等に感染 すると,本菌が産生するトリコテセン系かび毒が穀物に混入し,ヒトや 家畜に健康被害を及ぼす.赤かび病に強い抵抗性を示す栽培品種が開発 されてないことから,開花期のムギの穂に殺菌性農薬を複数回散布する ことで防除している現状であり,残留農薬の問題に加えて,耐性菌の出 現も報告されている.これらの状況を踏まえて,我々は天然物を活用し て,赤かび病を防除し,かび毒汚染を低減化し得る防除技術の開発を進 めている.オオムギの赤かび病抵抗性品種におけるメタボローム解析か ら,ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)の前駆体であるニ コチンアミドモノヌクレオチド(NMN)が,抵抗性・低かび毒品種で有 意に蓄積していることを明らかにした.NMNは抵抗性誘導剤として機 能し,オオムギやコムギに投与すると,赤かび病による病徴とかび毒蓄 積が共に有意に抑制されることを明らかにした.一方,赤かび病菌のか び毒産生機構の解析から,アミノ酸であるL-Thrが赤かび病菌におけるト リコテセン系かび毒の産生を抑制することを見出している.これらの天 然物を活用した赤かび病防除及びかび毒低減化技術の開発に向けた取 り組みについて紹介する. 1. 序論  作物に感染する植物病原菌の中には,哺乳動物に 対して毒性の高いかび毒(マイコトキシン)と呼ば れる二次代謝物を産生するものが知られている.コ ムギやオオムギ等を宿主とする赤かび病菌は,フザ リウム属菌であり,トリコテセンと呼ばれるかび毒 を産生することが知られている1).トリコテセンは, 主に真核生物のリボソームにおけるタンパク質合 成を阻害し,熱安定性が高いことから,トリコテセ ン系かび毒に汚染された穀物は,哺乳動物に下痢, 嘔吐や免疫不全等の症状を引き起こし,世界的に 問題となっている(図1).また,トリコテセンには, 多様な分子種が含まれているが,コムギやオオム ギなどからしばしば検出されるのは,Fusarium graminearum等が産生するデオキシニバレノール (DON)であり,加えて日本を含むアジア地域では Fusarium asiaticum等が産生するニバレノール (NIV)が検出される2).ムギ類のかび毒汚染の実態 については,農林水産省消費・安全局の漆山哲生氏 により,継続的に日本各地のかび毒汚染の実態が調 査されている3).コムギとオオムギについて,DON, NIV等の多様なトリコテセン分子種について一斉 分析されており,汚染防除を考える上でも貴重な データとなっている.また,トリコテセン系かび毒 は赤かび病菌ではアセチル化体として保持されて いることが多く,一方,植物では配糖体化により 低毒化されることが知られており4),様々な形で化 学修飾されたものが存在し,モディファイドマイコ トキシンと呼ばれている5).しかしながら,トリコ テセン配糖体は糖が外れれば毒性が元に戻るよう に,モディファイドマイコトキシンの修飾基の離脱 により毒性が復活するため,トリコテセン系かび毒 を化学修飾されたものも含めた総量として管理す ることも検討されている.多様なモディファイドマ イコトキシンの検出については,食品総合研究所化 学ハザードユニットの久城真代ユニットリーダー と中川博之主任研究員らによって,高感度な質量分

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14 西内 巧 図1 ムギ類の赤かび病感染とかび毒汚染 析計を用いた測定系が構築されており,かび毒汚染 検査を下支えする基盤的な技術開発が進められて いる5),6) 2. 作物のかび毒汚染の防除に向けた多面的なアプ ローチの必要性  赤かび病による病徴が明確でないムギの試料,外 見健全粒においても度々トリコテセン系かび毒が 検出されることから,赤かび病による被害について は,病徴評価に加えて,かび毒蓄積の分析を行うこ とが非常に重要である4).ムギ類赤かび病は,コム ギやオオムギの開花期の穂において最も感染リス クが高まるが,一方で閉花性のオオムギ品種におい ても赤かび病による感染は見られることが知られ ており,外頴表皮の気孔等から赤かび病菌が侵入す るものと推察される.また,開花期の感染をある程 度抑えたとしても,子実が成熟して収穫するまでの 過程で赤かび病による病徴が進む可能性が高く,感 染初期の病徴を抑えるだけでは解決に至らないと 考えられる.これらの状況を踏まえて,ムギ類のか び毒汚染防除に向けて,日本においても多様なアプ ローチによる研究が展開されている.最初に挙げら れるのは,赤かび病に強い抵抗性を有する栽培品種 の開発であるが7),現在までのところ,従来の交配 技術により,食料としての有用形質を持ち,赤かび 病に非常に強い抵抗性を有する品種は作出されて いない.しかしながら,コムギの品種改良におい て,赤かび病抵抗性は重要形質の一つとして位置付 けられており,複数の抵抗性関連遺伝子を有するこ とで赤かび病抵抗性が大きく向上した品種の開発 の可能性が期待される.一方で,農研機構,岡山大 学,金沢大学のコンソーシアムにより,ゲノム編集 技術を用いた赤かび病抵抗性コムギの作出が試み られている8).開花期における赤かび病感染の抑制 に関わると期待される花の形態形成に関わる遺伝 子や赤かび病抵抗性を負に制御する遺伝子につい てゲノム編集を行うことにより,効率的な赤かび病 抵抗性コムギの作出が期待される.コムギゲノムが 6倍体であることから,2倍体に比べて編集対象とな る遺伝子が3倍になるという技術的な問題がある が,遺伝子の選抜さえ適切であれば,交配による品 種改良よりも大幅に時間を短縮できると思われる.  赤かび病に強い抵抗性を示すコムギやオオムギ の栽培品種がないことから,実際の赤かび病の防除 は,殺菌性農薬の使用に依存しているのが現状であ る.赤かび病菌が難防除性であることから,開花期 以降の穂に殺菌剤を3回ないし4回定期的に散布す ることが多く,残留農薬の問題も生じている4).ま た,EUでは殺菌性農薬に対する安全性の懸念から, 赤かび病防除に使用されている複数の薬剤が使用 できなくなる予定であり,安全性の高い新たな防除 剤の開発が求められている.このような状況を受け て,我々は,赤かび病防除やかび毒低減化に有効な 天然物を用いた防除剤の開発を目指している.一 方,名古屋大学の佐藤育男助教らは,DON等のかび 毒を分解・代謝する遺伝子群を有する微生物を見出

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し,これらを活用することで,かび毒蓄積を解消す る技術の開発に取り組んでおり,コムギ等で安定し てこれらの有用微生物が定着できれば,問題解決に つながると期待される9). 3. かび毒 vs 殺菌剤  作物の安全性確保の観点から,全般的に化学合成 農薬の使用を抑える方向で様々な施策が実施され ている.また,上述のように,EUでは農薬の選抜 基準において,防除効果よりも安全性を重視する傾 向がある.赤かび病防除に使用される殺菌性農薬と して,テブコナゾールやメトコナゾールなどのア ゾール系のエルゴステロール合成阻害剤(EBI剤)が 知られており,シルバキュアやワークアップ等の名 称で販売されている.エルゴステロールは,糸状菌 などの菌類の細胞膜を構成する脂質で,コレステ ロールと同様の働きをするステロールの一種であ るが,動物細胞には見られない.また,糸状菌の微 小管形成の標的としたチオファネートメチルも赤 かび病防除によく用いられる.ベンズイミダゾール 系の殺菌剤で,トップジンM等の名称で販売されて おり,作物に投与した際に分解産物であるカルベン ダジームがチューブリンに結合することで,糸状菌 の微小管形成を阻害する.赤かび病の防除に用いら れるこれらの殺菌性農薬は,安全性の観点からムギ 類への施用量や施用回数を減じることが望ましい. しかしながら,ムギ類における赤かび病の感染リス クが穂における開花期に最も高まることから,殺菌 性農薬を開花期の穂に複数回サンプルすることが 多く,穀物に残留する可能性も懸念される.一方 で,殺菌性農薬の散布により,ムギ類の赤かび病を 適切に防除できないと,赤かび病の感染拡大によ り,子実へのかび毒蓄積のリスクが高まり,そこか ら生じる穀物もかび毒に汚染されることになる.残 留する殺菌性農薬とかび毒の毒性について考えて みると,マウスの経口投与によるLD50値は,テブ コナゾールでオス2800 mg/kg,メスで5000 mg/kg 以上であり10),チオファネートメチルでオス3416 mg/kg,メス3271mg/kgと報告されている11).一 方,DONは,オス70 mg/kg,メス49 mg/kgと報告 されており12),殺菌性農薬と比べて,40∼100倍以 上毒性が高い.マウスにおけるLD50値ではあるが, ヒトや家畜についてもこれに近い状況であると仮 定すると,上記の殺菌性農薬を濃度制御して散布し た防除体系で作出した作物の方が,安全性が高いと 推察される.殺菌性農薬を過大評価する訳ではない が,赤かび病によるムギ類の減収抑制に加えて,よ りリスクの高いかび毒汚染を防除できるのであれ ば,殺菌性農薬の使用はリスクよりもベネフィット の方が大きいと言える.しかしながら,殺菌性農薬 の使用は世界的に制限される方向にあることから, これらの殺菌性農薬に変わり,より安全で効果的な 新規防除剤の開発に向かうのは自然な流れである. 4. ムギ類赤かび病にも有効な植物由来の抵抗性誘 導剤の発見  作物の病害防除に用いられる薬剤には,前述の EBI剤のような病原菌の増殖抑制,また付着器等の 感染器官の形成阻害など,直接的に病原菌に作用す るものが良く知られている.しかしながら,病原菌 の代謝酵素遺伝子の獲得等により,薬剤耐性を示す ようになることがあり,耐性菌が広まると薬剤によ る病害防除の設計に大きな影響を及ぼす.このよう な事態を回避するため,作用機序の異なる複数の殺 菌剤を用いた防除体系の構築により耐性菌の出現 リスクを抑えることが重要であり,また,耐性菌の 出現に備えて,新たな殺菌剤を継続的に開発する必 要がある.一方で,植物が本来持っている免疫シス テムを活性化させることにより,病害抵抗性を向上 させる,抵抗性誘導剤(プラントアクチベーター)と 呼ばれる薬剤も報告されている13).イネいもち病に 用いられるプロベナゾールなどが知られており,サ リチル酸シグナル経路を活性化させ,全身獲得抵抗 性(SAR)を向上させるものが多い.プロベナゾール に加えて,サリチル酸のアナログとして知られてい るベンゾチアジゾール(BTH)も同様の働きを有し ており,サリチル酸シグナル経路の活性化により, 活性酸素の蓄積が見られ,細胞死を伴うことから, 活物寄生菌や準活物寄生菌の感染防止に寄与する ことが知られている.実際に,イネいもち病などで は,プロベナゾールが防除に用いられているが,腐 生性の高い赤かび病菌などのフザリウム属菌には, 有効でないと考えられている.  我々は,オオムギの抵抗性品種を用いた解析か ら,赤かび病防除に使用できる代謝物を探索するた めに,ターゲットメタボローム解析を実施した.メ タボローム解析には,標的代謝物を予め絞り込んで 分析を行うターゲットメタボロミクスと,標的代謝 物を絞り込まずにサンプル間で代謝物の量的な差 異を調べるノンターゲットメタボロミクスに大別 される.また,メタボローム解析には,LC(液体ク ロマトグラフィー)-MS,GC(ガスクロマトグラ フィー)-MSやCE(キャピラリー電気泳動)-MSなど が使用され,質量分析計の種類によって,分析でき る代謝物のカバー範囲が異なる.メタボローム解析 で同定した候補代謝物について,試薬メーカーから

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16 西内 巧 の市販品がない場合もあり,有機合成も検討する必 要があるが,入手可能な化合物を優先的に解析する ことが多い.一方,化合物ライブラリーから,病害 防除に有効な代謝物をスクリーニングする方法も あり,非常に多くの化合物を候補化合物とすること ができる.一方で,非天然物を多く含むライブラ リーの場合には,環境負荷や安全性について一層留 意する必要がある.  岡山大学資源植物科学研究所の佐藤和広教授ら の研究室では,オオムギの多様な遺伝資源を用い て,病徴を指標に赤かび病に抵抗性を示す多くの品 種が同定されていた.我々は,これらの抵抗性品種 におけるかび毒蓄積についても調べるため,圃場で 栽培された穂を用いて,切り穂接種を行った14) 2).圃場で栽培した開花期のオオムギの穂を止め葉 が付いた状態で切り取り,温室で赤かび病菌の胞子 懸濁液を噴霧接種し,一週間後に病徴の評価とかび 毒の蓄積を分析した14).その結果,赤かび病の発病 率は,罹病性品種と比べて総じて低かったが,かび 毒蓄積が罹病性品種の半分以下に減少したのは2品 種のみであった.赤かび病による病徴とかび毒蓄積 が共に減少した2品種と罹病性品種を用いて,上述 のターゲットメタボロミクスに取り組み,LC-MS を用いて,予め決められた約500程度の標的物質に ついて定量分析を行った.その結果,罹病性品種に 比べて,抵抗性かつ低かび毒品種で有意に蓄積して いた代謝物には,ニコチンアミドジヌクレオチド (NAD)の前駆体であるニコチンアミドモノヌクレ オチド(NMN)が含まれていた14).赤かび病に非常 に弱い六条オオムギの罹病性品種の開花期の穂に, 予めNMNを噴霧した後に,赤かび病(DON産生菌) を接種すると,罹病性品種に対して,菌体量及び DON蓄積量が有意に減少していた14).一方で,NMN には,赤かび病菌に対する直接的な抗菌活性は見ら れなかった.  NMNの防除効果が他の植物種でも見られるかに ついて調べるため,赤かび病に罹病性のシロイヌナ ズナを用いて実験を行った.NMNを予めシロイヌ ナズナの葉に噴霧して,赤かび病菌の胞子懸濁液を 注入接種すると,NMNを投与した葉では,水処理 の場合に比べて,病徴が顕著に抑制され,実際に菌 体量も減少することが分かった14).マイクロアレイ を用いてシロイヌナズナの包括的な遺伝子発現解 析を行ったところ,NMN投与のみによって,植物 免疫に関わる遺伝子群の弱い発現誘導が見られた. さらに,NMN投与後に赤かび病菌を接種した葉で は,水投与後に赤かび病菌を接種した葉に比べて, PR遺伝子など抵抗性に関わる遺伝子の発現が顕著 に上昇していた14).また,オオムギの穂にNMNを 投与した際にも同様の遺伝子発現応答が見られた ことから,NMNが抵抗性誘導剤として作用してい ることが示唆された.加えて,シロイヌナズナで は,サリチル酸合成遺伝子(ICS1)の発現も上昇が 見られ,実際にサリチル酸(SA)の蓄積が細胞死を 誘導しない程度に増加していた.一方で,エチレン 応答に関わる遺伝子群の発現は,抑制されているこ とから,NMNの投与により,赤かび病菌接種時の エチレンシグナル経路が抑制されていることが示 図2 オオムギの低かび毒品種の同定

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唆された14).サリチル酸が植物の赤かび病抵抗性を 正に制御する一方で,エチレンは赤かび病抵抗性を 負に制御することが知られていることから,NMN の投与により植物のシグナル伝達経路は,赤かび病 抵抗性に最適化された状態になることが明らかと なった.最近,細胞外のNADがシロイヌナズナの 受容体を介して,植物免疫を活性化し,病原性細菌 (Pseudomonas syringae pv. Tomato DC3000)に

対する抵抗性を向上させることが報告された15). 5. 赤かび病菌のかび毒産生を抑制する天然物の発見  ムギ類のかび毒汚染防除を目的として,赤かび病 菌のかび毒産生を阻害するような薬剤の探索も行 われている.我々は,赤かび病菌のトリコテセン系 かび毒の生合成を解析する過程で,幾つかのアミノ 酸を培地に添加することによりかび毒産生(アセチ ル化DON)が抑えられることを見出した.特にトレ オニンの効果は顕著であり,オオムギにトレオニン を予め投与して,赤かび病菌を接種すると,病徴は 抑制されなかったが,子実におけるかび毒(DON) は有意に抑制されることを明かにした16)  また,前述の赤かび病抵抗性を示すオオムギ品種 を用いた解析から,低かび毒蓄積品種に特異的に発 現量が増加する遺伝子の中に,セコロガニンと呼ば れるモノテルペンの合成遺伝子の発現が上昇して いたことから,セコロガニンを培地に加えて赤かび 病菌を培養すると,コントロールに比べてかび毒 (アセチル化DON)産生が抑制された.さらに,コ ムギに予めセコロガニンを投与して,赤かび病菌を 接種すると,子実におけるDONの蓄積が抑えられ る予備的な結果が得られている.しかしながら,セ コロガニンは試薬として非常に高価(約3000円/mg) であり,かび毒産生を抑制する実用的な薬剤の候補 としては,同様の効果を有する安価な類縁体を探索 する必要がある.  前述の赤かび病に有効な抵抗性誘導剤である NMN,かび毒産生を抑制する作用のあるトレオニ ンやセコロガニンについて,これらの混合液をコム ギやオオムギの穂に投与することで,子実における 赤かび病による病徴とかび毒蓄積を共に顕著に抑 制することに成功している.しかしながら,複数化 合物の混合物は薬剤としてのコストと安全性試験 におけるコストの両方がかさむという問題がある . 6. 天然物の赤かび病防除剤の実用化に向けた取り 組み  赤かび病防除やかび毒低減化に有用な化合物の 探索・同定には,温室で育成したコムギやオオムギ に投与した後に,赤かび病菌を接種して防除価やか び毒蓄積を評価することになる.この最初のスク リーニングを受けて,再現性及び効果の高い候補化 合物が選抜される.  一定の生育環境条件で,接種条件も固定されてお り,野外で栽培した作物での効果とは異なる側面も 多く,実用化に向けては圃場試験を実施して防除効 果を再確認することになる.我々のプロジェクトで は,薬剤の安全性に重きを置いているため,候補化 合物はいずれも天然物であり,化学合成された農薬 に比べて作物や環境中で代謝されやすいと考えら れる.安全性の観点からはメリットとなるが,防除 効果の持続性にはデメリットとなる可能性が高い. また,天然物の防除効果の持続性については別の問 題もある.コムギの場合には,開花期から薬剤を数 週間続けて毎週散布するが,収穫まではさらに一か 月以上かかることが多く,子実の登熟過程における 赤かび病菌の菌糸進展やかび毒蓄積についても考 慮する必要があり,天然物の中でもより安定性の高 い類縁体の探索が求められる可能性もある.  また,現在市販されている農薬は,複数病害の防 除に有効なものがほとんどであり,利用者にとって 利便性が向上する.我々が研究開発を行っている赤 かび病防除に有効な天然物も,実用化に向けて複数 の病害に対する防除効果について調べており, NMNについて,オオムギうどんこ病や野菜フザリ ウム病害に対する防除効果の予備的な結果が得ら れている.感染様式の大きく異なるうどんこ病や広 範囲のフザリウム病害に有効であれば,スペクトル の広い抵抗性誘導剤として実用化に前進すると考 えられる. 7. おわりに  前述のように,コムギやオオムギにおける赤かび 病の防除やかび毒低減化に向けては,様々な取り組 みがなされているが,難防除性の赤かび病の諸問題 を解決するためには,多面的なアプローチが必須で あり,異なる研究手法により各研究課題に取り組ん でいるそれぞれの研究者がより連携を密にする必 要がある(図3).多様なトリコテセン分子種の定量 分析系の構築,日本各地におけるムギ類のかび毒汚 染の継続的な調査に基づいたかび毒汚染の現状の 把握に基づいて,それらを解決するための新規防除 剤の開発,有用微生物の効果的な利用,ゲノム編集 作物も含めた品種改変等に取り組む各研究者が互 いに連携することが必要である.単一の研究方法で は解決し得ない問題も,天然物防除とゲノム編集作 物など,複数の解決手段を組み合わせることで,相

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18 西内 巧 図3 かび毒汚染の低減化に向けた多様な研究手法の連携 加的な効果が期待され,ムギ類のかび毒汚染防除に よる安全性の確保や穀物の安定供給に向けた問題 の解決に近づくと期待される.

謝 辞

 本稿で紹介した安全で効果的な赤かび病防除剤 の開発に関する研究は,生物系特定産業技術研究支 援センターイノベーション創出強化研究推進事業 基礎研究ステージ「天然素材を活用した穀類のかび 毒汚染低減化技術の創成」(28007A),同応用研究 ステージ「天然物を活用した作物病害防除とかび毒 汚染制御」(28007AB)の研究支援によって実施され ました.また,農林水産省戦略的プロジェクト研究 推進事業・ゲノム編集技術を活用した農作物品種・ 育種素材の開発「赤かび病に耐性を有するコムギ」 からもご支援いただきました.

引用文献

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13) 有江 力,仲下 英雄:抵抗性誘導機構とプラントアク ティベーター 植物防疫 61, 531-536 (2007)

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10, 4810 (2019)

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The control of Fusarium head blight in wheat and barley using

plant-derived metabolites.

Takumi Nishiuchi1, Makoto Kimura2

1Institute for Gene Research, Kanazawa University, 13-1 Takaramachi, Kanazawa 920-0934, Japan 2Graduate School of Bioagricultural Sciences, Nagoya University, Furo-cho, Chikusa-ku, Nagoya

464-8601, Japan

Fusarium species such as Fusarium graminearum infect wheat and barley, and most of them are capable of producing the trichothecene mycotoxins. Trichothecene-contaminated grains cause health hazards to humans and domestic animals. Since wheat and barley com-mercial cultivars showing strong resistance to Fusarium head blight have not been devel-oped, fungicides have usually been sprayed multiple times on their flowers. The fungi-cide-resistant strains have been reported. In addition, the pesticides-contaminated grains also affect the human and animal health. Therefore, we try to control Fusarium head blight in cereal crops by utilizing plant-derived metabolites. We found that nicotinamide mononu-cleotide (NMN), a precursor of nicotinamide adenine dinumononu-cleotide (NAD), was highly accu-mulated in the FHB-resistant barley cultivars. We revealed that NMN acted as a plant de-fense activator in Arabidopsis. Furthermore, the application of NMN enhanced disease resistance against F. graminearum and suppressed DON mycotoxin accumulation in barley and wheat. We also found that some other compounds such as L-Thr suppressed the tricho-thecene biosynthesis in F. graminearum. Thus, these metabolites could be useful in con-trolling disease injury and mycotoxin reduction in cereals.

Keywords: disease resistance; Fusarium head blight (FHB); mycotoxin; plant defense activator; trichothecene, metabolomics

参照

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