Title
戦略形成をめぐる議論の検討−伝統的戦略論からプロセ
ス戦略論へ−
Author(s)
与那原, 建
Citation
沖大経済論叢 = OKIDAI KEIZAI RONSO, 16(1): 1-12
Issue Date
1991-09-30
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12001/6802
戦略形 成 をめ ぐる議論 の検 討
一伝統的戦略論か らプロセス戦略論へー
与那原 建 目 次 Ⅰ.は じめに Ⅱ.伝統的戦略論 の特質 と問題点Ⅲ.
プロセス戦略論 の特質 と有効性 Ⅳ.結 び Ⅰ.は じめに 環境 の不確実性 ・不透 明性 とい う言葉 で特徴づ け られ るよ うな激変す る企業 環境 のなかで、そ うした環境変化 に適応す るための指針 とい う役割 を担 う、経 営戦略 の重要性 は現実 の企業 において共通 した認識 とな ってお り、経営学 にお いて も経営戦略論 には重要 な位置づ けが与 え られ るよ うにな って きてい る。 し か し、経営戦略 の歴史 は浅 く、Chandler が経 営 学 の分 野 に初 め て 「戦 略 」 (strategy)という概念を導入したのが1962年であるから、まだ30年 ほ どしか経過 して いない。 に もかかわ らず、 この短期間のあいだに戦略研究 は大 きな進展 をみせ、 今 日までに数多 くの研究成果が蓄積 されて きてい る。 ところが」 こ うした戦略研究 の流れ を整理 してみ ると、戦略研究 の基本 とも い うべ き戦略が どのよ うに形成 され るのか とい う、いわゆ る戦略形成の捉 え方 には対極的な二つの方向を兄い出すことができるように思われる。1つは、戦略形成 を まず思考 (策定) し、 その後 で行動 (実施)す る計画的なプ ロセス として捉 え る方向であ り、 この流 れに属す るのが戦略論 の生成期 にあた る60年代か ら70年 代 にか けて発表 されたAndrews、Ansoff、Hofer and Schendelらの研究で あるため、ここではこのアプローチの仕方を伝統的戦略論の考え方 とみなすことにする. これに対 して、計画的な側面 ばか りでな く、行動が思考 を促 し、それによっ て戦略が形成 されてい くとい うプ ロセスに も焦点 を合 わせ よ うとす るのが、第 2の方向、すなわ ちプ ロセ ス戦略論の捉 え方 であ る。最近 の戦略形成 に関す る 議論 は伝統的戦略論 の捉 え方 に異議が唱 え られ、有効 な戦略が形成 され るプロ -1-セ スを的確 に捉 えてい るの はプ ロ1-セ ス戦略論 で あるとす る見解 が有力 にな って きてい る。 したが って、本稿 では、 まず伝統的戦略論の特質を批判的に考察 し、 そ の問題点 を指摘 した うえで、現 在注 目を集 めつつあ るプ ロセ ス戦略論のアプ ロ ーチに依拠 しなが.ら、有効 な戦略形成 のあ り方 を検討 してい くことに したい。 ¶.伝 統 的 戦 時 始 の 特 質 と 問 題 点 ここでは、伝統的戦略論 、すなわ ち経営 戦略 の生成期 にあた る60年代 か ら70 年代 にか けて登場 した戦略研究 を取 り上 げ、 その特質 とこうしたアプローチの 問題点 を個別 に考察す ることに しよ う。まず伝統的戦略論の第 1の特質 として、 適合パラダイムを挙げることができる。つまり、そこでは、図1のように、企業がいか にして環境に適合するかとい う事柄さこ主眼がおかれてお り、戦略 その もの もこのパ ラ ダ イムに したが って、環境 と自社能力 (経営資源) とを適合 (fit)させ る もの として定毒づ け られ るので ある(Hofer and Schendel,1978)。 この適合 と い う考 え方 の最大 の問題点 は、 それが静態 的ない し受動 的な概念 だ とい うこと であ る。要す るに、適合 とい うのは現在の環境 に適合す るのであ って、環境が 絶 えず、 しか も不連続 に変化 してい る現実 を考 えれば、 そ うした変化 にいか に 対応 してい くか とい う動態 的な い し創造的視角 が戦略 には求 め られ るのであ る. その意 味で、適合パ ラダ イムは戦略 の本来的役割遂行 にあた って無力だ といわ ざるをえない。 図1 E Z玉 ロ ー
2-〔出所 :奥村,1989,p.79〕伝統的戦略論 の第2の特質 は、戦略 の概念が安定性 に基づいて規定 されてい るとい う点で あ る。それ は伝統理論 を代表す る研究者 の1人であ るAndrews による組織が戦略 を策定す ることの意味 についての考 え方 をみれば明 らかであ ろ う。彼 によれば、組織 は進むべ き方向 を決 め、行動 の コースを定 め、そのガ イ ドラインに したが って メンバ ーか らの協力 を引 き出す ために戦略 を追求す る のである (Andrews,1971)。 こ うした戦 略 の安定性志向 は環境変化 にダイ ナ ミックに適応す ることを最優先に考 えねばな らない現実 の企業 に とって意味 のある もの とは思 われない。む しろ、その ことによ るマイナスは計 り知 れない ほ ど大 きいのではなか ろ うか。問題 は、安定性志向 によって組織 の中 に戦略変 化 に対す る抵抗が生 まれ ることである。つま り、戦略 を策定 し、それ を明示化 す ることが戦略変化- の抵抗 を生 み出す ことにな るのであ る(Mintzberg,1987; 1989)。 これは、新市場の創造、新製品の創造、新組織の創造 といった創造的破壊を課 題 とする現実の企業にとって、致命的な欠点 として捉えられねばならないであろう。 第3は、伝統的戦略論 の最大 の特質 ともい うべ き合理性志向である。 これは 有限の経営資源 をいか に無駄 な く配分 してい くか とい う効率重視 の考 え方 には かな らない。すなわ ち、ボス トン ・コンサルテ ィング ・グループ (BCG)の 開発 したプロダク ト・ポ ー トフ ォリオ ・マネジメン ト(PPM) 特代表 され る 考 え方 であ'る。確 か に、 こうした合理性 とい う視角 は戦略形成 において不可欠 であろ う。 ところが、伝統理論 はそれ をあま りにも強調 しす ぎるために、現実から 帝離 した理論展開 にな って しまってい るのである。例 えば、現実 の世界 では、 合理的側面のみな らず、個 人の意志や組織 内外 の政治的問題、感情的対立 とい った非合理的側面が戦略形成 に大 きな影響 を与 えてい る (奥村,1989)。 に も かかわ らず、伝統理論 は これ を極力排除 しよ うとす る ものであ り、 これは大 き な問題 と言 わねばな らない。 また、合理性志向の弊害 として、戦略代替案が限 定 されて しま う、事業 の防衛 よ りも売却が志向される、 ライバ ル企業が簡単 に模 倣 で きる戦略 を形成 しが ちであ る、 とい った点 も指摘 されてお り(Hamelet a1.,1989)、実際、家電 、 カメラといった成熟事業分野 において 日米企業 に決 定的な差がついたのは、PPMモデルの勧告通 りに動 いたか否 かの差 だ といわ れてい る。 日本企業が成熟企業 について も、いわゆ る 「収穫」 をせず に、新製 品開発 とい った活性化努力 を継続 したのに対 して、米国企業 はPPMモデルに -
3-したが って成熟 事業 の生 み出す資金 をその まま他 の成長 事業- 向 けて しま った。 結局その差だとい うわけで奉る. このことか らも、合理性志向の限界は明 らかであろう。 第4は、伝 統 的 戦 略 論 に お い て は、戦略 の策定 (formulation)と実施 (i m-plementation)が明確 に区別 されて い る とい う点 で あ る。す なわ ち、思考 と行 動 は別 でな けれ ばな らず、思考 は常 に行動 に先行 しな ければな らない とい う考 え方 で あ る。換言 すれ ば、長期 的戦略デザ イ ンか ら短期 的行動 を慣辞 的 に導 き 出 そ うとい うわ けで あ.り、 この考 え方 に基 づ いて戦略 は公式 の戦略計画 として 記述 され、 それが戦術 ・実行計画- と具休化 してい くので あ る。伝統理論 の こ うした戦略 の二 分法 につ いて も、2つの観点 か ら問題 を指摘 す ることが で きる。 ひとつは企業 を取 り巻 く環境変化の激 しさであ り、'・ もうひとつは戦略策定者の能 力の限 界である。つま り、朝略策定者 といえども決 して全知 で はあ り得 ず、制約 された合 理性 (bounded rationality)の下 で行動 せ ざるをえな い。 したが って不確実性●● とい う状況下 で は、事 前 にすべ て を見通 す ことは不 可 能 な の で あ っ て 、賢 明 な戦略策定者 ほ ど自分 が事 前 にすべ て を見通 せ るほ ど賢 明で はあ りえない こと を心得 てい るので あ る (Mintzberg,1987;1989)0 第5は、戦略策定 の主体 の問 題 で あ り、 それ を トップ ・マ ネジメン トとみな す のが、伝 統 的戦略論 の立場 で あ る。要す るに、伝 統 理 論 は戦 略 を トップ の 専有物 と捉 えるのであ る (Ansoff,1965;Andrews,1971;SchendelandHofer, 1979)。 これ に対 して、最近 の戦略形成 に関す る研究 は これ と異 な る結論 を導 き出 してい る。 それ を要約 す る と、戦略形成 へ の参画 は組織 の トップに きわ め て近 い ところに位置 して い る少数 の人た ちに限定 されない (Fredrickson,1984) とい うことにな り、戦略 が組織 の上層部 で作 られ る もので、組織 の現場 か らは 遠 く離 れた もので あ る とす る考 え方 は誤 ってお り、 それが現 実 の企業経営 の う えで大 きな失 敗 を もた らしてい る (Mintzberg,1987・,1989)と伝統理論 を批判 す る方 向 で議論 が展開 されてい るのであ る。 トップ主導型 の戦略形成 で は、 ト ップが どうして も過去の経験に汚染され、いわゆる学習棄却(unlearning)が難 しいた め、戦略 の本質 で あ る創造 が生 まれ に くく、 これで はまさに今要請 されてい る イノベ ーシ ョン とい う課題 に対 応 で きない とい うのが その論拠 で あるが、 そ う した現実 の経営 課 題- の対応 とい う点か らす れ ば、戦略形成 は組織 ぐるみの行 動 だ と捉 え られ るべ きで あろ う。
-
4-第6は、伝統的戦略論において戦略は規範的性格をもつということである。 前述したように、伝統理論は戦略を環境と自社能力とを適合させるものとして 捉えるのであり、したがってそこでは自社を取り巻く状況と自社の保有する資 源の正確かつ詳細な分析が有効な戦略形成の前提条件になってくる。逆の言い 方をすれば、この分析を誤った企業は失敗することになるわけで、伝統的戦略 論においては分析が大きな意味をもってくるのである。伝統理論が分析的戦略 論とも呼ばれる所以である。ところが、こうした傾向が現実には「分析マヒ症 候群」(paralysisbyanalysissyndrome)と椰楡されるような事態を生み出 し、意思決定の遅れ、決定内容の保守化などによって企業の競争力を逆に低下さ せるという皮肉な結果をもたらしたことはよく知られていろ'(Petersand Waterman,1982)。また、環境変化が激しい現実においては、企業が事前に考 えた事と実際にとった行動は必ずしも一致しない(Miles,1982)のであり、伝 統理論のいうような規範的な戦略形成は不測の事態への対応を困難にするとい う企業行動の硬直化を招いてしまうのである。したがって、戦略の規範的な捉 え方についても問題ありと言わざるをえない。 以上、伝統的戦略論の特質を適合パラダイム、安定性志向、合理性志向、戦略の策定 と実施の区分、トップ主導の戦略策定、戦略の規範的性格の6つに整理し、個別に 説明しながら、それぞれの問題点を指摘することで、伝統理論の限界を明らか にした。以下では、そうした伝統理論の限界を認識したうえで、現実の経営課 題への対応という見地から新たに提起されている考え方、すなわち新しい戦略 論を取り上げ、その特質を検討することによって、有効な戦略形成のあり方と いう問題について考察を加えることにしたい。 Ⅲプロセス戦略論の特質と有効性 経営戦略研究は70年代後半から80年代にかけて、社会的・組織的アプローチ の研究成果が次々に発表されることで、新たな局面を迎えることになった。そ れらの研究は経済的・合理的アプローチを重視した従来の伝統的戦略論のもっ ている問題点をふまえつつ、高度に不確実な環境下で有効な戦略を形成するに はどうすればよいかを考えていこうという新しい動きであり、プロセス戦略論 -5-
と呼ばれていろ(Mintzberg,1987;1989)。この理論は簡単に言うなら、戦略
形成を事前にラフなシナリオを描きつつも、試行錯誤を繰り返し、そこから有 効な戦略のコンテントを創出し、それを蓄積しながら次第にその戦略コンセプ トを精繊化していくプロセスとして捉えようという試みであり、要するに「行 動の中から戦略を生み出す」という考え方にほかならない(奥村,1989)。わ れわれは、こうしたアプローチが有効な戦略形成の問題を解明していくうえで 大きな手がかりとなりうると考えているが、以下でプロセス戦略論の特質を検 討することによって、その論拠を述べることにする。 まず、プロセス戦略論は企業の環境への対応行動について、一連の行動の流 れの中で長期的な適応をはたすという見方に立つ。つまり、企業の環境対応行 動を動態的に捉えようと意図するものであり、プロセス論のこうした視角は伝 統的戦略論の静態的な適合パラダイムに対してダイナミックな適応パラダイム とみなすことができる。したがって、戦略形成も次のように動態的に捉えられ る。すなわち、不透明な環境下での戦略は適応的なやり方で形成されるし、組 織内の多くの人によって経時的になされた意思決定の産物となるのである(Mintzberg,1978;Quinn,1980)。戦略の展開には不測の事態がつきもので
あることを考えれば、こうした視角は欠くことのできないものであり、戦略研 究にも適合から適応へのパラダイム転換が求められていろといえよう。 プロセス論の第2の特質は革新志向にある。これも伝統理論が志向する安定 性・合理性とは対照的な特質であり、過去を断ち切り、新しいことに挑戦する ことが戦略の存在意義だとみなす考え方を意味していろ(奥村,1989)。つま り、創造がキーワードになり、力点は従来のような経営資源の効率的な配分 ではなく、革新行動におかれるのである。イノベーションは企業の今 日的な課題であり、それに積極的に応えていこうというプロセス論のこうした 視角は重視されてしかるべきであろう。 第3の特質としては、戦略形成におけるミドル・マネジメントの重視という ことが挙げられろ。Bowerは早くからミドルの役割の重要性を強調しており、 ミドルを戦略上のインューが適切なコンテクストで考えられているか否かの判 断ができる組織のなかの唯一の人と位置づけている(Bower,1970)。つまり、 ミドルは戦略上の問題や機会を一番早く認識できる地位にあるため、戦略を意 -6-識的に創造的なものにしなくてはならないような場合、かれらの貢献が不可欠
となるのである(Pascale,1984)実際これを裏づけるように、革新志向の変
革型ミドル(金井,1991)の戦略への関与は高い組織成果につながるという実
証研究結果も提示されていろ(WooldridgeandFloyd,1989;1990)。プロセ
ス論のこうした主張は戦略はトップの専有物だとする伝統理論と対立するわけ だが、これについてもプロセス論が妥当性をもつと考えられる。周知のように、組織が大規模化するにしたがって、トップには現場が見えなくなるという指摘
がよくなされる。ところが、現実の企業が直面している重要な経営課題の一つである革新の種は現場にしかないのである。とすれば創造性という焦眉の課題
に対応していくにはトップ主導型の戦略形成では問題があると言わざるをえな いからである。したがって、今日の激しい市場競争と技術変動のなかで最も有 効に機能している革新を実現するためのスタイルは、トップ・ダウンでもボト ム・アップでもなく、企業家的ミドルを中心にしたミドル・アップダウンであ って、トップはそのなかで戦略革新が円滑に進行する手助けを行う触媒(Cat‐alyst)という役割を果たさねばならないのである(野中,1990)。
さらに、プロセス論では伝統理論のような戦略の策定と実施の二分法はとら れない。策定と実施は区分されずに、それらは相互依存的な動態的プロセスと -みなされるのである。すなわち、図2に示されるように、実現される戦略は変化する状況に反応して形を現わすこともあるし、策定過程を通じて計画的に生み出され、実施さ
れる場合もある(MintzbergandWaters,1985)。前者は創発的戦略(emergent
図2 麺 圏死 〕 刑lUT:MmtZberp-I98B -7-strategy)、そして後者は計画的戦略(deliberatestrategy)とそれぞれ呼ば
れろ(Mintzberg,1987;1989)が、別の言い方をすれば、具体的な戦略行動には戦略計画によって誘導された行動(inducedstrategicbehavior)と戦略計
画に拘束されずに行われる自律的行動(autonomousstrategicbehavior)
とがあることになる(Burgelman,1983;1983b)。これは、帰納的戦略 と演繰的戦略というように言い換えることもできるが、高業績企業はその点を 意識して行動していろという実証研究も報告されている(Quinn,1980)。要 するに、こうした企業では次のような相互作用プロセスが進行しているのであ る。つまり、広範であいまいなコンセプトから出発し、実験を進めながら-歩 一歩それを具体化していく。このコンセプトが新製品や新事業に体化され、そ れがコンセプト自体をさらに精繊化していくというプロセスである。したがっ て、そこでの戦略はこうしたプロセスを通じて、漸進的(incremental)に明確 化していくことになる(榊原・大滝・沼上,1989)。こうした視角は戦略研究 において極めて重要な意味をもつと思われろ。従来の伝統的戦理論では演鐸法 に基づき、計画的な誘導型の戦略が重視されてきた。ところが、この点を強調 しすぎると、新たな「学習」(learning)という側面が阻害され、戦略の本質 である創造が生まれにくくなってしまう。では帰納法に全面的に依存すべきか というと、そうともいえない。なぜなら、純粋に創発的な戦略ないし自律的な 戦略行動は組織が合理的行動をとろうえで必要な「統制」(control)を阻むからである。学習と統制は結びつかなければならない。Mintzbergの言葉を借り
れば、いかなる組織もあらかじめ万事について対策を講じておき、途中での学 習を無視できるだけの知識を持ちあわせていないし、いっさいの統制を放棄して、万事を偶然に委ねるほど柔軟ではありえないのである(Mintzberg,1987;
1989)。こうした計画性(統制)と柔軟性(組織学習)をリンクさせることが 有効な戦略形成プロセスを解明していくカギになるといえよう。 -8-Ⅳ、結ひ 以上、本稿では戦略形成をめぐる対極的な二つのアプローチ、すなわち伝統的戦略 論とプロセス戦略論を取り上げ、それぞれの特質を対比しながら、有効な戦略形成のあ り方について考察してきた。その結果、高度の不確実性によって特徴づけられる現在の 環境下で、企業力轌Ⅱ造的破壊という経営課題に取り組むには、伝統的戦略論の視角では 限界があり、プロセス戦略論のアプローチに依拠すべきであることが明らかになった。 本稿ではプロセス論の特質として、適応パラダイム、革新志向、戦略形成におけるミド ルの重視、戦略の策定と実施の相互依存の4つを提示したが、なかでも重視すべきは策 定と実施を相互依存的な動態的プロセスと捉えろという視角である。そのことによ って、思考(戦略の策定)と行動(戦略の実施)が明確に区別され、思考は行 動に先行しなければならないとする伝統的戦略論の捉え方が誤りであることが 確認できた。大切なのは、戦略形成を考察するにあたって、思考し、その後で 行動していくという計画的プロセスに基づく演縛的な戦略と行動が思考を捉す ことで創発される帰納的戦略を識別することである。そのうえで、留意すべき は演鐸法に基づく計画的な側面と帰納法に基づく創発的な側面をリンクさせる ことであろう。なぜなら、純粋に計画的な戦略形成が革新の遂行に必要な「学 習」を阻害するのに対して、純粋に創発的な戦略形成は「統制」を阻むからで ある。学習も統制も必要なのである。現に有効な戦略は計画性(統制)と柔軟 性(組織学習)をうまくリンクさせたものであることが実証されている (Mintzberg,1987;1989)。こうした計画と創発のリンク、換言すれば演鐸法と 帰納法のリンクという視角に基づいて、戦略研究は進められるべきであり、ま たそうすることで有効な戦略はどのようなプロセスを経て形成されていくのか という問題の全容を解明することが可能になるのではなかろうか。 ただ、このプロセス戦略論のアプローチに全く問題がないわけではない。プ ロセス論の研究者たちがいずれも戦略問題に対して社会的・組織的アプローチ をとっているため、そこには経済的・合理的アプローチの研究成果の導入とい う視点が欠落していろという問題を指摘しておかねばならない(中橋,1990)。 したがって、今後の研究はプロセス論の強調する計画と創発のリンクという視 角を念頭におきながら、そこに経済的・合理的アプローチの研究成果を導入し -9-
ていく方向を目指す必要があろう。この点に留意しながら、研究を進めていく ことにしたい。 引用文献 Andrews,KR,T/ZeCb"cePtQfCbmoγαteStmにgシ,DowJones‐ Irwin,1971.(山田一郎訳『経営戦略論』産業能率短期大学出版部,1976) Ansoff,H、1.,Cb巾oγαtestγαtcgy:A〃A"αMjcaノA妙γoacハtoB皿船 7zessPbZiCソ允γGγo〃haMEzPα"sjo7z,MbGraw-Hill,1965.(広田 寿亮訳『企業戦略論』産業能率短期大学出版部,1969) Bower,JL.,Mkz"α9mg「t/zeResou7℃eAJjocatio〃P7ocess,Harvard BusinessSchoolPress,1970 Burgelman,R、A、,“AModeloftheInteractionofStrategicBe‐ havior,CorporateContext,andtheConceptofStrategy',,Acacje‐ myofMz"αgFme"tReuZbu),8(4),1983(a),pp61-70.
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