1) 豊田市矢作川研究所
Bull.Res.Inst.Env.Agr.Fish.Osaka 6:1 - 7 (2020)
温湯処理によるクリ黒色実腐病の防除
瓦谷光男・浜崎健児
1)・柴尾 学
Control of Chestnut Black Rot with Hot Water Treatments
Mitsuo KAWARADANI, Kenji HAMASAKI and Manabu SHIBAO
Summary
Botryosphaeria dothidea causes chestnut black rot. However, treating chestnuts with water heated to 50
°C for 30 or 40 min and 52 °C for 30 min resulted in a < 30% rate of rotting. Moreover, compared to untreated controls, the heat treatments extended the number of days required for the appearance of symptoms by six. Treating naturally infected chestnuts (infection rate: 22%) with hot water decreased the rotting rate by 4% to 6% compared to untreated controls; this percentage is lower than the 12% achieved with methyl iodide fumigation. Heat-treated chestnuts either inoculated or naturally infected with B. dothidea and then refrigerated at 5 ℃ did not show symptoms for five months, while untreated controls showed symptoms after about two months.
Ⅰ . は じ め に
収 穫後 のク リ種 実に 腐敗 等 障害 を及 ぼす 原因 とし て 炭疽 病 Colletotrichum gloeosporioides (Penzig) Penzig & Saccardoや 黒色 実 腐病 Botryosphaeria dothidea (Mougeot) Cesati & De Notarisが あ る が ,その 発 生は これ まで 害虫( クリ シギ ゾウ ムシ やク リミガ 等 )の 防除 のた めに 行わ れて いた 臭化 メチ ル剤 く ん蒸 処理 によ って 抑えら れて きた と考 えら れる.し かし ,本剤 はモ ントリ オー ル議 定書 によ りオ ゾ ン 層 破 壊 物 質 に 指 定 さ れ , 2013年 以 降 ク リ で は 使 用 で き な く な っ た1). そ の 代 替 技 術 と し て ヨ ウ 化 メチ ル剤 によ るく ん蒸処 理が 導入 され てい るもの の,本剤 は臭 化メ チル剤 より も処 理費 用が 高い 上 ,十 分な 供給 体制 が整わ ず,新た なく ん蒸 施設も 必要 であ るこ とか ら,氷 蔵処 理2)や温 湯処 理3)な ど ,く ん蒸 処理 に頼 らない 防除 技術 の開 発が 進めら れて きた .筆 者ら は,農 林水 産業・食 品産 業科 学 技 術 研 究 推 進 事 業 「 ク リ の く ん 蒸 処 理 か ら 脱 却 す る ク リ シ ギ ゾ ウ ム シ 防 除 技 術 の 開 発 」 ( 2013-2015年 )に よ り ,く ん蒸 処 理に 替 わ る 温 湯 処 理 技術 を実 用 化 する 中 で ,農 家 や 共 同 出 荷グ ル ー プな ど が利 用で きる コン パクト な温 湯処 理機 と乾 燥機の 開発 を進 めて きた .しか し ,本 技術 の導 入に よ り クリ シギ ゾウ ムシ は完全 に防 除で きる が ,黒 色実 腐病 は完 全に は防 除する こと がで きな かっ た4). そ こで ,ク リシ ギゾ ウムシ の防 除技 術と して 確立さ れた 50℃ 30分 温湯 処理条 件で の黒 色実 腐病 発病 経 過の 観察 と, 温湯 処理条 件の 改善 によ る黒 色実腐 病防 除効 果の 向上 を試み た. Ⅱ . 材 料 お よ び方 法 黒 色実 腐病 菌は ,菌 叢を直 接水 中で 49℃ 44分 ,50℃ 33分 ,51℃ 20分以 上処理 する こと によ り死 滅 す るこ とか ら4),本 菌を接 種し たク リ種 実を 50℃30分の 通常 処理 に加 えて,50℃40分,52℃ 30分 温湯 処 理す るこ とに より 黒色実 腐病 を防 除す るこ とを試 みた .なお ,52℃ を超え る温 湯処 理は 種実 の発 芽 率が 低下 する とさ れてい るた め3,5),検 討対 象から 除外 した .黒 色実 腐病菌 に自 然感 染し てい ると 考 えら れる クリ( 品種‘銀 寄 ’)の ヨウ 化メ チル剤 くん 蒸処 理な し種 実(以 下 ,自 然感 染ク リ種 実 と する )と くん 蒸処 理済み 種実(収 穫後 24時 間以内 に ヨ ウ化 メチ ル剤 で2時 間く ん蒸 し,翌日 出荷
さ れた もの )を 2017年 10月 3日に 大阪 北部 農協 から 購入 し試 験に 使用 するま で 5℃ で冷 蔵保 存し た . 試 験 1 . 黒 色 実腐 病 菌 接種 ク リ 種 実 に 対す る 温 湯処 理 の 効 果 黒 色実 腐病 菌は ,2013年に 大阪 府能 勢地 域で 収穫さ れた クリ 種実 から 分離し た菌 株を 用い ,2017 年 10月 3日に 自然 感染 クリ 種実 の上 部と 下部 それぞ れ 1か 所(計 2か所)へ,先の 尖っ たピ ンセ ットで 深 さ 2 mm程 度 の 穴 をあけ ,ピン セッ トの 先端 を黒 色実 腐病 菌の 培養 菌叢に 触れ て穴 に差 し込 むこと に より 本菌 を接 種し ,穴を パラ フィ ンで 封じ た.感 染を 成立 させ るた め 25℃ で 3日 間静 置し た後,同 年 10月 6日 に 10個 ず つ 網 袋 に 入 れ て 恒 温 水 槽 に 沈 め , 50℃ 30分 , 50℃ 40分 , 52℃ 30分 間 温 湯 処 理 し た .処理 後は 直ち に流 水で 5分間 冷却 し,風乾 後ポ リ袋 に入 れて 25℃ で保存 した .対照 とし て,25℃ の 水中 に 40分間 置い たもの を風 乾後 ポリ 袋に 入れて 25℃ で保 存し た .保 存中 は毎 日調 査し ,軟化 症 状(外 部か ら指 で強 く押さ える こと によ り確 認)を 示し た種 実を 半分 に切断 し,断面 が黒 変し たも の を黒 色実 腐病 と判 定する とと もに ,黒 変以 外のも のは 断面 を再 び合 わせて ビニ ルテ ープ で固 定し 25℃ で 1週 間 保 存 後 , 断 面 の 黒 変 の 有 無 に よ り 発 病 を 確 認 し た . こ れ ら 切 断 し た 種 実 は 元 の ポ リ 袋 か ら除 去し た. 処理 55日後 ( 11月 30日) に, 残りす べて の種 実を 切断 し,発 病を 調査 した . 試 験 2 . 黒 色 実腐 病 自 然感 染 ク リ 種 実 に対 す る 温湯 処 理 の 効 果 自 然 感 染 ク リ 種 実 を 5℃ で 3日 間 冷 蔵 後 , 2017年 10月 6日 に 各 処 理 50個 を 試 験 1 と 同 様 に 温 湯 処 理 し た後 ,同 様に 保存 ,調査 した .ま た,比較 のため ,く ん蒸 処理 済み クリ種 実を 5℃で 3日 間冷 蔵後, 同 年 10月 6日 から 25℃ で保 存し 発病 を調 査し た. 試 験 3 . 冷 蔵 貯蔵 時 の 黒色 実 腐 病 発 病 経過 試験 1と 同様 に,2017年 10月 3日に 黒色 実腐 病菌 を接 種し たク リ種 実 10個 を 3日 間25℃に 置い た後 , 同 年 10月 6日 に50℃で 30分 温湯 処理 した もの と ,25℃の 水に 30分 浸漬 したも のを ,処理 後 5℃の 冷蔵 庫 中に 保存 し,経時 的に発 病を 調査 した .ま た同時 に,接種 して いな い自然 感染 クリ 種実 を 50℃で 30分 温 湯 処 理 し た も の と , 25℃ の 水 に 30分 浸 漬 し た も の 各 50個 を 5℃ の 冷 蔵 庫 中 に 保 存 し 発 病 を 調 査 した .比較 のた め ,温湯 処理 しな いく ん蒸 処理済 みク リ種 実に つい ても同 様に 冷蔵 保存 して 調査 し た. Ⅲ . 結 果 お よ び考 察 試 験 1 . 黒 色 実腐 病 菌 接種 ク リ 種 実 に 対す る 温 湯処 理 の 効 果 黒色 実腐 病菌 を接 種した 対照 区( 25℃ 40 分)の クリ 種実 は 10 個中 9 個 ( 90%) が発 病し たの に 対 し,接種 3 日 後に 温湯処 理( 50℃ 30 分,50℃ 40 分,52℃ 30 分)した 種実 は 10 個中 3 個 以下( 30 % 以下 )の発 病で ,有意に 発病 が抑 制さ れた(第 1 表 ).しか し ,ク リシ ギゾ ウム シに 比べ ると防 除 効果 は低 下し た.対照区( 25℃ 40 分)の種 実の内 ,軟 化症 状が 認め られた もの はす べて 黒色 実腐 病 によ るも ので あっ たが,温湯 処理 した もの には同 病以 外の 原因 で軟 化・腐 敗す るも の( 以下,他 の 腐敗 とす る )が 多く 見ら れた .接種 した クリ 種実 は ,25℃で 保存 する と 10 月 6 日の 処理 日か ら 7 日 で軟 化( 発病 )が 始まっ たが , 50℃ 30 分 , 50℃ 40 分, 52℃ 30 分の いず れの 温湯 処理 でも 発病に 13~17 日 を 要 し ,発 病を 遅 ら せ る 効 果 が 認 め ら れ た( 第 1 図 ).他 の 腐 敗 は ,同 菌 接 種・感 染 時( 元 々 自然 感染 して いた ものも 含む )に ,比 較的 高温に 耐性 の細 菌等 が感 染し,温湯 処理 時の 高温 で活 性 化さ れ増 殖し たも のと考 えら れる 3). 第 1 表 黒 色 実 腐 病 菌 接種 ク リ 種 実 の 温湯 処 理 後の 病 害 等 発 生 個数 ( 25℃ 保 存 ) 温 湯 処 理 55 日 後までの累計 * Fisher の 正 確 確 率 検 定 に よ り , 25℃ 40 分 処 理 区 と 他 の 処 理 区 の 間 に 5%水 準 で 有 意 差 が 認 め ら れ た .
50℃30分
50℃40分
52℃30分
25℃40分
黒色実腐病発生
*3
2
1
9
他の腐敗発生
3
2
6
0
病害・腐敗発生なし
4
6
3
1
処理区(各区10個)
種実の状態
第 1 図 黒 色 実 腐 病 菌 接 種 ク リ 種 実 で の 温 湯 処 理 後 の 同 病 等 の 発 生 個 数 の 推 移 ( 25℃ 保 存 ) 試 験 2 . 黒 色 実 腐 病 自 然 感 染 ク リ 種 実 に 対 す る 温 湯 処 理 の 効 果 対 照 区( 25℃ 40 分 )の 自 然 感 染 ク リ 種 実 は 50 個 中 14 個( 28% )が 害 虫 ,14 個( 28% )が 病 害 等 ( 黒 色 実 腐 病 + 他 の 腐 敗 ) に よ る 被 害 を 受 け て い た ( 第 2 表 ). く ん 蒸 処 理 済 み ク リ 種 実 で は 害 虫 被 害 は 認 め ら れ な か っ た が ,病 害 等 に よ る 被 害 は 認 め ら れ た .ま た ,50℃ 30 分 ,50℃ 40 分 ,52℃ 30 分 の 温 湯 処 理 で は 害 虫 被 害 は 同 じ く 認 め ら れ な か っ た が , 50 個 中 9~ 17 個 ( 18~ 34% ) が 病 害 等 ( 同 上 ) に よ り 腐 敗 し , 対 照 区 ( 50 個 中 14 個 ) に 比 べ て 減 少 は わ ず か ま た は ほ と ん ど な か っ た . し か し ,黒 色 実 腐 病 の み に つ い て み る と ,対 照 区( 25℃ 40 分 )で 50 個 中 11 個( 22% )の 種 実 が 発 病 し た の に 対 し , く ん 蒸 処 理 で は 発 病 は 6 個 ( 12% ) に 減 少 し ,さ ら に 温 湯 処 理 で は 2~ 3 個( 4~ 6% )に 減 少 し た こ と か ら ,発 病 抑 制 効 果 が 認 め ら れ た( 第 2 表 ).こ れ ら の 防 除 効 果 は ,農 研 機 構 の 技 術 紹 介 パ ン フ レ ッ ト 6)に 紹 介 さ れ た 結 果 と 同 様 で あ っ た . 本 試 験 で の 温 湯 処 理 で 防 除 で き な か っ た 黒 色 実 腐 病 以 外 の 種 実 の 腐 敗( 他 の 腐 敗 と 表 記 )の 原 因 に つ い て は , 二 井 ら 3)が , 炭 疽 病 は こ れ ら 温 湯 処 理 で 完 全 に 防 除 で き る と 報 告 し て い る こ と か ら 除 外 さ れ ,本 病 感 染 時 に 付 随 し て 感 染 し た 比 較 的 高 温 に 耐 性 の 細 菌 等 が 繁 殖 し た も の と 考 え ら れ る 3).
第 2 表 自 然 感 染 ク リ 種 実 の 温 湯 処 理 後 の 病 害 等 発 生 個 数 ( 25℃ 保 存 ) 温 湯 処 理 55 日 後 ま で の 累 計 * Fisher の 正 確 確 率 検 定 に よ り , 25℃ 40 分 処 理 区 と 他 の 処 理 区 の 間 に 5%水 準 で 有 意 差 が 認 め ら れ た . 第 2 図 自 然 感 染 ク リ 種 実 で の 温 湯 処 理 後 の 黒 色 実 腐 病 等 の 発 生 個 数 の 推 移 ( 25℃ 保 存 )
処理区(各区50個)
50℃30分
50℃40分
52℃30分
25℃40分
くん蒸
黒色実腐病発生
*2
3
2
11
6
他の腐敗発生
11
6
15
3
8
虫害発生
0
0
0
14
0
病害虫・腐敗発生なし
37
41
33
22
36
種実の状態
対 照 区( 25℃ 40 分 )の 自 然 感 染 ク リ 種 実 は ,25℃ で 保 存 し た 7 日 後 に 黒 色 実 腐 病 の 発 病 が 始 ま っ た の に 対 し ,く ん 蒸 処 理 済 み 種 実 は 13 日 後 に 発 病 が 始 ま り( 他 の 腐 敗 は 10 日 後 ),50℃ 30 分 ,52 ℃ 30 分 温 湯 処 理 し た も の で は 14 日 後( 他 の 腐 敗 も 14 日 後 ),ま た 50℃ 40 分 処 理 し た も の で は 55 日 後( 他 の 腐 敗 は 17 日 後 )に 発 病 が 見 ら れ ,く ん 蒸 処 理 と 温 湯 処 理 は 発 病 遅 延 に よ る 保 存 期 間 の 延 長 に も 効 果 が あ る こ と が 示 さ れ た ( 第 2 図 ). な お , 試 験 1 で は , 接 種 後 50℃ 40 分 処 理 で は 13 日 後 に 黒 色 実 腐 病 の 発 病 が 始 ま っ た の で , 50℃ 40 分 処 理 で 発 病 に 55 日 要 し た の は , 感 染 程 度 が 軽 微 だ っ た 等 に よ り 発 病 ま で 長 時 間 か か っ た た め と 思 わ れ る . 試 験 3 . 冷 蔵 貯 蔵 時 の 黒 色 実 腐 病 発 病 経 過 温 湯 処 理 を 行 わ ず に 25℃ で 種 実 を 保 存 し た 場 合 ,7 日 程 度 で 黒 色 実 腐 病 に よ る 軟 化 が 見 ら れ た が ( 第 1,2 図 ),黒 色 実 腐 病 菌 接 種 種 実 を 5℃ で 保 存 す る と ,56 日 経 過 し て よ う や く 黒 色 実 腐 病 の 発 病 が 認 め ら れ ( 他 の 腐 敗 は 20 日 で 発 生 ) 低 温 保 存 の み で も 本 病 の 防 除 に 有 効 で あ る こ と が 示 さ れ た ( 第 3 表 , 第 3 図 ) . さ ら に , 接 種 後 50℃ 30 分 温 湯 処 理 し た 種 実 は , 5℃ 冷 蔵 期 間 中 は 処 理 後 5 か 月 経 過 し て も 黒 色 実 腐 病 は 発 病 せ ず( 他 の 腐 敗 は 74 日 で 発 生 ),本 病 に 対 す る 有 効 性 が 認 め ら れ た . し か し , 黒 色 実 腐 病 以 外 の 腐 敗 に 対 す る 防 除 効 果 は 低 か っ た . 自 然 感 染 ク リ 種 実( 感 染 率 22%)を 5℃ の 冷 蔵 庫 で 保 存 す る と 74日 後 に 発 病 が 認 め ら れ ,25℃ 保 存 に 比 べ て 2か 月 以 上 発 病 が 遅 れ た ば か り で な く , 5か 月 経 過 後 も 50個 中 1個 し か 発 病 せ ず 低 温 保 存 は 自 然 感 染 時 の 本 病 防 除 に 有 効 で あ る こ と が 示 さ れ た ( 第 3表 , 第 4図 ). さ ら に ,50℃ 30分 の 温 湯 処 理 後 は 冷 蔵 期 間 中 5か 月 経 過 し て も , 接 種 時 と 同 様 に 本 病 の 発 病 は 見 ら れ ず , 高 い 防 除 効 果 が 認 め ら れ た . し か し , 黒 色 実 腐 病 以 外 の 腐 敗 に 対 し て は ほ と ん ど 防 除 効 果 が 認 め ら れ な か っ た . ま た , く ん 蒸 処 理 済 み 種 実 は 20日 後 に 黒 色 実 腐 病 の 発 病 が 始 ま り ,25℃ 保 存 の 場 合( 13日 )に 比 べ て 発 病 ま で の 日 数 は 伸 び ,55日 後 で は 50個 中 3個( 6% )の 発 病 と な り ,25℃ 保 存( 50個 中 6個( 12% ))の 半 分 程 度 と な っ た ( 第 3表 , 第 2, 4図 ) . 第 3 表 処 理 後 冷 蔵 保 存 5 か 月 後 の ク リ 種 実 の 状 態 第 3 図 黒 色 実 腐 病 菌 接 種 ク リ 種 実 で の 温 湯 処 理 後 の 同 病 等 の 発 生 個 数 の 推 移 ( 5℃ 保 存 ) 種実の状態 50℃30分 25℃30分 50℃30分 25℃30分 くん蒸 ⿊⾊実腐病発⽣ 0 7 0 1 5 他の腐敗発生 9 2 46 39 37 虫害発生 0 2 0 8 0 病害虫・腐敗発生なし 1 0 4 4 8 処理種実数 10 10 50 50 50 各状態の種実の個数 接種 自然感染
第 4 図 温 湯 処 理 後 と く ん 蒸 処 理 済 み ク リ 種 実 で の 黒 色 実 腐 病 等 の 発 生 個 数 の 推 移 ( 5℃ 保 存 ) 大 阪 府 で は ク リ ( 種 実 ) は 常 温 で 流 通 販 売 さ れ る こ と が 多 い が , ヨ ウ 化 メ チ ル く ん 蒸 処 理 さ れ た ク リ は , 黒 色 実 腐 病 や そ の 他 の 原 因 に よ る 腐 敗 を 完 全 に は 抑 え る こ と が で き な い た め , 低 温 で 流 通 ・ 保 存 す る か , で き る だ け 短 時 間 で 流 通 ・ 消 費 さ れ る こ と が 望 ま し い . 温 湯 処 理 は く ん 蒸 処 理 に 優 る 黒 色 実 腐 病 防 除 効 果 を 示 し た が , 50℃ 30 分 と 52℃ 30 分 の 温 湯 処 理 は 黒 色 実 腐 病 以 外 の 腐 敗 が 多 く 実 用 的 と は 言 え な か っ た .一 方 ,50℃ 40 分 処 理 は 黒 色 実 腐 病 の 防 除 効 果 が 高 い 上 ,そ の 他 の 腐 敗 も く ん 蒸 処 理 と 差 が な く ,常 温 で 1 か 月 以 上 の 保 存 が 可 能 と 思 わ れ る . さ ら に ,処 理 後 の 冷 蔵 に よ り , よ り 長 期 間 の 保 存 も 可 能 に な る と 考 え ら れ , 今 回 示 し た 方 法 は , ク リ 種 実 に お け る ク リ シ ギ ゾ ウ ム シ と 黒 色 実 腐 病 を 防 除 で き る 優 れ た 技 術 と い え る . 摘 要 1 .黒 色 実 腐 病 菌 接 種 後 に 50℃ 30 分 ,50℃ 40 分 ,52℃ 30 分 温 湯 処 理 し た 種 実 の 発 病 は 30%以 下 に 抑 え ら れ , 発 病 に 要 し た 日 数 ( 13~17 日 ) も 対 照 区 ( 25℃ 40 分 ) よ り 6 日 以 上 伸 び た . 2 .自 然 感 染 ク リ 種 実( 黒 色 実 腐 病 感 染 率 22% )で は ,黒 色 実 腐 病 は ,ヨ ウ 化 メ チ ル く ん 蒸 処 理 に よ り 12% , 温 湯 処 理 に よ り 4~ 6% に ま で 減 少 し た . ま た , 対 照 区 で は 25℃ 保 存 7 日 後 に 黒 色 実 腐 病 の 発 病 が 始 ま っ た の に 対 し , く ん 蒸 処 理 で は 13 日 後 , 温 湯 処 理 で は 14 日 後 に 発 病 が 始 ま っ た . 3 .黒 色 実 腐 病 菌 接 種 後 5℃ で 保 存 す る と 発 病 ま で に 56 日 を 要 し ,温 湯 処 理 し た 種 実 で は ,冷 蔵 期 間 中 5 か 月 経 過 し て も 黒 色 実 腐 病 は 発 生 し な か っ た . 4 . 自 然 感 染 ク リ 種 実 を 5℃ で 冷 蔵 す る と 74 日 後 に 発 病 が 認 め ら れ , 5 か 月 経 過 後 も 発 病 は 2% で あ っ た . ま た , 温 湯 処 理 後 は 冷 蔵 期 間 中 5 か 月 経 過 し て も 本 病 の 発 病 は 認 め ら れ な か っ た .
5 .黒色 実腐 病菌 接種 およ び自 然感 染ク リ種 実にお ける 黒色 実腐 病以 外の原 因に よる 腐敗 は ,温 湯 処 理や くん 蒸処 理に より増 加す る傾 向が 見ら れた. 6 .今 回の 試験 結果 より,クリ 種実 にお いて,50℃ 40 分 の温 湯処 理を 行い ,処 理後 直ち に流 水で 5 分 間冷 却, 風乾 後 5℃で保 存す ると 5 か 月間 は発病 が認 めら れな いこ とを明 らか にし た. 引 用 文 献 1) 楯 谷 昭 夫 ( 2004) . モ ン ト リ オ ー ル 議 定 書 特別 総 会 で 臭 化 メ チ ル の 不 可 欠 用 途 規 制 除 外 を 決 議. 今 月の 農業 , 48, 20-24. 2) 小 林 正 秀 ( 2014) . 氷 蔵 に よ る ク リ シ ギ ゾウ ム シ 駆 除 技 術. 植 物 防 疫 , 48, 231-236. 3) 二 井 清 友 ・ 廣 瀬 敏 晴 ・ 西 口 真 嗣 ・川 島誠 蔵 ( 2014) . 温 湯 処 理 技 術 の 現 状 と 問 題 点 . 植 物 防 疫 , 68, 226-230. 4) 浜 崎 健 児・瓦 谷光 男・柴 尾 学( 2016).温 湯 処 理 に よ る ク リ シ ギ ゾ ウム シ と 黒 色 実 腐 病 の 同 時 防 除 の検 討. 関西 病虫 研報, 58, 51-55. 5) 廣 瀬 敏晴 (2002) . 温湯 浸漬 処 理 に よ る ク リ 果 実 食入 幼 虫 の 防 除 技 術 と 品 質 評 価 . 平 成 13 年 度 成 果情 報, 115-116. 6) 国 立 研究 開 発 法人 農 業・食 品 産 業 技術 総合 研究 機 構 果 樹 茶 業 研究 部 門 (2017).臭 化 メ チ ル 剤 の 全 廃 に伴 うク リシ ギゾ ウムシ の代 替防 除技 術に ついて .技 術紹 介パ ンフ レット .