1.はじめに
レンズ・プリズム等の光学素子や各種セラミ ック素子等の電子部品を精密に加工する際に は,ワークを一時的に加工治具に固定するため 仮固定用接着剤が用いられている。その代表的 な仮固定用接着剤の1つとして,ホットメルト 型接着剤である熱可塑性のワックスがよく知ら れている。一般的なワックスは,接着・剥離時 には約150℃ 程度の高温を必要とするため加 熱・冷却に時間を要するだけでなく,ワークへ のダメージが発生する場合もあり,また,加工 後には有機溶剤に浸漬して洗浄を繰り返す必要 があり,ワークや環境への負荷が高いという問 題点がある。 それら課題に対し,電気化学工業(株)では, これまでとは全く新規なコンセプトのもとにワ ックスに代わる環境に配慮した紫外線硬化型の 仮固定用接着剤「テンプロック® 」を開発した。 テンプロックは ①紫外線で短時間に室温硬化する。 ②温水で容易に剥離し,有機溶剤を用いる必要 はない。 ③フィルム状に剥離するため糊残りがなく, ワークを保護する機能がある(図1)。 等の優れた特徴を有し,熱を使わずに短時間で 硬化接着できることからダメージも少なく,洗 浄工程も大幅に削減できることからコスト低減 にも大きく貢献できる仮固定用接着剤であると 言える1)2)3)4) 。 本稿では,成長著しいスマートフォンやタブ レットPCを代表とするタッチパネル向けガラ スの加工用接着剤として「テンプロック® 」用 いた新規加工プロセスを紹介する。DENKI KAGAKU KOGYO KABUSHIKI KAISHA SHIBUKAWA PLANT Electronic Materials Research Department
Kazuhiro Oshima
A novel glass processing by using “TEMPLOC®” in touch panel.
大 島 和 宏
電気化学工業(株)渋川工場 電子材料研究部タッチパネル向けガラス加工用接着剤と
新規加工プロセス
最先端を支える成形・加工プロセス
特 集
〒377―8520 群馬県渋川市中村1135 TEL 0279―25―2487 FAX 0279―25―2490 E―mail : kazuhiro―oshima@denka.co.jp 図1 フィルム状に剥離したテンプロック 17䜹䝞䞊䜺䝷䝇 䛀䜰䜴䝖䝉䝹ᆺ䛁 䝉䞁䝃䞊䜺䝷䝇 ᾮᬗ䝟䝛䝹 䛀䜹䝞䞊䜺䝷䝇୍యᆺ䛁 ᾮᬗ䝟䝛䝹 ಖㆤ⭷ 䝉䞁䝃䞊⭷ ಖㆤ⭷ 䝉䞁䝃䞊⭷ 䜹䝞䞊䜺䝷䝇
2.静電容量式タッチパネルについて
図2にスマートフォンにおける静電容量式タ ッチパネルの市場動向を示す。現在は,アウト セル型が主流であるが,今後,次世代型のタッ チパネルセン サ ー の 中 で カ バ ー 一 体 型 セ ン サー,通称 OGS と呼ばれるパネルが今後主流 となり,益々,そのタイプのスマートフォンが 今後拡大していくと予想されている4) 。 図3にアウトセル型とカバーガラス一体型の 構造を示す。アウトセル型は強化されたカバー ガラスに加え,センサー膜と保護膜が構成され たセンサーガラスと液晶や有機ELなどの表示 パネルと組み合わせた構造に対し,カバーガラ ス一体型センサーガラスは文字通り強化された カバーガラスとセンサー膜と保護膜が一体とな った構成になっており,アウトセル型で使用さ れるセンサーガラスが不要であるため,薄型 化,低コスト化を実現することが可能であると 言われている。しかし,切断,研磨加工時にセ ンサー膜および保護膜を保護する必要であり, 強化されたガラスの強度を維持したまま加工す る必要がある。テンプロック®は加工時のその 保護機能も兼ねることが出来るため,カバーガ ラス一体型タッチパネルの加工の仮固定接着剤 として最適な接着剤である。3.カバー一体型センサーガラスの新規
加工プロセス/テンプロック積層加工法
カバーガラス一体型タッチパネル製造工法に おいては,「シート方式」と「セル方式」の二 つの方式にて検討されている5) 。そのうち「シー ト方式」は,強化された大判ガラス片面に繊細 な ITO 膜,AL 配線,絶縁膜等を印刷したの ちに加工プロセスを経て個片化される。この方 式は,印刷工程において大型液晶製造ラインの 転用可能であり生産性が高くなる反面,その後 の個片化において,従来の加工方法では印刷面 をレジスト材や保護フィルムなどで保護する必 要があり,作業効率も低く,単体での形状加工 は困難であった。 「シート方式」におけるカバー一体型センサー ガラスの新規加工プロセスであるテンプロック積 層加工法は,2010年に電気化学工業(株)が量 産化に成功した画期的なガラス加工工法である。 図4にそのテンプロック積層加工法の概略図 を示す。 プロセスとしては,主に以下の大略5つの工 程からなる。 ①積層接着:上下2枚の保護ガラスと約10枚 程度のセンサーガラスをテンプロック® で貼 り合わせ,積層する。 ②切断:積層したガラスを回転刃で所望の大き さに切断する(以降,この切断した積層体を ブロックと呼ぶ)。 ③外形加工:回転砥石(ルーターなど)で所望 の形状に加工するためブロックの側面を砥石 で粗削りする。 ④端面研磨:外形加工で形状を決めた後,酸化 セリウムスラリーとブラシにてブロック端面 の研磨を実施する。 ⑤剥離:端面を仕上げたブロックを温水(80∼ 90℃)に浸漬し,テンプロック® とガラスを 図3 カバーガラス一体型タッチパネルの構造 図2 静電容量タッチパネルの世界需要予測 (出典:2011年㈱富士経済調査資料) 18䐢䝤䝷䝅◊☻ 䐣 Ỉ㞳 䐤Ὑί䞉᳨ᰝ 䐥ฟⲴ 䐟䝔䞁䝥䝻䝑䜽䛻䜘䜛✚ᒙ᥋╔
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䐠ษ᩿ຍᕤ 䐡እᙧຍᕤ 要求特性 従来プロセス テンプロック積層加工法 強化ガラスの加工 × (複雑な形状加工は対応 できない) ◎ (複雑な形状加工も対応 可能) センサー面の保護 × (レジスト剥離時にセン サー面を汚染する) ◎ ( セ ン サ ー 面 は テ ン プ ロックフィルムにて保護 される) 生産性 ×(1枚ずつ) ◎(一括加工) 剥離する。 以上のテンプロック積層加工法では,1度に 大量のガラスを加工出来るため,一枚ずつ加工 する従来の枚葉工法と比較して生産面で大きな 優位性がある。また,温水に浸漬するだけで, 有機溶剤を用いずに剥離することから,作業者 と作業環境の両方にやさしいというメリットは ある。4.カバー一体型センサーガラス加工の
要求特性
表1にカバーガラス一体型センサーガラスの 加工における要求特性について,従来加工法と テンプロック積層加工法と比較した結果を示す。 テンプロックにて繊細なセンサーを保護する と同時に,複数枚数のガラス基板を積層接着す ることで,一括加工が可能となり,生産コスト を下げることが可能になる。また,上下2枚の ダミーガラスとともに積層接着することでセン サー面へのダメージが皆無となり,生産効率も 向上も期待できる。 強化ガラスの加工において,意匠性の観点か ら,図5に示すような意匠性の観点から凹形状 や穴形状といった異形形状が市場から求められ ているが,従来の加工法ではガラス一枚毎ごと に加工するため,個々の形状ばらつきの原因と なるとともに,直接,強化面を加工するためダ メージが大きく,特に複雑な形状に対応できな いのに対し,テンプロック積層加工法では,一 度にブロック状になった積層体に加工を施すた 図4 テンプロック積層加工法フロー 表1 カバーガラス一体型センサーガラスの加工における要求特性 19 NEW GLASS Vol.27 No.106 2012พᙧ≧ ✰ᙧ≧ ␗ᙧᙧ≧ ␗ᙧᙧ≧ 㛗᪉ᙧ≧ พᙧ≧ ✰ᙧ≧ ␗ᙧᙧ≧ ␗ᙧᙧ≧ 㛗᪉ᙧ≧ 㻜 㻞㻜㻜 㻠㻜㻜 㻢㻜㻜 㻤㻜㻜 㻝㻜㻜㻜 ᚑ᮶ἲ䠄䝣䝹䜶䝑䝏䞁䜾ἲ䠅 䠰䠨✚ᒙຍᕤἲ 㻠Ⅼ᭤䛢 ᙉᗘ䛆㻹 㻼 㼍䛇 䝔䞁䝥䝻䝑䜽✚ᒙຍᕤἲ ୍⯡ⓗ䛺䜹䝞䞊䜺䝷䝇 㻜 㻞㻜㻜 㻠㻜㻜 㻢㻜㻜 㻤㻜㻜 㻝㻜㻜㻜 ᚑ᮶ἲ䠄䝣䝹䜶䝑䝏䞁䜾ἲ䠅 䠰䠨✚ᒙຍᕤἲ 㻠Ⅼ᭤䛢 ᙉᗘ䛆㻹 㻼 㼍䛇 䝔䞁䝥䝻䝑䜽✚ᒙຍᕤἲ ୍⯡ⓗ䛺䜹䝞䞊䜺䝷䝇 め,形状バラツキが低減し,ダミーガラスを介 し加工し,センサー面はテンプロック® にて保 護されているため,複雑な形状の加工も可能で ある。