疫学検討から見た群馬県と利根沼田2次保 医療圏における
つつが虫病の特徴
吉住 正和 ,小池 幹義 ,高橋奈緒美 ,田仲 久人 ,木暮 政惠 ,岡田 正敏 ,津久井 智 ,
猿木 信裕 ,高橋
篤
1 群馬県沼田市薄根町4412 群馬県利根沼田保 福祉事務所 2 群馬県前橋市大手町1-1-1 群馬県保 予防課 3 群馬県前橋市上沖町378 群馬県衛生環境研究所 要 旨 背景と目的:アカツツガムシを媒介としたつつが虫病は旧来より知られていたが, 1950年代から新型 (タテツツガムシあ るいはフトゲツツガムシが媒介) が出現して全国的に拡がり, 群馬県でも 1980年代から北部山間部を中心に散見されるよ うになった.一方,最近の群馬県におけるつつが虫病の発生状況は明らかとは言えない.本研究では,群馬県,特に利根沼田 2 次保 医療圏における最近のつつが虫病の発生動向とその変遷などの特徴を明らかにすることを目的とする.方 法:群馬県統計年鑑・Infectious Agent Surveillance Report報告・利根沼田と吾妻地域の 4類感染症発生届を用い,(1) 全国/群馬県/県内各 2次保 医療圏におけるつつが虫病発生数と頻度の推移, (2) 利根沼田と吾妻地域における地域 人 口/農業人口/60歳以上人口とそれらの発生頻度の推移・月別平 気温の推移 (3) 利根沼田地域のつつが虫病患者の年 齢/職業/発生月/推定感染場所/血清タイプを検討した. 結 果:(1) 全国と群馬県のつつが虫病発生頻度は 2002年まで減少傾向にあったが, 群馬県の発生頻度は 2007年以後上昇 した. (2) 県内各地域の発生頻度は検討全期間を通して吾妻地域の占める割合が高く, 利根沼田地域では 1995年を境に発生 数が増加し, 2007年以後の利根沼田地域の発生数は群馬県の発生数の 20∼50%を占めていた. (3) 農業人口に対する発生頻 度は各地域とも地域 人口に対する発生頻度と比べ有意に高く, 経時的に上昇していた. 一方, 60歳以上人口に対する発生 頻度は地域 人口に対する発生頻度と比べ差異がなかった. (4) 利根沼田地域では最近の 10年間で平 気温の上昇が認め られた.(5)群馬県及び利根沼田地域の発生時期は 10月∼11月,推定感染場所は河岸段丘の農地が大半であった.(6)利根沼 田地域では感染地域の拡大が認められ, 血清タイプは標準型 (Karp・Gilliam型など) が 70%と多かったが, Kawasaki型な どの新しいタイプも認められた. 結 語:近年の群馬県ではつつが虫病の発生が増加しており, その主因に利根沼田地域の発生増加が えられる. 利根沼田 地域の発生増加には河岸段丘農業地域における感染の拡大と感染率 (発生頻度)の増加,気温上昇の影響が示唆される.群馬 県の有毒ツツガムシは血清タイプや発生月の推移から,フトゲツツガムシ (Karp・Gilliam型)によるものが主体で,関東南 部や九州に多い Kawasaki型などを含むタイプとの混在も示唆される.今後,好発地域,好発時期における地域住民に対する 感染予防啓発が重要と える. 緒言 つつが虫病はツツガムシが媒介するリケッチアにより引 き起こされる人畜共通感染症である. 以前は新潟県, 山形 県,秋田県の河川敷に生息する「アカツツガムシ」が媒介し たものが多く, このタイプは夏に多く認められ古典型つつ が虫病と呼ばれる. 一方, 1950年代から「タテツツガム シ」あるいは「フトゲツツガムシ」が媒介した新型つつが 虫病が認められるようになった. 前者は主に晩秋に多く認 められ, 後者は春から初夏にかけても認められる. 群馬県でも 1980年代から新型つつが虫病が散見される ようになり,宇津木らにより 1992年に「群馬県榛名地方に 文献情報 キーワード: つつが虫病, 発生頻度, 疫学, 2次保 医療圏, 予防教育 投稿履歴: 受付 平成28年9月23日 修正 平成28年10月12日 採択 平成28年12月8日 論文別刷請求先: 吉住正和 〒378-0031 群馬県沼田市薄根町4412 群馬県利根沼田保 福祉事務所 電話:0278-23-2185 E-mail:yoshizumi-m@pref.gunma.lg.jp
原 著
おけるツツガムシ病の疫学的報告」がなされた. さらに, 2002年に田中らにより「群馬県におけるツツガムシ病の疫 学調査結果」が報告された. 本研究ではこれらの報告を踏 まえ, 最近の群馬県におけるつつが虫病の発生状況につい て, 特に利根沼田 2次保 医療圏を中心に疫学的検討を行 い, 群馬県あるいは利根沼田 2次保 医療圏におけるつつ が虫病の発生動向やその変遷などの特徴を明らかにするこ とを目的とする. 方法
群馬県統計年鑑・Infectious Agent Surveillance Report (以下 IASR) 報告 ・1999 年からの 4類感染症発生届を用 い, (1) 1989 年以後の全国と群馬県のつつが虫病発生頻度 の推移, (2) 1989 年以後の群馬県各 2次保 医療圏別の発 生数の推移, (3) 2008年∼2015年における県内各 2次保 医療圏別の地域 人口/農業人口/60歳以上人口とそれ らの発生頻度 (対 10万人口), (4) 利根沼田と吾妻地域にお ける地域 人口/農業人口/60歳以上人口の推移とそれ らの発生頻度の推移・平 気温の推移,(5)利根沼田 2次保 医療圏のつつが虫病患者の発生年度/発生月/患者住所 地 (推定感染場所)/年齢/職業/血清タイプを検討した. 検討において, 年単位の検討とともに, 群馬県のつつが 虫病発生頻度の推移から, 1989 年から 1995年までの期間 (以下 期), 1996年から 2002年までの期間 (以下 期), 2003年から 2007年までの期間 (以下 期), 2008年から 2015年までの期間 (以下 期) に けても検討した. 発生 数の推移の検討において, 群馬県 2次保 医療圏を基に 4 地域 (①利根沼田地域, ②吾妻地域;榛名山北山麓を含む地 域, ③高崎・渋川地域;榛名山南山麓を含む地域, ④その他 の地域) に けて検討した. 発生頻度の地域別の検討では, その他の地域から⑤前橋・桐生地域; 群馬県東部山間部の 地域,⑥富岡・安中・藤岡地域;群馬県西部山間部の地域の 2地域に けても検討した. 各期の農業人口 (自営農業に主として従事した世帯員 数) は, I 期では 1990年と 1995年のデータから, II 期では 2000年のデータから, 期では 2005年のデータから, 期 では 2010年のデータから累積人口を算出した. 各期の 60 歳以上累積人口も農業人口と同様の方法で算出した. 農業 人口あるいは 60歳以上人口に対する発生頻度 (感染率) の 検討において, それぞれの感染患者数は田中らの群馬県の 患者職業あるいは年齢 布報告 を参 に, 患者のうち約 1/3が農業に従事していたことから[ 患者×1/3]を農業 に従事している患者数, 患者の 40%が 60歳以上である ことから[ 患者×2/5]を 60歳以上の患者数と算定した. 平 気温は 8月,10月,8∼10月の 3期間で算出した.なお, 期においては 2008年∼2013年までのデータを用いて算 出した. 統計解析はオッズ比を算出して行い, 95%水準でオッズ 比 布が 1をまたがない場合を有意とした. t検定も適宜 行い, p<0.05を有意差ありとした. なお, 本研究は群馬県衛生環境研究所倫理委員会の承認 を得て行った (衛研第 30056−11号). また, 群馬県個人情 報保護条例を遵守し, 表において群馬県 康福祉部の承 認を得た ( 福第 113−5号). 結果 1.全国,群馬県,県内各2次保 医療圏におけるつつが 虫病の発生数と発生頻度の推移 1989 年からの全国と群馬県におけるつつが虫病発生頻 度の推移を図 1に提示した. 全国と群馬県の発生頻度の推 移は, 全国で 期の後半と群馬県で 期の後半を除き, 期から 期まで次第に減少して 期で一定となった. 全国 と群馬県の発生頻度を比べると, 群馬県の 1992年+1993 年 ( 期:図中 A) と 1999 年+2000年 ( 期:図中 B) の 群馬県と利根沼田地域のつつが虫病 図1全国と群馬県におけるつつが虫病発生頻度の推移 群馬県の発生頻度の推移を基に, 期 (1989 年∼1995年), 期 (1996年∼2002年), 期 (2003年∼2007年), 期 (2008年∼2015年) の 4期間に けた. 図中のアルファベット A, B, C と数値は 1992年+1993年, 1999 年+2000 年,2012年+2013年における全国に対する群馬県のつつが虫病発生頻度の比較をオッズ比 (95%信頼区間)で算出 した結果を記載. 1999 年までの全国患者数は厚生省伝染病統計による.
発生頻度は全国と比べ有意に高かったが, 期において両 者の発生頻度に差異がなかった. 期において, 全国の発 生頻度は一定で変化がなかったが, 群馬県の発生頻度は上 昇し, 群馬県の 2012年+2013年 ( 期:図中 C) の発生頻 度は全国と比べ有意に高かった. 1989 年からの群馬県各地域別 (利根沼田地域, 吾妻地域, 高崎・渋川地域,その他の地域)のつつが虫病発生数の推移 を図 2に提示した. 期の吾妻地域におけるつつが虫病発 生数は群馬県における発生数の 50%以上を占め, 同じ榛名 山麓の高崎・渋川地域を加えれば約 80%を占めていた. 期において, 利根沼田地域の発生数が増加し, その他の地 域を除く 3地域で 75%以上を占めていた. 期において, (2008年∼2015年) の 4期間に けた. 表1 2008年から 2015年 ( 期) の群馬県及び県内各 2次保 医療圏における地域 人口/農業人口/60歳以上人口に対するつ つが虫病発生頻度とそれらの比較 項目/地域(n:患者累計数) 発生頻度 対群馬県 オッズ比(95%信頼区間)対利根沼田 地域 人口 群 馬 県 (n=118) 0.73 a 利 根 沼 田 (n=34) 4.88 b 6.62 ( 4.52- 9.70) 吾 妻 (n=53) 11.09 c 15.04 (10.80-22.80) 2.27 (1.48-3.50) 高崎・渋川 (n=12) 0.30 d 0.42 ( 0.23- 0.76) 0.06 (0.03-0.12) 前橋・桐生 (n=8) 0.19 e 0.27 ( 0.13- 0.55) 0.04 (0.02-0.09) 富岡・安中・藤岡 (n=5) 0.30 f 0.41 ( 0.17- 1.00) 0.06 (0.02-0.16) 農業人口 群 馬 県(n=39) 3.92 a 利根沼田(n=11) 10.66 b 2.78 ( 1.90- 4.07) 吾 妻(n=18) 23.37 c 5.80 ( 4.20- 8.03) 2.09 (1.36-3.21) 高崎・渋川(n=4) 1.88 d 0.48 ( 0.26- 0.86) 0.17 (0.09-0.33) 前橋・桐生(n=3) 1.53 e 0.35 ( 0.17- 0.71) 0.12 (0.06-0.27) 富岡・安中・藤岡(n=2) 1.65 f 0.35 ( 0.14- 0.86) 0.13 (0.05-0.32) 60歳以上人口 群 馬 県(n=47) 0.75 利 根 沼 田(n=14) 5.36 6.88 ( 4.70-10.08) 吾 妻(n=21) 10.83 14.45 (10.45-19.98) 2.10 (1.36-3.23) 高崎・渋川(n=5) 0.41 0.52 ( 0.29- 0.95) 0.08 (0.04-0.15) 前橋・桐生(n=3) 0.22 0.31 ( 0.15- 0.64) 0.05 (0.02-0.10) 富岡・安中・藤岡(n=2) 0.39 0.53 ( 0.22- 1.29) 0.08 (0.04-0.15) *群馬県および各地域における地域 人口/農業人口/60 歳以上人口に対するつつが虫病発生頻度 (対 10万人口). ** 2008年∼2015年 ( 期) に発生した患者数を基に, 農業人口あるいは 60歳以上人口に対する患者数を田中論文 7における 患者割合から推計して算出. ***群馬県あるいは利根沼田地域の発生頻度に対するオッズ比を算出. 表中のアルファベットは各地域の地域 人口発生頻度と 農業人口発生頻度との比較で, 有意差のあるものを記載. a:5.32 (3.70-7.63);b:2.18 (1.11-4.31);c:2.11 (1.23-3.60);d:2.18 (1.11-4.31);e:7.79 (2.07-29.36);f:5.48 (1.06-28.23).
各地域の発生数は減少し, 明らかに発生数が多い地域は認 められなかった. 期において, 利根沼田と吾妻地域の発 生数が再度上昇し, 両地域で群馬県の発生数の 80%以上, 利根沼田地域単独で 20∼50%を占めていた. 2.2008年から2015年( 期)の群馬県と県内各2次保 医療圏における地域 人口/農業人口/60歳以上人口に 対するつつが虫病発生頻度とそれらの地域間の比較 期における群馬県と県内各地域の地域 人口/農業人 口/60歳以上人口に対するつつが虫病発生頻度とそれら の地域間の比較結果を表 1に提示した. 地域 人口に対する群馬県, 利根沼田, 吾妻地域の発生 頻度は各 0.7, 4.9, 11.1人, その他の地域の発生頻度は 0.3 人あるいはそれ以下であった. 地域間の比較で, 利根沼田 と吾妻地域の発生頻度は群馬県の発生頻度と比べ有意に高 く, 吾妻地域の発生頻度は利根沼田地域と比べて有意に高 かった. 農業人口に対する各地域の発生頻度は地域 人口に対す る各地域の発生頻度と比べ有意に高かった. 地域間の比較 結果は地域 人口の比較結果と同様の傾向であった. 60歳 以上人口に対する各地域の発生頻度とそれらの地域間の比 較結果は地域 人口に対する各地域の発生頻度及び比較結 果と同様の傾向であった. 3.利根沼田と吾妻2次保 医療圏における地域 人口/ 農業人口/60歳以上人口とつつが虫病発生頻度の推移・ 月別平 気温の推移 利根沼田と吾妻地域における地域 人口/農業人口/60 歳以上人口の推移とそれらに対するつつが虫病発生頻度の 推移を表 2に提示した. 地域 人口は両地域とも次第に減 少し, 期において 期と比べ約 15%減少した. 地域 人 口に対する発生頻度は利根沼田地域で 期と 期で高く, 期の発生頻度は 期と 期の発生頻度と比べ有意に高 かった. 吾妻地域では 期から 期にかけて減少して 期 に再上昇したが, 期の発生頻度は 期と比べ有意に低く, 期と比べ有意に高かった. 利根沼田と吾妻地域の発生頻 表2 利根沼田と吾妻 2次保 医療圏における各期間の地域 人口/農業人口/60歳以上人口とつつが虫病発生頻度の推移 項目/地区 期 期 期 期 地域 人口 利根沼田 100% 97% 96% 86% 吾 妻 100% 97% 93% 84% a 地域 人口発生頻度 利根沼田 0.7 4.9 1.03 b 4.88 吾 妻 18.74 A 10.86 B 3.04 C c 11.09 D d 農業人口 利根沼田 100% 86% 51% 42% 吾 妻 100% 84% 45% 37% e 農業人口発生頻度 利根沼田 0.76 6.08 2.12 10.66 吾 妻 16.86 E 11.17 5.64 f 23.37 F g 60歳以上人口 利根沼田 100% 114% 122% 130% 吾 妻 100% 144% 154% 164% h 60歳以上人口発生頻度 利根沼田 1.14 7.0 1.31 5.36 吾 妻 35.78 G 14.12 H 3.50 i 10.83 j 人口推移は 期を 100%として他期の人口をそれに対する比率として提示. * 期:1989∼1995年; 期:1996∼2002年; 期:2003∼2007年; 期:2008∼2015年. ** 2008∼2015年 ( 期)に発生した患者数を基に, 農業人口あるいは 60 歳以上人口に対する患者数を田中論文 における患者割 合から推計して算出. 表中のアルファベット小文字 a∼ j ( 期と他期との比較), 大文字 A∼ (利根沼田と吾妻地域との比 較)はオッズ比による統計解析で有意差のあるものを提示. a:4.71 (1.84-12.05);b:6.91 (2.70-17.67);c:3.64 (1.85-7.15);d:1.69 (1.21-2.37);e:10.82 (2.34-50.07);f:4.38 (1.27-15.13); g:2.03 (1.01-4.07);h:4.70 (1.07-20.67);i:3.09 (1.06-9.01);j:0.30 (0.18-0.52);A:26.52 (10.79-65.22);B:2.22 (1.44-3.42); C:2.94 (1.01-8.61);D:2.27 (1.48-3.50);E:18.29 (4.38-76.43);F:2.09 (1.36-3.21);G:31.34 (7.55-130.04);H:2.02 (1.02-3. 96); :2.10 (1.36-3.23). 群馬県と利根沼田地域のつつが虫病
度の比較で, 各期間とも吾妻地域が有意に高かった. 農業人口は両地域とも次第に減少し, 期において 期 と比べ約 60%減少した. 農業人口に対する発生頻度は利根 沼田地域で 期と 期で高く, 期の発生頻度は 期の発 生頻度と比べ有意に高かった. 吾妻地域では 期から 期 にかけて減少して 期に再上昇したが, 期の発生頻度は 期・ 期と比べ有意に高かった. 利根沼田と吾妻地域の 発生頻度の比較で,各期間とも吾妻地域が高く, 期・ 期 で有意に高かった. 60歳以上人口は両地域とも次第に増加し, 期において 期と比べ約 30∼60%増加した. 60歳以上人口に対する 発生頻度は利根沼田地域で 期と 期で高く, 期の発生 頻度は 期の発生頻度と比べ有意に高かった. 吾妻地域で は 期から 期にかけて減少して 期に再上昇したが, 期の発生頻度は 期と比べ有意に高く, 期と比べ有意に 低かった. 利根沼田と吾妻地域の発生頻度の比較で, 各期 間とも吾妻地域が高く, 期・ 期・ 期で有意に高かった. 平 気温の推移を見ると (表 3), 利根沼田地域では 期 において平 気温の上昇を認め, 期 8∼10月の平 気温 は他期と比べ有意に高かった. 吾妻地域も 期と 期にお いて平 気温の上昇を認めたが, 有意差はなかった. 8月・ 10月の平 気温の推移は 8∼10月の平 気温の推移と同 様の傾向で, 利根沼田地域では 期で高く, 吾妻地域では 期・ 期で高かったが, 有意差はなかった. 4.利根沼田2次保 医療圏におけるつつが虫病患者のま とめ 2006年から 2015年までの利根沼田地域のつつが虫病患 者の年齢と職業のまとめを表 4に提示した. 患者年齢は 60 歳以上が 37例中 32例 (86.5%) と大半を占めていた. 患者 職業は無職と回答した患者が 37例中 15例 (40.5%) と最 も多く, 次いで農業が 37例中 12例 (32.4%) であった. 利根沼田及び県内その他の地域におけるつつが虫病の月 別発生時期を図 3A, Bに提示した. 利根沼田地域における つつが虫病の月別発生数は (図 3A),10月が最も多く,次い で 11月で, 4月と 6月にも少数例の発生を認めた. 県内そ の他の地域の月別発生数は (図 3B), 11月が最も多く, 次い で 10月で, 3∼6月にも少数例の発生を認めた. なお, 過去 10年間の発生動向に大きな変化は見られなかった. 感染推定場所を発生年代別・管内地域別に見ると (図 4), みなかみ町及び沼田市 (利根川河川領域) での感染が多 かった. 発生地域は検討年代初期には沼田市西南部に限局 し, その後周辺地域に広がっていた. 2015年にはこれまで 感染推定地域として報告がなかった川場村での感染が認め 平 気温 (8∼10月) 利根沼田 19.3 19.3 19.7 21.2 吾 妻 19.4 19.6 20.1 20.1 平 気温 (8月) 利根沼田 24.2 24.1 24.3 25.2 吾 妻 24.4 24.4 24.6 24.9 平 気温 (10月) 利根沼田 13.8 13.7 13.9 14.7 吾 妻 13.9 13.9 14.3 14.4 * 期:1989 年∼1995年; 期:1996年∼2002年; 期:2003年∼2007年; 期:2008年∼2015年. ** 2013年までのデータを基に算出. 表中のアルファベット a∼ cは t検定による統計解析で有意差のあるものを提示. a:p=0.012;b:p=0.008;c:p=0.045. a b c 図3 利根沼田 (A) 及びその他 (B) の 2次保 医療圏 (合計) におけるつつが虫病発生数
られた. 一方, 片品村では 2006年∼2015年まで感染推定地 域として報告がなかった. 利根沼田と吾妻地域におけるつつが虫病患者の血清型を 表 5に提示した.血清型は Gilliam・Karp・Katoの標準 3株 陽性の占める割合が両地域とも 50%弱を占め, 2株陽性あ る い は 1株 陽 性 を 含 め る と 75%前 後 を 占 め て い た. Kawasakiタイプは両地域とも 10%以内であったが, 血清 タイプ不明患者が利根沼田・吾妻地域で各 16%, 25%に認 められた. 察 つつが虫病はリケッチアを持つツツガムシ (オリエン ティア・ツツガムシ[Orientia tsutsugamushi])幼虫の吸着 により人に感染するが, この吸着・感染はツツガムシの生 涯において幼虫時期の一回のみで, つつが虫病の感染は非 常に限られた時期にのみ生じる. また, この有毒菌を持 つツツガムシ (有毒ツツガムシ) は経卵感染によりリケッ チアが受け継がれ, 人を含む動物を介したリケッチアの感 染拡大はないとされている. 本邦における近年のつつが 虫病の増加にはタテツツガムシとフトゲツツガムシ幼虫の 媒介が関与するとされ, 群馬県では 1980年代より散見さ れ, 特に榛名山麓の吾妻地域を中心に多く認められるよう になった. 全国と群馬県における発生頻度の推移をみると, 検討初 期においては群馬県の発生頻度が高いものの, 期から 期にかけて全国及び群馬県とも発生頻度が次第に減少して 期で一定となり,かつ,両者間に差異がなくなった.一方, 期において全国の発生頻度に変化がないものの群馬県の 発生頻度は上昇していた. 本邦のつつが虫病は減少傾向に あるものの, 最近の群馬県ではつつが虫病が増加傾向にあ ると えられる. 群馬県の 2次保 医療圏別での発生数を 検討すると, 2000年以前は吾妻地域を中心とする榛名山麓 地域に多く認められていたものが利根沼田地域にも認めら 図4 利根沼田地域におけるつつが虫病感染推定地域 ○ ; 2013年から 2015年までに届出のあった患者の感染推定地域 ▲ ; 2010年から 2012年までに届出のあった患者の感染推定地域 表4 利根沼田 2次保 医療圏における患者年齢と職業のまと め 検討項目 年代あるいは職業 患者数(率 ) 患者年齢 70歳代以上 17(45.9%) (n=37) 60歳代 15(40.5%) 50歳代 2( 5.4%) 40歳代 1( 2.7%) 30歳代 1( 2.7%) 20歳代以下 1( 2.7%) 患者職業 無職 15(40.5%) (n=37) 農業 12(32.4%) 主婦 4(10.8%) 会社員など 3( 8.1%) 学生など 1( 2.7%) 不明 2( 5.4%) *全患者数に対する各年代あるいは各職業患者数の占める割 合. 表5 利根沼田と吾妻 2次保 医療圏におけるつつが虫患者の 血清タイプ 血清型 利根沼田地域 吾妻地域 患者数 (率 ) 標準 3株陽性 17(45.9%) 26(45.6%) 標準 2株陽性 4(10.8%) 3( 5.3%) Gilliam 6(16.2%) 4( 7.0%) Karp 0( 0.0%) 7(12.3%) Kato 1( 2.7%) 1( 1.8%) Kawasaki 3( 8.1%) 2( 3.5%) 不明 6(16.2%) 14(24.6%) 計 37( 100%) 57( 100%) *全患者数に対する各株患者数の占める割合.
**標準 3株;Gilliam, Karp, Kato型. 群馬県と利根沼田地域のつつが虫病
に次ぐ高い発生頻度であった. 最近の群馬県において, 利 根沼田地域は吾妻地域に次ぐつつが虫病の頻発地域であ り, 利根沼田地域のつつが虫病の増加は最近の群馬県のつ つが虫病の増加の原因と捉えられる. 一方, 田中らは群馬県全域の野鼠の有毒ツツガムシの保 有状況を調べ, 県内全域に有毒ツツガムシが検出され, そ の保有率とつつが虫病の発生頻度に相関がなかったと報告 している. 群馬県全域に有毒ツツガムシが生育しているに もかかわらず, 地域的な発生頻度に差異がある理由として, 有毒ツツガムシと人 (農業者など) との生活圏の重なりの 違い, 有毒ツツガムシの病原性の違いなどが指摘されてい る. もちろん,有毒ツツガムシ幼虫の活動性も 慮する必 要がある. この点について, つつが虫病の発生には産卵期 の 8月や活動期の 10月の気温が影響し, 至適な気温状況 はツツガムシ幼虫の感染活動に影響を及ぼすとの報告があ る. ただし, 30度以上になると産卵が認められないとの 報告もある. つつが虫病の発生には有毒ツツガムシ幼虫 の活動性などの種々の因子が関連していることが推測され る. なお, 本検討の利根沼田地域の平 気温を見ると, 温暖 化の影響で 2℃近い上昇が認められている. 利根沼田地域 の発生頻度上昇の一因にこの平 気温の上昇も関与してい ると える. つつが虫病は群馬県では北部山麓の河川域の農村部を中 心に発生しており, かつ患者の多くは高齢者で, 他の報告 からも発生頻度は接触機会が多い高齢者と農業従事者の人 口にも相関することが報告されている. そこで, 農業人口 と 60歳以上人口が発生頻度に及ぼす影響を, 利根沼田と 吾妻地域ではその推移を含めて検討した. その結果, 60歳 以上人口あたりの発生頻度は地域 人口の発生頻度と同じ 傾向で, 最近の高齢者人口の増加が発生頻度の増加に大き く影響しているとは えにくい. ただし, 利根沼田地域の 最近の患者年齢は, 60歳以上が 80%以上を占め, 少なくと も利根沼田地域では高齢者人口の増加の影響も否定できな い. 一方, 農業人口あたりの発生頻度は農業人口が減少し ているにもかかわらず地域 人口発生頻度と比べ各地域と も有意に高く, また, 経時的にも上昇していた. 前述の温暖 化などの影響などから農地に生息する有毒ツツガムシ幼虫 の活動性が高くなり, その結果としてつつが虫病の発生・ 感染率が高くなった可能性が推測される. なお, 宇津木らは榛名山麓における患者発生の地理的 布を検討し, 大半の患者は河岸段丘の農地で感染している ことを報告し, ツツガムシの生息相は関東ローム層河岸段 丘土壌が適していることを示唆した. 本検討でも利根沼田 地域の患者発生地のほとんどは利根川や片品川の河岸段丘 を中心とする農地であることから, この地域の農地は有毒 ツツガムシ幼虫の生息あるいは活動に適していると思われ る. ら次第に周辺地区に拡がっていた. 前述のように有毒ツツ ガムシは群馬県全域に生息しており, この意味からはこの 経時的な感染の拡がりを説明できないが, 感染性を持つ有 毒ツツガムシが吾妻地域から利根沼田地域に進出し, さら に, 利根沼田地域全体に拡がっている可能性が高いと え ている. 全国各県でのつつが虫病の発生月をみると, 利根沼田地 域より比較的寒冷で, 冬に積雪のある福島県や秋田県では 4月∼6月 (春)と 10月∼12月 (秋)の 2峰性の発生が見ら れる. 春の発生はフトゲツツガムシ幼虫の一部が越冬して 融雪後に活動を再開するために起こるとされている. 一 方, 宮崎県や鹿児島県などの温暖な地域では幼虫の越冬が なく, このために春の時期のつつが虫病の発生が認められ ず, 1峰性の発生状況となる. 利根沼田地域のつつが虫病 の発生はほとんどが 10月と 11月の 1峰性である. この地 域は積雪があるものの農地での積雪が限られている. この ため, 群馬県のつつが虫病発生時期は温暖な地域の発生動 向と一致したと える. つつが虫病の病原菌であるオリエンティア・ツツガムシ の血清タイプとして,Kato・Karp・Gilliamの標準型と,最 近では新しい型として Kuroki・Kawasakiなどが知られて おり, 前者は島根県に多く, 後者は神奈川県や宮崎県に多 いことが報告されている. また, フトゲツツガムシは全国 に 布し, この有毒ツツガムシからは Karp型や Gilliam 型などが検出される. タテツツガムシは山形県から九州 南部まで 布し, この有毒ツツガムシからは最も新しい血 清タイプの Kawasaki型と Kuroki型が多く検出される. 利根沼田地域と吾妻地域に届出のあったつつが虫病患者の 血清抗体の多くは Kato・Karp・Gilliamの標準型であった. 一方, 感染推定地域が吾妻高山村 (1例) 及び沼田市 (2例) の患者から Kawasaki型も検出されている. 利根沼田及び 吾妻地域の有毒ツツガムシの特徴として, フトゲツツガム シが媒介した Kato・Karp・Gilliamの標準型が主であり,一 部関東南部に多いタテツツガムシが媒介した Kawasaki型 が混在していると える. さらに, 利根沼田地域の最近の つつが虫病増加には Kawasaki型などの関東南部に生息す る新しいタイプの増加の影響も えられる. なお, 古典型のアカツツガムシは北日本の一部にのみ生 育し, Kato型を媒介するとさている. この型は皆無と思わ れていたところ, 最近, 以前の好発地域の秋田でその発生 の報告がなされた. 島根県では韓国で同定された最新タイ プが発見されたとの報告もある. 気候の変動などを介し てつつが虫病のタイプは変化あるいは多様化する可能性が あり, 今後血清タイプなどの詳細な疫学的検討が必要と える. つつが虫病の治療はテトラサイクリン系薬の投与が著効 し多くは合併症なく治癒するが, 少数例ではあるが死亡
例も散見され, 早期診断と早期治療が重要である. 衆衛 生学的にはより詳細な血清タイプの疫学的調査とともに感 染予防が重要である. 利根沼田地域のつつが虫病は前述の ように河岸段丘の農地を中心に拡がりを見せていると え られ, 従来の感染地域とともにこれらの拡大した地域住民 に対して,農作業・山菜採り・河川敷の散歩時などはツツガ ムシに刺されないように (1) 長袖・長ズボンを着用して素 肌を出さないこと, (2) 草の上に腰をおろしたり寝転んだ りしないこと, (3) 作業中に脱いだ上着やタオルなどを草 の上に放置しないこと, (4) 防虫スプレーを 用すること, (5) これらの場所に立ち入った後は入浴して着替えをする こと等のつつが虫病の感染予防啓発を積極的に行う必要が ある. 群馬県, 特に利根沼田地域におけるつつが虫病の最近の 発生動向の疫学的検討を行い, 群馬県ではつつが虫病の発 生が増加しており, その主因に利根沼田地域の発生拡大と その増加が関与していることが示唆される. さらに, 利根 沼田地域のつつが虫病の拡大・増加には利根沼田地域の近 年の温暖化の影響も えられる. また, 血清タイプから関 東南部に多い Kawasakiタイプなどの増加も推測される. 今後は新しい血清タイプ由来のつつが虫病についての疫学 的な検討を行うとともに, 好発地域の住民に対してつつが 虫病の積極的な予防教育を徹底する必要がある. 謝辞 本研究の調査に御協力いただいた群馬県衛生環境研究所 感染制御センターの皆様に感謝いたします. 引用文献 1. 須藤恒久. 本邦における最近の恙虫病の疫学及びその臨床 像と病原診断体制の現況について.ウイルス 1986;36:55-70. 2. 小川基彦. 感染症の話:ツツガムシ病. IDWR (2002年第 13 週号)http://idsc.nih.go.jp/kansen/ko2 g1/k02 13/k02 13. html (2016年 4月 15日アクセス可能).
3. Akiyoshi Kawamura, Jr., Hiroshi Tanaka, Akira Tamura (eds). Tsutsugamushi Disease. University of Tokyo Press, 1995. 4. IASR. つつが虫病/日本紅斑熱 2005年 12月現在. IASR 2006; 27: 27-29 http://idsc.nih.go.jp/iasr/27/312/tpc312-j. htpl (2016年 4月 15日アクセス可能). 5. IASR.つつが虫病・日本紅斑熱 2006∼2009.IASR 2010;31: 120-122 http://idsc.nih.go.jp/iasr/31/363/tpc363-j.html (2016年 4月 15日アクセス可能). 6. 宇津木敏浩, 太田直樹, 高田伸弘ら. 群馬県榛名地方におけ るツツガムシ病−その臨床および発生パターンの検討−. 感染症学雑誌 1992;66:306-313. 7. 田中伸久, 富岡千鶴子, 橋爪節子. 群馬県におけるツツガム シ病. 厚生の指標 2002;49:24-30. 8. 多村 憲. 恙虫病病原体 Orientia tsutsugamushiの微生物 学. 日本細菌学雑誌 1999;54:815-832. 9. 岡田長保. 淡路島北部地域におけるツツガ虫病−発生季節 気温の疫学的 察−. 感染症学雑誌 2003;77:60-67. 10. 田原研司, 川端寛樹, 渡邉治雄ら. 島根県におけるつつが虫 病の疫学的検討. 日本獣医師会雑誌 2012;65:535-541. 11. 志村和穂, 菊田武久, 上田幹雄ら. 滋賀県内で感染したツツ ガムシ病の 2例. 日本内科学会雑誌 2003;92:1325-1327. 群馬県と利根沼田地域のつつが虫病
Disease in Gunma Prefecture and Tone-Numata Health
and M edical Service Area
Masakazu Yoshizumi , Mikiyoshi Koike, Naomi Takahashi , Hisato Tanaka , Masae Kogure,
Masatoshi Okada , Satoshi Tsukui , Nobuhiro Saruki and Atsushi Takahashi
1 Tone-Numata Public Health and Welfare Office, Gunma Prefecture, 4412 Usune-machi, Numata, Gunma 378-0031, Japan
2 Division of Health Prevention,Department of Health and Welfare,Gunma Prefecture,1-1-1 Otemachi,Maebashi,Gunma 371-8570,Japan 3 Gunma Prefectural Institute of Public Health and Environmental Sciences, 378 Kamioki-machi, Maebashi, Gunma 371-0052, Japan
Abstract
Background and Objectives:A new type of Tsutsugamushi disease(TD)was recognized in the northern mountain-ous area of Gunma Prefecture in the 1980s. The aim of this study was to clarify the epidemiological features of TD infection in Gunma Prefecture and the Tone-Numata health and medical service area (HMSA). M ethods: We investigated the occurrence rates of TD in the general,agricultural,and elderly(aged >60 years)populations;the age, occupation, and contact area of patients;changes in temperature;and TD serotypes. Results:(1) Occurrence rates of TD in Japan and Gunma Prefecture decreased until 2002,but those in Gunma increased from 2007.(2)TD rates were higher in the Agatsuma HMSA than in the other HMSAs in Gunma. In Tone-Numata HMSA, the number of TD patients has recently increased and accounts for 20―50% of the total in Gunma Prefecture.(3)The occurrence rate in the agricultural population increased in the Tone-Numata HMSA, and was higher in this population than in the total population of HMSAs.(4) Mean temperature in Tone-Numata HMSA has increased in recent years. (5) Almost all TD infections occurred in October and November in agricultural areas on river terraces.(6)Some TD infection has extended in the Tone-Numata HMSA,and some TD cases were caused by a new serotype (Kawasaki). Conclusions:In Gunma Prefecture, TD occurrence rates have increased via an increase in cases in Tone-Numata HMSA. Likewise, the increase in TD infections in the Tone-Numata HMSA has been affected by the increased rates found in agricultural areas and a rise in mean temperature. The activity of Tsutsugamushi larva may have extended and increased in agricultural areas on river terraces. Considering the serotypes and months of occurrence of TD, TD in Gunma Prefecture is probably caused mainly by Futogetsut-sugamushi (Leptotrombidium pallidum) (Karp, Gilliam type). Finding types suggest this is mixed with the Kawasaki serotype common in the south Kanto and Kyushu regions. Local residents in agricultural areas that have a high risk of TD should be given education on preventive measures.
Key words:
Tsutsugamushi disease, occurrence rate, epidemiology,
local health and medical service area, prevention education.