安全保障における地域的特性 : 価値観と脅威認識
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(2) 46. (46). 横浜国際社会科学研究 第 14 巻第 1・2 号(2009 年 8 月). 表 1 治安・安全への関心 あなたは,日本で今後,無差別テロが起きる不安をどの程度感じていますか.(択一) 大いに感じる. 37%. ある程度感じる. 48%. あまり感じない. 11%. 全く感じない. 2%. その他・答えない. 2%. ( 「大いに感じる」「ある程度感じる」と答えた人に)いつごろからそう思うようになりましたか.(択一) 03 年 12 月に自衛隊のイラク派遣が決まってから. 18%. 03 年 3 月のイラク戦争開始から. 12%. 01 年 9 月の米同時多発テロから. 35%. 95 年の地下鉄サリン事件から. 15%. 地下鉄サリン事件以前から. 3%. その他・答えない. 2%. 出所:朝日新聞朝刊 2004 年 1 月 27 日「治安・安全高まる関心 地域などで自衛策 朝日新聞社国民意 識調査」. し て ブッシュ前政権 が 2007 年 1 月 10 日 に イ. 付ける要因ともなりうるのである.脅威認識. ラク新戦略5)を発表,それを支える軍の人事. は,地域や国家が負っている状況や環境,社会. を一新し,プリンストン大学の国際関係博士. 文化に左右される.そのためそれらの地域特性. 課程を修了したペトレアス(David Petraeus). を含めた脅威認識を把握することは,国際社会. 中将6)をイラク駐留多国籍軍司令官7)に任命し. 全体の脅威認識を把握する上で重要であると考. た.新戦略の顔となったペトレアス司令官は,. える.. 手元に同じく博士号を持つ軍人チームを編成8). 脅威認識が先の要素である状況や環境,社会. し,それぞれの得意とする分野や戦略を生か. 文化に左右されるということは,見方を変えれ. している9).このように,遅まきながらもイラ. ば個々の人々の価値観にかかっているといえ. クや中東の特性を考慮した新戦略を,高度な専. る.それぞれの人々が何に価値観を求め,何を. 門性を持った軍人により実施することで,イ. 守りたいと考えているのかによって脅威認識が. ラク情勢の打開に向けはじめた.これは,2010. 違ってくると考える.例えば先進諸国では,人. 年 8 月までのイラクからの米軍撤退10)に向け. 権の尊重や男女平等参画は当然のことと受け止. た最後のチャンスとなっている.またオバマ新. められているが,一歩地域を違えば,中東諸国. 大統領は,アフガニスタン政策において,新た. などでは,家族の名誉を汚す者に対して,名誉. な戦略の策定を目指していると語り,イラク駐. 殺人12)ということも行われているのである.. 留米軍のペトレイアス司令官の戦術にならい,. これは,その地域や民族が何に価値を求めてい. イスラム強硬派タリバーンなどのスンニ派武装. るかという相違にほかならない.日本では,自. グループと連携して,アルカイダなどのテロ組. 国で前代未聞の大規模な化学テロが地下鉄でお. 織掃討を進める案を検討することを表明してい. きたが,地下鉄サリン事件よりも,米国での. 11). る .. 9.11 米国同時多発テロの方が,無差別テロの脅. こういった状況を見ても地域的特性を把握す. 威を感じるというのは,テロに対する見方が欧. ることは重要であり,以後の政策の成否を決定. 米とは,違う感じを受ける(表 1 参照)..
(3) 安全保障における地域的特性(中島). そこで,地域の価値観の違いを認識するた. (47). 47. の相違及び特色を示していく.. め,アジア・バロメーターや 60 カ国の価値観 データをもとに地域的特質の違いを把握する.. ⑴ 世界価値観調査(World Values Survey). そして,地域において人々はどのような不安や. 「世界価値観調査(World Values Survey) 」は,. 脅威を感じているのかということを,各種シン. 「世 界 価 値 観 調 査 協 会( World Value Survey. クタンク等で公表されている懸念事項から抽出. Association) 」が 2000 年 に 実施 し た 世界 60 カ. し,地域の抱える潜在的脅威の概観を行う.そ. 国・地域の 18 歳以上男女 1000 サンプル程度の. の結果を受けて,それぞれの地域の抱く脅威認. 回収を基本とした個人対象の意識調査であり,. 識における価値観の違いを把握していくもので. 政治観,経済観,労働観,教育観,宗教観,家. ある.最後に地域・民族・文化間の脅威認識の. 族観,環境観など,広範な対象分野における設. ずれの低減に向けて,文化的多様性の視点から. 問数・対象調査国・地域数などから見て,屈指. 考察を行っていくものである.. の規模の国際比較調査である14).. 2 地域的な特質,市民の意識. この世界価値観調査データの分析において, 調査対象国をクラスター別に分け,基本的充足. 地政学的13)と は,主 に 経済的,軍事的 な 大. 度として人々の幸福度と生活満足度の各国ポジ. 国が他の地域に影響を与える際,経済的・政. ションを示している.クラスターの分類は,基. 治的・軍事的効果 を ど の よ う に 示 せ ば,効率. 本的価値観として「あなたの生活にとってどの. よくその地域に影響力を行使することができる. 程度重要か」について,「家族」 「友人知人」 「余. か,またそれによる国益の向上をいかに行うか. 暇時間」 「政治」 「仕事」 「宗教」 「他人への奉仕」. ということに焦点を当てており,地理的特性と. に対し「非常に重要」「やや重要」「あまり重要. 政治・経済・文化的背景を融合した学術的視点. でない」「全く重要でない」「わからない」を各. である.2003 年の米国による攻撃後のイラク. 国別に調査し,第 1 因子を「宗教」 「家族」 「仕. の不安定な情勢や,当初の発展途上国への欧米. 事」と の 相関 が 高 い 生活力因子,第 2 因子 を. の価値観を含んだ押し付け的な国際援助におけ. 「余暇」と「友人知人」との相関が高い社交力. る開発援助行政の停滞など,その地域で生活を. 因子としている.この第 1 因子と第 2 因子の組. 営む人々の意識を考慮に入れない国際的な政策. み合わせで各国の価値観を分類している(図 1. などはうまくいかず,大きな不具合が生じる結. 参照).. 果となる.そこで,地政学的な視点や人々の意. ア クラスター 1:人生達成型. 識を考慮に入れた地域性の把握を行う必要があ. いわゆる西欧先進国を中心に構成されてい. る.安全保障のアジェンダセッティングでもあ. る.日本もこのクラスターである.アジアの. る脅威認識については,その地域での脅威認識. 国々の中では,日本は西欧先進国と似た価値観. の把握が重要であり, 特に, 脅威認識という人々. の 国 と い う こ と に な る.生活力因子(「宗教」. の「心」の動きに焦点を当てたものには,市民. 「家族」「仕事」との相関が強い)がマイナス,. が意識している脅威認識を理解し,政策に結び. 社交力因子(「余暇」「友人・知人」と の 相関. つけることが必要不可欠であると考える.. が高い)がプラスの国々である.経済力はある. そのため, ここでは,世界価値観調査(World. ためそのゆとりを社交力重視に向ける国々.. Values Survey)とアジア・バロメーターを使. イ クラスター 2:人生活力型. 用し,人々の脅威認識について考察を行い,大. 生活力因子,社交力因子 と も プ ラ ス の ア ク. 規模な地域別統計分析を用い,各国の価値観に. ティブ志向の強いクラスターである.自我が強. 潜む脅威認識の把握に努め,地域的な脅威認識. く最も活力があるという国々..
(4) 48. (48). 横浜国際社会科学研究 第 14 巻第 1・2 号(2009 年 8 月). 出所:電通総研『世界 60 カ国 価値観データブック』同友館 2004 年1月,p. 16. 図1 クラスターを構成する国々の布置. ふわく. ウ クラスター 3:人生不惑型. る.. 最も多い国からなるクラスターである.生活. 各クラスター別の国家群は,表 2 のとおりで. 因子はプラスだが社交因子はマイナスとなって. ある.. い る.社交性 の 低 い 内向的,保守的 な 傾向 の. これら 6 つに分けられた国家群において,人. 国々.. 間の安全保障とも密接に関係してくる『幸福度』. エ クラスター 4:人生模索型. と『生活満足度』について,国際的平均値から. ほぼ中心に位置しており,生活力,社交力の. 4 つのカテゴリーに分類できる15) (図 2 参照) .. どちらを重視すべきか模索中.. これによると,クラスター 1・2 は幸福度・生. オ クラスター 5:人生彷徨型. 活満足度がともに高いが,他のクラスターは,. 現在もしくは旧社会主義国家であり,特に旧. どちらか一方または両方が低い状態である.こ. ソ連の国々が目立つ.生活因子,社交力因子と. れらの国々については,それぞれの地域的特質. もにマイナスと「貧弱」アイデンティティ模索. や価値観を考慮に入れた脅威認識の分析を行. 中.. う必要がある.大きく考えるとクラスター 1・2. カ クラスター 6:人生信仰型. は,人間 の 安全保障 に 関 し て,新 た な 脅威 で. このクラスターはクラスター統合過程で他の. あ る 自己 の 外的環境要因(例:対外関係,テ. クラスターと一線を画してきたクラスターであ. ロ,環境問題等)に脅威認識を向け,それ以外. る.宗教 へ の 依存度 が 強 い ク ラ ス ターで も あ. では個人の生活関連に起因する脅威認識が高い. ほうこう.
(5) 安全保障における地域的特性(中島). (49). 49. 表 2 クラスター別国家群 クラスター 1 (12 カ国) 人生達成型. クラスター 2 (10 カ国) 人生活力型. スペイン 日本 スウェーデン フランス イギリス ドイツ オランダ ベルギー デンマーク フィンランド 北アイルランド ルクセンブルク. アメリカ カナダ 韓国 ナイジェリア トルコ ベネズエラ ウガンダ セルビア・モンテネ グロ アイスランド アイルランド. クラスター 3 (13 カ国) 人生不惑型. クラスター 4 (10 カ国) 人生模索型. メキシコ 南アフリカ プエルトリコ チリ インド ペルー ジンバブエ バングラディシュ モロッコ イラン ポーランド ルーマニア マルタ. アルゼンチン オーストリア イタリア ポルトガル チェコ スロバキア ハンガリー クロアチア ギリシャ スロベニア. クラスター 5 (9 カ国) 人生彷徨型 中国 ベトナム エストニア ラトビア リトアニア ブルガリア ロシア ウクライナ ベラルーシ. クラスター 6 (5 カ国) 人生信仰型 フィリピン タンザニア インドネシア エジプト ヨルダン. 出所:電通総研『世界 60 カ国 価値観データブック』同友館 2004 年 1 月,p. 17. 生活満足度(低)・幸福度(高). 生活満足度(高) ・幸福度(高). クラスター 6(人生信仰型). クラスター 1(人生達成型) クラスター 2(人生活力型). 生活満足度(低)・幸福度(低). 生活満足度(高) ・幸福度(低). クラスター 3(人生不惑型). クラスター 4(人生模索型). クラスター 5(人生彷徨型) 出所:電通総研『世界 60 カ国 価値観データブック』同友館 2004 年 1 月,p. 26. 図 2 クラスター分類. のではないかと思われる.これが先進国と発展. 類されていることが注目される.これらの国々. 途上国の間に生じる認識のギャップとなるので. は,アイデンティティを模索中であるとされる. ある.また特に生活満足度が低く,幸福度が高. が,これらの国家群とクラスター 1(人生達成. 16). い ,クラスター 6(人生信仰型)の国家群は,. 型),ク ラ ス ター 2(人生活力型)の 国家群 が. 宗教観や地域独特の価値観に支えられた社会国. どのような関係性を持っていくかが今後の国際. 家であると考えられ, これらの国々に対しては,. 関係のカギであると考えられるが,現時点では. 地域的特質(宗教的)を考慮にいれた分析が必. 安全保障の視点から見て,クラスター 5(人生. 要である.またこのクラスター分類において,. 彷徨型)とは必ずしも協調していく姿勢を示し. 米国では,かつて冷戦の相手国であったロシア. ていない状態が続いている.. と,現在ロシアに代わって懸念を抱いている中 国が,ともにクラスター 5(人生彷徨型)に分.
(6) 50. (50). 横浜国際社会科学研究 第 14 巻第 1・2 号(2009 年 8 月). ⑵ アジア・バロメーター(脅威認識に関する. 問題が高くなっている.. 項目). ベトナムは,貧困が 82%,失業・職不足 80%,. ア ジ ア・バ ロ メーター( Asia Barometer). 天災・自然災害 が 71% と 高 い 水準 を 示 し,健. とは,2003 年にアジア 10 カ国(ウズベキスタ. 康・医療に関する問題,麻薬の違法使用・麻薬. ン,インド,スリランカ,ミャンマー,タイ,. 中毒,犯罪,モラルの低下・精神的退廃,戦争・. ベトナム,マレーシア,韓国,中国,日本)に. 紛争,環境破壊・天然資源問題,テロリズム,教. 対 し 43 の 質問 を 各国約 800 名,20 歳以上 59. 育制度,人口過剰が高くなっている.. 歳の男女から導き出した調査結果で,社会的イ. ミャンマーは,貧困が 69%,モラルの低下・. ンフラの発展,経済的状況,価値観と満足,社. 精神的退廃 が 62% で あ り,失業・職不足 が 高. 会的行動,習慣及び規範,アイデンティティ,. くなっている.. 政治意識,健康状態についてまとめたものであ. インドは,貧困 78%,失業・職不足 75%,テ. 17). る . (ア)質問項目: 「次に挙げるような事柄のう. ロリズムが 70% と高い水準を示し,人口過剰, 汚職,犯罪,戦争・紛争が高くなっている.. ち,あなたがとても心配していることはどれで. スリランカは,戦争・紛争が 67% と高い水準. すか.深刻なものをお答え下さい.いくつでも. を示し,貧困,テロリズム,汚職,犯罪,失業・. かまいません」 .. 職不足,麻薬の違法使用・麻薬中毒が高くなっ. この質問項目では, 以下の特徴がみられた (表. ている.. 3 参照) .. ウズベキスタンは,失業・職不足 71%,貧困. 日本の特徴として,失業・職不足に対する心. 68% と高く,テロリズム,健康・医療に関する. 配が 60% に達していることと環境破壊・天然. 問題,戦争・紛争,人権問題,犯罪,天災・自. 資源問題,天災・自然災害,モラルの低下・精. 然災害,麻薬の違法使用・麻薬中毒も高い水準. 神的退廃,犯罪,戦争・紛争,健康・医療に関. となっている.. する問題が高い.. 全体としては,失業・職不足,貧困が高い値. 韓国の特徴は,失業・職不足に対する心配が. を示し,次いでテロリズムや天災・自然災害,. 60% に達していることと,国内における経済. 戦争・紛争,人口過剰,モラルの低下・精神的. 的不平等,国内経済問題,環境破壊・天然資源. 退廃が高くなっており,不安に感じている事柄. 問題,健康・医療に関する問題が高い.. では,軍事等の伝統的安全保障分野より,人間. 中国 の 特徴 は,健康・医療 に 関 す る 問題 が. の安全保障を主体とする非伝統的安全保障分野. 64%,失業・職不足 が 62% と 高 い 水準 を 示 し. に関係する項目が多数見られ,人々の認識から. 汚職,環境破壊・天然資源問題,国内による経. は,非伝統的安全保障分野に対する対策を積極. 済的不平等,天災・自然災害,貧困が高くなっ. 的に行うことにより,人々の安全安心の意識が. ている. マレーシアは,テロリズムに対する心配が. 向上するものと考える. (イ)質問項目:「あなたは,次の各国があなた. 67% ともっとも高く,貧困,モラルの低下・精. の国に良い影響を与えていると思いますいか,. 神的退廃,麻薬 の 違法使用・麻薬中毒,戦争・. 悪い影響を与えていると思いますか.あなたの. 紛争,犯罪,国内の経済問題,失業・職不足,. お考えに一番近いものをそれぞれの国について. 汚職が高くなっている.. 1 ずつ答え下さい.」 (表 4 参照) .. タ イ は,貧困,麻薬 の 違法使用・麻薬中毒,. ここでの特徴的なことは,まず,北朝鮮,パ. 失業・職不足がともに 55% であり,モラルの. キスタンが良い影響を与えることについて,低. 低下・精神的退廃,犯罪,健康・医療に関する. い値を示したのに対し,日本については,ウズ.
(7) (51). 51. スリランカ. ウズベキスタン. 安全保障における地域的特性(中島). 表 3 深刻な問題であると感じている事項調査 インド. ミャンマー. ベトナム. タ イ. マレーシア. 中 国. 韓 国. 日 本. 貧 困 23 25 40 62 55 82 国内における経済的不平等 26 58 50 37 26 33 より公正な貿易 2 2 6 9 5 9 テロリズム 37 6 27 67 27 46 環境破壊・天然資源問題 57 47 55 42 27 51 戦争・紛争 49 20 25 57 19 51 天災・自然災害 50 17 43 38 20 71 グローバル化が進むこと 2 2 3 13 6 9 健康・医療に関する問題 48 45 64 38 47 67 国内の経済問題 45 53 24 52 29 23 グローバルな不景気 32 22 10 37 9 16 犯 罪 52 39 30 57 46 61 人権問題 13 9 22 22 17 0 汚 職 13 37 54 45 36 0 民主主義の欠如 6 5 18 17 11 0 麻薬の違法使用,麻薬中毒 15 10 30 58 55 62 難民・亡命問題 8 2 3 13 10 10 失業・職不足 60 60 62 51 55 80 教育制度 22 39 27 28 25 46 自国の社会福祉制度 21 26 28 11 14 13 科学者の倫理 2 2 8 2 5 14 社会の高齢化 38 27 20 8 12 19 変化の速さ,技術の進化が速すぎる 8 6 4 10 16 9 大企業の脅威 3 6 2 11 6 16 宗教的原理主義 5 3 5 19 9 6 人口過剰 3 3 27 8 11 40 モラルの低下・精神的退廃 50 38 28 57 50 50 出所:猪口孝・田中明彦・ミゲル バサネズ・ティムール ダダバエフ「アジア・バロメーター ─アジア世論調査(2003)の分析と資料─」明石書店 2005 年 7 月 4 日より作成. 69 78 65 68 0 29 26 38 2 17 4 6 36 70 61 58 10 39 34 42 36 49 67 50 36 27 23 44 2 8 5 8 25 36 33 53 0 30 19 37 11 16 4 9 18 52 48 45 0 25 25 46 0 61 49 32 0 15 18 34 25 25 41 42 3 22 9 7 46 75 46 71 16 34 13 31 8 10 5 25 1 4 5 4 5 11 4 6 2 7 2 3 3 7 4 4 18 21 7 19 6 65 5 5 62 14 25 37 都市部の価値観と生活スタイル. 表 4 良い影響を与えている国家に対する調査 対北朝鮮. 対韓国. 対パキスタン. 対ロシア. 対イギリス. 対アメリカ. 対インド. 対日本. 対中国良い影響. 日 本 24 9 40 26 5 2 29 1 韓 国 35 26 11 38 24 12 5 5 中 国 30 12 33 33 48 24 45 38 マレーシア 65 75 33 23 31 26 34 44 29 タ イ 76 71 28 70 62 25 18 45 29 ベトナム 32 44 22 24 22 56 7 37 16 ミャンマー インド 44 74 58 57 74 6 48 46 スリランカ 72 79 68 42 39 32 38 33 28 ウズベキスタン 40 64 28 57 44 88 13 76 31 出所:猪口孝・田中明彦・ミゲル バサネズ・ティムール ダダバエフ「アジア・バロメーター都市部の価値観と生活スタイル ─アジア世論調査(2003)の分析と資料─」明石書店 2005 年 7 月 4 日より作成.
(8) 52. (52). 横浜国際社会科学研究 第 14 巻第 1・2 号(2009 年 8 月). ベキスタン,スリランカ,インド,タイ,マレー. S Nye, Jr.)(ハーバード 大教授)を 中心 と す. シアの五カ国が 60% を超える割合で(日本か. る,米国 の 知日派 か ら な る 超党派研究 グ ルー. ら)より影響を与えられたとする結果が出てお. プ は 2007 年 2 月 16 日,「日 米 同 盟:2020 年. り,アメリカやイギリスの先進国を含む 9 カ国. のアジアを正しく構築するために」(The U.S.-. 中,良い評価を与えた国家数が最も高い値を示. Japan Alliance: Getting Asia Right through. している.. 2020)と 題 す る 報告書 を 発表 し た( 「アーミ. また日本は,拉致問題やミサイル発射事案な. テージ・レ ポート Ⅱ」と い わ れ る も の で あ. どが関係し,北朝鮮に対してほとんど良いイ. る) .2000 年 10 月 に 同 グ ループ が 発表 し た,. メージを抱いていなかった.. い わ ゆ る「アーミ テージ・ レ ポート」 ( The. 国家に対するイメージについて,日本は他国. United States and Japan: Advancing Toward a. にない良いイメージを国際的に維持継続してい. Mature Partnership)の第 2 弾である.前回の. る.このことは,今後,国際社会で活動してい. 報告書は,当時のクリントン政権下での「日本. く上でとても有利な条件を与えられているとい. 軽視」の風潮の中で日米同盟重視を打ち出し,. うことであり,これを十分認識し,有効に活用. 注目された.しかも,その提言内容の多くが,. していくべきであると考える.. ブッシュ前大統領の就任後に政権入りした執筆 者たちによって実際の政策に反映されたため,. ⑶ 主要な脅威認識研究概観. 関係者の間ではその後の情勢の変化を踏まえた. アジア太平洋における主な脅威認識研究は, 18). 過去 に は パ シ フィク・フォーラ ム. が あ り,. 「アーミテージ・レポートⅡ」の発表が待たれ ていた.2008 年の大統領選挙を前に,超党派. 東アジア・太平洋地域の国々の間に見られる安. で長期的視点から日米同盟を基軸とする米国の. 全保障に対する脅威の認識の相違について検討. アジア政策を打ち出し,後継政権に「ロード・. する計画を打ち出し,各国の専門家に論文の執. マップ」を提示しておくという狙いもあったと. 筆を依頼し,1982 年 2 月ハワイのワイコロア. 見られる.前回の報告書の発表後,世界規模で. で「東アジア・太平洋地域における各国の脅威. は,9.11 とその後の長い対テロ戦争,大量破壊. 観─政策と今後の方向」と題するシンポジウム. 兵器の拡散,エネルギー資源問題が,アジアで. を開催した.会議には,東アジア太平洋地域及. は,中印の台頭,日本の対外的役割の拡大,台. びアメリカの学者,民間の指導者,政府関係者. 湾・朝鮮半島といった伝統的問題の継続,そし. 40 人以上が出席した.会議は,これらの地域. てナショナリズムの競合が新たな課題として浮. に所在するいくつかの研究機関──ジャカルタ. 上してきた.今回の報告書は,特に中印の同時. の戦略国際センター,カリフォルニア大学バー. 台頭という事態の中で,2020 年までのアジア. ク レー校 の 東 ア ジ ア 研究所,マ サ チューセッ. を見据えて,いかに米国と日本が日米同盟をド. ツ・ケ ン ブ リッジ の 外交政策研究所,ジョー. ライビング・フォースとしてこの地域に肯定的. ジ・ワ シ ン ト ン 大学の中ソ問題研究所,サウ. な影響をもたらすかという点に焦点を当ててい. ス・カ ロ ラ イ ナ 大学 の 国際研究所,東京 の 平. る20).. 和・安全保障研究所及びハワイ大学のアジア・ 太平洋研究センターが共催者となった19).. ⑷ 脅威観についての分析概観. また,最近のアジア太平洋に関する安全保障. ア 外部からの脅威と内部からの脅威. の見通しを研究したものに,アーミテージ・レ. 人々が脅威を認識する際にその所在の方向. ポートⅡがある.R. アーミテージ(Richard L.. 性は,大きく分けて「国家の外部からの脅威」. Armitage) (元国務副長官)と J. ナイ(Joseph. 「国家の内部からの脅威」に分けることが可能.
(9) 安全保障における地域的特性(中島). (53). 53. である.アジア諸国の脅威観の論文記述では,. 考えられる.そのひとつにマレーシアの例が挙. 脅威を外部と内部に区分けしている.その中. げられる.1983 年に書かれた「アジア諸国の. で,日本,韓国,タイ,オーストラリア以外は,. 脅威観」のマレーシアの項25) では,国の安全保. すべて「内部からの脅威認識」を高く感じて. 障に対する国内的な脅威となりうるのは,麻薬,. 21). いる .これは,政府における国内の統治能力. 宗教的な過激主義で,これらについては国外の. に関係しているものと考える.日本,韓国, オー. 出来事であっても脅威であるとしていた.アジ. ストラリアは,先進諸国に分類され,統治はか. ア・バ ロ メーターで も,「心配 し て い る 事項」. なり完成された状態にあり,タイは歴史的に他. として,「麻薬の違法使用,麻薬中毒」「テロリ. 国占領されたことがないために,統治能力は. ズム」「宗教的原理主義」「戦争・紛争」が他国. あると考える.これに関連する最近の研究と. と比較して高い値を占めている(表 3 参照).. して,2003 年の J. ファロン(Fearon, James. また日本の場合でも,アジア・バロメーターの. D)と D. レ イ ティン(David D. Laitin)の 内. 「心配している事項」について「環境破壊・天. 戦に関する研究22)がある.彼らのモデルによ. 然資源問題」「戦争・紛争」「天災・自然災害」. れば,経済変数によって表される国家の強さが. 「犯罪」(表 3 参照)など自己の影響力の届かな. 内戦の危険をうまく予測する.国家の強弱を表. い外界からの影響を心配しており,特に「戦争・. すものとして 1 人あたりの GDP の変数が用い. 紛争」に つ い て は,第二次大戦(太平洋戦争). られ,それが小さいということは国家の行政・. から 58 年(アジアバロメータ調査 2003 年)も. 軍事・警察能力が低いことを示す.そのため政. 経過し,その間,一度も戦争・紛争が起こって. 府の統治能力は国土全体に行き渡らず, 「反乱. いない現状でありながら心配の上位にきている. (insurgency) 」を監視,制裁することができな. のは,日本人の心理面26)が影響しているので. い,というのである.彼らは反乱を「農村地域. ないかと考える.冷戦時代の対外的脅威国は旧. を基盤としてゲリラ戦争を展開する小規模で軽. ソ連であったが,アジア・バロメーターでは,. 装備な武装集団に特徴付けられる軍事紛争の技. 「自国に良い影響を与えた国家」として,北朝. 術」23)と定義している.反乱が小規模かつ軽装. 鮮に対してわずか 1% の支持(表 4 参照)しか. 備で組織可能な軍事活動であるために,政治的. ないことを考えると,北朝鮮が冷戦期の旧ソ連. 権利の侵害といった強い不平も,民族といった. に置き換わっているのではないかと思われる.. 強い連帯も反乱の原因として必要なくなる.反. このように,地域ごとに何に価値を見出すの. 乱に利する環境が存在する国家でこそ内戦の危. かには違いがあり,その価値が脅かされ,侵害. 険は高まるのであり, 「弱い国家」ではまさに. されたとき,その地域として脅威と認識してい. その環境が提供されている.. くのではないかと考える.. ま た アーミ テージ・レポートⅡにおいても. ウ 組織・制度への信頼度と脅威観. 2020 年までのアジア情勢の見通しと展望につ. 世界価値観調査及びアジア・バロメーターに. いて,内部的な不確実性として中国の内政問題. よると,クラスター 1,2 に分類される国家群. と発展の方向性への懸念を挙げ,外部的な不確. は,組織及び制度への信頼度が非常に低いか,. 実性としてアジア諸国との関係性を挙げてお. 相対的に低い方に分類されるが,その他のクラ. り,内政と外政に注視することを暗に示してい. スターの国家群は,非常に高いか,相対的に高. る情勢分析となっている24).. い方に分類される.特に脅威認識の観点から. イ 脅威認識の長期的維持. 「軍隊に対する信頼感」は,日本が極めて低く,. 脅威認識は,その国家にとってある程度長期. 次に韓国となっており,他はいずれも高い値を. にわたり,認識が維持継続される傾向があると. 示している(表 5 参照).これは,対外的・国.
(10) 54. 横浜国際社会科学研究 第 14 巻第 1・2 号(2009 年 8 月). (54). 表 5 組織における信頼度 ウズベキスタン. スリランカ. インド. ミャンマー. ベトナム. タ イ. マレーシア. 中 国. 韓 国. 日 本. 政 府. 18. 22. 91. 91. 86. 78. 58. 58. 地方自治. 33. 26. 82. 90. 65. 74. 55. 48. 軍 隊. 27. 59. 91. 89. 92. 97. 79. 65. 法制度. 36. 43. 76. 84. 67. 75. 57. 47. 警 察. 44. 41. 72. 75. 45. 59. 49. 37. 国 会. 12. 11. 85. 89. 70. 70. 41. 54. 教育制度. 32. 33. 85. 95. 87. 89. 84. 81. 56. 医療制度. 39. 48. 72. 95. 80. 81. 78. 80. 45. 国内の大企業. 25. 38. 67. 80. 72. 70. 65. 73. 59. 52. 国内営業の多国籍企業. 17. 38. 74. 78. 53. 62. 48. 63. 37. 70. 労働組合. 23. 46. 64. 84. 67. 83. 73. 62. 52. 31. マスコミ. 19. 57. 73. 69. 54. 83. 79. 87. 70. 38. NGO. 50. 59. 62. 82. 61. 61. 79. 81. 53. 37. 宗教団体. 7. 58. 45. 90. 67. 62. 91. 70. 69. 57. 国際連合. 43. 59. 67. 61. 73. 74. 79. 73. 56. 80. WTO. 35. 54. 83. 72. 72. 78. 72. 82. 49. 71. 世界銀行. 25. 52. 85. 75. 77. 83. 72. 88. 52. 76. IMF. 27. 54. 81. 66. 70. 79. 75. 84. 50. 73. 出所:猪口孝・田中明彦・ミゲル バサネズ・ティムール ダダバエフ「アジア・バロメーター 都市部の価値観と生活スタイル ─アジア世論調査(2003)の分析と資料─」明石書店 2005 年 7 月 4 日より作成. 内的脅威の対処において,さほど役立つ(期待. うした問題には,主として領域別・専門別に取. されている)状況になっていないためではない. り組まれてきたが,どのように認識されるのか. かと考える.日本の,同じ安全を守る「警察に. という観点からの領域横断的な考察も重要であ. 対する信頼」と比較するとその違いが鮮明にな. る.特に 100 年に 1 度や 2 度といった頻度の不. る.このことは脅威に対する関心や政策アジェ. 安事態をどう認識し,どう取り組むかについて. ンダを分析するのに有効であろう.国民の組. は,これまでまとまった研究がほとんどない状. 織・制度への信頼度は, 政策実施段階において,. 態である27).. どの組織や制度を利用したら世論の支持が得ら. そこで,前項においては各地域の市民価値観. れ,政策実施がスムーズに行くかという分析に. における先進国及び発展途上国の価値スタイル. も応用できるのではないかと考える.. の相違や,アジアを中心とした脅威認識を概観. 3 将来予測における地域的脅威(不安)要因. したが,各地域が抱える脅威認識(不安認識) はそれぞれどのようなものなのか.不確実性の. 世界の不安材料は,無数に存在する.しかも,. 事項に関し,各々が将来起こるであろうと考え. それらはそれぞれ固有の発現の態様・領域・認. る脅威(不安)は各地域で相違が予想され,そ. 識の様相・対策を必要としている.これまでこ. の相違により地域の特性を抽出することができ.
(11) 安全保障における地域的特性(中島). (55). 55. 表 6 未来年表の分野区分 No. 分 野. 分野の内容. 1. 経 済. 経済視システムの不安 / エネルギー需給 / 情報インフラ / 知能・情報資源 / 生産基盤 / グローバリ ゼーション / 所得格差 / 地下経済など. 2. 政 治. 国際テロ / 民族・宗教紛争 / 地政学的な緊張関係 / 地域主義 / 民主化の阻害 / 軍事力バランス / 資 源外交 / 地球温暖化対策の政治的利害等. 3. 社会・文化. 人口動態 / 地域社会・家族 / 教育 / 社会保障 / ジェンダー・人権・倫理 / 文化. 4. 健康・生命. 新型ウィルス・感染症の脅威 / 自然災害 / 食の安全 / 大規模災害 / 国際テロ・凶悪犯罪 / 生活不安 / 経済システム運営の失敗等. 5. 地球環境. 地球温暖化 / 大気汚染 / 水質汚濁 / 廃棄物 / 資源の枯渇等. 6. 科学技術. 生命工学と倫理 / 医療と倫理 /IT 技術 / 原子力 / 宇宙開発 / 海洋開発等. 松原正毅・中牧弘允編「資料編 未来年表」『2010 年代世界の不安,日本の課題』総合研究開発機構 2007 年 3 月 30 日,p. 4. る.地域差による不安の相違を考察するにあた. 行う.. り,NIRA 総合研究所 が 調査 し た『2010 年代. 「世界全体」の将来の不安要因として複数回. 世界 の 不安,日本 の 課題 資料編 未来年表』. 指摘されているのが,石油資源,エネルギー需. (2007 年 3 月 30 日発行)を 使用 し,世界的規. 給などのエネルギー問題と国際的な格差や途上. 模での 2020 年までの将来予測の不安要因を抽. 国援助 な ど の 開発問題,先進国 の 少子化 や 都. 出し,データを地域別に再構成して,将来的な. 市化 な ど の 社会問題,高度情報社会 や 人工知. 地域的脅威(不安)要因を割り出し,地域の抱. 能などの科学技術問題,健康問題などであり,. える漠然とした将来的脅威(不安)を明示して. 社会・文化,経済,生命・健康,科学技術,政. いく.. 治と広い分野にわたって不安があることが分か る.これは,国連のハイレベル委員会28)でも指. ⑴ 世界 と 日本 の 不安要因 に 関 す る 未来年表 2007―2020. 摘された事項と重なる部分が多い(表 7 参照) . 「アジア・太平洋」の不安要因の特徴は,軍. NIRA 総合研究所 が 調査 し た『2010 年代 . 事的要因が多いということである.世界の他の. 世界 の 不安,日本 の 課題 資料編 未来年表』. 地域の特徴でも軍事力が Key Word に出てく. (2007 年 3 月 30 日発行)は,世界 と 日本 の 不. るのは,アジア太平洋と中東だけである.そし. 安要因の抽出・整理を目的に,未来予測に関す. て中東は軍事力が 1 項目しか出ていないのに,. る資料及び Web 検索等により関連データを収. アジア太平洋は,Key Word の合計で 5 つもの. 集・整理したものである.不安要因の内容は,. 項目で指摘されている.冷戦終焉後,国際社会. 6 分野にそれぞれ区分されている(表 6 参照) .. における軍事力の相対的低下が認識されている. . が,アジア太平洋地域においては,未だに将来. ⑵ 世界 と 日本 の 不安要因 に 関 す る 未来年表. に対する脅威認識(不安要因)が軍事力にある. 2007―2020 からの分析. ことが指摘できる.また特徴的なことは,中国. 世界と日本の不安要因に関する未来年表 2007─. の経済拡大と興隆が将来の懸念事項として最大. 2020 から Keyword・分野を抽出し,世界全体,. の 7,8 項目も予測されており,人口が 10 億以. ア ジ ア 太平洋,ヨーロッパ,中東,北米・中. 上の中国がどのような方向に進むのかという警. 南米,アフリカ,日本のそれぞれの地域にお. 戒観がアジア太平洋地域で広がっていることが. ける将来的な脅威や不安に関しての特徴分析を. わかる.また,この中国の経済動向を見据えて,.
(12) 56. (56). 横浜国際社会科学研究 第 14 巻第 1・2 号(2009 年 8 月). 表 7 世界全体の不安要因 Key Word1 知的財産 石油資源 原油価格 金融の拡大 エネルギー需給 先進国の少子高齢化 健康 宇宙開発 世界総人口 国際的な格差 先進国の財政危機 金融システムの不安 都市化 文化の画一化 高度情報社会 新型ウィルス HIV/AIDS 生物・化学兵器 自殺. 件 数 1 2(5) 2 1 1(3) 1(2) 3 1 1 4 1 1 3 1 2(3) 1 1 1 1. Key Word2 高度情報社会 エネルギー需要 石油資源 喫煙 途上国の人口増大 途上国の援助 社会保障制度の危機 肥満 生活習慣病 核兵器 先進国の少子高齢化 人工知能. 件 数 1 2 3 1 1 4 1 1 1 1 1 1. 分野別 社会・文化 経済 生命・健康 科学技術 政治. 件 数 8 8 8 2 3. ( )内は,Key Word1,Key Word2 の合計 松原正毅・中牧弘允編「資料編 未来年表」 『2010 年代世界の不安,日本の課題』総合研究開発機構 2007 年 3 月 30 日より作成. 表 8 アジア・太平洋の不安要因 Key Word1 先進国の経済停滞 中国の経済拡大 先進国の少子高齢化 都市化 HIV/AIDS 絶滅危機生物 中台関係 朝鮮半島事情 軍事力 中国の興隆 エネルギー資源 生物・化学兵器 インドの経済拡大 米国一極支配 健康. 件 数 2 8 7(8) 2 1 1 4 1 2(5) 4(7) 5(6) 1 1 1 1. Key Word2 石油資源 エネルギー需要 国内的な所得格差 中国の興隆 森林面積の減少 軍事力 エネルギー資源 朝鮮半島事情 国内的な格差拡大 先進国の少子高齢化 原子力発電 新興国の興隆 男女平等 喫煙. 件 数 2 2 1 3 1 3 1 1 1 1 1 2 1 1. 分野別 経済 社会・文化 生命・健康 地球環境 政治. 件 数 16 13 2 1 9. ( )内は,Key Word1,Key Word2 の合計 松原正毅・中牧弘允編「資料編 未来年表」 『2010 年代世界の不安,日本の課題』総合研究開発機構 2007 年 3 月 30 日より作成. 今後のエネルギー問題についても懸念が広がっ. 的な軍事的衝突の危機は遠のき,EU の安全保. ている.現在漠然と中国脅威論が唱えられてい. 障の基盤となっている「よりよい世界におけ. るが,将来予測データからも裏付けられた形と. る安全な欧州」と題される安全保障戦略文書29). なっている(表 8 参照) .. が 2003 年 12 月の欧州理事会で採択された.こ. 「ヨーロッパ」地域 で は,冷戦終焉後,直接. ういった状況から,現在この地域における軍事.
(13) 安全保障における地域的特性(中島). (57). 57. 表 9 ヨーロッパの不安要因 Key Word1 大統領選挙 家族関係 先進国の少子高齢化 原子力発電 地球環境保護 EU の拡大 ロシアの拡大 エネルギー資源 ロシア事情. 件 数 1 1 4 3 1 1 1 1(3) 1. Key Word2 政治体制 資源リサイクル イスラム教 北方領土 エネルギー資源. 件 数 1 1 2 1 2. 分野別 政治 社会・文化 科学技術 地球環境 経済 生命・健康. 件 数 3 5 1 1 3 1. ( )内は,Key Word1,Key Word2 の合計 松原正毅・中牧弘允編「資料編 未来年表」 『2010 年代世界の不安,日本の課題』総合研究開発機構 2007 年 3 月 30 日より作成. 表 10 中東の不安要因 Key Word1 エネルギー供給 石油資源 食糧問題 中東事情 国際テロ 軍事力 イラン イラク 中東情勢. 件 数 2 5(7) 1 2(4) 2 1 1 1 2(5). Key Word2 石油資源 エネルギー需要 中東事情 水資源 イスラム教 先進国の経済停滞 中東情勢 核利用 途上国の人口増大. 件 数 2 1 2 1 1 1 3 1 1. 分野別 経済 生命・健康 地球環境 政治 社会・文化. 件 数 8 1 1 5 2. ( )内は,Key Word1,Key Word2 の合計 松原正毅・中牧弘允編「資料編 未来年表」 『2010 年代世界の不安,日本の課題』総合研究開発機構 2007 年 3 月 30 日より作成. 的脅威は,消滅した様相を呈している.そこで,. ていることが指摘できる.これがこの地域の特. 将来的脅威 や 不安要因 に 関 し て は,社会・文. 徴ともいえる.今後の国際テロ及び民族間の対. 化的側面に注意が注がれ,先進国の少子高齢化. 立構造が,将来にわたりこの地域や世界の安定. 問題やエネルギー問題に起因する指摘項目が多. への脅威として認識されている現状である(表. く,また社会・文化的側面で脅威認識が高く示. 10 参照) .. されているのが,EU 内における文化的な摩擦. 「北米・中南米」の地域は,今後の米国の動. が生じる危険があるのではないかという,イス. 向に左右される地域である.この地域は,先進. ラム教関連の項目である.これは,EU 内の社. 国が共に抱えている財政危機,少子高齢化が指. 会的構成人員の変化による将来的不安感が出て. 摘される一方,ブラジルの興隆に挙げられる. いると考えられる(表 9 参照) .. ように,中南米地域の今後の動向についても. 「中東」地域では,最も懸念すべき事項とし. 懸念材料が指摘される状態である.また,この. て指摘されているのは,石油資源に起因する. 地域特有のものとして,日本以外で自然災害の. エネルギー事情である.石油エネルギーに関す. 内,台風/ハリケーン,地震に関する指摘事項. る,石油輸入国への将来的な影響等を考慮する. を挙げているのは,北米・中南米(米国)だけ. と,この地域は,世界的規模の懸念材料を持っ. である.先進国であり,高度情報化社会となっ.
(14) 58. (58). 横浜国際社会科学研究 第 14 巻第 1・2 号(2009 年 8 月). 表 11 北米・中南米の不安要因 Key Word1 先進国の財政危機 ブラジルの興隆 先進国の少子高齢化 米軍の再配備 原子力 中東情勢 労働力 温室効果ガス 先端医療 知的財産権 先進国の経済停滞 核兵器 台風/ハリケーン 地震 移民 介護. 件 数 2(3) 1(2) 2(3) 1 1 1 1 2 1 1 1 2 1 1 1 1. Key Word2 原子力 ブラジルの興隆 先進国の財政危機 遺伝子情報 自然災害 先進国の少子高齢化. 件 数 1 1 1 1 2 1. 分野別 経済 政治 社会・文化 政治 科学技術 地球環境 科学技術 生命・健康. 件 数 4 1 4 4 1 4 1 1. ( )内は,Key Word1,Key Word2 の合計 松原正毅・中牧弘允編「資料編 未来年表」 『2010 年代世界の不安,日本の課題』総合研究開発機構 2007 年 3 月 30 日より作成. ている日本及び米国は,この種の自然災害に関. AIDS,貧困,感染症,途上国 の 援助 と いった. しては脆い状態に置かれているため,将来的な. 事項であり,人間が生きる上で最低限の,生命. 脅威として認識されていると考える.台風/ハ. や健康といったことへの脅威が将来にわたって. リケーンに関しては,地球温暖化が原因で,規. 懸念されている.アフリカ地域の安全保障の焦. 30). 模が年々大きくなると指摘されている .地球. 点は,国家や社会体制ではなく,まさに人間個. 温暖化による気候安全保障の分野においてブッ. 人をいかに守るかという,人間の安全保障の領. シュ前大統領は,気候安全保障の考えに関し否. 域と言える(表 12 参照).. 定的な立場であったが,オバマ新政権下では,. 我が国の将来における脅威認識(不安要因). 気候変動担当特使のポストを新設し,クリント. は,少子高齢化,労働力,財政危機,経済停滞. ン元政権下のホワイトハウスで上級顧問を務め. という,社会・文化的要因と経済的要因が大半. た トッド・ス ターン(Todd Stern)氏 を 起用. を占める状況である.少子高齢化に伴う労働力. すると発表し, スターン氏は,就任あいさつで,. 不足と経済停滞は,労働力を海外に依存する率. 「地球温暖化はわれわれの将来にとって深刻な. を高め,文化的齟齬を起こす可能性を秘めてお. 脅威だ」と述べ,早急に取り組む必要性がある. り,文化多様性の観点から日本は,どのように. との認識を示している31).このような米国の政. 取り組むかが,今後の大きな課題になると考え. 策転換により,今後環境分野における日米間の. る(表 13 参照).. 協力関係と自然災害に関する共通認識の下,よ り強力な協力体制を構築できるのではないかと 考える(表 11 参照) .. 4 地域における共有認識の醸成にむけて: 文化的多様性の視点から . 「ア フ リ カ」の 地域 の 脅威認識(不安要因). 各地域別にその地域固有の現在の脅威認識や. は,人間の安全保障の領域である「恐怖からの. 将来的な不安要因について概観してみると,そ. 自由」 「欠乏 か ら の 自由」を 主眼 と し た HIV/. れぞれ,経済的,政治的,社会的な問題を抱え.
(15) 安全保障における地域的特性(中島). (59). 59. 表 12 アフリカの不安要因 Key Word1 HIV/AIDS 途上国の貧困. 件 数 2 3. Key Word2 感染症 途上国の援助. 件 数 1 1. 分野別. 件 数. 生命・健康 経済 社会・文化. 3 1 1. ( )内は,Key Word1,Key Word2 の合計 松原正毅・中牧弘允編「資料編 未来年表」 『2010 年代世界の不安,日本の課題』総合研究開発機構 2007 年 3 月 30 日より作成. 表 13 日本の不安要因 Key Word1 金融システムの不安 FTA 先進国の経済停滞 先進国の財政危機 社会保障制度の危機 先進国の少子高齢化 フリーター問題 医療問題 アスベスト 温室効果ガス対策 高度情報社会 選挙 労働力 バイオチップ 国内的な格差拡大 食糧問題 建設物の老朽化 都市化 ニート問題 生活安全 市況の変動 認知症 がん 台風/ハリケーン 地震 社会インフラの老朽化. 件 数 1 1 6(8) 10(13) 2(5) 9(17) 1(4) 2 2 1 1 1 9(14) 1 1 1 1 1 1 1 1 1 3 1 1 2(3). Key Word2 IT 技術 東アジア共同構想 先進国の財政危機 社会保障制度の危機 先進国の経済停滞 労働力 健康被害 政治体制 フリーター問題 先進国の少子高齢化 社会インフラの老朽化 自然災害 家族関係. 件 数 2 1 3 3 2 5 2 1 3 8 1 2 1. 分野別 経済 社会・文化 政治 生命・健康 地球環境 科学技術. 件 数 15 28 7 7 3 2. ( )内は,Key Ward1, Key Ward2 の合計 松原正毅・中牧弘允編「資料編 未来年表」 『2010 年代世界の不安、日本の課題』総合研究開発機構 2007 年 3 月 30 日より作成. て い る が,そ の う ち 将来的不安要因 に 関 し て. いては,国内的な問題としての要因と,他の文. は,経済(55) ,政治(28) ,社会・文化(61) ,. 化がその地域に流入する形で発生する要因があ. 健康・生命(23) ,地球環境(10) ,科学技術(6). り,国内的な問題としては,先進国の少子高齢. で あ り,社会・文化的 な 要因 が 61 項目 で 最多. 化,家族関係,都市化,労働力などがあり,他. を占め,経済的要因を上回った形となった.将. 文化の流入から来る社会・文化的要因には,移. 来の不安要因に関して,重み付けは難しいが,. 民,文化の画一化,労働力の流入,移民などの. 件数で多数を占めているということは重要な結. 問題が挙げられる.これらの社会・文化的要因. 果であると考える.この社会・文化的要因につ. を概観すると,人々の世代間ギャップや文化的.
(16) 60. (60). 横浜国際社会科学研究 第 14 巻第 1・2 号(2009 年 8 月). ギャップなどの価値観に根ざした齟齬が垣間見. 定的な特徴であると断言する」と示された33).. られる.そのため今後将来的予測で指摘される. このような潮流を国際社会の根底に置くこと. 価値観のギャップをどのように埋めていくのか. により社会・文化的ギャップや価値観の相違か. ということに関しての方向付けとして,多様な. らくる脅威認識(不安要因)が緩和され,感情. 文化や社会を許容する国際社会の構築が望まれ. 的な態度や認知的バイアスに陥ることを軽減す. る.. ることが可能である.そのため将来的に予想さ. 2005 年 10 月 20 日,ユネスコ総会において. れている脅威認識や不安要因に対し,冷静かつ. 「文化多様性条約」が 賛成 148 カ 国,反対 2 カ. 合理的な政策決定に必要な世論形成に寄与する. 国(米国とイスラエル) ,棄権 4 カ国という投. ものであると考える.. 票結果により国際的な規範として採択された.. 現代においては,IT 革命の実現,パブリッ. これは 2001 年に満場一致で可決された「世界. ク・イ ン テ レ ク チュア ル(Public Intellectual). 文化多様性宣言」にうたわれた「市場原理のみ. や CSO( Civil Society Organization)の 存 在,. では,人類の持続的発展にとって要となる文化. グローバル・メディアの発達による世界的な情. 多様性の保護と促進を保証できない.この観点. 報共有の進展などを背景として,グローバルに. から,民間部門や市民社会との協力関係におけ. 形成される世論,つまり「世界世論」というべ. る公共政策の優越性を再確立しなければならな. きものが現実的な影響力を持つ状況が生じて. い」32)といった方針を補強するためにまとめら. い る34).パ ブ リック・イ ン テ レ ク チュア ル や. れた文書である.. CSO が特定の課題に関し,各国政府を巻き込. ユネスコは 1972 年の世界遺産条約に始まり,. んだ対話を持つとともに,グローバル・メディ. 2001 年「文化多様性に関する世界宣言」 ,2003. アやインターネットなどを駆使した情報発信を. 年「無形遺産保護条約」を成立させ,そしてこ. 行 う こ と で,「世界世論」を 先導的 に 形成 し,. の「文化的表現の多様性の保護と促進に関する. 各国政府の意思決定や外交交渉を方向づける場. 条約(文化多様性条約) 」の 採択 に 至った.こ. 合がしばしば見られる.こうした状況の中で,. の一連の動きの中で注目することは, 「モノの. 民主主義,法の支配,基本的人権(表現の自由,. 文化からこころの文化へ」という変化であり,. 男女平等などを含む),市場経済,環境保護な. 根底にあるのは精神文化の多様性の保護と促進. どの価値観が,多くの人々によって共有される. である.多様性の重要さについては,95 年国. ようになっており,各国にとって,このような. 連大学(東京)で行われたユネスコ創立 50 周. 共通価値を背負って自らの道義性を積極的に提. 年記念セミナーでのフランスの環境学者ジャッ. 示することが,有効な外交活動を行う上でます. ク・イヴ・クストー(Jacques-Yves Cousteau). ます重要となっている35).. の 発言 が も と なって い る.彼 は 種(species). 国際社会全体の脅威認識については,冷戦期. の数が多いところではエコシステム(生態系). と比較して国際社会の不確実性が増し,安全で. は強い.しかし南極のように種の数が少ない. なくなったと考えている.それを示すものに,. 所ではエコシステムは弱い(fragile) .そして. 世界経済フォーラムの調査結果がある.2003 年. この法則はそのまま文化にも当てはまると述. 11 月から 12 月にかけて,世界経済フォーラム. べた.単一文化になってしまうとこれは脆い.. は,世界 51 カ 国,43000 人 を 対象 に,10 年前. 文化の多様性を失うと人類は滅びる.これが. (冷戦終結時)に比べ,自分の国が安全になった. 2001 年 の「文化多様性 に 関 す る 世界宣言」の. かどうかについて国際世論調査を実施した36).日. 第一条に盛り込まれることとなった.そしてこ. 本において調査対象の 86% が安全でなくなっ. の条約の冒頭には「文化的な多様性が人類の決. たと答えたのは,たまたま,この時期に表面化.
(17) 安全保障における地域的特性(中島). (61). 2003年. 61. 全世界 北米 西欧 太平洋地域 日本. 冷戦終結後. 0. 20. 40. 60. 80. 100. 出所:世界経済フォーラム「安全と経済的繁栄に関する国際世論調査」(2003 年). 図 3 世界経済フォーラム「安全と経済的繁栄に関する国際世論調査」 (問:次の世代は今より安全でない世界で暮らすと思う). した様々な要因があるだろうが,世界全体では. セスへの信頼を創り出すことがカギとなってく. 57% が安全でなくなったと答え,安全になっ. る38).. たと答えたのはわずか 22% に過ぎない.核戦. 国家や国際社会における政策を考えた場合,. 争による人類共滅の脅威が薄らぎ,共存の時代. こ の 民主主義,法 の 支配,基本的人権(表現 の. が訪れたと思ったら,より広範な,多様な脅威. 自由,男女平等などを含む) ,市場経済,環境保. が人類を脅かしている.現代の時代精神は「不. 護 な ど の 共通的価値 と 文化多様性条約 を 基盤. 37). 安」なのである (図 3 参照) .. に,価値観の多様化に対する配慮を志向した政. 現在の国際情勢は,不確実性の状況に満ちて. 策が今後は重要になり,将来的予測で指摘され. おり,一つの脅威が顕在化するのではなく,そ. る脅威感や不安感を解消する一助になるのでは. の脅威が他の脅威を誘発するいわばリスクの連. ないかと考える.. 鎖反応が起こる状況を呈している.このよう な,人間活動 が 地球的規模 に 拡大 す る こ と に. 5 地域的視点からの脅威認識研究の今後. よって環境負荷や災害の影響が地球のすみずみ. 本論では,地域的視点から脅威認識の捉えな. まで広がっていくようすをグローバルリスクと. おしを試み,地政学的視点を踏まえつつ,各地. 言う.その特徴は,不確実性が強まり,長期複. 域における価値観の相違からくる脅威認識や不. 合の効果はサブシステムの積み上げをしても予. 安要因をどのように持っているかということつ. 測しがたい点である.地球温暖化などの現象の. い て, 「価値観 データ ブック」 , 「ア ジ ア・バ ロ. みならず,気候変動等による生活基盤の喪失が. メーター」 , 「2010 年代世界の不安,日本の課題」. もたらす居住地移動や難民化なども含んでい. を使用し,脅威認識観の抽出を行った.その結. る.不確実性の状況において,未来予測に関す. 果,各地域に共通する事項として,社会・文化. る知識が不十分で,望ましくない結果を今から. 的要因に起因する脅威認識観が顕著であるとい. 評価する場合は, その前提が一致しないために,. う輪郭が見えてきた.この社会・文化的要因に. 文化や倫理の意味解釈の側面によるところが大. は,国内的・国際的な問題が含まれるが,総じ. きい.この点では,多文化社会として対話を通. て,他者や他の価値観を抱いている者をいかに. じた相互理解の促進と地球政策の意思決定プロ. 自己の社会環境に取り入れ,融合・協調・調和.
(18) 62. 横浜国際社会科学研究 第 14 巻第 1・2 号(2009 年 8 月). (62). のもと進んでいくかということであり,2005 年 第 33 回ユネスコ総会で採択された「文化多様 性条約」の多様な文化を尊重する考えと重なる. このような世界的規模を対象とした脅威認識研 究は,総合的な地域学とも言うべきもので,大 規模な研究遂行能力チームのネットワークが必 要であると考える.また,将来予測においては, 多国間協力による各地域の視点でのデータ収集 が今後の脅威認識研究分析の精度を上げるもの と考える.脅威が,重大ではあるが稀な対象に ついては,その認識も,社会がとるべき対策の あり方・範囲も,現在の国際社会においては十 分な経験も知識もないものが多い.100 年に 1 度か 2 度しか起こらないが,一旦起これば社会 に大きな災いをもたらす事態に関して,社会は 十分な知見を蓄積しておらず,認識のあり方か ら対応のあり方・対策の立て方まで,ほとんど 手探りの状態である.もちろん,それぞれの専 門領域での知識の蓄積はあるが,事態の重大性 は専門領域にとどまらない広範な影響を及ぼし かねない性質のものである.したがって,この ような不安対象についてどう考えるべきかとい う問題から始まって,切迫した不安事案に対し て,社会の対応能力をどう高めるかという対策 に至るまで,領域横断的な考察が必要である39). そのため今後の課題としては,学際的指向に よる地域的な現在及び将来的な脅威認識(不安 要因)の抽出精度を上げることと各地域におけ る価値観の分析,そしてグローバルな環境を考 慮に入れた総合的な脅威研究協力体制のネット ワークの構築が必要不可欠であると考える.. 注 1)2009 年 4 月 27 日 F─16 戦 闘 機 2 機 を 伴 っ た 大統領専用機(ボーイ ン グ 747 型 ジャン ボ 機) が 広報用写真撮影 の た め ニューヨーク 上空 で 低空飛行 を 行った た め,9.11 同時多発 テ ロ の 再来と思われ,一時避難する騒ぎとなり,オ バマ新大統領は「激怒」,事実関係の調査を命 じ,結果として実施の責任者であるホワイト. ハウス軍務室長は,5 月 7 日辞任した. [ CNN 2009.05.09Web posted at 12: 54 ] 9.11 同時多発テロから約 8 年経過しても米国 市民の恐怖の感情がぬぐい去れないことがうか がえると同時に 9.11 直後の恐怖の感情は,計 り知れないものであったと思われる. 2) [毎日新聞]2007 年 6 月 8 日 http://headlines. yahoo.co.jp/hl?a=20070608-00000023-mai-int ま た AP 通信 の 独自集計 に よ る と 2006 年 9 月 22 日時点で,ブッシュ米政権が派兵したア フガニスタンとイラク両戦争での米兵の死者数 が計 2974 人になり,9.11 米国同時多発テロの 死者数を超えている. 3) [朝日新聞]2006 年 9 月 24 日朝刊 4)[共 同 通 信 社]2006 年 11 月 10 日 http:// topics.kyodo.co.jp/us2006election/ 5)政府,軍,そして民間を柔軟かつフルに活用 して編み出した戦略であり,その骨子は,2 万 人強の増派,米・イラク両政府による戦費・再 建費の追加投入,イラク政府による石油収益の 公平な分配,イランも含めた周辺諸国へイラク 安定への貢献を促すことである. 6)これまで 2 度イラクに派遣されており,最初 はカルバラやナジャフでの戦闘で成功を収め, モスルでは戦闘と並行し公共設備の立て直しで 成果を上げた.またバクダッド陥落前から「先 行き大変な困難を招く」と米軍の戦略の不十分 さをマスコミにも説いてきたこともある. 7)2008 年 7 月 10 日米上院 は,イ ラ ク 駐留多国 籍軍を率いるペトレイアス司令官を,中東全域 を管轄する中央軍司令官に起用する人事を賛成 多数 で 承認 し た.賛成 95 反対 2 だった.産経 新聞 2008 年 7 月 11 日 (産経ニュース (電子版) ) 8)2007 年 6 月 5 日付のワシントン・ポストによ れ ば,チーム メ ン バーは,歩兵隊 の 歴史研究 で 博士号 を 取得 し た ピーター・マ ン スール 大 佐,タル・アファー市奪回で優れた功績を残し た H. R. マックマスター大佐,人類学を専攻し, インドネシアのイスラム過激派に関する論文を 書いたオーストラリア軍のデービッド・キルク レーン中佐などである.それぞれ大組織にいな がら,それにとらわれない自由な発想を実践で きる自信を持った人々といえる. 9)加瀬みき「学者軍人たちが担う最後のチャン ス ブッシュ新イラク戦略の深層」 『世界週報』 2007 年 3 月 6 日,pp. 10─13. 10)オバマ新大統領は,2009 年 2 月 27 日にノー スカロライナ州ジャクソンビル近郊のキャン プ・レ ジューン 海兵隊基地 で 演説 し,2010 年 8 月末までにイラク駐留米軍の全戦闘部隊を撤 収させると表明した.大統領演説の骨子は,① イラク駐留米軍の戦闘部隊は 2011 年 8 月末ま でに撤退②残る部隊も 2011 年末までに撤収し,.
(19) 安全保障における地域的特性(中島). 米軍は完全撤退③イラク復興にイラン,シリア を含む周辺国を関与させ,地域的枠組みを創設 ④アフガニスタンやパキスタンに潜むアルカイ ダ掃討に重心を移行(読売新聞 2009 年 2 月 28 日). 11)New Yoke Times 2009. 3. 7 “Obama Ponders Outreach to Elements of Taliban”. 12)これは,2002 年 1 月にスウェーデンの地方都 市ウプサラで発生し,父親が銃で娘のクルド人 女性ファディーメ・サヒンダルさん(26)を撃 ち殺した.この事件は,マスコミ各社は事件を 「文化の衝突」という視点から大きく取りあげ た.朝日新聞朝刊 2003 年 7 月 25 日,名誉殺人 の実例として, スアド(著) ・松本百合子(翻訳) 「生きながら火に焼かれて(ヴィレッジブック ス) 」ソニーマガジンズ 2006 年 5 月などがある. 13)地政学とは,国家戦略の形成過程で自国の置 かれている地理的要件を加味し,その諸条件の 下でできる限り効率的な外交政策を展開するこ と.19 世紀後半 の 帝国主義時代 に,各国 の 競 争が激化するとともに,海陸交通が発達するに 従って,各国の地理的条件を国家戦略と連関さ せる視点が発達した.その後 20 世紀後半の冷 戦時代にも受け継がれ,自由主義諸国の「封じ 込め政策」を正当化する役割も果たした.地政 学的視点は,米ソの核兵器のミサイル化と多弾 頭化が実現されるに従って一時影響を小さくし ていたが,冷戦終結後に国際構造の多極化に関 する議論が盛んになるにつれ,中央アジアの資 源と政治体制を論じる立場から再度見直され つ つ あ る.(猪口孝,田中明彦,恒川惠一,薬 師寺泰蔵,山内昌之『国際政治事典』弘文堂 2005 年 12 月 1 日,pp. 624─625). 14)電通総研『世界 60 カ 国 価値観 データ ブッ ク』同友館,2004 年 1 月,p. 3, p. 15. 15)電通総研『世界 60 カ 国 価値観 データ ブッ ク』同友館,2004 年 1 月,pp. 24─26. 16)幸福度が信仰心と関係が深いと指摘されてい る.電通総研『世界 60 カ国 価値観データブッ ク』同友館,2004 年 1 月,p. 18. 17)猪口孝・ミゲル バサネズ・田中明彦・ティ ムール ダダバエフ『アジア・バロメータ 都 市部の価値観と生活スタイル─アジア世論調査 (2003)の分析と資料』明石書店 2005 年 7 月. 18)1975 年に官界,財界及び学界の有識者の間 の国際的対話を促進するために設立された国際 的な独立組織である. 19)平和・安全保障研究所『アジア諸国の脅威観』 人間の科学社 1983 年 3 月 30 日,p. i─ii. 20)「「アーミ テージ・レ ポート Ⅱ」に つ い て~ そ の 概要 と 評価~」『海洋安全保障情報』海洋 政策研究財団(2007. 2)p. 13.アーミ テージ・ レポートⅡの原文は以下の通り.http://www.. (63). 63. csis.org/media/csis/pubs/070216_asia2020.pdf. 21)平和・安全保障研究所『アジア諸国の脅威観』 人間の科学社 1983 年 3 月 30 日,pp. 103─105, p. 135, p. 142, pp. 172─175, pp. 188─206, pp. 240─253, pp. 254─262. 22)Fearon, James D., and David D. Laitin. 2003. “Ethnicity, Insurgency, and Civil War”. American Political Science Review 97 pp. 75─90. 23)Fearon, James D., and David D. Laitin. 2003. “Ethnicity, Insurgency, and Civil War”. American Political Science Review 97 p. 75. 24)Richard L. Armitage Joseph S. Nye “The U.S.-Japan Alliance: Getting Asia Right through 2020” The Center for Strategic and International Studies(CSIS)pp. 3─13. 25)平和・安全保障研究所『アジア諸国の脅威観』 人間の科学社 1983 年 3 月 30 日,pp. 172─175. 26)日本人の文化的価値を言語学から考察したも のに,以下のような考察がある.言語は確かに 人が自分の考えを他に伝えるときに用いるも のではあるが,同時に日本語,英語,中国語と いった独自の言語の構造や用法のなかには,あ る一定の,それぞれの文化にある価値観が埋め 込まれている.一例をあげれば,英語で人に挨 拶するときは,“How are you ?” と言う.日本 語 で は「こ ん に ち は」と 言 う.通常,英語 を 習う日本人の多くは「こんにちは」の英訳は “How are you ?” であるとして疑わないが,し かし, 「こんにちは」を文字どおりに訳したら, “ Today is ? ” である.つまり,英語における 挨拶は,相手に相手自身の状態を述べるように 勧めることであるのに対して,日本語における 挨拶は,相手とともに「今日」という共通の場 を作り上げようとする契機としてある.ここに ある差異は,挨拶に引き続く心理的プロセスを 方向づける.英語で挨拶を受けると自らの心 理状態に注意がいくが(たとえば “I am fine, thank you.”) ,日本語で挨拶を受けるとその場 の状態に注意がいく(たとえば, 「いいお天気 ですね」 )といった具合である.この方向づけ は,個人がそれを理解して自らの行動をかえ る,いわゆる「動機づけ」ではなく,むしろ文 化に内在的な意味構造である. (柏木恵子・北 山忍編者『文化心理学─理論と実証』東京大学 出版会 1997 年 11 月 14 日,p. 34) . 27)塩沢由典「重大で稀な不安に社会はどう対処 すべきか」 『 2010 年代世界の不安,日本の課題 1 本編』総合研究開発機構 2007 年 3 月 30 日 p. 396. 28)アナン事務総長が 2003 年,国連の役割の抜 本的な見直しを指示し, 「脅威・課題・改革に 関するハイレベル諮問委員会」 (Report of the High-level Panel on Threats, Challenges and.
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