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教師の実践的力量形成を支援する授業リフレクション研究 : その1 授業研究演習システムの開発 利用統計を見る

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教師の実践的力量形成を支援する

授業リフレクション研究

その1 授業研究演習システムの開発

A Study of a Self-Reflective Methods for Teachers, Part 1 : Development of an Analytic System of Reflective Teaching Methods

澤本和子

SAWAMOTOKazuko

(教育実践研究指導センター) 概要:本論考は、近年問題となっている教師の実践的力量形成を支援するため の、授業研究演習システムの開発研究について述べている。まず、近年の教師 教育や教育実践研究との関係を視野に入れた、教師の実践的力量形成研究を概 観する。ついで、こうした動向から、筆者の視点を明らかにする。すなわち、 教師の実践的力量形成は、実践過程の省察、精緻で誠実かつ的確な洞察により 可能であることを述べる。そのために必要なデータとして、現状ではビデオデー タが有効であることから、これを利用してふり返りを実施するためのッールと して、本システムを開発したことを述べる。 キーワード:実践的力量形成授業研究授業リフレクション研究ふり返り       データ ○はじめに  現職教員の実践的力量形成研究プロジェク ト(代表:澤本和子)は、1994年9月9日から 研究活動を開始し、「教師の実践的力量形成 を支援する授業リフレクション研究」をテー マとした。授業研究演習システムを利用する ため、その開発研究プロジェクト(代表:佐 藤i博)と共同研究を進めた。毎週1回程度の システムソフト開発研究会を、大学側のスタッ フ(佐藤博、並木信明、澤本和子)と業者: (株.)アシストA.S.S.T.パイオニアビデ オ.(株)で行い、その成果を月毎の本プロ ジェクトの研究会で検討した。1995年8月末 日にソフトを導入。その後、事例研究を含む 実践的検討を行い、1996年3月末に第一次の 開発を完了した。以下では、まず教師のリブ レクティブな授業研究方法の理論的背景、実 践的力量形成の視点を述べ、本システムの概 要を述べる。 1 教師の成長・発達研究と授業研究 1)教師の成長・発達論と実践的力量形成  教師の力量形成は今日深刻な問題となって いる。近年、その基底となるべき教師の成長・ 発達研究は、伝統的教育学のパラダイムの転 換あるいは教師モデルの転換と方法的革新に 向かいつつあるように見える。この節では、 まず最近の教師教育研究、発達科学、教育工 学、教育方法学の動向を概観し、教師の力量 形成観の転換と方法改革の方向を展望する。  はじめに教師教育研究の分野から概観する。 澤本和子(1993)1)は近年の教師教育と授

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業研究の動向を概観する。それによれば、佐 藤学(1990)2)や今津孝次郎(1992)3)は 教師モデルの転換を指摘する。たとえば佐藤 は、技術熟達者(Technical Expert)モデル から反省的実践家(Reflective Practitioner) モデルへの転換を提起し、reflective study が教師の実践的力量形成に資すると共に、そ の成長・発達を保障するとした。また今津は Stenhouse,Lらの’teacher as reseacher’モ デルと「教師の発達teacher development」 や「教師の専門性発達professional develo− pment」を紹介し、モデルの転換を1980年 前後とする。  次に教育心理学では、竹下由紀子(1992)4) がエスニックな手法まで含めて、先行研究の 整理と展望を行う。そこで教授学習過程研究 が教師を軽視してきたと指摘した上で、近年 の研究の進展を(1)授業に関連する教師の 意識研究(2)教師の学習者認知(3)教師の 動機・信念(4)教師の成長に整理する。  また日本教育工学会では、定量的分析手法 への反省から定性的研究への関心が高まりつ つある。これは上掲の分野と同様、英米の研 究に呼応する動向といえる。実践的力量形成 や授業研究関係の研究が活発化し、両者をク ロスさせて検討する試みもある。1995年の第 11回大会(十文字学園女子短期大学)課題研 究「教師教育システムの再検討」では、吉崎 静夫らの初任者の実践的力量形成研究をはじ め、生田孝至、西之園晴夫一後掲一、三橋功一 が提案し、研究方法、システムの検討・改革 について討議した。  伝統的な教師の発達モデルと力量形成観の 転換と研究方法の問題は、1996年3月の日本 教育工学会研究会(日本女子大学)シンポジュー ムでも討議された。「授業研究と教師教育の 方法論」のテーマで、浅田匡、生田孝至、澤 本和子、奈須正裕の4人が、内省記述、調査 用紙、マルチメディアシステム、対話的手法、 認知心理学的手法などを用いた内省的な研究 方法を提案し、現象学的アプローチも含めて 検討した。  教育方法学では平山満義(1992)5)が、 その学問的自立に向けて、実践界が切望する 「教育効果要因の特定とその検証という課題」 への対応を、統一的に整理すべき時期だと提 起する。さらにこれに応える意味でも、文献 中心の研究方法に実証的研究を導入する教育 方法学の再構築を展望する。期を同じくして、 文献研究でも再検討・再評価、パラダイムの 転換の動向が表れる。例えばドイッ教授学で は、渡邊光雄(1992)6)や阿部好策(1994)7) らが今日的視点から考究する。このように伝 統的教師モデルと力量形成観の転換と、研究 方法の革新は今日的テーマだといえる。  澤本和子(1996a)8)は、こうした学習 観の転換に伴う教師モデルと力量形成モデル を提案した。即ちレイブら(1994)9)の正 統的周辺参加’legitimate peripheral parti− cipation’による知的な実践共同体’commu− nity of practice’のリーダー、あるいは支援 者として授業を創造する教師、という発達モ デルを提起した。教師の実践的力量は実践上 の問題に取り組んで解決の展望と意義を見い だそうとする価値志向的な営みととらえる。 その際、実践場面を中心とする情報の収集・ 加工処理能力・文脈的思考力が、教師の意思 決定を左右することから、この方面の能力を 重視するとともに、学習者に働きかけるレト リカルな能力が必須だとする。この能力は人 間関係への透徹した眼差しや洞察力と共に、 科学・哲学に基づく複雑で微妙な技術で、大 学の学部レベルの教育で完結するものではな い。それは教師が生涯をかけて成長・発達す ることをとおして体得可能なものといえる。  2)教師の実践的力量形成と現職教育  1)から、従来の実践的力量形成観と現職 教育の方法の問題が理解できる。前述の佐藤 学(1990)は、現行の情報受容中心の教員研 修方法の改革を提起する。また、西之園晴夫

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(1995)10)は、Elliott(1993)1Dの(1)理念的・ 合理主義的見方(2)生産/消費システムー’ 社会一市場’的見方(3)解釈学的見方、を引 いて教師教育制度改革の動向を概観、展望す る。(1)は伝統的視点、(2)は行政的視点、 とし、(3)は実践科学としての可能性を持つ 方向として評価する。その理由は次の通りで ある12)。  教師教育改革理念を検討する国際会議が近 年多数開かれ、1974年以降日本も出席してい る。そこで、「教師の成長に応じた継続的な 生涯学習の視点からの教師教育の連続性をど う実現するか」が討議された。一方、近年の 科学哲学の立論は、論理実証主義による科学 的知識を疑い、解釈学を基盤とする実践科学 を主張するとして、日常的教育実践と連動し た研修システムを評価する。つまり認識者を 離れた客観的知識を科学とする伝統的論理実 証主義の克服を提起し、同時に「批判的 (critica1)あるいは、熟慮的(refユective) な立場から自らの認識や行動を検討する実践 科学」の構築と、そのための批判的action研 究の方法論が世界的に研究されていると述べ る13)。  具体的には、day release制度(週1日半あ るいは2日の勤務校外研修)、block release 制度(1−3ケ月の勤務校外研修)、sandwich re− leas制度(半年間毎の勤務校外研修を数年間 繰り返す)や、夜間大学による修士号の授与 (合衆国・カナダ)、公開大学Open Univers− ity(イギリス)、遠隔地教育(オーストラリア) による学位取得の現職教育を評価する。一方、 現行の新構想教育大学(鳴門など)のシステム の構造的欠陥を提起する。  これを1)の筆者の見解に加えれば、教師 の実践的力量形成は、文脈的思考や状況認知 を含む情報能力を視野に入れた実践的内省的 な研究を重視すべきかと考える。しかもこの 方法は教員の資質観の転換も展望する。すな わち、組織に依存的同調的でともすれば自己 を集団に同化させることを偏重してきた伝統 的教師モデルから、自立的批判的かつ共生・ 協調的教師モデルへの転換を志向する。  3)実践的力量形成とリフレクション研究  1)2)から、教師の実践的力量とその形成 を、次のようにとらえる。  1.教師の力量は教育実践に即して考えら れるべきものである。  2.実践的力量のうち、本研究では、意識 化し言語化し対象化できる実践場面に関わる 技術を抽出し・研究対象とする。  3.そこで実践場面に表れた技術から、暗 黙知・身体知など無意識的な知識から2に該 当するものを教師が意図的に使い分け行使す る技術として抽出し、データ化し検討する。  4.教師の意思決定の本質は文脈や状況に依 存するため、力量形成は授業改善を通して進 めることになる。このとき教師と学習者を中 心とする授業参加者の内面データを採取し、 授業の文脈に即して研究する。  5.従って、実践的力量形成を目指す授業 研究では、授業者がみずからの実践過程を内 省的に研究する方法を重視する。  上の視点は、井上裕光・藤岡完治(1995) の’気づきself−awareness’の形成を支援す る「カード構造化法」14)、吉崎静夫(1995) のビデオ再生法15)、稲垣忠彦(1986)の 「授業カンファレンス」16)にも含まれる。ま た澤本・お茶の水国語教育研究会(1996)17) は、教育実践家=研究者のための内省的授業 研究方法、授業リフレクション研究を提起す る。小田迫夫(1996)は、この方法は内省と 熟考を重視する実践的力量形成として、野地 潤家の評価を得た「近代国語教育史における 内省派の伝統」の歴史を継承・発展したもの、 と評価する18)。  授業リフレクション研究では、実践過程で の学習者と指導者の内面過程を映し出す手が かりとなるデータを採取し、これを授業者あ るいは学習者が内省的に検討する。人は自分

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の姿を鏡で見るが、教師や学習者はデータを 鏡的に利用し手がかりにしてふり返る。これ がリフレクション研究の出発点である。  「授業リフレクション研究」は、ビデオ記 録や内省記述、各種の調査資料などを用い、 授業主体が自らふり返ることを、研究方法の 出発点とする。従来の自己内省データ採取方 法では主観性と妥当性が問題にされた。本研 究ではビデオデータを利用した授業リフレク ション研究の妥当性を高めるために、その支 援システム=授業研究演習システムを開発し た。その際、使用するリフレクションの語義、 とくにふり返る主体としての自己(ego,ich,1) とふり返る対象となる自己(self,mich,me)や、 ふり返りについては、澤本和子(1994a)19) に述べた。この見解は、野村一夫(1994)20) や押見輝男(1992)21)を参照した。 2 教師の力量形成を支援する授業研究演習 システムの開発 1)授業reflection研究と本システムの開発  従来現職教員の授業研究では、経験的手法 や記述的手法による分析、あるいはビデオや カセットテープによる記録を使った。しかし、 データ採取の方法や分析方法の妥当性が問題 となることが多かった。そこで、今日多用さ れるビデオデータに対象を絞り、データの作 成方法から分析・考察の方法を開発する研究 を進めた。そして、この研究にとりくむ教師 を支援するマルチィメディアシステムを開発 した。それがこのシステムである。  1993年度、本教育実践研究指導センターで は授業リフレクション研究を進める教師を支 援するツールとして授業研究演習システムを 構想し、概算要求書の提出を希望した。関係 各位の協力を受け、幸い希望が実現した。そ して1994年、ソフト開発と並行して、reflect− iveな研究方法の開発を行った。  ところで、前掲の小田のほか、澤本和子 (1994b)22)も、日本の国語科教師のself−ref一 lectionの伝統に触れ、芦田恵之助の教師の 成長・発達論を考究した。self−reflectionへ の主観性、妥当性をめぐる批判は多い。これ に対して、澤本和子(1996b)23)はセルフ リフレクションに加えて、「集団的」「対話的」 リフレクションを経てセルフリフレクション に収束するself−reflective method を表1 の手法で提案する。  人は自分の姿を見ることができないので、 self−reflectionでは、授業中の教師や子ども の姿を映し出すふり返りの装置がいる。これ が授業データである。授業データにはビデオ 映像の記録をはじめ、教師の指導記録、子ど ものノートや感想文などがあり、これを手が かりに授業分析を行う。表1は研究の順序を 示すものではない。たとえば、「3原因の検 討」は、「2.問題らしきものの意識化」に続 くこともあれば、「4.仮説的問題発見」や 「5.仮説設定」に続くこともあり、他の機会 にも実施する。対話的・集団的リフレクショ ンは3−(6)、11などで実施するが、授業実施 者自身が自分の授業評価・実践場面の解釈な どをある程度意識できる場合と、そうでない 場合など、条件に応じて導入する時期と対話 や討議の方法上の配慮がいる。  これまでの結果から、宗我部義則(1996)24) の指摘のとおり、リフレクションに際して、 デ…一一タの重要性が問題となる。これは研究の 精度を高める上で、必須のことといえる。指 導者の指導効果の是非を問うためだけでなく、 学習者の認知・情意過程をたどり、教材の質 を学習者との関わりで判断し、授業の文脈を 理解するなど、reflection=ふり返りの中軸 となる作業に関係する。そこで、2)のシス テム開発を進めることとした。 2)教師のself−reflectionを支援する授業研究 演習システム  本システム開発の意図は澤本和子(1996c)25) に詳述したので概略を述べる。今日ビデオカ メラは全国の小中学校に普及したが、録画し

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たデータの利用については、研究方法やそれ を利用した教師の実践的力量形成の研究方法 ,⊥+」三γ市」÷be ln v’7”・一 」一・・ は不長誰ユごイし人∨ふノよいO  ビデオ記録を利用した授業研究方法はすで にいくつか提案されている26)ので、この成 果に学びつつ、研究精度を高めた教師の自立 的研究方法の確立を目指す。そこでこのため のツールとして授業研究演習システムを構想 し、山梨大学教育学部附属教育実践研究指導 センターに導入し、開発を進めた。本システ ムを利用すると、文字データ中心の研究方法 に比べ、より精度の高いマルチデータを利用 した実践研究が可能となる。(図2) 3 授業研究演習システムの概要 1)システム(ハードウエア)の構成  1度だけ書込みができる追記型VDRとパ ソコンがセットになった単体の研究システム は、神戸大学の浅田匡助教授が開発した。そ の後のハードウエアの進化を受け、本研究で は書換型VDRを用い、研究用のほか教育用 も含むネットワーク環境での利用を考慮し、 新たなソフト開発によるシステムを構築した。  授業研究演習システムの概要は、システム 構成概念図一図1のとおりで、学生用ユニッ

ト(パイオニア製書換型VDRとNetware

で結んだWindowsパソコンCannon Innov−

a)6、教師用ユニット(VDR2台、モニ

タ2台、VHS・8mm対応VTR2台)1、こ

れをネットワークで結んだサーバ、およびプ ロジェクタ・音響装置一式の4部分から構成 される。サーバにはレーザープリンタとカラー プリンタを接続。学生用ユニットには1ユニッ トで8人のヘッドホンシステムが付いている。 2)システム(ソフトウエア)の構成  開発したソフトは2種類ある。  (1)授業研究演習ソフト  (2)ディスク編集システム    A.素材編集機能  B.同期編集機能  (2)のAは教室で録画した2本のビデオ記

表1 授業リフレクションの方法

1. 2. 自己の授業実践へのこだわり、納得し ていないことの意識化 1についての反省→問題らしきものの 意識化 3.原因の検討 (1)カリキュラム、教材  (2)教師の指導方法 (3)子ども自身のなんらかの問題  (4)直接的教育環境;施設・設備等  (5澗接的教育環境;社会・文化・歴史的背   景等 (6)その他; ①授業記録授業資料の検討1: (a)ビデオ記録・発話プロトコル分析 (b)児童の記録(ノートなど)の分析 (c)教師資料の分析など ②第三者の授業に関する情報収集:   参観者・観察者などの意見聴取 ③先行研究・先行実践事例の参照検討 4.仮説的問題発見 5.問題の課題化一仮説設定 6.仮説に基づく研究計画の立案・設計 7.6に基づく実験授業のための教材研究、   立案計画 8.7の実験授業実施 9.8の記録作成.自省記録作成;”事中反省   reflection in action”に留意 10.9の分析・考察 11.10の第三者との協同的・批判的検討と    対話的考察 12.以下、析出した課題による5∼11のス   パイラルな展開・発展

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[「㏄

rモニタ

iOVDR・一一)nFコピー iOPC−VDRコントロ・一ル

ゾ ブ͡’

[!口

[=]㌔∈≡む 図1 システム構成概念図 録を同期再生、あるいは1枚のディスクに編 集するソフトである。これを利用して、複数 のビデオデータを同期再生視聴しながら、リ フレクション研究ができる。レーザーディス クの特性を生かし、瞬時にアクセスができ、 問題画面での停止、スローモーション再生、 リピート再生など自在に操作できる。現在多 用しているのは、複数台のカメラで撮影した 異視点のデータを同期再生して、教師の教授 行動と学習者の学習行動を対比的に検討した り、問題場面を100箇所まで自由に指定して 抽出し、ビデオプリンタに出力するなどして 利用している。またこのソフトを利用して、 VDRのもつ高度で多様な機能を生かした教 材作成もできる。Bは教師用ユニットのディ スクを学生用ユニット6台にフレーム精度0 (1フレーム=30分の1秒)で同時記録するソ フトである。 3)本システムを利用した開発事例  図2はデータ採取・作成からリフレクショ ン研究までの手順で、(1)∼(4)になる。 (1)データ採取  (2)ディスク編集 (3)データ作成入力  (4)データ分析  事中反省=reflection in action、事後反 省=reflection on action/reflection after actionは、佐藤学の見解27)を取り入れた。   (1)では研究視点を明確化し、必要なデー タを採取する。例えば一斉指導形態では、最 低2台のカメラで撮影し、教師と子どもの映 像と音声を後で同時に確認可能にしておく。 音声の採取は、2台のカメラのうち1台のカ メラのステレオ入力の左右に、教師のワイア レスマイクと、スタンドに立てたマイクから 採取した音声を別々に録音した。この方法で は選択した音声で複数の映像を同時に自由に 視聴できる。   (2)では採取した記録をレーザーディス クに録画する。(3)では発話プロトコルを まず作成レ図3、次に映像プロトコルを作成 する一図3。(4)(3)をもとに、データ分析 を行う。分析記述カードに入力して、カテゴ リ分析もできる。このとき、編集や頭出し、 再生視聴も、Windowsパソコン上でクリッ クして、30分の1秒ごとに指定した箇所=ア ドレスを呼出し、適当に早さを変えて視聴で きるので、ふり返りが円滑に進められる。  これまで本システムを利用して得た成果の 一部を以下に掲げる。  a.教師のほめことばに対する子どもの反 応に関する研究:澤本和子「教師のほめこと ばの検討一マルチデータ処理による教育実践 研究の提案」日本国語教育学会『月刊国語 教育研究』第289号.1996年5月.pp.48−55.  b学生のシミュレーション授業によるメ タ認知的学習方法の研究:佐藤博・澤本和子 「教師教育のためのself reflective method の開発」日本教師教育学会年報第5号.1996年. pp.129−139.  c.教師の学習者認知をめぐるreflectionを

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用いた授業研究:浅川栄司・小林進・志村香 代子・他「教師の実践的力量形成を支援する 授業リフレクション研究一その2 集団リフ レクションによる単元学習事例研究」後掲. pp.13∼21 4 成果、課題と展望 1)成果  授業研究演習システムは、生涯発達視点か ら教師の発達をとらえ、授業を中心とする実 践的力量形成のためのシミュレーション思考 とリフレクション用のツールである。ビデオ 記録を文字、音声、映像の授業データとして マルチに処理して、データベースが作成でき る。これを利用して、実践過程と実施後の指 導者・学習者の認知・情意過程を考察する。  これまでの事例研究から、共通的な成果も 出始めた。たとえば、学生の模擬授業では指 導者がメタ認知的に指導過程をふり返る作業 が、本人には辛いが認識を深める契機となる 授業研究潰習システム

 …

     ↓ Oデータ作成、入力 t)発話フロトコル 2)映像フ0トコル      ↓ Oデー・一タ解析 1)分析記述入力 2)カテゴIJ 一化による  授業分析 授業の一次的データ ・8㎜ビデオ記録 ・カセットテーブ記録 ・Tの記録(日諺等) ・Cの記録(ノート等) ・観察者の記録 ’参観者の意見など re丘ec垣on @ after @ac垣on reflrction  in  action      みガ ,/痴

M一巫k

 \ ,._../     lC司→C: 実践上の問題発見・再翻価 問題の課題化、仮殻設定 諜題解決的アプローチによる研究の展開 (問題解決的アブローチによる研究の展開) ”aseH−refl8Ctive−methed” 図2 授業リフレクション研究の概念図 ?ドしス 匝]圧ココ::=:==:=:==国 r9. Ht1T”rlF 溌言者 IOOOOI l E璽]Eコ 実時伺、フし一ム 夏]8:49:5| 8:50:20G 今朝はね、吉井君が最初 相子をなんて 言われたけどとても最初から最後まで集 中して話を聞きました.これ{ユ.もう耳 ばかりじ・Pなくて目で:舌を聞いている人 の姿で丁ね.あと、付け加えで一つ3舌そ うと思ったんだけど ▲ 唾亘:コー−11a7日a P カード属性 1?4 7 000000000 ヲロホ − ト ロ{巴人表示 実  窃手  艮G    CP蚤…言者 コ

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08:49:40∼08:49;d7 08:d9:46∼08:49:48 08:49:4日∼08:49.51 00001 1コね、自 で待っていて たさい. れ OO t 12あ’ぶないtj. 00112おい.石をさ… tl iL.    1: t  1   11脚     ・ 、    , . 2’  : 08:50:18∼08:50:21 06:50:22∼08:50;35 e6:SO:33∼08:50:53 0θ:50:53∼08:50:5d O8:50:5d・一一〇S:51:01 08:51:01−−08:5t:04 OOI12あt;{9.,SvSyS㌔ OOOO 1ああそうだそうだ、思い出した.今ね.朝 OO[m|じpあわかりましたと言って、見たんだけ 00112よかったね. 00001ええ、名前をきちんとものに書巷ましょう 00001しょう君も早速名罰を書いてくれると思い 「7「汀 「「「τコロここから「K:.1 sε線CH〔コ 亘}囚:工[===E ピードOz一稲齪〔≡] ・・デ・ス匝〔E フレム表示

図3 カードエディタ画面

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点である。とくにデータ処理結果が明示され、 省察の根拠が明確になる。また、授業者のリ フレクションに立ち会い、集団あるいは対話 リフレクションに参加した観察者や学習者役 を演じた者は、指導過程における教師の学習 者認知の実態をメタ認知的にたどる作業が意 義深いこと、教師の意思決定に学習者からとっ た学習過程の情報が決定的な影響を与える点、 教師が瞬時(30分の1秒間)にとらえる学習 者情報に力量の差が表れると同時に、そこに 限界がある点などが実感を伴って理解された こと、リフレクション過程の省察に立会う授 業者以外の教員の研究意欲をも喚起すること などがあげられる。このように、実践家(研 究者)との協同研究を通して、教師たちは研 究体験が学習体験ともなるプロセスを内省的 に理解し、これを契機にしてこれまでの自分 の教育実践を見直す視点を学んだと述べる。 実践家である教師たちは、多数の経験的知識 や教訓的知識をもつが、それを学習者・自分 の働きかけ・教材との関係で、データを利用 しながら明確化し熟考する機会は限られてい る。それゆえ、このように大学の研究者と現 職教員が協同的に研究を進めることの意義が あるといえる。 2)課題と展望  課題の第1は、パソコン初心者の多い現状 に対応する環境整備の問題がある。当初に比 べ大幅に改善したが、ユーザーのリテラシー を高めるのに数日程度の研修を要する点や、 専門家のサポートがいる点が問題である。  第2に、現職教員や学生が利用するとき、 スタンドアローン用ソフトの開発があげられ る。これを使えば遠隔地の教員と協力して研 究を進められるので、事例の蓄積が容易にな る。  第3に、本システム開発の目的の他にも、 当初予想した以上に多様な可能性が考えられ る点である。たとえば、アニメーション作成 を含むビデオ教材作成、ビデオ編集などが従 来の編集機に比べて格段の差で容易な点など である。最後に、DVDの開発をにらむソフ ト開発も考慮中である。  これまではソフト開発とユーザーの利用環 境整備を開発の中心とせざるを得なかった。 関係各位の協力を得て今日に至り、ようやく 授業リフレクション研究中心に進める環境も 整った。今後は事例を蓄積し、方法の妥当性 を高め、初任・中堅・ベテランの比較、教科 の比較なども考えたい。また、県や甲府市の 教育委員会とのパイプを生かし、現職教員研 修プログラムに利用する方向も検討したい。          補注 1)澤本和子(1993)「教師教育研究の成果を 国語科授業研究に照射する」山梨大学教育学 部紀要第7号.1993年. 2)佐藤学(1990)「現職教育の様式を見直す」 柴田義松他編著『教育実践の研究』図書文化、 1990年,pp.238∼240 3)今津孝次郎「教師専門職化論の新段階」日 本教師教育学会年報創刊号、日本教育新聞社 1992年pp.58∼59 p.66,69 4)竹下由紀子(1992)「展望 教師の心理一 最近の研究の動向一」教育心理学研究第31巻 1992年. 5)平山満義(1992)「[認知媒介的]教師効果 研究パラダイムによる授業研究法」日本教育 方法学会、教育方法学研究、 第18巻1993年 pp.75−76 6)渡邊光雄(1992)「W.クラフキの[二面開 示]に基づく教育事象の解釈」同上 pp.1−9 7)阿部好策(1994)「ドイツ教授学のパラダ イム転換一授業とコミュニケーションの理論 を追って一」同上第20巻1995年pp.31−41 8)澤本和子(1996a)『学びをひらくレトリッ クー学習環境としての教師』金子書房.1996年 9)レイブ、ウェンガー(1994)『状況に埋め 込まれた学習 正統的周辺参加』Lave,J., &Wenger, E.,佐伯絆訳 産業図書 1994年

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10)西之園晴夫(1995)「教師教育パラダイ ムの違いと現職教育制度」日本教育日本工学 会第11回大会課題研究発表 JET,Nov.3・−4 1995年.pp.55−56. 11)ELLIOTT,John’Reconstructing Teacher Education’1993,The Falmer Press.10)に よる。 12)10)に同じ。p.56 13)10)に同じ。p.56 14)井上裕光・藤岡完治(1995)「教師教育の ための『私的』言語を用いた授業分析法の開 発一カード構造化法とその適用」日本教育工 学会:日本教育工学雑誌.Vol.18, No.3/4. 1995年3月 15)吉崎静夫(1995)「授業における子ども の内面過程の把握」水越敏行監修、梶田叡一 編著『授業研究の新しい展望』明治図書 16)稲垣忠彦(1986)『授業を変えるために一 授業カンファレンスのすすめ』国土社.1986年 17)澤本和子・お茶の水国語教育研究会(1996) 『わかる・楽しい説明文授業の創造一授業リフ レクション研究のススメ』東洋館出版.1996年 18)小田迫夫(1996)「展望:授業リフレク ション研究への提言2国語科説明文指導の 視点から」前掲書17)p.178 19)澤本和子(1994a)「子どものく振り返り〉、 教師のく振り返り〉」『教育フォーラム第15 号く振り返り〉自己評価の生かし方』金子書

房1994年12月

20)野村一夫(1994>『リフレクションー社会 学的な感受性へ』文化書房博文社1994年 pp.38−39 21)押見輝男(1992)『自分を見つめる自分一 自己フォーカスの社会心理学』サイエンス社. 1992年 22)澤本和子(1994b)「教師の成長・発達 と学力形成一芦田恵之助の自我主義的学力形 成論の考究」山梨大学教育学部紀要第9号 1994年 pp.214−240 23)澤本和子(1996b)「第皿章授業リフレ クション研究の方法」前掲書17)pp.141−162 24)宗我部義則(1996)「授業リフレクショ ンとデータの問題」前掲書17)pp.171−172 25)澤本和子(1996c)「教師のほめことばの 検討一マルチデータ処理による教育実践研究 の提案」日本国語教育学会『月刊国語教育研 究第289号』1996年5月 pp.48−55 26)藤岡完治(1995)「授業者の『私的言語』 による授業分析v−一カード構造化法の適用」及 び吉崎静夫(1995)「授業における子どもの 内面過程の把握と授業改善」、水越敏行監修・ 梶田叡一編『授業研究の新しい展望』明治図 書、稲垣忠彦(1986)一前掲書16)一、藤岡信勝 (1991)『ストップモーション方式による授 業研究の方法』学事出版がある。 27)佐藤学(1993)「教師の省察と見識=教 職専門性の基礎」日本教師教育学会年報第2号 日本教育新聞社 1993年.pp20∼35         〈付記〉 本研究は科学研究費補助金基盤研究(c)「教 師の発達を支える授業リフレクション研究方 法の開発」課題研究番号07680226による。

参照

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