現地調査 -- 地上と上空へ (途上国研究の最前線 第5回)

全文

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現地調査 -- 地上と上空へ (途上国研究の最前線

第5回)

著者

ケオラ スックニラン

権利

Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア

経済研究所 / Institute of Developing

Economies, Japan External Trade Organization

(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp

雑誌名

アジ研ワールド・トレンド

248

ページ

47-48

発行年

2016-05

出版者

日本貿易振興機構アジア経済研究所

URL

http://hdl.handle.net/2344/00002955

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連載

ケオラ・スックニラン

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アジ研ワールド・トレンド No.248(2016. 6)

第 5 回

現地調査―地上と上空へ―

  発展途上国経済の研究者が、しばしば直面す る問題は、必要なデータが入手できないことで あろう。非公開データはあるが、多くはそもそ も整備されていない場合である。データは、元 をたどれば対面、非対面調査によって得られた 記録である。都市国家でなければ、全国民、ま たは全世帯を対面で聞き取りをするには、長い 距離を移動する必要がある。非対面でも、書類 など記録媒体を長い距離運ばなければならない ことには変わりがない。輸送コストが存在する 限 り、 地 上 を 移 動 し な が ら の デ ー タ の 整 備 は、 多くの時間と多額の費用が避けられない。輸送 技術が現在に比べ、飛躍的に進歩しないかぎり、 発展途上国では、地上で整備されるデータが充 実されることは考えにくい。   しかしながら、研究に必要なデータの整備に は、聞き取り以外の方法は存在する。研究対象 と言語によるコミュニケーションができないこ とが多い自然科学では、データは通常観測、観 察、または物理的な計測で整備される。自然科 学者がモノ、自然現象や動物に聞き取りをする 選択肢はないが、社会科学者、経済学者が観測 などでデータを整備することは可能である。観 測の利点は、より広い範囲を網羅できる点であ る。視点が観察対象から離れれば離れるほど視 野が広くなる原理を利用し、広い地域の調査を 網羅する航空写真や人工衛星画像が、その例で ある。とはいえ、地上、すなわち近いところで の聞き取りのように知りたい情報を直接的に得 られないのが、欠点である。近年、地上と上空 から整備されたデータを、補完的に利用する動 きが、経済学でもみられ始めた。本稿の目的は これを紹介することである。 ●リモートセンシング   本稿は近年地上で整備されるデータを補うた めに、利用が拡大している航空写真や人工衛星 画像などを中心に紹介する。これはリモートセ ンシングとも呼ばれる技術である。リモートセ ンシングとは、対象物に接触することなく、離 れ た 場 所 か ら 観 測 す る こ と を い う。 現 在 で は、 おもに衛星に搭載されたセンサーによって、光 (電磁波) 、音波、気体分子の情報を集めること を指す。参考文献③によると、一八五八年に写 真家であるナダールが、気球からパリ(フラン ス)の写真を撮影して以降、リモートセンシン グは土木や軍事における重要な調査ツールとな った。一九五〇年代までは、航空撮影がリモー ト セ ン シ ン グ の お も な 方 法 で あ っ た が、 一九六〇年代に入ると、より広い範囲を効率的 に 撮 影 で き る 衛 星 写 真 に 変 化 す る( 参 考 文 献 ③ )。 冷 戦 下、 衛 星 写 真 は 軍 事 的 に 活 用 さ れ た 一方、地球科学などを中心に民間における利用 も発達した。 ●現地調査:地上と上空へ   人文社会科学においては、リモートセンシン グ デ ー タ が 広 く 利 用 さ れ る に は 至 ら な か っ た。 そうなるためには、越えなければならない二つ の壁が存在するからである。第一は、少人数の 研究が一般である人文社会科学者にとって、高 価なリモートセンシングデータを購入すること が難しいという、費用の壁である。第二に、こ れらのデータは、人文社会科学を想定して集め られていないため、そのままの形では利用が難 しいうえ、処理・変換には専門的な知識が必要 であるという、技術の壁である。ところが、こ れらの壁が近年急速に低下している。日本では、 47_48_途上国研究の最前線_第5回.indd 47 2016/04/28 11:05

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衛星測位によって正確な位置情報が、だれでも 安 定 的 に 取 得 で き る 環 境 の 構 築 な ど を 目 的 に、 「 地 理 空 間 情 報 活 用 推 進 基 本 法 」 が、 二 〇 〇 七 年 に 公 布 さ れ た( 参 考 文 献 ① )。 国 外 で は、 二〇〇八年ごろから、アメリカを中心に、公共 機関が収集した衛星画像の無償公開化が急速に 進展する。これにより、たとえば世界規模の分 析なら、以前は入手に数億米ドルを必要とした データが、数十万円で整備できるIT機器とイ ンターネットに接続するブロードバンドの環境 があれば、だれでも無償で入手できるようにな った。一方、技術面では、衛星写真の画像デー タを土地被覆データなどに一次加工した大規模 データの整備と公開も着実に進展した。パーソ ナル・コンピュータの性能が向上する一方で価 格が大きく低下したことで、大量のデータを保 存、処理する環境整備コストも大幅に低下した。 小規模の研究予算でも、リモートセンシングデ ータを利用する環境が整ったといえる。   現地調査で得られるデータと人工衛星などか ら得られるデータには、それぞれ長所と短所が 存在する。現地調査では、質の高いデータが得 ら れ や す い 一 方、 収 集 費 用 と 時 間 コ ス ト か ら、 頻度および網羅率が低くなる傾向がある。現地 調査では、頻度と網羅率は多くの場合、代替的 な関係にある。聞き取り調査であれば、どのよ うな内容の情報も入手し得るが、同じ場所で行 う頻度を高くすれば、通常は網羅率が低くなる。 反対に国勢調査など網羅率が高い調査は、数年 に 一 度 し か 行 わ れ な い 頻 度 の 低 い も の に な る。 これに対し、リモートセンシングは、直接的に 得られる情報は、事前に搭載されるセンサーが 収集可能なデータに限られるが、はるかに広範 囲を高頻度で網羅することができる。具体的に はたとえば、土地被覆データが生成されるMO DISであれば、全世界を一~二日で約一回以 上網羅する。しかし人工衛星から得られる情報、 光の反射などのデータは、そのままでは人文社 会 科 学 に と っ て、 分 析 に 使 え る と は い え な い。 要約をすれば聞き取り調査は質問次第でどんな 情報も入手しうる質の高い情報である一方で低 頻度、低網羅率であり、リモートセンシングは 「 浅 い 」 情 報 で あ る 一 方 で 高 頻 度、 高 網 羅 率 で あることから、この二つの情報は補完的な関係 にあるともいえる。すなわち、地上と上空から 得られるデータは補完的な関係にある。   実際、これまでのリモートセンシングデータ の人文社会科学における利用も、現地調査で得 られたデータを時間、または空間的に補完する ものであった。いくつかの例を紹介したい。参 考文献②は早い段階で、衛星から観測できる夜 間光と地上における経済活動の高い相関関係を 指摘していた。その後、観測された人工夜間光 を使い、電力使用量、地域総生産、経済の成長 率などを推計する研究がみられた(参考文献④ と ④ の 参 考 文 献 )。 し か し、 夜 間 光 以 外 に も、 経済活動に関係すると思われるリモートセンシ ングデータは多く存在する。たとえば、筆者が 農業部門の推計に一部利用したMODISの土 地 被 覆 デ ー タ が あ る( 参 考 文 献 ⑤ )。 M O D I Sの土地被覆データは解像度が高く(約五〇〇 m × 五 〇 〇 m )、 森、 耕 地、 市 街 地、 水 な ど 一六もの土地被覆に分類されている。地上で整 備された断片的なデータと組み合わせれば、人 口、 土 地 利 用、 C O 2 排 出 量 な ど 今 後、 七 〇 年 代 前 後 か ら 保 存 さ れ て い る 人 工 衛 星 画 像 か ら、 整備が期待できる高解像度、高頻度経済・社会 データはたくさん存在する。地上と上空から収 集 で き る デ ー タ が 補 完 的 に 利 用 さ れ る 流 れ が、 データが未整備な発展途上国研究の新たな潮流 のひとつといえよう。 ( Keola Souknilanh / ア ジ ア 経 済 研 究 所   経 済 地理研究グループ) 《参考文献》 ① 柴崎亮介・村山祐司『社会基盤・環境のため のGIS』朝倉書店。 ② C ro ft, T ho m as A ., “N ig ht -tim e Im ag es o f th e E ar th fr om S pa ce , ” Sc ien tifi c A m er ica n 239 ( 1 ) : 1978, 86–97. ( http://ngdc.noaa.gov/ eog/pubs/Croft_SRI_1979.pdf   二 〇 一 三 年 三月アクセス) . ③ Hall, Ola, “Remote Sensing in Social Science R es ea rc h, ” O pe n R em ote S en sin g Jo ur na l 3 , 20 10 . ( htt p:/ /d x.d oi.o rg /1 0.2 17 4/ 18 75 41 39 01 003010001 ) ④ H en de rs on , J . V er no n, A da m S to re yg ar d an d D av id N . W eil , “ M ea su rin g E co no m ic G ro w th fr om O ut er S pa ce , ” A m er ic an Economic Review 202 ( 2 ) : 2012, 994–1028. ⑤ K eo la, So uk nil an h, M ag nu s A nd er ss on a nd O la H a ll , “M o n it o ri n g E c o n o m ic D ev elo pm en t f ro m S pa ce : U sin g N ig htt im e L ig ht a nd L an d C ov er D at a to M ea su re E co no m ic G ro w th , ” W or ld D ev elo pm en t 6 6: 2015, 322-334. 47_48_途上国研究の最前線_第5回.indd 48 2016/04/28 11:05

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参照

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