Title
サツマイモ ―総合的有害生物管理の可能性を探る―
Author(s)
Mason, Linda J.; 守屋, 成一(訳)
Citation
沖縄農業, 31(1): 97-105
Issue Date
1996-08
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12001/1360
サツマイモ-総合的有害生物管理の可能性を探る1-
LindaJMASON,翻訳守屋成一 (PurdueUniv.,USA,沖縄県農業試験場) LindaJMAsoN:SweetPotato‐AStrongCaseforlntegratedPestManagement. サツマイモは世界の主要作物の1つである(FAO 1984).自家消費用の主食作目として重要な地位を占め ている地域もあるが,先進国では澱粉・アルコールの 工業的生産,および加工用原材料として利用されてい る.サツマイモの生産性は投入技術水準の高低に大き く左右される(JanssonandRamanl991).米国や 日本のような高技術水準下では,目覚ましい生産量が 得られるのに対し,技術水準が低ければ,生産量は自家 消費程度,あるいはそれを下回ることもあり,全体の生 産性がマイナスになることもある. サツマイモの生産は世界共通の様々な要因によって 制約を受けている(JanssonandRamanl991).害 虫,線虫,病気および野鼠による圃場および収穫後の被 害;貯蔵方法・経費,および貯蔵中の損失;加工生産 品目の不足;輸送の問題;流通経費の高騰;供給と価 格の不安定性;旱魅,土壌養分,洪水,および士質など の環境要因;優良品種・種苗の不足等々があげられ よう(Hortonl989,HortonandEwelll99LLinet aL1985).これらの内,生産性に最も影響を与えるの は,収穫後の制約要因である(Hortonl989,Hortona ndEwelll991).例えば,貯蔵中には,害虫,病気,お よび野鼠の問題が重要であり,市場では,適正価格で供 給することが最大の関心事である.そして,消費者に 対しては,食味と加工性に優れた品種の欠如と加工製 品の品目の少なさが需要の拡大を阻んでいる.- 方,圃場における最大の生産阻害要因は害虫による収 量減であり,病気,環境要因,線虫,抵抗性品種の使用, 菌類,バクテリアによる減収がそれに次いでいる(Hor tonl989,HortonandEwelll991).化学薬剤はこれ ら有害生物を防除するため長らく使用されてきた(Sut herlandl986).化学的防除は卓効を示すものの,発展 途上国では経費的に引き合わない. 不幸にして,総合的有害生物管理(IPM)システム の利用がこれまで顧みられなかったのは,何よりもIPM の手法,たとえば優良新品種や生物的防除素材などが 欠落していたからである.さらに,世界的に見てもサ ツマイモのIPM研究のために使われる資金はわずかし かなかった(GregoryetaL1990TAC1985).この ため,サツマイモの有害生物対策はもっぱら耕種的防 除法に頼ってきており,害虫防除の場合,それが特に顕 著である.幸い,先進諸国では,研究の進展に伴ってサ ツマイモを加害する昆虫,ハダニ類,線虫および病原菌 の生理生態に関する情報が蓄積され,IPM概念の確立 とその実施に向けた機運が高まりつつある.さらには, 他の作物で培われた管理方策がサツマイモの栽培法に も取り込まれてきている. 米国や他の数カ国では,少数ではあるが,熱心な篤農 家と研究者が連携してサツマイモの病害虫管理方策の 改善を図っている.サツマイモの生産に最も影響を及 ぼす要因の1つがアリモドキゾウムシ類(CyJasspp) とイモゾウムシ(Euscepespos加scmtus(Fairmaire)) による加害である.成虫は植物全体を食害するのに対 し,幼虫は茎や塊根の内部で発育する(Vasquesand Gapasinl980,JanssonetaL1990a).アリモドキゾ ウムシは通常物陰に潜んでいることが多く,茎や塊根 IPurdueAgriculturalResearchProgramManuscript Nol5139・ SummaryoflectureseriesgivenNovember,1995’ 1995年度外国農業専門家招聰事業講演記録Mason,守屋翻訳:サツマイモー総合的有害生物管理の可能性を探る- 98 内にいる個体の約80-90%は土中に分布する.このため, 個体数推定などのために行うサンプリングは時間と労 力のかかる困難な仕事となる.JanssonandMcSorley (1990)は,サツマイモ全体を層別化し,茎葉の繁茂面 上下15cmから10cmの範囲に該当する部分のみを分解調 査することでアリモドキゾウムシ個体群の全数を推定 する回帰式を導いた.この関係式, y=0148--1137正(r2=0928) により,全体の加害程度の予測が可能となり,サンプリ ングに要する時間がかなり軽減された.しかしながら, 手間のかかる分解調査は依然として必要であり,しか もゾウムシは圃場内でランダムに分布しているわけで はない(JanssonandMcSorleyl990).ゾウムシが 集中分布していると,サツマイモへの加害を検出する ために必要なサンプル数は膨大になってしまい,個体 群密度が低ければ検出することすら困難になってしま う.そこで,これとは別のサンプリング手法が必要と なる. フェロモンとはある生物個体から体外に分泌され, 同種の他個体によって受け取られ,その個体に特異な 反応を起こす情報化学物質である(Nordlundl981). 配偶相手を誘引する性フェロモンはその種特異性と驚 異的な反応性により,IPMを実行する際の極めて有力 な手段となる.アリモドキゾウムシの性フェロモンを 利用したサンプリングは個体群密度が低い場合でも, 効率的かつ実行可能な手段であることが明らかにされ ている.かねてよりフェロモン利用による害虫の発生 予察と防除の重要性を主張してきたところであるが, この方法は先進国,発展途上国を問わず,いかなる管理 方策へも容易に取り込むことが出来る.アリモドキゾ ウムシのフェロモンは,既知フェロモン中,その効果が 最も強力なものの1つであり,すでに数カ国で合成さ れている(CoffeltetaL1978,HeathetaL1991). 合成フェロモンが入手可能となって,初めてフェロモ ンの使用が経済的にも現実味を帯びてくることになる. フェロモントラップによるアリモドキゾウムシの発 生予察方法はシステム分析の手法を取り入れて発展し てきた(第1図).このフェロモントラップシステムに は主要な構成要素が4つある:1)フェロモン,2)ト ラップの形状,3)ゾウムシ自身(行動,化学生理,お よび個体群生態学),および4)環境要因(フェロモ ンの拡散様式,蒸散率,およびゾウムシの行動に影響を 及ぼす風向風速,降雨,気温などの気象条件,および圃 場の[植栽]履歴).フェロモンの薬量,純度,安定性, 製造元,製剤と担体のタイプ,および担体からの蒸散率 によって捕獲個体数は劇的に変化することがある.- フェロモントラップシステム アリモドキゾウムシ 量 一元 分間囲理度造 成期範管純製
榊醐鋤鵬‐11トー」
形状 設置高度 風速 風向 温度 降水量 圃場植栽歴 野生雌成虫 の存在 雄成虫日齢 ・交尾回数 日周活動性 既交尾・未交尾 空間分布 個体数.密度 第1図アリモドキゾウムシ雄成虫捕獲数に影響を及ぼすフェロモントラップモニタリングシステム構成要素 (ModifiedfromJanssonetaL1991a;reprintedwithpermissionfromWestviewPress`Inc、CoIorado)ニポ
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19876S432100000000000 0 ■ ̄●● ■ ̄●● の ̄■らc B 決鴎四壊睡 C D・・・・:. E●●●  ̄●。 ■=11g1iiii簔篝L1饗
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第2図フェロモン源風下側の異なる距離から放飼されたアリモドキゾウムシ標識雄成虫の異なる合成性フェロ モン量を誘引源とする漏斗型トラップへの40時間後の再捕獲率(ModifiedfromMasonetaL1990;permission fromJ、Chem、Ecol.[PIenumPubIishingCorp.,NewYork]). 股に,アリモドキゾウムシのトラップ捕獲個体数はフェ ロモン量に比例して増加し,大半のゾウムシはトラッ プ設置当曰の夜か設置後数日以内の夜間に捕獲される ことが多い(第2図)(HammondetaL1989,Janss onetaLl990b,1992b,1993,MasonetaLl990)。 しかしながら,フェロモン量に対する反応は個体群 密度の影響を受ける.高密度個体群では薬量に比例し て捕獲されるが,個体群密度が低いかあまり高くない 地域では,捕獲個体数とフェロモン量との間に正の相 関関係は認められない(Janssonetall992b).した がって,個体群密度の高い地域においては薬量がより 重要になってくる.モニタリングは低密度の個体群に 対して通常行われるので,その際の薬量は地域に関係 なく10肥程度で十分であろう.もし,フェロモンをモ ニタリングではなくて防除の手段として用いるのなら, 100αgや1mgのような多量のフェロモンが必要になる かもしれない(MasonandJanssonl990).フェロモ ントラップの有効範囲も薬量の多少と関係があり(第 2図)(MasonetaL1990,SugimotoetaL1994), 薬量l0lug、l似9,100,9,および10,9の場合,再捕獲 率が10%となる放飼地点からの距離は,それぞれ280, 120,75,および5mであった.したがって,風下側のあ る地点でみると,薬量の増加にともなって再捕獲率は 上昇する. フェロモンを用いてアリモドキゾウムシのモニタリ ングをする場合,雄成虫に対するフェロモン担体の有 効期間は,その成否を決定する重要な事項である (JanssonetaL1990b,Masonetall990).もし担 体が適当な間隔で交換されなかったり,フェロモンが 担体から一定の割合で蒸散しなかったりすれば,トラッ プ捕獲個体数データの解釈が困難になる.幸い,アリ モドキゾウムシフェロモンは,塩化メチレンを溶媒と してゴムセプタムに吸着させると比較的安定で,雄成 虫に対する誘引効果が少なくとも30-64日間持続される (第3図)(MasonetaL1990,JanssonetaL1990b, Yasudaetall992). フェロモン純度は合成方法の違いによって変動する ことがある.個体群密度が低い地域では,純度が重要 な要因であるのに対し,中~高密度地域では純度に変 動があっても構わないようであった(JanssonetaL 1992a).もしフェロモンを植物検疫や移動規制実施の ために用いるのなら,高純度(99%)の製品を使う必 要がある.フェロモンの品質管理は,フェロモントラッ プを用いたモニタリングシステムの信頼性を高めるた めの中心課題である.製造元が異なってもフェロモン 自体に差異がないことは確かめられているが,誘引力Mason,守屋翻訳:サツマイモー総合的有害生物管理の可能性を探る- 100 80 60 0 4 決闘際曝陣 20 0 020406080100 筋引源からの風下側距離(、) 第3図フェロモン源(10似,)風下側の異なる距離から放飼されたアリモドキゾウムシ標識雄成虫に対する調 製日の異なるフェロモンを誘引源とする漏斗型トラップへの40時間後の再捕獲率(ModifiedfromMasonetaL 1990;reprintedwithpermissionfromJ、ChemEcoI.[PIenumPubIishingCorp.`NewYork]). に変化がないことを保証するためには,使用中のフェ ロモンを標準品と比較しておくべきであろう(Jansson etaL1992a). フェロモントラップを用いたモニタリングにおける 第2のポイントはトラップの構造である.トラップへ のゾウムシの接近,進入,捕獲後の逃亡などの行動様式 は変化に富む可能性があり,それがトラップの形状決 定に影響を及ぼすかも知れない,さらには,雄成虫の 飛び立ち傾向や飛翔行動が,トラップ設置場所の選定 に影響を与えると同時に適切なトラップ形状の決定に も関与する場合がある.米国では,トラップ間の差異 を調査する場合には,その地域個体群の密度によって 結果が異なることが示されている.中~高密度地域で は,トラップの形状は非常に重要で,プラスチック製の 漏斗型トラップの誘引力が最も高かった(Janssonet aL1992b).一方,低密度地域ではトラップ形状に由来 する差異はさほど明らかではなかった.漏斗型トラッ プと蛾類用に開発されたバケツ型トラップは,他のト ラップに比べ捕獲個体の逃亡が最も少なかった(Jansson etal1992b). 他の昆虫では交尾相手やフェロモンとの接触を事前 に経験すると,トラップによる捕獲に影響の出ること が知られている.幸いにも,アリモドキゾウムシ雄成 虫がフェロモンとの接触を経験していても,トラップ 75 50 訳鶴鴎曝陣 25 0 20406080100 騰引源からの風下側距離(、) 第4図フェロモン源(10Ll9の合成フェロモンを誘引源とする3基のトラップ)風下側の異なる距離から標識放飼 されたフェロモンとの接触経験のあるアリモドキゾウムシ雄成虫(フェロモントラップ捕獲個体)と室内飼育雄成 虫に対する漏斗型トラップへの40時間後の再捕獲率(ModifiedfromJanssonetaL1991a;reprintedwithpermission fromWestviewPress,Inc,Colorado).
100 BO 0 0 6 4 沢鮒際躍陣 20 0 0 10 2030 騰引源からの風下側距離(、) 40 50 第5図フェロモン源(10且gの合成フェロモンを誘引源とする3基のトラップ)風下側の異なる距離から標識 放飼されたアリモドキゾウムシ末交尾雄および1,3、および6日齢で交尾した雄の7日齢における放飼16時 間後の再捕獲率(ModifiedfromJanssonetaL1991a;reprintedwithpermissionfromWestviewPress,Inc、 CoIorado). の捕獲数が減少することはない(第4図)(Masonet aL1990).しかしながら,雄成虫はその交尾履歴によっ て,トラップへの反応が明らかに左右され,交尾後の経 過時間が短いほど,トラップに捕獲されにくくなる (第5図)(JanssonetaL1991a).サツマイモの植え 付け時期もトラップの捕獲数に影響を及ぼし,収穫間 近の圃場より植え付け後間もない圃場でより多くの雄 成虫が捕獲される(第6図)(Janssonetall991a). フェロモンを利用した害虫防除はよく知られており (KydonieusandBerozal982),交信攪乱が-番普遍 的な方法である.この基本原理は,もし生息地の空気 を性フェロモンで飽和してしまえば,雌を発見して交 尾に至る雄の数が減少し,その結果,個体群内の既交尾 雌の割合も減少する,というものである.既交尾雌が 少なくなれば,それだけ次世代の害虫個体群密度が低 下することになる.米国で,サツマイモ圃場の空気を 合成フェロモンで満たしたと考えられる場合には(フェ ロモンl00lugを含浸した12個の担体を25m間隔で設置), 1,9の合成フェロモンを誘引源とするトラップ(野外 でコーリング中の雌成虫に相当)への雄成虫の捕獲数 は著しく減少した(第7図)(MasonandJansson l990).同様の結果は台湾のサツマイモ圃場でも得られ 択鴎閏壊睡 000O B6420 ヨサ刃 刀 第6図植栽履歴の異なるサツマイモ圃場におけるフェロモン源(10且8の合成フェロモンを誘引源とする3基 のトラップ)風下側の異なる距離から標識放飼されたアリモドキゾウムシ雄成虫の放飼16時間後の再捕獲率 (ModifiedfromJassoneta1.1991a;reprintedwithpermissionfromWestviewPress,Inc、CoIorado).
Mason,守屋翻訳:サツマイモー総合的有害生物管理の可能性を探る- 102 500 400 C C O O 3 2 m家、一へ類騨耀恩汁 100 07 /28 g/1 10/6 11/10 12/15 高薬量(100」し(8)合成性フェロモンによるアリモドキゾウムシ雄成虫交信撹乱の実例.フェロモン処 と無処理区における1,9合成性フェロモンを誘引源とするトラップへの雄成虫平均捕獲個体数(1N,薬剤 日;CF,寒冷前線通過)(ModifiedfromJanssonetaL1991;reprintedwithpermissionfromWestview 第7図高薬量(100ILJ 理区と無処理区にお| 散布日;CF,寒冷前鼎 Press,lncColorado) ている(TalekarandLeel989). フェロモンを用いたもう一つの防除方法は,大量誘 殺である(BirchandHaynesl982).貯蔵中のイモヘ の加害防止を目的とした大量誘殺の効果が検証された 事例はまだないが,大量誘殺を適用できる可能性は十 分にある.フェロモントラップは比較的短期間のうち に驚くほど多数の雄成虫を捕獲し(211,322匹/4夜/ 20トラップ,最大薬量100/ug;40,000匹/1夜/1トラッ プ,薬量1mg;JanssonetaL1991a),しかも捕獲個 体数はフェロモン量とともに増加することが知られて いる.そこで,もし個体群から十分な数の雄成虫が取 り除かれれば,雌成虫の交尾機会は減少するに違いな い. 生物的防除は総合的害虫管理の一手段であると同時 に低投入型農業にも適した防除手段である.Steiner-nematidae科とHeterorhabditidae科の昆虫病原性線虫 を利用したアリモドキゾウムシ防除の可能性を示した 研究がこれまでに数多くある(Janssonetall990c, 199lb,MannionandJanssonl992a,1992b).Hetero-rhabditidae科線虫は最も殺虫性が高く(Mannion andJanssonl992a),Steinernematidae科線虫より 土壌中での移動能力に優れている(Mannionand Janssonl992b). アリモドキゾウムシの飛翔能力が低く寄主植物の範 囲が限られること,そして寄主植物への食入方法が特 異であることなどを考慮すると,総合的害虫管理の一 環として,耕種的防除法にも十分な成功の余地がある. 輪作,マルチ’圃場内清掃,収穫残置の処分,健全苗の 植付,および野生寄主植物の除去が薬剤防除フェロモ ンの利用,および生物的防除とともに協調的に実行さ れれば,IPMは大きな力を発揮することになる.IPM は複雑なものではなく,また,多様な栽培条件下でも容 易に適用可能なものである.しかしながら,成功の鍵 は地域の生産者全員が地域全体を対象とするIPM計画 ●●●● にもれなく参加することにある.仮に1人でも脱落者 が出たり,あるいは圃場内の清掃が不十分であっただ けでも,アリモドキゾウムシの防除は振り出しに戻る ことになる. 謝辞 訪日に際し,ご援助いただいた沖縄県農業試験場と 沖縄県農林水産部に対し感謝の意を表する.
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