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随意運動の発達に関する神経心理学的基礎 : A. R. LURIAの局部脳損傷患者に対するケース研究からの覚え書き(中)

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(1)Title. 随意運動の発達に関する神経心理学的基礎 : A. R. LURIAの局部脳損傷 患者に対するケース研究からの覚え書き(中). Author(s). 藤井, 力夫. Citation. 北海道教育大学紀要. 第一部. C, 教育科学編, 31(2): 105-121. Issue Date. 1981-03. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/4835. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) . 随意運動の発達に関する神経心理学的基礎 -- A.R.LURIA の局部脳損傷患者に対するケー ス研 究からの覚え書き (中). 藤. 井. 目. (上). 力. 夫. 次 m. コトバと叙述( 2 ) 神経力動. は じめ に. 1. 神経心理学 1 1 . 脳の基本機能ユニット. シンタグマ関係の叙述 Pat i [ ent or . ,M. 1 1 1 . 定位反射の神経機序 I V . 因子分析と再教育プログラム. (中). 再教育プログラム 外的定位 (シンタグマ関係) 言語 Vm . リ ズム と同期. V. 知覚と行為 Kohsのブロック課業. パーキンソン病患者 リズム運動の同期. Pat i ent . ,L. 前運動野病変患者の場合. 再教育プログラム. 言語の調節的役割. 外的定位 (デコーディング) 行為. 発生的研究. 前頭部病変患者との差異. (下). VI 1 ) . コトバと叙述( 言語学批判. I X . 論議 二重の意味で制限された存在. バラディ グマ関係の叙述. 意志の自由と客観的必然の制限. Pat i ent . ,Zas. 外的定位行為 (言語) の存在と役割. 再教育プログラム. 形成実験と発達研究への課題. 外的定位 (バラディ グマ関係) 言語. 文 献. V. 知覚と行為 《Kohsの ブロ ック課業》 具体的・実践的思考のうち構成活動は最も基本的な形式といってよい だろう. 他の知的活動と同様, 構成活動とりわけ生産的なそれには, 諸条件に対する予備的な定位・ 分析はじめ, 解決のための一般的プランの形成ならびに必要な操作の発見, さらには遂行結果と当 初の企図との照合が含まれている。 では, こうした構成活動はいかなる脳機構のもと で実現され, 皮質レベルの各種因子はどのよう な役割をはたしているのか. 旧来のように 《構成失行》 として脳の限局した部位にのみ求めないと 105.

(3) . 藤. 井. 力. 夫. したらどのように理解できるのか. また損傷を受けた場合, 各ケースに応じ, 再教育 プロ グラムは いかに設定すべきか. この問題に答えるべく, Luria は, L.S.Tsvetkova の 協 力 の も と 1960 年 は じめ か ら 68年にかけ て, 《Kohsの ブロ ッ ク課業》 (Fi g .8)を中心にいくつかの課業を各種脳損傷患者に実施した(〔9〕 , * ブ K h 》 ロ ク課業 K の に対する頭頂-後頭 以下 3 〕 ) 課業である《 〕 〔 2 4 〕 〔 2 〕 〔 7 o s 〔 15 7 e ッ y , , , . , 領病変患者の遂行様相に焦点をあてまとめてみたい.. ;‘ ず. Fig.8. rke sの階段再生》 課業が利用された. 前者は, 互いに隣 ※ 他に代表的なものとして 《Ruppの図形再生》 や 《Ye 一 被験者は図形を つずつ描くのではなく 再生課題で り合った六角形の連環図形の , 直線の幾何学的相互関係を描 , ない かなければなら .. t tL》 《Pa 1 e n. 1年左頭頂‐後頭 4 1歳 女性 1 9 6. 領矢状平行面の腫蕩(髄膜腫) , 除去手術. 典型的な頭. 頂-後頭下部症候 (空間定位障害, 計算と論理・文法 的操作困難, 意味失語症)* .. 圏. “. こ の 課 業 で問 わ れる 随意性 は 直 接知 覚の た んな る 再. b. 生ではない 黒い大きな三角 ・直接知覚したパターン(. 形)《a》を内的に二つの要素にデコーディ ン グ《c→ b》 し, かつ一方には底辺が左, 頂点が右に, 他方はその 逆, と そ れ ぞ れ の 向 き に 定 位 し つ つ ブ ロ ッ ク を 調 節 し. 14 α 1. 四. 賦. F ig.9. なければならない。 患者は, 前頭部病変患者とは違って能動的に図形を構成しようとする** . が, 直接的な印象 (二 つの白い小三角形と大きな一つの三角 形) に抑制され, 混乱してしまう. 明らかに患者は課業遂行 に必要な ブロ ッ クの数を知 っており, 一つの大きな三角 形を構成しようとするのだが混乱してしま 》 う. たとえば, Fi g .9のうち《a , 《b》のような直接知覚の再生課業(位置のみ) では共通して容易 に構成する. が,《 ,《d》のような向きをも った図形に対しては困難を示した. 患者は自分のつく っ たものをバターンと比較しその誤りに気づくのだが, 直接的な 《印象単位》 を 《構成単位》 に・変換 できず, 訂正 できない. i ※ Lur .左頭頂-後頭領病変患者の計算障害の特徴としてつぎのような例をあげる. ①10 aによれば, までの数なら指を支えになんとか計算できるが, 2桁の数で繰り上がりや繰り下がりを要するものは著 しい困難を呈する. 加算でも右のように垂直的に提示すると, 1十 7 + 2 + 5 =15 , ない し1+ 5 = 6, 出す が, 残 りの 1を 7+ 2= 9, 計 69 . ある い は 減 算 で, 31- 7 の場 合, 30- 7 =23 ま でなん とか 引 き. どうすべきか(右か左か)わからないでいる. ②文章題では, 《オーリャは4つのリン ゴを, カーチャは. 1 7 十 2. 5. 3つ の リ ン ゴを持 っ て い た. 2 人 でいく つ 持 っ て い たか》と い っ た問 題 では 可 能 だ が, 《オー リ ャ は 4つ の リ ン ゴを. 106.

(4) . 随意運動の発達に関する神経心理学的基礎( 2 ) 持 っ て おり, カ ー チ ャ は 2つ 多く リン ゴを も っ て い た 2 人 でいく つ 持 っ て い た か》 とい っ た タイ プ の 問 題 と なる .. と理解不能であった. 患者は相互関係を理解しようと積極的に試み続けるが, 困難であった(〔 1 5 〕 ) 1 58一16 4 , , pp . i ※※ Lur a は, 前 頭 葉病 変 患者の遂行様相をつぎのように特徴づける 《彼らの構成活動の欠陥はプログラミング , , の全般的障害にある. 彼らの場合, 問題に対する予備的定位が深く障害されており, 患者はプログラムできず 当 , 初のプランの必然的解決がみられない, 行為は直接的印象ないし反響的な偶然の試行といった性格で なされた結 , 果が当初の企図と一致しなくとも, なされた誤りに気づかず修正されない ただし行動のプロ グラムを患者に提示 . し, 行為の順序を組織すれば, かなりの効果を発揮する》( 〔9〕 p ) 1 07 . .. 《再教育 プログラム》 つ, い か に か,. それゆぇ, 患者が保持する課業への定 位力と 《印象単位》 に働きかけっ. 《構成単位》 へと変換させるか. そのための外的補助手段はどのように組織されるべき. Fig ia らはこの課業に対, 10 は, モ デ ル第 1 列 に 対 す る 患 者 の 再 生 結 果(1 ~ 6)で, Lur しつぎの .. ような再教育プロ グラムを設定 した(〔 24 〕 pp 146-1 48 ) . .. ≧‘ Fi t「 r s OV V 5. 2 Second r ow. Fig.10. 1. モ デ ルの 1列 目 を 見 な さ い. 2. そ の 下 の 2列 目 を か く し な さ い.. 3. 1列目の横線図形を指しなさい. 4. こ の 図 形 を描 い て み な さ い. 5. こ の 図 形 が 二 つ の 三角 形 か ら な る こ と に 注 意 し な さ い.. 6. 二つの三角形で横線図形 (第1列) をつくりなさい. 7. そ の 際, つ ぎの よ う に 直角 の 向 き. に注意しなさい・. .. D o w n w a 磐 ↓ 4 ↓ -Tot he Cen t e r. ou d一 twar - ---. . ↑ d r -a. T. 8. 2列目も同じ要領でつくりなさい.. 107.

(5) . 藤. 井. 力. 夫. Lur i 《外的定位(デコーディ ング)行為》 aによれば, この再教育 プロ グラムによって, 患者は 順次デコーディ ン グ能力を回復し, やがて外的支えをとっ ても無声で反復しプロ グラム的に遂行で ia は つ ぎの よ う に い う 《我々 は 患 者 に 三角 形 の き た と いう. と り わ け ス テ ッ プ 7 が 重 要 で, Lur , .. 直角の空間的位置の分析から必要な三角形の配置をどのように発見させうるか. これがポイ ントで あった. 再教育の目的は特別な欠損に適した言語 プロ グラムの創出にあるのではなく, 回復しつつ ある活動をいかに内化できるか, その条件を保障することにある. この場合, 角の方向に正しく定 位する方法を発見することは, 図形の再生を容易にするのみならず, 構成の最も重要なポイントと なっている. 患者はこのポイントを獲得したら, 突然これに続くいくつかのステッ プを省略できる l ようになり, 再教育の終りには必要な手順 (プロ グラム) を強く固定した. まさに, P i n r pe .1 .Ga が提起したように, 活動は徐々に最も単純で最も具体的な実行レベ ルを経てはじめて高度に言語的 レベ ルへの転化が可能となるのであった. 患者は外的補助手段なしに精神的に問題解決 できないで いるのである》 (〔 〕p ) 24 148 . . 《前頭部病変患者との差異》. これ. えをとれば元にもどってしまう. 比較 的 良 い 場 合 でも, 暗 唱 し た プ ロ グラ ム の 外 言 化 をや め さ せ れ ば 混 乱 し て し ま. 〔 〔 d 1 i i t Ma e 12 u x mumamp 0“v 1 em d B k lIProb r U n o a c g 2 酬間▼キー 岬 -- ・ー一』 7. い, プ ロ グラ ム は 自 動 化 でき な か っ た と いう(〔9〕, 〔 24〕).. ー ー 一 量 ニ ニ W = 触感耀二. 頭頂-後頭領病変患者の場合, 向き のデコーディ ン グ方法を教えれば, 無 声でもプロ グラムを自動化できたこと. には言語行為が参画し, これが視覚的 空間的条件への定位とプロ グラミン グ に密接に関与していることを暗示して い る*.. ※ これを傍証する資料として 眺8年の , A, N, Soko l i ovの研究がある(F 11 ) g , , soko l ovは視覚的課業を提示しつつ, 内言 の存在の指標となる発声器官の 微細な動 きを同時記録した. 被験者は必要なはめこ み図を選び出すために, 図形の諸条件 (集 中線・放散線, 方向, 太さ等) に予備的に 定位す る とともに デコーディ ン グしなけ ればなら な い.. 108. ’. -〔 i l imUmamp t Max ud e - em k r ob B r oundI1P a c g. 〔一 0柊v ・2. 紳噌一 --蜘も翌 慧 *附*-闘一 一輪- ;-. MW…蝋MWMM帖m~胤W闘V 仙胤仙胤噺掴蹴蝋仙胴断仙~仙鵬蝋w…w肌L 夕v Fig.1I Ravenの マ トリ ッ ク ス課 業 時に お け る下唇 運動 の 筋電図;1)課業開始から 解決ま でを示 す. 2)下唇か ら の筋電図, 3)右手か らの筋電図(マ トリ ッ クスの 空白部分 に該当する要素 を選んだら, 被験者にエン ピツ で指すよう に求め た),4)時間間隔,0.25sec.(From, A. N.Sokolov;. 2 .214 P ). lnnerspeech andthought ,197 ,P ,P1enm ress.

(6) . 随意運動の発達に関する神経心理学的基礎{ ) 2. ) VI 1 . コ ト バ と 叙 述(. 《言語学批判》 言語行為は, 思考活動の典型としてその行為自体に, 現実の諸条件への内的な 動機や プランが先行し, それを遂行しつつフィ ー ドバッ クしさらに調節しつつ先に進むという過程 を含んでいる. 構成活動が具体的・実践的な思考とすれば, 言語活動は間接的で抽象的なそれで, これにより人間ははるかに深く現実を反映する可能性を得たのであった. では, 言語の産出過程はいかなるメカニズムで, 言語活動にはいかなる脳機構が参画しているの か, 《外言から内言へ》 , 《第2次信号系》として論じられてきた古くて新しい問題. この問題に答え i i i t るか の ごとく, Lura は, 死の2年前 1975 年, 《神 経 言 語 学 Neurol ngui s cs》と い う ま っ た く 独 自 な領域を開拓した. これは, 彼自身のそれまでの脳損傷患者に対する神経心理学的研究を言語行為 の側面から総括することを目的として用意されたものだが, 注目すべきは, F ,deSaussureか ら N. Chomskyに至る言語の産出過程への言語学的理解に批判的検討を試み, これとの関連 で 《失言症 状》 を再検討している 点である (〔 〕 )* 41 . i 以下ここでは, 言語学批判からの Lu r a なりの結論, すなわち 《バラディ グマ関係とシンタ グマ * * 関係の統一としての文生成》 に焦点をあて, 言語行為の産出過程と再教育 プロ グラ ムのポイント 1 ) 《意味失語》 として理解されてきたものと,( 2 ) 《超皮質運動性 をまとめてみたい. ただし, 従来,{ 失語》 として理解されてきた症状とメカニ ズムに関する Luria の 整 理 に 限 定 す る. i ※ 1974年, Lur a は 《現代言語学における科学的見通しと哲学的終煮》 と題する論文を 《CONGNITION》 に投 i 稿 している. Lur a は N. Chomsky の 《生成文法》 における 《深層構造》( 《表層構造》 に対する) と 《言語能力 Compe formance》 に対する) の概念をとりあげ つぎのように批判する t ence》 (《言 語運 用 per ,. , 《N.Chomskyのいうように <深層構造〉 は生来的な く言語獲得装置〉 の産物ではない. 対象世界への能動的反 映であり, 主体と外界との能動的関係の産物である;精神それ自体にではなく, 能動的主体と実在との関係にその tence〉もさ ま ざま なコミ ュ ニ ケー シ ョ ンに よ る 長 い ドラ マ 源 泉を求め ね ば な らな い, そ れゆ え, 〈言 語能 力 Compe. f ティックなく言語運用pe r rmance 〉の産物として研究されるべきである, 現代言語学における文生成の研究は高 o 度に精密であるにかかわらず, その哲学的貧困により終蔦へと導くであろう. く深層構造〉 なり く言語能力> 自体, その生成の起源をもっており, 注意深い発生的観点を要請しているのである》( ) 3 〔 3 9 〕 pp 82一3 8 .3 . i ※※ Lu aは言う. 《展開的な言語表現の予備的シェマは必要な語薬ユニットの選択を基礎としている;すなわ r i i ち, 〈バラディ グマティックpa t rad c〉 な関係 (階層的な意味体系からの語の分離) と くシィ ンタグマティッ gma l bag か ら bag ク> な関係 (た とえば schoo ‐ awnからdawnを分離するように, 統辞的な諸語 ,ない しcamethe d の関係) の両者の統一としてなされている》(〔 〕p ) 41 7 .3 ,. 《バラディ グマ関係の叙述》. Lur i aによれば, 通常《意味失語症》として理解されてきた左頭頂- 後頭領損傷患者の失語症状は, バラディ グマ関係*の叙述障害でありその典型として整理される , 《これらの患者はコトバの調 音的レベ ルではなく, 言語コー ドの高次な意味レベルへの変換に障 害がある. それはつ ぎの事情による. 第1. 患者の皮 質の病理状態により 興奮の均等化をきたし , , これにより語の選択過程が冒され一種の健忘失語の症状を呈する 同時に 語選択にあたり同じカ , . テ ゴリー .関係にある類似の語と混乱し(錯語) , これが語義のバラディ グマティ ックな連合を障害 させる. 第2. のみならず, 語の意味体系をバラディ グマティックに結合できないがために 患者 , は, 入来する言語情報を同時的な準空間的シェ マに変換できなくなる く父の弟> く弟の父〉といっ , . た〈対置〉関係はこの欠陥を知 るよい手掛りで, これらの患者はまったくこれを利用 できない》(〔 4 1 〕 ). P .141 109.

(7) . 藤. 井 力. 夫. i i h R t t e c v es e e c l p p R i i t t 「a e o n。 -ご i fwo s d e r e so s r. i i raw。 d Rq舵t t o n。 r. N d b t a n n j e c s go. 、 / ハ.、. ′ /1\ ?. 十 i l i i fawh R s t e s o n x o ee r o n o e区t p ,. s 2. /\. /\. NP-- ‐W. ‐W - --NP-. . / \ … .. NP. /\ - -VP -- .NP‐. ?. Fig.12 意 味失語症患者にお ける文生成障害の シェ マ ※. ,. i im(代名 詞・ バラ ディ グマ parad i s→ h gma 開 係 と は, 外 国文 法 で《語形変 化 表》のこ と で, たと え ば, he - h. i i t(類義語) 格変化) r a r e-i s(動詞・人称変化)など. その他, 意義的対立, good gh , good , am -a ,f ,r , bad tな どもこ の関 係に 含 (反義 語),parent r s=father十mother(上 下 概 念), 形容 詞 の 比較, young , younge , younges. i まれる. Lur aはこれを階層的な論理・文法的意味体系の関係として把握した.. i t 《Pa 》 2 3歳, 男, 機械学研究所研究生, 1942年第2次世界大戦中, 左頭頂-後頭領 ent s . ,Za に弾丸損傷. 長く重度の失行・失認を呈したが, 徐々に回復. 典型的な意味失語症状を残す. 患者は単語を理解し, 《犬がほえる》 , 《少年が犬をたたいている》 といった簡単な 《内容の叙述》 も可能で, シンタ グマ関係も理解 できる. が, 《関係の叙述》は困難で, 属性的関係ないし空間的比 較関係が理解 できず, とくに 《対置的》 関係 ではまったく不能であっ た. たとえば, 患者は 《家の 土台》 と か 《一切れのパン》 では比較的容易 であったが, 《父の弟》 , 《弟の父》 といっ た論理・文法 的関係 では, 何回反復しても困難であった: 《父 の 弟... 弟 の 父... こ こ に 父 が い て, あ そ こ に 父 がい る. こ こ に 弟 が い て, あ そ こ に 弟 が い る... わ か ら な い》 . 同 様 の こ と は, 《三角 形 は 円 の 下 に. ある》 というた同時的・空間的関係でもみられた: 《三角形は円の下...〉ここに三角形があり, 円 が あ る... 円 の 下, 下 ”. 下”. わ か ら な い... な ん だ っ け》 .. では, こう した患者の場合, 言語理解における閉じた内的操作, バラディ i グマ関係はどのように回復させられるのか. そのためにいかなる外的補助 手段が有効なのか.Lu r a l プ b グラ ぎのような らは, 前置詞《above 》 《 》をめ ぐる関係の叙述の回復を目的として ロ つ e o w , , 《再教育 プログラム》. ム を 設 定 した (〔24〕 pp .150一153).. 110.

(8) . . 随意運動の発達に関する神経心理学的基礎( 2 ). Schema. Abov e. seのnd p t a 「. Schema no , 2. no , I. -. = on. = Unde r. Bdow -. l. H ・ 11. L ◎ .. Fig。13. (再教育プロ グラム a ) 1, (絵が患者の前に置かれる) . 絵をよく見て, 二つの部分に分けなさい. low) を 読 み な さ い 2. 各 部 の名 前 (above ,be . 3. 《above》 にある物の名前 (シャンデリア) を言いなさい. .. 4. そ れ は 《 l 》 にあるか, それとも 《be above ow》 に あ る か, 言 い な さ い 5. 第 二部 を 見 て, 《above》 にかわる前置詞を言いなさい. .. 6。 《above》 を 使 っ て 文 を 作 り な さ い . low》 で文を作りなさい 7. 《above》 に か わ っ て, 《be. . 8。 同じく前置詞 《above 》 を使って文を作りなさい。 9. その文に対応する絵の関係を指さしなさ .い, low》 にある物の名前 (テー ブル) を言いなさい 10 。 第 二 部, 《be . ・ 11 . そ れは どこ に 位 置 す る か, 正 し い 文 で言 い な さ い.. l 12 ow》 を使って正しく言い換えなさい。 . 前置詞 《be b l 13 《 》 e o w にかわ って, 前置詞 《above》 を使って文を作り′なさい. . 1 4 . その文に対応する絵の関係を指さしなさい. 111.

(9) . 藤. 井. 力. 夫. ) (再教育 プロ グラムb 1. 絵を二つの部分 に分けなさい. 高い方と低い方に. l be ow》 の ラ ベ ル を 貼 り な さ い. 2. そ れ ぞ れ の 部 分 に, 《above》 と 《 3. それぞれ対応する前 置詞を書きなさい. 4. これらの前置詞 を使っ て文を作りなさい. まず, シャンデリアを主語に正しい文を作り なさ い.. 5. その文に対応する絵の関係を指さしなさい. 》 を使って同じようにしなさい. 6. 前置詞 《above. 《外的定位 (バ ラディ グマ関係) 言語》. 患者はシャンデリアやテー ブルといった対象の命名に. は錯語しない. それぞれ個別には定位・命名 でき, かつシンタ グマティ ッ クに叙述しようとする. が, 空間的関係の論理・文法的理解 で混乱, バラディ グマ関係の 叙述が困難となる. それゆえ, 関 係構造の理解の回復のために, 患者のもつ定位能力を基礎にいかなる外的支えを提供するかが重要 と なる.. >で, 絵を支えに この再教育 プロ グラム では, 患者の対象命名能力を基礎に, まず プロ グラム〈a l 》 《 ow》で表現で 空間が上下二つに分けられるということ, 対象の空間的関係が前置詞《above , be きるとともに, 相互変換できるということ. これらの学習・形成に力 点がおかれた. そして一定に 回復した段階で, さらに自動化させるべく プロ グラム 〈b〉 が用意された. low》 にあ b〉 への移行には, なによりも主語となる対象が 《above》 に あ る か, 《be 〈a〉 から 〈 るか定位できること であった. 対象への定位的基礎は保持されているので, それが上下いずれにあ るか定位できれば, 《どの上 (下) にあるか》はさほど困難なこと ではない. 外的支えは順次省略さ れ, 絵の支えだけで, 患者は空間的なバラディ グマ関係の叙述を回復させていっ た* . f f d i to t 》と《 》 《 rom》 など他の関係も同様の要領でなされた. owa r n》 と 《ou ,《. 2 ) I I V . コ ト バ と 叙 述( lov の《神 i a が利用したもう一つの観 熟ま, 1 .P.Pav 失語症の再検討に あたり Lur 経力動の病理》であった. すなわち, 《力の法則》をはじめとする神経力動は, 各種脳病変によりど のように変化させられるか* . こ の 問 題 に 関 し, 1967 年, E.N.Sokolov らとの共同研究で , 言語記憶や再生 で最も 基本となる i aはつ ぎのように 整理する. 側頭-頭頂領の病変 をとりあげ, Lur 《この病変の主たる症候は, 様式特異的で, 口頭で提示された音素 系列ないし語系列の把持・再 生障害である. が, たんなる聴覚的痕跡の弱さと して説明することはできない. 神経力動の病理的 変化として考 えられるべきで, この場合, 因子は2種 類であろう. 第1因子は外抑制(活動前後の) の病理的増大で, 抑制作用の加 重の結果, 患者は要素間の結合を ブロッ クしてしまい, 痕跡の規則. 《神経力動》. 的.連 続 的 再 生 が 困 難 と な っ て し ま う (ex.house-nigth に 対 し, 患 者 は night…no). 第 2 因 子 は, 《興奮の均等化》 で, 興 奮の力 動 的 範囲 が制限され, 優勢な痕跡を選択的に 再生することが不能と 112.

(10) . 随意運動の発達に関する神経心理学的基礎( 2 ). なる. 《錯語的》 再 生 は こ の 種 の 典 型 であ る (ex. window に 対 し, glass )》 (〔 17〕 .1). ,p ※ 《力の法則》 とは, 正常な皮質では強いないし重要な刺激では強 い反応を誘発し, 弱い刺激には弱い反応で誘発する. が, 病理的状態 では, 強い・重要な刺激にかかわらず弱いそれと同じ強さの反応をし たr )(均等相) , 弱い刺激に対し強いそれより強い反応(逆説相)を誘 i 発 したり して しまう. Lur a に よ れば, こ の 《力の法則》 の破壊は言 語野の局所病変と結合したものとして整理され, 他の病変とくに《超 皮質運動失語》など前方部病変の場合は, 他の神経力動的変化, すな わち 《正常な神経的可塑性の損失》 ないし 《病理的不活発》 で説明さ れる. たとえば,《保続症》は後者の例で, 興奮の残効によるマトリッ クスの可塑性障害と して, 皮 質下神経 節病 変の 場 合, 反復現 象 i i t t ) ( e ra on , 高次皮質病変では複雑なプロ グラム操作の病理的不活 3 ) 発へと拡大される, と理解する ( 〔 36 〕 pp 7-39 . . なお,Fig 14は, こ う した 整理 の 基礎 と な っ た 1947 年段 階 での 各種 .. 病変患者( 8 00例)における音素のヒヤリング障害の発生割合で, 患者 t t t ” t t ” d-t“ は, t , b-p, s-z のよう な一 組の 対 立 的音素 を聴 き わけ る こ と が でき ず, ”ba-p定 に 対 し”pa-p定 ない し“ba-b定 と 復唱 して. しまう, これに対し, 《聴覚-言語記憶》障害(主として左半球聴覚皮 質2次領病変) の場合は, 音素ヒヤリングの障害は軽度だが, 3ない f hous し4 音 素 (bu‐rをmi na ‐ u ‐po) ま た は 3 ~ 4 の 語 系列( e- , ko‐. ,Fig.14. i i ight-cat-oak-br dge ) に は 困 難 をき た す と して, wood-cha r ,n. 1 〕 1 〕 3 2 〕 ) これら両面から調査した (〔 5 7 3 7 〕pp 1 36一1 37 . ,〔 ,〔 ,〔 .. 《シンタグマ関係の叙述》. では, 古典的に 《超皮質性運動失語》 と定義され, 《概念センター》 , 《運動言語センター》 自体に ではなくその結合に障害があり, 自発的な叙述言語に困難をきたすと ia は どの よ う に 整 理 す る の であ ろ う か さ れて き た 症 状 に 対 し, Lur .. 彼によれば, 古典的なそれは概念的に不適格であるのみならず, 臨床的事実に反する. 古典的な それが認めているようにコトバの反復はたしかに容易 ではない. が, 問題はその内容で, 患者は, 独立語や簡単なフレーズなら反復でき, 少し複雑な構造になると著しい困難をきたす. これは神経 力動の病理的不活発にともなうそれで, 言語痕跡の可塑性が不安定なため, 文構造としての反復, ないし能動文から受動文への変換といった点も こなると簡易なものでも不可能となるのである, と. i そして結論的に, Lur aはつぎのように 提起する. 《これらの事実は, 超皮質性運動失語の概念の 再検討としてだけ貴重なの ではない. 文生成におけるシンタグマティ ックな叙述の障害として, 言 語学的構造の分析にも新しい道を開く であろう》(〔 42 ) 〕p 353 . . i 以下, シンタ グマ関係の叙述障害の典型として, Lur 23 〕 a がいう 《力動失語》 を例にとろう (〔 , )。 〔 42〕 pp 64-72 .. i t 《Pa 》 28歳, 男, コルホー ズ員.左前大脳動脈の動脈癌による左後部前頭領 (言語 ent . ,Mor ゾーン前部) 病変. 当初左半側麻庫, 重度の運動失語を呈するが回復. が, 自発的な言語の叙述は 困難. 言語の感覚成分, 運動成分は保持し, 時空間への定位, 言語理解良好で, 語義錯語なし. 患者は病歴を話すよう求められた. 《エェ…チクショウ…私…ア-…ムツカシイ…ダメ ダ…(3分 35秒)》 . その他, 住所や年齢, 町の様子について話すよう求めても同様であった. ただし, 対話形 式で患者に出だし語や支えを入れてやれば, 文としての叙述は可能であった* . (あ な た は どこ で働 い て い ま す か)-《エ エ … ア - …》-(私 は 働 い て い る)-《私ノ・. 馬. 働イ テ ル. 丁ラシテ》- (あなたは何歳ですか)- 《エ エ … ナ ン ダ ッ タ ッ ケ》- (私 は …)- 《私ノ・ 28歳》 . 113.

(11) . 藤. 夫. 井 力. (あなたは どこに住んでいますか)- 《住ム…住ム…》- (私は住んでいます…)- 《私ノ・ 住ンデ マス. 村 ニ》 .. (馬は何をしていますか)- 《エエ …ア-…ア-…》- (それは…で働いています…それは運んで います)-《草ヲ…》 . (誰が荷馬車を引きますか)- . (誰が草を荷馬車に積みますか)-《労働者が》 《馬が》 . . (荷馬車に何がのっていますか)- 《草が…》 ※. Tab l e工 , 1分間における名詞と動詞の想起数. Lur i a らは, こ う した 患 者に 対 し, 文 生 成 の 基 本と. なる物の名 (名詞) と行為の名 (動詞) についての想 l 起実験(1分間, 閉眼) をおこなった (Tab e l). 側. 名詞. 動詞. ( 7 3 煮 ‐ , 罫 饗 霜 暮 お き篇需 宴 8 ≠翻そ著禦ぎ誉¥ぢ 蟹讐凄婆患署≦罰 さ , 患者の場合は,(名詞の想起)《エエット…霧…空…アー …窓…ドア…枠…アー, エッ, 枠…ダメダ》 , (動詞の 想起)《…アム…ダメ ( 2 0秒) 30秒) …アー, デキナイ》(〔 2 3 〕 pp 29 ) 7-2 9 9 , ア… ( . .. i Lu r aによれば, 患者は, 発話の基礎にある動機や内的意図, さらには対 象命名能力を障害さ れていない. 一般的な叙述の内的意図を 《シンタ グマ関係》 に変換する 環が基 )の よ う な 絵 か ら の 文 生 成 テ ス ト で, 15 ts-thedog》(Fig 本障害だという. たとえば,《Theboy-hi . 患者はスムー ズに叙述できない. 重度の場合, まったく 《電文体形式》 で, 動詞が出ず, 時には名 i t )* theboy…s ck…dog》 heboy. t 《 andthen 詞で代替してしまう ( . ‐the dog》 . . . ,《 《再教育 プログラム》. ◎ S. h t eman. k a r s sf o 文. 紗 --卿. 生. 0. i h t S. heboy t. 成. h i t i t s ご三 he d t h o t g o g. ÷÷や. P. d he b t r e a ,. the b。 oy. 圏. -. ・予. 1 ・. 備. h t edo g. 弧. i h t s h t h e t e. dog. Fig.15. i ※ Lu r aは, 左前運動言語野下部病変患者で 《電文体形式》 の失語を観察している. ia た ち は つ ぎの 二 つ を 原 則 と した ① ま ず, 日 常 では, 再 教育 プ ロ グラ ム は い か な る も の か. Lur .. 生活場面 での対話のなか で, 患者の希望する行為だとか願望を叙述させるべく働きかけること.(お なかへった, 何たべたい)-《おなかへっ た. 私は, 水を, 飲みたい》とか. ②出だし語や数枚の絵 カー ドで叙述にそっ た支えを入れてやれば文としての線的な発話が可能となるので, これをより間 114.

(12) . 随意運動の発達に関する神経心理学的基礎( 2 ). 接的なものに, たとえば, 白紙カー ドとかボタンを表現に必要なコトバの数だけ用意して, 順番に 指でおさえつつ 叙述させる (Fi 16 ) g . . 具体例はつぎのようなものであった. 患者は, 馬と干草が山と積まれている荷馬車を描いた絵を見せられ, 内容を話すよう求められた . 《ア ー … エ ー … ア ー, エ ッ ト … 馬 … ソ レ ト … ?… ダメ》 それで 3枚の白紙カー ドがテーブルの上 , .. に並べられ, 患者は各カー ドを指さしつつ叙述するよう言われた. 《馬(第1カー ドを指さして)ノ・ …ヒッパッテル… (第2カー ドを指さして) …荷馬車ヲ (第3カー ドを指さして)》 . つ ぎに4つの 白紙カー ドが用意され, 農夫を主語に文をつくるよう求めると.《農夫ノ・…ハコンデル…干シ草ヲ… 馬デ》 . 以下, 同様の要領で反復訓練がなされ, 時間を要しつつもしだいに叙述の線的シェ マを回復 さ せ て い っ た.. 課題絵, 《森の中の少年》の内容の叙述にあたって, 患者は何枚かの白紙カー ドをならべて, つ ぎ の よ う に 言 っ た,《少年ノ・… 森 ニキテツ タ … キ ノ コ ト リ ニ … ソ シ テ 迷 ツ タ. カ レハ 泣イ タ … ソ レ カ ラ 木 ニ ノ ボ ッ タ …》 . d dn ( )U n軸 i a e t a r r a o n. ミ? ー. b ( ) n i d db l e髄m ta e u ‐ e u yg p ,b l b l i t t i( o t r n u e e n r od排 p x g葛 i t rt h l h i f o no c・ n e a rs cem eo h t t e総n c ) n姥’ ,. も, , . 園 一 . 国 → 檀. キ1スsl / ′′ ノ 十 △′ △ / ′ ′. ▲ 十 ′ △. S 3. S4. S 2. Fi g.16 力動 失語症患者におけ る文生成障害のシ ェ マ. 《外的定位 (シンタ グマ関係) 言語》 病変が深くかつ広ければそれだけ反響的な固執が強く, 困難な側面を残す であろう が, このケースのように白紙カー ドなりボタンを用い能動 的に発話させ れば, 患者は文の線的シェ マを回復させ, 叙述した では, この方法にいかなる必然性が内包され . ia は 言う 《こ の 場 合 外 的 支 柱 が 二 重 の 効 果 を 発 揮 して い る す な わ ち フ レ ー て いる の か. Lur , . , .. ズの線的シェ マを患者に回復させるのみならず, 叙述への病理的不活発を克服する可能性を与える からである》(〔 23 〕p ) 3 04 . , 患者は, 発話への内的意図や各語のバラディ グマ関係を保持している にもかかわらず 神経力 , , 動の病理的不活発のために叙述がブロ ッ クされ, 一つの文としての統合 (シンタグマ関係) が困難 となっている. それゆえ, こうした患者に外的支柱を与えることは 表現した文の線的シェ マを切 , 断させないのみならず, 外的支えを利用す る行為は, つ ぎの語に対する内的な間 (予備的準備) を 保障し, 叙述へのコー ド変換を実現させることになるのである . Lu i i r aはその生理学的例証として, 《F 》 を示す. 外的支柱を用いた場合, 筋電図 (下唇) の 1 7 g . 背景波に激発がみられるが, これはつぎの語に対する内的な予備 的準備が可能となっ たその反映と する ( 〔 23 〕p ) 3 05 . .. 115.

(13) . 藤. 井. 力. 夫. ( ) a ▲▲. ′. b ( ) .・ .. - .. (c) - -. ・. .. . . ・・ , ,・ , . .. ・. ・ ・, 1 ・・ ,. ,.,. ,. ・ 4. ー. , .. . ・.. 1. .・ ・. 、 ・ , ’ ・ ,. 鎚山雌J流山 跳 盈遇 幽晦山 鴎娼- 1 . . ・ -・ ,. r i‘・ ,ai r へ ,≦ ′ - ,, , ,, . ‐{ ., ‐ ,, Fig.17 力 動 失 語 症 患 者 の 文 生 成 中 の 下 唇 運 動 の 筋 電 )外的支え を )背景, b)支えな しでの文生 成の試み, c 図;a 唇からの それぞれ下 で 試み 文生成の 用 いた場 合の患者の , ,耀 ,戯. ,. 筋電図.. Vm . リ ズム と 同 期. i ところで, Lur a研究者の間では, 当初子どもの認識や言語の社会史 《パーキンソン病 患者》 i a がどう して医学部に再 入学し, 脳損傷患者の臨床的研究に 的・心理的研究をおこ なっていた Lur * 従事するように なっ たのか, その契機がなんであったのか, 関心がもたれてきた . それが昨年出版 〕 ) 4 3 された彼自身のソビエ ト心理学への回顧 的研究・《精神の構造》 で明らかと なった (〔 . の こ れに よ る と そ の 契 機 は, 1928 年, L.S .Vygotsky と パ ー キ ン ソ ン 病 患 者 を 観 察 した 時 で, こ. 症候患者の不 随意運動の発現と代償に関する討論から,臨床的な医学研究の必要を決意したという. 興味深いのは, 皮質下病変患者からの出発であったのみならず, この時す でにリ ズム同期に関する 00 8 実験 (後に言語の調節的役割に関する研究で採用された) を開始し, これが再教育の一般原則 ( * * ある 名におよぶ戦傷脳病変患者に対する) を引き出させたということ で . なく 歩いた. これに くりだが困難 階段 ではゆ けない患者が Lur i 二歩も連続的に歩 《 っ aは言う. , する 一歩一歩がそれに対応 は驚かされた. われわれはつぎの仮 説をたてた. 階段を登るときには, 116.

(14) . 随意運動の発達に関する神経心理学的基礎( 2 ). 患者の運動インパルスを保障する信号となる. 換言すれば, 通常の床 では皮質下的に不随意運動を 導いたのが, 階段という支えにより, 分離信号環が意識的に連鎖され, 歩行のメカニ ズムが再組織 さ れた の では な い か, と. そ こ で, Vygot sky は あ る 実 験 を 考 え た. 階 段 の 代 わ り に 紙 片 を 床 に な ら. べるとどうなるか. その結果, 患者はひとつひとつだが部屋中を歩いたのであっ た》(〔 43 〕 pp 128- . 129 ). i ※ Lur a は,1 921年 Ka zan大学社会学部卒業,1924 年か ら3 4年までVygo t skyとともに Mos cow 実験心理学研 究所勤務, 同時に19 30年代から Kha rkhovのウクライナ精神神経アカデミー心理学部門併務.1 93 7年 Mos cow 第 一医科大学卒業.Bou rdenko神経外科研究所でのインターンを経,1 9 39年から実験医学研究所神経学クリニックに 勤務.19 41年 Mo s cow 大学心理学教授. この間の主要著作:《子どもの発達における言語と知性》(論文集,1 ) 9 27 , 《農村,都市および浮浪児童の言語と知性》(論文集,1 93 )《行動の展開に関する研究》(Vygo 0 t skyとの共著,1 9 3 0 ) , 《人間的葛藤の本性》( 1 ) 9 3 2 36一3 ) 7 , 《双生児の精神機能の発達》(論文集, 19 , 《精神分析》《心理学》(百科全書 担当, 1940 ) .. ※※ パーキンソン病の原因は現在では明確になっており, 神経伝達物質ドーパミン欠乏 で( 1 9 59 , 佐野勇発見) , これにより作動する線状体からの神経経路の進行性変性による, 生化学的治療と再教育 プロ グラムとの結合に関 i し, Lu r aは当時すでにつぎのように位置づけていた,《原因が明らかな場合には, 生化学的治療はたいへんスピー ディ で有効である, だが実際にはある種の 〈ショック状態> をつくるに終っている 必要なのは生化学的治療と再 . 教育・機能プログラムとの統一で, われわれは機能システムの再組織として, 訓練方法を発展させた》(〔 4 3 〕p 1 4 ) 0 . .. 《リズム運動の同期》. 不随意運動の機構の解明と回復のためにさらにシンプルな実験モデルを. ia の 課 題 と な っ た こ の た め に 考 案 した 実 験 モ デ ル つく れ な い だろ う か. こ れ が Vygotsky と Lur , .. それが 《リズム同期課業》 で, 彼らはこれをパーキンソン病患者に実施した ( 〔6〕 〕pp 32 383- . ,〔 ). 〕 pp 129-130 386 , , 〔43. 実験1. 患者は30秒間, タッ プするよう求められた. これは困難であっ た. 患者はす ぐに筋痩縮 をお こ し, 運 動 は ブ ロ ッ ク さ れた. そ こ で, 実 験 者 の 《1》 , 《2》 のかけ声 (聴覚刺激) にあわせ i ) 18 てタッ プするよう求めた. 患者は短時間だがこれには応答できた (F g . . 実験2. 実験者の支えではなく, 被験者自身の自己刺激を採用することにした, 患者に 《まばた き》 しつつ押すよう求めた. 開始の合図に対し, 患者は 《まばたき》 を支えに, 連続的に自己調節 ia は 《システム間再組織》 と名 づ け る, Fi ). でき た (Lur g .19 実験3. 今度は, 行動調節として患者自身の言語, 《第2次信号系》を利用することにした. だが これは失敗した. 患者は自身の言語を聞き試みるが, すぐさま筋緊張冗進と随伴性痩縮をきたして Pa i k i i t tRoz en :pa r n s on sm ,. h hmi t t a n ou sr r s s e a s e cp c y P0n. h t hm s t l i n a l c o u sr po cp r e s s s y e. ・′. .. s l e s n e po imu l t s u s. i ( v e su ) g p l i i も ロ 1 亀 t t u n si s s c e oa mo v eme nr e pon s et od r. Fig .18 パーキンソン病患者のリ ズム同期. Fig.19. \/\ / \. i ( v sup ) e g. ハ. ハ. i i i i t t fa n i a t t l ono u i o - t s mu a on i b l ! ( nk÷+P ) r e s s. 自 己刺 激を用 いた場 合のリ ズム同期. 117.

(15) . 藤. 井 力. 夫. .たとえば 《6+2は いく つ .工夫した, しま った. そこ で, より高次な皮質過程から刺激がくる .よう , 星がありますか》 . 》 《 ク レムリンの赤い星にはいくつ 《 がありますか 四角形にはいくつ角 ですか》 , , 一 筋緊張過多による随伴動作を残しつつ といった知的問題を出し, この応答として患者に押させた. i も, この条件 で患者はリ ズム運動を同期していった (Lur aによ れば 《超システム間再組織》 g . , Fi ) 2 0 . その結果, 《5回押しなさい》 の教示に対して, 患者は第1試行のみ強いが, 2回目以後の運 動はそれほ ど強くなく, 筋緊張冗進・痘縮は克服された. そして精神的問題解決の運動 では, 極度 の疲労におちいらない. ヒ . f l f t t o r l i a r imu un t an sofvo t ye a onby me s. hmi ・ t e s s e s cpr t aneouslhy s pon. i v ) ( e sup g. 、 ? t i her r t a how manypo eds n sont ー h。W many Whe e sonawagon? ・ i i Lon s s s ngi e s s et o que e s nr pr pon. ズム 同期 Fig .20 意 味的 因 子 を 支 えに し た 場 合 の リ. i i t r Pa tpl ea i ora emo t tee s o l li nr rn :l e en gh . , f fr hyq卯 w/w/ t Fourmon値sa t ri e i町,Ma e r n s yo. hed l i ) hy山中e t s ab s ( r. l i t oud l nga owl s y ,coun imen tB Expe r. 一ハ. ノー. ハ ザ. ハ 』. l imi i t t na ed lob i va one e r s i ua s t ngandv oun c. i tC 凡 E e n r m x e p. ” Lへ 慾. ハ\ A. A. J. ))/ l ) htwot na s( t e rmi i tkey wi l nga ook. i hy hm d t t s ) t s n e r a e ( i r g. ィ. 4. i l ) t bn le shed t s ab ( rhy. i i i t i s c on nued nd lob t a i onag r va i s s e ua t ngandv coun. Fi g.21 前運動野病変患 者のリ ズム同期. 118. べ. i t ) i t e hm d r a s hy t n eg s ( r.

(16) . 随意運動の発達に関する神経心理学的基礎( ) 2. 《前運動野病変患者の場合》 他の病変 (皮質下 ではなく皮質性病変) 患者の場合は どう であろ うか. 戦傷脳病変患者の再教育にあたり, Lur i aはまずは前運動野病変患者から資料を得た ( 〔6〕 103-116 386-388) * 」 pp . . , 〔32〕 pp. Pa i t t en ,前運動野矢状平行面外傷. 神経学的には軽度で。 麻庫, 感覚異常, 病 ,Cem. 34歳, 男, 理的反射なし。 が, スムー ズないし技術的な運動は不能 言語の面 でも滑らかな文脈的叙述は困難 . . て 1 ) パーキンソン病患者と異なり患者は,単一のリズム運動は容易に再生できる(外傷4 ヶ月後) . しかし, 《強, 弱, 弱》 , 《弱, 強, 弱》 と い っ た 因 子 を 入 れ る と 混 乱 して しま っ た。 そ こ で, 《1, 2, 3, 1, 2, 3 …》 と強弱をつ けて数えさせることにした するとこれには患者は 数えを支 . , えに 同 期 でき た (Fig 21 . , A).. ( 2 ) 視覚的な外的支え, 《□□□□口□…》 といった支えに変えたが, これにも同期できた(C) 。 ただし,患者の運動は, 《何をなすべきか》 ,この たえざる意識により代償されており, 外的支えを取 D) り去れば, 同期は解体した(B, 。 ( 3 ) そこ で, まっ たく患者の《内的な求心作用 . 》だけ で同期できる方法はないか考えた. 患者に, 《ダン プ, ダンプ, 自動車…》 といっ たイメージを描き つつ行為させた 患者は同期 できたが 具 , . 体的イメージを中止させれば, 困難であった. 患者の同期特徴はフォ ローアッ プ中こうした内容のものであっ た。 .. .. ,. Yt ,. i Ce 4 3年に実施された. なお, Lu ) に対する実験は19 r 94 1年6月から戦傷脳病変患者の再 aは1 ※ この患者 ( rn 47年 《外傷性失語》(〔 ) としてまとめた. 9 32 〕 教育に従事し, ここでのケース研究を1. 以上, パーキンソン病患者は知的問題の解決を支えに内的に同期(強弱で 《言語の調節的役割》 ‐ はないが)でき, 前運動野病変患者は外的支え(数え, 視覚的観察) ないし具体的イメージを支えに 同期した. これら二つの実験を手掛りに, 1 947年, 再教育の一般原則をつぎのように定式化する。 《新しい機能と損傷前の機能 との根本的差異は, 新しいそれが媒介的性格をもっということであ る. 多くの場合, そのメ ルクマールは, 患者が復活した言語活動をどのように支えにしうるか, に ある, それゆえ, 初期段階でどのような方法で欠陥代償のための特殊な課題を患者に習熟させるか, 重要である。 これなしでは何年かけても患者の障害は改善されない. 患者自身でできることは回復 ) 32 〕 3 88 の最終段階であり, 専門的なセラピストの指導いかんにかかっている》(〔 . ,p , i 人間の内的な心 脳の構造と機能に関する研究の体系化に取り組むとともに こうして Lu raは, , 理過程の理解のために言語活動のなかでもその調節的役割に重点を移していくのであっ た。 ia の 同 僚 E,D.Homskaya に よ り 他 の 皮 質 病 変 患 者 に な さ れ た 実 験 で, Fig 22 は, 1958 年, Lur .. 粗大な前頭葉病変患者ではあまりにも言語活動が破壊されており,リズムの同期は困難であったが, 左側頭-頭頂領病変患者の場合は言語化(外言)を支えに行為調節さ れ得たことを示している・ (〔2〕 ). 397-401 PP .. Lu i 1960年代以降の神経心理学的接 r a の脳機構と機能に関するその後の研究 ( 近) については, すでに本稿 (上) で概括した. ここでは, それに至るま でのいわば媒介となっ た 研究, 随意運動の発生的研究に焦点をあて, 論議 ( I X) への橋渡しとしたい. 《発生的研究》. 1 950年代, 言語の調節的役割の面から随意運動の発生的研究を開始した動機について, 後年, Lur ia は つ ぎの よ う に 言 う.. l 《第2次大戦後, 人間と動物のあらゆる行動に関して, Pav ov 学派の生理学で説明すること, こ れが ブームであっ た. すなわち, 行動の実験的モデルと洗練された実験方法をどう利用するか, 119.

(17) . 藤 A. 井. 力. 夫. hoU Wi r 『s peech. Wi hs r peech. lr i i i fr he- t l Po tsUpe on. i r e o eg r rKi 「 o 「po ro ef en s e ev. TUmo Wi hou r rs peech. i Redl r gh Gr i r eenl gh. hs wi r peech. . Red1 i r gh ” ぜ 丁÷÷ “ “ “ “ l ” Gr i t÷了 r een1 gh llobe, hh her i r d. Tumo Po i r on o rvi tV r roh en ghrf. . . 夕 . に÷. . I1 fr he「 t i obe PQ rf Q i on - iKru t, TUmo r ro en 9h. . . . . . B )の 課 業に お 頭頂領 病 変 患 者 側 と 前 頭領 病 変 患 者( Fi g.22 ける言語調節の役割;赤ラン プに強く, 青 (緑) ラン プに対し. て弱く ゴム球を握る課業. 頭頂領病変患者では自己の言語化で 調節され, 前頭領粗大病変患者ではリズムは同期できなか っ た. (After E, D. Homskaya,1958).. であ った. 私自身も実験モデルの設定にあたっては多くの点で影響を受けたけれども, 当時採用 さ れ て い た Pavlov 学 派 の 人 た ち の 方 法 と は い く つ か の 点 で留 保 して い た. と り わ け, あ ま り に も. 過剰に, 強化と条件づけの概念ないし刺激と反応の一時結合の形成にの み依存して人間行動を理 解する傾向は, 機械的で単純す ぎると考えていた. たとえば教条的なそれは, さま ざまな年齢の 子どもの行動に関して, 刺激-反応原理の量的な複雑化でのみ解釈できるかのようにこれらの概 念を利用した. これに反し, 私, ならびに Vigotsky と 共 同 で研 究 し て き た 人た ち は, 子 ども の 行 動は年齢とともに質的に変化すると確信してきた. それゆえ, 195 0年代はじめ, 私は, 欠陥学研 究所に移ったのを機会に, 単純な運動 (刺激に対する反応としての) でも子ども自身の言語が利 用されているということを明らかにする一連の実験をはじめた. すなわち, 行動の言語調節に関 する発生的研究である. 子どもの行動の組織にあたり, 自然的で直接的なものから道具的で間接 的なものに どのように変化させているか, 我々は精神薄弱児も含め, 各種年齢の子どものデータ を と っ た》 (〔43〕 pp 104一105). .. F i i 23は,Lur aの整理において鍵となっ たデータ(質的変化の理解のための)の一つで,3歳2 ヶ g . 120.

(18) . ) 2 随意運動の発達に関する神経心理学的基礎{. . . . gh. へp. パ 檎. 。 パ. . . 一. o だ. ,. . h、 か. ー一. た . . ′. Fig.23 3歳児 (V.S .3歳2 ヶ月) における運動 反応に 対する言語 調節の役割. 教示は, 赤ラン プ(R+)に 対 して ゴム球 を握り, 緑ラ ン プ (G-) には握らない. 失印 (ノ) は誤りを示す;俵)黙っ て, ◎ 》 s 陽性信号 (R十) で 《Pres , 陰性信 号 で 《No》 と言っ て 反応する. に訓 練後で, 《No》 と言うにかかわらず 脱抑制 して 握っ て しまう. (の陽性信号のみに 《Go》 と言わせ, 陰性信 号には黙らせる. 子ども は運動反応を分化 できた.. 月児の結果である. 2歳児クラスとは違って, 子ども自身の言語的支えにより 《押す》 というリ ズ B ムには同期できたけれども( ) , 3歳児は言語イ ンパ ルスの《興奮的側面》によるそれでに) , 《意味的. 側面》 での分化した調節には4歳以上でないと無理であった. ただし, 陽性信号に対してのみの外 )* 言化であれば(勤, 3歳児でも形成できた (〔2〕 pp 74一3 75 .3 .. i ※ Lu 1 960年2月21~24 日, 於, Princeton) でこ の結 果 r aは, 《第3回中枢神経系と行動に関する国際会議》( i を報告した. 討議のなかで 《定位反射》 との関 車が問題と して とり あ げら れた が, Lur a は こ れに 対 しつ ぎの 2点 を強調した;て 1 )あらゆる条件反射のなかで予備的定位反射が本質的因子であると同時に, 言語の利用はこの予備的 定位反射を強化する. 3歳児が抑制信号にも反応してしまったが, これは予備的定位反射の不充分さの反映で形成 期だと考えたい.( 2 )言語のさまざまな機能 (命名機能, 汎化・意味的機能, 交通手段, 調節的役割) のなかでも, 調節的役割に注目したのは, 他の機能ほど研究されていないからだけでなく,《二つの信号系間の相互作用》の問題 として重要だからだ. 第2信号系の調節的役割を発生的に研究することは, 信号系間の相互作用と質的転換の問題 を対 象に す るこ とに なる (〔2〕 pp 378一379 ) . .. i 附記;本文中, 〔 〕 内数字は Lu r a自身の文献を示す. 文献は紙数の関係上, 次号 (下) に一括 する。 (1980.8. ) 30. (本学講師・札幌分校). 121.

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