スリランカ
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原子力事情・原子力政策動向
1.1 エネルギー政策と原子力政策の状況と動向 <エネルギー政策と原子力の位置づけ> 政府は原子力について、将来の電力安定供給とエネルギー自給、炭素を排出しない発電を実現 していくために有効な手段と考えており、2010 年 9 月に、2025 年までに原子力発電所を建設す ることを1 つの選択肢として検討していることを明らかにした。スリランカでは、“Electricity generation using Nuclear Power in Sri Lanka”と称する計画が 策定され、2025 年までの原子力発電所導入に向けた原子力政策が実施されている。
1969 年の原子力機関法(Atomic Energy Authority Act No.19 of 1969)により、技術・研究 省の下に原子力機関(AEA)(当時。2014 年 10 月に原子力エネルギー局(AEB)となる)が設 置された。AEA は、医療、農業、産業および環境の分野において有用な放射線と RI 技術の活 用を図ることに責任を有すると規定されている。
2010 年 9 月、AEA とセイロン電力庁(CEB:Ceylon Electricity Board)は、IAEA のガイ
ドラインに従って IAEA の技術協力の下、原子力発電所のためのプレ・フィージビリティスタ ディを実施した。 2011 年 6 月、内閣は、放射線緊急時に対応するための独立した機関を設立する法律の草案を 承認した。本法案は、スリランカが隣国インドの原子力発電所から近い場所に位置しているため、 IAEA の勧告に応じて作成されたものである。 また、原子力発電技術を導入するために、1969 年制定の原子力法を廃止し、新しい原子力法 に置き換えることも発表された。 AEB と CEB は、2025 年頃に原子力発電を導入することを前提に原子力発電技術の導入計画 を進めており、原子力に関する技術と知識を備えた科学者と技術者を養成するためにロシアへの 人材派遣を行っている。 放射線利用に関しては、AEA(当時)が建設を進めてきた国内初の「多目的ガンマ線照射施 設(MGIF:Multipurpose Gamma Irradiation Facility)」が竣工し、2014 年 2 月 17 日に開所 式を行った。
将来の原子力発電の実現に向けては、YNSS(Youth Nuclear Society of Sri Lanka)という 組織が2008 年に AEA(当時)の下で設置され(現在は AEB に引き継がれている)、13 の委員 会に分かれて国家原子力計画のための検討を進めた。2013 年 12 月 27 日、13 の委員会がそれ ぞれの見解をまとめ、“Electricity Generation Using Nuclear Power in Sri Lanka”計画を実 行的に進めるためのフォーラムを開催した。
発表したが、この計画には初めて原子力発電が未来エネルギーの候補として含まれた。原子力発 電を2030 年からの電源として研究を進めることとし、最初は 60 万 kWe 級の発電所から研究を 始めるとしている。 2015 年 2 月 16 日、M.シリセナ大統領は、インドの N.モディ首相を訪問して原子力協力を含 む4 つの合意書を取り交わした。N.モディ首相は、両国が原子力に関する二国間協力を進める ことは強い信頼関係の証であると述べた。 <ウラン資源> 関連する公開情報は無し。 <核燃料サイクル、バックエンドに関する動向> 関連する公開情報は無し。 1.2 原子力関連予算の状況と動向 関連する公開情報は無し。 1.3 原子力発電所の建設・運転状況 現在、運転中・計画中の原子炉はないが、2016 年 11 月に、電力エネルギー省(Ministry of Power and Energy)の A.P.ペレラ(Ajith P. Perera)副大臣が、原子力発電所建設サイトの選定に関 して、IAEA の協力に基づいて適切な場所を検討中であることを明らかにした。
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国際協力動向
2.1 二国間原子力協力関係 相手国 協定 日付 インド 原子力平和利用に関する協力協定 2015 年 2 月 16 日署名 パキスタン 原子力平和利用協力に関する了解覚書 2015 年 4 月 6 日署名 2.2 国際的取組への参加状況 (1) 協力全般 ・IAEA:1957 年 8 月 22 日加盟 (2) 核不拡散 ・核兵器不拡散条約(NPT):1968 年 6 月 1 日署名 ・包括的核実験禁止条約(CTBT):1996 年 10 月 24 日署名 (3) 原子力安全 ・原子力早期通知条約:1991 年 2 月 11 日発効・原子力事故援助条約:1991 年 2 月 11 日発効 ・原子力安全条約:1999 年 11 月 9 日発効 (4) その他協力 関連する公開情報は無し。 2.3 人材育成に関する協力の状況 2017 年 6 月 12~13 日に、インドのバンガロールの聖ヨハネ研究所(St. John's Research Institute)*1で開催された、栄養政策や栄養計画における安定同位体技術の利用に関するワー クショップに、スリランカの大学や研究所から、研究者、大学教授、博士課程に在学する学生等 が参加した*2。同ワークショップは、体組成(body composition)、母乳による授乳パターン、 エネルギー消費量、鉄の生物学的利用効率(iron bioavailability)、ビタミン A の状態について 評価する際の安定同位体の利用方法等が題材とし、インド医学研究評議会(the Indian Council of Medical Research)が部分的に資金提供をおこなったものである。
*1 聖ヨハネ研究所は 2010 年に栄養学のための IAEA 初の協働センター(Collaborating Centre) に指定され、2015 年には指定が更に 4 年間更新された。 *2 スリランカ以外にも、インドおよびインドネシアの大学や研究所から、研究者、大学教授、博 士課程に在学する学生等が参加した。 2017 年 8 月 7~11 日にかけて、マレーシア原子力庁(MNA)において開催された使用済密 封放射線源(DSRS)に関するセミナーに、スリランカも参加した。同セミナーは実践的な実演 コンディショニング手順を含む、カテゴリー3~5 の使用済密封放射線源のための管理オプショ ンに関する地域訓練コースと題されたもので、スリランカを含む17 の国から 27 名が参加した という。
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原子力研究開発推進・規制体制
3.1 原子力関連行政・規制機関の役割 1969 年原子力機関法 No.19 に従い設立された原子力機関(AEA)は電力・エネルギー省傘下 の原子力規制機関であり、医療や産業などの幅広い分野で使用されている放射線やRI 利用技術 に対して責任を有していた。また、2011 年に政府は、国内への原子力発電技術導入を許可し、 放射性物質のセキュリティに対する懸念を処理し、放射線緊急時に対処するための機関として、 原子力規制委員会(AERC:Atomic Energy Regulatory Council)を設立すると発表した。2014 年 11 月 4 日、スリランカ議会は、2014 年原子力法 No.40(Sri Lanka Atomic Energy Act, No. 40 of 2014)を承認した(2015 年 1 月 1 日施行)。これにより、AEA は原子力エネルギー 局(AEB:Atomic Energy Board)と原子力規制委員会(AERC)の 2 つに分割されることと なった。原子力エネルギー局は、同国の開発を目的とした原子力科学技術の促進を主たる使命と
し、原子力規制委員会は、電離放射線に関連した事業やその安全性(安全管理)、セキュリティ
2015 年 1 月 1 日、AERC が設立された。AERC は、放射線源のセキュリティや放射線緊急時 への対応も担当する。 3.2 規制体制図(組織、法令) 3.3 原子力研究開発機関と研究内容 関連する公開情報は無し。 3.4 研究炉を含む原子力研究開発施設の計画、建設、運転、保守、廃止、共用等に関する動向 関連する公開情報は無し。 3.5 原子力分野の研究開発に関する公募制度 関連する公開情報は無し。
タイ
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原子力事情・原子力政策動向
1.1 エネルギー政策と原子力政策の状況と動向 <エネルギー政策と原子力の位置づけ> タイでは、石油・天然ガスなどの化石燃料資源の埋蔵が確認されているが、どちらも消費量が 生産量を大幅に上回っているため、石油については主に中東国家から、天然ガスについては主に ミャンマーから輸入を行っている。 エネルギー政策は、2015 年に発表された再生可能エネルギー開発計画(AEDP2015: Alternative Energy Development Plan 2015-2036)に基づき進められている。天然ガス発電量 を2015 年時点の 64%から 2036 年には 37%まで減少させ、再生可能エネルギーについては 2015 年時点の7% から 18%まで増加させる計画であり、都市ゴミ(MSW:Municipal Solid Waste)、 バイオマスやバイオガスの発電の導入も推進するとしている。原子力開発計画
原子力発電の導入時期は数回にわたり延期され、最新の国家発電開発計画(PDP2015: Thailand Power Development Plan 2015)によると、早くとも 2035 年になる見込みである。 タイではエネルギー政策を推進するため、1992 年に「国家エネルギー政策委員会法」が制定 され、「国家エネルギー政策委員会(NEPC:National Energy Policy Committee)」が設置さ れた。
1994 年以降、原子力発電所建設計画は無期限に延期されていたが、2007 年に NEPC が、中 期エネルギー需給の見通し2007~2021 年の国家発電開発計画(PDP2007)を作成し、ここに 原子力発電所の導入が盛り込まれた*。
* 2017 年 2 月 1 日には、平和利用のための原子力法(Nuclear Energy for Peace Act 2016)が発効 している。 以下にタイの原子力計画の変遷を示す。 原子力計画の変遷 名称 承認日 内容 2007 年から 2021 年にかけてのエネルギ ー開発計画(PDP2007) 2007 年 6 月 4 日 100 万 kWe の原子炉を 4 基建設 (2020、2021 年にそれぞれ 2 基ずつ) 2007 年から 2021 年にかけてのエネルギ ー開発計画(PDP2007)改訂 2 版 2009 年 3 月 24 日 100 万 kWe の原子炉を 2 基建設 (2020、2021 年にそれぞれ 1 基ずつ) 2010 年から 2030 年にかけてのエネルギ ー開発計画(PDP2010) 2010 年 3 月 23 日 5 基の原子炉建設 (2020、2021、2024、2025、2028 年) 2012 年から 2030 年にかけてのエネルギ ー開発計画(PDP2010)改訂第 3 版 2012 年 6 月 15 日 2 基の原子炉建設 (2026 年もしくは 2027 年に稼動) 2015 年から 2036 年にかけてのエネルギ ー開発計画(PDP2015) 2015 年 5 月 14 日 2 基の原子炉建設 (2035 年もしくは 2036 年に稼動)
内閣が2010 年 3 月 23 日に承認した PDP2010 では、2020~2028 年にかけて原子炉(100 万 kW)5 基を運転開始させ、2030 年の時点で総発電量の 8.15%を原子力で賄う計画であった。し かし、NEPC は 2011 年 4 月 27 日に、福島事故に対するタイ国民の不安への配慮から、原子力 発電所建設計画を当初予定から3 年間延期するとした(PDP2010 改定第 2 版)。その後 2011 年 8 月には、タイ電力公社(EGAT)がエネルギー省に国の発電計画について発電源に原子力の代 わりにクリーンコールを利用することを提案する見直し案を提出する予定であることが報道さ れた。2012 年 6 月 15 日には、NEPC が PDP2010 の改訂第 3 版を承認した。その内容は、10 年以内に発電の 25%を代替エネルギー(再生可能エネルギーなどの新エネルギー)で行うとい うもので、原子力発電割合については10%から 5%へと変更し、原子力発電所の運転時期を 2020 年から2026 年へと 6 年遅らせている。しかし、その後 2015 年 5 月 14 日に承認された PDP2015 では、原子力発電割合と原子力導入計画は維持するものの、運転開始を2035 年もしくは 2036 年に見直したため、建設計画はさらに遅れる見通しである。 EGAT は、2007 年の PDP2007 を受け、2008 年から 2010 年まで米国のアーキテクトエンジ ニアリング会社(Burns and Roe Asia 社)とフィージビリティスタディ契約を締結し「原子力 発 電 基 盤 整 備 ・ 調 整 委 員 会 (NPIECC : Nuclear Power Infrastructure Establishment Coordination Committee)」の下の小委員会のタスクについて取りまとめた。また、原子力発 電所プロジェクトのフィージビリティスタディは2010 年に終了し、2010 年末には IAEA の「総 合原子力基盤レビュー(INIR:Integrated Nuclear Infrastructure Review)」において法的枠 組み、人材育成に関する指摘を受けている。 原子力政策の変遷 タイにおける原子力発電導入の検討は比較的早くから開始されており、1962 年には、原子力 政策の推進と原子力開発を目的としてタイ原子力委員会(Thai AEC)が設立され、1967 年には タイ電力公社(EGAT)が 1982 年に 60 万 kW の原子力発電所の建設に着手するための建設許 可が下りていた。 しかし、着工が3 年後に迫る 1979 年に米国で TMI 原子力発電所事故が発生し、原子力への 反対意見が強くなったことから、政府は原子力発電所建設計画を中止した。その後も1982 年に 原子力発電に関する調査を実施し、将来の電源として原子力を盛り込むことを選択したものの、 1994 年には再び世論の反対の声の高まりにより無期限の延期となった。延期された後にもタイ 政府は、フィージビリティスタディを行う委員会を設置するなど原子力開発を諦めてはいなかっ たが、原子力発電所建設の決断には至らなかった。 原子力発電所の導入が復活したのは、国家エネルギー政策委員会(NEPC)が、中期エネルギ ー需給の見通し2007~2021 年の国家発電開発計画(PDP2007)を発表した 2007 年 4 月 9 日 のことである。このPDP2007 に原子力発電所の導入が盛り込まれた(PDP は改訂を重ねてい る)。NEPC は、PDP2007 の発表と同時に、エネルギー省(MOEN)や科学技術省(MOST) をはじめ天然資源・環境省、教育省等の関係省庁の代表や専門家からなる原子力発電基盤準備委 員会(NPIPC:Nuclear Power Infrastructure Preparation Committee)を 2007 年 4 月に設
置し、原子力発電所導入のための準備計画を作成することとした。NPIPC は、中間報告をとり まとめ10 月に政府に提出した。NPIPC の中間報告では、IAEA の推奨事項に従って作成した原 子力発電基盤整備計画(NPIEP:Nuclear Power Infrastructure Establishment Plan)が示さ れ、原子力発電計画開発庁(NPPDO:Nuclear Power Program Development Office)と原子 力 発 電 基 盤 整 備 ・ 調 整 委員 会 (NPIECC: Nuclear Power Infrastructure Establishment Coordinating Committee)の設置が提案された。NPPDO は、2007 年 10 月 30 日に設置され、 タイにおける原子力発電計画を推進する上での中心的役割を担っていたが、2012 年に設立され た原子力研究・調整庁(Nuclear Energy Study and Coordination Office)に引き継がれた。ま た、原子力発電基盤整備・調整委員会(NPIECC)は 2007 年 12 月に設置され、NPIPC の活動 を引き継いだ。 <ウラン資源> 関連する公開情報は無し。 <核燃料サイクル、バックエンドに関する動向> 関連する公開情報は無し。 1.2 原子力関連予算の状況と動向 関連する公開情報は無し。 1.3 原子力発電所の建設・運転状況 (1)既設炉 現在、運転中の商業炉はない。 (2)建設中・計画中の原子炉 現在、建設中・計画中の商業炉はない。
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国際協力動向
2.1 二国間原子力協力関係 相手国 協定 日付 アルゼンチン 原子力平和利用に関する協力協定 1996 年 6 月 7 日署名 1998 年 6 月 25 日発効 中国 原子力平和利用に関する協力協定 2017 年 3 月 29 日署名 ベトナム 原子力平和利用に関する協力合意 タイ原子力技術研究所(TINT)と ベトナム原子力研究所 (VINATOM)が 2016 年 5 月 11 日署名 ロシア ロスアトムとTINT 間の協力に関する了解覚 書 2014 年 9 月 23 日署名米国 原子力安全分野の情報交換および協力に関す る取決め 2017 年 3 月 15 日署名 2015 年 4 月 27 日と 28 日にタイのバンコクで、タイとロシアによる原子力平和利用に関する 最初の会合が開かれた。会合では、原子力の平和利用と原子力安全分野での二国間協力協定締結 へ向けた取り組みについて議論が交わされた。両国は、TINT とロスアトム社との間で 2014 年 9 月に締結された了解覚書(MOU)に基づき、二国間協力の実施について準備している。 2015 年 12 月 23 日、タイ大手独立発電会社のラチャブリ・エレクトリシティ社(RATCH: Ratchaburi Electricity Generating Holding Public Co Ltd)*1は、中国の広西防城港原子力発
電II 会社(Guangxi Fangchenggang Nuclear Power (II)Company Limited)の設立について、 中国広核集団有限公司(CGN)および広西投資集団有限公司(Guanxi Investment Group)と
の契約に署名をした。今回設立される合弁会社は、防城港原子力発電所3、4 号機の建設・運転 を行っていくことになるという*2。 *1 最大の株主は国営タイ電力公社(EGAT)である。 *2 現在、防城港原子力発電所 3、4 号機建設プロジェクトに関しては CGN が 61%、広西投資集団 有限公司が39%の株式を保有しているが、ラチャブリ社は同社の子会社を通じ同建設プロジェク トの株式の10%を保有する予定とのことである。 2017 年 5 月 31 日、原子力庁(OAP)は、タイ国内において IAEA の活動を実施する事につ いて、タイ政府と IAEA が協定に署名したことを明らかにした。これにより、タイ国内で訓練 コースやワークショップ等のIAEA の活動を開催し易くなるという。 2.2 国際的取組への参加状況 (1) 協力全般 ・IAEA:1957 年 10 月 15 日加盟 (2) 核不拡散 ・核兵器不拡散条約(NPT):1972 年 12 月 7 日発効 ・IAEA 保障措置協定:1974 年 5 月 16 日発効 ・IAEA 保障措置追加議定書:2005 年 9 月 22 日署名(未発効) ・包括的核実験禁止条約(CTBT):1996 年 11 月 12 日署名(未発効) (3) 原子力安全 ・原子力事故の早期通報に関する条約:1989 年 4 月 21 日発効 ・原子力事故または放射線緊急事態の場合における援助に関する条約:1989 年 4 月 21 日発効 ・アジア原子力協力フォーラム(FNCA) ・アジア原子力地域協力協定(RCA) (4) その他協力 ・核テロリズム防止条約:2005 年 9 月 14 日署名
2.3 人材育成に関する協力の状況
2017 年 3 月 6~9 日、OAP と科学技術省は、「ASEAN 地域の原子力・放射線安全およびセキ
ュリティの能力構築・強化に関する ASEANTOM ワークショップ」*をバンコクで共催した。
このワークショップには、ASEANTOM 加盟国の原子力規制機関、放射線規制機関やその関連 機関から80 名を超える参加があった。
* ASEANTOM Workshop on Capacity Building and Strengthening the Nuclear and Radiation Safety and Security Network in the ASEAN Region。なお ASEANTOM は ASEAN 諸国の規制 機関のネットワークであり、加盟国はカンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、ミャン マー、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム等である。 2017 年 6 月 27~30 日、OAP とタイ原子力技術研究所(TINT)は、ASEAN 原子力ユース キャンプ2017 をタイの国立科学博物館で開催した。このユースキャンプは、ASEAN 加盟国の 次世代間に科学コミュニティの形成を目的として開催されたものである。
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原子力研究開発推進・規制体制
3.1 原子力関連行政・規制機関の役割 機関 主な役割・権限・活動等 エネルギー省(MOEN) ・エネルギー政策の策定と実施状況の監視・評価 ・国内でのエネルギー開発の提言 ・エネルギー保全と代替エネルギーに関する手法の模索 ・エネルギー需要の予測 原 子 力 発 電 計 画 開 発 庁 (NPPDO) ・法整備 ・人材育成計画の構築 ・公衆教育 原子力庁(OAP) ・原子力利用・廃棄物管理に関する法規、監視方法の策定 ・放射線安全、原子力施設の規制 ・外国の規制機関との窓口 タイ原子力技術研究所 (TINT) ・原子力研究開発の実施 ・原子力サービスとコンサルタント・サービスの提供 ・研究炉等の運営と操業 ・海外研究機関との協力推進 ・原子力利用のパブリック・アクセプタンスの普及 原子力行政機関 エネルギー省(MOEN)は、省庁改正法(2002 年 10 月 3 日施行)により新設された部門で、 エネルギー政策の立案、実施、評価を担当している。原子力行政を担当するのは、エネルギー省 の下に2007 年 10 月に設置された原子力発電計画開発庁(NPPDO)であったが、2012 年に設 立された原子力研究・調整庁(Nuclear Energy Study and Coordination Office)に活動を引き 継いだ。なお、エネルギー政策に関する具体的な活動は、エネルギー省に設置されたエネルギー政策・ 計画室(EPPO:Energy Policy and Planning Office)が実施に当たっている。
原子力規制機関
1961 年 4 月に制定された「平和のための原子力エネルギー法(Atomic Energy for Peace Act)」 によって設立されたタイ原子力委員会(Thai AEC)が、タイの原子力規制機関である。この委 員会は、放射線および原子力に関連した活動や施設の規制を行い、また許認可も発給する。原子 力委員会の事務局としては、原子力庁(OAEP)が設置されていた。OAEP は、原子力規制行 政の機能を担うと同時に、アイゼンハウアーの“Atoms for Peace”プログラムの一環として供 与された研究炉(TRIGA-Ⅲ)を有し研究開発も実施していた。しかし、2000 年 1 月に発生し た密封線源(使用済みの医療用Co-60)による被ばく事故*を契機に、2002 年 2 月に組織改正 が実施され、新たに原子力庁(OAP)として出直すこととなった。 * 使用済みの医療用機器がスクラップ業者の手にわたり、放射線源が含まれているとは知らずに業 者が解体し、結果として10 名が被ばくし 3 名が死亡する被ばく事故となった。 3.2 規制体制図(組織、法令) 3.3 原子力研究開発機関と研究内容 タイでは、原子力技術研究所(TINT)が研究開発を担っている。TINT は、2002 年 2 月に原 子力庁(OAEP)が組織改正され新体制の OAP となった際に研究部門が分離され、さらに 2006 年に独立して組織化された研究機関であり、TINT 運営委員会の管理監督の下で事業を運営して いる。国内唯一の原子炉であるTRR-1/M1(軽水炉、1,300kWt。1977 年 11 月に初臨界を達成) の運転・管理は、同組織の研究炉管理課が行っている。研究炉管理課の業務は、作業、設計、企 画、研究開発など多岐にわたっている。 現在研究炉は、RI 製造や、放射器の放射線照射、サンプル物質の照射・解析などに用いられ ている。 TINT は「放射性廃棄物処理センター」を有しており、主に全国の放射性物質利用者への放射 性廃棄物処理サービスや排水中の放射能検査サービス、放射能汚染測定サービスを提供している。 首相 タイ原子力委員会 (Thai AEC) (首相率いる) 国家エネルギー政策 委員会(NEPC) (首相率いる) 科学技術省 (MOST) エネルギー省 (MOEN) サブ委員会 タイ原子力庁(OAP) (タイ原子力委員会事務 局としても機能) タイ電力公社 (EGAT) エネルギー政策計画局(EPPO) (NEPC事務局としても機能) タイ原子力技術研 究所(TINT)
<研究機関一覧・主な研究内容等>
機関名、ホームページ 主な研究内容等 原子力技術研究所(TINT:Thailand
Institute of Nuclear Technology) http://www.tint.or.th/index.php/en/
・ 2006 年 OAP から研究部門を分離独立させて設立 ・ TINT はタイ唯一の研究炉である Thai Research
Reactor-1/Modification 1 (TRR-1/M1)を所有し、原子力技術 を活かしたサービスを民間に提供している。また、同国の放射 性廃棄物管理センターと共同で放射性廃棄物管理に関する研究 を行っている。 ・中性子研究、医療用アイソトープ生産、核解析、食品照射、宝 石用原石照射、放射性廃棄物管理、技術移転、人材育成、サー ベイメータの製造・較正・維持。 ・ 科学技術省(MOST)の管轄 オンガラック原子力センター (ONRC:Ongkharak Nuclear Research Center *建設中) ・1997 年建設契約締結、2001 年建屋・システムの詳細設計が完 了 ・新たな研究炉(TRIGA 型:1 万 kW)のほか、医療用アイソト ープ生産施設、放射性廃棄物処理・管理施設も建設する予定で、 建設中のTRIGA 型研究炉は 95%完了。ゼネラル・アトミック ス(GA)社が建設者。 ・科学技術省(MOST)の管轄 3.4 研究炉を含む原子力研究開発施設の計画、建設、運転、保守、廃止、共用等に関する動向 研究炉 原子力庁(OAP)から公益法人として独立したタイ原子力技術研究所(TINT)が所有してい る1基のTRR-1/M1が、タイ唯一の研究炉である。この研究炉は、当初TRIGA Mark-Ⅲ研究炉 (2,000kW)として建設され1962年10月に臨界を達成したが、1977年に改造を行いTRR-1/M1 と改称された。 また、TINT は現在、バンコク北東約 60km の地点に同位体製造施設、放射性廃棄物処理・貯 蔵施設からなるオンガラック原子力研究センター(ONRC)を建設中*である。同施設内には、 新たな研究炉の建設計画も進められている。 * 2015 年からフィージビリティスタディを行っており、2017 年 3 月時点では 2017 年末までに環境 影響評価を実施する予定であった。 2017 年 4 月 18~21 日、OAP は、原子炉のサイト申請審査に関するワークショップを開催し た。このワークショップは、米国のNRC と OAP の協力事業の 1 つである国際規制整備パート
ナーシッププロジェクト(IRDP:International Regulation Development Partnership Project) に基づいて実施されたものである。なおこのワークショップには、スラナリー工科大学 (Suranaree University of Technology)*、タイ原子力技術研究所(TINT)および OAP から
参加者があったという。
* スラナリー工科大学には、1 基の小型の研究炉が設置される予定である。
3.5 原子力分野の研究開発に関する公募制度
台湾
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原子力事情・原子力政策動向
1.1 エネルギー政策と原子力政策の状況と動向 <エネルギー政策と原子力の位置づけ> エネルギー政策は、経済部によって策定されている。2008 年、政府は 2025 年までのエネル ギー政策をまとめた「エネルギー利用政策」を承認し、エネルギー利用目標を設定した。目標は 以下の2 点である。 ・エネルギー輸入依存度を低下させること ・原子力および再生可能エネルギーの利用率を増加させること (2007 年 9%から 2025 年 18%へ) 原子力政策は、上記のエネルギー利用戦略に従い、次のように計画された。 ・建設中の原子炉の早期商業運転開始 ・稼働中の6 基の原子炉の運転延長稼働 これはつまり、①国内で 4 番目の原子力発電所を可能な限り早く稼働させることで、原子力 発電比率の向上を図ること、②現在40 年と定められている原子炉の運転寿命を 20 年延長し、 炭素排出量を抑えながら電力供給量を増やすこと、の2 点である。 しかし、2011 年の福島事故の影響を受けて政府は原子力政策の見直しを行い、同年 11 月 3 日に馬英九前総統によって新たな原子力政策が発表された。この新原子力政策では、運転中の6 基は段階的に廃止し、建設中の第4 原子力発電所(龍門(Lungmen)1、2 号機)については、 運転開始前に包括的試験運転を実施すること、および全ての安全条件を満足するまで運転を開始 しないことが約束された。これにより、稼働目標は遅くとも 2016 年と設定し直された。また、 運転期間延長を目指していた稼働中の原子炉に対しては、40 年間の運転寿命の更新は行わない ことが決定された。 馬英九総統(当時)は、2012 年 5 月 20 日の総統就任式において、台湾の発展を実現する柱 の一つとして「低炭素・グリーンエネルギーの環境作りを進める」ことを挙げた。 2015 年 1 月 26 日、27 日に台北(Taipei)国際会議センターで開催された「全国エネルギー 会議」において馬英九総統(当時)は、エネルギー政策に関して「我々はエネルギーの 98%を 輸入に頼っており、島国であるため隣国から電力を輸入することができない。我々が十分な電力 の供給を確保するためには、石炭、石油、天然ガス、原子力、風力、太陽光エネルギーなど、い ずれのエネルギーも放棄すべきではない」と述べた。 2016 年 1 月、台湾の総統選挙および議会選挙が行われた。台湾の景気は低迷し、低賃金や格 差拡大に対する不満が強くなっており、さらには政府の親中路線に対する反発が高まり、馬英九 政権の支持率は下降線をたどっていた。これにより与党国民党の朱立倫主席は、中国本土から距離を置く政策を掲げる民進党の蔡英文候補に大敗を喫した(蔡英文689 万票に対し朱立倫 381 万票)。また、国民党は、総統選挙と同時に実施された立法院(国会)の選挙でも大敗した。民 進党は、立法院(議会)において113 議席の中 68 議席を獲得し、単独で過半数を占めるに至っ た。2016 年 5 月 20 日、第 14 代総統に就任した蔡英文氏は、早速、電気事業法の改正案を提案 し、公約に掲げた「2025 年非核家園計画(脱原子力社会)」の準備を進めた。10 月 20 日、新政 権は、台湾電力公司(Taiwan power)の発送電分離と民営再生エネルギー電力促進を盛り込ん だ電気事業法改正案を閣議(行政院)決定した。2017 年 1 月 11 日、立法院(国会)は、電気 事業法改正案を可決した。再生可能エネルギーによる発電を自由化し(台電独占状態を変更して 民間参入を促進し)、2025 年までの脱原子力発電を含む内容である。この改訂案では、2025 年 までに原子力発電の割合を0%に、再生可能エネルギーの割合を 20%にするとしている。 2017 年 11 月 6 日、原子能委員会(AEC)の謝曉星委員長は、原子力発電所の地下に存在す る地熱エネルギーの(利用に向けた)開発を行うための予備計画を2017 年末までに(立法院に 対して)提出する予定であると明言した。この計画により、台湾の原子力発電所は地熱発電所へ と転換される可能性が生じることとなる*。なお台湾においては、立法院の呉思瑤議員(民主進 歩党所属)が、第2 原子力発電所(國聖 1、2 号機)の地下に利用可能な地熱が存在するとの認 識の下で、AEC に対して地熱の利用に向けた開発を行うべきであると述べていた。 * 謝曉星委員長の発言内容に関連して、第 2 発電所の元所長は地元紙の取材に対して(11 月 10 日 付記事)、原子力発電所の設備や送電網はそのままでは地熱発電所用には使えないこと、台湾には (原子力施設の解体を含め)廃炉の経験が無いこと、および台湾では地熱発電が商業化されてい ないことを指摘し、原子力発電所を地熱発電所へ直接転用することは不可能であると述べている。 <ウラン資源> 関連する公開情報は無し。 <核燃料サイクル、バックエンドに関する動向> ウラン濃縮などに関する作業はすべて海外で行っている。 放射性廃棄物 低レベル放射性廃棄物は、台湾本島の南東沖にある蘭嶼(Lanyu)の貯蔵施設で 1982 年から 貯蔵が開始された。しかし、島民の激しい反対により、貯蔵施設の建設は第一工事で打ち切られ、 1996 年 5 月には廃棄物の新たな受け入れを中止した。2002 年末に貯蔵保管契約期間が終了した ため、経済部は貯蔵施設の撤去を決定した。現在、低レベル放射性廃棄物はぞれぞれの発電所に 貯蔵しており、政府は新しい貯蔵施設建設に向けてサイト選定(台東(Taitung)県達仁郷(T’ajen Hsiang)、または金門県鳥坵郷(Wuch’iu Hsiang))を行っている。 2015 年 4 月、原子能委員会(AEC)は、台湾電力に対してサイト選定のための指針を提示し た。この指針は、サイト選定に関する IAEA 等の判断基準を踏まえたものであり、サイト選定 にあたっては、地質構造の変化によって放射性物質保管の安全性が損なわれることなく、また地 質環境を危険にさらさない場所であることを求めている。また、第 2 段階のサイト選定プロセ スは2018~2028 年に行われる予定である。台湾では、使用済み燃料を一時貯蔵する使用済み燃
料プールの容量が不足する恐れが指摘されている。使用済み燃料は、最終的には地層処分する政 策が採られており、計画では2055 年に地層処分場の操業を開始することとなっている。これに 関連し2015 年 7 月、台湾電力は、台湾における使用済み燃料の処分計画への支援について、ス ウェーデン核燃料・廃棄物管理会社(SKB)の子会社である SKB インターナショナル社との間 で、3 年契約に署名した。台湾はスウェーデンやフィンランドで用いられている最終処分技術に 関心を示している。 また、再処理に関しても検討が進められており、2015 年 2 月 17 日、台湾電力公司は、使用 済み燃料の再処理を海外に委託する方針を発表した。 1.2 原子力関連予算の状況と動向 関連する公開情報は無し。 1.3 原子力発電所の建設・運転状況 (1)既設炉 3 か所の原子力発電所で計 6 基の原子炉が運転中である。国内初の原子力発電所である第 1 発 電所の金山1、2 号機は 1978、1979 年、第 2 発電所の國聖(Kuosheng)1、2 号機は 1981、 1983 年、第 3 発電所の馬鞍山(Maanshan)1、2 号機は 1984、1985 年にそれぞれ営業運転を 開始した。 国土が狭く資源を持たない台湾にとって、原子力は重要な発電手段として、1970 年代から国 内のエネルギー供給能力向上に大きく寄与してきた。1984 年には原子力による発電量が火力を 抑えて1 位となり、1985 年には総発電電力量の半分以上を占め、52.4%となった。現在は再び 火力発電が主流となっているが、依然として原子力発電に頼るところは大きい。 現在、建設が行われている第4(龍門)原子力発電所は 1981 年に政府から承認を得たが、そ の後諸事情により予算の凍結と解除が繰り返された。本格的な建設は1999 年に始まったが、再 度、遅延や建設凍結・解除などの決定が下されて工事は遅延し、当初に予定していた2004 年の 運転開始は大きくずれ込むこととなった。 2011 年 6 月に、発電所建設予算 140 億ニュー台湾ドルが、中国国民党(当時政権与党)の賛 成多数によって承認されたことが、発電所完成に向けて弾みを付け、その後11 月 3 日に発表さ れた新原子力政策では、遅くとも2016 年までには第 4(龍門)原子力発電所を稼働させると発 表された。 政府の江宜樺行政院長が、2013 年 2 月 25 日、第 4(龍門)原子力発電所の建設の是非を問う ため、全国民を対象とした国民投票を 8 月に実施すると発表したが、実施しなかったため反発 を招いた。 2014 年 4 月 21 日、江宜樺行政院長は第 4(龍門)原子力発電所の建設計画を強力に推進して いく姿勢を示したが、結局同年4 月 27 日に、政府は同発電所 1、2 号機の建設凍結を決定した。 事業者である台湾電力公司は建設のために2,830 億ニュー台湾ドルを投資しており、損失の累積 額は2,080 億ニュー台湾ドルに上るという。
2016 年 8 月 2 日、台湾電力公司は、第 1(金山)原子力発電所の廃止措置実施計画を発表し た*。計画によると、廃止措置は25 年間にわたって 4 段階で実施されるという。第一段階では 2026 年にかけて原子炉を停止し燃料を除去し、第二段階では 2038 年にかけて原子炉の解体を 行い、第三段階では2041 年にかけて関連した検査を行い、第四段階では 2044 年にかけてサイ ト修復を行う。なお、使用済み燃料プールの除去は2027~2031 年にかけて実施される予定であ る。 * 同発電所1、2 号機の運転許認可は、それぞれ 2018 年 12 月と 2019 年 7 月に期限切れとなる。 2017 年 8 月 7 日、台湾商工会議所長が電力不足*を解消するために、第1(金山)原子力発電 所および第2(國聖)原子力発電所の再開を許可すべきであるという提案をしたが、内閣報道官 は翌 8 日、台湾が電力不足に陥っていることを認めつつも、停止している原子力発電所の再稼 働を政府が計画していないことを明らかにした。 * 台湾は2017 年夏、同年 7 月 29 日の台風 9 号の直撃により送電塔が倒壊し、電力供給が減少した 一方で、酷暑のため消費電力が急増し、電力不足に陥っていた。 2018 年 3 月 21 日、台湾電力公司は、第 2(國聖)原子力発電所に対して 2 号機の再稼働*を 指示した。今回の指示は、同発電所2 号機の再稼働について、3 月 20 日に原子能委員会(AEC) から書面で台湾電力が承認を得たことを受けたものである。同発電所2 号機は、5 日間かけて送 電網へ接続するための作業を行い、その後4 日間にわたって出力を上げ、9 日目に最大出力に達 する予定としていた。しかしながら同28 日、圧力系に問題の可能性があるとして運転を自動停 止することとなり、30 日には、再稼働の見通しが立たないことが明らかにされた。 * 同発電所2 号機は、2016 年 5 月に不具合で自動停止し、2017 年 12 月に定期検査が完了していた が、政府の方針により運転を停止したままとなっていた。 (2)建設中・計画中の原子炉 第 4(龍門)原子力発電所(台湾北部の新北 (Hsin-pei)市貢寮(Kung-liao)区)で 2 基の 原子炉の建設が進められ、2014 年 3 月時点で、1 号機については2014 年末もしくは 2015 年初頭 の商業運転開始を見込んでいたが(当初は 2004 年の運転開始を予定していた)、原子力反対運動 が激しくなる中、馬英九総統(当時)は2014 年 4 月 27 日に凍結の決定を下した。ほぼ完成して いる1 号機については密閉管理し、2 号機につい ては建設を凍結することとなった。 2015 年 1 月 30 日、原子能委員会(AEC)は、 政府命令に従って同発電所の 2 基の凍結につい て台湾電力の提案を承認したことを発表した。凍 結のための準備を行った後、2015 年 7 月 1 日か ら正式に密封状態が開始された。凍結期間は、暫 定的に3 年とされている。
2015 年 9 月、同発電所の建設契約を請け負っている米国の GE 社は、実施済み作業分(約 1 兆 460 億円)の支払を求めて、国際商業会議所(ICC)香港支部で国際仲裁裁判所の調停を申 し入れた。 2017 年 8 月 11 日、台湾商工会議所長からの電力不足を解消するために第 4(龍門)原子力発 電所の運転開始を選択肢に入れるべきであるという提案に対し、蔡英文総統は、「台湾政府は安 定した電力供給のためにあらゆる手を尽くすが、第4(龍門)原子力発電所の運転開始は考えて いない」と述べた。 No. プラント名 型式 状況 所在地 設備容量(万 kW) 営業運転 開始日 ネット グロス 1 CHINSHAN-1(金山) BWR 運転中 新北市石門 61.3 64.5 1978.12.10 2 CHINSHAN-2(金山) BWR 運転中 新北市石門 62.3 64.5 1979.07.15 3 KUOSHENG-1(國聖) BWR 運転中 新北市万里区 96.3 100.0 1981.12.28 4 KUOSHENG-2(國聖) BWR 運転中 新北市万里区 95.3 99.0 1983.03.16 5 MAANSHAN-1(馬鞍山) PWR 運転中 屏東県恆春鎮 92.0 96.0 1984.07.27 6 MAANSHAN-2(馬鞍山) PWR 運転中 屏東県恆春鎮 92.0 96.0 1985.05.18 7 LUNGMEN-1(龍門) BWR 建設中 新北市貢寮区 130.0 135.0 - 8 LUNGMEN-2(龍門) BWR 建設中 新北市貢寮区 130.0 135.0 -
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国際協力動向
2.1 二国間原子力協力関係 相手国 協定 日付 米国 原子力平和利用に関する協力協定 1972 年 4 月 4 日署名、同年 6 月 22 日発 効、1974 年 3 月 15 日に修正・更新 2013 年 12 月 20 日更新 民生原子力協力についての合同常任委員会(JSC) の設置に関する協定 北米業務調整評議会(CCNAA)と米国在 台協会(AIT)が 1984 年 10 月 3 日署名・ 発効、1989 年 10 月 19 日、1994 年 10 月 3 日、1999 年 10 月 2 日修正・延長、以後 は5 年毎に自動更新される。 さらに米国は、第三国から台湾に移転される核物質や原子力設備に適用する保障楷置に関して移転元の国 に対して以下の通り合意している。 フランスから台湾の研究炉・発電用軽水炉計両向け に移転される物質・核物質・装置・施設に対する核 不拡散保証の適用に関する協力についての米国と フランス間での合意 1993 年 1 月 19 日付の書簡を取り交わし て、同日発効。 カナダから米国に移転されて濃縮・加工後に台湾の 原子炉向けに再移転されるカナダ産ウランに対す る核不拡散保証の適用に関する協力についての米 国とカナダ間での合意 1993 年 2 月 24 日と 3 月 5 日付の書簡を 取り交わし、3 月 5 日に発効。 オーストラリアから米国に移転されて濃縮・加工後 に台湾市場へ再移転されるオーストラリア産ウラ ンに対するオーストラリアと米国間の保障楷置の 適用に関する米国とオーストラリア間での合意 2001 年 7 月 31 日付の書簡を取り交わし、 2002 年 5 月 17 日に発効。 中国 原子力安全に関する協定 2011 年 10 月 20 日署名 2012 年 6 月 29 日発効台湾は、1957 年 9 月に国際原子力機関(IAEA)に加盟、核兵器不拡散(NPT)条約に 1968 年に署名、批准した。しかし、1971 年 10 月、国際連合が中華人民共和国を正式な政権国家と して認めたため、国としての立場を失った中華民国(台湾)は国連を脱退、同時にNPT 加盟国 からも外れた。更に、同年12 月には IAEA からも脱退し、多くの協定が消滅した。 一方、米国は1979 年 1 月 1 日に中華人民共和国を中国の唯一の合法政府であると認めたが、 「台湾関係法」を制定し、同法第 6 条でそれ以前に中華民国(台湾政府)と締結した既存の協 定や条約を公認すると定めた。そして、台湾との種々の関係を維持するために非政府機関として 米国在台協会(AIT:American Institute in Taiwan)を設置し、台湾側は駐米台北経済文化代 表処(TECRO:Taipei Economic and Cultural Representative Office in the United States) を設置した。 また、同法によって1971 年に米国、IAEA、台湾の間に結ばれた保障措置協定の効力も失効 しなかったため、IAEA は台湾の原子力施設に対し、事前通告査察(~2005 年まで)や未通告 査察(2003 年~)を実施し、一方の米国は台湾の核物質について監視を行っている。 2.2 国際的取組への参加状況 関連する公開情報は無し。 2.3 人材育成に関する協力の状況 2017 年 8 月 15、16 日に、原子力発電所の廃止措置の監視に関するワークショップ*を原子能 委員会(AEC)本部で開催した。今回のワークショップには、AEC が米国 NRC の専門家を招 聘し、米国における廃止措置の経験と規制に関する情報の共有が行われ、約 110 名の参加があ った。
* 2017 台美核電廠除役審查及管制研討會(2017 Workshop on the Oversight of Nuclear Power Plant Decommissioning)。
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原子力研究開発推進・規制体制
3.1 原子力関連行政・規制機関の役割 機関 主な役割・権限・活動等 経済部・能源局 (MOEA/BOE) ・エネルギー政策の策定、関連法案の起草 ・エネルギー関連企業の経営指導 ・エネルギー需給状況の評価 ・エネルギー・データベース・システムの構築 ・省エネルギープログラムの推進 ・エネルギー技術に関する研究開発 ・国際エネルギー協力の促進産業、技術、エネルギー問題等を管轄 原子能委員会 (AEC) ・総合企画部:政策実施の監督・監視、研究開発プロジェクトの企画・評価、保障 措置、国際協力 ・原子力規制部:原子炉及びその他の原子力施設に対する安全規制 ・放射線防護部:原子力施設における放射線防護、環境放射線防護、医療分野における放射線防護 ・原子力技術部:原子炉性能の評価・解析、原子力緊急時対応法の施行に関する規 制・調査、原子力情報の管理 原子能委員会(AEC)が原子力研究開発と安全規制を担っている。また、経済部・能源局 (MOEA/BOE)が原子力開発を担当する。さらに、環境保護署が環境への放射線影響を監視す る。 行政院(内閣)は、2013年2月21日、「核能安全委員会組織法」のドラフトを承認した。現行 の原子能委員会は組織変更されて、核能安全委員会(三級独立機関)が原子力安全規制を担うこ ととなる。この組織変更は、IAEAの国際安全基準に合致するよう、規制機関の独立性を高める ものであった。 3.2 規制体制図(組織、法令)
3.3 原子力研究開発機関と研究内容
原子能委員会(AEC)の下に位置づけられた核能研究所(INER:Institute of Nuclear Energy Research)が設置されており、原子力の研究開発を担当している。1968 年の設立で、基礎研究、 安全研究、放射性廃棄物の処理処分研究などを始めとして、放射線・RI の産業、医学、農業利 用やエンジニアリングサービスなども実施している。 INER の他に、国立清華大学においても原子力の研究開発が実施されている。同大学では、軽 水炉(在来型トリガー炉)のTHOR を用いて、RI 製造や中性子放射化分析が行われている。 <研究機関一覧・主な研究内容等> 3.4 研究炉を含む原子力研究開発施設の計画、建設、運転、保守、廃止、共用等に関する動向 研究炉 国立清華大学には、3 基の研究炉(THOR、THAR、THMER)がある。1961 年に初臨界を 達成した軽水炉(在来型トリガー炉)の THOR(2,000kWt)が稼働中であり、RI 製造や中性 子放射化分析が行われている。残りの2 基についてはすでに稼動しておらず、研究炉 THAR は 1993 年に、THMER は 2003 年に廃止措置を完了している。 核能研究所(INER)は、3 基の研究炉(TRR、ZPRL、WBRL)を所有していた。重水炉 TRR (4 万 kWt)は 1987 年に停止し、軽水炉として改良された(TRR-Ⅱ)が、現在は稼働してい ない。残りの研究炉のうち、研究炉ZPRL は稼働停止しており、もう 1 基の研究炉 WBRL につ いては廃止措置済みである。 3.5 原子力分野の研究開発に関する公募制度 関連する公開情報は無し。 機関名、ホームページ 主な研究内容等 核能研究所(INER:Institute of
Nuclear Energy Research) http://www.iner.gov.tw/index.php ・基礎研究、安全研究、放射性廃棄物の処理処分研究・放射線 ・RI の産業、医学、農業利用やエンジニアリングサービスなど 国立清華大学 http://www.nthu.edu.tw/ ・研究炉THORRI を用いて製造や中性子放射化分析を実施
トルコ
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原子力事情・原子力政策動向
1.1 エネルギー政策と原子力政策の状況と動向 <エネルギー政策と原子力の位置づけ> エネルギー天然資源省(MENR)がエネルギー政策の策定、エネルギー産業に関連した法律 の制定や施行について担当している。エネルギー政策における原子力の具体的な位置付けについ て、最も関連が深いものはMENR 戦略計画 2015-2019*である。この戦略計画は、同国のエネ ルギーセキュリティの改善を目的としたものであり、発電電源のひとつとして再生可能エネルギ ー全般について重視するとともに、原子力発電についても重視する姿勢を示している。発電容量 に関する2019 年までの達成目標は、水力発電が 3,200 万 kW(現在は 2,500 万 kW)、風力発電 が1,000 万 kW(現在は 500 万 kW)、太陽光発電が 300 万 kW、地熱発電が 70 万 kW、バイオ マス発電が70 万 kW である。原子力発電については、2019 年までに新規原子力発電所が稼動 する見込みがないため、発電容量目標については記載されていない。原子力発電所建設に関する 目標としては、アックユ原子力発電所について 2018 年末までに電力送電網を完成させ、2019 年末までに発電を開始するとしている。一方シノップ原子力発電所については、2019 年末まで に建設を開始するとしている。 * 2010 年から 2014 年にかけての戦略計画では、「エネルギー資源と鉱物資源を効果的、効率的、安 全に、タイミング良く、環境に配慮しながら活用していくことで、対外依存度を減らし、国内に 最大限の利益と繁栄をもたらすこと」を使命として掲げており、再生利用が可能な発電手段に注 目するとともに、その中でも特に原子力エネルギー利用に期待する内容となっていた。 原子力政策に関する背景情報 ・過去の建設計画 原子力発電所建設計画は、1968 年から始まったが、立地や財政上の問題などによりなかなか 実現には至らなかった。トルコにおける主な原子力導入計画には、以下のようなものがあった。 1977 年の入札:BWR(66 万 kWe)導入計画、融資上の問題で破談。 1982 年の入札:CANDU 炉等の導入交渉、仮契約まで行われたが融資上の問題で決裂。 1996 年の入札:ウェスチングハウス(WH)社やカナダ原子力公社(AECL)などが応札、3 年後に地震*が発生したことにより計画は凍結。 * トルコ大地震:1999 年 8 月 17 日にトルコ北西部のイズミットで発生した M7.4 の地震で、1 万 6,000 人以上が死亡した。 ・進行中の建設計画 現エルドアン政権になってようやく建設計画は軌道に乗り始め、2010 年 5 月、ロシアと協力 合意文書を締結し、総工費 200 億ドルの地中海東部沿岸にあるアックユの原子力発電所の建設 を、ロシア国営企業のロスアトム社が受注することに決定した。2011 年 3 月から、アトムエネルゴプロエクト(AEP)社のロシア人設計者が、160 ヘクター ルにおよぶサイトの測量を開始した。2013 年から 2021 年までの間に計 4 基の原子炉を建設し 1 基目の運転開始時期は2018 年を目標としていたが、現在計画は遅延している。 また、同時に黒海沿岸のシノップでの原子力発電所建設計画も進行している。2010 年 10 月 頃までは韓国が受注するとの見方が優勢であったが、11 月に交渉は打ち切られ、その後は日本 のみが受注に関する交渉を行ってきた。トルコ側は2019 年の稼働に向けて、2011 年 3 月末ま でに建設合意を得ようとして日本側と交渉を進めていたが、その矢先に東日本大震災が発生し、 その影響を受けて交渉は中断された。2011 年 7 月下旬に交渉は再開されたが、翌 8 月には東京 電力が福島事故を理由に建設計画からの撤退を表明。交渉で日本が提案していた内容は①建設、 ②財政、③運転で構成されていたため、東京電力の撤退により、その三本柱が崩れることとなり、 再度交渉は暗礁に乗り上げた。トルコ側は、日本との交渉も続けるが、他の国との交渉も視野に 入れて計画を進めていくとの姿勢を示した。2012 年 2 月には、トルコと韓国が原子力発電所建 設事業への協力を再開することに合意し、同2 月、中国も交渉に参加を表明した。(なお、中国 との合意は、アックユ、シノップにつづき検討されている第 3 の原子力発電所の建設計画に関 するものとされており、2012 年 4 月 9 日には、トルコと原子力平和利用協定を締結し ACP-1000 を提案した。)しかしながら、2013 年 4 月、4 基(ATMEA1)の原子炉建設を日本-フランス連 合が受注することで固まり、5 月の安倍首相のトルコ訪問の際には排他的交渉権がトルコ政府か ら日本企業に付与された。2013 年 10 月には、エルドアン首相(現大統領)と安倍首相が原子 力発電所建設に関して公式に合意し署名を行った。この政府間合意は、2015 年 4 月 1 日にトル コ議会から、4 月 9 日にエルドアン大統領からの承認を得ている。 2016 年 5 月 16 日、ルスアトム・エナジー・インターナショナル社が、アックユ原子力発電 所の建設について、「ロシアが建設計画を実行できるためには、3 つのトルコ国内法について改 正が必要である」との考えを明らかにしたとの報道があった。この報道によると、「建設予定地 のオリーブの伐採を禁じる法律」「取水口・排水口の建設のために臨海地の形状変更を禁じる法 律」「トルコ国外の事業者による売電を禁じる法律」の3 つについて、その改正が必要であると いう。 2017 年 3 月 31 日付のトルコの官報において、原子力発電所の建設工事検査に関する規則 (Regulation on Construction Inspection of the Nuclear Power Plants)が掲載された。この
規則の目的は、当該規則の第 1 条によると、原子力安全原則および関連する法律や基準等に従 って原子力発電所を建設することを目的として、原子力発電所の所有者が行う検査の範囲を確立 することであるという。 ・原子力発電所導入への懸念事項 トルコが原子力エネルギーを利用する上での問題点として、地震頻発国であることが挙げられ る。トルコは元来、複数のプレートの境界部に位置するため、その地理的条件から地震活動が活 発な地域にあり、世界有数の地震頻発国として知られている。そのため、トルコの原子力発電所 建設では耐震性の問題が重要視されている。
<ウラン資源> 2015 年 1 月時点で、1kg 当たり 260 ドル以下で採掘できる発見資源量(確認資源量と推定資 源量の合計)は6,600tU である。 <核燃料サイクル、バックエンドに関する動向> 関連する公開情報は無し。 1.2 原子力関連予算の状況と動向 関連する公開情報は無し。 1.3 原子力発電所の建設・運転状況 (1)既設炉 現在、運転中の商業炉はない。 (2)計画中の原子炉 トルコは原子力発電所の導入に意欲的で、現在2 つの地域にそれぞれ 4 基ずつ原子炉を建設 する計画が進められている。なお、具体化していないが、国内 3 番目の原子力発電所建設も計 画されている。 アックユ原子力発電所 国内初の原子力発電所であり、建設・所有・運転(BOO)契約によりロシアのロスアトム社 が4 基の AES-2006(VVER-1200)を建設する予定である。アックユ原子力発電所の事例は、 原子力発電の分野においてBOO 契約が締結された初めての例とされている。2013 年 2 月 18 日、 ロスアトム社は、サイト周辺における地震の調査が完了したことを発表した。 2014 年 9 月 30 日、アトムエネルゴプロエクト(AEP)社は、アックユ原子力発電所に設置 を予定しているコア・キャッチャーの設計を終えたことを発表した。この機器は同原子力発電所 に特有の条件を考慮したものであり、耐震性に優れ軽量であり、設置に要する期間も少ないとの ことである。
2014 年 12 月 1 日、環境都市計画省(Ministry of Environment and Urban Planning)が、 同原子力発電所建設計画に係る環境影響評価書(EIA)を承認したことが明らかになった。また 同日、トルコとロシアは、原子力分野及びその関連産業における人材育成に関する了解覚書 (MOU)に署名した。 2015 年 4 月 14 日、アックユ原子力発電所の起工式が開催された。1 号機のコンクリート打設 は2016 年 1 月が予定されていたが、2015 年 11 月にロシア軍機がトルコ軍に撃墜されてから両 国関係が冷え込み計画は遅延した。しかし、2016 年 8 月には両国関係が回復したことから、エ ルドアン大統領は、アックユ原子力発電所建設プロジェクトの進捗が加速する見込みであると述 べ、11 月には B.アルバイラク(Berat Albayrak)エネルギー大臣が、1 号機について、2023 年末までに運転を開始する予定であることを明らかにした。
2015 年 6 月 25 日、エネルギー市場規制局(EMRA:Energy Market Regulatory Authority)
*1は、アックユ原子力発電所建設計画の事業者(プロジェクト会社)であるアックユ原子力発
電会社(Akkuyu Nuclear Joint Stock Company)*2に対して、同建設プロジェクトに関する予
備認可を発行したことを明らかにした。この認可は同社による投資を可能とするもので、プロジ ェクトの手続きを許可するものである。EMRA は、予備認可で示されている要件をアックユ原 子力発電会社が満たせば、発電の認可を受けられるだろうと述べた。その要件には、建設と環境 影響に関する正式な許認可を取得することが含まれている。 *1 エネルギー市場の規制や管理を実施する独立機構。トルコ語では EPDK と表記する。 *2 アックユ原子力発電会社は、2010 年にアックユ原子力発電所の建設・運転のため、ロスアトム 社の子会社として設立された。ルスアトム・エナジー・インターナショナル社が、アックユ原 子力発電会社の総ての株式を単独で所有していた。 2016 年 4 月 10 日付のトルコの官報において、計画中のアックユ原子力発電所からの送電網 を建設するために国営トルコ送電会社(TEIAS)が土地を強制的に買取ることができるように することについて、2016 年 3 月 14 日付でトルコ内閣が承認したことが発表された。 2016 年 8 月 17 日、アックユ原子力発電所の建設・運転に係る法律が官報に掲載された後に 施行された(法案の議会承認は7 月 15 日)。 2017 年 3 月 3 日、アックユ原子力発電会社は、建設許可申請(CLA:Construction License Application)を構成する必須の文書として、予備安全解析書(PSAR)、確率論的安全評価(PSA)、 および同発電所の安全性を保証するための文書をTAEK に対して提出した。 2017 年 6 月 19 日、トルコの企業連合(コンソーシアム)とロスアトム社は、トルコの企業 連合がアックユ原子力発電会社の株式の 49%を取得するための主要な契約条件について合意し た。 2017 年 7 月 28 日、IAEA の専門家チームは、アックユ原子力発電所の立地評価・安全設計レ ビュー(SEED:Site and External Events Design)ミッション*を完了した。今回のミッショ
ンでは、想定される外部ハザードとして、津波、地盤に関連した地質工学的ハザード、地震、お よび航空機衝突がレビューされた。レビューの結果について、良好事例として同発電所のPSAR を挙げ、地震、津波、および航空衝突について、設計基準(design basis)と設計外基準(beyond design basis)の両方に関して、安全裕度解析のために必要な条項が含まれている点を指摘する 等している。 * このミッションは、TAEK の要請により、2015 年に行われた前回の同レビューのフォローアップ として実施されたものである。前回のミッションでは、外部ハザードに対する同発電所の防護設 計に関連したサイト特有のパラメータについてレビューが行われた。 2017 年 10 月 20 日、アックユ原子力発電会社は、部分的建設許可(LCP:Limited Construction Permit)を TAEK から取得したことを明らかにした。LCP の取得により、原子力安全のための 建屋と構造物を除き、原子力発電所を構成する全施設において建設や機器等の設置作業が可能と なる。アックユ原子力発電会社によると、同発電所の建設許可は2018 年前半に発給される見込 みであるという。また同年11 月には、エネルギー天然資源省(MENR)大臣が同発電所 1 号機 について、2023 年末までに運転を開始する予定であると述べた。同 12 月 10 日、LCP の下での 建設工事開始を祝う式典が開催された。
2018 年 2 月 6 日、トルコとロシアの双方の国営通信は、アックユ原子力発電所建設計画の事 業会社(プロジェクト会社)に対する株式比率について、トルコ企業 3 社からなるコンソーシ アム*とロスアトム社が交渉を行った結果、合意に至ることができなかったと報道した。トルコ 国営通信の報道によると、ロシア側とトルコ側が契約条件に合意できなかったため、トルコ側の コンソーシアムが同建設プロジェクトから撤退したとのことである。一方、ロシア国営通信の報 道によると、トルコのコンソーシアムを構成する企業の内の 2 社が交渉を継続しないことを決 定したとのことである。またロシア国営通信によるとロスアトム社は、今回の交渉決裂を受けて、 プロジェクト会社への投資を求めてトルコ国営電力会社(EÜAŞ)等との交渉を行っているとの ことである。
* Cengiz Holding、Kolin Insaat、および Kalyon Insaat の 3 社からなるコンソーシアムであった。 ロシア国営通信の報道によると、今回の交渉の結果、Kolin Insaat と Kalyon Insaat の 2 社が交 渉を継続しないことを決定した。 シノップ原子力発電所 日本-フランス連合が建設契約をすることで交渉が進められていたが、福島事故によって交渉 は一時凍結されていた。2011 年 7 月に交渉が再開され、2013 年 4 月には、その他の国々(韓国、 中国、カナダ)も交渉に参加する中、4 基(ATMEA1)の原子炉建設を日本-フランス連合が受 注することで固まったと報道された。この報道についてトルコ側は否定したが、その後、2013 年10 月には、エルドアン首相(現大統領)と安倍首相が原子力発電所建設に関して公式に合意 し署名を行った。建設に関する日本との政府間合意は、2015 年 4 月 1 日にトルコ議会から、4 月9 日にはエルドアン大統領からの承認を得ている。
2015 年 5 月、EÜAŞ の H.アリス(Halil Alis)最高経営責任者は、シノップ原子力発電所の
建設計画における株式所有比率を49%まで取得する意向を明らかにした。また H.アリス氏は、 トルコの民間企業との株式共有を模索する意向のあることも明らかにした。現在のところ、同発 電所の所有比率は、三菱重工・伊藤忠・アレバ社・ENGIE(旧 GDF スエズ社)からなるコン ソーシアムが65%、EÜAŞ が 35%である。 イーネアダ原子力発電所 TAEK は、2030 年までの電力需給を考慮して、第 3 の原子力発電所サイトも必要であるとし てイーネアダ(İğneada)などいくつかのサイトを提案していた。イーネアダは、ブルガリアの 国境から 12km の黒海に面したサイトである。その他に、イーネアダとシノップの中間に位置 するアカコカ(Akcakoca)、地震のリスクの小さいアンカラ(Ankara)、マルマラ海(Sea of Marmara)の北西部の海岸にあるテキルダー(Tekirdag)などの地名も挙がっていた。 2014 年 11 月 24 日、EÜAŞ は、トルコで 3 か所目となる原子力発電所の建設について、イー ネアダにウェスチングハウス(WH)社製の AP-1000 を導入することを想定し、WH 社および 中国国家核電技術公司(SNPTC)と協力覚書を交わした*。 * 2017 年 6 月 13 日、EÜAŞ、WH 社、および SNPTC は、3 か所目となる原子力発電所(イーネ アダ原子力発電所)の建設について、フィージビリティスタディの実施に関するMOU に署名し ている。
トルコの原子力発電所(計画)
No. プラント名 型式 所在地 設備容量(万kW) 営業運転開始日 1 AKKUYU-1(アックユ) VVER-1200 AKKUYU 120.0 2023 2 AKKUYU-2(アックユ) VVER-1200 AKKUYU 120.0 2024 3 AKKUYU-3(アックユ) VVER-1200 AKKUYU 120.0 2025 4 AKKUYU-4(アックユ) VVER-1200 AKKUYU 120.0 2026 5 SINOP-1(シノップ) ATMEA-1 SINOP 110.0 - 6 SINOP-2(シノップ) ATMEA-1 SINOP 110.0 - 7 SINOP-3(シノップ) ATMEA-1 SINOP 110.0 - 8 SINOP-4(シノップ) ATMEA-1 SINOP 110.0 -
トルコの原子力発電所建設予定地
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国際協力動向
2.1 二国間原子力協力関係 相手国 協定 日付 アルゼンチン 原子力平和利用に関する協力協定 1988 年 5 月 3 日署名 1992 年 2 月 24 日発効 ウクライナ 原子力事故の早期通報に関する条約 2000 年 11 月 23 日署名 2001 年 5 月 2 日批准 カナダ 原子力平和利用に関する協力協定 1985 年 6 月 18 日署名 1986 年 7 月 14 日発効 韓国 原子力平和利用に関する協力協定 1998 年 10 月 26 日署名 1999 年 4 月 12 日発効 中国 原子力平和利用に関する協力協定 2012 年 4 月 9 日署名 2016 年 8 月 25 日批准 原子力分野の協力に関する了解覚書 2016 年 6 月 28 日署名(エネルギー 天然資源省(MENR)と中国の国家 能源局(NEA)) 日本 原子力平和利用に関する協力協定 2013 年 4 月 26 日署名(日本)、2013 年5 月 3 日署名(トルコ)、2014 年 6 月 29 日発効 米国 1955 年 6 月 10 日に締結した原子力民生利用に 関する協力協定の効果的な保障措置および保 障規定の継続に関する合意 1981 年 4 月 15 日と 5 月 9 日に署名、 6 月 9 日発効 原子力平和利用に関する協力協定 2000 年 7 月 26 日署名 2008 年 6 月 2 日発効 ヨルダン 原子力平和利用に関する協力協定 2011 年 2 月 17 日署名 ロシア 原子力平和利用に関する協力協定 2009 年 8 月 6 日署名 2011 年 2 月 12 日発効(10 年間有効、 5 年ごとの自動延長が可能) 原子力事故の早期通報に関する条約 2009 年 8 月 6 日署名 2011 年 2 月 12 日批准 アックユサイトの建設・運営に関する協力協定 2010 年 5 月 12 日署名 2010 年 10 月 6 日批准 2.2 国際的取組への参加状況 (1) 協力全般 ・関連する公開情報は無し (2) 核不拡散 ・核兵器不拡散条約(NPT):1969 年 1 月 28 日署名、1979 年 11 月 28 日批准 ・NPT に関する保障措置協定:1981 年 6 月 30 日署名、1981 年 10 月 20 日批准 ・包括的核実験禁止条約(CTBT):1999 年 11 月 3 日署名、1999 年 12 月 26 日批准 ・NPT に関する保障措置協定の追加議定書:2000 年 7 月 6 日署名、2001 年 7 月 12 日批准 (3) 原子力安全 ・原子力の分野における第三者責任に関するパリ条約:1960 年 7 月 29 日署名、1961 年 5 月 13 日批准 ・1960 年パリ条約議定書改正:1964 年 1 月 28 日署名、1967 年 6 月 13 日批准 ・1964 年パリ条約追加議定書改正:1982 年 11 月 16 日署名、1986 年 5 月 23 日批准 ・原子力事故の早期通報に関する条約:1986 年 9 月 28 日署名、1990 年 9 月 3 日批准 ・原子力事故または放射線緊急事態における援助に関する条約:1986 年 9 月 28 日署名、1990 年 9 月 3 日批准 ・ウィーン条約及びパリ条約の適用に関する共同議定書:1988 年 9 月 21 日署名、2006 年 11 月 19 日批准 ・原子力安全条約:1994 年 9 月 24 日署名、1995 年 1 月 14 日批准 ・1960 年、1964 年、1982 年パリ条約改正:2004 年 2 月 12 日署名、批准は承認待ち中 (4) その他協力 ・核物質防護条約:1983 年 8 月 23 日署名、1986 年 8 月 7 日批准