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土木学会論文集 F6( 安全問題 ),Vol. 74, No. 2, I_1-I_10, 地方都市におけるインバウンド向けの観光情報と防災情報を融合した提供ツールの検討 ~ インバウンドの増加が著しい香川県における事例研究 ~ 岩原廣彦 1 白木渡 2 石井美咲 3 1 フェロー香川大学

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地方都市におけるインバウンド向けの観光情報と

防災情報を融合した提供ツールの検討

~インバウンドの増加が著しい香川県における事例研究~

岩原廣彦

1

・白木渡

2

・石井美咲

3 1フェロー 香川大学客員教授 (〒761-8074 香川県高松市高松市太田上町47-12) E-mail:iwahara.prf@gmail.com 2フェロー 香川大学副学長・産学官連携統括本部長 (〒760-8521 香川県高松市幸町1番1号) E-mail:vp-shiraki@jim.ao.kagawa-u.ac.jp 3非会員 農林水産省農村振興局整備部防災課 (〒100-8950 東京都千代田区霞が関1-2-1) E-mail: misaki_ishii380@maff.go.jp 南海トラフ地震の発生確率が,今後30年間で70~80%といわれるなかで,甚大な被害が想定される四国 地方においては,外国人旅行者(インバウンド)へ地域特性に応じた的確な防災情報の提供が必要となっ ている.特に,「瀬戸内国際芸術祭」や「うどん食文化」などを目的に香川県を訪れるインバウンドは, 2016年度に全国1位の増加率(前年度比)となっている.しかし,ハザードマップなどの防災情報の提供 は,観光業界からすれば,マイナスのイメージ情報であり積極的ではない.また,観光地においてインバ ウンドが,観光情報以外の防災情報を別途入手することは通常は考えられない.防災情報の提供にあたっ ては観光地でインバウンドが,情報入手ツールとして何を活用しているかについて把握する必要がある. そこで,観光情報と防災情報とを併せた効果的な提供のあり方について,観光地でインバウンドへの調 査と,香川県の観光業界への調査を実施し,インバウンドに分かりやすく利用してもらい,観光業界から も理解が得られる防災情報を提供するツールについて検討を行った.

Key words: foreign tourists, disaster prevention information, tourism industry, tourist information map, hazard map

1.はじめに

2016 年の訪日外国人旅行者(以下,インバウン ドと記す)数は,観光白書 1)によると,過去最高 であった 2015 年の 1,974 万人を更に上回り,2,404 万人(対前年比 21.8%増)となり,4 年連続で過去 最高を更新した.このような状況の下で,主要 20 市場のうち,ロシアを除く 19 市場が年間での過去最 高を記録した.特にアジアからのインバウンドは 2,010 万人で前年比 22.8%増となり,インバウンド 全体に占める割合は 83.6%に達した.香川県におい ては,前年度比全国 1 位の増加率 2)となっており 3 年に 1 度開催される「瀬戸内国際芸術祭」や「う どん食文化」などを目的に訪れるインバウンドが 増加したと思われる.これらインバウンドが増加 した背景には,台湾の格安航空会社(LCC)が台北 線(台北-高松間)を就航させたことが影響した とみられる. 一方,今後 30 年間で 70~80%の確率で発生する といわれる南海トラフ地震において,四国は甚大 な被害が想定されており,香川県は南海トラフ地 震発生時に四国の災害対応拠点としての機能が期 待されている.このため,香川県では,2012 年以 降県内在住外国人を要配慮者として位置づけ,地 域防災計画 3)において災害時の情報提供や,生活 に必要な物資や通訳などのニーズを把握すること が必要であるとしている.具体的には,外国人の ための防災ガイドブックを9 か国語で作成・配布す るとともに,外国人住民を対象にした防災・災害 時訓練等を実施している.しかしながら,インバ ウンドを対象とした防災情報提供については,十 分な対策が取られているとはいえない状況にある. インバウンドは,観光目的に来訪し,滞在期間も 2 ~3 泊と短いこともあり,防災情報の提供について 何をどのように伝えればよいのかについて,これ まで調査・分析・整理されたことがなく,観光業 界からの抵抗もあり,地方都市として効果的な方 法が示されるに至っていないのが現状である. インバウンドを対象とした防災情報提供に関す る研究は,Ryan Sayre4)や,天野5)があるものの,

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これらは,自然災害の発生場所や,自然災害の種 類を限定としたものであったり,さらには,首都 圏における SNS による防災のビジネスモデルであ ったりと,必ずしも地方都市のインバウンドへの 防災情報提供の汎用性において十分なものではな い.そこで本研究では,地方都市におけるインバ ウンド向けの観光情報と防災情報を融合した情報 提供ツールについて検討を行った.

2.インバウンドの防災に対する意識調査

インバウンドの情報の入手方法や,地震に関す る知識,地震災害発生後の観光の継続,地震災害 発生時の避難行動や避難標識の理解度,避難所に 対する認識,地震災害発生時のライフラインの状 況等,インバウンドの防災に対する意識調査をヒ アリング方式により実施した. (1) 調査の概要 ・実 施 日:2017 年 12 月 10 日(日) 11 時~16 時 ・実施場所:栗林公園(香川県高松市) 調査内容は,「回答者の属性」,「インバウン ドの情報の入手方法について」,「地震に関する 知識について」「地震発生後の観光の継続につい て」「避難行動について」の5 項目で構成し,これ を日本語,英語,中国語,韓国語で作成したアン ケート調査票を用い,ヒアリング方式により実施 した. (2) 調査結果 a)回答者の属性 日本語利用者 27 名,英語利用者(フランス,シ ンガポール,マカオなど)11 名,中国語利用者 (中国,台湾,香港など)22 名,韓国語利用者 3 名 , 合 計 63 名から回答を得られた.このうち 88.7%が観光を目的で香川県を訪れていた.年齢層 は,20~29 歳が 4%,30~39 歳が 6%,40~49 歳が 23%,50~59 歳が 28%,60~69 歳が 35%,70 歳~ が4%であった. b) インバウンドの防災情報の入手方法について 図-1 に滞在日数を示す.図-1 から,滞在日数は 2 日~3 日が多く,15%が一週間以上滞在すると回 答している.また,図-2,図-3 に滞在中の情報入 手方法を示す.図-2,図-3 から,日本人,インバ ウンドともに携帯電話(SNS)が多かった.しかし インバウンドはパンフレット(観光ガイドマップ 等)から情報を得る割合が高く,日本人が携帯電 話(SNS)の利用が顕著であることと対照的である. その他の内容は,ツアーガイドが近くにいる場合 はガイドに聞くや,自国の親族や知人に連絡する というもので,図-2,図-3 に示す携帯電話(SNS で調べる),人(旅行先の人々)に聞くの分類に 整理できない回答であった.また,地震に関する 情報を提供する時期を検討するために,インバウ ンドが地震発生のリスクをどの段階で意識してい るのかについて調査を実施した.図-4,図-5 に結 果を示す.図-4 から,旅行を計画する段階で 64% が地震発生のリスクを考えているという結果であ った.しかし,図-5 から,旅行中になると,地震 発生のリスクを考えている割合は 14%までに減少 している.旅行を計画する際には,地震が多く発 生する日本で自分が地震の被害に遭うかもしれな いと客観的に考えているが,旅行中は意識が観光 に集中し,地震発生の可能性を考えなくなるため, 図-1 香川県での滞在期間 図-2 日本人の情報入手方法 図-4 旅行の計画段階で地震発生の可能性 を意識していましたか 図-3 インバウンドの情報入手方法

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もしくは考えたくなくなると思われる.また,地 震防災情報も付加したパンフレットは 86%が必要 であるとしている(図-6 参照).次に,そのパン フレットをいつ入手したいかについての調査結果 を図-7 に示す.図-7 から,旅行前,入国時,飛行 機内と比較的早い段階での入手を希望しているこ とがわかった.また,宿泊施設も情報入手の場と 考えていることがわかった.一方で,観光地では パンフレットの需要は高くないことも示され,旅 行中に地震が発生すると思わないという割合が高 い(図-5 参照)ことからもわかるように,インバ ウンドは観光を楽しむことを主目的としており, 地震防災情報に関するパンフレットについては, 事前に目を通しておきたい,すなわち,観光地の 幅広い関連情報としての位置づけであると考える. c)地震に関する知識について 地震経験の有無についての調査結果を図-8,図-9 に示す.図-8 から,日本人は 85%が経験がある という結果であった.図-9 から,インバウンドは 経験ありが 39%と地震経験のない割合が高い結果 であった. 次 に , 地 震 発 生 時 に ラ イフ ラ イ ン の 電 気 ( 停 電 ) ,水 道( 断水 ), 道路 ( 通行 止め ), 電話 (不通等)が停止する可能性についての認識につ いて調査を実施した.結果を表-1 に示す.表-1 か ら,日本人は全てのライフラインにおいて,概ね 90%以上が停止の可能性があると回答していたが, インバウンドではその割合は60%~80%台と低くな っている.しかし,地震経験のあるインバウンド は 39%であったことを考えると,地震経験はない が,地震発生時にはライフラインが停止する可能 性があると認識しているということがわかった. d) 地震が発生した時の観光の継続について 地震発生後に観光を継続するかについての調査 結果を図-10 に示す.図-10 から,「安全が確認で きれば続ける」が最も多く,次に多いのは「すぐ に帰国する」,次いで「中止する」の順であった. このことから,地震発生後,「観光を続けたい」 と思うインバウンドに対して安全情報を提供する ことが重要であると考える.また,「中止する」 「すぐに帰国する」というインバウンドに対して は,地震の影響によって帰国できないことによる 混乱も考えられる.このような考えのインバウン ドには,電車やバス,航空機などの交通インフラ 図-5 旅行中に地震が発生すると思いますか 図-6 地震防災情報に関するパンフレットが 必要だと思いますか 図-8 地震経験の有無(日本人) 図-9 地震経験の有無(インバウンド) 日本人 インバウンド 停電 96.2 67.7 断水 96.2 71.0 道路の通行止め 88.5 66.7 電話の不通 96.2 83.9 問:地震発生時に以下の事象が発生すると思いますか? (YESと答えた人の割合) 表-1 地震発生時におけるライフライン停止の 可能性(YES と回答した割合) 図-7 地震防災情報も付加したパンフレットを 入手したい時期

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の運行状況情報を正しく迅速に提供することが重 要になる.これらのことから,インバウンドが必 要としている様々な情報を正確かつ迅速に提供す る必要があることがわかった. e) 避難行動について 発災時に避難行動をとるにあたって,避難標識 の理解は非常に重要である.しかし,国際規格の 避難標識はなく,日本の避難標識の意味について インバウンドがどれだけ理解しているかを把握す るために,代表的な避難標識とその意味をランダ ムに表示し,避難標識の意味を選択してもらう方 法で理解度の調査を実施した.本来は,選択方式 ではなく対象者による記述方式がよいが,以前記 述方式で調査した際,回答に手間がかかるため, 途中で回答を中止されることが多くあったことか ら,今回は選択方式で実施した. 結果を表-2 に示す.表-2 から,全般的には日本 人 の 方が 正答 率は 高く なっ て いる が, なか には 「津波・高潮」のように日本人の正答率がインバ ウンドよりも低くなっているものがあるなど,日 本人,インバウンドともに避難標識の理解度が十 分とはいえないことがわかった. 避難所に対する認識について日本人とインバウ ンドとの間に違いがあるかについて調査を実施し た.日本人の避難所に対する認識を図-11 に示す. 図-11 から,日本人は36%が避難所は安心できる場 所だと考えていた.なかには,仕方がないから行 くといった回答や,行かないという回答もみられ た.インバウンドの避難所に対する印象を図-12 に 示す.図-12 から,インバウンドは90%が避難所は 安心できる場所だと考えていた.また,避難所で 食料を確保できるかについて日本人とインバウン ドとの間に認識の違いがあるかについて調査を実 施した(図-13,図-14 参照).図-13 から,日本 人は避難所で食料を確保できると考えている割合 が35%に対して,図-14 に示すようにインバウンド は避難所で食料を確保できると考えている割合が 90%近くいた.これらのことから,避難所に対する 認識については,日本人とインバウンドの間に大 きな考え方の違いがあることが確認できた.発災 時に避難所がインバウンドが考えているように安 心できる場であるとは,東日本大震災や熊本地震 の経験から,断言できないのが現状である.これ 日本人 インバウンド 避難標識理解度(正答率) 80.0 57.1 78.6 46.4 92.0 76.0 60.7 64.0 避難所 津波・高潮 津波避難所 津波避難ビル 避 難 標 識 表-2 避難標識の理解度(正答率) 図-12 避難所に対する認識(インバウンド) 図-10 地震発生後の観光継続について 図-11 避難所に対する認識(日本人) 図-14 避難所で食料確保できると思いますか (インバウンド) 図-13 避難所で食料確保できると思いますか (日本人)

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らのことから,被災時には日本人とインバウンド の考え方の違いにより避難所での混乱が生じる可 能性があることがわかった. 以上のことから,インバウンドは地震防災情報 に関するパンフレットを必要とする割合は高いが それを観光時に携帯している可能性は低いことを 示している.また,「安全が確認できれば観光を 続ける」や,避難所を安心できる場所だと考えて おり,これらに関する情報の提供が必要であるこ とがわかった.

3.インバウンドへの防災対策の状況

3-1 香川県(行政)の現状 香川県における 2016 年のインバウンドの延べ宿 泊者数は約358 千人であり,直近 5 年間の増加率は 全国1 位の 9.8 倍となるなど,香川県を訪れるイン バウンドは増加している 2).一方で,南海トラフ 地震やそれに伴う津波による災害,豪雨による洪 水・土砂災害などの発生リスクは高まってきてお り,増加するインバウンドへの防災対策が重要な 課題となってきている.このため,香川県では, 観光・宿泊施設や交通事業者等を対象に,自然災 害をはじめとした「インバウンド受入時の危機管 理」などをテーマとする「インバウンド講習会」 を開催して,防災対策についての意識啓発に努め ている.また,香川県観光協会の HP6)では,緊急 時の対応として「Safety tips」へのリンクを外国語 で記載するなどの一般的な対策を実施している状 況である. 3-2 観光業界の現状 香川県における観光業界のインバウンドへの防 災対策の取り組み状況や,災害が起きた時の宿泊 客への対応,ホテルが使えない場合,宿泊客の避 難所への誘導,ハザード(津波や高潮の浸水エリ ア)を記載したマップの提供に対する考え方を把 握するため,宿泊施設運営者に対してヒアリング 方式により調査を実施した. (1) 調査の概要 ・実 施 日:2017 年 12 月 18 日(月) 13 時~16 時 ・実施場所:高松ホテル旅館料理協同組合 ・対 象 者:香川県ホテル旅館生活同業組合員 参加した組合員を表-3 に示す.オブザーバーと して香川県交流推進部国際観光推進室長補佐が 参加 ・調査の内容は,「現在の防災への取り組み状 況」,「災害が起きた時の宿泊客への対応」, 「ホテルが使えない場合の宿泊客の誘導」など についてヒアリング方式により実施した. (2) 調査結果 a) 現在の防災への取り組み状況 ・香川県ホテル旅館生活同業組合で行っている取 組を調査した結果,県内のホテル等の位置をま とめたパンフレットの作成(図-15 参照)や,高松 市の観光名所等を手のひらサイズにまとめた観光 マ ッ プ を 香 川 県 等 か ら の 補 助 制 度 を 活 用 し 作成(図-16-1,2 参照)しており,防災情報のパ 図-16-2 観光ガイドマップ(広げた状態) 図-15 県内宿泊施設位置図 図-16-1 観光ガイドマップ(折畳んだ状態) 7.5cm×7.5cm ポストイット 表-3 ヒアリング対象組合員 所 属 役 職 経営等しているホテル名 日本旅館協会 香川県支部 支部長 高松ターミナルホテル 香川県ホテル旅館生活同業組合 副理事長 ホテルニュー海風 香川県ホテル旅館生活同業組合 副専務理事 高松シティホテル 香川県ホテル旅館生活同業組合 理事 ホテル福屋 香川県ホテル旅館生活同業組合 理事 BH 東宝イン高松 香川県ホテル旅館生活同業組合 理事 ビーチサイドホテル鹿島荘 香川県ホテル旅館生活同業組合 会員 オーキドホテル 香川県ホテル旅館生活同業組合 会員 琴平グランドホテル

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ンフレットも手のひらサイズで作成したら,イ ンバウンドも持ち運びしやすく利用してもらえ るのではないかとの提案があった. ・防災関係で作成しているツールとしては,厚生 労 働 省 の 補 助 制 度 「 生 活衛 生 関 係 営 業 対 策 事 業」7)を活用して,宿泊施設内での火災・地震時 に関する行動を記載したパンフレット(図-17 参 照 ) を 作 成 し , 希 望 す る組 合 員 ( ホ テ ル ・ 旅 館)に配付している. ・都市部のホテルや全国展開の大規模ホテルでは インバウンド向けのスマートフォンを貸し出し するサービスをしているが,地方のホテルや旅 館では自前の予算がなく,コスト面から難しい. このため,行政からの補助制度で対応できるコ ストがかからない方法でないと実施は難しい. b) 災害が起きた時の宿泊客への対応 ・2004 年の高潮災害にあったときは,停電したた め,宿泊者に系列のホテルへ移動してもらった. ・従業員が出勤するか分からないのでどこまで対 応できるかはわからない(BCP は未策定). ・停電していなければ受け入れ,停電していれば 避難所へ誘導することとしている. ・ライフラインの状況に応じての判断になる. ・宿泊客には部屋にいるように伝える. c) ホテルが使えない場合における宿泊客の避難所 への誘導について ・避難所への案内は,避難所が溢れるかもしれな いので自治体と話さないといけない. ・避難所へは誘導せず,ホテルの空いたスペース にいてもらう. ・避難所は,インバウンドには厳しい場所と思う. d) その他、ホテル経営者等からあった意見 ・ホテルの従業員は,インバウンドの扱いに慣れ ており,ホテルは災害時のインバウンドに対し ての情報センターになり得る.このためには, 行政機関からホテルへ交通機関の運行状況など の情報をいかに迅速にもらうかが課題である. ・インバウンドの個人観光客への対応は、ホテル がいちばん適していると思う.災害発生時はイ ンバウンドの避難拠点になるのではないか. ・観光ガイドマップにハザード(津波や高潮の浸 水エリア)を記載することは,営業的には避け てもらいたい. (3) 調査結果の分析 調査結果から,インバウンドへの防災情報の提 供のあり方に関する内容を以下に整理した. 提供する防災情報としてハザード(津波や高潮 の浸水エリア)などの表示は客が来なくなること から避けてもらいたい.また,香川県ホテル旅館協 同組合の会員は中小企業であり,自前の予算がな いことから,現在作成している観光ガイドマップ やパンフレットも,行政からの補助制度で実施し ている.防災情報提供だけのパンフレットを別途 作成することや,都市部のホテルや大規模ホテル で実施しているインバウンド向けのスマートフォ ンを貸し出しするサービスはなどは,コストがか かり難しい.行政からの補助制度内で対応できる コストがかからない方法でなければならない.そ して,観光ガイドマップやパンフレットを作成し た経験から,防災のパンフレットも手のひらサイ ズで作成した方が,インバウンドが持ち運びしや すく利用される.

4.観光ガイドマップと防災情報を融合した

情報ツールの提案

本章では,インバウンドおよび観光業界への調 査結果から,インバウンドが必要とする防災情報 の提供ツールについて検討する. (1) 防災情報提供ツール作成の基本方針 インバウンドおよび観光業界への調査結果から 防災情報提供ツール作成の基本方針として,多く のインバウンドに利用してもらえること,観光を 楽しむというインバウンドの本来の来訪目的に沿 った防災情報提供ツールの提案とする.このため, 情報の内容はあくまでも観光情報をメインで記載 し,必要最低限の防災情報を併せて記載すること で,観光を楽しみつつ突発的な被災(例えば,地 震災害)に役立つ防災情報内容とすることとした. また,地方のホテルや旅館では自前の予算がな いため,行政からの補助制度で対応できるコスト がかからない防災情報の提供ツールとすることと した. (2) 防災情報提供ツールの提供場所 インバウンドが望む情報入手のタイミングとし ては,旅行前,入国時,飛行機内といずれも目的 地に入る前となっているが,それでは広範囲のア バウトな情報になってしまうこと,あまり早く入 手してしまうと観光時には手元にない可能性があ ることが考えられる.また,調査の結果からも宿 泊施設を情報入手の場と考えていることが明らか になっており,宿泊施設近隣の観光地を探す際に 手に取ってもらうことを考えると,観光中にも手 図-17 火災・地震時の行動パンフレット

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元にあり,予想外の突発的な被災の際に役立つと 考える.これらを考慮して,観光地および観光地 へ向かう直前に宿泊したホテルが適切であると考 える. (3) 防災情報提供ツールの作成 a) 防災情報提供ツールの媒体 インバウンドの情報入手ツールは,パンフレッ トの割合が高く,低コストな情報媒体とすること を考え紙媒体とする.これにより,観光ガイドマ ップのように小さく折りたたみ携帯することがで き,観光の邪魔にならず,さらに作成コストの削 減にもつながり,より防災情報提供ツールとして 実効性を高めることができると考える. b) 防災情報提供ツールの内容 現在作成され設置されている観光ガイドマップ に,防災情報をレイヤリングする.防災情報は, インバウンドに観光気分を害する不安情報である とともに,観光業界からの抵抗があるハザード情 報ではなく,災害発生時に避難するための避難標 識および言語での補完説明(図-18 参照),そして 避難所の場所を記載したマップとし,言語は,需 要の高い英語,中国語,韓国語で作成する.図-19 に英語表記の観光情報と防災情報を融合した情報 提供ツールを示す. 避難所の具体的な表示について,ホテル経営者 等から,インバウンドの個人観光客への対応は, ホテルがいちばん適しており,避難拠点になるの ではないかとの意見があった.一方で,行政機関 から参加した香川県交流推進部国際観光推進室長 補佐から,行政として現時点では,救援物資の配 布は公的避難所が優先されることや,全てのホテ ル経営者がインバウンドの受け入れに同意してい ない現状では,避難所としてホテルの記載は当面 避けてはという意見が出された.これらに鑑み, インバウンドの受け入れが可能なホテルはインバ ウンドに対しての個別サービスの位置づけとし, 観光情報と防災情報を融合した情報提供ツールに は,避難所としてのホテルは記載しないことから 始めることとした.今後,発災時にインバウンド の受け入れが可能なホテルについては,香川県ホ テル旅館生活同業組合員のコンセンサスを取ると ともに香川県交流推進部国際観光推進室とのコン センサスを得て逐次掲示することとした.

5.観光情報と防災情報をレイヤリングした

ガイドマップについて有効性の検証

作成した観光情報と防災情報を融合した提供ツ ールがインバウンドに対して役立つ内容なのかに ついて検証するため,観光情報のみのガイドマッ プと,観光情報に防災情報をレイヤリングしたガ マップ(図-19)についての意見調査を観光地でイン バウンドへのヒアリング方式により実施した. また,香川県観光業界(香川県ホテル旅館生活 同業組合員)および,香川県交推進部国際観光推 進室の意見についてもヒアリング方式で実施した (1) インバウンドへの意見調査の概要 ・実 施 日:2018 年 5 月 5 日(土)10 時~16 時 ・実施場所:栗林公園(香川県高松市) 調査内容は,「回答者の属性」,「観光情報に 防災情報をレイヤリングしたガイドマップについ ての意見」(観光情報のみのガイドマップと防災 情報をレイヤリングしたマップを表示し,それに 対する意見)を調査した.内容は「観光情報に災 害が発生した場合の避難所が記載されていること は安心できる」,「観光情報だけでよい」,「ど ちらでもよい」について英語,中国語,韓国語で 作成したアンケート調査票を用い,ヒアリング方 式により実施した. (2) インバウンドへの調査結果 a) 回答者の属性 英語利用者(フランス,シンガポール,マカオ など)38 名,中国語利用者(中国,台湾,香港な ど)42 名,韓国語利用者 18 名,合計 95 名から回 答を得られた.このうち91.3%が観光を目的で香川 県を訪ねていた.年齢層は,20~29 歳が 6%,30~ 39 歳が 9%,40~49 歳が 24%,50~59 歳が 27%, 60~69 歳が 25%,70 歳~が 9%であった. b) 観光情報に防災情報をレイヤリングしたガイド マップについて 図-20 に「観光情報に防災情報をレイヤリングし たガイドマップについての意見」のヒアリング結 果を示す.図-20 から以下のことが明らかになった. ・「観光情報に災害が発生した場合の避難所が記 図-19 観光情報と防災情報を融合した 情報提供ツール案(英語版) 図-18 防災標識の説明(英語版)

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載されていることは安心できる」が,英語圏で 91%,中国語圏で 86%,韓国語圏で 83%であっ た. ・「観光情報だけでよい」は,英語圏で6%,中国 語圏で9%,韓国語圏で 11%であった. ・「どちらでもよい」は,英語圏で3%,中国語圏 で5%,韓国語圏で 6%であった. 観光情報と防災情報を融合した提供ツールにつ いては,83~91%が安心できるとしている. (3) 観光業界への調査結果 観光ガイドマップに,防災情報をレイヤリング することは,ともすればインバウンドの観光気分 を害する不安情報になりかねないことである.こ のため,観光業界からの抵抗があるハザード情報 ではなく,避難時に避難するための避難標識およ び言語での補完説明(図-18 参照)と,避難所の場 所を記載した観光情報と防災安全情報をレイヤリ ングしたマップ(図-19 参照)について,香川県観 光業界(香川県ホテル旅館生活同業組合員)およ び香川県交流推進部国際観光推進室の意見調査を ヒアリング方式により実施した(・実施日:2018 年5 月 7 日(月) 13 時~15 時,・実施場所:高松ホ テル旅館料理協同組合,・対象者:香川県ホテル 旅館生活同業組合員,香川県交流推進部国際観光 推進室長補佐).調査の結果,低コストで手間も かからず行政からの補助制度で対応可能であると ともに,万が一の避難場所まで表記することでイ ンバウンドが安心して観光に来れるものであり, 従来の観光情報だけのガイドマップよりもさらに よいとの意見であった. (4) 調査結果の分析 防災情報提供ツールに対するインバウンドへの 調査から,「観光情報に災害が発生した場合の避 難所が記載されていることは安心できる」の全体 の割合は 87%であった.これは,2017 年 12 月 10 日に栗林公園でインバウンドを対象に実施した調 査で,地震防災情報に関するパンフレットは 86% が必要であるという割合とほぼ一致している.一 方で,「観光情報だけでよい」は 9%,「どちらで もよい」は 4%あり,防災に関心のない層もいるこ とがわかった. 香川県観光業界および香川県交流推進部国際観 光推進室への調査から,災害発生時に避難するた めの避難標識および言語での補完説明と,避難所 の場所を記載した観光情報と防災安全情報をレイ ヤリングしたマップについては,低コストで手間 もかからず,万が一の避難場所を表記することで インバウンドが安心して観光に来れるものであり 従来の観光情報だけのガイドマップよりもさらに よいとの意見であった. (4) 避難所など被災者支援施設でのインバウンド対 応の新たな課題 a) インバウンドの避難所での受け入れに対する現 状の課題 香川県高松市が作成している避難所運営マニュ アル(平成 30 年 1 月改訂)8)にもインバウンドへ の対応については表記がされていない.また,文 部科学省から各都道府県教育委員会に 2017 年 1 月 20 日通知された「大規模災害時の学校における避 難 所 運営 の協 力に 関す る留 意 事項 につ いて (通 知)」9)に基づき,香川県教育委員会が香川県危機 管理課と共同で学校における避難所運営マニュア ルを作成しているが,インバウンドへの対応につ いては表記されていない.さらに,高松市自主防 災組織連絡協議会へのヒアリングによると,避難 所運営では,インバウンドの受け入れまでは考え ておらず,運営側の中心が高齢者層が多いことか ら,まずは言葉の違いから意思疎通で混乱が予想 されるとのことであった.このように災害が発生 しインバウンドが観光ガイドマップに防災情報と して併記されている近くの避難所に避難した場合 言葉の問題や習慣や宗教の問題から避難所運営側 が適切に対応出来るかについては,現時点の状況 をみれば課題がある. b) 防災及び観光行政機関と民間の観光業界の意識 改革と相互連携の必要性 瀬戸内海の島々などを舞台に 2010 年から開催さ れている「瀬戸内国際芸術祭」のような“国際芸 術祭”と銘打ったイベント開催の状況と,香川県 へのインバウンドの増加を考えれば,自然災害リ スク対応のメッセージをタイムリーかつ正確にイ ンバウンドへ伝える責務が,国際的にも求められ てきていると考える. 今後,避難所を開設する行政の危機管理部局と 観光客の誘致を推進する観光部局および,民間の 観光業界さらには,避難所を運営する地域住民が 横断的に連携したインバウンドの受け入れ体制作 りを早急に推進する必要があると考える.

6.おわりに

本研究において,インバウンドに対する調査で は,旅行中に地震が発生すると考えている割合は わずか 14%あった.また,観光地では,地震に関 6 11 83 5 9 86 3 6 91 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 ③ ② ① ③ ② ① ③ ② ① 韓国語圏 中国語圏 英語圏 凡 例 : ①避難所が記載されていることは安心 ②観光情報だけでよい ③どちらでもよい 図-20 観光情報に防災情報をレイヤリング したガイドマップに対する意見結果

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するパンフレットを設置しても目を向ける人は少 ないという結果が得られた.観光ガイドマップに は,観光地とグルメ情報や特産品販売店情報はセ ットで掲載されることが多い.しかしながら,災 害大国であるわが国の実状,特に南海トラフ地震 の発生確率が今後 30 年間で 70~80%であることを 考えれば,突発型災害である地震発生時の避難情 報はしっかりと土地勘のないインバウンドに伝え ることが国際的責務と考える. これらに鑑み,本研究では,インバウンド向け 防災情報の提供ツールとして作成・検証した観光 ガイドマップと防災情報を融合したマップは,イ ンバウンドおよび防災情報提供に消極的であった 観光業界ともによい評価が得られた.提供する防 災情報の内容は,インバウンドの観光気分を損な わないように配慮し,発災時に必要最小限の防災 情報として避難標識や避難所情報に特化した.ま た,情報伝達の媒体は,インバウンドが情報入手 方法としてパンフレットの利用が高いことに着目 し,コンパクトで携帯でき作成コストも低い紙媒 体とした.現在は,ネット社会で必要な情報はタ イムリーに得られると思いがちであるが,南海ト ラフ地震が発生した場合,これらの情報媒体から 地方都市のローカル情報が,タイムリーかつ正確 に得られるかは疑問のあるところである.紙媒体 というローテク技術を用い,観光情報と発災時の 防災行動の情報を融合させたツールはインバウン ドにとって有効であると考える. この防災情報の提供ツールが,多くの方に理解 され,今後の地方都市における観光および防災に 活用されること,また,明らかになったインバウ ンドが求める多様な防災情報を適切に提供できる 情報提供環境が整備されることを期待する.さら に,行政の危機管理部局と観光客の誘致を推進す る観光部局および,民間の観光業界さらには,地 域住民が横断的に連携し,避難所やその他施設の 運営において,インバウンドと日本人との考え方 の違いを考慮した,インバウンドの受け入れ体制 作りを早急に推進する必要があると考える.

謝辞

今回の栗林公園でのインバウンドへのヒアリン グ調査にあたっては,栗林公園観光事務所および 「 香 川県 技術 士会 ・か がわ 防 災 技 術研 究会 」, 「四国遍路の心でつなぐ防災教育研究会」ならび に㈱四電技術コンサルタントの皆様に協力を頂い ている.また,香川県ホテル旅館生活衛生同業組 合の皆様には,貴重なご意見と関連する資料をご 提供いただきました.ここに記して御礼申し上げ ます.

参考文献

1) 国土交通省観光庁:平成 29 年版観光白書について, 平成29 年 5 月, http://www.mlit.go.jp/common/001186623.pdf(最終閲 覧:2018.4.11) 2) 香川県 HP:香川県広報誌 THE かがわ平成 29 年 7 月 号 ,http://www.pref.kagawa.lg.jp/kohosi/1707/tokusyu.ht ml(最終閲覧:2018.4.11) 3) 香川県 HP :香川県地域防災計画(平成 30 年 1 月修 正), http://www.pref.kagawa.lg.jp/content/dir8/dir8_1/dir8_1_ 3/w4213c180105230812.shtml(最終閲覧:2018.5.25) 4) Ryan Sayre,杉原英和:外国人観光客にとっての箱根 の地震・火山防災対策に関する一考察,神奈川県温 泉地学研究所観測だより61 号,pp.17-26, 2011.(最 終閲覧:2018.6.10) 5)天野徹:インバウンドを想定した大規模災害の対策に ついて,第 8 回横幹連合コンファレンス,立命館大 学,A-2-3,2017.12(最終閲覧:2018.6.10) 6)香川県観光協会の HP(英語表示)), https://www.my-kagawa.jp/en/(最終閲覧:2018.5.20) 7)厚生労働省 HP:生活衛生関係営業地域活性化連携事 業の実施について, 平成 26 年 4 月 30 日 http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0507_15.pdf(最終閲覧:2018.5.20) 8)高松市:避難所運営マニュアル(大規模災害時)(平 成30 年 1 月修正) http://www.city.takamatsu.kagawa.jp/kurashi/kurashi/sho bo/sonae/hinanjyo_unei.html(最終閲覧:2018.5.20) 9)文部科学省:「大規模災害時の学校における避難所運 営の協力に関する留意事項について(通知)」, http//www.pref.osaka.lg.jp/attach/6686/00239843/03_28m onnkasyo1353_daisaigai_.pdf(最終閲覧:2018.5.25) (2018.7.6 受付)

STUDY ON PROVIDING TOOLS COMBINING TOURIST INFORMATION AND

DISASTER PREVENTION INFORMATION FOR INBOUND IN LOCAL CITIES

Hirohiko IWAHARA, Wataru SHIRAKI and Misaki ISHI

The probability of occurrence of the Nankai Trough Earthquake is said to be 70 to 80% in the next 30 years. In Shikoku district where enormous damage is expected, it is necessary to provide accurate disaster prevention information according to regional characteristics to foreign travelers. The inbound to Kagawa prefecture is the nationwide highest rate of increase (compared to the previous year) in FY 2016. Howev-er, provision of disaster information such as hazard maps is negative image information from the tourism

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industry, it is not aggressive.

Therefore, we conducted surveys at tourist spots for inbound and survey on the tourism industry in Kagawa prefecture on how to effectively provide tourism information and disaster prevention infor-mation. In this paper, we show the result of examining the tool which provides disaster information which understand from the tourism industry easily in inbound use.

参照

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