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はじめに
心不全患者数は増加し続けすでに心不全パンデミック とさえいわれている.このような状況に対応するために は,実臨床の状況をしっかりと把握することが重要であ る.実態を把握するために心不全の疫学研究をいろいろ な角度から行っていく必要がある.日本で行われた代表 的な心不全疫学研究から明らかにされた結果を総括し, 今後の心不全の臨床研究の方向性を展望する.●
入院を要した心不全患者の予後と疫学研究の
意義
急性心不全の疫学研究である ATTEND レジスト リーにより,₁ 年予後は約 ₂₀%,心不全再入院を加える と退院後 ₁ 年以内に約 ₄₀%の患者がイベントを起こし ていることが明らかになった₁).J︲CARECARD によっ て慢性心不全の急性増悪で入院した患者において高齢者 ほど予後不良であることも示されている₂).慢性心不全 のうち収縮不全の患者は標準的治療が確立され,ガイド ラインに準じた治療が行われれば予後が改善することが さまざまな研究で示されているが,日本においての東北 地区の疫学研究 CHART₁ と ₂ 試験の比較から米国心臓 協会の慢性心不全分類のステージCあるいはDの患者の 予後は改善してきていることが示されている₃).このよ うに疫学研究によって,ある一定の間隔でガイドライン 遵守によって予後が改善してきているかを検証して,次 のガイドラインに活かすことは極めて重要であると考え られる.●
時間軸を念頭においた急性期治療
心原性肺水腫は急性心不全の主要病態であり,急性心 不全で入院する患者の約 ₆ 割が起座呼吸を呈しているこ とが明らかにされている₄).救急隊が患者の元にたどり 着いた時にすでに多くの低酸素血症であり,発症から入 院が早いほど予後の独立した規定因子である収縮期血圧 が維持されており,予後は良好であることを示唆する研 究結果がある₅).また,搬送時間も急性心不全患者の予 後に影響を与え,東京 CCU ネットワークのデータによ れば,₄₅ 分を超えて搬送されると院内死亡率はほぼ倍に 跳ね上がることが明らかにされた₆).このような背景か ら推測するに,患者が病院にたどり着いてからも,より 迅速に治療を開始することが予後に関連する可能性があ ることが想定される.実際,ADHERE レジストリーの データによると血管作動薬(強心薬あるいは血管拡張薬) による治療が遅れるほど,院内死亡率が高くなる₇). 以上のような背景を踏まえて,Mebazaa A を中心とし た心不全専門家が集い図 1 に示すように急性期治療の指 針が提案された₈).このような指針を念頭において,急 性期治療に関して治療にあたる関係者すべてが,“時間 軸”を意識することで少なからず入院期間短縮や予後改 善につながると考えられる.●
血行動態的うっ血の改善も重要
心不全は,そのリスク因子があると徐々に心臓に機能 的かつ構造的に変化をきたしてくる.それを代償するた めに神経体液性因子が賦活されるが,それが悪循環の始 まりになる.つまり,亢進した神経体液性因子が心筋障 害をもたらし,血行動態的うっ血を引き起こし,それを 代償しようとさらなる神経体液性因子の賦活化が起こ る.そこで代償機転が破綻すると臨床的うっ血として患 者は心不全症状を発症し入院することになる.このよう な一連の流れを打破するためには,まず臨床的うっ血を 改善することが重要である.しかし,それのみでは不十 分で可能な限り血行動態的うっ血の改善が必要である.わが国の心不全レジストリー
Heart Failure Registries in Japan
佐藤直樹
日本医科大学武蔵小杉病院循環器内科・集中治療室
Cardiology and Intensive Care Unit, Nippon Medical School Musashi-Kosugi Hospital Naoki Sato
● 第50回 河口湖心臓討論会
急性心不全管理において,血行動態評価の標準的方法で ある肺動脈カテーテルによる方法は,昨今では,ガイド ラインでルーチンで行うことはクラスⅢと規定されてい るために行われなくなっている.しかし,病態把握が困 難である場合にはいまだに利用されている.このような 状況下で用いられた肺動脈カテーテルによる血行動態評 価は予後改善に結びつくのではないかと想定される.そ の仮説を検証するために ATTEND レジストリーの データで解析したところ,確かに肺動脈カテーテルで評 価を行ったほうが,予後良好であることが示された(図 2).●
予後の観点からの腎機能と貧血の重要性
心不全において急性でも慢性でも腎機能障害は予後に 大きく影響を与える.ATTEND レジストリーで腎機能 障害が予後に影響を与えることが確認されているが,重 要なことはサブグループ解析をしてみると年齢,性別, 腎灌流,腎うっ血に関連するいかなるサブグループにお いても腎機能障害は短期予後に影響を与えることが明ら かになった₁₀).腎機能に関しては,糸球体濾過量のみな らず尿たんぱく量あるいは尿中アルブミン量も重要であ る.左室駆出率が温存された心不全において,このこと が CHART₂ 研究により示された₁₁).さらに,腎機能障 害は貧血とも関連し,貧血は予後の規定因子ともいわれ る鉄欠乏にも関係する.したがって,心不全予後を検討 するときに貧血の有無については念頭に置かなければな らず,これも J︲CARECARD,ATTEND,CHART₂ の いずれの疫学研究でも示されている.さらに,これらの 疫学研究結果から貧血の意味する臨床的意義は心機能に よって異なり,左室駆出率が温存されている心不全で予 図 1 急性心不全における時間軸を念頭においた急性期対応 (参考文献 ₈ より一部改変) TRIAGE in the ED based on: Signs of hypoperfusion BP, HR RR, SpO2 TemperatureHemodynamically stable Hypoperfusion, sBP<90 mmHgHemodynamically unstable
< 15 m in 1s t h ou r 2n d ho ur No respiratory distress Respiratory distress NIV of invasive ventilation Clinical exam ECG Lab tests Echo(lung, cardiac) X-ray Start Ⅳ therapies Vasodilators +/− Diuretics Reassessment 60-90 min NOT improved improved Signs of hypoperfusion BP, HR RR, SpO2 Temperature WARD HOME STEMI ACS CATH LAB ICU/CCU
Cardiogenic shock Low output HF
Follow-up in 7 days by GP or cardiologist
後規定因子としての意義が多く,さらに虚血性心疾患で その意義が大きいことが示されている.
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長い日本の入院期間
日本の心不全患者の入院期間は,JCARE︲CARD では 中央値で ₁₅ 日,ATTEND では ₂₁ 日と欧米に比して極 めて長い傾向にある.これは,心不全治療のみでこれだ け入院期間が長いわけではなく,その後の教育や高齢者 が多い故の社会的要因等々によると考えられる.残念な ことに入院期間が長いことで予後改善に結びついている わけではなく,今後,医療経済的あるいは高齢者のフレ イリティの観点からも改善していくべき重要な課題とい る.目標とする入院期間がどの程度が妥当であるのかは 今後の課題であるが,安全性の観点から入院期間中の突 然死について検討してみると,入院後 ₂ 週間以内にほと んどの突然死が起こっている₁₂).このことより,まずは ₁₄ 日を目指して入院期間を短縮するのが妥当ではない かと考えられた.●
低ナトリウム血症を伴う心不全の予後改善は
重要
多くの疫学研究で低ナトリウム血症は独立した予後規 定因子であることが示されている.その原因は,バソプ レシンを代表とする体液性因子の変化によるものとそれ 以外に利尿薬等の使用による医原性による要素も含まれ ている.したがって,単一的に低ナトリウム血症の改善 を目指しても予後改善には結びつきにくいと考えられ る.日本において ₅ 年前に使用可能となった水利尿薬の トルバプタンは低ナトリウム血症の改善をもたらし予後 改善に貢献する可能性が示唆されている.そこで,我々 は低ナトリウム血症を合併する心不全患者に対してトル バプタンを使用した患者の前向き多施設共同観察研究 (MT FUJI 試験:NCT₀₁₆₃₅₅₁₇)を行った.さらに,こ の結果を元に前向きの研究を予定している.●
今後の治験における施設選定の重要性
過去 ₂₀ 年以上にわたり予後改善という観点から急性 心不全の予後改善をもたらす薬剤は開発されていない. この原因に関してさまざまな検討が行われている.この 検討の結果より,ひとつ重要な課題が注目されている. それは,治験あるいは臨床試験の参加施設の特性や質で ある₁₃).実際,ATTEND レジストリーに参加した ₅₃ 施 設の入院時収縮期血圧のデータの分布を検討してみると 極めて大きなばらつきがあった.このような観点から, 図 2 急性心不全における時間軸を念頭においた急性期対応 PAC, pulmonary artery catheter(参考文献 ₉ より一部改変) Loglank test : =0. 003 C um ul at iv e P ro 0 3 6 9 12 15 Follow-up(days) 18 21 24 27 30 502 502 501 502 493 502 486 499 476 495 468 487 458 479 454 475 444 470 437 464 429 464 4% 2% 0% Control group PAC group Control PAC
● 第50回 河口湖心臓討論会
新規薬剤が開発された際,その薬剤の特性にあった対象 が多く存在する施設を適切に選定することが試験の質を 高め,より効率よく試験を終了することができると考え られる.今後の治験や臨床試験において念頭におくべき 重要なポイントである.●
まとめ
以上のようにさまざまな角度から解析された疫学研究 の結果から学ぶことは極めて多く,これをもとに新たな 問題点を熟考し,より良い心不全診療に結び付けていく ことが大切である.今後もこのようなアプローチにより, 心不全に関する未解決の課題を解決し,日本から世界に 発信できるエビデンスを構築していきたいと考えている. 文 献₁) Kajimoto K, Sato N, Sakata Y, et al:Relationship be-tween systolic blood pressure and preserved or re-duced ejection fraction at admission in patients hospi-talized for acute heart failure syndromes. Int J Cardiol ₂₀₁₃;168:₄₇₉₀︲₄₇₉₅
₂) Hamaguchi S, Kinugawa S, Goto D, et al:Predictors of long︲term outcomes in elderly patients over ₈₀ years hospitalized with heart failure. Circ J ₂₀₁₁;75:₂₄₀₃︲ ₂₄₁₀
₃) Ushigome R, Sakata Y, Nochioka K, et al:Temporal trends in clinical characteristics, management and prognosis of patients with symptomatic heart failure in Japan. Report from the CHART studies. Circ J ₂₀₁₅; 79:₂₃₉₆︲₂₄₀₇
₄) Sato N, Kajimoto K, Keida T, et al:Clinical features and outcome in hospitalized heart failure in Japan (from the ATTEND Registry). Circ J ₂₀₁₃;77:₉₄₄︲₉₅₁
₅) Shiraishi Y, Kohsaka S, Harada K, et al:Time Interval from Symptom Onset to Hospital Care in Patients with Acute Heart Failure:A Report from the Tokyo Cardi-ac Care Unit Network Emergency Medical Service Da-tabase. PLoS One ₂₀₁₅;10:e₀₁₄₂₀₁₇
₆) Takahashi M, Kohsaka S, Miyata H, et al:Association between prehospital time interval and short︲term out-come in acute heart failure patients. J Card Fail ₂₀₁₁; 17:₇₄₂︲₇₄₇
₇) Peacock WF, Emerman C, Costanzo MR, et al:Early vasoactive drugs improve heart failure outcomes. Con-gest Heart Fail ₂₀₀₉;15:₂₅₆︲₂₆₄
₈) Mebazza A, Tolppanen H, Mueller C, et al:Acute heart failure and cardiogenic shock:a multidisciplinary prac-tical guidance. Intensive Care Med ₂₀₁₆;42:₁₄₇︲₁₆₃ ₉) Sotomi Y, Sato N, Kajimoto K, et al:Impact of
pulmo-nary artery catheter on outcome in patients with acute heart failure syndromes with hypotension or receiving
inotropes:from the ATTEND Registry. Int J Cardiol ₂₀₁₄;172:₁₆₅︲₁₇₂
₁₀) Inohara T, Kohsaka S, Sato N, et al:Prognostic impact of renal dysfunction does not differ according to the clinical profiles of patients:insight from the acute de-compensated heart failure syndromes (ATTEND) reg-istry. PLoS One ₂₀₁₄;9:e₁₀₅₅₉₆
₁₁) Miura M, Shiba N, Nochioka K, et al:Urinary albumin excretion in heart failure with preserved ejection frac-tion:an interim analysis of the CHART ₂ study. Eur J Heart Fail ₂₀₁₂;14:₃₆₇︲₃₇₆
₁₂) Kajimoto K, Sato N, Keida T, et al:Association between length of stay, frequency of in︲hospital death, and causes of death in Japanese patients with acute heart failure syndromes. Int J Cardiol ₂₀₁₃;168:₅₅₄︲₅₅₆ ₁₃) Gheorghiade M, Vaduganathan M, Greene SJ, et al:Site
selection in global clinical trials in patients hospitalized for heart failure:perceived problems san potential solu-tions. Heart Fail Rev ₂₀₁₄;19:₁₃₅︲₁₅₂
●討 論
座 長:斎藤能彦(奈良県立医科大学第 ₁ 内科学教室) 斎藤(座長・奈良県立医科大学) 佐藤先生,いつもなが らに本当に臨床に即した切り口で,大きなインパク トを与えてくださいました.ディスカッションに入 りたいと思います. 増山(兵庫医科大学) 強心薬を使うなら早く使ったほう がいいとありました.当然推奨しているわけではな いと思うんですが.よく国際学会で,日本は強心薬 の使用頻度,使用量が非常に多い,遅れているとい われているような気がして,いつも,なぜそう違う のかなと思っております。ガイドラインもそんなに 違いがないのにどうして結果が違うのか教えていた だきたいのです. 佐藤(演者・日本医科大学武蔵小杉病院) 非常に大切な 点だと思います.強心薬が悪であるという根拠をい ろいろ調べてみると,一つは,どのデータも含めて, たとえばドブタミンでみると平均で ₅︲₇μ
g/kg/ min です.いまの我々の感覚からすると高用量なん ですね.今の日本の実臨床で使われているのは ₀. ₅ とか ₁ から始まって,必要があれば増やしていくと 思うのですが,それぐらいの低用量で実際に予後に 悪さをしたというデータはないと思うのです.です からそこをしっかりと踏まえた上で考えるというこ とが必要です.欧米の先生が納得していただけるのではないかと思 います.
Hauptman(Saint Louis University) データでは,治療
までの期間が短くなればよりよい予後が得られると いうことでした.こういったデータは,お話をされ たときに後ろ向きであるということで批判がされた わけです.早期に治療をするということは,治療の 必要がない患者を治療しているという可能性もある わけです.後ろ向きなので,本当は強心薬が必要な かった患者が治療されているかもしれません. 我々は,クレアチニンが上がっていたら心不全が疑 われますので低用量の強心薬をよく使います.それ でも,治療効果は低用量でも出ているわけです. 危険なのは,我々がすぐにほとんどの患者に強心薬 を使わなければいけないと考えてしまうことです. ほとんどの患者はローアウトプットというよりは うっ血です.ですから,右室不全なのかそれともうっ 血だけなのかということで,うっ血であれば強心薬 は使いません.低用量の強心薬をすぐに使うという 先生も多いわけです.日本では使いすぎ,米国では 使われなさすぎなのかもしれないと思います.セレ ラキシンのトライアルをみてみると,最近ではやは り早期に治療したほうがいい結果が出ています.セ レラキシンでは,平均で入院してから ₇ 時間でした. これ以内であれば臓器が保護されたというデータも 出ています. 福田(慶應義塾大学) ₂ 点質問があります.貧血が心不 全の予後を決める重要な因子だということは十分理 解した上で,よほどの貧血が来れば我々は輸血をし ますけれども,積極的にヘモグロビンを上げるよう な,たとえば EPO を入れるとかそういう治療が標 準治療になり得るかどうかをまず第 ₁ 点としてお伺 いしたいと思うのですが,いかがでしょうか. 佐藤 非常に大切な点だと思います.EPO 自体が心不全 の予後改善に直接的に結び付かないということはあ る程度の臨床試験で証明されています.ヘモグロビ ンをどのレベルまで改善するかが一つ課題で,当然 高すぎれば粘稠度も考えると逆に悪さをしてしまう の効果が薄れてしまって良好に作用しないのではな いかと思います. そういう意味で,貧血を改善すべき対象をどう考え ていったらいいのかを,CHART のデータとかをみ ると当然心筋虚血があれば貧血が悪さをしそうだと いうことはわかるので,たとえば虚血性心不全を対 象にして貧血を改善することで予後の改善につなが るかを調べるような形で治験を行わないとその結果 が出ないのではないかと思います. 福田 ₂ 点目は,ナトリウムが低いと悪いということも よく理解した上での話ですが,といって最初から利 尿剤としてトルバプタンを使うかというと,まずは ループ利尿剤を使って,あるいはアルドステロン拮 抗薬を使って,最終的にトルバプタンを使っていく というのが通常の考え方だと思いますけれども,こ れからのことを考えたときには最初からナトリウム を想定して利尿薬の選択を決めていくべきだとお考 えでしょうか. 佐藤 これもこれからの大きな課題だと思います.先ほ どお話ししたように,ナトリウムを戻すことが目的 ではなくて,ナトリウムを下げている病態をどう やって改善していくかが一番大切だと思うんですね. 心不全というのは当然ナトリウム貯留もあるし水貯 留もあるし,両方をある意味ではバランスよく改善 していくことが必要でしょうし,患者さんの中には 高用量のループ利尿薬を行っているがために低ナト リウムになったりします. この時はループ利尿薬の減量となります.だから利 尿薬のコンビネーションが大切で,どれか一つ単独 の利尿薬で改善するということはなかなか難しいの ではないかと思います.
そういう意味で,我々は triple diuretic therapy と いっているのですが,ループ利尿薬+抗アルドステ ロン薬であるスピロノラクトン+水利尿薬であるト ルバプタン,この三者をうまくコンビネーションで 使うことによって,場合によっては予後改善に結び つけられるかなと考えています. 坂田(大阪大学) 大事なことは一番最初に話された一般
● 第50回 河口湖心臓討論会
の市民の方に心不全という病態と重要性を正しく理 解してもらうことだと思います.どういうところを ポイントにして一般の方に理解してもらうように努 力されているかをお聞きしたいのと同時に,アメリ カ心不全学会等アメリカではどういうことを重視し て 一 般 市 民 の 方 に 心 不 全 を 知 っ て も ら う か を Hauptman 先生にもお聞きできればと思います. 佐藤 基本的に,予後を積極的に伝えるというよりは, 心不全の認知ということがすごく大切だと思うんで す.一番具体的な例を挙げると,心不全外来を立ち 上げたりすると患者さんが来て,「え,私は心不全 だったんですか.もう死んじゃうんですか」と,さん ざん心不全の話をしてきたのに,外来の名前が変 わった途端にその人がショックを受けているという ような経験もするわけです. いずれにしても,一般の方々には心不全という言葉 自体が末期的なイメージをどうしても与えてしまっ ているのです.そうではなくて,ステージ A,B, C,D と段階を踏んでくるわけですね.磯部先生が いわれているような隠れ心不全というものが実際に 世の中に存在していて,早い時期にそれに気付くこ とでその進展を少し遅らせることができるというこ とを含めて,認知をしてもらわなければいけない. その意味で,放っておくと予後は決してよくないん ですよ,というところを何となく含めて認知活動が できたらいいなという意味で,最初に予後の話をさ せていただいた次第です.Hauptman Heart Failure Society ですが,認知月間と
いうことで,₂ 月を Heart Failure awareness month としています.学会ではいろいろな地元で活動を 行っています.学会のウェブサイトで患者の教育モ ジュールをオンラインで公表しています.ここをみ る人たちはかなり多いわけです.一番インパクトが あったのは急性期の治療と予防だったと思います. 山岸(金沢大学) 到着時の血圧が非常に予後にかかわっ てくるという話でしたけれども,これは非常に実際 的な話でなかなか決めにくいと思いますが,特に急 性心不全の治療の過程において,先生の膨大なデー タから,カテゴリー別の目標心拍数とか目標血圧と か,あるいはするとすればどの辺りなのか,という ことをあえてお伺いしたいんです. 佐藤 結論からいくと,難しいです.たとえば血圧が ₁₇₀,₁₈₀ で入ってきて,₁₃₀ にした途端に尿量が出 なくなったりします.ですから我々は実臨床の中で 治療するときも,状態が落ち着いているときの血圧 の情報があれば,できるだけ早くその情報を収集す るようにはしているんですけれども,一つはその血 圧を取りあえず目標にするということが実臨床の中 ではできることかなと思います. ATTEND の中では血圧の変動のデータは残念なが らないので,どの辺をターゲットにというのは難し いと思いますが,これは特に腎臓との兼ね合いがあ ると思います.たとえばクレアチニンのデータで ₄₈ 時間以内に血圧の下げ幅が大きければ大きいほど WRF の頻度は増えます.ですからやみくもに心臓 だけを考えて後負荷を下げるという治療は,腎臓か らしてみるとあまりうれしくないことも十分あり得 るので,どれぐらいのスピードでどこをターゲット にというのはなかなか判断が難しいのではないかと 思います. むしろ ₁₀%リダクションとか ₂₀%リダクションと かそういう形での腎機能とのバランスも考えながら データを取ることができれば,方向性はみえてくる のかなと思います. 筒井(北海道大学) 最後のサイトセレクションの問題 で,私も臨床試験をやっていますので臨床試験をう まくやるにはサイトセレクションが重要だというこ とは完全に賛成なんですが,先ほど Hauptman 先生 がぺーシェントセレクションのバイアスのことを おっしゃいましたけれども,極めて重大なセレク ションバイアスになる可能性がありますね. 試験をうまくやるというのと実際のアウトカムをど う評価するかという非常にバランスの難しい問題だ と思うのですけれども,先生はその辺りをどういう ふうにお考えでしょうか. 佐藤 最近行われている治験のように血圧が ₁₂₅ 以下は エントリーしないことによっておのずとその数が多 い施設は数多くエントリーできなくなるので,厳密 にいうとサイトセレクションはしていないんだけれ ども結果として全体的なエントリーされた中でのサ イトはある程度セレクトされるような状況になると 思います. 多分そういう方向でやらないと先生がおっしゃるよ うに選択バイアスがかかりすぎてしまって,その結 果が本当に正しいのかどうかが当然議論されてしま うと思うので,ペーシェントセレクションとうまく
う方法があると思います.プレレジストリーのデー タを参考に,だからこのサイトセレクションをした んだという形が明確になっていれば,個人的には許 されるのかなと思っているんですけれども,いかが でしょうか. 磯部(東京医科歯科大学) いまの施設間格差に関連し て,恐らくいまの厚労省は急性期の病院の役割分担 をつくっていくという方針ですが,そうすると急性 心不全に限ってもその施設の力量というか診療の質 が大事になってきます. 急性心不全の診療の質を評価するためにどういう指 標を設けていったらいいか,何かアイデアあるいは データはございますか. 佐藤 難しいですけれども,いくつかの大規模臨床試験 のデータをみさせてもらうと,退院時のいわゆる Guideline Directed Medical Therapy(GDMT)の割 合がしっかりしている施設はやはり予後がよくて, その遵守率と予後とは極めていい相関をしています. ですから,退院時にしっかりとした標準治療がなさ れているかどうかは,予後がいいという観点からす ると,そういう施設が評価されるというのは一つポ イントとしてはあるのかなと思います. 磯部 ガイドライン遵守率ですよね.それをどうやって 捕捉するかということを次に考えていかなければい けないということですね. 佐藤 そうですね.トレーニングコースを受けてもらっ て certificate を取ってこの施設は認定します,とい う形を取るか,実際の実臨床の現場を評価するか, のどちらかかなとは思います. 磯部 たとえば心不全のための多職種チームが整備され ているか,あるいは DPC のデータを利用して心不 全という病名がついている人に