第
1
章 極限と導関数
1.1
数列と極限
例題1: 複利の極限としての連続複利
¶ ³ 1 年間の金利を r とする.1 年間を m 期間に等分し,元本 A 円を毎期複利で運用するものと する.各期の金利は r/m である. i) t 年後にはいくらになっているか. ii) m を無限大にするとどうなるか. µ ´ i) t 年後の金額を B(t; m) とする. B(t; m) = A³1 + r m ´mt ii) B(t; m) を以下のように変形する. B(t; m) = A³1 + r m ´mt = A ¯³ 1 + r m ´m r °rt ここで n =mr とおくと,m → ∞ のとき,n → ∞ なので,B(t; m) → Aertとなる.ただし, 次の公式を用いた. e ≡ lim n!1 µ 1 + 1 n ¶n (1.1) ¥ e は,自然対数の底,あるいはネイピア数と呼ばれる.数列
a1, a2, a3, . . . と無限に続く数の列を数列と呼ぶ.これを {an} と表記することもある. n を無限に大きくしていくにしたがい,数列がある一定の値にずっと近づいていくことがある. この値が α だとすると,α を数列 {an} の極限と呼び.数列 {an} は α に収束するという.これを n → ∞ のとき an→ α (1.2) と書く.あるいは,記号を用いて, lim n!1an= α (1.3) と表す. 必ずしもすべての数列が収束するとは限らない.例 1.1 an= 21n とする.limn!1an= 0 である. 例 1.2 an= 2nとする.n を大きくすると,anも限りなく大きくなる.n → ∞ のとき anも ∞ となる. この場合,{an} は発散するという. 例 1.3 an= (−1)nとする.anは,n が偶数の時 1,奇数の時 −1 となり一定の値には収束しない.
収束の判定法
等比数列 定数 a0と定数 r を用いて,an = a0rnと表される数列を等比数列という.|r| < 1 のとき limn!1an= 0 である.|r| > 1 のとき {an} は発散する. 一般の場合でも,次の定理が成り立つ. 定理 1.1 limn!1|aan+1n | < 1 ならば,limn!1an= 0 となる. ¥ 有界で単調な数列 数列 {an} が上に有界とは,任意の n について an≤ β となる定数 β が存在すること.数列 {an} が下に有界とは,任意の n について an≥ γ となる γ が存在すること.数列 {an} が有界とは,数 列 {an} が上にも下にも有界であること. 任意の n について an≤ an+1ならば,数列 {an} は単調増加であるといい,任意の n について an≥ an+1ならば,数列 {an} は単調減少であるという. 定理 1.2 上に有界な単調増加数列は収束する.下に有界な単調減少数列は収束する. ¥極限の性質
定理 1.3 数列 {an} と数列 {bn} が収束し,limn!1an= a,limn!1bn= b であるとする. 1) {an+ bn} は収束し,limn!1(an+ bn) = a + b である. 2) {anbn} は収束し,limn!1(anbn) = ab である. 3) {an/bn} は収束し,limn!1(an/bn) = a/b である.ただし,b 6= 0 とする. 4) 任意の n について an≤ bnならば,a ≤ b である. ¥ 演習問題 1.1 anが次の式で与えられる場合,数列 {an} の収束を判定せよ.収束するならば,極限を求めよ. 1) (−1/2)n 2)√n + 1 −√n 3) n + 1 n 4) n 3n1.2
級数
数列 {an} の第 n 項までの和を Snとする. Sn= a0+ a1+ a2+ · · · + an {Sn} はそれ自身数列となり,(無限) 級数と呼ばれる.Snを第 n 部分和と呼ぶ.{Sn} が収束し, limn!1Sn= s となるとき,s を級数の和と呼ぶ. 経済学/経営学において重要なのは,次の式で与えられる級数である. Sn= 1 + r + r2+ · · · + rn (1.4) これを等比級数という.Sn− rSnを計算すれば容易にわかるように,(1.4) は次のように書き換え ることができる. Sn= 1 − r n+1 1 − r (1.5) ただし r 6= 1 とする. (1.5) から級数の和について,次のことがわかる. |r| < 1 のとき, lim n!1Sn= 1 1 − r例題2:乗数効果
¶ ³ 限界消費性向 (家計の追加的所得に対して,消費にまわる比率) が r であるとする.政府支出 を A 円増加させると,総需要はいくら増加するか. µ ´ 政府支出の増加分 A が,所得を押し上げる.増加分 A のうち,Ar が消費に回る.この消費の 増加が再度所得の増加となり,Ar2の消費につながる.これが,無限に続くと考えると,全体の需 要の変化 ∆Y は, ∆Y = A + Ar + Ar2+ Ar3+ · · · で与えられる.0 < r < 1 より,この級数は収束し,その和は A1−r1 で与えられる. ¥1.3
導関数
x と y の関係が,ある関数 f(x) として与えられているとする.このとき,x が変化したとき,y がどれくらい変化するかは,x と y の関係を知る上でたいへん重要なことである.以下では,まず 1 変数の関数について考える.多変数関数は 2 章で扱う.1 次関数
y = ax + b のかたちで表現できる関数を考える.x = x0のとき,y = ax0+ b (≡ y0) である. x0から x0+ ∆x に変化したとき,y の変化量は, ∆y =¡a(x0+ ∆x) + b ¢ − (ax0+ b) = a∆x となる.したがって,その変化量の比は, ∆y ∆x = a∆x ∆x = a となり,∆x や x0に依存しない定数となる.2 次関数
2 次関数として y = x2+ 2x + 4 を考える.x = 2 のとき,y = 4 である.x の変化にたいする y の変化を知りたいので,∆x をいくつか変えて,そのときの y の変化量と変化率 (∆y/∆x) を計算 した. 図表 1.1 y = x2+ 2x + 4 ∆x ∆y ∆y/∆x 2 16 8 4 40 10 6 72 12 Y X 0.0000 20.0000 40.0000 60.0000 80.0000 100.0000 120.0000 0.0000 2.0000 4.0000 6.0000 8.0000 10.0000 図表 1.1 からわかるように,2 次関数の場合,変化率は ∆x に依存する.そこで,∆x に依存し ないように変化率を考えるため,関数の接線の傾きをその接点における変化率と定めることにする.接線の傾きは,∆x を限りなく 0 に近づけたときの変化率の極限と考えられる.x = 2 におけ る変化率は,∆x を用いて, (2 + ∆x)2+ 2(2 + ∆x) + 4 − (22+ 2 ∗ 2 + 4) ∆x = ∆x2+ 6∆x ∆x = ∆x + 6 と書ける.∆x → 0 のとき ∆x + 6 → 6 である.
一般の場合
ある点 x0における変化率の極限は,(存在すれば) 次の式で与えられる. lim h!0 f(x0+ h) − f(x0) h (1.6) これは,x0における f(x) の微分係数と呼ばれる.微分係数は (もし存在すれば)x0に対応して値が 定まるので,x0と微分係数の関係を一つの関数ととらえることができる.この関数をもとの関数 から導かれたという意味で,導関数と呼ぶ.y = f(x) の導関数は,次のように表記する. y0 f0(x) dy dx df dx 導関数を求めることを微分するという.微分可能
すべての関数が微分できるとは限らない.微分係数が存在しない場合があるからである. 連続関数と不連続関数 関数 f(x) が点 a で連続であるとは,次の条件が成り立つことである. f(a) = lim x!af(x) この条件が満たされないとき,x = a で f(x) は不連続であるという.関数が不連続な点では微分で きない. なめらかな関数 x = a における変化率の極限を求めるとき,点 a に上から近づくか下から近づくかで収束先が 異なる場合がある. lim h!0 h>0 f(a + h) − f(a) h 6= limh!0 h<0 f(a + h) − f(a) h のとき,f(x) は x = a で微分可能ではない. 演習問題 1.2 y = |x| は,= 0 で微分不可能である.limh!0 h>0 |0+h|−|0| h ,および limh!0h<0 |0+h|−|0| h を求めることに より,それを示せ.接線の方程式
関数 y = f(x) の点 x0における接線を求める.接線の方程式を y = ax + b とおく.接線なので, y0= ax0+ b = f(x0) (1.7) を満たす.x0から h だけ変化した点 x0+ h では,接線ともとの関数の値は異なる.その差を ²(h) とおく.すなわち, f(x0+ h) = a(x0+ h) + b + ²(h) (1.8) である.変化率を計算すると, ∆y ∆x = f(x0+ h) − f(x0) x0+ h − x0 = (ax0+ ah + b + ²(h)) − (ax0+ b) h = ah + ²(h) h = a + ²(h) h 接線の傾きは微分係数に他ならないので,a = f0(x0) である.また limh!0 ²(h)h = 0 となる ²(h) が存在することを微分可能の条件と考えてもよい.関数の増減
ある点で関数が増加しているか減少しているかは,その点における接線の傾きを見ればわかる. 接線の傾きが正であれば関数は増加しており,負であれば関数が減少している.接線の傾きは微分 係数なので,導関数の符合により関数の増減を判定できる. 単調増加関数 :関数 f(x) が単調増加であるとは,任意の x1> x2において,f(x1) ≥ f(x2) が成 り立つこと. 単調減少関数 :関数 f(x) が単調減少であるとは,任意の x1> x2において,f(x1) ≤ f(x2) が成 り立つこと. 上の不等式が,狭義になりたつとき,それぞれ狭義単調増加関数,狭義単調減少関数という. 任意の x において f0(x) ≥ 0 ならば,f(x) は単調増加関数である.任意の x において f0(x) ≤ 0 ならば,f(x) は単調減少関数である.平均値の定理
¶ ³ f(x) が開区間 (a, b) で微分可能,閉区間 [a, b] で連続ならば f(a) − f(b) = f0(c)(b − a) を満たす c ∈ (a, b) が存在する. µ ´1.4
微分の基本法則
基本的な関数の微分
i) 定数関数: a を定数とする.f(x) = a は,どの x に対しても常に一定の値 a をとる定数関数である.こ れを微分すると, f0(x) = 0 である. ii) 多項式: n を自然数,an, an−1, . . . , a1, a0を実数とすると, f(x) = anxn+ an−1xn−1+ · · · + a1x1+ a0 の形で表現できる関数を n 次多項式と呼ぶ.この関数の導関数は, f0(x) = a nnxn−1+ an−1(n − 1)xn−2+ · · · + a1 である. iii) 冪関数: f(x) = xnを冪関数という.n は任意の実数でよい. f0(x) = nxn−1 n は任意の実数でよいので,√x = x12 や 1 x = x−1の微分もこの公式に従う. iv) 指数関数: f(x) = exを (e を底とする) 指数関数と呼ぶ.指数関数の導関数は次の通り. f0(x) = ex すなわち,指数関数は微分しても関数形が変化しない. v) 対数関数 自然対数を底とする対数関数 f(x) = log の導関数は f0(x) = 1 x である.関数の和と差の微分
二つの関数 f(x) と g(x) の和によって定義される関数の微分は, ¡ f(x) + g(x)¢0= f0(x) + g0(x) である.f(x) と g(x) の差によって定義される関数の微分は, ¡ f(x) − g(x)¢0= f0(x) − g0(x) である.関数の積の微分
二つの関数 f(x) と g(x) の積によって定義される関数の微分は, ¡ f(x)g(x)¢0= f0(x)g(x) + f(x)g0(x) である.合成関数の微分
y = f(u),u = g(x) とする.このとき h(x) = f(g(x)) を,f と g の合成関数という.h(x) の導 関数は,次の式で与えられる. dh dx = df du dg dx逆関数の微分
集合 X と集合 Y の要素の間に対応関係があり,それを関数 f を使って y = f(x) と表す.関数 f が次の性質を満たすとする. i) 任意の y ∈ Y について,y = f(x) となる x ∈ X が存在する. ii) 任意の x1, x2∈ X について,x16= x2ならば f(x1) 6= f(x2) となる. このとき,関数 f に逆関数 f−1が存在し,y = f(x) を満たす任意の (x, y) ∈ X × Y について, x = f−1(y) となる. y = f−1(x) の導関数は,次のように表すことができる. ¡ f−1(x)¢0= 1 f0(x) 演習問題 1.3 次の関数の導関数を求めよ. (1) 3x3+ x2− x + 5 (2) e3x+2 (3) xex (4) 3x+2 x+3 (5) q 1 x (6) ax (7) logax 演習問題 1.4 次の関数の逆関数の導関数を求めよ. (1) x + ex (2) x2+ 3 (ただし x > 0 とする)1.5
高次の導関数とテーラー展開
n 階導関数
関数 f(x) の導関数が微分可能なとき,再度微分することで 2 階の導関数が得られる.それを, f00(x), f(2)(x), d2f dx2 などと表記する.一般の n について,n − 1 階までの導関数が微分可能であれば,f(x) は n 回微 分可能であるという.n 階の導関数は,以下のように表記する. f(n)(x), dnf dxnテーラーの定理
n 回微分可能な関数 f(x) にたいして, f(x) = f(a) +f 0(a) 1! (x − a) + f00(a) 2! (x − a) 2+f(3)(a) 3! (x − a) 3+ · · · +f(n−1)(a) (n − 1)! (x − a) (n−1)+ R n(x) で,Rn(x) を定義する.このとき, Rn(x) = f (n)(c) n! (x − a) n となる c が存在する. ¥ f(x) が a を含む区間 I で ∞ 回微分可能で,I 上の x において limn!1Rn(x) = 0 ならば, f(x) =P1n=0 fnn!(x)(x − a)nと表すことができる.これを,f(x) の a を中心とするテーラー展開と いう.テーラー展開は,関数を多項式で近似する方法を与える. 例 1.4 f(x) = exとする.x = 0 のまわりでテーラー展開すると,(ex)(n)= ex より, ex= e0+ e 0 1!(x − 0) + e0 2!(x − 0) 2+ · · · +e0 n!(x − 0) n+ · · · = 1 + 1 1!x + 1 2!x 2+ · · · + 1 n!x n+ · · · 例 1.5 f(x) = exの x = 0 におけるテーラー展開を第2,3,4項までとると,それぞれ 1 次,2 次,3 次 近似となる (図 1.3 参照). f1(x) = 1 + x f2(x) = 1 + x +1 2x 2 f3(x) = 1 + x +1 2x 2+1 6x 3図表 1.2 テーラー展開による近似 f(x) f1 f2 f3 Y X 0.0000 0.5000 1.0000 1.5000 2.0000 2.5000 -1.0000 -0.5000 0.0000 0.5000 1.0000