滋賀県立成人病センター病院長/京都大学名誉教授
宮地 良樹
薬
の
専門家
な
ら
ば
安易
な
ジ
ェ
ネ
リ
ッ
ク
へ
の
変更
は
、す
る
な
か
れ
。
■
外用薬で
は
、
先発品と後発品
の
効き目
の
違
い
が
特
に
顕著
16年間という長きにわたり京都大学で皮膚科の教授を務 めた宮地良樹氏は、この 10月 1 日から滋賀県立成人病セン ターの病院長に就任したばかりだ。定年を迎えて教授職を 離れる医師に対し、名誉職のように病院長のポストが用意 されていた時代は、とうの昔に遠のき、今では、経営手腕 がなければ病院トップにはなれない。定年まで 2 年半を残 して、自治体病院の病院長に抜擢された宮地氏は、薬剤師 や保険薬局業界の課題について明快な意見を示し、経営能 力の高さの片鱗を見せてくれた。 ま ず は、 保 険 薬 局 で 後 発 医 薬 品( 以 下、 ジ ェ ネ リ ッ ク ) への移行を患者に安易にすすめる姿勢を問題視する。現在 医 療 費 削 減 の た め に 厚 生 労 働 省( 以 下、 厚 労 省 ) は ジ ェ ネ リックの使用を躍起になって推し進め、保険薬局において ジェネリック使用量が全体の一定割合を超える場合には加 算をつける、処方せんにジェネリック不可の指示がなけれ ば、処方医に確認しなくても保険薬局の薬剤師は患者にジ ェネリックへの変更をすすめられることを制度化した。こ れらにより、保険薬局の中には、加算 ほ しさに患者にジェ ネリックをすすめる動きが出ている。宮地氏は、そんな状 況に警鐘を鳴らす。 「 医 療 費 抑 制 の た め に ジ ェ ネ リ ッ ク が 有 効 な の は 理 解 し ま す。 し か し、 『 メ ル ク マ ニ ュ ア ル 』 や『 オ レ ン ジ ブ ッ ク 』 を見れば一目瞭然なのですが、先発品とジェネリックの効 き目に明らかな違いがあるものがあります。特に皮膚科の 治療で多用される外用薬では、基剤によるのでしょう、効 き目の違いがしばしば見られます」 薬剤師の皆さんをメインの読者対象としている本誌にお い て は、 た と え ば、 『 メ ル ク マ ニ ュ ア ル 』 や『 オ レ ン ジ ブ ッ ク 』 に 関 し て 今 さ ら 説 明 を 要 さ な い と 考 え る が、 現 状、 外用薬で先発品とジェネリックの効果が違うにもかかわら ず、ジェネリックへの変更をすすめる薬剤師がいる事実を 踏まえて、知っていて当たり前と思われる単語にも、簡単 な解説を加えながら記事をつくっていきたいと思う。すで に熟知している方は読み飛ばして、次のパラグラフに目を 向けていただきたい。 基剤とは、外用薬に主薬(ステロイドや抗真菌薬成分な ど ) を 溶 解 す る も の で、 軟 膏 や ク リ ー ム、 ロ ー シ ョ ン な ど の差はこの基剤の差によるもの。外用薬の組成の ほ とんど は基剤で、この基剤により主薬の溶解度や皮膚浸透性、皮 膚刺激、保湿能などに大きな差異があるのは周知のとおり だ。東京逓信病院薬剤部の大谷道輝氏のデータでは、同じ 主薬でも基剤の違いにより、ジェネリックでは溶解度や皮 膚浸透性など大きな製剤学的差異があることが報告されて いる( 【資料】 )。 宮 地 氏 は「 た と え ば 」 と 言 っ て、 ア ン テ ベ ー ト 軟 膏( 一 般 名 : ベ タ メ タ ゾ ン 酪 酸 エ ス テ ル プ ロ ピ オ ン 酸 エ ス テ ル ) を例に挙げて説明してくれた。同薬は、皮膚の炎症を抑え るステロイドの塗り薬で、通常、湿疹や皮膚炎、乾癬など の治療に処方される。 「 ス テ ロ イ ド 外 用 薬 で は 効 果 を マ イ ル ド に し た り 副 作 用 の 軽減をしたりする目的で、ワセリンで希釈する処方が多く 見られますが、アンテベート軟膏を 16倍に希釈しても、血 管 収 縮 効 果 は 希 釈 前 と 変 化 し な い こ と が 報 告 さ れ て お り、 期待どおりに効果の減弱や副作用が軽減できません。つま り、もともと主薬は ほ とんど溶解していないために、多少 薄めても、薄めたワセリンにも主薬が溶解するため効果や 副作用に差が出ないと想定されています。 これは薬剤師の先生の論文から知った事実で、読んだと きには、大いにびっくりしました。皮膚科医の盲点を見事 に 突 い て く れ た 内 容 で、 私 は、 非 常 に 評 価 す る と と も に、 薬剤師の先生の存在の重要性をあらためて認識しました」 ■外用薬で
は
、
必ず先発品
が
処方
さ
れ
る
よ
う
に
チ
ェ
ッ
ク
をす
る
宮地氏が、ジェネリックについて疑問を持ち、見識を深 めるきっかけになったのは苦い体験だった。 「 僕 は、 湿 疹・ 皮 膚 炎 群、 乾 癬 な ど の 治 療 に マ イ ザ ー 軟 膏( 一 般 名 : ジ フ ル プ レ ド ナ ー ト ) と い う ス テ ロ イ ド 軟 膏 を よく処方するのですが、あるとき、知り合いの開業医の先 生 に 次 の よ う に 言 わ れ て 衝 撃 を 受 け ま し た。 『 先 生 が 処 方 したマイザー軟膏が、保険薬局でジェネリックに変えられ ているために、芳しい効果が出ていないようです。そうい った患者さんが当院に来て、ジェネリックにできないよう にして先発品のマイザー軟膏を処方すると、とたんに治っ ていく。お陰様で、名医になってしまいそうです(笑) 』」 俄然、ジェネリックに対して疑問を持つようになった彼 は、内服薬についてのデータも調べ始める。ターゲットは イ ト ラ コ ナ ゾ ー ル。 皮 膚 科 領 域 で も よ く 使 う 抗 真 菌 薬 で、 爪白癬を中心に頻用されている薬だ。 「 あ る 大 学 の 薬 剤 部 の 先 生 が、 数 種 類 の ジ ェ ネ リ ッ ク と 先 発品をくらべた結果、場合によっては血中濃度に数倍の差 異が生じることがわかりました。血中濃度が高くなるジェ ネリックを教えてくれれば、量を減らして処方するのです が…… (笑) 。 僕 は、 こ れ ら 一 連 の 経 験 を 踏 ま え て 外 用 薬 の 処 方 せ ん、 あるいは、先発品と製剤学的差異が大きい内服薬では、必 ず先発品が処方されるようにチェックをすることにしてい ます」 ■
小手先
の
誘導作戦など無駄
臨床試験
の
デ
ー
タを追加すれ
ば
良
い
前述したように、宮地氏はジェネリックの使用を全面的 に否定するものではない。ただ、日本ではきちんとした臨 床試験があまりに乏しいと主張しているのだ。日本でジェ ネリックが普及しないのは、彼同様に、医師たちがその事 実を重く見て、どんなに厚労省が処方せんの様式を変えて 誘導しようとも、先発品を指定するからであろう。 「 さ す が に 直 接、 患 者 さ ん か ら『 効 き ま せ ん 』 と 言 わ れ る 経験をすると、ジェネリック全体に対する不安が生じ、処 方するのに躊躇します。よくアメリカではジェネリックが 主流なのに、なぜ日本では広まらないのかが議論され、一 部では、製薬会社からのリベートをもらっているからだな どと囁かれたりもしますが、外用薬などは製薬会社が儲か るものではありませんので、ありえません。ジェネリック が出るような古い商品の薬価は、すでに高くはなく、リベ ートなどナンセンスなので利益相反はないと言っていいで しょう。 日本の医師は、ある意味で、正義感が強いのだと思いま す。だから、安易にジェネリックに流れたりしない。自分 で、安全で効果も同等だと確信ができなければ処方しない のです。 日本でジェネリックを増やそうとするならば、小手先の 誘導作戦ではなく、アメリカのようにきちんとした臨床試 【資料】外用薬における先発品とジェネリックとの製剤学的特性の差異の大きさ (出典:大谷道輝・他, 日本皮膚科学学会雑誌, 121, 2257-2264, 2011) * ●:標準製剤A ○:ジェネリックB ■:ジェネリックC □:ジェネリックD ▲:ジェネリックE △:ジェネリックFStatistically different between A and C,D,E,F
*:p<0.05. 0 * * 0
基剤によって皮膚透過性がこんなに異なる
クロベタゾールプロピオン酸エステル軟膏の皮膚透過量 24 48 時間(時間) 検出限界で測定できず 累積皮膚透過量 ( μg / π㎝ 2) 72 96 10 20験を行い、医師を納得させれば良いのです。行政も審査に 必要な人員と予算を確保して対応すべきです。きっちりし たデータがあれば、私たちは自信を持ってジェネリックを 処方します。その意味で、先発メーカーが製造するオーソ ライズドジェネリック(先発メーカーが子会社などに同じ 成 分 で つ く ら せ た ジ ェ ネ リ ッ ク ) は、 安 心 し て 処 方 し て い ます」 臨床データを重視する医師の正義感が、ジェネリックが 広まらない最大の原因だとしたら、加算のニンジンをぶら 下げられて、薬の専門家であるにもかかわらず、先発品か らジェネリックへの移行をすすめる薬剤師に正義はあるの か ─ ─。ふと、そんな思いがよぎった。もちろん、すべて の保険薬局で安易なジェネリック推奨の動きがあるわけで はない。ただ、このように二極化した状況を放置している のには大いに疑問を感じざるをえない。業界として、統一 見解を出すべきではないだろうか。 また、ジェネリックに変更するのであれば、薬のプロフ ェッショナルなら、先発品と成分がまったく同様のオーソ ライズドジェネリックであるか否か、あるいは、効果が ほ ぼ同じとの臨床試験のデータに関する知識を持っていって もらいたいものだと、宮地氏の弁を聞いて強く感じた。 ■
ス
イ
ッ
チ
O
T
C
の
時代
が
くれ
ば
、
薬局
の
価値
は
立
地で
は
なく薬剤師
の
質で決
ま
る
保険薬局の薬剤師が、薬の専門家たる知識、誇りを持た ず、薬詰めを主たる仕事としている実態を肌で感じている 宮 地 氏 は、 「 今 は 良 く て も、 い ず れ こ の ま ま で は、 激 し い 淘汰の時代を迎えることになる」 と予言する。 「 近 い 将 来、 多 く の 薬 剤 は O T C に ス イ ッ チ さ れ る で し ょ う。胃薬や風邪薬、ステロイド外用薬や水虫薬など、医師 に処方されるのではなく、セルフメディケーションで薬を 購入する場面が増えるような政策がとられるようになるの は自明です。医療費抑制への効果は計りしれないと思いま すよ。 そうなると、スキルを持っていない皮膚科医院は潰れる PROFILE (みやち・よしき) 1971年 京都大学医学部入学 1977年 京都大学医学部卒業 天理よろづ相談所病院内科レジデント 1978年 京都大学医学部附属病院研修医(皮膚科) 1979年 京都大学医学部皮膚科助手 1982年 米国ミネソタ大学内科(臨床免疫学・リウマチ学)教室留学 1986年 京都大学医学部皮膚科講師、病棟医長 1990年 天理よろづ相談所病院皮膚科部長 1992年 群馬大学医学部皮膚科教授 1998年 京都大学大学院医学研究科皮膚科教授 2014年 滋賀県立成人病センター病院長でしょう。抗ヒスタミン薬もステロイド外用薬も OT C を 買ってすむようになったら、患者さんは減って儲かりませ ん。結局、手術ができるとか、何かサブスペシャリティを 持っていないと立ちいかなくなります。 そ う し た 影 響 は、 保 険 薬 局 の あ り 方 を 大 き く 変 え ま す。 今までは、病院の門前にある保険薬局に患者さんが集まり ましたが、処方せんなしで薬を買う人が増えれば、家の近 所にあるから、品ぞろえが良いから、薬剤師の人が適切な アド バ イスをしてくれるから ─ ─といった事柄が、保険薬 局を選ぶ要因になります」 何より立地の良さが集客数につながっていた時代は終わ りを告げ、薬剤師の専門性が保険薬局の存続を左右する時 代がくる。 「昔と違って、医学の進歩とともに薬剤の数も増え、日々、 新たな薬剤が生まれる現在、全領域を網羅した知識を持つ のは不可能ですし、薬剤師も何かスペシャリティを持った ほ うがいいのではないでしょうか。自分自身もやり甲斐を 持てるし、楽しいのではないかと思います。 循環器薬に強いとか、消化器薬なら誰にも負けない知識 があるとか。皮膚科の専門薬剤師になれば、皮膚科は外用 薬や化粧品も関係するので、コンシューマーには重宝され るはずです。アメリカでは看護師が専門を持つのは当たり 前になっていて、皮膚科の専門看護師はダーマトロジー・ ナースと呼ばれています。日本でも最近、スペシャリティ を持つ看護師が生まれていて、がんや緩和、皮膚・排泄な どの分野で活躍しています。薬剤師にも同様なトレンドが 必ず訪れるでしょう」 ■