[
ベクトルと行列]
実平面R
2 の2
点P = (a, b), Q = (c, d)
に対して,Q
を始点としP
へ向かうベクトルは−→
QP =
(
a
− c
b
− d
)
で表されます.ベクトルは「向き」と「大きさ」で決まる量ですのでこのベクトルを平行移動して 始点を原点とし,点(a
− c, b − d)
へ向かうベクトルと同一視できます.したがって平面上の点P = (a, b)
と,原点O
を始点としP
を終点とする平面ベクトル−
→
p =
(
a
b
)
がP = (a, b)
←→ −
→
p =
(
a
b
)
として同一視できます.そこで平面ベクトル全体のなす集合を平面上の点全体のなす集合と同様にR
2 で表します.R
2=
{(
x
y
)
| x, y ∈ R
}
このようにベクトルは成分を縦に並べて表します.2
つのベクトル−
→
p =
(
a
b
)
, −
→
q =
(
c
d
)
に対してベクトルの和を成分ごとの和として定め ます.−
→
p + −
→
q =
(
a + c
b + d
)
これは−
→
q
の始点を−
→
p
の終点P
まで平行移動したときの−
→
q
の終点の位置に対応するベクトル となります. ベクトル−
→
p =
(
a
b
)
と実数c
∈ R
に対してベクトルのc
倍を成分ごとにc−
→
p =
(
ca
cb
)
と定めます.これはベクトル−
→
p
の向きを変えずに大きさをc
倍することになります. ベクトル−
→
p =
(
a
b
)
と−
→
q =
(
c
d
)
の内積を−
→
p
· −
→
q = ac + bd
で定めます.すると−
→
p
· −
→
p = a
2+ b
2≥ 0
であり−
→
p
の大きさ|−
→
p
|
は√−→
p
· −
→
p
で与えられま す.また−
→
p
と−
→
q
のなす角をθ
とすると−
→
p
· −
→
q =
|−
→
p
||−
→
q
| cos θ
となります.1
以下ではベクトルは
a, b
のように太字英小文字で表し,矢印は用いません.また内積は(a, b)
で表し,ベクトルa
の大きさを∥a∥
で表します. 平面ベクトルから平面ベクトルへの写像をf :
R
2→ R
2 とします.したがって平面ベクト ルx
に対して平面ベクトルy = f (x)
が対応します.別の写像g :
R
2→ R
2 に対して写像f + g :
R
2→ R
2 を(f + g)(x) = f (x) + g(x)
と定めます.これを写像f
と写像g
の和といいます.また実数k
∈ R
に対して写像kf :
R
2→ R
2 を(kf )(x) = kf (x)
で定めます.これを写像f
の実数k
倍といいます. 平面R
2 から自分自身への写像(
移動または変換ともいう)
で1次式で表されるものについて考 えます.つまり点X = (x
1, x
2)
から点Y = (y
1, y
2)
への対応F :
R
2→ R
2 で{
y1
= ax
1+ bx
2+ e
1y2
= cx
1+ dx
2+ e
2 と表されるものを考えます.ここで係数a, b, c, d, e1, e2
は実数です.この対応によって原点は点(e
1, e
2)
に対応しますから,原点から点X
へのベクトル−
→
x =
(
x
1x2
)
は点(e
1, e
2)
から点Y
へ のベクトルとなります.したがってベクトルとしては(
ax
1+ bx
2cx1
+ dx
2)
と同じものになります.そ こでベクトルの間の写像f :
R
2→ R
2 がx =
(
x1
x2
)
に対してy =
(
y1
y2
)
= f (x)
を{
y1
= ax
1+ bx
2y2
= cx
1+ dx
2 と定まります.このx
1, x
2 の係数をこの順で並べて写像f
をA =
(
a
b
c
d
)
で表します. 別の写像g :
R
2→ R
2 がB =
(
s
t
u
v
)
で表されるとします.このときx =
(
x
1x2
)
に対 して(f + g)(x) = f (x) + g(x) =
(
ax
1+ bx
2cx1
+ dx
2)
+
(
sx
1+ tx
2ux1
+ vx
2)
=
(
(a + s)x
1+ (b + t)x
2(c + u)x
1+ (d + v)x
2)
なので写像f + g
は(
a + s
b + t
c + u
d + v
)
で表されます.f
はA
で,g
はB
で表されていたのでA
とB
の和をA + B =
(
a + s
b + t
c + u
d + v
)
と定めることができます.実数
k
に対して写像kf
は(kf )(x) = kf (x) = k
(
ax1
+ bx
2cx
1+ dx
2)
=
(
kax1
+ kbx
2kcx
1+ kdx
2)
なので写像kf
は(
ka
kb
kc
kd
)
と表されます.f
はA
で表されるのでA
の定数k
倍をkA =
(
ka
kb
kc
kd
)
と定めることができます.f :
R
2→ R
2, g :
R
2→ R
2 を1
次式で表される平面ベクトルの写像としf , g
はそれぞれA =
(
a
b
c
d
)
,
B =
(
s
t
u
v
)
で表されるとします.f
とg
の合成写像g
◦ f
は(g
◦ f)(x) = g(f(x))
です.x =
(
x
1x2
)
に対してf (x) =
(
ax1
+ bx
2cx1
+ dx
2)
なので(g
◦ f)(x) = g(f(x)) =
(
s(ax1
+ bx
2) + t(cx
1+ dx
2)
u(ax
1+ bx
2) + v(cx
1+ dx
2)
)
=
(
(sa + tc)x
1+ (sb + td)x
2(ua + vc)x
1+ (ub + vd)x
2)
となります.したがってg
◦ f
は(
sa + tc
sb + td
ua + vc
ub + vd
)
と表されます.g
はB
で,f
はA
で表されたのでB
◦ A =
(
sa + tc
sb + td
ua + vc
ub + vd
)
となります.ここでB
◦ A
を単にBA
で表すことにします.するとBA =
(
s
t
u
v
) (
a
b
c
d
)
=
(
sa + tc
sb + td
ua + vc
ub + vd
)
となります.この式でB
とA
の積BA
を定めることができます.このような
A =
(
a
b
c
d
)
の形のものを行列といいます.A
の横の並び(a b)
をA
の第1
行,(c d)
をA
の第2
行とい います.またA
の縦の並び(
a
c
)
をA
の第1
列,(
b
d
)
をA
の第2
列といいます.A
の第i
行,第j
列にある成分をA
の第(i, j)
成分といいます.2
つの行列A =
(
a
b
c
d
)
, B =
(
s
t
u
v
)
に対してA
とB
の和をA + B =
(
a + s
b + t
c + u
d + v
)
と定めます.また実数k
に対してA
のk
倍をkA =
(
ka
kb
kc
kd
)
= Ak
と定めます.B
とA
の積は対応する写像の合成が表す行列としてBA =
(
sa + tc
sb + td
ua + vc
ub + vd
)
と定めます.したがってBA
の第(i, j)
成分はB
の第i
行にあるベクトル(
の成分を縦に並べた もの)
とA
の第j
列にあるベクトルの内積で表されます. ベクトルは列が1
つしかない行列と見ることができます.行列A
で表される写像をf
とする ときx =
(
x1
x2
)
に対してf (x) =
(
ax
1+ bx
2cx1
+ dx
2)
=
(
a
b
c
d
) (
x
1x2
)
ですので行列の積としてf (x) = Ax
と表されます. 行列(
0
0
0
0
)
を零行列といいO
で表します.また行列(
1
0
0
1
)
を単位行列 といいI
で表 します. 行列A, B, C
に対して結合法則(AB)C = A(BC)
が成立します.また分配法則(A + B)C = AC + BC,
A(B + C) = AB + AC
も成立します.しかし交換法則AB = BA
は一般には成立しません.さらにA
̸= O
かつB
̸= O
でもAB = O
となることがあります.[
行列]
R
n をn
個の実数を並べてできるベクトルx =
x
1..
.
x
n
の全体のなす集合とします.R
n からR
m への1次式で表される写像y = f (x)
y1
= a
11x1+ a
12x2+
· · · + a1nx
ny2
= a
21x1+ a
22x2+
· · · + a2nx
n..
.
y
m= a
m1x
1+ a
m2x
2+
· · · + a
mnx
n を考えます.この写像はx
1, . . . , x
n の係数たちを並べてできるA =
a
11a
12. . .
a
1na21
a22
. . .
a2n
..
.
..
.
. .
.
..
.
a
m1a
m2. . .
a
mn
によって表すことができます.このようなA
を行列といいます. このA
を用いてf
はy = f (x) =
a11x1
+ a
12x2+
· · · + a1nx
na21x1
+ a
22x2+
· · · + a2nx
n..
.
a
m1x1
+ am2
x2
+
· · · + a
mnx
n
となります.そこでf
を対応するA
で置き換えてf (x) = A(x) = Ax
とみてy = Ax =
a
11a
12. . .
a
1na21
a22
. . .
a2n
..
.
..
.
. .
.
..
.
a11
a12
. . .
a1n
x1
..
.
x
n
と表すことができます.これによって行列A
とベクトルx
の積が定義できます. ここでA
の列の数とx
の行の数が一致していることに注意しましょう. 写像f :
R
n→ R
m とg :
R
n→ R
m に対応する行列をそれぞれA, B
とするとき,写像の和(f + g)(x) = f (x) + g(y)
に対応する行列で和A + B
を定義することができます.したがってA
とB
の和はA
の行の数 とB
の行の数m
が,A
の列の数とB
の列の数n
が共に一致している必要があります. またh :
R
m→ R
ℓ に対応する行列をC
とするとき,合成写像(h
◦ f)(x) = h(f(x))
に対応する行列で積CA
を定義することができます.このときC
の列の数とA
の行の数m
が 一致している必要があります.またh
◦ f : R
n→ R
ℓ なのでCA
はℓ
行n
列の行列になります.一般に
mn
個の実数(
または複素数)
{a
ij| 1 ≤ i ≤ m, 1 ≤ j ≤ n}
をm
行n
列に配置した ものA =
a11
a12
. . .
a1n
a
21a
22. . .
a
2n..
.
..
.
. .
.
..
.
a
m1a
m2. . .
a
mn
をm
行n
列の行列,m
× n
行列,あるいは(m, n)
行列といいます.この行数と列数の組m
× n
を行列のサイズといいます.このとき上からi
番目の横列をA
の第i
行,左からj
番目の縦列をA
の第j
列といいます.A
の第i
行第j
列にある数a
ij をA
の第(i, j)
成分といいます.第(i, j)
成分がa
ij であるような行列を(aij
)
のように表すことがあります.またm = n
のときはn
次正方行列といいます.2
つの行列A = (a
ij), B = (bij
)
のサイズが等しく,全てのi, j
に ついてa
ij= b
ij であるときA
とB
は等しいといいA = B
で表します. 2つの行列A, B
が同じサイズのとき和が定義されます.A, B
のサイズが共にm
× n
でA =
(a
ij), B = (b
ij)
であるときA + B = (a
ij+ bij)
と定めます.つまり,行列の和は成分ごとに和を取ります.m
× n
行列A = (a
ij)
と定数c
に対して,A
のc
倍をcA = (ca
ij)
と定めます.行列の定数倍も成分ごとにc
倍します. 2つの行列A, B
について,A
の列数とB
の行数が一致するとき積AB
が定義されます.A =
(aik)
がℓ
× m
行列,B = (b
kj) がm
× n
行列のとき,AB
の(i, j)
成分c
ij をc
ij= ai1
b1j
+ ai2
b2j
+
· · · + a
imb
mj と定めます.
a11
. . .
. . .
. . .
a1m
..
.
..
.
第i
行a
i1. . .
a
ik. . .
a
im..
.
..
.
a
ℓ1. . .
. . .
. . .
a
ℓm
第j
列a
11. . .
a
1j. . .
a
1n..
.
..
.
..
.
..
.
a
kj..
.
..
.
..
.
..
.
a
m1. . .
a
mj. . .
a
mn
= (cij
)
全ての成分が0
であるような行列を零行列といい,O
で表します.特に全ての成分が0
である ようなベクトルを零ベクトルといいo
で表します. 全ての第(i, i)
成分が1
で,他の成分が全て0
であるような正方行列
1
0
. . .
0
0
. .
.
. .
.
..
.
..
.
. .
.
. .
.
0
0
. . .
0
1
を単位行列といいI
で表します.[
転置行列]
A = (a
ij)
をm
× n
行列とします.つまりA =
a11
. . .
a1j
. . .
a1n
..
.
..
.
..
.
a
i1. . .
a
ij. . .
a
in..
.
..
.
..
.
a
m1. . .
a
mj. . .
a
mn
とします.A
の(i, j)
成分と(j, i)
成分を入れ換えてできるn
× m
行列をA
の転置行列といい, tA
で表します.またA
の複素共役A
を成分ごとの複素共役で定めます. tA =
a11
. . .
a
i1. . .
a
m1..
.
..
.
..
.
a1j
. . .
a
ij. . .
a
mj..
.
..
.
..
.
a
1n. . .
a
in. . .
a
mn
,
A =
a11
. . .
a1j
. . .
a1n
..
.
..
.
..
.
a
i1. . .
a
ij. . .
a
in..
.
..
.
..
.
a
m1. . .
a
mj. . .
a
mn
(
ただしa + bi = a
− bi, i =
√
−1)
.また tA
をA
の随伴行列といいA
∗ で表します.A
∗=
tA
でもあります. 命題. (
転置行列の性質)
行列A, B
に対して次が成り立ちます.(1)
t(AB) =
tB
tA.
(2) (AB)
∗= B
∗A
∗.
定義. (
対称行列,交代行列)
A
を行列とする.(1) A
が対称行列⇐⇒
tA = A.
(2) A
が交代行列⇐⇒
tA =
−A.
(3) A
がエルミート行列⇐⇒ A
∗= A.
(4) A
が歪エルミート行列⇐⇒ A
∗=
−A.
正方行列A = (a
ij) のi = j
となっている成分a
ii たちを行列A
の対角成分といいます.正 方行列の対角成分を除く全ての成分が0
であるような正方行列を対角行列といいます. 定義. (
対角行列)
正方行列A
が対角行列である⇐⇒ A
の対角成分以外の成分は全て0.
⇐⇒ A =
a1
O
. .
.
O
a
n
の形の行列. 正方行列A = (a
ij)
がi > j
のときa
ij= 0
をみたすときA
を上三角行列であるといいます. またi < j
のときa
ij= 0
をみたすときA
を下三角行列といいます.
上三角行列a
11. . .
a
1n. .
.
..
.
O
a
nn
,
下三角行列a
11O
..
.
. .
.
a
n1. . .
a
nn
[
正則行列]
行列では四則演算のうち和・差・積が定義されていますが,商は一般にできません.ここでは行 列のうち“ 商 ”ができるようなものについて考えてみましょう.このような商に相当する演算がで きる行列を正則行列といいます. 定義. (
正則行列)
n
次正方行列A
が正則行列である⇐⇒ AX = I
かつXA = I
となるn
次正方行列X
が存在する. このような行列X
をA
の逆行列といい,A
−1 で表す. 普通の数(
有理数,実数または複素数)
ではa
̸= 0
のときax = b
をみたすような数x
をb
a
と 表しました.n
次正方行列A
が正則行列であるときAX = B
をみたす行列X
はX = IX = (A
−1A)X = A
−1B
と表されます.ただし行列は積に関して交換可能ではありませんのでY A = B
をみたす行列Y
はY = Y I = Y (AA
−1) = BA
−1 となり一般にX
̸= Y
となります.例えばA =
(
1
1
0
1
)
, B =
(
0
1
1
0
)
のときA
−1=
(
1
−1
0
1
)
で,AX = B
をみたすX
はX = A
−1B =
(
−1 1
1
0
)
であり,Y A = B
をみた すY
はY = BA
−1=
(
0
1
1
−1
)
となります.A
が正則でない場合はAX = B
やXA = B
をみたすようなX
は一意的に存在するとは限 りません.このようなX
が存在しないこともありますし,無数に存在する場合もあります. 次に正則行列を「写像」として見てみましょう.n
次実正方行列A
はR
n からR
n への写像f (x) = Ax
とみることができます.特にn
次単位行列I
n はR
n からR
n への恒等写像id
Rn に対応します.A
が正則行列であるとするとAX = XA = I
n となるX
が存在しますからX
に対応する写像をg
とするとf
◦ g = g ◦ f = idR
n をみたすR
n からR
n への写像g
が存在することになります.するとf
は全射かつ単射でg
がf
の逆写像であることがわかります.したがって正則行列とは全単射な写像に対応し逆行列が逆写 像に対応しています. 正則であることの判定や逆行列の求め方は後で扱います.逆行列については次が成り立ちます. 定理. (
逆行列)
A, B
を正則行列とする.(1) A
−1 は正則で(A
−1)
−1= A.
(2) AB
は正則で(AB)
−1= B
−1A
−1.
(3) A
∗ は正則で(A
∗)
−1= (A
−1)
∗.
[
行列の区分け]
行列の表示や計算を簡素化するために行列をいくつかの小さい行列に分割して表すことがありま す.これを行列の分割といいます.行列の分割は計算できることが大事ですので横に並ぶ小行列の 行の数は一定であり,縦に並ぶ小行列の列の数は一定とします.m
× n
行列A
をA =
b1z}|{
b2z}|{
bkz}|{
a1{
A11
A12
· · · A1k
a
2{A
21A
22· · · A2k
..
.
..
.
. .
.
..
.
a
l{
A
l1A
l2· · ·
A
lk
とするとき,第i
行に出てくるA
i1,
· · · , A
ik は同じ行数a
i で,第j
列にでてくるA1j
,
· · · , A
lj は同じ列数b
j であり,それらの和は∑
a
i= m,
∑
b
j= n
となります.m
× n
行列B
を 行列A
と同じ様に分割したとき行列A
と 行列B
の和は普通の行列の和と 同様に各小行列の和となります.A + B =
A
11+ B
11A
12+ B
12· · · A1k
+ B
1kA21
+ B
21A22
+ B
22· · · A2k
+ B
2k..
.
..
.
. .
.
..
.
A
l1+ Bl1
A
l2+ Bl2
· · ·
A
lk+ Blk
またn
× s
行列B
の行を行列A
の列と同じ様にB =
b1{
B11
B12
· · · B1p
b
2{B
21B
22· · · B2p
..
.
..
.
. .
.
..
.
b
k{ B
k1B
k2· · · B
kp
で第j
行の小行列の行数がA
の第j
列の列数と一致しているとき行列A
と行列B
の積が数を 成分とする行列と同様に計算できます.このときAB
の(i, j)
小行列はA
i1B1j
+ Ai2
B2j
+
· · · + A
ikB
kj で与えられます. 特にn
次正方行列の分割を,任意のi
についてa
i= b
i であるようにとるとき,これを対称分割 といいます.A =
a1z}|{
a2z}|{
akz}|{
a1
{
A11
A12
· · · A1k
a
2{
A
21A
22· · · A2k
..
.
..
.
. .
.
..
.
a
k{
A
k1A
k2· · · A
kk
この場合,同じ対称分割を持つ行列の和と積は普通の数を成分とする行列と同様に計算することが できます.A = (a
ij) をm
× n
行列とします.A
の第i
行をa
(i)= ( a
i1a
i2· · · a
in)
とおくとA
はA =
a
(1)a
(2)..
.
a
(m)
と分割することができます.これをA
の行ベクトル分割といいます.またn
× ℓ
行列B = (b
jk)
の第k
列をb
k=
b
1kb2k
..
.
b
nk
とおくとB
はB = ( b1
b
2· · · b
ℓ)
と分割することができます.これをB
の列ベクトル分割といいます.この分割に関して次が成り 立ちます.(1) ( x
1· · · x
m) A = ( x
1· · · x
m)
a
(1)..
.
a
(m)
= x
1a
(1)+
· · · + x
ma
(m)(2) B
x1
..
.
x
ℓ
= ( b
1· · · b
ℓ)
x1
..
.
x
ℓ
= x
1b
1+
· · · + x
ℓb
ℓ(3) AB = A ( b
1· · · b
ℓ) = ( Ab
1· · · Ab
ℓ)
(4) AB =
a
(1)..
.
a
(m)
B =
a
(1)B
..
.
a
(m)B
(5) AB =
a
(1)..
.
a
(m)
( b
1· · · b
ℓ) =
a
(1)b
1· · ·
a
(1)b
ℓ..
.
..
.
a
(m)b
1· · · a
(m)b
ℓ
第j
成分が1
でその他の成分が全て0
である列ベクトルを基本ベクトルといい,e
j で表し ます.e
1=
1
0
..
.
0
, e
2=
0
1
0
..
.
0
, . . . .
したがってn
次単位行列I
n はI
n= ( e
1e
2· · · e
n)
と列ベクトル分割されます.[
基本変形]
これから行列の階数の計算,逆行列の計算,連立1次方程式の解法,行列式の計算など行列に関 する基本的な計算を学習します.これらの計算は全て「基本変形」を用います.基本変形は今後ずっ と使いますのでしっかり慣れて下さい.I
n をn
次単位行列,I
ij を(i, j)
成分のみが1
でその他の成分が全て0
であるn
次の行列(
行 列単位という)
とします.このとき,基本変形は基本行列と呼ばれる次の3つの行列に対応します.P
ij= In
− I
ii− I
jj+ Iij
+ Iji
=
1
O
. .
.
0
1
. .
.
1
0
. .
.
O
1
,
Q
i(c) = In+ (c
− 1)I
ii=
1
O
. .
.
c
. .
.
O
1
(c
̸= 0),
R
ij(c) = In
+ cIij
=
1
O
. .
.
1
c
. .
.
1
. .
.
O
1
(i
̸= j).
ここで. .
.
には1
が並びます. これら基本行列に関してP
ijP
ij= I
n,
R
ij(c)R
ij(
−c) = R
ij(
−c)R
ij(c) = I
n であり,c
̸= 0
のときQ
i(c)Qi(1/c) = Qi(1/c)Qi(c) = In となります.したがって基本行列は正則行列で,逆行列も基本行列です.これより行列A
に基本 行列P
を左から掛けてB = P A
とできたとき,基本行列P
−1 を左から掛けてA = P
−1B
と 戻すことができます.このことから「基本行列を掛ける」という操作A
−→ P A = B
は同値変形です.行列にこの基本行列を掛けることを基本変形と呼びます.特に左から基本行列を掛けることを 行基本変形といい,右から基本行列を掛けることを列基本変形といいます.
A
をn
× m
行列として,A =
a
1..
.
a
n
と行ベクトル(
各a
i は行ベクトル)
で分割します.こ のときP
ijA =
..
.
i
a
j..
.
j
a
i..
.
, Q
i(c)A =
..
.
i
ca
i..
.
, R
ij(c)A =
..
.
i
a
i+ ca
j..
.
j
a
j..
.
となりますから,行基本変形とは(1)
ある第i
行とある第j
行を入れ換える(ri
↔ r
j で表す)
(2)
ある第i
行を定数c
̸= 0
倍する(cri
で表す)
(3)
ある第i
行に別の第j
行のc
倍を加える(r
i+ cr
j で表す)
のことです.この変形を矢印を用いて表します.これら3つの基本変形はそれぞれ
..
.
a
i..
.
a
j..
.
ri↔rj−→
..
.
a
j..
.
a
i..
.
,
..
.
a
i..
.
−→
cri
..
.
ca
i..
.
,
..
.
a
i..
.
a
j..
.
ri+crj−→
..
.
a
i+ ca
j..
.
a
j..
.
となります.ただし..
.
の部分は変化しません.これらのいずれか1つを順に操作して行列A
を変 形していきます. 同様に列基本変形は(1)
ある第i
列とある第j
列を入れ換える(ci
↔ c
j で表す)
(2)
ある第i
列を定数d
̸= 0
倍する(dci
で表す)
(3)
ある第j
列に別の第i
列のc
倍を加える(c
j+ dc
i で表す)
です. 例えばA, B
を行列として方程式AX = B
を考えます.この式に左から基本行列P (P
ij, Qi(c),
R
ij(c)
のどれか)
を掛けるとP AX = P B
ですから,これはA, B
に同じ行基本変形を行ったこ とになります.したがってA, B
を並べてできる行列(A B)
に対してP (A B) = (P A P B)
よ り,(A B)
に左からP
を掛けた(
行の基本変形をした)
ことに相当します.またP
は正則なので 左からP
−1 を掛けることによって(A B)
すなわちAX = B
に戻ることができます.したがっ て基本変形を繰り返してA
が階段状の行列A
′ に変型できたとき方程式AX = B
はA
′X = B
′ と同値でA
′X = B
′ の解は最初の方程式の解と一致します.[
区分けされた行列の基本変形]
行列A
について,基本変形(1)
ある第i
行とある第j
行を入れ換える(2)
ある第i
行を定数c
̸= 0
倍する(3)
ある第i
行に別の第j
行のc
倍を加える(
列についても同様)
がありました.これは分割された行列に対しても同様に計算できます.A = (A
ij)
を分割された行列とします.ここでA
ij は全てm
× n
行列とします.このときA
のmi + 1
行から(m + 1)i
行を定数c
̸= 0
倍するとA
の第i
行区画がc
倍されます.またk = 1, . . . , m
についてA
のmi + k
行とmj + k
行を入れ換えるとA
の第i
行区画と第j
行 区画が入れ替わります.
A
i1. . . A
∗
it∗
−→
cA
i1. . . cA
∗
it∗
,
∗
A
i1. . . A
it∗
A
j1. . . A
jt∗
−→
∗
A
j1. . . A
jt∗
A
i1. . . A
it∗
またP =
i
j
. .
.
O
i
I
mC
. .
.
j
I
mO
. .
.
は正則行列であり,基本行列の積で表されます.これを左からA
にかけることによって
∗
A
i1. . .
A
it∗
A
j1. . .
A
jt∗
−→
∗
A
i1+ CAj1
. . .
A
it+ CAjt
∗
A
j1. . .
A
jt∗
とできます. 列の区画についても同様に基本変形できます.ただし,行列の積は交換可能ではないので上のよ うなP
を右からA
にかけると
A1i
A1j
∗
..
.
∗
..
.
∗
A
siA
sj
→
A1i
A1j
+ A
1iC∗
..
.
∗
..
.
∗
A
siA
sj+ A
siC
となります.行基本変形と列基本変形で,行列C
の積の順番に注意しましょう.[
階段行列]
A
をm
× n
行列とします.A
に行基本変形を行い簡単な形に変形します.特にA
を「階段行 列」と呼ばれる行列に変形します. 階段行列への変形は行基本変形のみを行います.他にも逆行列の計算,連立1次方程式の解法で は行基本変形のみを行います. 次のような形の行列を階段行列といいます.(14.1)
to
1
A
110
A
120
∗
0
A
1r0
to
1
A22
0
∗
0
A2r
0
to
1
∗
0
A
3r0
. .
.
..
.
..
.
1
A
rrO
O
O
ここでA
ij は行ベクトルを表し,行ベクトル to
とA
ij を含む区画は0
列以上あるとします.A = (a
ij)
をm
× n
行列とします.A
の列でo
でない最初のものが第j
列であるとします.す るとA
はA = (O a
j. . . a
n)と分割できます.ここでa
j̸= o
なのであるa
ij̸= 0
です.そこ で第i
行を1/a
ij 倍し,行基本変形(3)
を行いa
1j=
· · · = a
i−1 j= a
i+1 j=
· · · = a
mj= 0
と変形し,第i
行と第1
行を入れ換えます.こうしてA
→
(
to
1
∗
O
o
A1
)
の形に変形できま す.A1
に対して同様に行基本変形を行い,これを繰り返して
t
o
1
A11
∗ A12
∗
∗
∗ A1r
0
to
1
A22
∗
∗
∗ A2r
0
to
1
∗
∗ A3r
0
. .
.
..
.
..
.
1
A
rrO
O
O
とできます.さらに階段の段差の部分に現れる列ベクトル
∗
1
o
をこの段差部分の1
を用いて上 の∗
の部分を掃き出して階段行列(14.1)
に変形できます.したがって次が成り立ちます. 定理. (
変形定理)
任意の行列は行基本変形で階段行列に変形できる. ここで行基本変形は基本行列を左からかけることでした.したがってある基本行列P1, . . . , P
k が存在してP
k. . . P
2P
1A
を階段行列にすることができます.また基本行列は正則行列ですから, その積P = P
k. . . P2P1
も正則行列です.よって 任意の行列A
に対して,ある正則行列P
が存在してP A
を階段行列にすることができる ことがわかります.また基本行列の逆行列もまた基本行列ですからA
→ B
がA
の階段行列B
への変形であるとき行基本変形を繰り返してB
をA
に変形することができます. 行列A
を階段行列(14.1)
に変形できたとき,A
の階数を階段の数r
で定めます.行列A
の 階数をrank A
で表します.[
連立1次方程式]
x
1. . . . , x
x を変数とする連立1次方程式(15.1)
a
11x
1+ a
12x
2+
· · · + a1n
x
n= c
1a
21x
1+ a
22x
2+
· · · + a2n
x
n= c
2..
.
a
m1x1
+ am2
x2
+
· · · + a
mnx
n= cm
はm
× n
行列A = (a
ij), n
次元列ベクトルx = (x
i)
とm
次元列ベクトルc = (c
i)
を用いてAx = c
と表されます.このA
を連立1次方程式(15.1)
の係数行列いい,A
とc
を並べてできる行列(A
| c)
を(15.1)
の拡大係数行列といいます. 方程式Ax = c
をみたすベクトルx
はA
が正則であれば逆行列A
−1 を求めて,左からA
−1 を掛けることによってx = (A
−1A)x = A
−1c
と求めることができますがA
−1 を求めなくても(A
| c)
に行基本変形を行って求めることができます.特に,A
−1 はA
が正則でないと存在しま せんが,(A
| c)
に関する基本変形ではA
が正則でなくてもAx = c
をみたすベクトルx
を求 めることができます. 拡大係数行列(A
| c)
を行基本変形して(15.2)
(A
| c) → (A
′| d) =
1
A
110
A
120
∗
0
A
1rd
10
O
1
A22
0
∗
0
A2r
d2
0
O
1
∗
0
A
3rd
30
. .
.
..
.
..
.
..
.
1
A
rrd
rO
O
O
d
′
と階段行列にできたとすると,ある正則行列(
基本行列の積) P
が存在してAx = c
⇐⇒ P Ax = P c ⇐⇒ A
′x = d
ですから最初の連立1次方程式は連立1次方程式A
′x = d
と同値です.したがって 「x
がAx = c
をみたす」ことと「x
がA
′x = d
をみたす」ことは同値 なので方程式A
′x = d
の解x
は方程式Ax = c
の解であることと必要十分です. 特にd
′̸= o
のときAx = c
は解を持たないことがわかります.d
′= o
のときAx = c
は解 をもちます.このとき解はA
′x = d
を解いて求めることができます.いま
d
′= o
とし,拡大係数行列(A
′| d)
の基本ベクトルとなる列をi1
= 1 < i
2<
· · · < i
r とします.x =
x
i1x
1x
i2..
.
x
irx
r
とおくとA
′x = d
より
x
i1=
d1
− A11
x
1− A12
x
2− · · · − A1r
x
rx
i2=
d
2− A22
x
2− · · · − A2r
x
r. .
.
. .
.
x
ir=
d
r−
A
rrx
r となります.したがってA
′= (a
′ij)
としてx =
x
i1x
1x
i2x
2..
.
x
irx
r
=
d
1− A11
x
1− A12
x
2− · · · − A1r
x
rx
1d
2− A22
x
2− · · · − A2r
x
rx
2..
.
d
r−
A
rrx
rx
r
=
d1
o
d2
o
..
.
d
ro
+
∑
j̸=i1,...,irx
j
−a
′ 1jo
−a
′ 2jo
..
.
−a
′ rjo
+ ej
,
(xj
は任意)
と表すことができます.このときの任意定数x
j たちの数n
− r
を解の自由度といいます. このように連立1次方程式は基本ベクトルに変形できた列に対応する変数をそれ以外の変数たち を用いて表すことができます.したがって解x
は 基本ベクトルに変形できない列に対応する変数たちを任意定数として 表すことができます.そこでこのx
j たちをc
j としてx = x
0+ c
1a
1+
· · · + c
n−ra
n−r,
(c
j は任意)
の形に表すことができます.連立1次方程式の解はこのようにベクトルの形で表します.連立1次方程式
Ax = o
を同次連立1次方程式といいます.同次方程式は必ずx = o
を解に 持ちます.これをAx = o
の自明な解といいます. 同次連立1次方程式Ax = o
が非自明な解を持つとします.解の自由度をs
とするときc1, . . . , c
s を任意定数としてx = c
1a
1+
· · · + c
sa
s と表されます.この解を同次方程式Ax = o
の一般解といい,a
1, . . . , a
s を同次方程式Ax = o
の基本解といいます.またAx = o
の解全体のなす集合V =
{x | Ax = o} = {c1
a
1+
· · · + c
sa
s| c1
, . . . , c
sは任意}
を同次方程式Ax = o
の解空間といいます. 連立1次方程式Ax = c
の1つの解をx = d
とします.このd
を方程式Ax = c
の特殊解と いいます.このときA(x
− d) = o
となりx
− d
は同次連立1次方程式Ay = o
の解です.し たがってx = d + y
となりAx = c
の解は(
1つの特殊解) + (
同次方程式Ax = o
の一般解)
となります. 例.拡大係数行列を行基本変形して
1
0
0
1
a
b
d1
d2
0
0
0
0
となったとします.このとき連立1次方程式
x1
+ ax
3= d
1x2
+ bx
3= d
20 = 0
⇐⇒
x1
= d
1− ax3
x2
= d
2− bx3
x
3=
x
3 と同値であり,解はc = x3
を任意定数として
x1
x
2x3
=
d1
d
20
+ c
−a
−b
1
, (c
は任意)
と表されます. 拡大係数行列が(15.2)
のように変形できたとき,基本ベクトルにできた列に対応する変数は残 りの変数で表すことができます.基本ベクトルになった列の個数が階数,それ以外の列に対応する 変数の個数が解の自由度でしたので次が成り立ちます. 定理. (
解の自由度)
x
をn
次元ベクトルとする.連立1次方程式Ax = c
が解をもつとき(1) rank(A
| c) = rank A = n
のときただ1つの解を持つ.(2) rank(A
| c) = rank A < n
のとき無数の解を持ち,解の自由度はn
− rank A
で与えられる.