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心不全に対するリハビリテーションのグローバルスタンダード

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Academic year: 2021

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はじめに  人口の高齢化に伴い,日本のみならず先進国において慢性心 不全(以下,CHF)患者が急増している。CHF は加齢に伴い 増加する症候群であり,おおよそ 20%の成人が死亡するまでに 心不全を発症する1)。世界の疾病負担(DALY)を調査した報 告では,1990(平成 2)年に 4 位であった虚血性心疾患は 2010 (平成 22)年の調査では 1 位に躍進している2)。虚血性心疾患 は心不全の主要な原因疾患であり,心不全による世界の疾病負 担は今後ますます重要な問題としてクローズアップされてくる と考えられる。本稿では心不全の定義や分類について概説する とともに,リハビリテーションの中核を占める運動療法のエビ デンスについて最近の知見を交えて紹介する。 心不全の定義  慢性心不全とは狭義の意味からは,“慢性の心筋障害により 心臓のポンプ機能が低下し,末梢主要臓器の酸素需要量に見合 うだけの血液量を絶対的にまた相対的に拍出できない状態であ り,肺,体静脈系または両系にうっ血をきたし日常生活に障害 を生じた病態”と定義される3)。労作時呼吸困難,息切れ,尿 量減少,四肢の浮腫,肝腫大等の症状の出現により生活の質的 低下(Quality of Life;QOL の低下)が生じ,日常生活が著し く障害される。また致死的不整脈の出現も高頻度にみられ,突 然死の頻度も高い。心不全はすべての心疾患の終末的な病態で その生命予後はきわめて悪い。  従来心不全というと左室駆出率(以下,LVEF)が著しく低 下した心不全患者が主体であると考えられていたが,様々な疫 学研究により LVEF が保たれた心不全患者が約半数を占める ことがあきらかになってきた4)。ACCF/AHA から発表された 2013(平成 25)年のガイドラインでは LVEF が低下した心不全 (heart failure with reduced ejection fraction;以下,HFrEF)

と LVEF が保持された心不全(heart failure with preserved ejection fraction;以下,HFpEF)の定義が示されている4)。 HFrEF や HFpEF は臨床試験によって LVEF のカットオフ値 が 異 な っ て お り,HFrEF で は 35 や 40 % 以 下,HFpEF で は > 40,45,50,55%などのカットオフ値が用いられてきた。 ガ イ ド ラ イ ン で は HFrEF を LVEF < 40 % の 心 不 全 患 者, HFpEF を LVEF ≧ 50%の心不全患者としている。 心不全の分類 1.NYHA 心機能分類と ACCF/AHA の心不全ステージ分類  心不全の程度や重症度を示す分類には自覚症状から判断する NYHA(New York Heart Association)心機能分類が汎用さ れている。これに加えて,2005(平成 17)年に ACCF/AHA から新たな心不全のステージ分類が発表された(図 1)4)5)。本 分類は将来,心不全を発症する可能性がある患者群も心不全の 一群として捉え,治療戦略を提示しており,ステージの進行は 5 年生存率の低下や B 型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)の上 昇と関連していることがあきらかとなっている6)。心不全に対 する運動療法は Stage C の心不全を有する患者に対してアンジ オテンシン変換酵素阻害薬やβ 遮断薬と同様に,有効な治療 のひとつとして位置づけられている。また,従来から我が国で も行われてきている心筋梗塞や狭心症患者の心臓リハビリテー ションも,Stage B の心不全に対する運動療法とも捉えること ができ,心不全への移行を抑制する効果が期待される。 2.血行動態に基づく分類 ─ Nohria-Steavenson 分類─7)  血行動態を把握するには,Nohria-Steavenson 分類に基づき 『うっ血所見;“wet” or “dry”』と『低灌流所見;“warm” or “cold”』について 2 × 2 の表を念頭におきながら情報収集をす ると整理しやすい(図 2)。心不全治療は Nohria-Steavenson 分 類における Profi le A(warm and dry)の状態に導くことを目 標に行われる。心不全患者に対するリハビリテーションを進め るうえで本文類の考え方とフィジカルアセスメントを身につけ ることがもっとも重要である。リハビリテーションの進行や運 動負荷の増大,薬物療法の変更に伴いうっ血所見や低灌流所見 の増悪がないかを確認しながら行うことが心不全増悪を早期に 発見するための基本となる。 3.心不全の疫学と予後  CHF は長期的には慢性かつ進行性に心機能が低下し入退院 を繰り返す。日本人を対象とした前向きの登録観察研究であ る JCARE-CARD からの報告では,心不全の増悪によって入 院した患者の 1 年以内の再入院率は HFrEF 患者では 23.7%, HFpEF 患者では 25.7%,全死亡率はそれぞれ 8.9%,11.6%と

心不全に対するリハビリテーションのグローバルスタンダード

神谷健太郎

**

ランチョンセミナー

Global Standard of Rehabilitation for Patients with Heart Failure **

北里大学病院リハビリテーションセンター部 (〒 252‒0375 神奈川県相模原市南区北里 1‒15‒1)

Kentaro Kamiya, PT, MSc: Department of Rehabilitation, Kitasato University Hospital

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報告されている8)。本データからわかるように 4 人に 1 人は LVEF の高低にかかわらず 1 年以内に再入院をしてくる。特に, 退院後 3 ∼ 4 ヵ月の間に再入院イベントの発生率が高いため, 退 院 後 初 期 の 時 期 を Braunwald の テ キ ス ト で は vulnerable phase(不安定な時期)とも称している9)。リハビリテーショ ンの介入研究で時々,在院日数の減少をアウトカムとする場合 があるが,様々な国の急性心不全患者の在院日数を調査した疫 学研究によれば,在院日数が短い国ほど退院後 30 日間の再入 院率が高いことが示されている10)。心不全患者においては在 院日数の短縮が中長期的な予後やコストを減少させるとは限ら ないことを示しており,入院中の十分な治療や疾患管理教育の 必要性を示唆している。  CHF の増悪による再入院の発生を規定する因子として,「退 院後外来受診が少ない」,「心不全の入院歴あり」,「入院期間が 長い」,「在宅療養サービスの利用なし」,「就労なし」,「高血圧 の既往あり」が挙げられている11)。外来診療の受診頻度や心 不全の入院歴は欧米からの報告とも一致しており,重症な患者 に対してはより高頻度にフォローアップする必要性が示されて いる。その他の要因として,BNP 高値,運動耐容能低下,高 齢,慢性閉塞性肺疾患の合併,糖尿病の合併,腎機能低下,貧 血,不安やうつ,精神的なサポートの欠如,認知機能障害,身 体機能低下,筋力低下などが再入院や生命予後の予測因子とな る9)12)13)。 4.心不全に対する運動療法  心不全に対する運動療法や指導の効果に関しては,様々な 介入方法やアウトカムに関して検討されてきている。特にど のような対象患者に施行したかについては重要であり,①基 礎疾患,②処方されていた薬剤,③重症度,④心不全が安定し てからどれくらい経過しているのか,⑤除外基準はなにかを捉 え,目の前の患者に適応できるのかを吟味すべきである。多く のエビデンスが①少なくとも 2 ∼ 3 ヵ月間心不全が代償され, ② NYHA Ⅱ∼Ⅲ度の LVEF が低下した,③虚血性心不全もし くは拡張型心筋症を対象とした試験であるからである。 図 1 ACCF/AHA による慢性心不全のステージ分類(文献 4)5)をもとに筆者が作成)

2013 年のガイドラインでは Stage C の治療戦略が新たに HFpEF と HFrEF に分けて示された. HFpEF,左室駆出率の保持された心不全;HFrEF,左室駆出率が低下した心不全

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HFrEF に対する運動療法 1.有酸素運動  運動療法はβ 遮断薬と同様に昔は心不全患者には禁忌の治 療であった。しかし,1990 年代ころより心不全患者に対する 運動療法が運動耐容能を改善させること,また,運動耐容能が 心不全患者の生命予後に密接に関与していることなどから,心 不全患者に対する運動療法の効果が検証されるようになった。 ExTraMATCH はヨーロッパのグループにより行われたメタア ナリシスであるが,運動療法が再入院や死亡率の改善に有効で あったと結論づけている14)。表に ExTraMATCH のメタアナ リシスに組みこまれた報告の概要を示した。これらの報告から 読み取れることとして,運動療法の種類は有酸素運動が主体で あり一部の報告でレジスタンストレーニングを併用しているこ と,運動強度は最高酸素摂取量の 50 ∼ 80%程度が主体であり, 対象の平均年齢が 60 歳前後と比較的若いことが挙げられる。  ExTraMATCH など,様々な研究から HFrEF に対する運動 療法の予後改善効果が報告されたことから,北米において 2,000 名を超える患者を対象として運動療法の多施設無作為化比較対 象試験(以下,HF-ACTION)が行われた。よく計画されたデ ザインで大きなサンプルサイズを有することからエビデンスレ ベルが非常に高い研究として注目され,その結果が期待された が,1 次エンドポイントである全死亡には有意な差を見いだす ことができず,多変量で調整したのちに差を見いだしたのみで あった15)。本研究は,今までの研究規模より突出してサンプ ルサイズが大きいため,その後に行われたコクランレビューの メタアナリシスでは,心不全に対する運動療法は生命予後に 影響しないとの結果にとどまっている16)。HF-ACTION の対 象患者は,β 遮断薬の処方率が高く,植込型除細動器挿入患者 が 40%程度含まれているなど現在における最善の心不全治療 が施された対象であった点や,非監視型運動療法を中心とし ているなどの点で過去の研究と異なるが,HF-ACTION と過 去の試験結果が大きく異なるため,この原因について多くの ディスカッションが行われている。現時点では HF-ACTION における運動療法の実施率が 30%ときわめて不良であったこ とが主因であると考えられている。HF-ACTION とは対照的 に,Belardinelli らは 10 年間の監視型運動療法の介入試験を行 い,その結果を最近報告した17)。驚くべきことに,運動療法 に対するアドヒアランスは 10 年間を通して 88%と高く,運動 療法群は運動耐容能,QOL や LVEF の改善が図られ,生存率 も非介入群と比較してきわめて良好である。HF-ACTION の 結果を受けてヨーロッパ心臓病学会の心不全に対する運動療 法グループから position statement がだされ,その中で研究者 たちは“Non-adherence: the Achilles heel of exercise training programmes”という表現で,運動療法に対するアドヒアラン スの重要性を強調している18)。 2.インターバルトレーニング  有酸素運動のひとつの方法として異なる強度の運動を交互に 行うインターバルトレーニングがある。近年,安定期にある HFrEF 患者において,高強度インターバルトレーニングは中 強度の持続的運動と比較して最高酸素摂取量をより向上させる とのメタアナリシスも行われており19),現在,多施設での前 向きな介入試験(SMARTEX-HF)が行われている最中でもあ る20)。従来,嫌気性代謝閾値での持続的運動が心疾患患者に おける有酸素運動のゴールドスタンダードとして提唱されてき Study n 施行内容 運動強度 Belardinelli et al., 1999 50, 49 監視型 有酸素運動 60 分の歩行 3day/W × 8W → 2day/W

60% peak oxygen consumption

Dubach et al., 1997 24, 26 監視型 2 時間の歩行 毎日 + 40 分のエルゴメータ 4day/W

80% peak oxygen consumption

Giannuzzi et al., 1997 46, 42 監視型 有酸素運動 30 分 3day/W その後自宅にて エルゴメータ 3day/W ウォーキング 30 分

80% peak heart rate

Hambrecht et al., 1995 34, 35 監視型+自宅

40 ∼ 60 分のウォーキング

70% peak oxygen consumption

Kiilavuori et al., 2000 12, 15 監視型 30 分 3day/W × 4 ヵ月 その後自宅にてトレーニング 50-60% peak oxygen consumption McKelvie et al., 2002 90, 91 監視型 有酸素運動+抵抗運動 30 分 3day/W その後自宅にて 3day/W の有酸素運動

60-70% peak heart rate

Zanelli et al., 1997 76, 79 監視型 有酸素運動+抵抗運動

30 分 2day/W +自宅エルゴ 3day/W × 2M その後自宅のみで 5day/W のエルゴ

70% peak oxygen consumption

Wielenga et al., 1999 41, 39 監視型 ウォーキング,ボールゲーム 30 分 3day/W × 8W その後 2day/W

60% peak heart rate

Willenheimer et al., 1998 22, 30 監視型 インターバルトレーニング (90 秒運動 30 秒休息)を 15 ∼ 45 分

2day/W

80% peak oxygen consumption or Borg scale15

(4)

たが,十分なリスクの層別化を行えばより高強度の運動も処方 可能であることがヨーロッパ,アメリカ,カナダの心臓リハビ リテーション関連学会から合同ステートメントとして発表され ている21)。ただし,高強度インターバルトレーニングに関す る今までの報告は,監視下で行われたものであり,在宅などで の非監視下における高強度運動の安全性や有効性はわかってい ないことを十分に注意すべきである。 3.吸気筋トレーニング  1995(平成 7)年以降,吸気筋力が低下した HFrEF 患者に 対する吸気筋トレーニングが運動耐容能や QOL の改善に有効 であるという報告が数多くなされている。具体的には吸気筋 力の指標を最大吸気圧(PI max)とし,PI max が予測値の < 70%である安定期の心不全症例に対して,30 ∼ 60% PI max の 強度で 1 日 20 ∼ 30 分,週 3 ∼ 7 日間施行するというものであ る22)。 4.神経筋電気刺激療法  1998(平成 10)年以降,NYHA IV の症例を含め十分な運動 療法が困難な症例に対する神経筋電気療法(NMES)の有効性 が報告されてきている。10 ∼ 50 Hz の電気刺激を大腿四頭筋や 下腿三頭筋などに 1 日 30 ∼ 240 分,週 3 ∼ 7 日間施行するこ とにより,運動耐容能,QOL,下肢骨格筋力,うつ状態の改善 などに有効であることが報告されている22)。未だガイドライ ンやステートメントにおいて推奨されるには至っていないが, 我々も重症心不全症例で運動療法が十分に行えない症例に対し て積極的に適応している23)。ガイドラインにおける推奨を得る には,さらなる大きなサンプルサイズで質の高い介入研究が求 められる。 HFpEF に対する運動療法  心不全に対する運動療法のエビデンスは HFrEF 症例に対す るものが主体であるが,近年,HFpEF に対する運動療法の効 果についても次第にあきらかになってきた。Gary らは 32 名の LVEF > 45%の高齢女性を在宅での中強度の有酸素運動+教育 介入群と教育介入群のみのコントロール群に分けて比較し,6 分間歩行距離,QOL,うつ状態の改善に有効であったと報告 している。その後,Kitzman らが単施設での無作為化比較対象 試験を行い,週 3 回の有酸素運動を主体とした監視型運動療法 も運動耐容能や身体機能に関する QOL の向上に効果があるこ とを報告した24)。さらに,2011 年には Edelmann らによって HFpEF に対するはじめての多施設無作為化比較対象研究であ る Ex-DHF の結果が報告され,中強度の有酸素運動を主体と した監視型運動療法が運動耐容能や身体的 QOL,左室拡張能 の改善に有効であることが報告された25)。この報告では最高 酸素摂取量や身体的 QOL の改善度合いが左室拡張能の改善度 合いと関連していることが指摘されている。HFpEF 患者の運 動耐容能改善をもたらす主要な因子に関する検討がいくつかな されており,骨格筋での酸素利用能の改善や左室拡張能の改善 によるものなどが指摘されている25‒28)。これらの報告の対象 患者は平均年齢が 70 歳前後であるものが多く,HFpEF 患者の 主体を占める 75 歳以上の高齢女性患者におけるデータは少な いのが現状である。 まとめと今後の課題  心不全のリアルワールドは多疾患有病の高齢者である。今ま での運動療法による介入研究のおもな対象者は男性で年齢が若 く,合併症の保有率が低いことが指摘されている29)。平均年 齢 80 歳の心不全患者を対象とした最近の介入研究においては, 従来の運動療法介入ではコストベネフィットに見合う効果を見 いだすことができなかった30)。高齢心不全患者に対する介入 のアウトカムの重きは生命予後というより介護予防,歩行能 力維持や QOL に置かれるべきであることは,臨床の第一線で 携わっている理学療法士であれば肌身にしみて感じることであ る。筆者らは理学療法士の観点から,心疾患患者における筋力 や運動機能の目標値を提示してきたが31)32),今後は,その介 入方法をひとつずつ確立していく必要がある。  慢性心不全は様々な分野の理学療法士が遭遇する common disease であり,理学療法がこの分野にどのような貢献ができ るかが問われている。現場で難渋している個々の症例に対して 他職種と協働をする中で理学療法の役割を模索していくととも に,科学的検証を通じて理学療法の有効性をあきらかにしてい くことも重要な課題である。 文  献

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図 2 Nohria-Steavenson 分類 7)

参照

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