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超高齢社会における健康長寿の実現と運動器対策

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Academic year: 2021

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(1)理学療法学 第 42 巻第 8 号 641 ~ 642 頁(2015 超高齢社会における健康長寿の実現と運動器対策 年). 641. 合同シンポジウム 1(日本整形外科学会). 超高齢社会における健康長寿の実現と運動器対策* 木 藤 伸 宏**. 日本は世界のどの国も経験したことのない超高齢社会であ. ここで我々理学療法士は高齢者の運動器対策としてなにを提. り,どのようにこの状況に対処するかについては世界中が注目. 供でき,どのように貢献できるのかを考えてみる。変形性関節. している。日本人の生命寿命は,女性 86.6 歳,男性 80.2 歳で. 症に代表される関節変性疾患は多くの因子が関与し,その発症. 。しかしながら,健康寿命に注目すると男性 71.19 歳,. は 60 歳を過ぎると指数関数的に増加する 5)。発症因子,メカ. 女性 74.21 歳であり,生命寿命と健康寿命の乖離は男性 9.13 歳,. ニズム,治療法ともに未だ決定的なものはないが,罹患者の多. 女性 12.7 歳である。生物学的観点から生命寿命はあと 2 ~ 3. くは運動異常と関節の痛みやこわばりを経験し,何年もかけて. 年延ばすことで限界に達するといわれており,医療・保健・介. 病態や構造障害に進行すると考えられる。これら疾患を有する. 護の観点から,いかに生命寿命と健康寿命の乖離を減少させる. 患者に対し,整形外科医からの処方で理学療法の治療方法であ. かが重要となる。. る運動療法と徒手療法を提供することで x 線での関節の構造. ある. 1). 健康寿命を脅かす疾患として筋骨格系疾患とその障害が関与 2). 学的変化は改善しなくても,症状が劇的に改善することを臨床. 。Vos ら 2) によると筋骨格疾患. で多く経験してきた。理学療法は症状修飾性治療であるが,投. と障害は,障害調整生命年数(Disability-adjusted life years:. 薬や関節注射と異なり,運動パターンを変化させ身体活動をコ. DALYs)の上位を占め,能力障害(disability)の原因として. ントロールしながら症状改善に導く運動と身体活動修飾性治療. していることが報告された. 3). (movement and physical activity modified treatment)である。. つまり,高齢者の健康寿命を延ばすためには,骨関節疾患と障. つまり,理学療法士とは患者に対する教育的介入,運動療法,. 害に対する取り組みが重要となってくる。骨関節疾患と障害に. 徒手療法,物理療法を治療手段とする movement and physical. 対して整形外科医の役割は重要であるが,我々理学療法士も重. activity modified treatment を 提 供 す る 専 門 職(profession). 要な役割をなすその役割を果たすためにも,我々の専門性を明. である。. 2010(平成 22)年は 1990(平成 2)年より 45%上昇した. 。. 確にし,一般に広く認知される必要がある。高齢者の運動器の 健康対策として,理学療法士は何に貢献できるかを整理して いく。. 理学療法士の専門性はなにか. 身体活動コントロール 2011(平成 23)年に The Lancet に「なぜ日本国民は健康な のか」という特集号が組まれた。その中で非感染性疾患と外因 による成人死亡の主要な決定要因として喫煙,高血圧が圧倒. 運動器疾患および障害発症のメカニズムは単純な因果関係モ. 的に上位を占めたが,運動不足(身体不活動)が 3 位であっ. デルではなく,その多くは多因子因果関係モデルといくつかの. た 6)。アジア,アフリカなどの人口過密と経済成長が著しい社. 段階と促通因子を有する多因子因果関係モデルである。特に高. 会において,身体不活動は世界的に見てもパンデミックな状況. 齢者の多くが罹患している変形性関節症に関しては診断基準. にある 6)。ここで高齢者の変形性関節症に行われる人工関節置. および根治的治療ともに未確立の状況である 4)。一般的には,. 換術(以下,TKA, THA)を施行した患者の術後の理学療法. 疾患に対する治療法として,疾患・病態修飾性治療(disease. として身体活動について考察する。近年の人工関節の進歩と. modified treatment) と 症 状 修 飾 性 治 療(symptom modified. 低侵襲手術そして術後早期離床と歩行の獲得は人工関節の術. treatment)の 2 つに分類される。医療機関では,高齢者の運. 後成績を飛躍的に改善した。しかしながら,Skou ら 7)は術後. 動器疾患と障害の多くに対して疾患・病態修飾性治療というよ. 約 30%の患者に遷延性疼痛が認められることを報告した。ま. りは,症状修飾性治療が行われている。理学療法はこれら疾患. た,Matsumoto ら 8) は,TKA 施行者はコントロール群より. に対する症状修飾性治療として重要な役割をなしている。. も転倒しやすい,そして Soison ら 9) は,TKA 施行者の術後. *. The Realization of a Society of Good Health and Longevity and a Countermeasure of Musculoskeletal Health for a Super-aged Society ** 広島国際大学総合リハビリテーション学部 (〒 739–2695 広島県東広島市黒瀬学園台 555–36) Nobuhiro Kito, PT: Hiroshima International University, Faculty of Integrated Rehabilitation キーワード:運動,身体活動,予防. 1 年以内に 42.6%は転倒を経験することを報告した。Ikutomo ら 10) は,THA 施行者の 36%が術後に転倒を経験し,Nagai ら 10) は,THA 後に転倒に対する恐怖が日常生活活動に影響 すると報告した。TKA と THA 後の遷延性疼痛と転倒に身体 不活動が要因であると報告されている。THA や TKA の術後 の理学療法として関節可動域の改善や筋力増強に焦点をあてた.

(2) 642. 理学療法学 第 42 巻第 8 号. 治療から,機能的動作の獲得,歩行の改善,生活活動の改善に 焦点をあてた治療が注目を浴びてきた経緯がある。臨床での理 学療法士は正常に近い歩容と歩行スピードを獲得することが, 転倒や遷延性疼痛を予防できると考えていたと思われる。しか し,実際はかなりの者が転倒を経験し,そして 30%の遷延性 疼痛を有していることは術後の治療の一環を担う専門職として は反省すべきことである。現に過去 2 年間の理学療法学術集会 の TKA と THA の身体活動に関する報告はなかった。循環器 領域に関しては,身体活動に関する重要な研究が報告されてい る。Kono ら 11) は軽度脳梗塞罹患者の脳卒中の再発と冠動脈 疾患の発症に十分な身体活動量を獲得することが重要であり, 一日 6,000 歩以上の身体活動量を推奨している。TKA と THA においても遷延性疼痛と転倒を予防するための術前および術後 に獲得する身体活動量を明らかにし,術後の数値的目標とし. 図. て身体活動量を提示し,ADL,歩行速度,そして歩容に加え, 身体活動量の獲得に向けた取り組みを行う必要がある。. 運 動 運動を行ううえで,骨,軟骨,靭帯,腱,筋膜,骨格筋,神 経系,脈管系などの総称である運動器が重要な役割をなす 12)。 運動器は運動を生みだすための要素ではあるが,それぞれが 個々の機能を発揮したとしても目的とした運動が起こるわけで はない。運動は個々の要素とその機能を適切に結びつけた複合 体である運動システムによってつくりだされる。Sahrmann と Kendall 13)は運動システムを,身体やその構成部分の運動をつ くりだす,身体の生理学的体系,運動の動作に関与する構造体 の機能的な相互作用であると定義した。運動システム異常は関 節の病態と構造障害が生じる前にすでに起こっていることが報 告されており,著者はそれを適切に見つけるための検診システ ムと,病態と構造障害が起こる前に理学療法士が適切に治療介 入する診療システムが整えば運動器の健康に貢献できると考え ている(図)。理学療法士は骨,軟骨,靭帯,腱,筋膜,骨格筋, 神経系の機能障害,および運動システムの異常を判断し治療を 行うスペシャリストである。理学療法士が上記のスペシャリス トとして認知されるためには,異常を判断するための基準を設 け,理学療法士のだれもが行うことができる標準的理学療法を 提示し,そのエビデンスを積み上げていくことが必要である。. ま と め 健康長寿の実現と運動器対策における運動器理学療法士の役 割は,1)乳児期から成熟期にいたるまで,各年代および個人 の状態に応じて患者教育,運動パターンの修正,そして身体活 動量のコントロールを手段とし,運動システムを健全な状態に 適応する治療を提供する。2)運動器の病態・疾患を有する者 に対し,その人にとって健康的な生活を送るためのリハビリ テーション,および 2 次,3 次予防を行う治療を提供する。. 文 献 1) 厚生労働省:第 3 章健康寿命の延伸に向けた最近の取り組み,平 成 26 年版厚生労働白書 健康長寿社会の実現に向けて─健康・予 防元年.日経印刷,東京,2014,pp. 132–247. 2) Vos T, Flaxman AD, et al.: Years lived with disability (YLDs) for 1160 sequelae of 289 diseases and injuries 1990-2010: a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2010. Lancet. 2012; 380: 2163–2196. 3) Murray CJ, Vos T, et al.: Disability-adjusted life years (DALYs) for 291 diseases and injuries in 21 regions, 1990-2010: a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2010. Lancet. 2012; 380: 2197–2223. 4) McAlindon TE, Bannuru RR, et al.: OARSI guidelines for the non-surgical management of knee osteoarthritis. Osteoarthritis Cartilage. 2014; 22: 363–388. 5) Prieto-Alhambra D, Judge A, et al.: Incidence and risk factors for clinically diagnosed knee, hip and hand osteoarthritis: influences of age, gender and osteoarthritis affecting other joints. Ann Rheum Dis. 2014; 73: 1659–1664. 6) Ikeda N, Saito E, et al.: What has made the population of Japan healthy? Lancet. 2011: 378: 1094–1105. 7) Skou ST, Graven-Nielsen T, et al.: Facilitation of pain sensitization in knee osteoarthritis and persistent post-operative pain: a crosssectional study. Eur J Pain. 2014; 18: 1024–1031. 8) Matsumoto H, Okuno M, et al.: Incidence and risk factors for falling in patients after total knee arthroplasty compared to healthy elderly individuals. Yonago Acta Med. 2014; 57: 137–145. 9) Soison A, Riratanapong S, et al.: Prevalence of fall in patients with total knee arthroplasty living in the community. J Med Assoc Thai. 2014; 97: 1338–1343. 10) Nagai K, Ikutomo H, et al.: Fear of falling during activities of daily living after total hip arthroplasty in Japanese women: a crosssectional study. Physiotherapy. 2014; 100: 325–330. 11) Kono Y, Kawajiri H, et al.: Predictive impact of daily physical activity on new vascular events in patients with mild ischemic stroke. Int J Stroke. 2015; 10: 219–223. 12) 公益社団法人 日本整形外科学会ホームページ 運動器のしくみ. http://www.joa.or.jp/jp/public/about/locomotorium.html(2015 年 7 月 23 日引用) 13) YouTubu. Ann Kaleckas Lecture April 22 2008 Shirley Sahrmann. https://www.youtube.com/watch?v=CJIKsw3YwOU(2015 年 7 月 23 日引用).

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