(整 形 外科 と災 害 外 科 第33巻 第4号 1985) 1005
高令 者 の頚椎症性 脊髄症 ・手 術成 績 の検 討
済生会熊本病院整形外科
有
村
一
盛 ・高
良
健
福
山
紘 ・松
岡
正
敏
Results
of Surgical
Treatment
for
Cervical
Spondylotic
Myelopathy
in Aged
Patients
by
Kazumori
Arimura,
Ken
Takara,
Hiroshi
Fukuyama
and
Masatoshi
Matsuoka
Department
of Orthopedic
Surgery,
Saiseikai
Kumamoto Hospital,
Kumamoto City.
Generally,
cervical spondylotic myelopathy
based on spinal degeneration
is seen in ageb
patients.
They have various
complications
and suffer
for a long time. Therefore,
they have
many problems
during therapy.
Since 1979, 21 aged patients
of over sixty years of age ave
been operated
on in our clinic. Consequently,
we understand
that efficient
operative
results
are obtained from cases wheve treatment
is started
within less than
2 years following onset.
In any cace,
aggravating
myelopathic symptoms require
some kind of early decompression
surgery.
は じ め に 頚 椎 の 退行 変 性 を基 盤 と して発 症 す る頚椎 症 性 脊 髄 症 は高 令 者 に多 く,そ れ 故,種 々 の合 併 症 を有 し,病 年 の永 い 症例 も多 く,術 前 に手 術 後 の回 復 の度 合 を予 見 し に くい事 等,治 療 上 に 多 くの問 題 を抱 えて い る. 最 近 我 々 は,過 去5年 間 に60才 以 上 の高 令者 の頚 椎症 性 脊 髄症 と診 断,手 術 施行 し,術 後 追 跡 し得 た21例 を 経 験 した の で若 干 の 検 討 を加 えた ので 報告 す る. 症 例 内 訳 男17例,女4例,計21例.手 術 時 年 令 は,61才 ∼79 才,平 均69才.手 術 々式 は,椎 弓 切 除 術16例,前 方 固 定 術5例(1椎 間 固 定2例,2椎 間 固 定3例).病 型 を CervicalSpondylosis(以 下C.S.と 略 す)単 独 例, C.S.十 狭 窄 症例,Disk Hernia(以 下D.H.と 略 す) 例,D.H.十 狭 窄 症 例 に分 類 す る と,各 々,10,7, 3,1例 で あ る.何 らか の脊 髄 症 状 よ り手術 まで の病 年 最 短1ヶ 月,最 長11年,平 均3年5ヶ 月 で あ り,術 後 追跡 期 間 は,最 短5ヶ 月,最 長4年2ヶ 月,平 均2年 3ヶ 月 で あ る.日 整 会 判 定基 準 に よ る術 前 点 数 は,1 点 か ら13点,平 均7,9点 と重 症例 が多 く,術 後点 数 は5点 か ら15点,平 均11,2点,穫 得 平 均 点 数 は3, 4点 で あ る.片 岡 法 に よ る手 術 成 績評 価 で は,秀0, 優 ・3,良9,可4,不 可5例 で あ る. 手 術 成 績 有 効群 と無 効 群 手 術成 績 を秀,優,良 の上 位3段 階 を有 効群,可, 不 可,悪 化 例 を無 効群 に分 類 す る と,有 効群 は21例 中 12例,57%で あ り,余 り満 足 す べ き成 績 とは 言 えな い. 又,術 前 に高 令 者 特有 の疾 患 を何 らか の形 で合 併 して い る症例 が多 い.成 績 無 効 郡 を分 析 す る と,腰 椎 に狭 窄 症 を伴 い,頚 椎 手術 後,後 日腰 椎 の椎 弓切 除術 を追 加 し た も の が2例 あ る.有 効 群 に比 べ て70才 以 上 が 9例 中6例 と平均 年令 も高 く,病 年 も最 短2年2ヶ 月 よ り最 長11年 と永 い症 例 が 多 い.(表1,2) 病 年 及 び病 型 と手術 々式 に よる成 績 評 価 病 年2年 未満 の椎 弓 切 除 術 にて16例 中8例,前 方 固 定術 に て5例 中3例 に成 績有 効 例 が 見 られ た.C.S.-23-表1 ＝手術成績有効群 ＝
(整 形 外 科 と災 害 外 科 第33巻 第4号 1985) 1007 単独 及 びC.S.十 狭 窄 症例 に対 す る椎 弓 切 除術,D. H.例 に対 す る前方 固 定 術 に有 効 例 が多 く見 られた が 可,不 可 例 の 大半 は病 年 が2年 以 上 に わ た る症例 で あ る.(表3,4) 表3<病 年 と手術 々式に よる手術成績 評価> ＝椎 弓切除術 ＝ 症 例 症 例6.68才 男 昭和54年10月 車 運 転 中,後 方 か ら トラ ッ クに追 突 さ れ某 医 に入 院加 療.そ の 後,頚 部 痛,肩 凝 り等 が あ る が放 置.昭 和56年5月 初 旬項 よ り手 指 の し びれ 感 出現 し,次 第 に両 上 下 肢 の しびれ 増強 し,歩 行 困難 とな り 昭 和56年5月25日 車 椅子 に て入 院.神 経学 的 に は両 上 下 肢 の深 部 腱 反 射 亢 進,病 的 反射 陽 性,両 側C4以 下, L1以 下 の感 覚 障 害,髄 液所 見 にて 細胞 蛋 白解 離像 を 認 め た.(表5) 表5 Case668才 男性D-H.例 表4 <病型 と手 術 々式 による手 術成績評価> =椎 弓切除術 ＝ 上 行 性 ミエ ロ グ ラ フ ィ ー に てC3-4椎 間 高 位 に て 完 全 ブ ロ ッ ク,下 行 性 シ エ ログ ラ フ ィー に てC3椎 体 下 縁 に て 完 全 ブ ロ ッ ク し,前 方 か らの 圧 迫 を 呈 し た. C3-4椎 間 板 ヘ ル ニ ア と 診 断 し,前 方 固 定 術 を施 行 し,術 前8点 よ り14点 と改 善 し,手 術 成 績 良 で あ る. (図1)
-25-図1 症 例7.63才 男 昭 和56年10月 初 旬 よ り両 肩 か ら手 尖,両 下 肢 の しび れ 出 現.歩 行 時 につ ま づ き易 く,ス リ ッパ が抜 け易 い 等 の歩 行 障害 出現 し,し びれ も増 強 す る為,昭 和56年 12月24日 本 科 入 院. 神 経学 的 に は,ホ フマ ン,ト レ ムナ ー,ク ロー ヌス 等 の病 的 反射 陽 性,深 部 腱反 射 亢 進,髄 液所 見 に て細 胞 蛋 白解 離 像 を認 めた.術 前 日整 会判 定 基準 で は,膀 胱 障 害 は 認 めず,上 下 肢運 動機 能 各 々2点,計11点 で あ った.(表6) 脊 柱管 前後 径 は14mmで あ り,ミ エ ロ グ ラ フ ィ-に て多 椎 問 に わ た り後 方 か らの 圧 迫 が見 られ た.C3∼ C7の 椎 弓切 除 術 を施行 し,術 後 約2年1ヶ 月 の現 在, 術 後 点数15で あ り,手 術 成 績優 で あ る.(図2) 症例19.76才 女 昭 和53年 頃 よ り両上 下 肢 の し びれ が あ り,某 医 に て 加 療 す るが軽 快 せず,間 歇性 跛 行 も認 め,昭 和57年8 月25日 本 科 入 院.神 経 学 的 には,ホ フマ ン,ト レ ムナ ー,ク ロー ヌ ス等 の病 的反 射 陽 性,右C4,左C5以 下 の感 覚 障害,両 手,下 腿 筋 に筋 萎 縮 を認 め た.術 前 日整 会判 定基 準 は8点 で あ る.(表7) 術 前 ミエ ロ グ ラ フ ィー にてC6−7椎 間 高 位 に て 不 完 全 ブ ロ ック,C3一4以 下 の各 椎 間 に後 方 か らの圧 表6
(整 形 外 科 と災 害 外 科 第33巻 第4号 1985) 1009 図2 表7 Case19.76才 女 性C.S.+狭 窄(腰 椎)例 3∼C7の 椎 弓切 除 術 を施行 したが 軽快 せず,後 日L 1∼S1の 椎 弓切 除 術 を追 加 す るが,術 後 約1年6ヶ 月 経 過 の 現 在,術 後点 数9点 で あ る, 本 症例 は,筋 萎 縮 を伴 うまで の術 前 長 期 経過 及 び腰 椎 の脊柱 管 狭 窄 の 合併 が成 績 無効 の要 因 と思 わ れ る. (図3) 考 察 1)病 年 と手 術 々式 に よ る手 術 成 績 評価 で は,病 年 2年 未満 の症例 に成 績 有 効例 が得 られ た.病 型 と手 術 々 式 に よ る手 術成 績 評 価 で は,C.S,単 独 例,C.S. +狭 容 症 例 に対 す る椎 弓 切 除術,D.H.例 に 対 す る前 方 固定 術 に成績 有 効 例 が 多 く得 られ た.し か し病 年 が 2年 以 上 の 長期 に わ た る症 例 に成 績 無効 例 が多 く見 ら れ た. 2)高 令 者 で は 術前 術 后 に種 々 の合 併 症 を有 す る例 が多 く,ま た胸腰 椎 に も狭 窄 症 を併 せ持 つ症 例 もた び た び見 られ,手 術 時期,摘 応 に慎 重 を期 す例 も多 い が, いつ れ に せ よ,脊 髄 症 状 が あ って も軽 度 の場 合 に は保 存 療 法 が優 先 され るが,増 悪 傾 向 に あ れ ば,可 及 的早 期 の 何 らか の除圧 術 が望 ま しい と思 わ れ る.
-27-図3 ま と め 過 去5年 間 に 頚 椎 症 性 脊 髄 症 と診 断,手 術 施 行 し, 術 後 追 跡 し得 た60才 以 上 の 高 令 者21例 の 手 術 成 績 を 検 討 し,若 干 の 考 察 を 加 え報 告 し た. 参 考 文 献 1)今 井 健.他:頚 椎 手 術 成 績 不 良例 の 検 討.整 形 外 科 24:827-832,1973. 2)片 岡 治.他:頚 椎 症 性radicu10-,mye10pathyの 手 術 成 績 評 価 法 に つ い て.整 形 外 科24:1-7,1973. 3)岡 本 吉 正 ・他:頚 椎 椎 間 板 症 の手 術 成 績 と それ に 影 響 を及 ぼ す 諸 因 子 に つ い て.整 形 外 科23:27-32,1972, 4)坂 手 行 義:頚 椎 椎 間板 症 性 脊 髄 症 に 対 す る手 術 効 果 と そ れ に影 響 を お よ ぼ す 諸 因 子 に つ い て.中 部 整 災 誌16: 853-864,1973. 5)里 見 和 彦 ・他:脊 椎 管 狭 少 を伴 う頚 椎 症 性 脊症 に対 す す る後 方,前 方2段 階手 術 法,整 形 外 科28:1617-1626, 1977. 6)田 中 信 陽 ・他:頚 髄 症 に 合 併 す る胸 腰 椎 部 障 害 の 検 討. 整 形 ・災 害 外 科161903-909,1983. 7)富 永 積 生:頚 椎 症 性 脊 髄 症 手 術例 の 検 討 一 特 に 手 術 成 績 と それ に影 響 を及 ぼ す 因 子 と の関 通 に つ いて-整 形 外 科26:803-816,1975. 質 問 成 尾 整 形 外 科 成 尾 政 岡 老 人 性 の ミエ ロパ チ-は 羅 病 期 間 が6ヶ 月 以 内 で あ れ ば,服 部 Ⅲ 型 で も非 常 に 改 善 が 見 ら れ る が,1年 以 上 経 過 す れ ば ホ − プ レ ス と な る 例 が 多 く,最 近,明 白 な lcetccnhityが あ り,3ポ に よ る と 思 わ れ る 症 例 に lanmincctmyを 行 い,eatrogenic spinal cord lesion
の2例 を外 来 で 見 て い る が,全 身 状 態 の チ ェ ッ ク,特 に 手 術 に 対 す る 社 会 的 適 応 も充 分 に 考 え る 必 要 が あ る, 解 答 済 生 会 熊 本 病 院 有 村 一 盛 明 らか に60才 台 よ り も70才 以 上,病 年 も2年 以 上 の も の に 対 す る術 后 成 績 は 悪 い.Ptの 病 識 及 びReha-bilitationに 対 す るmotivationに よ っ て も 左 右 され る. 重 症 例 等 に は 病 状 の 進 行 を 結 果 と し て 抑 え る意 味 し か な い 症 例 も あ るが,年 々 高 令 化 し つ つ あ る の で 積 極 的 に 取 り組 む 必 要 が あ る と考 え る.
