資
料
産後女性の手や手首の痛みと関連要因
Hand and wrist pain and its related factors in postpartum women
佐 藤 珠 美(Tamami SATOH)
*1エレーラ C. ルルデス R.(Lourdes R. HERRERA C.)
*2中 河 亜 希(Aki NAKAGAWA)
*1榊 原
愛(Ai SAKAKIBARA)
*1大 橋 一 友(Kazutomo OHASI)
*3 抄 録 目 的 産後女性の手や手首の痛みの有症率,痛みの出現時期,痛みの部位と手や手首の痛みの関連要因を明 らかにする。 対象と方法 産後1年未満の女性876名に無記名自記式質問紙調査を行った。分析対象は産後1か月から8か月の有 効回答514部(58.7%)である。調査内容は手や手首の自発痛の有無とその部位,痛みが発症した時期と その後の経過,痛みに影響を与える要因,属性とした。 結 果 35.2%の女性が産後に手や手首の痛みを保有していた。痛みの出現時期は妊娠期から産後7か月まで と長期にわたっているが,産後1か月から2か月に出現した人が多かった。痛みの訴えは両側性が多く, 左右の割合の差は少なかった。疼痛部位は橈骨茎状突起,橈骨手根関節,尺骨茎状突起,母指中手指節 関節,母指手根中手関節の順に多くみられた。年齢,初産婦,手と手首の痛みの既往が痛みに関連して おり,有意差を認めた。一方,母乳育児,産後の月経の再開,モバイル機器の使用時間との関連はな かった。 結 論 産後女性の3 人に 1人は手や手首の痛みを経験し,痛みの多くは産後1 か月から 2か月に出現してい た。年齢が高く,初産婦で,手や手首の痛みの既往がある産後の女性では,手や手首の痛みに注意する 必要がある。 キーワード:産後,手や手首の痛み,有症率,関連要因 2016年7月20日受付 2017年2月6日採用*1佐賀大学医学部看護学科(Institute of Nursing, Faculty of Medicine, Saga University)
*2大阪大学大学院医学系研究科生命育成看護科学講座 招へい研究員(Visiting Research Scholar, Department of Children and Women's
Health, Division of Health Sciences, Osaka University Graduate School of Medicine)
*3大阪大学大学院医学系研究科生命育成看護科学講座(Department of Children and Women's Health, Division of Health Sciences, Osaka
University Graduate School of Medicine)
Purpose
The aim of this study was to examine the prevalence of hand and wrist pain, the onset of symptoms, affected areas, and related factors in postpartum women.
Methods
Eight hundred and seventy-six postpartum women, within a year after giving birth, agreed to complete anony-mous questionnaires. We analyzed 514 valid questionnaires (response rate, 58.7%) returned from mothers in the 1st to 8th month postpartum.
Results
Of the 514 participants, 181 (35.2%) reported having experienced hand and wrist pain. The onset of symptoms varied widely from pregnancy to the 7th month postpartum. There was an increase in the onset of symptoms at the 1st month postpartum. Participants reported bilateral pain. There was a slight difference in pain incidence between the left and right sides. Affected areas were the radial styloid process, radiocarpal joint, ulnar styloid process, thumb meta-carpophalangeal joint, and carpometacarpal joint, in ascending order. Older age at delivery, primiparity, and previous history of hand and wrist pain were significantly related to postpartum hand and wrist pain. Hand and wrist pain was not significantly correlated with breastfeeding, resumption of menstruation after delivery, and the use of mobile de-vices.
Conclusions
One-third of postpartum women had hand and wrist pain for 8 months after delivery, which commenced in the 1st and 2nd month postpartum. Regarding postpartum hand and wrist pain, we need to pay attention to women with older age, primiparity, and previous history of hand and wrist pain.
Key words: postpartum, hand and wrist pain, prevalence, related factor
Ⅰ.緒 言
はじめて育児をする人によくみられる手や手首の過 剰 使 用 症 候 群(overuse syndrome common in new mothers)の 存 在 は, “mommy thumb”(Walkinshaw, 2011, p.E711),“Mother's thumb”(Cavaleri, Schabrun, Te, et al., 2016, p.4), “baby wrist”(Anderson, Stein-bach, De Monaco, et al., 2004, p.719)として知られて いる。手や手首の過剰使用によって引き起こされる代 表的疾患にドケルバン腱鞘炎(de Quervain tenosyno-vitis)がある。中年以降の女性や周産期の女性に多発 し,慢性の機械的刺激を主因とし,手関節背橈側にお ける手関節や母指の運動に伴う疼痛を主訴とする(別 府・清水,2007,p.92)。ドケルバン腱鞘炎は妊娠中 か ら 発 症 し(Schumacher, Dorwart & Korzeniowski, 1985, p.2084),特に産後は症状が生じやすい脆弱な時 期である(Schned, 1986, p.413)。ドケルバン腱鞘炎の 40%は 産 後 に 発 症 し て い る と の 報 告(Skoff, 2001, p.428)があるように,育児における親指や手首の反復 的な動作に伴う外傷が腱鞘炎に発展すると指摘されて い る(Anderson, Steinbach, De Monaco, et al., 2004, p.719;Schned, 1986, p.413)。また産後のホルモンバ ランスの変化が,ドケルバン腱鞘炎の原因のひとつと 考 え ら れ て い る(Schumacher, 1985, p.2084; 堀 内, 2006,p.118;石井・樋本・多田他,2012,p.1011)。 ホルモンバランスの回復時期は明確ではない。産後の 月経再開はひとつの目安になると思われるが,腱鞘炎 と産後の月経再開との関連について報告されたものは 見当たらない。さらに授乳と腱鞘炎との関連が報告さ れ(Schumacher, Dorwart, Korzeniowski, 1985, p.2084), 授 乳 を や め る こ と で 解 決 す る と 考 え ら れ て い る (Thabah, Ravindran, 2015, p.584)。実際に授乳中止後 2~6 週 間 で 回 復 し た 例(Avci, Yilmaz, Sayli, 2002, p.323)が報告されている。しかし,授乳による手や手 首の痛みとの関連は明確には示されていない。専門家 の介入が必要であった母親は初産婦で,家族から離れ たところに居住しており,乳児を長時間抱いていたと いう報告もある(Anderson, Steinbach, De Monaco, et al., 2004, p.724)。また,一般の腱鞘炎の発症では過去 の腱鞘炎治療歴が有意に関連すると報告されている (金子・田鹿・小林他,2013,pp.412-413)。 前記のように,産後の手や手首の痛みの研究はドケ ルバン腱鞘炎に関するものが多く,外来患者を対象に した症例(Johnson, 1991, pp.325-327),MRI による評
価(Anderson, Steinbach, De Monaco, et al., 2004, pp.719-724), 治 療 効 果 の 比 較(Avci, Yilmaz, Sayli, 2002, pp.322-324;Capasso, Testa, Maffulli, et al., 2002, pp.23-25)などが報告されている。わが国では 1993年 に清重(1993, pp.762-765)が産後3か月の女性321名を 直接検診し,ドケルバン腱鞘炎の有病率は14%(初産 婦19%)という報告があるのみで,一般の産後の女性 を対象とした研究が進んでいない。近年モバイル機器 が急速に普及し,その過剰使用と手の機能との関連が 指摘されている(İnal, Demİrcİ, Çetİntürk, et al., 2015, pp.183-188)。そのことから,産後の手や手首の痛み も増加していることが推測される。しかし,産後の母 親の手や手首の痛みについての実態調査は少ない。そ こで,産後の母親の手や手首の痛みの実態及びそれに 関連する要因を明らかにすることは,問題の早期発見 と予防,軽減のためのケアのあり方を検討する上で重 要であると思われた。 以上のことから,本研究では産後1年未満の女性の 産後の手や手首の痛みの有症率,痛みの出現時期,痛 みの特徴や部位,ならびに手や手首の痛みの関連要因 について明らかにすることを目的とした。
Ⅱ.研 究 方 法
研究デザインは,無記名自記式質問紙調査を用いた 横断的研究である。 調査対象は,産後1年未満の女性とした。調査期間 は平成 25 年 8 月から 11 月で,北部九州の A 県 5 市町 (医療圏)の赤ちゃん訪問や乳児健診で調査用紙を直 接または郵送で配布・回収した。 調査内容は手や手首の自発痛の有無とその部位,痛 みが発症した時期とその後の経過とした。対象者に調 査票の両手及び手首の関節を示したイラストに,疼痛 部位の記入を依頼した。それを研究者が手の解剖図と 対比させ,疼痛部位を①手指の指骨間関節/ inter-phalangeal joint(以 下 IP 関 節), ② 中 手 指 節 関 節 / metacarpophalangeal joint(以下MP関節),③手根中手 関節/carpometacarpal joint(以下CM関節),④橈骨茎 状突起,⑤尺骨茎状突起,⑥橈骨手根関節,に分類し た。 背景因子として年齢,出産回数,産後月数,子ども の数,同居家族,家事・育児の手伝いの有無,母乳育 児の有無,産後の月経再開の有無,就業状況,既往歴 (腱鞘炎,糖尿病,膠原病,リウマチなど),利き手, モバイル機器の使用の有無と使用時間,について質問 した。質問内容の妥当性,回答しやすさについては5 名の助産師と 5 名の産後女性にプレテストを実施し, 検討した。 統計学的分析には SPSS ver.21 を用い,記述統計及 び対応のないt検定とχ2 検定を行った。 本 研 究 は, 佐 賀 大 学 医 学 部 倫 理 委 員 会 の 承 認 (No.25-17)を得て実施した。調査協力の依頼は研究者 が文書と口頭で行い,協力は自由意思であること,回 答は無記名であり,データは統計的に処理するため回 答者が特定されることはないことなどを説明した。調 査紙への回答と返送をもって本研究への同意を得たも のとした。尚,手や手首の痛みによる困難などの問い 合わせには専門医を紹介するなどした。Ⅲ.結 果
調査票は産後 1 年未満の女性 876 名に配布し,531 部回収(回収率 60.6%)した。手や手首の痛み,既往 腱鞘炎や属性の記載がなかったもの,対象者が少ない 産後9か月,双胎分娩の計17部を除外し,産後1か月 か ら 8 か月 まで の単 胎児 の 母親 が記 入し た 514 部 (58.7%)を分析対象とした。 1.対象者の背景 対象者 514 名の背景を表 1 に示した。初産婦は 221 名(43.0%),経産婦は 293 名(57.0%)であった。家族 表1 対象者の背景 (N=514) 項目 n % 初経産 初産 221 43.0 経産 293 57.0 家族形態a) 核家族 359 70.1 拡大家族 147 28.7 単親家族 6 1.2 家事手伝いb) あり 343 67.9 なし 162 32.1 育児手伝いc) あり 390 81.8 なし 87 18.2 母乳育児d) あり 448 87.7 なし 63 12.3 産後の月経再開e) あり 147 28.7 なし 365 71.3 就業状況f ) 専業主婦 261 51.1 育児休暇中 209 40.9 仕事復帰 41 8.0 既往腱鞘炎g) あり 112 21.8 なし 401 78.2 a)n=512,b)n=505,c)n=477,d)n=511,e)n=512,f ) n= 511,g) n=513 産後女性の手や手首の痛みと関連要因形態は核家族が 359 名(70.1%),拡大家族が 147 名 (28.7%)で あ っ た。 家 事 手 伝 い が あ る 人 は 343 名 (67.9%), 育児 手伝い がある 人は 390 名(81.8%)で あった。母乳育児をしている人は 448 名(87.7%),産 後に月経が再開している人は 147 名(28.7%)であっ た。就業状態では専業主婦が 261 名(51.1%),育児休 暇中が 209 名(40.9%),仕事復帰している人が 41 名 (8.0%)であった。既往腱鞘炎があった人は 112 名 (21.8%)であった。腱鞘炎との関連が指摘されている 糖尿病,膠原病,リウマチの既往がある人はなかっ た。 2.産後の手や手首の痛みの状況 対象者514名の自己申告による今回の産後月数別の 手と手首の痛みの有症率を表2に示した。産後に手や 手首の痛みがあった人は181名(35.2%)で,そのうち 現在も痛みを保有していた人は 113 名(62.4%),痛み が消失した人は 68 名(37.6%)あった。 産後 8 か月の 32名のうち痛みを保有していた5名(45.5%)は,痛み が 6 か月以上(6 か月間 1 名,7 か月間 1 名,8 か月間 3 名)持続していた。この5名は初産婦が1名,1回経産 が 1 名,2 回経産が 2 名,3 回経産が 1 名であった。こ れらの人のうち医療機関や整体・整骨院を受診した人 はなく,自己対処を行っていたのは2名だけで内容も 湿布の貼付のみであった。1名は,「赤ちゃんがいたり するので,病院などに行けない」と記述していた。 手と手首の痛みを経験した181名の痛みが出現した 時期を産後月数別に表 3 に示した。痛みの出現時期 は,妊娠期から産後7か月までにわたっていた。痛み の 出 現 率 は, 産 後 1 か 月(22.2%~45.5%)と 2 か 月 (18.2~52.3%)が高く,産後 3 か月(2.3%~27.3%),4 か月(0%~27.3%)を過ぎると出現数は減っていた。 3.産後の手や手首の痛みの部位 痛みの部位を記載した180名の手と手首の痛みの部 位(10% 以上)を表 4 に示した。両側に痛みを訴えた 人 が 74 名(41.1%)と 最 も 多 く, 左 手 の み は 55 名 (30.6%),右手のみは51名(28.3%)で左右の割合の差 は少なかった。 10%以上の人が訴えた部位別による痛みの出現状況 は,多い順に橈骨茎状突起,橈骨手根関節,尺骨茎状 突起,母指 MP 関節,母指 CM関節であった。痛みの 割合は,橈骨茎状突起,橈骨手根関節,尺骨茎状突起 では左右差が少なかったが,母指 MP 関節と母指 CM 関節では右手に多い傾向がみられた。10 箇所以上痛 みがあった人が左右3名(1.7%)ずつあった。 4.産後の手や手首の痛みの有無と関連要因 産後に手や手首の痛みを経験した 181 名(現在の保 有者113名,消失者68名)を「あり」,痛みがなかった 人333名を「なし」の2群に分けて,年齢,初経別,既 往腱鞘炎,家族形態,母乳育児の有無,産後の月経の 再開の有無,モバイル機器の使用時間で比較した(表 5)。平均年齢は痛み「あり群」の年齢が全体と初産婦 で有意に高かった(p=0.013, p<0.001)。また,痛み 「あり」群の初経別による割合は,初産婦が48.9%,経 産 婦 は 24.9% で, 初 産 婦 に 多 く 有 意 差 を 認 め た (p<0.001)。既往腱鞘炎の有無による今回の痛み「あ り 群」の 割 合 は, 既 往 あ り は 49.1%, 既 往 な し は 31.4%で,既往腱鞘炎ありに今回の痛みありが多く有 意差があった(p<0.001)。既往腱鞘炎の内容は多い順 に 妊 娠 出 産 49 名(44.5%), 仕 事 39 名(35.5%), ス ポーツ 18 名(16.4%)であった。母乳育児,産後の月 経の再開,モバイル機器の使用時間では何れも有意差 がなかった。 痛みの経験 現在の痛み なし あり 保有 消失 333名(64.8%) 181名(35.2%) 113名(62.4%) 68名(37.6%) 産後月数 n n % n % n % n % 1か月 7 6 85.7 1 14.3 1 14.3 0 0.0 2か月 112 80 71.4 32 28.6 21 65.6 11 34.4 3か月 128 84 65.6 44 34.4 31 70.5 13 29.5 4か月 63 36 57.1 27 42.9 15 55.6 12 44.4 5か月 32 21 65.6 11 34.4 6 54.5 5 45.5 6か月 69 41 59.4 28 40.6 18 64.3 10 35.7 7か月 70 43 61.4 27 38.6 16 59.3 11 40.7 8か月 32 21 65.6 11 34.4 5 45.5 6 54.5
Ⅳ.考 察
1.産後の手や手首の痛みの出現状況と特徴 本研究での産後の手や手首の痛みの有症率は35.2% で,初産婦が48.9%,経産婦が24.9%であった。また, 自己申告による手や手首の痛みはドケルバン腱鞘炎の 好発部位である橈骨茎状突起部分(堺,2003,p.456) に 59.4% と最も多くみられ,この割合は清重(1993, p.763)によって報告されたドケルバン腱鞘炎の有病率 の 14% に比べて高かった。乳児を育てる女性に好発 する手や手首の痛みの原因には,ドケルバン腱鞘炎に 加え,弾撥指,手根管症候群(堺,2003,pp.451-456) などがある。しかし,本研究では医学的診断を行って いないためこれらの原因を特定できていない。先行研 究と比較してドケルバン腱鞘炎が増加しているかにつ いては今後検討が必要である。ドケルバン腱鞘炎は, 運動時に強い手関節橈側の痛み,橈骨茎状突起部の腫 脹と圧痛,および誘発テストにより診断は可能である (高原・渡辺・菊地他,2006,p.940)。今後は,対象 者を直接観察し,腱鞘炎の誘発テストなどの客観的評 価を行うとともに,専門医による原因の特定も必要で ある。 産後にみられる腱鞘炎の発症時期は,妊娠期,育児 開始後から 10 か月までと長期間にわたることが報告 さ れ て い る(Anderson, Steinbach, De Monaco, et al., 2004, p.720)。本研究でも,手や手首の痛みは妊娠期 から産後7か月までにわたって発症していたが,産後 1か月と 2 か月の発症が多かった。一方,手や手首の 痛みの有症率は産後 1 か月が 14.3%,2 か月が 28.6%, 産後 3 か月から産後 8 か月までは 30%~40% 台を維持 していた。産後の手や手首の痛みの早期発見のために は,産後 2 週間,1 か月健診の活用が有効であると思 われる。また,有症率が産後8か月まで30%を超えて いるため,乳児健診で手や手首の痛みについても相談 を受けることが必要であると思われる。 腱鞘炎の発症が集中する時期は手の負担が増大して いると報告されている(清重,1993,p.764)。さらに 腱鞘炎の原因として,母指を橈側外転(母指と指示の 間を拡大)させるのと同時に手首を尺骨側に反らせて 乳児を抱き上げたり,両手で抱き上げる動作が報告さ れている(Schned, 1986, p.41;清重,1993,p.764; Skoff, 2001, p.429)。また,腱鞘炎の痛み,腫れの大 部分は,児の月齢の増加,頸の固定やハイハイによる 移動行動の発達に関連し,手首の過剰使用の停止で解 決するとの報告もある(Anderson, Steinbach, De Mon-aco, et al., 2004, p.724)。新たな発症は産後3か月頃に 表3 産後月数別,手や手首の痛みの出現時期 (n=181) 調査時の 産後月数 妊娠期 産後 不明 0か月 1か月 2か月 3か月 4か月 5か月以降 n n % n % n % n % n % n % n % n % 1か月 1 0 0.0 0 0 1 100.0 0 0.0 2か月 32 0 0.0 9 28.1 13 40.6 10 31.3 0 0.0 3か月 44 1 2.3 4 9.1 15 34.1 23 52.3 1 2.3 0 0.0 4か月 27 4 14.8 1 3.7 10 37.0 5 18.5 4 14.8 2 7.4 1 3.7 5か月 11 0 0.0 0 0.0 3 27.3 2 18.2 3 27.3 3 27.3 0 0.0 0 0.0 6か月 28 2 7.1 2 7.1 8 28.6 6 21.4 2 7.1 5 17.9 1 3.6 2 7.1 7か月 27 1 3.7 2 7.4 6 22.2 5 18.5 7 25.9 2 7.4 3 11.1 1 3.7 8か月 11 1 9.1 1 9.1 5 45.5 2 18.2 1 9.1 0 0.0 0 0.0 1 9.1 注)5か月以降に痛みが出現した4名のうち1名は産後7か月に発症した。 表4 産後の手や手首の痛みの部位と割合 痛みの部位 痛みあり合計 両手 左手 右手 n % n % n % n % 全体 180 100.0 74 41.1 55 30.6 51 28.3 橈骨茎状突起 107 100.0 33 30.8 36 33.6 38 35.5 橈骨手根関節 88 100.0 32 36.4 26 29.5 30 34.1 尺骨茎状突起 71 100.0 23 32.4 23 32.4 25 35.2 母指MP関節 41 100.0 12 29.3 9 22.0 20 48.8 母指CM関節 34 100.0 10 29.4 7 20.6 17 50.0 注)複数回答可,左右いずれかが 10%以上あった部位を掲載した MP関節;中手指節関節/metacarpophalangeal joint CM関節;手根中手関節/carpometacarpal joint 産後女性の手や手首の痛みと関連要因減少していることから,乳児の定頚が進むことで,頭 を保持する際の負担が軽減したものと思われる。産後 6か月以降も痛みが持続する,あるいは新たに発症す る要因については本研究では明らかにできなかった。 今後縦断調査で検討することが必要である。 産後であるかないか,男女を問わず,乳児の世話を す る 人 に 手 や 手 首 の 痛 み が 存 在 す る(Skoff, 2001, p.429)と言われている。今後は,手や手首の痛みと乳 児の発達,育児中の手や手首の使い方,抱き方などと の関係について検討する必要がある。 本研究では数か月で手や手首の痛みが消失した人が 多かったが,6 か月以上,なかには 8 か月持続し,慢 性化に悩む人が存在した。これらの人の特徴として, 自己対処で済ませている,複数の子どもがいる人に多 い傾向がみられた。 腱鞘炎には過去の腱鞘炎の治療歴が影響する(金子 ・田鹿・小林他,2013,pp.412-413)。本研究でも既 往腱鞘炎の影響があり有意差を認めた。腱鞘炎の既往 がある人には注意を促すことが必要である。それとと もに妊娠や出産を契機とした腱鞘炎の発症があること を啓発することが重要である。 一般的には腱鞘炎などの手や手首の痛みは治療しな いでも長期的には症状が落ち着くと考えられており (Thabah, Ravindran, 2015, p.584),医療機関を受診す る人が少ない。乳児の他に年少の子どもがいる場合に は,上の子どもが抱っこを要求することが多く,手や 手首の負担が増している可能性がある。今後は痛みの 持続や慢性化の原因を明らかにして,予防策を検討す ることが必要である。さらにこれらの手や手首の痛み のなかには腱鞘炎以外の疾患が隠れている可能性もあ る。育児や日常生活に支障を来たしている人には,早 期回復を促すためにも専門医の受診を薦めることが必 要である。 一般的な腱鞘炎は,ほぼ左右同程度で片側性に発症 し,両側発症は少ない(麻生, 2006, p.103;別府・清 水,2007,p.92)。一方で産後の腱鞘炎は両側発症が 多い(Skoff, 2001, pp.428-429)。本研究でも手や手首 の痛みの両側発症が40.1%と最も多く,左右の割合の 差も少なかった。以上の結果から育児に伴う過剰な負 荷が両方の手や手首にかかり痛みが発症しているもの と考えられた。今後は痛みの予防,早期発見と看護独 自の介入方法を検討することが必要である。 2.手や手首の痛みの関連要因 手や手首の痛みを起こす疾患は,初産婦,特に乳児 を扱う女性に多い(堺,2003,pp.451-456)と言われ る。本研究でも初産婦は経産婦の 2 倍近い人が手や 手首の痛みを経験していた。初産婦は経産婦に比べ腱 痛みあり 痛みなし 181名(35.2%) 333名(64.8%) 平均値 SD 平均値 SD t値 p値 年齢 全体 31.9 ± 4.8 30.8 ± 5.4 2.48 0.013* 初産婦 31.3 ± 5.1 28.3 ± 5.6 4.13 <0.001 経産婦 32.8 ± 4.0 32.0 ± 4.9 1.27 0.204 n % n % χ2値 p値 初経別 初産婦 108 48.9 113 51.1 31.69 <0.001 経産婦 73 24.9 220 75.1 既往腱鞘炎a) あり 55 49.1 57 50.9 11.99 0.001 なし 126 31.4 275 68.6 家族形態b) 核家族 133 37.0 226 63.0 1.17 0.279** 親族家族 47 32.0 100 68.0 単親家族 1 16.7 5 83.3 母乳育児c) あり 164 36.6 284 63.4 3.04 0.081 なし 16 25.4 47 74.6 産後の月経の再開d) あり 54 36.7 93 63.3 0.17 0.678 なし 127 34.8 238 65.2 モバイル機器の使用時間e) 1時間未満 79 33.1 160 66.9 0.79 0.672 1時間~2時間未満 71 37.2 120 62.8 2時間以上 26 34.7 49 65.3 a)n=513,b)n=512,c)n=511,d)n=512,e)n=505 a)既往腱鞘炎の原因は,妊娠出産49名(44.5%),仕事39名(35.5%),スポーツ 18名(16.4%)であった 年齢は対応のないt検定(* はウエルッチt検定),その他はχ2 検定 **家族形態は,単親家族を除いた核家族と親族家族で検定した
鞘炎の発症率が高く(清重,1993,pp.763-764),特に 高年初産婦は,若年初産婦や経産婦に比べて腱鞘炎が 多い(森,2014,p.9)。本研究では,手や手首の痛み がある人は,ない人に比べて有意に年齢が高くなって いた。 腱鞘炎の発症に過去の腱鞘炎治療歴が有意に関連す る(金子・田鹿・小林他,2013,pp.412-413)。本研究 で既往腱鞘炎があると回答した人は 21.8% と高率で あったが,医療施設を受診して診断を受けた人の他に 自分で腱鞘炎と判断した人が含まれている可能性があ る。そうであったとしても過去に手や手首の痛みが あった人は,今回の産後の手や手首の痛みの出現率が 有意に高かった。そして痛みの原因で最も多かったの は妊娠・出産であった。以上の結果より,年齢が高 く,初産婦,そして過去に手首の痛みがあった人は, 産後の手や手首の痛みの発症に注意する必要があると 思われる。 産後の腱鞘炎は,通常は授乳中止によって解決する と考えられ(Avci, Yilmaz, Sayli, 2002, p.324;Thabah, Ravindran, 2015, p.584),実際に授乳中止後 2~6 週で 改善したとの報告もある(Avci, Yilmaz, Sayli, 2002, pp.323)。しかし,乳児の栄養法との関連はないとい う報告(清重,1993,p.763)や育児が終わるまで症状 が持続したとの報告(Johnson, 1991, p.326)もある。 本研究でも母乳を飲ませていることと手や手首の痛み との関連性は見出せなかった。手や手首の痛みのため に母乳を中断する必要性があるかについては,今後慎 重に検討する必要がある。 他に痛みの発症や軽減に影響する要因として乳児の 体重や発達との関連が報告されている(Anderson, Steinbach, De Monaco, et al., 2004, pp.722-724)。本研 究では,乳児健診方法の違いにより乳児の体重を把握 できておらず,発達状態についても調査できていな い。今後詳細な検討が必要である。 腱 鞘 炎 の 大 部 分 は 理 論 的 に は 安 静 で 解 決 す る (Mehdinasab, Alemohammad, 2010, p.270)と言われて おり,手や手首の痛みも同様に考えられる。しかし, 育児期の女性が手を安静にすることはほぼ不可能であ り,装具をつけて育児をすることも難しい。そこで, 妊娠期もしくは分娩後の入院期間にすべての母親を対 象に,①産後の手や手首の痛み(腱鞘炎)の情報を小 冊子やちらしなどを使って提供する,②手や手首の痛 みの既往がないかを問診することが重要である。ま た,産後1か月健診では手や手首の痛みの発症や悪化 を防ぐための③新生児/乳児の発達に応じた抱き方な どの予防教育を行い,さらに産後の母親には乳児健診 時に④手や手首の痛みがないかを確認し,⑤看護職者 がセルフケアの方法についてアドバイスし,⑥腱鞘炎 等の疾患を疑う場合には専門医を受診させることが重 要であると考える。 手や手首の痛みは妊娠期や産後早期から産後7か月 までと長期にわたって発症する危険がある。これらの 痛みの予防と軽減のためには,妊娠期からの啓発,産 後の自己管理支援と痛みの慢性化につながる腱鞘炎の 早期発見を行う必要性が示唆される。 3.研究の限界 本研究での手や手首の痛みは,自己申告によるもの であり腱鞘炎の診断は行っていない。調査時期も赤 ちゃん訪問や乳児健康診査の時期に偏っている。今後 は握力やピンチ力などの生理学的評価,腱鞘炎の誘発 テストや上肢機能評価表などの指標を用いた評価を行 うことが必要である。さらに縦断研究による問題の把 握と関連要因の分析を行い,産後の手や手首の痛みを 予防・軽減する介入方法を検討することが重要である。
Ⅴ.結 論
1. 産後1か月から8か月までの母親の35.2%が手や 手首の痛みを保有していた。 2. 痛みの出現時期は妊娠期から産後 7 か月までに わたっていた。特に,産後1か月から2か月に高 率に出現していた。 3. 痛みの訴えは両側性が多く,左右の割合の差は 少なかった。疼痛部位は橈骨茎状突起,橈骨手 根関節,尺骨茎状突起,母指MP関節,母指CM 関節の順に多くみられた。 4. 手や手首の痛みに関連した要因は年齢,初産婦, 過去の手と手首の痛みであった。 謝 辞 調査にご協力をいただきましたお母様方,市町の赤 ちゃん訪問や乳児健康診査のスタッフの皆様に,心か ら感謝申し上げます。本研究は JSPS 科研費課題番号 24660029,16H05587 の助成を受け行った研究の一部 であり,本論文内容に関連する利益相反事項はない。 本研究の一部は第 55 回日本母性衛生学会学術集会に おいて示説発表した。 産後女性の手や手首の痛みと関連要因麻生邦一(2006).de Quervain 病の治療 de Quervain 病の 診断 徒手診断法の有用性.臨床整形外科,41(2), 103-108.
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