解析力学入門
ver. 1.0
瀬戸 悟
平成
18 年 6 月 20 日
解析力学は,変分原理に基づいた理論のために座標変換に対して不変な形式をもつ。そのために 拘束条件をもつ問題等を解くために見通し良く運動方程式を立てることができるなどニュ−トン力 学にはない特長がある。またラグランジュアンやハミルトアンなどの言葉は量子力学では頻繁につ かわれるためにその扱いに慣れておくと量子力学を学ぶ際にも役にたつだろう。ここでは『量子力 学を学ぶための解析力学入門,高橋 康著(講談社)』を種本に解析力学の基礎を説明する。【仮想仕事の原理】
力F =X i fiが働く質点の運動方程式は m¨r = F である。質点が静止しているならば ¨ r = 0 なので F = 0 あるいは X = Y = Z = 0 (1) となる。このように静止している位置を平衡の位置という。 今,平衡の位置から質点がδr = (δx, δy, δz) だけ微小変位(仮想変位)すると力 F がなす仕事 δW は, δW = F · δr = Xδx + Y δy + Zδz = 0 (2) となる。このように 平衡点にある質点を仮想変位させたとき,質点に働く力(合力)のなす仕事(仮想仕 事)はゼロとなる。 これを仮想仕事の原理という。 逆に任意のδr について (2) 式が成立すれば,(1)が成り立つから (1) 式と (2)式は数学的に同等 である。 この仮想仕事の原理をn 個の質点系に拡張すると X i (Xiδxi+ Yiδyi+ Ziδzi) = 0 (3)となる。ここでi 番目の質点に働く力 FiをFi= (Xi, Yi, Zi) とし,仮想変位を δri= (δxi, δyi, δzi) とした。 なお,なめらかな束縛力Siは実現可能な仮想変位δriと直交するのでδW = Si· δri= 0 となっ て,束縛力は仕事をしない。したがって上記Fiは束力縛以外の力だけを考えればよい。
【ダランベールの原理】
前節の仮想仕事にの原理を運動している質点系に拡張することを考える。質点の運動方程式 m¨r = F を F − m¨r = 0 と書きなおす。F に F0 = −m¨r の力(慣性抵抗)が加わっているとすれば,あたかも平衡状態に あるかのように考えることができ,前節の仮想仕事の原理を適用することができる。このように 慣性抵抗F0を加えることによって運動している質点の問題をつり合いの問題に帰着さ せることができる。 これをダランベールの原理という。質点系では同様に Fi− mir¨i= 0 (i = 1, 2, 3, · · · ) (4) となる。当然r¨i(t) は時間とともに変化するから,ある瞬間ごとに式 (4) をつり合いの問題ととら えて,仮想仕事の原理を適用すると X i (Fi− mir¨i) · δri= 0 (5) あるいは X i {(Xi− mix¨i) δxi+ (Yi− miy¨i) δyi+ (Zi− miz¨i) δzi} = 0 (6) となる。もし力Fiが保存力ならば,ポテンシャル関数U (r) が存在し, Xi= −∂U ∂xi , Yi= − ∂U ∂yi , Zi = − ∂U ∂zi と表わされ δU =X i ½µ ∂U ∂xi ¶ δxi+ µ ∂U ∂yi ¶ δyi+ µ ∂U ∂zi ¶ δzi ¾ より(6) 式は X i mi( ¨xiδxi+ ¨yiδyi+ ¨ziδzi) = −δU (7) となる。【
Hamilton
の原理】
P2(t2) P1(t1) 真の経路C 仮想的な経路C0 HY δrH i(t)(仮想変位) n 個の質点系の各質点の位置ベクトル ri (i = 1, 2, · · · , n) は, 時間とともに変化する。図のよう に3n 次元の空間内を質点系は時刻 t1においてはP1に,時刻t2においてはP2にあり,P1から P2へはC なる経路に沿って変化すると考える。今,t1からt2までの任意の時刻t において仮想 変位δri(δxi, δyi, δzi)1を考え,経路がC から C0に変化したとする。このとき始点P1(t1) と終点 P2(t2) は変わらないものとする. 各瞬間ではダランベールの原理が成立する.したがって質点系に働く力が保存力であるならば, 各瞬間ごとに(7) 式が成り立つはずである.ここで (7) 式にあわられる項 ¨xiδxi等は, ¨ xiδxi= d dt( ˙xiδxi) − ˙xi d dtδxi (8) のように変形される.さらにある時刻t でも経路 C に沿った速度の xi成分はdxi dt であるが,仮想 的な経路C0に沿った同じ時刻における速度は µ dxi dt ¶ + δ µ dxi dt ¶ (9) であるが,一方の同じ速度はまた d dt(xi+ δxi) = µ dxi dt ¶ +d(δxi) dt (10) とも書けるので,(9) 式と (10) 式を比較すると δ µ dxi dt ¶ =d(δxi) dt あるいは δ ˙xi= d dtδxi (11) となり,変分操作と時間微分操作は交換可能である2。その他の座標でも(11) 式と同様に δ ˙yi= d dtδyi , δ ˙zi= d dtδzi (12) 1微分dr は異なる微小時刻間の変化であり,仮想変位(変分)δr は同時刻での変化である。 2この関係式は以後頻繁に使われる。が成り立つ.これらの関係式を用いると(8) 式は ¨ xiδxi = d dt( ˙xiδxi) − xiδ ˙xi = d dt( ˙xiδxi) − 1 2δ( ˙x 2 i) (13) が成り立つ.この関係は,y¨iδyi, ¨ziδziでも成立するから(7) 式は d dt X i mi( ˙xiδxi+ ˙yiδyi+ ˙ziδzi) = X i mi 2 δ( ˙x 2 i + ˙yi2+ ˙zi2) − δU (14) となる.質点系の運動エネルギーK は K =X i mi 2 ( ˙x 2 i+ ˙y2i + ˙zi2) であるから,(14) 式の右辺第1 項は運動エネルギーK の変分 δK に等しい.したがって d dt X i
mi( ˙xiδxi+ ˙yiδyi+ ˙ziδzi) = δK − δU
となる.この式をt1からt2まで積分すると,始点t1と終点t2ではδxi = δyi= δzi= 0 であるか ら左辺はゼロとなる.したがって Z t2 t1 (δK − δU ) dt = 0 あるいは δ Z t2 t1 (K − U ) dt = 0 (15) となる.この結果,(15) 式で表される関係式をハミルトンの原理という.この原理は,質点系が状態 P1(t1) から状態 P2(t2) へ移動する無数の経路のうちで実現される真の経路は,積分 Z t2 t1 (K − U )dt が極値をとるような経路であることを示している. 一般に運動エネルギーK からポテンシャルエネルギー U を引いた量 L = K − U (16) をラグランジュ関数あるいはラグランジアン(Lagrangian) という.ラグランジュ関数を用いるとハ ミルトンの原理は δ Z t2 t1 Ldt = 0 (17) と表される.また積分 Z t2 t1 (K − U )dt を作用積分と呼ぶ。したがってハミルトンの原理は,作用積 分 Z t2 t1 Ldt が極値をとるような経路であると言いかえられる。 これまでは運動方程式からダランベールの原理を経てハミルトンの原理を導いたが,逆にハミル トンの原理から運動方程式を導くこともできる.すなわち保存力場内のn 個の質点系のラグラン ジュ関数L は L =X i mi 2 ( ˙x 2 i + ˙yi2+ ˙z2i) − U (18) で与えられる.ハミルトンの原理から δ Z t2 t1 L dt = Z t2 t1 δL dt = Z t2 t1 δ ( X i mi 2 ( ˙x 2 i + ˙yi2+ ˙z2i) − U ) dt = Z t2 t1 X i ½
mi( ˙xiδ ˙xi+ ˙yiδ ˙yi+ ˙ziδ ˙zi) −∂U
∂xiδxi− ∂U ∂yiδyi− ∂U ∂ziδzi ¾ dt (19)
となる。ここで(19) 式に第1項に (11)(12) 式を代入して部分積分すると δ Z t2 t1 L dt = " X i mi( ˙xiδxi+ ˙yiδyi+ ˙ziδzi) #t2 t1 − Z t2 t1 X i ½ mi(¨xiδxi+ ¨yiδyi+ ¨ziδzi) + ∂U ∂xi δxi+∂U ∂yi δyi+∂U ∂zi δzi ¾ dt = Z t2 t1 X i ½µ mix¨i+ ∂U ∂xi ¶ δxi+ µ miy¨i+∂U ∂yi ¶ δyi+ µ miz¨i+∂U ∂zi ¶ δzi ¾ dt. (20) さらにハミルトンの原理を適用すると,δxi, δyi, δziは任意なので(20) 式の ( ) 内はゼロでなけ ればならない。したがって各質点ごとにポテンシャルU をもつ保存力場内のニュートンの運動方 程式 mid 2x i dt2 = − ∂U ∂xi , mid 2y i dt2 = − ∂U ∂yi , mid 2z i dt2 = − ∂U ∂zi (i = 1, 2, · · · , n) あるいは mid 2r i dt2 = −∇U (i = 1, 2, · · · , n) が導かれた。 以上よりハミルトンの原理からニュートンの運動方程式が導かれたから,先の結果と合わせると ニュートンの運動方程式とハミルトンの原理は数学的に同等であることが示された。 【例(弦の運動方程式)】 ハミルトンの原理から弦の運動方程式(波動方程式)を導く。 今,長さl,張力 T で引っ張られている線密度 σ の弦を考える。弦の一端から x と x + dx の部 分が弦に垂直にdu だげ微小に変位したとする。この部分の弦の伸びは p (dx)2+ (du)2− dx ≈ 1 2 µ ∂u ∂x ¶2 であるから,ポテンシャルエネルギーU は, U = 1 2T µ ∂u ∂x ¶2 dx となる。したがって弦全体のラグランジュ関数L は L = K − U = 1 2 Z l 0 ( σ µ ∂u ∂t ¶2 − T µ ∂u ∂x ¶2) dx となる。ここでハミルトンの原理を適用すると δ Z l 0 Ldt = Z t2 t1 Z l 0 ½ σ∂u ∂tδ µ ∂u ∂t ¶ − T∂u ∂xδ µ ∂u ∂x ¶¾ dxdt = Z t2 t1 Z l 0 ½ σ∂u ∂t ∂ ∂t(δu) − T ∂u ∂x ∂ ∂x(δu) ¾ dxdt = 0
となる。さらに上式右辺第1 項の積分を t で,第 2 項を x についてそれぞれ部分積分すると δ Z l 0 Ldt = Z l 0 (· σδu∂u ∂t ¸t2 t1 − Z t2 t1 σδu∂2u ∂t2dt ) dx − Z t2 t1 (· T δu∂u ∂x ¸l 0 − Z l 0 T δu∂ 2u ∂x2dx ) dt = 0 となる。時刻t1とt2における仮想変位δu および弦の両端は固定されているので x = 0 と x = l に おける仮想変位δu は 0 であるから上式は Z t2 t1 Z l 0 µ −σ∂ 2u ∂t2 + T ∂2u ∂x2 ¶ δudxdt = 0 となる。ここで仮想変位δu は任意だから積分の ( ) 内は 0 でなければならない。したがって,弦 の運動方程式(波動方程式) σ∂ 2u ∂t2 = T ∂2u ∂x2 がハミルトンの原理からも導かれた。
【一般化座標・一般化力・一般化運動量】
0.1
一般化座標
これまで1質点を記述するのに直交座標(x1, x2, x3) や問題に応じては極座標 (r, θ, φ) 等を用い て問題を解くことになるが,これを3つの自由度を表現する一般の変数(q1, q2, q3) と表現した方が 理論展開が便利になる。例えば直交座標とは x1= x1(q1, q2, q3) , x2= x2(q1, q2, q3) , x3= x3(q1, q2, q3) (21) や逆に q1= q1(x1, x2, x3) , q2= q2(x1, x2, x3) , q3= q3(x1, x2, x3) (22) のように(x1, x2, x3) と (q1, q2, q3) とが一対一に対応しているならば,質点は (q1, q2, q3) の 3 つの 変数で表現してもよい。このような変数の組(q1, q2, q3) を一般化座標という。 さらにn 個の質点からなる質点系では系の自由度は 3n であるので,その一般化座標は (q1, q2, · · · , q3n) であわされる。しかしながら,この質点系にh 個の拘束条件 fα= fα(q1, q2, · · · , q3n) (α = 1, 2, · · · , h) (23) あるいは時間を陽に含む fα= fα(q1, q2, · · · , q3n, t) (α = 1, 2, · · · , h) (24) が存在すると質点系の自由度f は f = 3n − h となる。したがってこの場合の一般化座標は f 個の 変数の組(q1, q2, · · · , qf) で記述できる。また (23) 式や (24) 式のように拘束条件が座標と時間のみ の関数で表現され,速度 ˙qαや加速度q¨αに関係しない束縛条件をホロノミック(holonomic) な束縛 といい,このようなホロノミックな束縛をもつ力学系をホロノミックな力学系という。0.2
一般化力
自由度f の質点系の仮想仕事 δW は直交座標での力の成分を F1, F2, · · · , Ffと書くと δW = F1δx1+ F2dx2+ · · · + Ffδxh= f X i=1 Fiδxi (25) とあさらされる。ここで δxi =∂xi ∂q1 δq1+∂xi ∂q2 δq2+ · · · + ∂xi ∂qf δqf = f X j=1 ∂xi ∂qj δqj を(25) 式に代入すると δW = f X i=1 f X j=1 Fi∂xi ∂qjδqj (26) となる。(25)(26) 式を比較して Qj ≡ f X i=1 Fi ∂xi ∂qj (27) とおくと(26) 式は δW = f X j=1 Qjδqj (28) となる。このQjを一般化座標qjに対する一般化力という。 δW は仕事の次元(エネルギー J=N·m)を持つから,一般化力 Qjは[エネルギー] ÷ [qj] の次元 を持つことになる。もしqjが長さの次元を持てば,Qjは通常の力の次元を持つが,qjが長さの次 元を持つとは限らないので,Qjも力の次元を持つとは限らないことに注意されたい。0.3
一般化運動量
天下り的だが,一般化座標(q1, q2, · · · , qf) に対してそれぞれの変数 qiに共役な一般化運動量pi をラグランジュ関数L = L(q1, q2, · · · , qf, ˙q1, ˙q2, · · · , ˙qf) を用いて次式で定義する。 pi≡ ∂L ∂ ˙qi (29) この定義式は,自由粒子のラグランジュ関数L = m 2 ˙x2を(29) 式に代入すれば,自由粒子の運動量 p = m ˙x が導かれることからもなんとなく了解されることと思う。【ラグランジュの方程式】
質点系を考える。質点系のラグランジュ関数L を L = L(q1, q2, · · · , qf, ˙q1, ˙q2, · · · , ˙qf) (30) とする。ここで変数q1, q2, · · · , qf と変数 ˙q1, ˙q2, · · · , ˙qfは互いに独立した変数としてみなすことに 注意されたい。ハミルトンの原理を適用するために作用積分の変分δ Z t2 t1 Ldt を計算する。 一般化座標qiとその速度 ˙qiの変分をそれぞれδqi,δ ˙qiとすると L(q1+ δq1, · · · , qf + δqf, ˙q1+ δ ˙q1, · · · , ˙qf+ δ ˙qf) = L(q1, q2, · · · , qf, ˙q1, ˙q2, · · · , ˙qf) + X i µ ∂L ∂qiδqi+ ∂L ∂ ˙qiδ ˙qi ¶ + · · · (31) となり,2 次以上の微少量を無視すると δL =X i µ ∂L ∂qi δqi+∂L ∂ ˙qi δ ˙qi ¶ となる。したがってハミルトンの原理は δ Z t2 t1 Ldt = Z t2 t1 δLdt = Z t2 t1 X i µ ∂L ∂qiδqi+ ∂L ∂ ˙qiδ ˙qi ¶ dt = 0 (32) となる。ここで(11)(12) 式が一般化座標 qiでも同様に δ ˙qi = d dtδqi が導けるので,(32) 式の第2項を積分すると " X i ∂L ∂ ˙qiδqi #t2 t1 + Z t2 t1 X i ½ ∂L ∂qi − d dt µ ∂L ∂ ˙qi ¶¾ δqidt = 0 (33) 経路の両端では仮想変位δqiがゼロであるから,第1項はゼロとなる。また任意の仮想変位δqiに 対して第2項の積分がゼロになるためには,{ } 内がゼロである必要がある。したがって d dt µ ∂L ∂ ˙qi ¶ − ∂L ∂qi = 0 (i = 1, 2, · · · , f ) (34) が成立しなければならない。(34) 式をラグランジュの方程式という。 ラグランジュ方程式は,座標に依らない概念である作用積分の極値(停留値),すなわちハミル トンの原理から導かれたので広い範囲の座標変換に対して不変な形式である。一方,ニュートンの 運動方程式は,座標変換すると式の形も大きく変化する。以下,ラグランジュ方程式の座標変換に 対する不変性を確かめてみる。具体的には,座標(q1, q2, · · · , qf) から新しい座標 (Q1, Q2, · · · , Qf) への座標変換したときに古い座標でラグランジュ方程式 d dt µ ∂L ∂ ˙qi ¶ − ∂L ∂qi = 0 (i = 1, 2, · · · , f ) (35)が成立すると,新しい座標(Q1, Q2, · · · , Qf) でのラグランジュ関数 L = L(Q1, Q2, · · · , Qf, ˙Q1, ˙Q2, · · · , ˙Qf) (36) においてもラグランジュ方程式 d dt µ ∂L ∂ ˙Qi ¶ − ∂L ∂Qi = 0 (i = 1, 2, · · · , f ) (37) が成り立つことを確認する。 古い座標(q1, q2, · · · , qf) から新しい座標 (Q1, Q2, · · · , Qf) への座標変換を qi= qi(Q1, Q2, · · · , Qf) (i = 1, 2, · · · , f ) (38) とする。qiはQ1, Q2, · · · , Qf の関数だからqiを時間微分すると ˙qi = ∂qi ∂Q1 ˙ Q1+ ∂qi ∂Q2 ˙ Q2+ · · · + ∂qi ∂Qf ˙ Qf = f X k=1 ∂qi ∂Qk ˙ Qk= f X j=1 ∂qi ∂Qj ˙ Qj (39) となる。したがって新しい座標(Q1, Q2, · · · , Qf) でのラグランジュ関数 (36) 式は,(38) 式と (39) 式を通じてQ1, Q2, · · · , Qfおよび ˙Q1, ˙Q2, · · · , ˙Qf の関数でなる。(39) 式からさらに ∂ ˙qi ∂ ˙Qk = ∂qi ∂Qk (40) が成り立つ。(40) 式の右辺は,Q1, Q2, · · · , Qfのみの関数であるから,(40) 式の両辺を時間で微 分すると d dt µ ∂ ˙qi ∂Qk ¶ =X j ∂2q i ∂Qj∂Qk ˙ Qj (41) となる。一方,(39) 式の右辺の ∂qi/∂Qjは,Q1, Q2, · · · , Qf のみの関数であるから,(39) 式から ∂ ˙qi ∂Qk = X j ∂2q i ∂Qk∂Qj ˙ Qj (42) (42) 式と (41) 式を比べると d dt µ ∂qi ∂Qk ¶ = d dt µ ∂ ˙qi ∂ ˙Qk ¶ = ∂ ˙qi ∂Qk (43) となる。ここまでの結果を基礎に古い座標(q1, q2, · · · , qf) でラグランジュ方程式が成立すれば,座 標変換後の新しい座標(Q1, Q2, · · · , Qf) でもラグランジュ方程式が成り立つことを示す。 ラグランジュ関数L は (38) 式と (39) 式によって Q1, Q2, · · · , Qfと ˙Q1, ˙Q2, · · · , ˙Qfの関数の関 数であるが,Qiと ˙Qiはつねにqiと ˙qiを通じてL の変数となっていることが重要である。した がってまずL を Qkで微分すると ∂L ∂Qk = X i µ ∂L ∂qi ∂qi ∂Qk + ∂L ∂ ˙qi ∂ ˙qi ∂Qk ¶ (44)
となる。次にL を ˙Qkで微分すると(38) 式より qiがQiのみの関数で ˙Qiに依存しないことを考慮 すると ∂L ∂ ˙Qk =X i µ ∂L ∂qi ∂qi ∂ ˙Qk +∂L ∂ ˙qi ∂ ˙qi ∂ ˙Qk ¶ =X i µ ∂L ∂qi ∂ ˙qi ∂ ˙Qk ¶ =X i µ ∂L ∂qi ∂qi ∂Qk ¶ (45) となる。ただし,最後の段階で(40) 式を用いた。この (45) 式を時間微分すると,(43) 式より d dt µ ∂L ∂ ˙Qk ¶ =X i ½ d dt µ ∂L ∂ ˙qi ¶ ∂qi ∂ ˙Qk +∂L ∂ ˙qi d dt µ ∂qi ∂ ˙Qk ¶¾ =X i ½ d dt µ ∂L ∂ ˙qi ¶ ∂qi ∂ ˙Qk +∂L ∂ ˙qi ∂ ˙qi ∂Qk ¾ (46) が得られる。この(46) 式と (44) 式の差をとると d dt µ ∂L ∂ ˙Qk ¶ − ∂L ∂Qk = X i ½ d dt µ ∂L ∂ ˙qi ¶ −∂L ∂qi ¾ ∂qi ∂Qk (47) となる。 (47) 式は,古い座標 (q1, q2, · · · , qf) でラグランジュ方程式 (35) が成り立てば,座標変換後の新 しい座標(Q1, Q2, · · · , Qf) でもラグランジュ方程式が成り立つことを意味している。以上より,ラ グランジュ方程式の座標変換による不変性が示された。 この座標変換に対するラグランジュ方程式の不変性も変換式が qi= qi(Q1, Q2, · · · , Qf) (i = 1, 2, · · · , f ) のように右辺の変数にはQiのみの関数で,Qiの時間微分 ˙Qiが含まれていない場合であった。さ らに広い形の変数変換を許すように理論を改良したのが,次節で述べるハミルトンの正準形式の理 論である。 【例1(中心力場内の平面運動)】 ポテンシャルU が U = −Cm r で表わされる中心力場内,質量m の粒子の平面運動のラグラン ジュ関数L は, L = K − U = 1 2m( ˙r 2+ r2˙θ2) +Cm r である。 ∂L ∂ ˙r = m ˙r , ∂L ∂r = mr ˙θ 2−Cm r2 ∂L ∂ ˙θ = mr 2˙θ , ∂L ∂θ = 0 を用いるとラグランジュ方程式は d dt ∂L ∂ ˙r − ∂L ∂r = m µ ¨ r − r ˙θ + C r2 ¶ = 0 (48) d dt ∂L ∂ ˙θ − ∂L ∂θ = d dt ³ mr2˙θ ´ = 0 (49)
となる。さらに(49) 式から各運動量 mr2θ が保存することわかる。これは面積速度一定のケプラー の第2法則に相当する。 一般にラグランジュ関数L(q1, q2, · · · , qf, ˙q1, ˙q2, · · · , ˙qf) がある一般化座標 qiを含まないとき,ラ グランジュ方程式を d dt µ ∂L ∂ ˙qi ¶ = ∂L ∂qi と書きなおせば, d dt µ ∂L ∂ ˙qi ¶ = 0 となる。すなわちpi= ∂L/∂ ˙qiが保存量となる。例1では,θ がまさしくそのような座標である。 このような一般化座標qiを循環座標という。もしラグランジュ関数にn 個の循環座標があれば,n 個の保存量が存在することになる。 【例2(電磁場のラグランジュ関数)】 ベクトルポテンシャルA とスカラーポテンシャル Φ で決まる電磁場中の質量 m,電荷 q に対す るラグランジュ関数L は L = 1 2m( ˙x 2+ ˙y2+ ˙z2) + q (A · ˙r) − qΦ (50) で与えられる。 【問題】 3 次元空間をポテンシャル U の保存力場中を運動する質量 m の粒子のラグランジュ関数を導出 し,さらにラグランジュ方程式を求めよ。 【問題】 (50) 式で与えられるラグランジュ関数から各座標成分のラグランジュ方程式を計算し,最終的に ローレンツ力F = q (E + ˙r × B) が働くニュートンの運動方程式となることを確認せよ。ただし, B = ∇ × A および E = −∇Φ −∂A ∂t である。
【ハミルトンの正準方程式】
ある力学系のラグランジュ関数をL とする。一般にラグランジュ関数 L は,q1, q2, · · · , qf と ˙q1, ˙q2, · · · , ˙qf の関数である。また一般化運動量piは,ラグランジュ関数から(29) 式のように pi≡ ∂L ∂ ˙qi と定義された。この式が逆に解ければ,˙qiは,q1, q2, · · · , qf, p1, p2, · · · pfの関数とみなせる。以下 ではこのような場合に限って議論する。 そこで新しい関数 H = f X i=1 pi˙qi− L (51) を定義する。この関数をハミルトン関数あるいはハミルトニアン(Hamiltonian) という。上で議 論したように ˙qiは,qiと ˙qiの関数であるからハミルトン関数H も,q1, q2, · · · , qf, p1, p2, · · · pfの 関数とみなすことができる。ここで変数q1, q2, · · · , qfと変数p1, p2, · · · , pfは互いに独立した変数 としてみなすことに注意されたい。またpiをqiに共役な運動量と言うこともある。 (51) 式のハミルトン関数 H を L = f X i=1 pi˙qi− H と書き換えてハミルトンの原理を適用してみる。 δ Z t2 t1 Ldt = Z t2 t1 δLdt = Z t2 t1 ( X i ( ˙qiδpi+ piδ ˙qi) − δH ) dt = Z t2 t1 X i µ ˙qiδpi+ piδ ˙qi−∂H ∂qiδqi− ∂H ∂piδpi ¶ dt となる。ここで( ) 内の第 2 項は δ ˙qi= dtdδqiを利用して部分積分すると δ Z t2 t1 Ldt = Z t2 t1 δLdt = " X i piδqi #t2 t1 + Z t2 t1 X i µ ˙qiδpi− ˙piδqi−∂H ∂qiδqi− ∂H ∂piδpi ¶ dt となる。さらに時間t1およびt2では仮想変位はδqi= 0 より,上式の第 1 項はゼロとなる。それ ゆえハミルトンの原理は δ Z t2 t1 Ldt = Z t2 t1 X i ½µ ˙qi−∂H ∂pi ¶ δpi− µ ˙pi+∂H ∂qi ¶ δqi ¾ dt = 0 (52) となる。ここで任意の変分δqiとδpiに対して上式が成立するためには( ) 内がゼロでなければな らない。したがって dqi dt = ∂H ∂pi , dpi dt = − ∂H ∂qi (i = 1, 2, · · · , f ) (53) が得られる。この式をハミルトンの正準方程式という。またハミルトンの正準方程式における変数 qi, piを正準変数という。次にハミルトン関数の物理的意味を考える。ラグランジュ関数L = K − U において,運動エネ ルギーK は一般化座標 qiの2 次の同次式 K =X i X j aij˙qi˙qj (aij= aji) と書ける。 ∂K ∂qi = 2 X j aij˙qj またポテンシャルU は qiのみの関数で,˙qiに依存しなければ, pi= ∂L ∂ ˙qi = ∂K ∂ ˙qi = 2 X j aij˙qj となる。したがってハミルトン関数H は H =X i pi˙qi− L = 2 X i X j aij˙qj˙qi− K + U = 2K − K + U = K + U (54) と書ける。すなわちハミルトン関数は全エネルギーという物理的意味に他ならない。 またハミルトン関数H が H = H (qi(t), pi(t)) のように時間t を陽に含まず,qiとpiを通して時間に依存するとき dH dt = X i µ ∂H ∂qi dqi dt + ∂H ∂pi dpi dt ¶ となるが,ハミルトンの正準方程式(53) 式を考慮すると dH dt = X i µ ∂H ∂qi ∂H ∂pi − ∂H ∂pi ∂H ∂qi ¶ = 0 (55) となる。これはエネルギー保存則である。 ここで量子力学との関連について簡単に触れる。ポテンシャルU が働く保存力場内の粒子の運 動のHamiltonian は (54) 式より,運動エネルギー K とポテンシャルエネルギー U の和で与えら れる。ここでラグランジュ関数L は直交座標 (x, y, z) では L = K − U = 1 2m( ˙x 2+ ˙y2+ ˙z2) − U (x, y, z) と表わされるので,座標x, y, z に共役な運動量 px, py, pzは px=∂L ∂ ˙x = m ˙x , py= ∂L ∂ ˙y = m ˙y , pz= ∂L ∂ ˙z = m ˙z となる。3したがってHamiltonian を正準変数で表わすと H = 1 2m ¡ p2 x+ p2y+ p2z ¢ + U (x, y, z) (56) 3いきなりp x= m ˙x, py= m ˙y, pz= m ˙z として Hamiltonian を求めてもよい。
となる。量子力学では,上記Hamiltonian の運動量 piとエネルギーE をそれぞれ微分演算子 px −→ −i~ ∂ ∂x , py −→ −i~ ∂ ∂y, pz −→ −i~ ∂ ∂z, E −→ i~ ∂ ∂t で置換え,さらにHamiltonian が全エネルギー E に等しいとした関係式,H = E,の両辺右から 関数(波動関数)Ψ(x, y, x, t) を作用させたときに成立する微分方程式 ½ −~ 2 2m µ ∂ ∂x2 + ∂ ∂y2 + ∂ ∂z2 ¶ + U (x, y, z) ¾ Ψ(x, y, x, t) = i~∂Ψ(x, y, x, t) ∂t (57) あるいは ½ −~ 2 2m∇ 2+ U (r) ¾ Ψ(r, t) = i~∂Ψ(r, t) ∂t (58) を時間に依存するシュレーディンガー方程式(Shr¨odinger equation) という。 【例1(調和振動子)】 質量m の 1 次元の調和振動子の Lagrangian は L = 1 2m ˙x − 1 2mω0x 2 である。x に共役な運動量 P は p = ∂L ∂ ˙x = m ˙x となる。したがってHamiltonian は H = p ˙x − L = p µ 1 mp ¶ 1 2m µ 1 mp ¶ µ 1 mp ¶ +1 2mω 2 0x2= 1 2mp 2+1 2mω 2 0x2 となる。正準方程式(正準変数 x, p)は ˙x = ∂H ∂p = p m, ˙p = − ∂H ∂x = −mω 2 0x2 となる。第1 式は運動量 p = m ˙x の定義であり,第 2 式が運動方程式である。 【例2(電磁場のハミルトにアン)】 ベクトルポテンシャルA とスカラーポテンシャル Φ で決まる電磁場中の質量 m,電荷 q に対す るラグランジュ関数L は,(50) 式から L = 1 2m( ˙x 2+ ˙y2+ ˙z2) + q (A · ˙r) − qΦ であったので,各座標x, y, z に共役な運動量は px=∂L ∂ ˙x = m ˙x + qAx, py = ∂L ∂ ˙y = m ˙y + qAy, pz= ∂L ∂ ˙z = m ˙z + qAz
となる。したがってHamiltonian は H = px˙x + py˙y + pz˙z −1 2m( ˙x 2+ ˙y2+ ˙z2) − q (A · ˙r) + qΦ = px1 m(px− qAx) + py 1 m(py− qAy) + pz 1 m(pz− qAz) −m 2 ½ 1 m2(px− qAx) 2+ 1 m2(py− qAy) 2+ 1 m2(pz− qAz) 2 ¾ − q ½ Ax 1 m(px− Ax) + Ay 1 m(py− Ay) + Az 1 m(px− Ax) ¾ + qΦ = 1 2m © (px− qAx)2+ (py− qAy)2+ (pz− qAz)2 ª + qΦ となる。以上,ベクトルポテンシャルA とスカラーポテンシャル Φ で決まる電磁場中の質量 m, 電荷q に対する Hamiltonian は H = 1 2m © (px− qAx)2+ (py− qAy)2+ (pz− qAz)2 ª + qΦ = X i=x,y,z (pi− qAi)2 2m + qΦ (59) となる。これは自由粒子のHamiltonian H = X i=x,y,z p2 i 2m を次のような置換え H −→ H − qΦ pi −→ pi− qAi (i = x, y, z) を行なったものに等しい。 【問題】 3 次元空間をポテンシャル U の保存力場中を運動する質量 m の粒子の Hamiltonian を導出し, さらに正準方程式を求めよ。 【問題】 (59) 式で与えられる Hamiltonian から各座標成分の正準方程式を計算し,最終的にローレンツ 力F = q (E + ˙r × B) が働くニュートンの運動方程式となることを確認せよ。ただし, B = ∇ × A および E = −∇Φ −∂A ∂t である。