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「うねり性波浪」から港湾構造物を守る

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Academic year: 2021

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富山湾の寄り回り波について

~うねり性波浪(寄り回り波)の特性解明と今後の対応~

国土交通省 北陸地方整備局 新潟港湾空港技術調査事務所 調査課長 吉田 忠 Tadashi Yoshida はじめに 平成 20 年 2 月 23 日から 24 日にかけて、日本海側で発達した 低気圧の影響により北日本の日本海側地域を中心に、高波や暴 風による被害が相次いだ。 特に「うねり性波浪(寄り回り波)」が来襲した富山県内の 被害は高岡市、射水市、滑川市及び入善町に集中し、入善町で 人的被害が発生したほか、港湾施設や漁港施設、海岸施設に大 きな被害をもたらした。直轄港湾施設においては、伏木富山港 (伏木地区)の北防波堤が最大で約 13.5mも滑動するなど甚大 な被害となった。 この港湾における被害の実態解明とその対応について、学識 経験者、国土交通省、富山県及び(独)港湾空港技術研究所が共 同で設置した「うねり性波浪」対策検討技術委員会(以下、委 「 員会と称す)において検討を行ったので、その内容 伏木富山港(伏木地区)北防波堤を襲う寄り回り波」 を紹介する 明野孝廣氏撮影 .寄り回り波とは 波をはじめ高波の被害が多く、記録は平安時代ま で 粋) 「寄り回り波」は、伏木の藤井家の家文書で初め に ものである。 1 富山湾では寄り回り 遡ることができる。台風や低気圧が日本海側を通過する際、冬型の気 圧配置が強まり、日本海北部で発生した風波が長い距離を伝播し、うね りとなって富山湾に到達する。富山湾では「あいがめ」という急峻な海 底地形により、来襲した高波が浅瀬でせり上がり、勢いを保ったまま沿 岸に打ち寄せる。風や波が静まり、漁や浜辺での作業を開始しようとす る頃に突如として打ち寄せ不意をつくために被害も大きく、古来より多 くの悲惨な記録が残されている。一例を以下に示す。 寄り回り波発生時の天気図例 (富山気象台 HP より抜 て「寄り廻り高波」として登場する。その後、昭和 入り新聞報道で「津浪・海濠・激浪」に変わって 「寄り回り波」が使用されてからは「富山湾特有の 異常高波」の固有名称として知られてるようになっ た。黒部市、富山市、射水市、高岡市等で高波の襲 来に時間差があり、あたかも各地を寄って回るよう に来襲するため「寄り回り波」と言われている。 2008.2.24 河合雅司氏撮影(富山商船高等専門学校准教授) 富山商船高等専門学校屋上より ●11日卯刻に至りて海嘯あり新治村(黒部市)一円陥落して蒼海と変し被 ● 害面積40万坪、人家70余、寺院1、人畜死傷無類と称せられる。 江戸時代:寛政3年(1791)9月3日越中放生津(射水市)へ津波うちあ 藤井家の家文書より げ磯際にて180軒有之、一村不残打崩し、内20軒海中へ引 き込み候而人損多有之 ●元治元年(1864)8月9日、寄り廻り高波にて伏木浦 波除御普請所之内竹籠損所御手入大綱見取り図御入 用銀高上申候

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2.寄り回り波による既往災害 既往災害の記録を整理した結果、寄り回り波の被災について以下のことがいえる。 ・「寄り回り波」による被災は、10 月~3 月に多く発生する。 ・「寄り回り波」による被災がよく発生する場所は、下新川郡(朝日町、入善町)、滑川市、射水市である。 ● ● ● ● 高岡市 滑川市 富山市 ● 朝日町 入善町 魚津市 ● ● 射水市 氷見市 ● ● 下新川郡 59件 27% 滑川市 48件 23% 射水市 33件 16% 富山市 20件 10% 氷見市 18件 9% 高岡市 17件 8% 魚津市 9件 4% 6件 3%黒部市 【行政区分,件数,%】 黒部市 下新川郡 0 5 10 15 20 25 30 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 「被災時期の分布」 ※ 「寄り回り波」による被災が多い地域 「寄り回り波」による既往災害の状況 3.伏木富山港の変遷 甚大な被害を受けた伏木富山港は、本州の日本海側のほぼ中央に位置し、環日本海交流、日本海国土軸の中枢を担 う「国際貿易港湾」「国内流通港湾」として活躍が期待されている港であり、物流や人々の交流拠点、富山のゲート ウエイとしての機能の充実、豊かな生活を支える地域の産業立地拠点等をめざして整備が進められている。港は伏木、 新湊、富山の3地区からなり、昭和 61 年には特定重要港湾に指定された。 伏木地区の伏木港は、小矢部川の河口に位置し、風光明媚な中部山岳国定公園、能登半島国定公園に抱かれた天然 の景観と共に、古代から知られた日本海沿岸屈指の要港である。18 世紀に入ると、能登屋(藤井家)や鶴屋(堀田家)、 西海屋(堀家)など自ら船を所有し、越中米を扱う有力な船問屋が台頭した。 現在の港は、臨海工業地帯、石油配分基地を擁し、ロシアとの定期配船をはじめ対外諸国との貿易港として高岡市 のみならず、県内外の社会経済発展の一翼を担っている。また、伏木にまつわる有名人としては「大伴家持」が挙げ られる。万葉集に多くの歌を残した詩人である。高岡市は万葉集に関する施設として「高岡万葉博物館」を建てるな ど、万葉の詩情あふれる文化都市である。 大正13年頃の伏木港 (富山県伏木港事務所 HP より抜粋) 昭和初期頃の伏木港 (富山県伏木港事務所 HP より抜粋) 伏木富山港(伏木地区) 被災件 数 富山湾

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新湊地区の富山新港は、約 1.8K㎡の放生津潟ほうじょうづがたを利用した掘込港湾で、富山高岡新産業都市の新しい拠点として、 昭和 43 年 4 月に開港した。現在は、造成された背後の工業用地に約 100 社が立地し臨海工業地帯を形成している。 本港には、ロシア・韓国・中国への定期コンテナ航路が就航しており、その取扱貨物の伸びは近年目覚しく、平成 19 年 3 月には、多目的国際ターミナルのコンテナヤードも拡張された。 一方で平成 17 年秋には、東埋立地に富山新港元気の森公園が一部供用開始されるなど、海王丸パーク、新湊マリ ーナとともに賑わいのある港空間の創出に寄与し、環日本海交流の拠点として重要な役割を担っている。 富山新港建設進む・昭和41年 伏木富山港(新湊地区) 富山新港建設前の放生津潟・昭和30年 富山地区の富山港は、江戸時代には加賀藩の御用米の積出港として栄え、 北前船の時代には交易で発展した。大正末期に神通川河道と分離して整備 された工業港で、富山市を背後に、古くから沿岸貿易の要港として栄えた 昭和 18 年に岩瀬港から富山港と名前を変え、現在は、大型船舶が係留で きる岸壁のほか、沖合いには、28万トン級タンカーが係留できるシーバ ースがある。港内には上屋、荷役機械、貯木場なども整備されており、原 油、原木などの外貿貨物が中心に取り扱われている。 。 (富山地区) (上)昭和 (富山県富山港事務所 HP より抜粋) 北前船(地元ではバイ船と呼ぶ)「神通丸」の模型 伏木富山港 36年頃の富山港(下)昭和38年頃の富山港

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4.伏木地区北防波堤の被災状況 北防波堤はA~F区間からなる全長 1,500mの防波堤であり、被災はB区間及びD、D´区間において、ケーソン の滑動及び消波ブロックの沈下が生じた。

伏木地区北防波堤 被災状況(H20.2.24冬期風浪)

・防波堤(北)B区間 堤体滑動、消波工沈下 ・防波堤(北)D、D’区間 堤体滑動、消波工沈下 また、被災時の海象状況 は被災擾乱の期間(2月 23 日0 時~25 日 24 時)におい て、最大有義波高は、伏木 地区(観測水深-46.0m)で ケーソン滑動状況(A 区間から B 区間方向をのぞむ) 4.22m(24 日 14 時)、富 山地区(観測水深-20.0 m)では 9.92m(24 日 16 時)であった。なお、 富山地区の観測波高は既 往最大波高を超えた。周期 は24 日 0 時から 25 日 12 時にかけて10sec を超え、 24 日午後には 14sec~ 15sec に達した。 有義波高 (m) 有義波周期 (sec) 0 5 10 15 20 0時 6時 12時 18時 0時 6時 12時 18時 0時 6時 12時 18時 0時 伏木 富山 2月23日 2月24日 2月25日 0 5 10 15 0時 6時 12時 18時 0時 6時 12時 18時 0時 6時 12時 18時 0時 伏木 富山 2月23日 2月24日 2月25日 最大で約12m港内側へ移動 B区間 150m (15m@10函) B-9 B-8 B-7 B-6 B-5 B-10 B-4 B-3 B-2 B-1 ②D区 間 最大で約2.5m港内側へ移動 ①B区間 ① ② ③ ③D、D’区 間 最大で約4m港内側へ移動 D-6 D-5 D-33 D区間とD’区間は同一断面(土質条件のみ異なる)

伏木地区北防波堤 被災状況(H20.2.24冬期風浪)

・防波堤(北)B区間 堤体滑動、消波工沈下 ・防波堤(北)D、D’区間 堤体滑動、消波工沈下 最大で約12m港内側へ移動 B区間 150m (15m@10函) B-9 B-8 B-7 B-6 B-5 B-10 B-4 B-3 B-2 B-1 ①B区間 ②D区 間 最大で約2.5m港内側へ移動 ① ② ③ ③D、D’区 間 最大で約4m港内側へ移動 D-6 D-5 D-33 D区間とD’区間は同一断面(土質条件のみ異なる)

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5.富山湾における被災時波浪の特性解明 富山湾に来襲した被災時の波浪「寄り回り波」状況をエネルギー平衡方程式による波浪変形計算により再現した。 その結果、富山湾の湾奥では、複雑な海底地形の影響で局地的な波高の増大が生じること等を確認できた。 富山湾における有義波高・波向分布 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 0 5 10 15 20 Wave Height (m) km 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 Wave Height (m) 0 10 20 30 40 km 地形の影響により遮蔽域とな り波高が低い. 入善は外洋からの波浪を直接受ける ため波高が高い. 急峻な谷が存在する複雑な地形(あい がめ)により波高が高くなる. 伏木及び新湊地区の波高分布を以下に示すが、伏木地区の被災箇所では波高が高くなっている。また、港前面の急 峻な海底地形(あいがめ)により屈折現象、浅水変形の影響で波浪が集中している。 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 0 1 2 3 4 Wave Height (m) km 回折域となる港内及び防 波堤・離岸堤背後は評価 対象外とする. 伏木地区及び新湊地区の有義波高・波向分布

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波高増大 伏木地区及び新湊地区の海底地形図 6.伏木地区における被災時波浪の再現 今回のような「寄り回り波」による災害を繰り返さないように防波堤の設計を見直すためには、できる限り正確に 被災時波浪の再現を行ったうえで、防波堤の被災メカニズムを解明する必要があった。 このため、北防波堤における各区間の被災時波浪の再現には、計算格子間隔を10mとする正確なシミュレーショ ン(ブシネスクモデル※)を用いることとした。 この結果、北防波堤前面の被災時の波高は、計算条件により若干の差異はあるものの、高波浪と推計された箇所と 実際の被災箇所が概ね一致しており、いずれの箇所においても設計波高を上回っていることが確認された。 波浪計算結果 : 波向 22.5° B C D A-1 A-2 B C D D' E F F' E F A 被災箇所にお ける高波浪域 被災箇所に ける高波浪域 お 波浪計算結果 : 波向 40.0° D B C A-1 A-2 B C D D' E F F' A 北防波堤 万葉埠頭 被災箇所にお ける高波浪域 北防波堤 万葉埠頭 E F 被災波の波浪計算結果(反射あり)

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という点が挙げられる。今回使用したモデルは、(独)港湾空港技術研究所の平山により、港湾や海岸の構造物の設計 に活用できるように境界条件の整備や砕波の影響、構造物の反射や透過を考慮できるようモデルを発展させた NOWT-PARI ver4.6c5a である。 計算精度が向上する。 ③波の非線形性が考慮できることにより高波浪時(波形勾配が大きい場合)や浅海域(水深波長比が小さい場合)の ②水深変化が大きい複雑な海底地形でも、従来の回折のみを考慮する手法と比較して計算精度が高い。 ①港内と港外で別々の計算をする必要がない。 最大の特徴は、屈折と回折が同時に計算できることから、 ※ ブシネスクモデルとは、港内外の波浪変形を同時にかつ高精度に算定する最新の計算手法として、近年、その有用性 が広く注目されている波浪計算手法である。 7.北防波堤の被災メカニズム

北防波堤の被災メカニズムのイメージ図

① 「寄り回り波」によるうねり性の高波浪が来襲し、水位も上昇 ② 消波ブロックが徐々に沈下し、堤体にかかる波圧が増大する (飛散ではなく、大きく揺すられ噛み合わせや足折れ等によって空隙率が小さくなった) ③ 堤体の滑動安全率が1.0を下回り、堤体が港内側に滑動する ④ 被災後(堤体の滑動、消波ブロックの沈下等) 沈下 直接堤体に波圧がかかる 不安定 滑動 これまでの検討結果から、北 防波堤の被災は、現設計の設計 条件を上回る波が長時間作用 することによって消波ブロッ クの散乱・沈下や北防波堤のケ ーソンの滑動に至ったと考え られる。 北防波堤の被災メカニズム はイメージ図のように考えら れる。

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8.被災時波浪を考慮した防波堤の設計について 防波堤の堤体安定計算及び消波ブロック被覆堤の消波ブロック重量算定計算に使用する設計波浪は、50年確率波と していた。しかし、今回の被災は、被災時波浪の周期が現設計の設計波周期(T1/3=12.0sec)に比較して14.2sec(T 1/3)と異常に長いため波力が大きくなったことが原因と考えられる。このため設計波は、再度災害を防止する観点か ら50年確率波に加えて被災波も検討に加えることとした。また、被災時の潮位も考慮する。 9.「寄り回り波」の予測 委員会では、富山湾における「寄り回り波」災害に関して、 港湾・海岸施設のハード面での補強に併せて、事前に情報を 把握し対処(ソフト面)することが有効と指摘がなされた。 そこで、「寄り回り波」の予測に関して検討を行った。 う ね り の 伝 播 経 路 その結果、現状での寄り回り波の特性を踏まえた予測につ いて、 ① 既存のシステム(ナウファス等)の有効活用により精 度の高い予測システムの構築を図る。 ② あいがめ等複雑な地形の効果を反映させる(ブシネス クモデルによる浅海効果の算出と結果の反映)。 ③ うねりの伝播経路における「うねり性波浪」の監視。 等の課題が整理された。 NOWPHAS による波浪観測地点(北日本) 「うねり性波浪」対策検討技術委員会の審議状況(平成 20 年 6 月 19 日) おわりに この度、富山湾沿岸に来襲し、富山県内の各地の海岸や漁港、そして港湾施設に甚大な被害を及ぼした波浪は、被 害の実態把握及び国土交通省の波浪観測データや数値計算結果などから、その原因が「寄り回り波」といわれる「う ねり性波浪」によるものであることが明らかとなった。 委員会における検討では、「被災メカニズムの解明」が主要なテーマの一つであったが、それには、沿岸域まで深 くて複雑な海底地形が続く富山湾での「寄り回り波」の浅水変形をできる限り正確に再現する必要があった。そのた め委員会では、非線形性を考慮して波の挙動をシミュレーションするブシネスクモデルを用いることとし、これによ り北防波堤での数十メートル間隔で大きく変化する最大波高を再現することができた。これは複雑な海底地形などの 影響をモデルに反映したことによるものである。ブシネスクモデルが沿岸域における波の変形計算に有効であること

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が確認できたことは、本委員会での検討のひとつの成果であり、本モデルは今後、港湾工事や設計に際しての強力な ツールとして活用されることが期待される。 国土交通省では、今回の委員会の検討結果を踏まえて、「うねり性波浪」を設計に反映させることとした。また、 当面はうねり性波浪の来襲を精度よく予測するシステムの構築を図ることとしている。 最後に、この度の「うねり性波浪」における被災対応においてご尽力を頂いた多くの委員や関係者に対し感謝い たしますとともに、引き続き安全安心な社会資本整備に邁進する所存であります。

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