【査読付き論文】 特集/エコシステムのマネジメント論
複数のエコシステムの連結のマネジメント:パ
ラレルプラットフォームの戦略論
根来 龍之(早稲田大学 ビジネススクール 教授) 釜池 聡太(早稲田大学大学院 商学研究科 博士課程) 清水 祐輔(デジタル経営研究センター) 本稿では,複数のエコシステムからなる製品システムを,パ ラレルプラットフォーム市場と呼び,その市場特有の戦略的観 点について事例分析を通じて論じる.事例分析から抽出された ポイントは以下の 5 つである.⑴ネットワーク効果のマネジメ ント,⑵利益格差のマネジメント,⑶セットとしてのプラット フォーム製品のマネジメント,⑷結合プラットフォームのマネ ジメント,⑸マルチホーミングのマネジメント. キーワード ツーサイドプラットフォーム,パラレルプラットフォーム,結合プラットフォーム,マルチホーミング Ⅰ .はじめに 本稿の目的は,自社製品だけではなく,補完製 品の存在を前提とする製品システム(エコシステ ム)の戦略論特有の論点について,新たな観点を 提起することである.本稿でのエコシステムは, 「基盤となる製品=プラットフォーム(以降,PF と表記)製品,補完製品,PF 製品事業者,補完 製品事業者,消費者からなる製品・プレイヤーの 集合」のことである.この分野では,すでに以下 のような論点が提起されている.ツーサイドプラ ットフォームの理論(Rochet and Tirole, 2003, 2008;Caillaud and Jullien, 2003;Eisenmann, Parker and Van Alstyne, 2006;Hagiu, 2008; Hagiu and Yoffie, 2009 など)は,PF に関わるプ レイヤー(補完事業者や消費者)間のネットワー ク効果のマネジメントについて論じる.Gawer and Cusumano(2002),Iansiti and Levin(2004), Evans and Schmalensee(2010)は,エコシステムの中心となっている製品の事業者(PF 製品の 提供者)がエコシステム全体の発展のためにマネ ジ メ ン ト す べ き ポ イ ン ト を 論 じ る.Adner (2006)は,イノベーション・エコシステム(複 数の企業がそれぞれ持てるものを提供し合い,1 つのソリューションにまとめて顧客に提供するコ ラボレーション)に特有のリスクマネジメントの ポイントについて論じる.実は,これらの議論 は,暗黙に,「1 つ」のエコシステム1)のマネジメ ントを論じるものであったと考えられる. これ対して,本稿は,複数のエコシステムから なる製品システムに特有の戦略的観点について論 じる.この論点は,インターネットの誕生ととも に発生した市場に関わるものであるが,近年の電 子書籍や音楽ダウンロード市場などの発展にとも なって,その重要性を高めているものである. Ⅱ .パラレルプラットフォーム市場2) ツーサイドプラットフォームの理論は,相互作 組織科学 Vol.45 No. 1:45-57(2011) 45
用する複数3)のグループの存在(少なくとも 2 つ)の「サイド」(プレイヤー・グループ)の間 のネットワーク効果のマネジメントを基礎とする 議論である.これに対して,本稿が提起するパラ レルプラットフォーム市場論とは,このツーサイ ドプラットフォームが 2 つセットになった市場を 議論するための概念である.正確には,パラレル プラットフォーム市場は,「共通のプラットフォ ーム(規格や仕様等の PF 間インターフェース= 結合プラットフォーム)によって媒介される,補 完製品(コンテンツなど)の供給プラットフォー ムと,補完製品の使用プラットフォームが並列的 にセットとして存在している市場」と定義され る.ここで「並列的」とは,「前者からの供給が 後者の使用の前提になる」ということである.な お,この定義は,供給 PF と使用 PF が 1 対 1 の 関係であることを意味しない.多:1,1:多, 多:多であることもありえる.コンテンツ提供側 の PF と閲覧(使用)側の PF 自身も,それぞれ がツーサイドマーケットとなる. 電子書籍や音楽ダウンロード市場では,通信ネ ットワークとファイル規格が PF 間インターフェ ース(結合プラットフォーム)となって,コンテ ンツ提供側の PF と再生(閲覧)側の PF(ハー ド)をつなぐことでパラレルプラットフォーム市 場が成り立っている.この理論の射程は,ソフト ウェア業界にも及ぶ.例えば,Web サーバ(コ ンテンツ提供側ソフトウェア)と Web ブラウザ (コンテンツ閲覧側ソフトウェア)がセットとな った市場,ストリーミングメディア市場,RIA
(Rich Internet Application)市場なども,パラレ ルプラットフォーム市場論の適用対象となる. Ⅲ .パラレルプラットフォーム市場の第一の 事例:Web サーバ+ブラウザ市場4) 1.Web サーバ+ブラウザ市場のパラレルプラ ットフォーム構造 以下では,Web ブラウザ(単に「ブラウザ」 ともいう)における,初期の成功者である,ネッ トスケープ・コミュニケーションズ(Netscape Communications;以降,ネットスケープと表記) のシェアを奪い逆転に成功したマイクロソフトの 戦略について分析する. Web ブラウザは,インターネット上の WWW (World Wide Web;あるいは単に「Web」とも いう)に存在するコンテンツを閲覧するためのア プリケーションである.現在広く一般に使われて いるブラウザの原型になっているのは,イリノイ 大学の学生であったマーク・アンドリーセンをリ ーダーとして,1993 年に米国国立スーパーコン ピュータ応用研究所で開発された「Mosaic(モ ザイク)」というソフトウェアである. WWW 上のコンテンツは HTML(Hyper Text Markup Language)という言語で書かれており, Web ページと呼ばれる.HTML で書かれたコン テンツを WWW で提供するには,Web サーバと 呼ばれるサーバ製品(ソフトウェア)が必要であ る. コンテンツを WWW 上で提供するための Web 図 1 パラレルプラットフォーム構造 補完業者 補完製品 = 補完製品 ユーザー 供給 プラットフォーム 使用 プラットフォーム PF間インターフェース (結合プラットフォーム)
サーバと,コンテンツを閲覧するための Web ブ ラウザは,それぞれ「サーバ側〔=コンテンツ提 供側〕」と「クライアント側〔=コンテンツ閲覧 側〕」としてセットになる製品と考えられる.し たがって本稿が着目するパラレルプラットフォー ム構造を持った市場である. パラレルプラットフォーム市場の構造図におい ては,HTML(言語仕様)を結合 PF として,サ ーバ側にコンテンツを提供するための Web サー バ,クライアント側にコンテンツを閲覧するため の Web ブラウザが配置される.さらに Web サ ーバ側 PF は,それ自体がプラットフォームとし てコンテンツ提供者と Web コンテンツを両サイ ドに持ち,Web ブラウザ側 PF は Web コンテン ツとコンテンツ閲覧者を両サイドに持つ.ここで 述べた Web サーバ+ブラウザ市場のパラレルプ ラットフォーム構造図は,図 2 のようになる5). 2.ネットスケープの概要とビジネスモデル ネットスケープは,Mozaic 開発のリーダーで あったマーク・アンドリーセンがジム・クラーク とともに 1994 年 4 月 4 日に設立した企業である. ネットスケープは設立 4 年後の 1998 年には 5 億 ドルの収入をあげるまでになり,「史上最も急成 長したソフト(ウェア)企業」(Cusumano and Yoffie, 1998, 邦訳 p.14)といわれるほどの成長を 示した. ネットスケープは 1994 年 12 月にリリースした ネ ッ ト ス ケ ー プ・ナ ビ ゲ ー タ ー(Netscape Navigator;以降,NN と表記)という名の Web ブラウザで一躍有名となった.NN は実質的には Mozaic の後継となる Web ブラウザであり,初め ての商用ブラウザであった(それ以前は Mozaic 等の非営利ソフトしか存在しなかった).NN は リリース直後から市場シェアを拡大し,一時は 90%程度に達したともいわれている(Cusumano and Yoffie, 1998,邦訳 p.24). 一時期は市場を支配した NN であるが,その 状態は長くは続かなかった.インターネットの急 成長を察知したビル・ゲイツ率いるマイクロソフ ト が,NN の 対 抗 製 品 と し て Web ブ ラ ウ ザ Internet Explorer(以降,IE と表記)をリリー ス(1995 年 8 月)したからである.以下の分析 で見るとおり,IE は NN を追い上げ,そしてシ ェアを逆転するに至る6). ネットスケープは創業時から,コンテンツを Web 上で提供するための Web サーバソフトと, Web ブラウザの両方を市場に提供していた.こ の時点におけるネットスケープはどの製品から収 益を得るかについて,明確な指針を持っていた. すなわち,Web ブラウザの機能制限版を無償で 配布し,これによって Web ブラウザの利用者を 増やす.代金を支払う用意があるユーザに対して は,顧客サポート付きで機能制限なしのバージョ 図 2 Web サーバ+ブラウザ市場のパラレルプラットフォーム構造 サーバ側 クライアント側 結合プラットフォーム (技術,規格など) Webサーバ ソフトウェア Webブラウザー サーバOS クライアントOS Webコンテンツ (補完製品) Webコンテンツ (補完製品) クライアント側 利用者 サーバ側 利用者
ンの Web ブラウザを有償で販売する.また,コ ンテンツ提供者にはパラレルプラットフォームの 逆サイドに位置する Web サーバ製品を有償で販 売する.売上・利益は基本的に Web サーバ製品 から得る,という方針である.
Cusumano and Yoffie(1998)によれば,実際 にはブラウザの売上の割合が予想よりも多かった が(「最初の 1 年間で 8,000 万ドルの売り上げを 得ることができた.その内容は 60%がブラウザ ー,40%がサーバに関連したソフトからであっ た」邦訳 p.23),1998 年にはサーバ製品の売上 が 66%を占めていたことから(ネットスケープ の 1998 年度年次報告書より),設立当初の「サー バ側の製品で収益を得る」という方針は貫かれて いたものと考えられる. 3.マイクロソフトとネットスケープ間の競争 ここでは,Web サーバ+ブラウザ市場を巡っ てマイクロソフトとネットスケープの間で行われ た競争の経緯を時点を区切った上で,時系列に見 ていく. ネットスケープが Web ブラウザである NN と Web サーバ・ソフトウェア群をリリースしたの は,1994 年 12 月であった.対するマイクロソフ トが IE をリリースして市場に参入したのは, 1995 年 8 月である.したがって,1995 年前半ま ではネットスケープが市場に存在する唯一ともい える主要なプレイヤーであった. この時点(時点⑴)においては,クライアント OS のシェアは Windows もしくは MS-DOS が 90%を占めていたものの,その上で動作する NN のシェアは 60%であった.この時点ではネット スケープにとって競合と呼べる商用ソフトは存在 せず,順調にシェアを伸ばしていける状況であっ た. マイクロソフトのインターネットへの取り組み が遅れたことは,よく知られた事実である.ビ ル・ゲイツは,実際にインターネットを使ってみ たのは,Mosaic が年初にリリースされてから, かなりたった 1993 年の 10 月だったと語ってい る7).マイクロソフトの企業としてのインターネ ットへの取り組みは,さらに遅れた.当時マイク ロソフトの社員であり,後にリアルネットワーク スを創業するロブ・グレイザーは,その理由を Windows95 の開発に集中していたためだと述べ ている8). マイクソフトは,NN1.0 のリリースから遅れ る こ と 8 カ 月 後 の 1995 年 8 月 に Windows95 Plus!の一部として,IE1.0 を発売した.これがネ ットスケープとの第一次ブラウザ戦争の始まりと なった. マイクロソフトは,そのわずか 3 カ月後の同年 11 月に IE のバージョン 2.0 をリリースしてい る.これはマイクロソフトがインターネット,ひ いては IE に全力を注ぎ始めていたことを物語る 出来事といえるであろう.そして同年 12 月 7 日 に開催された»Internet Strategy Day¼におい て,ビル・ゲイツはマイクロソフトのインターネ ットへの注力を発表した.それは,マイクロソフ
トの大きな方向転換を示すものであった9).
時点⑵は,この IE の最初のリリース(1995 年 8 月)から翌年(1996 年)2 月の Web サーバ製 品 IIS(Internet Information Service)のリリー スまでの時期である.この時期,マイクロソフト はパラレルプラットフォームの両サイドに製品を 提供しておらず,片側の Web ブラウザのみを提 供していた.したがって,この時期はパラレルプ ラットフォームの製品構成を採用していたネット スケープと,片側 PF(ブラウザ)での戦いを挑 むマイクロソフトとの競争が行われた期間だった といえる. この時期,マイクロソフトの Windows はすで に,クライアント OS においてシェア 9 割を獲得 していた.そのクライアント OS の支配力を,製 品バンドルという形で,片側 PF としてのブラウ ザーソフトの包囲戦略に利用しようとしたのであ る. しかしながら,IE は 1996 年 2 月時点で 3%の シェアしか獲得できなかった.このシェアはクラ イアント OS としての Windows の支配力を使っ た包囲効果によって獲得されたものと考えられる が,その効果は必ずしも大きくはなかったと考え
られるのである.この点は,一般に IE の逆転が クライアント OS としての Windows とのバンド ルによるものと思われていることの事実による否 定である. マイクロソフトは Web サーバ IIS を 1996 年 2 月にリリースし,同年 8 月には IE のバージョン 3.0 をリリースした.さらに 12 月には IIS バー ジョン 3.0 を送り出した.対するネットスケープ は 8 月に NN のバージョン 3.0 をリリースして いる.マイクロソフトが IIS をリリースした時点 (1996 年 2 月)から,これらの出来事が起こった 1996 年の後半までを時点⑶として扱うことがで きる. IIS のリリースによって,ネットスケープと同 様,マイクロソフトもパラレルプラットフォーム の両サイドに製品を提供することになった. さらに資料を詳細に調べると,IE がバージョ ン 3.0 において,機能面で NN に肩を並べたと いう評価を得ていたことが,当時の複数の記事か ら分かる.IE は機能面で NN に追いついた 3.0 以降,大きくシェアを伸ばすことになった. 時点⑶における市場の状況を図示すると以下の ようになる.この図は,すでに提示したパラレル プラットフォーム市場の図に,それぞれの製品や 規格の発売開始(リリース)もしくは発表年,製 品に関しては分析時点の市場シェアを判明した範 囲で追記したものである. 1996 年 8 月時点における,IE の市場シェアは 8%であった(Zona Research 調べ).時点⑵より もシェアは高くなっているが,対する NN も 73%から 83%(Zona Research 調べ)とシェア を拡大しており,IE が追い上げているとは言い 難い状態であった. Web サーバのシェアにおいても,当時ネット スケープは高いシェアを誇っており,80%という データが存在している10). 1997 年 10 月,マイクロソフトは IE4.0 をリリ ースし,対するネットスケープは 6 月に NN4.0 をリリースした.時点⑷【1997 年後半】では, 時点⑶と比較して IE のシェアが大幅に増加して おり,1997 年 9 月における市場シェアは IE が 36%,NN が 62% と な っ た(Zona Research 調 べ).これは,IE がバージョン 3.0 で NN に製品 機能の面で追いついたことに加えて,パラレルプ ラットフォームの両サイドの OS に IIS と IE を それぞれ無償でバンドルで提供するという,両側 での包囲戦略が効き始めたのではないかと考えら れる. なお,Web サーバについては詳細なシェア数 値が分からないものの,この時点ではネットスケ 図 3 時点⑶ 1996 年 8 月の状況 Contents Provider Client-Side Consumer 無償ハンドル 無償ハンドル
JIS Web ServerNetscape NavigatorNetscape WWW Contents WWW Contents 1994 年 80% 1994 年 83%* 1996 年 HTML (Specification) 1993 年 6 月 HTML1.0 Server OS(Win NT) Server OS(Unix)
Internet Explorer
1995 年 8%*
Client OS(PC Windows) 1996 年 86% 1993 年 凡例:発売開始年分析時点の市場シェア(空欄個所は不明). 注:* 1996 年 8 月のシェア(Zona Reserch).
ープ製品が市場シェアにおいて首位であったとの データが存在している11). 時点⑸は,1998 年後半である.IE の市場シェ アは増加を続け,1998 年 7 月には 45%となって いる.対する NN は 54%(ともに Zona Research 調べ)であり,その差がわずか 9%までに縮小し ている. この後 1998 年末頃になって,ついに IE は市 場シェアで NN を抜き去り,その後もシェアの 拡大を続けた.それ以来現時点まで,IE はシェ ア首位の座を守り続けている. 以上,適宜 NN と IE の市場シェアに関するデ ータを含めて議論してきたが,本稿の分析期間で ある 1994 年 12 月に始まり 1998 年 12 月に到るま での市場シェアの推移をまとめたのが図 4 であ る. NN は,1994 年の 12 月にリリースされて以 来,順調にシェアを伸ばした.それがピークに達 したのは,1996 年の 4 月である.NN のシェア はそれ以来下降を続け,とりわけ 1996 年 8 月の IE バージョン 3.0 リリース以降,急速にシェア を落としたことが分かる. 一方,IE は 1995 年 8 月にバージョン 1.0 をリ リースした.その後徐々にシェアを伸ばしたもの の,1996 年 8 月にバージョン 3.0 をリリースす るまでは 10%に満たない低いシェアにとどまっ ていた.そのシェアが急速に伸びたのは,NN に 機能面で追いついたといわれている IE3.0 のリ リース後であることが,この図から読み取れる. IE はその後もシェアの拡大を続け,一方の NN のシェアは下降を続けた.その結果,シェア の順位が入れ替わったのは,1998 年末頃である. そして,逆転後もその差は開き続けていった. 4.マイクロソフトが採用した戦略 本事例において,マイクロソフトが採用した戦 略は,次のようにまとめられる. 【第一段階(1995 年 8 月から 1996 年 2 月まで)】 片側 PF 包囲 マイクロソフトが 1995 年 8 月に最初の IE を リリースした時点では,ブラウザ側の製品(IE) のみの提供にとどまっており,パラレルプラット フォームの片側のみ,つまり片側 PF での競争が 行われた.この時点のマイクロソフトの戦略は, クライアント側の OS(Windows)の支配力を利 用した隣接階層セット戦略(包囲戦略)であっ 図 4 Web ブラウザの市場シェア推移 % 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 Netscape Dec −95 Sep −95 Jun −95 Mar −95 Dec −96 Sep −96 Jun −96 Mar −96 Dec −97 Sep− 97 Jun− 97 Mar −97 Dec −98 Sep −98 Jun− 98 Mar −98 Dec −99 Sep −99 Jun −99 Mar −99 Dec −94 IE 96 年 8 月 IE3.0 ▽ 96 年 2 月 IIS1.0 ▽ 97 年 10 月 IE4.0 ▽
出所:以下文献内のデータより筆者作成.Wikipedia, Usage share of web browsers〈http://en.wikipedia.org/wiki/ Usage_share_of_web_browsers〉(retrieved Jan. 07, 2010), Find Articles at BNET, Internet Access: Zona Releases New Browser Census; Microsoft and Netscape Usage Nearing Parity | Edge: Work-Group Computing Report〈http: //findarticles.com/p/articles/mi_m0WUB/is_1998_July_20/ai_50170292/〉(retrieved Jan. 07, 2010); Cusumano and Yoffie (1999).
た.マイクロソフトの攻撃対象であったネットス ケープはパラレルプラットフォームの両方に製品 を提供していたため,パラレルプラットフォーム の両製品を提供するネットスケープ 対 片側 PF のマイクロソフトという図式の競合関係であっ た. 「隣 接 階 層 セ ッ ト 戦 略」と は,Eisenmann, Parker and Van Alstyne(2007)が提示した「PF 包 囲(platform envelopment)戦 略」を 拡 張 し て,加藤(2009)や根来・加藤(2010)が提起し た概念である.隣接階層セット戦略とは,競争状 態にある階層の自社製品と隣接する上位層あるい は下位層の自社製品とをバンドルさせることによ って,自社製品を入手しやすくしたり,競争階層 製品についてコスト割れ価格設定を行ったり,バ ンドルによるセット製品化で機能向上を実現した りして,自社製品のシェア拡大を図る戦略を指 す.ただし,Eisenmann, Parker and Van Alstyne (2007)が,隣接する上位層の製品とのバンドル, つまり「下の階層からの包囲」(例:OS へのア プリケーションソフトのバンドル)しか論じてい ないのに対して,理論的には「上の階層からの」 包囲戦略も存在するため(例えば,魅力あるアプ リケーションソフトが動きやすい OS の提供), 「PF 包囲戦略」ではなく「隣接階層セット戦略」 と呼ぶ. 【第二段階(1996 年 2 月,IIS リリース以降)】両 側 PF 包囲 1996 年 2 月にサーバ側の製品(IIS)をリリー スすることによって,マイクロソフトもパラレル プラットフォームの両側に製品を提供することに なった.これにより,競合構造は,パラレルプラ ットフォームの両 PF で製品を提供するネットス ケープと,同じく両 PF 製品を提供するマイクロ ソフトという図式に変化した.ただし,マイクロ ソフトは,両側の OS の提供者であるのに対し て,ネットスケープには OS 製品はなかった.マ イクロソフトは,これらの OS に IIS あるいは IE をバンドルすることで,これらの製品のシェアを 高めようとした. マイクロソフトは,第一段階(片側 PF 包囲) と第二段階(両側 PF 包囲)という隣接階層セッ ト戦略を経て,ネットスケープのシェアを奪って いったと考えられる.結果的には,パラレルプラ ットフォームの両側に対して製品を提供した後に シェアの向上率が高くなっており,両側の PF で 包囲戦略をとった第二段階の戦略が,片側 PF 包 囲という第一段階の戦略よりも,より有効であっ たと判断できる. Ⅳ .パラレルプラットフォーム市場の第二の 事例:電子書籍ストア+閲覧ハードの市 場12) 以下では,電子書籍市場の構造から生まれる戦 略課題について,米 Amazon.com,Inc.(以降,ア マゾンと表記)の Kindle の事例を通じて考える. 1.アマゾンのコンテンツ配信ビジネスの経緯 アマゾンは,1995 年 7 月 16 日,インターネッ ト経由にて注文を受けた書籍の発送を行うビジネ スモデルであるオンラインブックストアの Web ページをオープンした.その後,業務拡大,設備 投資強化を続けるものの,2002 年まで赤字続き の経営であった.2000 年 6 月の長期借入金は 21 億米ドルを超過していた.また,2000 年 10 月-12 月期においては過去最大の 5.45 億米ドルの最 終赤字を計上した.しかしながら,2001 年 7 月 に AOL 社から 1 億米ドルの出資を受け,2002 年 10 月-12 月期に初めて 500 万米ドルの最終黒字を 達成した.黒字達成以降は,業績を順調に伸ば し,2005 年にようやく累積赤字を解消し,売上 成長を飛躍的に伸ばして世界最大のオンラインブ ックストアとなった. 2007 年 11 月 19 日,アマゾンは電子書籍端末 「Kindle」を発売した.Kindle は紙のように見え て目が疲れない E-link 社の電子ペーパー技術を 使い,200 冊以上の書籍を保存できる電子書籍端 末である.初代 Kindle の販売価格は 399 ドルで あった.本体内部に 256MB のメモリを内蔵し, 書籍はここに格納される.また,最大 4GB まで
の SD メモリーカードが利用可能である.Kindle は携帯電話網への無線通信機能を内蔵しているた め,PC など他の機器を必要としないことが特徴 である(この特徴は技術的ブレークスルーによる ものではなくビジネスモデルの設計問題と考えら れる).「Amazon Whispernet」という無線シス テムによって,米国内の携帯電話インフラのネッ トワークを使って電子書籍を購入可能である (2010 年 1 月現在では,米 Sprint 社の携帯電話ネ ットワークが使われている).なお,Kindle Store のサイトから購入した書籍は,ユーザ毎に購売履 歴や読書履歴が記録されているため,再ダウンロ ードや過去の読書記録(どこまで読んだかやメモ 等)の利用が,別のタイミングや他の Kindle で も可能である. 最大の特徴は,携帯電話網への無線通信機能を 使用するにもかかわらず,ユーザは携帯電話会社 に毎月の料金を支払う必要がなく,アマゾン負担 になっていることである.これは,Kindle のコ ンテンツである白黒の電子書籍データのデータ容 量が小さいこと,通信インフラ利用料金の価格低 下があったことを前提にしたビジネスモデルが採 用されたということである.Kindle Store では Kindle 専用の「AZW」という専用フォーマット が使われている.「AZW」は Kindle 向けに著作 権保護機能(DRM)を有する書籍コンテンツを 閲覧13)するために開発されたファイルフォーマッ ト で あ る た め,「AZW」を Kindle(あ る い は Kindle Reader)以外では閲覧することができな い. 「どんな本でも 60 秒で買える」という Kindle のキャッチフレーズは特に米国の書店環境に適応 しているといえる.具体的には,米国では書店の 大型チェーン化が進み,独立系の書店の数が減少 したことによって,近所の書店へ行くのに 1 時間 以上もかかる町も多い.また新聞業界の衰退も著 しく,新聞の宅配が止まった町も多いという.こ のような状況の下,アマゾンの Kindle は躍進を 果たしたといわれている.その結果,米国におけ る電子書籍の市場も発展することになった.全米 出版社協会によれば,2008 年のインターネット 経由でダウンロードされる電子書籍コンテンツの 売上は約 1 億 1,300 万米ドルで,前年比で 68%の 伸びを示している.2009 年 2 月,アマゾンは後 継モデルである「Amazon Kindle 2」を米国で発 売した.価格は 359 ドルである.大きさや重みは 増したものの,薄さはほぼ半分となった.初期モ デルとの機能的な違いは,ページ切り替え速度が 20%速くなったことである.また,2009 年 10 月,アマゾンは日本を含む世界 100 カ国以上で Kindle を販売すると発表した.価格は 279 米ド ルである. ここで,Kindle の開発から販売までのバリュ ーチェーンを説明する.アマゾンは Kindle を開 発・設 計 す る た め に,米 国 シ リ コ ン バ レ ー に Lab126 社という子会社を 2004 年に設立してい る.アップルや Palm 社出身の技術者を数百人抱 えているという.社名の「126」は,アルファベ ットの A を示す「1」と z を示す「26」を組み合 わせたものとされている.また,基幹部品につ い て は,ア プ リ ケ ー シ ョ ン・プ ロ セ ッ サ を Freescale Semiconductor 社から,無線通信モジ ュールを Novatel Wireless 社から,電子ペーパ ー・モジュールを E Ink 社および凸版印刷社から の 部 品 を モ ジ ュ ー ル 化 し た Prime View International(PVI)社から調達しているという. 製 造 は,台 湾 の 大 手 EMS で あ る Foxconn International Holdings 社 の 関 連 会 社 で あ る EnSky 社が担っている,という.販売はアマゾ ンの Web サイトでの直販のみで,小売店では販 売していない. 米アマゾンが 2009 年 10 月 22 日に発表した第 3 四半期(7 月〜9 月期)決算は,売上高は前年 同期比 28%増の 54 億 5,000 万ドル,純利益は同 68%増の 1 億 9,900 万ドルとなった.その理由 は,電子書籍リーダー「Kindle」の売上が絶好調 であることによると発表14)されている.ジェフ・ ベゾス CEO は発表文で「Kindle は台数ベース・ 売上高ベースの両方で,Amazon.com 全体のナ ンバー 1 商品になった」と述べている.Kindle 向け電子書籍は,2010 年 7 月にハードカバー書 籍の「売上」を超え,2010 年第 4 四半期(10 月
〜12 月期)にはペーパーバックの売上を超えた. また,2011 年 4 月には販売「部数」でも印刷版 書籍(ハードカバーおよびペーパーバック)を上 回った.同年 4 月には,印刷版書籍の平均 100 冊 に対して Kindle 版が 105 冊の割合で売れたとい う15).なお,2010 年末までの Kindle(ハード) の累積販売台数は 800 万台を超え,Kindle Store にてダウンロード可能なコンテンツ数は,Kindle (ハード)の発売時点の約 9 万アイテムから. 2010 年末には約 73 万アイテムまで拡大してお り,また新刊小説のベストセラーの 8 割程度は Kindle Store でも入手可能になったとされる. 上記の状況に鑑みれば,アマゾンの電子書籍ビ ジネスは,現時点において成功していると考えら れる. 2.パラレル PF 事業モデルに基づく分析 図 5 に本稿のパラレル PF 事業モデルに基づく コンテンツ配信ビジネス一般の概念図を示す.本 事例では,コンテンツ PF は Kindle Store であ り.製品 PF は Kindle(ハード)となる. 本事例において,アマゾンが採用した戦略は, 次のようにまとめられる. ⑴ コンテンツの価格と数の工夫 ニューヨークタイムズ紙の 2010 年 3 月の分 析16)によるハードカバー書籍と電子書籍の価格お よびコスト構造の比較に基づくと,同じ本のハー ドカバーの平均価格 26 米ドルに対して,電子書 籍の平均価格は 13 米ドルである. この分析では,電子書籍のコスト構造は販売価 格の 30%ほどがコミッションとしてコンテンツ PF 提供者に支払われる仕組みとなっている.ま た,出版社は著者へのロイヤルティやデジタル処 理費用,マーケティング費用を差引いて,5 米ド ルほどの利益を得ていることがわかる.なお,こ の分析によればハードカバー書籍でも電子書籍で も出版社が得る利益は大きな差がないことが分か る. 初代 Kindle(2007 年 11 月発売)の価格は 399 米ドルであった.後継機の Kindle 2(2009 年 2 月発売)は,250 米ドル〜400 米ドル,Kindl 3 (2010 年 8 月発売)は 139 米ドル〜189 米ドルの 価格となっている.なお,米 iSuppli 社の調査17) によれば,Kindle 2 の部品コストは米 176.83 ド ル(バッテリーを含めると 185.49 ドル)との試 算であり,その原価率は約 51%であるとの分析 である.この試算を前提にすると,アマゾンは Kindle のハードの売上から利益を得ていると考 えられる. 以上から,アマゾンの電子書籍ビジネスにおい ては,コンテンツ側もハード側も利益を得るモデ ルになっていると判断できる.ただし,以下に述 べる通信コストは,コンテンツの販売がかなり順 調でなければ,回収できないと考えられる. ⑵ PF 間インターフェースの工夫 Kindle(ハード)が画期的であったのは,無線 図 5 コンテンツ配信ビジネスの PF 事業モデルの概念図 コンテンツ事業者 コンテンツ = コンテンツ ユーザー PF 間インターフェース (結合プラットフォーム) 製品 プラットフォーム (ハード) コンテンツ プラットフォーム
通信機能を有するコンテンツ再生製品だったこと である.それ以前の電子書籍端末は,パソコンに ダウンロードしたコンテンツを電子書籍端末に移 転する方式をとっていた.この場合,パソコンが なければ使用できず,また外出先などですぐに欲 しいコンテンツを入手することができなかった. この「不便」を Kindle は解決したのである.さ らに,この無線通信機能は,無料であった. た だ し,コ ン テ ン ツ PF で あ る ア マ ゾ ン の Kindle Store(コンテンツ PF)は,アマゾンの 電子書籍端末である Kindle(製品 PF)のみが接 続可能であることである.つまり,「クローズ ド・インターフェース」となっている. ⑶ ハードのオープン化 Kindle の事例で興味深いのは,Kindle(ハー ド)については,上記したように,クローズド・ インターフェース構造を取りながら,同時に,パ ソコンや iPad やスマートフォンなどでも Kindle Store で購入したコンテンツを閲覧できる自社ソ フトウェアを無料配布していることである.これ は,Kindle(ハード)がなくても,Kindle Store で購入したコンテンツを見られることを意味す る.このことは,本質的な事業構造としては,ア マ ゾ ン に お い て,Kindle(ハ ー ド)は Kindle Store の利用を促すための道具であることを示唆 する. Ⅴ .まとめ:パラレルプラットフォーム市場 特有の戦略課題 本稿の目的は,ツーサイドプラットフォームの セットからなるパラレルプラットフォーム市場特 有の戦略課題の提起である.上記の事例等から抽 出されるポイントを以下に示す. ⑴ ネットワーク効果のマネジメント プレイヤー・グループが相互に作用する現象 は,ツーサイドプラットフォーム理論で,「サイ ド間ネットワーク効果」と呼ばれる.パラレルプ ラットフォームは,両側の PF が補完製品を通じ てつながる構造を持っており,コンテンツ側の補 完製品のシェアは,閲覧側の補完製品のシェアも 意味する.この場合,補完製品のシェア(普及) を利用した戦略は,閲覧側のサイド間ネットワー ク効果の利用であると同時に,PF 間のネットワ ーク効果の利用でもある. マイクロソフトの IE は,HTML に対応するこ とですでに公開されている Web ページを読める ようになっていた.これは,サーバ側のエコシス テムを意識したクライアント側の戦略をとってい ることを意味する.これに対して,Kindle の事 例では,自社の提供するコンテンツは,自社ハー ド(あるいは自社ソフト)でしか読めないので, 読めるコンテンツの数を最初に十分確保すること が重要であった. なお,IE の「隣接階層セット戦略」は,階層 間のネットワーク効果の利用である.OS(下位 階層)の利用者の数をアプリケーションソフト (上位階層)の利用増につなげる戦略だからであ る. 一方,同一プレイヤー・グループ内で働くネッ トワーク効果は,ツーサイドプラットフォームの 理論で,「サイド内ネットワーク効果」と呼ばれ る.Kindle が,2010 年 5 月のソフトウェアバー ジョンアップから,「読んでいる本から文章を引 用して Facebook や Twitter に投稿できる機能」 を提供しているのは,この「サイド内ネットワー ク効果」の促進を狙ったものである.「サイド内 ネットワーク効果」の利用は,プラットフォーム 製品一般に見られる戦略課題である. ⑵ 利益格差のマネジメント ツーサイドプラットフォームやパラレルプラッ トフォームにおいては,両方のサイドや両方のプ ラットフォームをトータルに考えた価格設定(プ ライシング)を行うことができる(Rochet and Tirole, 2003;Eisenmann, Parker and Van Alstyne, 2006).具体的には,片方の製品やサー ビスをコスト割れや無料で提供することができ る.このようなサイド間や PF 間の価格設定のア ンバランスを意図的に行うことを,「利益格差の
マネジメント」と呼ぶ. Web ブラウザの事例では,ネットスケープは, サーバ側のソフトウェアで利益を得ることを前提 に,クライアント側ソフトウェアを無料(試用) で配布した.後発のマイクロソフトは,サーバ側 の OS に前者のソフトウェアを無料バンドルする ことで,ネットスケープの収益モデルを破壊し た.
iPod の普及は,自社サービス(iTunes Music Store)での,それまでの価格を大幅に安くした 1 曲 1 ドルでのコンテンツ提供なしには成功しな かった.最初の段階では,ハード(iPod=製品 PF)で利益を出し,コンテンツ PF 側(iTunes Music Store)では利益がでない価格設定であっ た.これは,パラレルプラットフォームの両方に 製品・サービスを提供することによって初めてで きる戦略である. Kindle の場合,通信料を課さないモデルとし たことが成功した大きな理由である(ハードに付 加される通信コストを,コンテンツ側が支援して いる利益格差のマネジメントだと解釈できる). ⑶ マルチホーミングのマネジメント PF 製品・サービスを並行的に複数使うことが ある.複数のサービスを使うことによって生まれ る追加費用を「マルチホーミングコスト(multi-homing cost)」と呼ぶ.追加ハードの購入コスト や複数サービスを使うことによる手間などが,マ ルチホーミングコストの例である. OS へのバンドルは,試用確率を高める.そし て,一度試用した利用者は,複数のソフトウェア を使うマルチホーミングコストを考えて最初に使 ったソフトウェアを使い続けることが多い. 上記したように,Kindle のハードがなくても, PC や iPad やスマートフォンにおいても,アマ ゾンが提供するソフトがあれば Kindle Store で入 手した電子書籍を見ることができる.これは,消 費者が Kindle ハードだけではなく(あるいはそ れがなくても),PC や iPad やスマートフォンを 利用している人が,同じコンテンツを利用できる ようにすることで,収益源である電子書籍の販売 増をはかる戦略である.これは Kindle Reader (閲覧ソフト)によって,ハードのマルチホーミ ングが可能になっているということである. ⑷ セットとしての PF 製品のマネジメント パラレルプラットフォームの両側の製品を提供 することで,PF 間のネットワーク効果を促進 し,パラレルプラットフォームの魅力を増大でき る.また,両方の製品・サービスを提供すること で,両方をセットで利用することによって初めて 実現できる機能を実装できる.
Kindle の場合,仮に Kindle Store の成功が長 期戦略でありハードは自社提供しないことにした 場合(ハードに関する完全オープン戦略)は,成 功しなかったと考えられる.電子書籍普及のため には,従来と異なるビジネスモデルを持ったハー ドも同時に同社が提供する必要があったのであ る. iPad の場合,iPhone のアプリを原則としてす べて使えることは,その出だしにおいて大きな意 味があった.このような製品づくりが出来るの は,iPhone に お い て ア プ リ の 販 売(Apple Store)と製品(ハード)の提供の両方を自社で コントロールしていたからこそである. Web ブラウザの事例では,マイクロソフトは, 上記したように,1996 年 2 月にサーバ側の製品 (IIS)をリリースすることによって,パラレルプ ラットフォームの両方に製品を提供することにな った.そして,マイクロソフトは,両側の OS の 提供者であるのに対して,ネットスケープは両プ ラットフォームの OS 製品を持っていなかったこ とが不利に働いた.上記したマイクロソフトの 「両側 PF 包囲」戦略とは,階層間ネットワーク の利用とパラレルプラットフォームの両側の製品 を提供する戦略のあわせ技と位置づけられる. ⑸ 結合 PF のマネジメント パラレルプラットフォームの両方に製品・サー ビスを提供する場合,結合 PF は独自形式とする ことが収益確保のためには有利である.しかし, チャレンジャー企業の場合は,先発企業の結合
PF と同一形式を採れない場合はネットワーク効 果上不利になる.それが先発企業のクローズドイ ンターフェイス戦略によって拒否された場合は, 自社独自の別のクローズド規格よりもオープンな 規格を採用することでコンテンツの不足を補うの が定石となるが,その結果として利幅が小さくな ることが多い. マイクロソフトの IE の場合,HTML というオ ープン規格を採用していることが普及の前提であ った.コンテンツ規格である HTML は,サーバ 側エコシステムとクライアント側エコシステムを つなぐインタフェース仕様である. iPod や Kindle は,パラレルプラットフォーム の両方に製品・サービスを提供して,その両方を 結ぶファイル形式は独自様式としている.この結 果,iTunes Music Store で入手した音楽は iPod でしか聞けないし,Kindle Store で入手した電子 書籍は Kindle(あるいは Kindel Reader)でしか 見られない.このことは,先発企業あるいはトッ プ企業にとっては収益面で有利である. 上記の観点の内,⑷と⑸の観点が,パラレルプ ラットフォーム構造特有の論点となる.⑴〜⑶ は,ツーサイドプラットフォーム論で指摘されて いる論点のパラレルプラットフォーム論からの拡 張と位置づけられる. 今後の研究課題として,上記の論点間の関係の 深耕と,3 つ以上のプラットフォームの連結問題 がある.ツーサイドプラットフォームの議論がマ ルチサイドプラットフォームの議論に拡張可能性 を持つように,本稿での議論の本質は,2 つの PF だけではなく,複数の PF の連結を理論的視 野とするが,複数 PF の連結問題については,事 例研究を踏まえて,さらに考察が必要である.例 えば,3 つ以上の PF 間のマネジメント問題とし て,サーバ側とクライアント側に加えて,デバイ ス間(例:モバイル機器と PC)の連結問題が重 要な問題となってきている. 注 1) 本稿が考えるエコシステムは,PF 事業者と補完製品事業 者からなる製品群のシステムのことである(論者によって は,消費者もエコシステムの構成要素とする議論もある). 2) パラレルプラットフォーム市場は,根来・釜池(2010a) において最初に提起された概念である. 3) PF には,メディア機能と基盤機能がある.メディア機能 とは,「PF 上で異なるユーザを出会わせる,プレイヤー間 のコミュニケーションや取引を媒介するなどの機能」のこ とであり,機能基盤とは「利用者が PF とあわせて補完製 品を使えるように.補完製品に対して PF が提供する機 能」のことである.ツーサイドプラットフォームの理論 は,前者を PF 機能として意識したものである.パラレル プラットフォーム論は,両者を意識したものである. 4) 本章の記述は,釜池・根来(2010a)の Web サーバ+ブラ ウザ市場に関する記述の要約である. 5) サーバ側ソフトとクライアント側ソフトで市場ができあが っている場合は,「結合 PF」はファイル形式等の技術的仕 様を意味する.電子書籍や音楽ダウンロード市場の場合 は,通信ネットワークが「結合 PF」となり,コンテンツ 提供側の PF と再生側の PF(ハードウェア)をつないで いる. 6) ネットスケープは,このマイクロソフトとのブラウザ競争 (第一次ブラウザ戦争と呼ばれている)に敗れたのち, 1998 年 11 月にインターネット接続サービス会社 AOL (America Online)に買収された.ネットスケープはその 後も Web ブラウザのリリースを続けたが,2008 年 2 月に リリースされたバージョン 9 を最後として開発が打ち切ら れ,ネットスケープという名の Web ブラウザの歴史は終 わることになる(その財産は,Mozilla プロジェクトに引 き継がれた).なお,この経過は本稿では対象としないが, 最近は携帯電話やタブレット端末の発展にともなう他のブ ラウザのシェア拡大という第二次ブラウザ戦争が進行中で ある. 7) Wallace(1997),邦訳 p.17 参照. 8) Wallace(1997),邦訳 pp.158-159 参照. 9) Cusumano and Yoffie(1998),邦訳 p.24 参照. 10) Cusumano and Yoffie(1998),邦訳 p.58 参照. 11) Cusumano and Yoffie(1998),邦訳 p.26 参照. 12) 本章の記述の多くは,清水(2010)によっている. 13) コンテンツ保護機能(DRM)を有さないコンテンツの閲
覧であれば,米 MobiPocket 社の電子書籍フォーマットに も対応している.
14) 出 所:http: //www. itmedia. co. jp/news/articles/0910/23/ news041.html
15) 出 所:http: //www. itmedia. co. jp/news/articles/1105/20/ news028.html
16) 出 所:http: //www. nytimes. com/2010/03/01/business/ media/01ebooks.html?partner = rss&emc = rss
17) 出 所:http: //www. itmedia. co. jp/news/articles/0904/23/ news036.html
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