第1 章
1.1 金融とは
理論と フ ァ イ ナ ン ス 理論
金融理論も フ ァ イ ナ ン ス 理論も ど ち ら も 資金の 貸借を 分析対象と す る 。 金融論は 中央銀行の 役割を は じ め と す る マ ク ロ 経済学の 分野も 含む 。 ま た 金融機関お よ び 金融市場も 分析対象と す る 。 一 方、 フ ァ イ ナ ン ス 理論は 金融商品の 価格の 決定、 金融市場に お け る 取引方法の 詳細を 対象と し て い る 。直接金融と 間接金融
最終的な貸し手 家計 ⟶ 資金の 仲介 ⟶ 最終的な借り手 企業 間接金融 銀行 企業が 倒産し て も 、 銀行預金の 支払い は 行わ れ る 。 銀行が リ ス ク を 負担す る 。 直接金融 証券会社 債務不履行の リ ス ク を 負わ な い 。 「 債務不履行」 と は 約束通り の 支払い が で き な い こ と 。 倒産は 、 借金の 返済期限に 約束通り の 支払 い が で き な い と い う 形を と る 。 投資家 資金を 運用し よ う と す る も の を こ の よ う に 総称す る こ と に す る 。 預金者は 除く 。 投資家の種類:(1) 個人(2)機関投資家。保険、年金基金など企業の形体のもの。1 . 2
資金調達の 方法
直接金融の 場合 ( 1 ) 債券を 発行す る ( 2 ) 株式を 新た に 発行す る 間接金融の 場合: 銀行借り 入れ1.3 証券市場
▪取引所取引と 相対取引 証券市場は 証券取引所と 店頭市場か ら な る 。 証券取引所は 、 東京、 大阪、 名古屋、 札幌、 福岡に あ る 。 取引所で は 、 多数の 投資家が 参加し て 定 型化さ れ た 商品が 取引さ れ て い る 。 店頭市場で は 証券会社と 顧客が 相対で 取引を 行う 。 個別に 価格 や 数量な ど の 条件を 交渉す る 。 ▪取引所で 株や 債券が 取引き さ れ る よ う に な る こ と を 、 上場と 呼ぶ 。 東京証券取引所の 商品は 株 式、 国債や 社債な ど 。 ▪東証で は 企業規模な ど の 基準に 基づ い て 4 つ の 市場に 分か れ て い る 。 一部、 二部、 ジ ャ ス ダ ッ ク 、 マ ザ ー ズ と 分か れ て い る 。 ▫▫シ ャ ー プ は 第一部上場で あ っ た が 、 債務超過の た め2016年8月に 第二部に 変更と な っ た 。 ▫投資家保護の た め に 審査に 合格し た 企業の 株の み が 、 取引所で 取引さ れ る 。 あ る い は 上場企業は 企 業業績を 全て の 株主に 公平な 形で 公開す る 義務を 負う 。 ▫企業の 株が す べ て 上場さ れ て い る と は 限ら な い 。 新日本フ ェ リ ー 株式会社は 上場さ れ て い な い 。 非 上場と 呼ぶ 。 北海道中央バ ス は 札幌証券取引所の み に 上場さ れ て い る 。 エ ノ テ カ と い う ワ イ ン の 会 社は 東証二部に 上場さ れ て い た が 、2011年に 既存の 株主が 株を 買い 占め て 非上場に な っ た 。 ▪店頭市場 証券会社な ど が 顧客の 相手方と な り 、 一対一で 価格、 数量を 決め て 取引を 行う こ と を 店 頭取引と 呼ぶ 。 そ の よ う な 方法に よ る 市場を 店頭市場と 呼ぶ 。 債券の 場合に は 、 ほ と ん ど の 取引は 店頭市場で 行わ れ て い る 。 投資家と 債券デ ィ ー ラ ー 、 債券デ ィ ー ラ ー 間で 個別に 取引が 行わ れ て い る 。 a. 債券市場 新発債 既発債 b. 株式市場 株式市場に お け る 実際の 取引方法 ( 1 ) 板寄せ 方式 取引開始時点の み 。 朝9時の 直前。 ( 2 ) ザ ラ バ 方式 売り 買い の 注文が 市場に 逐次提出さ れ 、 条件が 満た さ れ る 注文が 出会う 度に 順 次取引が 成立し て ゆ く 。 指値注文と 成行注文 指値と は 自分で 指定し た 価格の こ と 。 成行注文で は 、 注文し た 時点に お け る 最も 自分に 有利な 価格 で 取引を 行う 。 「 成り 行き で1000株買っ て く れ 。 」 と 証券会社に 注文を 出す と 、 そ の 時点に お け る も っ と も 低い 売値で 買い が 行わ れ る 。 こ こ で の 売値と は 誰か の 指値。1000株買い き れ な け れ ば 次に 低い 指値で 取引を 行う 。 株式市場で は ほ と ん ど す べ て の 場合に 、 既存の 株式が 売買さ れ て い る 。
新たに上場された企業の株式は「新規公開株」あるいは IPO (initial publicoffering)株と呼ばれ
る 。 抽選に 当た っ た 投資家が 公開直前に 「 公開価格」 で 入手す る 。 公開日に 売却す る と 利益が 出る 場合が 多い 。 株の 追加発行は 増資と 呼ば れ る 。 c. 債権の証券化 例: 住宅ロ ー ン を 裏付け と し て 、 証券を 発行す る 。 も と も と の 貸し 手で あ る 銀行に 代わ り 、 証券の 購入者が 最終的な 貸し 手と な る 。 住宅ロ ー ン の 月々の 返済が 、 証券の 利息や 元本の 支払い に 代わ る。リーマンショックの原因となった。
第 章
2
貨幣の時間価値
2.1 キャッシュフロー
キャッシュ・インフロー と↑ キャッシュ・アウトフロー↓ と表すものとする。 注意: 教科書と 矢印の 向き が 異な る 。例 債券購入 _________↑ 元本受け取り ↓
2.1.1 確定的なキャッシュフロー
キャッシュフローには確定的な場合と不確定の場合が考えられる。例 国債 国の借用証書。国は国債 の保有者に約束通りの支払いをしてくれる。。国債の満期に額面を支払うことは 「償還」 と呼ばれ る 。 a.割引国債の キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー 購入日に 当該国債の 価格を 支払い 、 満期に 「 額面」 を 受け 取る 。 満期ま で 途中の 利息の 支払い は 無 い 。 購入価格と 額面の 差額が 利息に 相当す る 。 b.利付国債の キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー 購入日に 価格を 支払う 。 半年に1回、 利息の 支払い を 受け 取り 、 満期日に は 、 最後の 利息と 「 額 面」 を 受け 取る 。 通常半年に1回支払わ れ る 利息を ク ー ポ ン と 呼ぶ 。 クーポンレート:1 年当たりの利息の利子率 1回のクーポン= 0.5xクーポンレートx額面 p .18問2 .12.1.2 不確定的なキャッシュフロー
(1)債務不履行の可能性があれば、キャッシュフローは不確実。 (2)スワップ契約とよばれるものでは、契約通りに支払いが実行された場合でも、キャッシュフ ローは不確実。 金利ス ワ ッ プ 契約 半年ごとに固定金利による利息と変動金利による利息を交換する契約。満期は 年、5 10 年など。利息 額=想定元本x 半年あ た り の 利子率 固定金利: 満期ま で 利子率が 変わ ら な い 。 変動金利:満期までの期間、6 か月ごとに、その時点の満期 か月利子率を適用することを繰り返6 す 。 満期6か 月の 利子率は 毎日変化す る の で 、 ス ワ ッ プ に 適用さ れ る 変動金利は6か 月ご と に 変化す る 。 実際の 支払い 額は 、 差額を 受払す る 。 変動金利が ス ワ ッ プ 契約の 固定金利よ り も 高く な れ ば 、 変動 金利を支払う側が、(半年当たりの変動金利―半年当たりの固定金利) x想定元本を支払う。用語:LIBOR London Interbank Offered Rateロンドンにおける銀行間の資金の出し手レート。この
利子率で 貸し て や る 、 預け て や る と い う 利子率。 銀行間の み な ら ず 、 企業に 対す る 貸付で も 変動金 利の指標として用いられる。実際の契約では、LIBOR +アルファのような形で用いられる。注 金利 も利子率も意味は同じ。しかしスワップの場合、金利が使われる。2.2 割引債価格と利子率 用語に つ い て の 注意事項 金融の 分野で は 次の よ う な 点に あ ら か じ め 知っ て お か な い と 混乱し て し ま う 。 本に よ っ て 、 用語の 使い 方が 異な る こ と が あ る 。 こ の 授業で は 、 世界中で 用い ら れ て い る 理論モ デ ル 中心の 教科書に 従
う。Financial Economics, 2 nd ed.Bodie, Merton, CleetonおよびFundamentals of Futures and Options Markets, 8 th ed.JohnHull。
(1)用語が統一されていないことがある。例:利子率、金利、クーポンレート、表面利率 (2)同じ言葉が、似ているが厳密には違う意味で用いられることがある。例:割引、割引率、利回 り、(オプションの) ペイオフ (3)理論モデルで用いる概念と金融機関で用いられる概念が似ているようで異なることがあ る 。 例: 債券の 最終利回り
複利計算
2.2.1 単利と複利
年率表示の 利子率に よ る 複利計算
利子率の 表示方法の 決ま り 利息の 計算方法は 当事者の 間で ど の よ う に で も 決め ら れ る 。 標準と な る 方法が 必要で あ る 。 基本的 な 形は 、1年間を 利息の 計算期間と 定め て 、 元本に 利子率を か け て 利息額を 定め る も の で あ る 。 次の 1年間も 継続す る な ら ば 、 元本に 利息を 加え て 、 新た な 元本と 考え る 。1年単位で 複利計算が 行わ れ る 。 複利計算と は 元本に 利息を 加え て 、 新た な 元本額と す る こ と で あ る 。 し か し な が ら 、 預金で も 借入金で も 、 利息の 計算は1年に1回と は 限ら な い 。 こ の 場合は 次の よ う な ル ー ル で 複利計算が 行わ れ る 。 利子率は 年率表示と す る 。 こ の 年率表示の 利子率は 複利計算の 際に は 次の よ う に 用い ら れ る 。 1 年に n 回複利計算が 行わ れ る な ら ば 、1回の 利息の 計算期間に 適用す る 利子率は r n とする。 複利計算の 再説 利子率は原則年率で表示する。利息の計算は 年に 回とは限らない。契約による。 a. 1 1 6 か月に 回の1 場合には、6 か月目にそれまでの期間の利息を計算に元本に加える。元本+ か月の利息がこれから6 6か 月間の 新た な 元本と な る 。 b.1年未満の期間に複利計算を行う場合には、次のような形で利息計算の単位期間あたりの利子率を 決定する。年率表示の利子率をr とする。6 か月複利なら、6 か月あたり r/2とする。1 年に複利計算 をn回行うなら、1 期あたりの利子率は r/nとする。6 か月定期預金の利子率は年率1 .2 %と表示さ れていると、6 か月あたりの利子率は0 .6 %となる。例:r =0.012。6か月複利の定期預金に 年間1 預けたとすると、元本は(1 +0.012/2 ^2) 倍となる。c.Annual Percentage Rateと利回り
1年当たりの利子率は英語ではAnnual PercentageRageと呼ばれる。略してAPR 1。 年後に受け取
る 元利合計は 複利計算回数に よ っ て 異な る 。 同じ 利子率で1年間何回か 複利計算を 繰り 返す 結果と し
てどれだけ受け取れるかは利回りあるいは実効利回りと呼ぶ。英語では yieldあるいは Eff(effe
-ctive annualrateの略) と呼ぶ。警告 教科書ではAPRに対応する言葉がない。APR Eff Yieldと や がど れ も 利回り と 表現さ れ て い る 。
6か 月満期の 定期預金な ら ば n は2で あ る 。6か 月の 複利計算を 適用す る 。 利子率が r と 表示さ れ て い れ ば 、1円の 元本は6か 月後に 1 + r 2倍で あ る 。1年後に は (1 + r /2) 2倍である。 か月満期の定期3 預金な ら ば 、3か 月複利を 適用す る 。 複利計算の 回数は4で あ る 。1年後の 元利合計は (1 + r /4)4と な る 。6ヶ 月定期で も3ヶ 月定期で も 、 満期時点で 同じ 条件で 継続し た と す る と 、 複利計算の 結 果、1年後に は 本日の1円の 増加率は 利子率r よ り も 大き く な る 。 こ の よ う な 複利計算の 結果を 反映 し た 増加率で あ る(1 + r /n)n-1を実効年率利回りと呼ぶ。
月複利の 例1
預金ば か り で な く 、 借入金に も 複利計算は 適用さ れ る 。 月2%で1万円を 借り 入れ た と し よ う 。 こ れ は 、 年率表示の 利子率で は24%で あ る 。1か 月後に 元利合計は10,200円で あ る 。 こ れ だ け 支払え ば 、 完済で あ る 。1年間返済し な い で 、 そ の ま ま な ら 、 元利合計は10000×(1 + 0.02)12= 12,682.4円 で あ る 。月複利の 例2
デ パ ー ト の 友の 会の 積み 立て プ ロ グ ラ ム 。1万円支払っ て 本日加入す る 。 本日を 含め て 月に1万円ず つ 支払う と 、1年後に は13万円分の デ パ ー ト の 商品券あ る い は ポ イ ン ト に 交換さ れ る 。 こ れ を 毎月 1万円積み 立て る 方式の 積立定期預金と 考え る と 、 利子率は い く ら で あ ろ う か 。 月複利を 適用す る 。 元本1万円で 月複利を 適用す る 定期預金が12本あ る と 考え る 。 満期ま で の 長さ は 、 最長12か 月か ら 最 短 か月までである。将来価値の合計が1 13万円である。月あたりの利子率を xとすると、この利子率 は 次式を 満た す 。 13 =∑t12=1(1 + x)t Clear[x] NSolve13 == t=1 12 1 + xt ,{x} {{x -2.30311}, {x -2.13687 - 0.630111 }, {x -2.13687 + 0.630111 }, {x -1.68312 - 1.09374 }, {x -1.68312 + 1.09374 }, {x -1.0649 - 1.26924 }, {x -1.0649 + 1.26924 }, {x -0.45154 - 1.11259 }, {x -0.45154 + 1.11259 }, {x -0.0181436 - 0.668899 }, {x -0.0181436 + 0.668899 }, {x 0.0122528}} 月当た り 1.225%で あ る 。 年率表示の 利子率は12倍し て 、14.7%で あ る 。 Mathematica: 計算結果を 再利用す る 方法 解は{x0.0122528}と い う 形で 表示さ れ る 。 こ の 数字を 入力し 直す こ と な く 、12倍し た い 。 つ ま り 12x を 計算し た い 。Clear[x, ans] ans= NSolve13 == t=1 12 1 + xt ,{x}; x= x /. ans[[12]] Print["x=", x] Print"月当たり ", 100 x, "%" Print"年率 ", 100× 12 x , "%" 0.0122528 x=0.0122528 月当たり 1.22528% 年率 14.7034% { 個の解全体}、 ans= 12 ans[[12]] はそのうちの12番目の意味。ここでは{x0.0122528}。 x /. ans[[12]]は{x0.0122528}の中の変数xの値の意味。0.0122528を取り出す。 x= x /. ans[[12]]改めて変数xの値に0.0122528を代入する。 Print[“文字”,変数] “ ”の部分は文字がそのまま表示される。変数の部分は変数の値が表示され る 。 区切り に は コ ン マ を 入れ る 。