主要な研究成果
背 景
原子力発電所の使用済燃料の中間貯蔵施設として、経済的に優れた鉄筋コンクリートを使用したコンクリー
トキャスク貯蔵方式の検討が進められている。同施設は使用済燃料の取扱い上海岸付近に立地する可能性が高
く、しかも、使用済燃料の崩壊熱により、コンクリートが 60 ℃程度の高温となることが予想される。このた
め、高温下の塩害は重要な設計検討要因であるが、既往の鉄筋コンクリート構造物の塩害評価法には温度の影
響が適切に考慮されていない(図 1 参照)。
目 的
コンクリート中の塩化物イオンの拡散性状、および鉄筋腐食の生じる限界塩化物イオン濃度に与える温度の
影響を実験により明らかにし、既往の評価法* 1
を拡張した高温下における塩害評価法を提案する。
主な成果
1.コンクリート中の塩化物イオンの拡散係数に与える温度の影響
温度を変化させた塩化ナトリウム水溶液へのコンクリート試験体の浸漬実験の結果から、温度上昇にとも
ないコンクリート中の塩化物イオンの拡散係数が著しく増大し、塩害の可能性が高まること、高温下でもコ
ンクリートの水セメント比が小さいほど拡散係数は小さいことを明らかにした。これらの結果に基づいて、
温度と水セメント比を変数とする拡散係数評価式を提案した。(図 2 参照)
2.鉄筋腐食の生じる限界塩化物イオン濃度に与える温度の影響
塩化物イオン濃度を変化させた鉄筋コンクリート試験体の高温雰囲気中での鉄筋腐食実験の結果から、鉄
筋腐食の生じる限界塩化物イオン濃度は、常温における値と同程度もしくはわずかに大きな値であり、高温
度が限界塩化物イオン濃度にほとんど影響を与えないことを明らかにした。したがって、設計においては常
温下の腐食発生限界塩化物イオン濃度を用いることで安全側の評価とすることができる。
3.高温下の塩害評価法の提案
既往の評価法を拡張し、提案した温度を変数に含む塩化物イオンの拡散係数評価式、ならびに限界塩化物
イオン濃度を用いて、高温下の塩害評価法を提案した。この方法により、90 ℃までの温度範囲で使用され
る鉄筋コンクリート構造物(水セメント比 40%∼ 60%)の塩害に対する健全性を評価することができる。
(図 3 参照)
なお、本研究は、経済産業省からの受託研究として実施した。
今後の課題
長期的な熱作用の影響、中性化が塩化物イオンの拡散に与える影響等を明らかにし、塩害評価法の高精度化
を図る。
主担当者 地球工学研究所 構造工学領域 上席研究員 松村 卓郎
関連報告書 「コンクリートキャスクの実用化研究─鉄筋コンクリートの塩害評価法の開発─」電力中央
研究所報告: N04032(2005 年 6 月)
42
コンクリートキャスクを対象とした高温下の塩害評価法の提案
* 1 :土木学会 2002 年制定コンクリート標準示方書「施工編」に記載されている方法のこと。
C.エネルギーと環境の調和
43
料
燃
済
用
使
コンクリートキャスク
キャニスタ
貯蔵建屋
高温下の塩害
塩分
熱
熱
塩分を含む
外気
塩分
塩分
料
燃
済
用
使
コンクリートキャスク
キャニスタ
貯蔵建屋
高温下の塩害
塩分
熱
熱
塩分を含む
外気
塩分
塩分
-8
-7
-6
-5
2.5 2.7 2.9 3.1 3.3 3.5
絶対温度の逆数(×10-3
1/K)
log(拡散係数)log(cm
2 /sec)
W/C=60%(評価式)
W/C=50%(評価式)
W/C=40%(評価式)
○W/C=40%(実験値)
△W/C=50%(実験値)
□W/C=60%(実験値)
0.4
0.6
0.8
1.0
1.2
1.4
1.6
45 50 55 60 65 70 75 80 85 90 95 100 105
かぶり(mm)
水セメント比40 %
水セメント比50 %
水セメント比60 %
設計供用期間40年
温度40 ℃
表面濃度1.3kg/ m3
水セメント比を変化させた例
る
じ
生
が
害
塩
い
な
じ
生
が
害
塩
塩害照査値(γ
i
×C
d
/C
lim
)
水セメント比40%
水セメント比50%
水セメント比60%
設計供用期間40年
温度40℃
表面濃度1.3kg/m3
水セメント比を変化させた例
る
じ
生
が
害
塩
0.4
0.6
0.8
1.0
1.2
1.4
1.6
45 50 55 60 65 70 75 80 85 90 95 100 105
かぶり(mm)
温度40 ℃
温度50 ℃
温度60 ℃
設計供用期間40年
水セメント比40%
表面濃度1.3kg/ m3
温度を変化させた例
る
じ
生
が
害
塩
い
な
じ
生
が
害
塩
塩害照査値(γ
i
×C
d
/C
lim
)
温度40℃
温度50℃
温度60℃
設計供用期間40年
水セメント比40%
表面濃度1.3kg/m3
図3 高温下における塩害に対する健全性の評価例
右図 コンクリート表面の塩化物イオン濃度が1.3kg/m3の場合、水セメント比40%のコンクリートを使用すれ
ば、コンクリートの温度が60℃の場合でも、85mmのかぶり(鉄筋の埋込み深さ)があれば、供用期間
40年間の健全性は保証される。
左図 コンクリート表面の塩化物イオン濃度が1.3kg/m3の場合、水セメント比50%のコンクリートを使用すれ
ば、コンクリートの温度が40℃の場合に、75mmのかぶりがあれば、40年間の健全性は保証される。
図1 沿岸立地の中間貯蔵施設に想定される塩害
コンクリートキャスクが屋内に設置される場合でも、
自然空冷式により塩分を含んだ外気に触れるため、
高温下の塩害は重要な設計検討要因となる。
図2 コンクリート中の塩化物イオンの拡散係数
10%塩化ナトリウム水溶液への浸漬実験の結果から、
塩化物イオンの拡散係数の対数値と絶対温度の逆
数の間に線形関係があることを明らかにした。