金平糖成長過程の連続モデル
鈴 木 宏 昌
* アブストラクト邦訳 本論文では金平糖の生成過程について研究される。離散モデルから導出される連続モデルを解析 することによって、離散モデルの数値シミュレーションによりえられた金平糖生成過程の性質を数 学的に説明することができる。我々の結果には様々なパラメータに関する依存性を明らかにするこ とができるという優位性もある。Continuous model for growth process of kompeitoh
Hiromasa SUZUKI
Abstract
Making process of kompeitoh is studied. By analyzing the continuous model derived from the dis- crete model, we can explain mathematically the characteristics of the making process for kompeitoh, which were obtained by numerical simulations. Our results also have many advantages to clarify the dependency of various parameters.
キーワード:金平糖、連続モデル 1 はじめに 近頃は金平糖を目にする機会が少なくなったが、それでも知らない人は少ないであろう。日本にお ける金平糖は、17 世紀初頭にポルトガル砂糖菓子として信長に献上されたのが最初であるとされてい る5) 。物理学者の寺田寅彦は、金平糖がなぜあのような形になるかと科学的な観点から興味をもって いる4) 。実際、弟子の福島に金平糖の関する研究を行わせている。村井・中田の両氏は、金平糖の生 成に関して数理モデルを作り、数値シミュレーションの結果からその成長の過程を説明した1),2) 。酒 井・早川は結晶成長の観点からモデルリングを行っている3) 。 本小論の目的は、村井・中田による現象論的モデル方程式を再考察し、それを連続モデルに移行す ることによって金平糖の成長過程を数理的に説明することである。このため、まず村井・中田により 提案されたモデル方程式について振り返る。 金平糖の作り方はおおよそ次のとおりである5) 。少し傾いた、ゆっくり回転する巨大な平底の鍋が あり、それは 55 度程度に加熱されている。その中に糖蜜を振りかけると熱のために乾いて砂糖の粒と なる。そこに新たに糖蜜を振りかけると、先にできた粒に糖蜜が付着して乾く。この操作を繰り返す ことで角をもった砂糖粒、すなわち金平糖ができる。 村井・中田では金平糖を単位円 1 上に分布する糖蜜粒の数分布で表した。具体的には、 1 を 個 に等分割した弧を とし、単位時間ステップごとに、以下の規則にしたがって 0 の糖蜜粒が場所 に分配されると考えた。今、第 ステップ時に場所 に付着している糖蜜粒の量を ( )で表すこ * 滋賀大学教育学部
とにすると、 時点での 1 上の糖蜜粒の総和は Nn= m i=1 Si(n), n = 0, 1, · · · で与えられる。 (0)は初期値として与えなければならないことに注意する。彼らは ステップ時に 糖蜜粒の分布が定まったとき、 + 1 ステップ時に糖蜜粒が区間 に分配される確率 ( )を (1.1) pi(n) = 1 Nn 1− w 2 Si−1(n) + wSi(n) + 1− w 2 Si+1(n) で定義している。ここで は配分の重みを表すパラメータで、 1 3< w ≤ 1 である。以上の準備のもとで、第 ステップから第 + 1 ステップへの糖蜜粒の変化を (1.2) Si(n + 1) = Si(n) + cpi(n) と表した。図 1 は(1.1)、(1.2)にもとづいた数値計算の結果である。2) では一様な状態 (0)= 0 を初期値としたとあるが、式(1.1)からわかるように一様な初期値 (0)からは非一様な配分率 (0) は得られず、 ( )は に依らない一様な分布のままである。このため、本小論における数値計算で は初期値 (0)( = 1 2 )として 0 (0) 1 を満たす値をランダムに与えた。図 1 の計 算ではmi=1 (0)= 52 759184 となっている。また図 1 は村井・中田と同様に、 ( ) *( )を描画 したもの、すなわち における ( )の最大値 *( ):= max1 侑 侑 ( )によって正規化された値を プロットしたものであることに注意が必要である。具体的には、座標平面上に 個の点 Si(n) S∗(n)cos iΔθ, Si(n) S∗(n)sin iΔθ , i = 1, 2, · · · , m, Δθ := 2π m をとり、それらを の順に結んでいる。 村井・中田は1),2) において、数値シミュレーションの結果から以下(a)(f)の性質を説明している。 -(a) 初期の角が影響する。 (b) 主なる角は時間が経過しても消えない。 (c) ある(計算ステップ)領域でパラメータ の自己相似性をもつ。すなわちある の範囲で ( ) が次の性質を満たす: ( )= ( ), 0 = 1 2 (d) 元の核が大きすぎる( )と角はできない。糖蜜粒が多すぎる( )と角の成長は速い がしだいに角が消えていく。 (e) 無限にゆくと丸くなる。 (f) 重み数 は にほとんど関係ない。 本論文の構成は以下の通りである。第 2 節で離散モデルから連続モデルを導出し、その解を求める。 第 3 節では第 2 節の結果をもとに、村井・中田の考察結果を数学的に説明する。最後に第 4 節でまと めを行う。
n = 102 n = 103 n = 104 n = 105 n = 106 図 1:村井・中田モデルの数値シミュレーション 2 離散モデルから連続モデルへ 本節ではまず、村井・中田の離散モデルの連続モデル化を行う。得られる連続モデルは解を具体的 に表示することが可能である。 式(1.1)のカッコ内は (2.1)
dSi−1(n) + wSi(n) + dSi+1(n) = d{Si−1(n) − 2Si(n) + Si+1(n)} + (2d + w)Si(n)
= d{Si−1(n) − 2Si(n) + Si+1(n)} + Si(n) と変形できることに注意する。ここで、 :=(1 − ) 2 である。偏微分方程式の差分化という観点 からみれば、これは拡散と反応の組み合わせに由来する項であると解釈することができる。差分方程 式から連続方程式への移行を検討するため、有限区間(− )( 0)上で考え、x = − と x = を同一視する。こうしても本質的に問題はない。空間の分割幅 Δx を Δx = 2 とし、連続の空 間変数 x との関係を x =( − 0 5)Δx( = 1 2 )とする。同様に時間の分割幅をΔ として 時間変数 の関係を = Δ とする。このとき、(1.2)は次のように書き換えられる: (2.2) Δt cΔx· Si(n + 1) − Si(n) Δt = 1 NnΔx dΔx2Si−1(n) − 2Si(n) + Si−1(n) Δx2 + Si(n)
連続モデルでは、糖蜜粒の和(糖蜜量) は糖蜜量を連続化した関数 ( x)の積分 N (t) = L −Lu(t, x)dx を用いて表すことになるが、その際 Δx 㲔 ( ), = Δ なる関係が成り立つことに注意しよう。(2.2)において差分を微分(導関数)に置き換え、新たに 2 つのパラメータτ 0 と 0 を導入して、次の連続変数モデル方程式を得る。 (2.3) ⎧ ⎪ ⎪ ⎪ ⎪ ⎨ ⎪ ⎪ ⎪ ⎪ ⎩ τ ut= 1 N (t)(Duxx+ u), t > 0, −L < x < L, N (t) = L −Lu(t, x)dx, ただし、( x)は時刻 、場所 x における糖蜜量であり、初期条件は (0 x)= (x) 0、境界条0 件は周期境界条件とする。また、離散モデルから連続モデルへ移行したことを考慮に入れると、 は 0 1 なる条件を満たすものを考えるのが自然である。 (2.3)は線形放物型の微分方程式であるから、フーリエの方法によって解くことができる。実際、次 の定理が成り立つことがわかる。 定理(2.3)の解は次で与えられる: (2.4) u(t, x) = a0 2 1 τ n0t + 1 λ0 + ∞ k=1 1 τ n0t + 1 λk akcoskπx L + bksin kπx L ただし (2.5) ak= 1 L L −Lu0(x) cos kπx L dx, bk= 1 L L −Lu0(x) sin kπx L dx, λk= 1− D kπ L 2 , k = 0, 1, · · · , n0= L −Lu0(x)dx > 0. 証明(2.3)の第 1 式を x について − から まで積分することによって τd dtN (t) = 1 が得られることから、 ( )は N (t) = 1 τt + n0, n0:= N (0) = L −Lu0(x)dx > 0 と表されることがわかる。(2.3)の第 1 式は線形方程式であるから、変数分離の方法によって (2.6) u(t, x) = α(t)β(x)
の形で解を求めることができる。α(0)= 1 として一般性を失わない。(2.6)を(2.3)の第 1 式に代 入して整理すると τ N (t)α(t)β(x) = α(t)(Dβ(x) + β(x)) となることから、 τ N (t)α(t) α(t) = Dβ(x) + β(x) β(x) = λ とおく。 このとき α( )に関しては 1 α dα dt = λ t + τ n0 が成り立たなければならない。α( )は λ に依存することに注意しておく。α(0)= 1 に注意して積 分すると
log|α(t)| − log |α(0)| = λ(log |t + τn0| − log |τn0|)
log|α| = λ log 1 τ n0t + 1 これより α(t) = 1 τ n0t + 1 λ を得る。 一方 β(x)に関する方程式は (2.7) Dβ+ (1− λ)β = 0 となる。(2.7)が周期解をもつためには λ = 1 かつ β(x)は定数関数、または λ が 1− λ D = kπ L 2 , k = 1, 2, · · · を満たし、かつ β(x)は coskπx L , sin kπx L , k = 1, 2, · · · の線形結合でなければならない。 = 0 のとき 0 (x)= (0 x)= β(x) であるから、β(x)は (x)をフーリエ展開したものでなければならない。0 以上により、(2.3)の解は(2.4),(2.5)で与えられることがわかる。□ 次節ではこの解の表現を用いて村井・中田が説明した性質(a)-(f)を数学的に説明する。
3 連続モデルによる金平糖の成長過程の特徴づけ はじめに、λ ≦ 1 であることに注意しよう。また(2.4)から、λ 0 を満たすモードしか成長し ない、すなわち (3.1) k < L π√D を満たす有限個のモードのみが成長し、その他は減衰することがわかる。解の表示(2.4)からわかる ように、各モードの成長・減衰のオーダーは (λ )( → ∞)である。以下、村井・中田が考察した 各性質を、連続モデルの観点から説明する。 (a)初期の角が影響する。 (2.4)から各モードの増減は初期値 (0)から決まるフーリエモードに依存することがわかる。す なわち初期の角が影響しているといえる。 (b)主なる角は時間が経過しても消えない。 主なる角とは時間が経過するにつれ成長する(減衰しない)モードのことであるとすれば、時間が 経過しても消えることはない。 (c)ある(計算ステップ)領域で自己相似性をもつ。 解がフーリエ級数で与えられているので、各モードについて時間依存性を調べる。そのため時間の 関数 ( )を fk(t) = 1 τ n0t + 1 λk k = 0, 1, · · · とする。十分大きな 0 に対しては近似的に fk(at) = 1 τ n0at + 1 λk = aλk 1 τ n0t + 1 a λk ≈ aλk 1 τ n0t + 1 λk = aλkfk(t) が成り立つ。これは村井・中田が示した自己相似性に相当する関係式といえる。ただし、連続モデル の自己相似性は各モードに対するものであって、各点 における値 に対するものでないことに注意 が必要である。 (d) 元の核が大きすぎる( )と角はできない。糖蜜粒が多すぎる( )と角の成長は速い がしだいに角が消えていく。 金平糖の形をリスケールした形で捉えていることに注意が必要である。主たる角は成長している が、 最も成長が速い空間一様モードを基準にして他の成長モードを相対的に見ると、角が成長してい るように見えない。また、 が大きいことは時定数 τ 0 が小さいことに対応しており、このことは 時間変化が速いことを意味している。解の表示でみれば、 の係数が大きくなることに対応する。 (e)無限にゆくと丸くなる。 ( x)の第 1 項は線形的に増大、第 2 項の和のうち増大する項は有限個、後ろの増大オーダーは 第 1 項よりは遅いことに注意する。(3.1)を満たす最大の自然数 を とすると、(x), , , τ , 0 0 に依存して決まる定数 0 0 が存在して
(3.2) a0 2 1 τ n0t + 1 ≤ u(t, x) ≤ a0 2 1 τ n0t + 1 + K k=1 1 τ n0t + 1 λk akcoskπx L + bksin kπx L + C0 が成り立つ。(3.2)から x に関して一様に lim t→∞ u(t, x) 1 τ n0t + 1 = a0 2 となることがわかる。これは → ∞ のとき、金平糖の外形が半径a20 1 τ n0t + 1 の円に近づくことを 意味している。 (f)重み数 は にほとんど関係ない。 先に(c)で示したように、連続モデルの λ が離散モデルにおける に対応していた。離散モデル と連続モデルで自己相似性の捉え方が異なるため、この性質については単純には比較できない。(2.5) からわかるように、λ は 、すなわち に依存している。 4 おわりに 村井・中田による金平糖の離散モデル方程式を連続モデルに移行し、それによって金平糖の成長過 程を数学的に説明することができた。連続モデルへの移行を考える過程で、村井・中田が導入した糖 蜜 の分配規則を一様化と非一様化の相互作用によると捉えなおしたことが考察の伴であった。すなわ ち、 糖蜜の付着が均一になされる効果と、突出しているところほど糖蜜が付着しやすく角が成長する、 と いう二つの作用の影響によって金平糖が形成されると解釈できた。ここで考察した二つのモデル方 程式はいずれも現象論的に導出されたものであり、それらの定量的な考察にはほとんど意味がないこ とに注意が必要である。3) では実際に金平糖生成の実験を行い、結晶成長の観点からモデル化を試み ている。そこでは外力項をともなう蔵本・シバシンスキー方程式がモデルとして挙げられているが、 外 力項の記述は未解決である。金平糖の生成・成長過程は未だ説明できていないことが多い。 参考文献
1 ) N.Murai and T.Nakata, , Am. J. Phys. 56(5),(1988),
pp.459-462.
2 ) 中田友一,金平糖の数理モデル,オペレーションズ・リサーチ:経営の科学 40(3),(1995),pp.165-169.
3 ) I.Sakai and Y.Hayakawa, , J. Phys. Soc. Jpn. 75(2006)104802.
4 ) 寺田寅彦,寺田寅彦随筆集,岩波書店(1947).