(1994) は中部山岳域にて,広域海風により積乱雲の発 達がもたらされること,大和ほか (2011) は,海風に よって高温域が東京都心から内陸へ移動すること,さら に木幡 (2011) は,東京都東部における大気汚染物質と 海風の移動との関連性を明らかにした。このように,海 風は我々の生活環境に密接な現象であるといえる。 しかし,海風の水平スケールは一般的に数10km程 度,鉛直スケールは数100m∼1km程度であることか ら,気象庁高層気象台,気象官署およびAMeDASで詳 細な海風前線の挙動をとらえることは困難である。これ に対し,千葉ほか (1995) は高知県においてヘリコプ ターを用いた多高度水平飛行観測,工藤・加藤 (2014) は相模川流域において複数地点で気象観測を行い,詳細 な海風の進入や発達,構造を明らかにした。 Ⅰ.はじめに 海風循環は四方を海に囲まれた日本列島の各地でみら れる。例えば千葉ほか (1993) は高知県において,山塊 の熱的環境場や一般風が,海風の進入状況に影響をもた らすこと,栗田ほか (1988) は関東平野の広域海風と中 部山塊で発生する熱的低気圧との複合作用で,関東地方 規模の風の大循環が発生すること,森ほか (1994) は, 濃尾平野における広域海風の出現と気圧傾度との関連性 について明らかにした。これらの研究から,海風はそれ ぞれの地域において,内陸の熱的環境や総観場の影響と いった要因で,固有の特性をもつことがわかった。一方 で海風のもたらす影響として,集中豪雨や人口排熱の輸 送,そして大気汚染物質の拡散が指摘されている。木村
佐々木 博三
*・加藤 央之
**In this study, we investigated the tendency of the ground meteorological field on the sea breeze day in the Miyazaki plain using the data obtained from the JMA meteorological office and AMeDAS data for the past 26 years, nationwide syn-thetic radar GPV data for the past 11 years, and original meteorological observation data obtained in 2015 and 2016. Moreover, we performed principal component analysis using 850hPa geopotential height data from the JRA-55 reanalysis data to clarify the upper meteorological field on the sea breeze day and investigated its relevance to the ground meteoro-logical field. The sea breeze developed in the Miyazaki plain is found to be the extended sea breeze that is combined with the local wind circulation developed near the Kyushu Mountains. Further we found the relation between water vapor transport owing to the development of the extended sea breeze and occurrence of cumulonimbus clouds. It may be that the difference in the precipitation distribution was controled by the upper wind system. In addition, it was also confirmed that the sea breeze arrives the Kobayashi basin from Hyuga-nada with the southerly wind direction at Kobayashi station during daytime.
Keywords: Miyazaki plain, Kobayashi basin, sea breeze, local wind, precipitation
宮崎県南部地方の夏季静穏日における海風の特性
Characteristics of Sea Breeze in the Southern Region of Miyazaki Prefecture on a Calm Day in Summer
Hiromi SASAKI
*and Hisashi KATO
** (Accepted November 30, 2017)* Graduate School of Integrated Basic Sciences, Nihon University: 3-25-40
Sakurajosui Setagaya-ku, Tokyo, 156-8850 Japan
** Department of Earth and Environmental Sciences, College of Humanities
and Sciences, Nihon University: 3-25-40, Sakurajosui, Setagaya-ku, Tokyo, 156-8550, Japan
* 日本大学大学院総合基礎科学研究科:
〒156-8550 東京都世田谷区桜上水3-25-40
** 日本大学文理学部地球科学科:
本研究では,夏季静穏日を対象に海陸風の研究がほと んどなされていない,宮崎平野,小林盆地を中心とした 地域において,地上気象場と上空気象場の過去26年間 のデータを用いた統計解析に加えて気象観測を行い,海 風日の気象場の傾向や海風の特性,影響を明らかにし た。 Ⅱ.研究の概要 Ⅱ−1.使用データと解析手法 本研究では,解析期間を1991年から2016年の26年間 (806日) とし,太平洋高気圧に覆われることで,海陸風 の発生条件となる好天静穏日が期待できる8月を対象 に,海風日の地上気象場と上空気象場の特性を明らかに した。九州地域における海風発生日については,吉田・ 鵜野 (2006) でも夏季の出現の多いことが言及されてい る。 Ⅱ−1−1.使用データ 地上気象場の解析には,宮崎県南部地方の気象庁気象 官署およびAMeDAS 9地点の,降水,気温,風向・風 速,日照時間の時別値を用いた (図 1)。さらに,2006∼ 2016年の11年間においては,気象庁 1kmメッシュ全国 合成レーダーエコー強度GPVデータの06∼09UTCを使 用した解析を行った。 上空の気象場の解析にはJRA-55再解析データを用い た。対象領域は図2 に示すように,北緯25°∼35°,東経 127.5°∼137.5°で, 水 平 解 像 度 は 1.25°×1.25°で あ り, 850hPa高度場の06UTCのデータを使用した。 Ⅱ−1−2.解析方法 は じ め に, 気 象 官 署 お よ びAMeDASデータを用い て,宮崎平野における海風日を抽出し,地上気象場の特 性を明らかにした。 また,海風日における上空気象場の傾向を明らかにす るために,850hPa高度場データの地域平均偏差に対し て,加藤ほか (2013) を参考に,主成分分析を行った。 本研究では内陸への海風の発達や降水などの影響と, 上空気象場との関連性について時間軸を考慮するため に,06UTCのデータを活用した解析を行った。 Ⅱ−2.気象観測 また本研究では,宮崎平野内の気象官署,AMeDAS のみではとらえられない詳細な海風の進入過程や,挙動 図1 研究対象域(左図赤枠)と解析に使用した気象官署およびAMeDAS(右図) 黒丸は雨量のみ観測 図2 上空気象場の解析対象領域
し,自記温度計を用いて海風到達時の温度変化をとらえ た。 Ⅱ−2−2.バックグラウンドデータ 気象観測期間におけるバックグラウンド気象特性を把 握するために,気象庁気象官署およびAMeDASデータ のほか,地上天気図,高層天気図,気象衛星画像,ウィ ンドプロファイラ,海面水温度データを使用した。 Ⅱ−3.日向灘の海面温度 8月における宮崎平野沖合の日向灘の海面温度は,気 象庁発表の平年値 (1981年から2010) でおよそ28℃であ り,解析期間においてはおよそ27∼29℃の変動幅をも つ。また,海面温度の日較差は非常に小さいため,1日 を通してほぼ一定であると仮定し,本研究では8月の宮 崎平野沖の海面水温度を28℃とする。 を明らかにするために,以下に示す気象観測を行った。 Ⅱ−2−1.観測地域,期間および方法 気象観測は2015年と2016年の 8月を対象とし宮崎県 南部地方複数地点で,2 期に分けて実施した (図 3)。観 測期間の1 期は2015年の 8月1日から10日の10日間,2 期は2016年の 8月2日から 7日の 6日間である。 1 期の観測地点は,海風の進入過程がとらえられるよ うに,日向灘沿岸から九州山地東域付近にかけて,宮崎 地方気象台を含め海岸線と垂直となる大淀川・本庄川流 域周辺にA・B・Cの 3 地点設けた。A からC地点間の距 離は約20kmである。 2 期の観測地点は,宮崎平野以西の小林盆地への海風 の進入がとらえられるように,宮崎地方気象台から小林 AMeDAS付近にかけて,a・b (1 期目の Bと同地点)・ c・dの4地点を設けた。aからd地点間の距離は約40km である。 本 研 究 で 使 用 し た 気 象 観 測 測 器 はOnset社HOBO ウェザーステーション (図 4) であり,気温,風向・風 速データを1 分間隔で測定した。観測にあたっては,海 風進入に伴い気温,風向・風速の詳細な変化をとらえる ために,観測機器の設置場所は,周囲の環境に注意を 払って選定した。1 期,2 期のほとんどの地点におい て,ウェザーステーションを周辺に障害物となる高い建 物のない施設の屋上に設置したが,2 期のcに関して は,施設敷地内の比較的風通しの良い地上に設置した。 ウェザーステーションの風速の精度は,公証0.2 m/sで ある。 また本研究では,ウェザーステーションを用いた観測 と併せて,観測領域内複数地点の小学校の百葉箱を借用 図3 観測地点(白)と宮崎・小林(黒) 白のA∼Cは 1 期 (2015年),a∼dは 2 期 (2016年) 図4 観測で使用したHOBOウェザーステーション
海風日と全解析対象期間を比較するために,図5 の気 温データとそれぞれの地点における8月の時刻別平均気 温との偏差 (海風日―対象期間) を図 6 に示す。3 地点 すべてにおいて夜間は負偏差,日中は正偏差であること がわかる。しかし,日中の正偏差移行後において,偏差 の上昇の停滞時刻は高鍋で9 時,宮崎で10時,西都で 11時と差異がみられる。これらの傾向は,海風の到達 に伴う冷却効果の違いであることが示唆される。 Ⅲ−2−2.風系場の特徴 宮崎平野内3 地点 (宮崎・高鍋・西都) と,小林にお ける海風日の時刻別風向頻度を表2 に示す。日中の卓越 風向は,海岸線からおよそ5kmに位置する宮崎と,お よそ10kmに位置する西都においては 9∼10時に出現 し,およそ1kmと最も海岸線付近に位置する高鍋で は,8∼9時に出現している。これらの時刻は,前述の 温度場の傾向で述べた平均気温偏差の上昇の停滞する時 間帯とほぼ一致していることから,それぞれの地点にお いて温度場,風系場双方において海風の影響をうける時 間帯であることを示すことができる。 また高鍋では,日中の卓越風向が時計回りに遷移して Ⅲ.結果と考察 Ⅲ−1.海風日の定義と頻度 本研究では宮崎平野内の3 地点 (高鍋・西都・宮崎) を用いて,宮崎平野における海風日の条件を定めた。ま ず,海風風向の遷移,日向灘との海岸線の走向を考慮し た上で,表1 のように基準風向を定め,次のような条件 を加えた。①すべての地点で12∼15時に基準風向を連 続して観測。②すべての地点で日照時間が6 時間以上。 ③すべての地点で00∼12時の降水量 00 mm。また,低 気圧等の総観規模擾乱を除き,一般風の弱い日を抽出す るために,④鹿児島高層気象台の09時と21時における 850hPa高度場の風速が 10m/s未満である。さらに条件 ①から④と併せて,海風発生前に陸風や安定層が発生し ていること,そして海風への遷移が明瞭であることを考 慮するために,⑤すべての地点において04∼06時に基 準風向でないことを加えた。 上記の①から⑤の条件より統計解析対象期間中の海風 総日数は147日であり,平均して 1ヶ月のうち 5∼6日 となる。 Ⅲ−2.海風日における地上気象場の傾向 今回抽出した147日の海風日について,宮崎平野と内 陸の小林盆地に位置する小林を対象とし,観測の結果と 併せて,気象場の特性を検討した。 Ⅲ−2−1.温度場の特徴 高鍋,西都,宮崎における海風日の気温の時間変化を 図5 に示す。3 地点とも赤線の海面温度より夜間は低 く,日中は高いことから,本研究で抽出された海風日 は,海陸風循環の発生条件を満たしていることがわか る。もっとも沿岸に近い高鍋では,9 時以降の昇温が鈍 く,海風の影響を早く受けていることを示している。一 方,最も内陸に位置する西都においては,気温の頭打ち 傾向は小さく,より高温であることから,海風の到達に よる冷却効果が小さいことが示唆される。工藤・加藤 (2014) でも相模湾から進入する海風についてこの傾向 を指摘しており,宮崎平野においても,内陸への海風進 入と同時に,冷却効果が弱化している可能性が推測され る。 表1 各地点の基準風向 地点 基準風向(16方位) 高鍋 NE∼S 西都 ENE∼SSE 宮崎 NE∼SE 図5 海風日における宮崎平野内3 地点の時刻別平均気温と 海面温度 (赤線:28℃) 図6 海風日と解析対象期間との時刻別平均気温偏差
表2 海風日 (147日) の時刻別風向頻度分布
に谷風が発生し,13時頃には海風と結合した可能性が 考えられる。この日の宮崎平野における地上風の様子を 図9 に示す。9 時において,海風風向 (海から陸へ向か う風向)の出現は,宮崎平野南部 (赤江,青島) と北部 (高鍋,西都) で早く,中部 (宮崎,A∼C) で遅いこと がわかる。Cでとらえられたような局地的な熱循環は, 九州山地が迫る宮崎平野北部や,鰐塚山地の迫る宮崎平 野南部南においても,山塊方面を指す風向がみられるこ とから,発生が示唆され,この循環との結合が両地域に おいて海風風向出現時刻を早める要因となったと考えら れる。しかし中部においては平地が東西方向に広く,西 方面には小林・都城盆地へと低地帯が続いているため に,夜間の安定層の発達により陸風の影響が卓越し,日 中の海風の進入を妨げると思われる。しかし,海風の進 入が始まると,南あるいは北の地域と同様に九州山地東 側で発生する熱的局地循環との結合で内陸にかけて進入 速度は大きくなり,宮崎平野と九州山地との間での広域 海風循環となることが示唆される。特にCでの海風到達 後の15時における南部の風向が,九州山地方面を指し ており,その影響を現しているものと考えられる。 (2) 小林盆地 2期の気象観測では,宮崎平野の西に位置する小林盆 地への海風の進入をとらえることができた。2016年 8月 4日の観測結果 (図10) においては,小林で 13時30分頃 いるが,その他の地点ではこの傾向がみられない。浅井 (1991) でも書かれているように,海陸風は北半球にて コリオリ力の影響により,時計回りの循環となることで 知られている。高鍋においてはその影響により,ローカ ルな海風循環となっていることが示唆される。一方宮 崎,西都の卓越風向については,内陸の熱的な影響や, 広域海風の発生により,その傾向がほとんどみられない と考えられる。 海風日の小林において,日中の卓越風向はESEからS の出現が多くみられ,局地風の主風向であると推測され るが,夜間だけでなく日中にもWからNWの出現もみ られることから,局地風が発生していない事例も含まれ ている可能性が考えられる。 Ⅲ−2−3.気象観測による海風の特徴 (1) 宮崎平野 1 期に行った気象観測では,観測期間中8事例の海風 をとらえた。図7 は気象観測によってとらえられた海風 前線をまとめたものである。海風前線の進入速度は,内 陸にかけて大きい傾向がみられるが,ばらつきが大き い。2015年 8月2日の気象観測結果 (図 8) によると, 温度,風向・風速の変化により推測された海風前線到達 時刻 (赤線) 以前に,もっとも内陸に位置する Cにおい て,風向・風速の変化がみられる (黄線)。この結果か ら,九州山地東側付近のCにおいて,海風が到達する前 図7 2015年の気象観測海風事例日における海風前線進入時刻の等値線 縦軸は海岸線からの直線距離,右軸数字 (1∼8) は自記温度計の設置箇所を示す.ただし,海風前線の通過を確認できた事例のみ記載.
よそ10km/hに対し,c から小林間約 20kmにおいては, およそ20km/hで通過している。これらの結果から,九 州山地等の山塊に囲まれたc付近以西の内陸地では,海 に海風の到達が確認された。さらにc,dと小林では, 海風到達前に風速の増加や風向の変化がみられる。海風 の進入速度は宮崎平野域のaからc地点間約20kmでお 図8 2015年8月2日の観測結果 赤:気温,緑:風向,青:風速,赤線:海風通過観測時刻,黄線:谷風観測時刻
いて,図8 と同様に示したものであり,さらに合成レー ダーデータを重ね合わせたものである。小林とさらに西 に位置する加久藤間は標高400m程の丘陵地で隔たれて おり,14時においてここを境に東寄りの気流系と西寄 りの気流系に分かれていることから,広域海風は小林盆 地付近までしか進入していないことが示唆される。また 降水は,九州山地東部では,この時刻にはすでにみら れ,15時以降にはより西方面の内陸でも山岳域を中心 風到達前に熱的局地風循環が発達しており,これらの循 環系が海風の進入や挙動に影響を及ぼすことが考えられ る。1 期の観測で得られた海風前線進入速度の増加につ いても,改めて内陸の熱的環境場が影響したことが説明 できる。 しかし海風到達後,d地点と小林において14時頃から 気温の急低下がみられる。小林の日照時間は14時以降 に0 となった。図11は海風到達後の地上風の様子につ 図9 2015年8月2日の宮崎平野における地上風の様子 (a) 6 時,(b) 9 時,(c) 12時,(d) 15時,赤ベクトルは観測値,青ベクトルは気象官署・AMeDASの観測値 (0.5m/s以上).
に,出現している。海風と局地風の結合に伴う広域海風 により,日向灘からの水蒸気輸送が九州山地といった内 陸山岳域まで及び,積乱雲が発達すると考えられる。千 葉ほか (2003) は,四国地方において,谷風と海風が結 合した海風が内陸奥深くに吹き込むことにより,山岳域 を中心に雲が広範囲に集積することを述べたが,九州山 地周辺域でも同様に,海風と局地風の結合が,内陸への 水蒸気供給を高め,積乱雲の発生に影響する可能性が示 唆される。さらに,積乱雲の発達により,日射を遮り, 冷気外出流に伴い小林やdといった内陸域で,気温の急 激な低下がもたらされたと考えられる。 Ⅲ−2−4.小林の局地風 気象観測により,小林まで海風が到達することを確認 できたが,本研究ではさらに海風日における小林の気象 場について調べた。Ⅲ−3−2で示した様に,小林の日中 における卓越風向には2 つの型がみられることから,本 研究では改めて海風日の定義のほかに,次の定義を加え た。 小 林S型: 小 林 に お い て12∼15時 に 連 続 し てESE∼ SSWの地上風向を観測(以降S型)。 小林NW型:小林において12∼15時に連続してWSW∼ Nの地上風向を観測(以降NW型)。 小林は南を霧島連山,北を九州山地に囲まれた東西方 向に広がる盆地である。そのため東西双方に卓越風向を 持つ。本研究では日中にESE∼SSWの風向をもつ S型 は,盆地内熱的循環の発生日であると仮定し,NW型に おいては,それらの循環が発生していない一般風の卓越 日とみなす。これらの条件で判別した結果 (図12),海 風日全147日のうち,S型は76日,NW型は23日となっ た。気象観測による海風事例日においては2015年8月9 日 と2016年 8月2日 がS型,2015年 8月4日 がNW型 に 分類された。ここで,図6 と同様に宮崎,小林における S型,NW型事例日と 8月の時刻別平均気温との偏差を 図13に示した。S型は海風日平均と同様の傾向を示す が,NW型に関しては,両地点ともに 1日を通して正偏 差で推移していることがわかる。さらに風速についても 気温と同様に8月の時刻別平均気温との偏差をとって調 べたところ,両地点ともにS型は気温の場合と同じく, 海風日の平均と同様の傾向だが,NW型においては,夜 間を中心に正偏差となっていることがわかる。すなわち NW型はS型に比べ,夜間に安定層や陸風が発達しにく い傾向であることが考えられる。またS型の風速は,16 時に正偏差となっており,この結果と,気象観測によっ て小林への海風の進入の到達が確認されたことを併せる と,S型事例日には,海風の影響を受けている可能性が 図10 図8 に同じ. ただし, 2016年 8月4日の観測結果
7.8%で,累積寄与率は82.3%となることから,解析対 象期間の気象場の変動について,大部分を説明すること ができる。図15に第 1 から第 3 主成分の因子負荷量図 を示した。第1 主成分は南北,第 2 主成分は東西,第 3 主成分は九州南東沖を中心としたシーソー的な変動パ ターンである。 主成分分析によってえられた第1 から第 3 主成分の卓 考えられる。 Ⅲ−3.海風日における上空気象場の特徴 西日本を中心とした850hPa高度場の06UTCについて 地域平均偏差を用いた主成分分析を行い,基本的な特徴 を明らかにした。 第1∼第 3 主成分の寄与率はそれぞれ 49.0%,25.5%, 図11 2016年8月4日における地上風と降水の様子 (a) 14時,(b) 15時,(c) 16時,(d) 17時,赤ベクトルは観測値,青ベクトルは気象官署・AMeDASの観測値 (0.5m/s以上). 図12 解析対象期間における海風日とS型, NW型の出現状況
図13 図6にS型(破線),NW型 (二重線) を加えた時刻別平均気温偏差 (a) 宮崎,(b) 小林 図14 図13と同様の手法で示した時刻別平均風速偏差 (a) 宮崎,(b) 小林 図15 850hPa高度場(15時)の主成分分析の結果 (a) 第 1 主成分∼ (c) 第 3 主成分の因子負荷量散分布図.赤・青は因子負荷量の正負,実線平均高度場を表す.
に分類すると,第1 主成分において差異が現れる。解析 対象領域においてS型は北側に,NW型は南側に高圧部 となる傾向を表す。そこで卓越指数を用いてそれぞれの 事例における15時の850hPa高度場を再現したものを図 17に示す。S型における平均的な 850hPa高度場は,西 日本を中心に高気圧が覆い,特に九州周辺では気圧傾度 の非常に小さい場となっていることがわかる。しかし NW型における平均的な 850hPa高度場においては,高 越指数 (主成分スコア) の散布図を図16に示す。薄赤色 は全解析期間806日,水色は海風日147日,赤色はS型 76日,青色は NW型23日を表している。海風日におい ては第2,第 3 主成分ともに負に分布している傾向がみ られる。この傾向は,九州周辺での高気圧の張り出しを 示しており,本研究で抽出された海風日が,太平洋高気 圧がもたらした好天静穏日であるという説明がつけられ る。さらに主成分空間内において海風日をS型,NW型 図16 850hPa高度場(15時)の卓越指数の散布図 (a) 第 1 主成分―第 2 主成分,(b) 第 1 主成分―第 3 主成分 薄赤は解析対象期間すべて,薄青は海風日,濃赤はS型,濃青はNW型 図17 850hPa (15時) におけるS型, NW型の平均高度場 (a) S型76日,(b) NW型23日,赤青は平均場との偏差,実線は等高度線 (m)
海風日の0.5mm以上の降水確率出現頻度分布である。 なお,レーダーデータは2006年から 2016年を使用して いるため,海風日は72日,S型は40日,NW型は13日 である。海風日において九州山地での降水出現が多くみ られ,S型をみると,特にその傾向が明らかとなってお り,16時以降に九州内陸の宮崎県と熊本県,鹿児島県 境周辺の山岳域といったやや九州西部内陸方面での降水 の出現が多く,宮崎平野とその周辺域でみられないこと から,広域海風と積乱雲の発生との関連性が示される結 果となった。しかしNW型においては,集中した降水が あまりみられないことから,内陸への海風進入が一般風 に妨げられ,積乱雲の発生環境場となりにくい傾向であ ることが考えられる。しかしこれらの解析に用いた事例 数が少ないため,降水の出現傾向をつかむためには,よ り長期的な解析が必要である。 Ⅳ.まとめと今後の課題 夏季静穏日における宮崎県南部地域の海風の特性を明 らかにするために,地上気象場と上空気象場について解 析した。さらに本研究では2 期にわたって気象観測を行 い,日向灘から進入する詳細な海風の進入過程と挙動を 明らかにした。 宮崎平野における海風の進入到達は,北西部に位置す る九州山地や南部に位置する鰐塚山地の影響をうけるた め,その付近では早く,平野中部付近では遅れる傾向が みられた。しかし,平野中央部においても,内陸では熱 的な局地風循環系の影響をうけるために,海風の進入速 度が大きくなる傾向や,到達時刻の差異がみられた。さ らに,それらの熱的な局地風循環と海風が結合し,宮崎 平野と九州山地東側との間で広域海風になることがわ かった。また,宮崎平野の西側内陸に位置する小林盆地 への海風の進入をとらえることができた。 気圧の張り出しが,日本列島南西方面 (南西諸島付近) にみられ,九州付近はS型に比べ気圧傾度が大きく,高 気圧性循環に伴い,北西寄りの一般風となることが推測 される。Ⅲ−3−4でみられた地上気象場の傾向において, NW型でみられた夜間の高温,並びに風速の大きい傾向 は,850hPa高度場の北西寄りの一般風の卓越が影響し ており,特に温度場に関しては,風上となる北西に山塊 が位置することから,フェーン現象の存在も示唆され る。S型は気圧傾度の小さい気象場で,内陸地では陸風 の影響で夜間は低温傾向,日中は海風といった局地的な 循環の発達,広域海風が起こりやすい場となることが考 えられる。NW型の2015年8月3日の観測事例日は,C 地点においては局地的な循環がとらえられず,海風到達 まで西風であった。さらにS型の2015年 8月9日と2016 年8月4日は,宮崎平野観測点において,明け方の気温 が低い傾向にあり,海風の進入が遅れていたことから, 気圧傾度の小さい中で,冷気層や陸風の発達に伴い陸地 の低温化が進み,海風の発生が遅れたと考えられる。 Ⅲ−4.海風日における降水の出現特性 2016年 8月4日の事例では,九州山地等の山岳域を中 心に,宮崎平野以西の内陸方面で積乱雲の発生がみられ たが,2015年 8月2日の事例においても,特徴的な降水 の出現がみられた (図18)。九州山地北域 (宮崎県と大 分県の県境付近) において比較的大きい強雨域が14時に 出現し,その後は宮崎平野東側の九州山地付近へと降水 の南下がみられる。海風は山塊の迫る宮崎平野北部で到 達が早く,宮崎平野中部で遅かったことから,九州山地 と海風の相互作用がこの振舞いに影響していると示唆さ れる。そこで海風日における降水の出現特性を明らかに するために,本研究で定義したS型とNW型についても その特徴を解析した。図19は宮崎県南部地域における 図18 2015年8月2日における降水の様子 (a) 14時,(b) 15時,(c) 16時,(d) 17時
る。また,今回は水平面方向の海風の挙動について明ら かにしたが,より観測事例を増やすことを目的に,地上 気象観測をすることと併せ,海風の鉛直構造を明らかに するために,パイロットバルーン等を用いた気象観測を 行うことも必要であると考えられる。 謝辞 本研究を進めるにあたり,気象観測の場所を提供していた だいた宮崎市,国富町,綾町,小林市の各施設の皆様に深く 御礼申し上げます。また,日本大学文理学部研究員の永野良 紀氏をはじめ多くの方から助言をいただきました。心から感 謝致します。全国合成レーダーGPVデータは京都大学生存 圏研究所が運営する生存圏データベース(http://database. rish.kyoto-u.ac.jp)によって収集・配布されたものです。 本論文は,著者の一人である佐々木博三の平成27年度日 本大学文理学部地球システム科学科の卒業論文に加筆・修正 を行ったものである。 小林盆地において局地風が発生し,海風が進入する事 例では,より内陸方面の山岳地域を中心に積乱雲の発生 がみられ,その要因として,一般風が弱いことで発達し た広域海風による内陸地への水蒸気供給が影響している 可能性が挙げられた。しかし小林盆地で日中西寄りの風 が卓越する事例では,降水の出現割合が比較的少なく, 上空 (850hPa) でも西寄りの風が吹きやすい気象場で あったことから,東寄りを主風向にもつ日向灘からの海 風が,内陸へ十分に進入できない可能性が示された。 これらの結果から,宮崎県に進入する海風は地形効果 や上空気象場の影響をうけることで,発達や挙動が変わ り,降水の発生に影響が出ることがわかった。しかし, 積 乱 雲 の 発 生 環 境 場 に は 大 気 安 定 度 や 水 蒸 気 量, 500hPaや300hPa高度場といったより上層気象場の影響 も大きいため,大気場を3 次元的に解析する必要があ 図19 降水確率分布図 (a) 15時,(b) 16時,(c) 17時,(d) 18時,左から順に海風日すべて,S型,NW型,カラーは確率 (パーセント). ただし解析対象期間は2006年から2016年まで
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