内科合同カンファレンス
南部医療センター
総合内科G 小野宏彰/清水徹/
ガチャ 「はい、南部医療センター救急室です」 「こちら●●消防隊、搬送願いです。34歳女性、 衣類用のハイターを10杯ほど飲んだとのことで す。」 ・・・ハイター?うむむ、ハイターってなんだっけ?
プー・・プー・・プー・・・・・
34歳 女性
【主訴】ハイター誤飲 【現病歴】来院2時間半前に、衣類用のハイターを付属のふたで 10杯ほど飲んだ。その後、同居中の母が水分を摂取させた所、 水と一緒にハイターも嘔吐した。心配になり母が救急隊要請した。 咽頭痛・腹痛が出現。嗄声あり。呼吸苦なし。 「天国に行きたかった」とのこと 【既往歴】 20歳~統合失調症 33歳:飛び降りでL1-2腰椎圧迫骨折Vital :BP140/80mmHg PR78回/分 RR24回/分 BT36.3度 SpO298%(room air)
意識 :清明 HEENT:貧血・黄疸なし。対光反射正(3mm/3mm)。 口腔粘膜・咽頭発赤、びらんなし。嗄声。 前頚部圧痛あり 心音 :整・雑音なし。 胸部 :stridorなし crackle/wheezeなし 腹部 :平坦軟。腸雑音亢進減弱なし。心窩部圧痛あり、 反跳痛なし 四肢 :浮腫なし
身体所見
• さぁ、そんな時、救急室には研修医だけしか いません。あなたならどうします??
中毒というと・・・
催吐? 胃洗浄? 活性炭? 中和剤? 緩下剤?ところで
こんな疑問はありませんか?
『ハイターって
何?』
ハイターは、こすっても落とせない汚れや菌まで強力 に漂白・除菌する、漂白剤ブランドです。
じつは・・・
それならどうしますか???
• 催吐剤 • 胃洗浄
• 活性炭 • 緩下剤
催吐剤
●摂取後1時間以内 ●意識清明。誤嚥のリスクなし ●医療機関まで時間がかかる時 に ●その後に用いる活性炭・下 剤・拮抗薬も嘔吐してしまう ●誤嚥・穿孔のリスクあれば 禁忌胃洗浄
●摂取後1時間以内 ●消化管運動抑制薬の服用、麻痺性イ レウス、塊になりやすい薬剤など ●大量かつ毒性が高いもの ●34~36Frを使用 ●誤嚥・穿孔のリスクあれば禁忌 禁:強酸や強アルカリなどの腐食性物質 鋭利な物体も飲んでいる 激しい嘔吐が先 行している 手術後 揮発性物質 禁:出血性素因、食道静脈瘤、血小板減少症活性炭
●禁忌例と活性炭に吸着しな い物質以外は適応 ●すでに吸収された後でも濃 度勾配で腸管から排出されう る 禁:腸管閉塞,消化管穿孔 相対禁:腸管運動を抑制する薬物の服用や麻痺性イレウス による腸蠕動の低下 ●活性炭に吸着しない薬毒物:強酸,強アルカリ,エタノー ル,エチレングリコール,鉄,硫酸鉄,リチウム,ヒ素,カリウ ム,ヨウ素,ホウ酸,フッ化物,臭化物など ●また,内視鏡検査が必要なときの活性炭投与は,視野の 妨げとなるため,優先順位を考慮緩下剤
●非吸収性の陽イオンと陰イ オンから成る ●麻痺性イレウス 腸管閉塞 ●腹部外傷 ●腐食性物質の服用 ●重傷の電解質異常• 『腐食性物質』というカテゴリー
• 組織との接触で障害を引き起こすもの
→pH3以下の強酸やpH11以上のアルカリ
実はそれよりも前に・・・
アルカリの基礎知識 ・アルカリは接触部位に化学反応を起こし、組 織壊死を起こす。 ・酸に比べ、アルカリによる組織障害はより深 部に、広範囲に広がりやすい。 ・障害されやすい部位は、 口唇・咽喉頭・食道・胃。実はそれよりも前に・・・
そうすると障害されて一番怖いのはどれ??? 1.口唇 2.咽喉頭 3.食道 4.胃実はそれよりも前に・・・
• アルカリ誤飲のときは、まず気道確保が重要。 咽頭ファイバーで喉頭蓋や声帯を観察する。 場合によっては気管挿管も必要。 ようするに喉頭蓋炎のとき のような対応が必要!今日の目標
腐食性物質とは?
• 酸化剤 • 還元剤 • 酸 (トイレ洗浄剤・錆取り剤・バッテリー液) • アルカリ ←ハイターはここ! • 原形質毒 • 変性剤 • 炭化水素 組織を直接溶かし ます!ハイターは、こすっても落とせない汚れや菌まで強力 に漂白・除菌する、漂白剤ブランドです。
ハイター
主成分: 次亜塩素酸ナトリウム 水酸化ナトリウム アルカリ剤として水酸化ナトリウムを含有してい るため“pH13”くらいの強アルカリ
腐食剤の誤飲 呼吸・循環管理 胸部・腹部 画像検査 内視鏡 外科 Perforationや瘢痕 化がないか 経過観察 治療なし ⅡB or Ⅲ Grade of ⅠorⅡA injury Ⅳ Perforation 腐食剤による食道損傷のGrade分類 Ⅰ 粘膜の浮腫と後半 Ⅱa 出血、びらん、水疱形成潰瘍、 滲出液 Ⅱb 全周性の潰瘍 Ⅲ 多発性の深い潰瘍、茶∼黒色 に変色 Ⅳ 孔
何を治療するか???
主な死因 • “アルカリ”誤飲 直接的な組織障害→壊死による障害 • “酸”誤飲 局所への組織障害に加え、吸収されたあ との全身性の中毒(酸-塩基平衡障害・溶血・ 腎不全など)による。何を治療するか???
大量服
薬など
の中毒
腐食剤
局所の障害! 全身症状が問題になる何を治療するか???
• 要するに、アルカリ誤飲のときは全身管理と いうよりも局所の症状のフォローが重要! 1.咽喉頭 → 炎症、浮腫で窒息 2.気管 → 窒息 3.食道 → 穿孔・狭窄・悪性腫瘍 4.胃 → 穿孔・狭窄・悪性腫瘍 など服薬物質 Airway Breathing Circulation 睡眠薬など 腐食剤 アルカリ 酸
腐食剤の誤飲 呼吸・循環管理 胸部・腹部 画像検査 内視鏡 外科 Perforationや瘢痕 化がないか 経過観察 治療なし ⅡB or Ⅲ Grade of ⅠorⅡA injury Ⅳ Perforation 腐食剤による食道損傷のGrade分類 Ⅰ 粘膜の浮腫と後半 Ⅱa 出血、びらん、水疱形成潰瘍、 滲出液 Ⅱb 全周性の潰瘍 Ⅲ 多発性の深い潰瘍、茶∼黒色 に変色 Ⅳ 孔
呼吸・循環管理
診察
喉頭鏡
挿管する? しない?
腐食剤の誤飲 呼吸・循環管理 胸部・腹部 画像検査 内視鏡 外科 Perforationや瘢痕 化がないか 経過観察 治療なし ⅡB or Ⅲ Grade of ⅠorⅡA injury Ⅳ Perforation 腐食剤による食道損傷のGrade分類 Ⅰ 粘膜の浮腫と後半 Ⅱa 出血、びらん、水疱形成潰瘍、 滲出液 Ⅱb 全周性の潰瘍 Ⅲ 多発性の深い潰瘍、茶∼黒色 に変色 Ⅳ 孔
胸部・腹部 画像検査
腐食剤の誤飲 呼吸・循環管理 胸部・腹部 画像検査 内視鏡 外科 Perforationや瘢痕 化がないか 経過観察 治療なし ⅡB or Ⅲ Grade of ⅠorⅡA injury Ⅳ Perforation 腐食剤による食道損傷のGrade分類 Ⅰ 粘膜の浮腫と後半 Ⅱa 出血、びらん、水疱形成潰瘍、 滲出液 Ⅱb 全周性の潰瘍 Ⅲ 多発性の深い潰瘍、茶∼黒色 に変色 Ⅳ 孔
内視鏡
腐食剤による食道損傷のGrade分類 grade 内視鏡所見 予後 Ⅰ 粘膜の浮腫と後半 一時的な嚥下障害 2日以内に嚥下可能となる Ⅱa 出血、びらん、水疱形成、 潰瘍、滲出液 瘢痕化するが全周性ではない ので狭窄はしない。 Ⅱb 全周性の潰瘍 穿孔のリスク少しあり。 後で狭窄するかも。 Ⅲ 多発性の深い潰瘍、茶 ~黒色に変色 高率に穿孔や狭窄する。 Ⅳ 穿孔 -
腐食剤の誤飲 呼吸・循環管理 胸部・腹部 画像検査 内視鏡 外科 Perforationや瘢痕 化がないか 経過観察 治療なし ⅡB or Ⅲ Grade of ⅠorⅡA injury Ⅳ Perforation 腐食剤による食道損傷のGrade分類 Ⅰ 粘膜の浮腫と後半 Ⅱa 出血、びらん、水疱形成潰瘍、 滲出液 Ⅱb 全周性の潰瘍 Ⅲ 多発性の深い潰瘍、茶∼黒色 に変色 Ⅳ 孔
腐食剤誤飲に対して
なにか治療薬はあるの???
• 希釈 →? • 中和剤 →? • ステロイド →? • 抗菌薬 →?希釈
• 動物実験では、水や牛乳でのアルカリ希釈は組 織障害に有効であった。 →早期の希釈が組織に接着した物質を洗い流 すので良いのではないかと推奨している文献も ある。 • しかし、嘔吐のリスクがあり、より食道への暴露 や誤嚥の可能性がある。 • そのため、穿孔や気道損傷がある場合には禁 忌!である。 • 多くの文献は希釈は推奨していない。中和剤
• 酸による中和は熱産生を伴い、粘膜障害を 増悪させるので禁忌とされている。 • しかし最近の動物実験には、その酸による熱 産生の弊害について疑問視するものもある。 • が、結局は現時点での推奨は、「穿孔がない 場合に限り、少量の水や牛乳で希釈する」と いうところ止まり。 • 弱酸での中和は現時点では禁忌!ステロイド
• 狭窄形成を防ぐかどうかは異論がある。 • ある大規模研究では、ステロイドの使用が有効ではなかった。 • しかし、ステロイドの使用が感染・穿孔・出血を助長するとのデータもない。 • 口腔内の浮腫には • 少なくともGradeⅠ,Ⅱaではそもそも瘢痕化のリスク が低いので適応とならない。 • もし使うなら、 できるだけ早期(受傷6時間以内)に プレドニン2mg/kg/day相当量を 3週間使用し漸減していく。 ※酸による障害の場合、もともと食道損傷のリスクが低いのでステ ロイド使用は推奨されない。抗菌薬
• たいていの場合、予防的投与は不要。 • ステロイドが使用される場合に限り、抗菌薬 の使用が感染のリスクを低下させるという データもある。 • 使用するなら、ペニシリン、アンピシリンが first choice • ペニシリンアレルギーの人には、クリンダマイ シンを。結局・・・
• 治療薬に関してはあまり決まったやり方はない。 • その都度状況をみながら対応。
やはり基本は
ABC
!
腐食剤の誤飲 呼吸・循環管理 胸部・腹部 画像検査 内視鏡 外科 Perforationや瘢痕 化がないか 経過観察 治療なし ⅡB or Ⅲ Grade of ⅠorⅡA injury Ⅳ Perforation 腐食剤による食道損傷のGrade分類 Ⅰ 粘膜の浮腫と後半 Ⅱa 出血、びらん、水疱形成潰瘍、 滲出液 Ⅱb 全周性の潰瘍 Ⅲ 多発性の深い潰瘍、茶∼黒色 に変色 Ⅳ 孔
酸性洗剤 サンポール(トイレ、タイル洗浄用:塩酸 9.5%、界面活性剤) 強力トイレマジックリン(トイレ、タイル洗浄用:塩酸 9.5%) シャット (消臭液) 塩素系洗剤 キッチンハイター(液体)(漂白剤:次亜塩素酸ナトリウム、界面活性剤) ドメスト (トイレ、排水パイプ用洗剤:水酸化ナトリウム 1.0%、次亜塩素酸ナトリウム、界面活性剤) トイレルック(トイレ、排水パイプ用洗剤:水酸化ナトリウム 4%、次亜塩素酸ナトリウム、界面活性剤) カビキラー (カビ落とし:水酸化ナトリウム 1.0%、界面活性剤、次亜塩素酸ナトリウム) キッチンカビキラー (カビ落とし:水酸化カリウム 1.0%、界面活性剤、次亜塩素酸ナトリウム) ピューラックス(殺菌剤:次亜塩素酸ナトリウム 6%) 酸性でも塩素系でもないもの キッチンハイター (粉末酸素系:過炭酸ナトリウム、界面活性剤、炭酸塩) ハイドロハイター (還元系:二酸化チオ尿素、炭酸塩)
ハイターの語源
• ドイツ語の、heiter(ハイター)からきている。 意味は晴れた、澄んだである。漂白して、 真っ白に仕上がると、気分も晴れ晴れしくなる と言う意味にも受け取れて、名称に用いられ た。手元に本がなければ
財団法人 日本中毒情報センター http://www.j-poison-ic.or.jp/homepage.nsf 中毒データベース検索システム @UMIN • https://center.umin.ac.jp/cgi-open-bin/ hanyou/lookup/search.cgi?parm=POISON日本中毒情報センターより『問い合わせ件数』 品目 受信件 数 年齢 5歳以下 6~19歳 20~64 歳 65歳以 上 不明 化粧品 3271 2751 (84%) 41 161 256 61 たばこ 2583 2401 (92%) 25 119 19 19 洗浄剤 系 2484 1522 (61%) 142 508 233 79 漂白剤 755 336 (44%) 61 226 98 34
アメリカでは漂白剤の誤飲は?
総数 6歳以下 (%) 意図的 (%) 死者数 (人) 1988年 148,621 61 2 22 2002年 241,179 53 3 45ここ1年で当院で経験した症例
• 34歳:衣類用ハイター ふた10杯
• 44歳:ハイターと酸性のトイレ用洗剤カクテ ル コップ2杯
34歳 女性
統合失調症の患者さん
「天国に行きたかった」と来院2時間半前
に、
ハイターを付属のふたで10杯
ほど飲
44歳 女性
うつ病で
N市立病院
入院歴
1ヶ月前からうつ症状増悪していた。朝9
時に起きた後、自殺目的で
ハイター(ア
ルカリ)とトイレ洗浄液(酸)を混ぜてコッ
プ2杯
飲んだ。
37歳 男性
適応障害・抑うつ傾向のある無職男性
朝父親と喧嘩して、死のうと思い
キッチン
ハイターをコップ1杯
飲んだ。その後血性
の嘔吐を6回。救急搬送された。
食道障害と症状の関連
• 結論はない
• 症状:悪心 嘔吐 えん下困難 嚥下痛 よだれ 腹痛 胸痛 stridor など
• 組織障害 • 壊死 • 潰瘍 • 線維芽細胞浸潤 • 再修復・狭窄
ハイターは、花王株式会社(本社 東京都中央区)が製造販売する白物衣類 専用の液体塩素系漂白剤の商品名である。 また、同社の販売している全ての衣類・台所用の漂白剤と塩素系のトイレ用洗 浄剤・カビ取り剤のブランド名の総称としても用いられている 。