第6章
水温および pH が及ぼすアナモックス活性への影響
108
第6章 水温およびpHが及ぼすアナモックス活性への影響
6.1 はじめに
アナモックス反応の適用先としては、主に発酵廃水処理に関する研究が多く、水温 30℃
付近での検討が多い(1-4)。特に20℃以下でのアナモックス反応の適用性については、Cema らによる17℃での検討例1例のみで(5)、ほとんど知見がない。また、pHが及ぼすアナモ ックス反応への影響について、連続処理系で評価された報告例は無く、適切な運転管理条 件が不明確である。アナモックス反応を用いた廃水処理システムを開発するにあたり、水 温とpHの条件設定は最も基本的で、重要な操作要因であると考えられる。
アナモックスプロセスのメリットが大きく期待される適用先として、埋立地浸出水や半 導体廃水などが挙げられるが、これらの廃水処理では、水温が 20℃以下になるケースが想 定される。アナモックス反応が20℃以下にも適用可能であれば、様々な排水へ適用できる 可能性が得られることから、アナモックス反応の低水温に対する感受性を明らかにするこ とは極めて意義の高い検討課題であると考えられる。
廃水処理系ではなく、海洋等でもアナモックス菌の存在が報告されている。分子生物学 的解析により、廃水処理に用いられるアナモックス菌とは、大きく異なることが報告され ている。そして、これらのアナモックス菌の活性は水温-2℃でも確認されている(6)。このこ とから、廃水処理系のアナモックス菌も20℃以下に適用できる可能性は十分有すると考え られる。
また、廃水処理系から検出されたアナモックス菌の至適温度について検討した例は、
Strousらによる 1 例のみであり(7)、詳細な温度特性が検討されていない。詳細な温度影響 評価を行うことは、アナモックス菌の温度依存性を明らかにすることができ、アレニウス の式からアナモックス反応の活性化エネルギーを推定することも可能となる(8)。
一方、アナモックス反応に関するpH条件についても知見が少なく、連続試験系での評価 はなされていない。pH操作要因は生物学的な廃水処理装置の運転において、重要な操作要 因であることから、これらについて評価する必要がある。
そこで、本章では、回分試験において、アナモックス反応の温度依存性を詳細に検討し、
アナモックス菌の至適温度を解析した。さらに、連続処理系において、水温を徐々に低下 させ、最低水温6℃における処理性能を評価した。また、pH操作要因について検討を行い、
連続試験系において、pHが及ぼす処理性能への影響を明らかにすると同時に、その影響因 子について、回分試験系から検討を行うこととした。
6.2 回分試験による温度依存性評価 6.2.1 方法
(1)供試汚泥
実験に用いた汚泥は、下水汚泥から集積培養したアナモックス汚泥を用いた(第 3 章参 照)
(2)供試廃水
実験には Table 6.1 に示す、無機合成廃水を用いて試験を行った(4)。
Table 6.1 Synthetic medium for batch experiment Substrates Concentration unit
NaNO2 190(asN) mg/L
(NH4)SO4 150 (asN) mg/L
KHCO3 500 mg/L
KH2PO4 27 mg/L
MgSO4・7H2O 300 mg/L CaCl2・2H2O 180 mg/L T.Ellement S1 1 mL/L T.Ellement S2 1 mL/L
(3)供試担体
供試汚泥をポリエチレングリコール(PEG)のゲルで包括固定化し(5)、3mm 角の立方体に 整形した(第 4 章参照)。PEG ゲル濃度は 15%、固定化したアナモックス汚泥量は 0.4%と した。この担体を供試排水で連続培養し、実験に用いた。
(4)実験装置
内容積 40mL のモノー型の試験管に、無機合成廃水を 30mL 注入した。試験管は水温 22~
45℃に設定された、温度勾配型のモノー式振とう培養機(ADVANTEC TOYO, Tokyo, Japan)
に設置し、内部の水温が所定の温度になるよう約 1 時間放置した。連続培養装置から馴養 済みのアナモックス担体を約 3mL 採取し、 各温度に設定された試験管に投入した。試験は、
各設定温度で、70rpm の条件で振とうした(Fig. 6.1)。サンプル水は1時間ごとに 1mL 採 取した。試験終了後、担体の正確な体積を測定し、担体当たりの窒素除去速度を求めた。
T.Ellement1:EDTA=5g/L,FeSO4=5g/L
T.Ellement2:EDTA=15g/L,ZnSO4・7H2O=0.43g/L,CoCl2・6H2O=0.24,MnCl2・ 4H2O=0.99g/L,CuSO4・5H2O=0.25g/L,NaMoO4・2H2O=0.22g/L,NiCl2・ 6H2O=0.19g/L,NaSeO4・10H2O=0.21g/L,H3BO4=0.014g/L
110 0
100 200 300 400 500 600
20 25 30 35 40 45 50
Ne-r movalateductn -prora r,Niote ( mg arer(L-cri)
-1 h
-1)
Temperature (oC) Figure 6.1 Experimental facility for batch experiment
6.2.2 結果
(1)窒素の除去特性
各温度条件におけるアンモニアと亜硝酸の除去速度および硝酸の生成速度を Fig.6.2 に 示す。水温 22℃から 37℃までの間、水温の上昇に伴い、活性は上昇する傾向を得た。39℃
から活性は徐々に低下したが、45℃でもアナモックス活性は確認された。この結果から、
アナモックス菌の至適温度は 37℃であることを明らかにした。
Figure 6.2 The influence of temperature on ammonium (●) and nitrite(■) removal rate and nitrate production rate (▲).
モノー型試験管
22~45℃
5.0 5.5 6.0 6.5 7.0
0.00320 0.00325 0.00330 0.00335 0.00340
ln (N-conversion rate) (mg (l-carrier)-1 h-1 )
1/T (1/K) (2)温度依存性評価
ここで、窒素除去速度と温度の関係について、アレニウスの式に回帰し検討を行った。
窒素除去速度を Y、水温を T とすると、アレニウスの式から以下の関係が得られる。
Y=A ×e ・・・・式 6.1
(A:定数、E:活性化エネルギー、R:気体定数=8.314J/K・mol)
ここで、1/T=X とし、両辺を対数にとると、アレニウスプロットが得られる Ln(Y)=-EX+B となる。 ・・・・式 6.2
(B:定数)
Fig. 6.2 の結果から、窒素除去速度と水温の関係を式 6.2 に合わせ、計算を行った。その 結果 Fig. 6.3 を得ることができた。水温 28℃を境に2つの直線が存在していることが明ら かとなり、活性化エネルギーに変曲点があることを確認した。各試験区間で解析を行った ところ、水温 22~28℃の間では、活性化エネルギー93kJ/mol、28~37℃では、活性化エネ ルギー33kJ/mol を得た。Strous らは活性エネルギー70 kJ/mol、(試験区間 20~43℃)と報 告しており、若干異なる結果を得た。
Figure 6.3 Nitrogen conversion activity as a function of temperature (Arrhenius plot)
-E RT
112 6.2.3 考察
アナモックス菌の至適温度は、30℃と報告されていたが(7)、本研究により、その至適温度 は 37℃である結果を得た。Strous らの試験では、特に高温条件下で、バイオマスの解体が 生じ、アンモニアと亜硝酸の同時消費が確認できなかったと報告している。そのため、高 温側でのアナモックス活性が正確に評価できなかったと考えられ、本試験との差異の原因 となったと推定される。
さらに、本研究では温度変化による活性低下について、その影響の可逆性について検討 した。高温条件について検討したところ、45℃で 3 時間静置した担体を、37℃の条件で活 性を測定した結果、アンモニアおよび亜硝酸の消費は確認できず、活性が停止する結果を 得た。一方、低温条件について検討したところ、25℃で 3 時間静置した担体を 37℃で活性 を測定すると、37℃で試験した活性と同じであり、低温条件で低下した活性は、すぐに回 復することが明らかとなった。このことから、低温条件での失活は可逆的、高温条件での 失活は不可逆的な活性低下であることが明らかとなった。
アレニウスの式から、アナモックス反応の活性化エネルギーを求めた結果、28℃付近で 変曲点が存在し、その前後で活性化エネルギーは大きく変化した。Stous らは 20~43℃の 試験区間から活性化エネルギーを求め、70 kJ/mol と報告している(7)。本試験で確認された 変曲点については、述べられておらず、また、データの詳細が記載されていないため、そ の有無については比較ができない。本研究との差異については、この変曲点が見落とされ、
平均化して活性化エネルギーが算出された可能性があることや、集積培養したアナモック ス菌種の違いに起因する可能性がある。
なお、次の 6.3 節にても、水温 22~32℃の試験区間に、変曲点が存在する結果を得てい ることから、何らかの理由により、水温 28℃付近にアナモックス活性の変曲点が存在する ことは間違い無いと考えられる。
6.3 低水温条件下でのアナモックス活性評価 6.3.1 方法
(1)供試汚泥
実験に用いた汚泥は、下水汚泥から集積培養したアナモックス汚泥を用いた(第 3 章参 照)
(2)供試廃水
実験には Table 6.2 に示す、無機合成廃水を用いて試験を行った。
Table 6.2 Synthetic medium for continuous feeding test Substrates Concentration unit
NaNO2 190(asN) mg/L
(NH4)SO4 150 (asN) mg/L
KHCO3 500 mg/L
KH2PO4 27 mg/L
MgSO4・7H2O 300 mg/L CaCl2・2H2O 180 mg/L T.Ellement S1 1 mL/L T.Ellement S2 1 mL/L
(3)供試担体
供試汚泥をポリエチレングリコール(PEG)のゲルで包括固定化し、3mm 角の立方体に整 形した(第4章参照)。PEG ゲル濃度は 15%、固定化したアナモックス汚泥量は 2.0%とし た。この担体を供試排水で連続培養し、実験に用いた。
(4)実験装置
反応装置図を Fig 6.4 に示す。反応容積は 500mL であり、内部に 100mL の包括固定化ア ナモックス担体が充填されている(担体充填率 20%)。リアクタには pH コントローラが設 置されており、pH=7.6 となるよう、0.2N の塩酸を用いて調整した。反応槽外部には、ウォ ータージャケットが設置されており、設定温度になるよう、温水またな冷水を流し、槽内 が所定の温度になるよう調整した。なお、槽内には温度センターを設置し、常時モニタリ ングした。反応槽内の水温は 6~33℃に変化させ、水温変動が及ぼす窒素除去性能への影響 を評価した。なお、滞留時間(HRT)は、槽内の基質が不足しないよう HRT=1~13h に調整
T.Ellement1:EDTA=5g/L,FeSO4=5g/L
T.Ellement2:EDTA=15g/L,ZnSO4・7H2O=0.43g/L,CoCl2・6H2O=0.24,MnCl2・ 4H2O=0.99g/L,CuSO4・5H2O=0.25g/L,NaMoO4・2H2O=0.22g/L,NiCl2・ 6H2O=0.19g/L,NaSeO4・10H2O=0.21g/L,H3BO4=0.014g/L
114
Figure 6.4 Schematic illustration of a reactor for nitrogen removal test using anammox gel carrier.
Effluent
Gel carriers
Influent pH sensor Temp. sensor
Separator Water jacket
Stirrer HCl
6.3.2 結果 (1)連続試験
あらかじめ馴養した担体を用い、水温 33℃の条件で連続運転を行い、その後水温を段階 的に低下させた。その結果を Fig.6.5 に示す。高水温(33℃)の条件では、窒素除去速度 6.2kg-N/m3/d と高い処理性能を確認した。その後、15 日目に水温 22℃へ設定した結果、窒 素除去速度は 2.8 kg-N/m3/d まで低下した。そして、19 日目に 16℃、26 日目には 11℃と変 化させた結果、窒素除去速度は 0.68kg-N/m3/d に低下した。この結果から、水温低下に伴い、
活性が大きく低下するものの、20℃以下の条件でも、アナモックス活性は完全に失活せず、
処理性能が得られることを明らかにした。さらに、水温低下にさせた結果、アナモックス 活性は水温 6℃でも維持されており、窒素除去速度 0.36 kg-N/m3/d を得ることができた。
なお、本試験期間中、処理水中のアンモニアおよび亜硝酸性窒素濃度は 15mg/L 以上を維持 しており、処理性能が基質律速と思われる期間は無かった。
これらの結果から、水温低下に伴いアナモックス活性は低下するものの、低水温下で もその活性は維持できることを明らかにした。
Figure 6.5 Time course of operating temperature and nitrogen loading and conversion rates in the continuous feeding test.
0 2 4 6 8 10
-10 0 10 20 30 40
0 10 20 30 40 50
N-loading, N-conversion Rate (kg-N/m3 /d) Temperature (o C)
Time (d) Temperature N-loading rate
N-conversion rate
116 (2)温度依存性評価
ここで、連続試験で得られた結果(Fig.6.5)について、アレニウスの式に回帰し解析を 行った(計算については、6.2.2(2)参照)。その結果を Fig.6.6 に示す。水温 6~22℃
(1/T=0.00334~0.00358)の間では、1 本の直線で近似することができ、強い相関関係がみ られた。この近似曲線の傾きから、活性化エネルギーを求めると 94kJ/mol の結果を得た。
これは、回分試験(水温 22~28℃)で得られた結果(93kJ/mol)と一致するものであった。
一方、22~33℃(1/T=0.00327~0.00334)の間は、異なる傾向が得られ、この間に変曲 点が存在していることが示唆された。この傾向は、回分試験の結果と一致するものである。
-1.5 -1.0 -0.5 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0
0.00325 0.00330 0.00335 0.00340 0.00345 0.00350 0.00355 0.00360 ln (N-conversion rate) (kg-N m-3 d-1 )
1/T (K-1)
Figure 6.6 Relationship between nitrogen conversion rate and temperature in the continuous feeding tests. (Arrhenius plot)
6.3.3 考察
本試験結果により、アナモックス菌による廃水処理は水温 20℃以下でも維持することが でき、最低水温 6℃の条件でもその処理性能を確認することができた。これは、アナモック スが埋立地浸出水や産業排水など、適用先を拡大できる可能性を示す結果であり、重要な 知見を得ることができた。また、水温低下に伴い、大きく活性は低下したものの、水温 6℃
で、窒素除去速度 0.36 kg-N/m3/d が得られている。この値は、従来の硝化・脱窒処理の脱 窒速度が、常温で 0.3 kg-N/m3/d であることを鑑みると、アナモックス活性は、十分な処理 活性が維持できていると考えられる。著者らは、低水温(10℃)下における亜硝酸型硝化 プロセスの開発していることから(10)、これらと組み合わせることで、低水温下でのアナモ ックスプロセスの適用が、可能であると考えられる。
本試験結果から、アナモックス菌の活性化エネルギーは、水温 6~22℃の間では 93kJ/mol、
であることが示され、回分試験の結果と一致することが確認された。本研究で得られた結 果および既往研究にて、アナモックス菌の活性化エネルギーに関する報告値をまとめた。
その結果を Table6.3 に示す。Rysgaard らは、アナモックス反応の活性化エネルギーを 51 kJ/mol と示している。彼らが試験に用いたアナモックス菌は、海洋で検出されたものであ り(6)、我々の様に廃水処理系において集積培養したアナモックス菌とは系統学上、少し離 れたものである。このことから、Rysgaard らとの活性化エネルギーの差異については、生 物相の違いによるものと考えられた。
Table 6.3 Apparent activation energy of anammox bacteria Apparent activation energy Temperature range
(kJ/mol) (°C) References
70 20 to 43 Strous et al., 1999
51 -2 to 13 Rysgaard et al., 2004
94 6 to 22 This study (Fig 6.6)
93 22 to 28 This study (Fig.6.3)
33 28 to 37 This study (Fig.6.3)
118 6.4 連続試験系における pH 影響
6.4.1 方法
(1)供試汚泥
実験に用いた汚泥は、下水汚泥から集積培養したアナモックス汚泥を用いた(第 3 章参 照)
(2)供試廃水
連続処理実験系には、Table 6.4 に示す合成廃水を用いた。
Table 6.4 Synthetic medium for continuous feeding test Substrates Concentration unit
NaNO2 190(asN) mg/L
(NH4)SO4 150 (asN) mg/L
KHCO3 500 mg/L
KH2PO4 27 mg/L
MgSO4・7H2O 300 mg/L CaCl2・2H2O 180 mg/L T.Ellement S1 1 mL/L T.Ellement S2 1 mL/L
(3)供試担体
供試汚泥をポリエチレングリコール(PEG)のゲルで包括固定化し、3mm 角の立方体に整 形した(第4章参照)。PEG ゲル濃度は 15%、固定化したアナモックス汚泥量は 2.0%とし た。この担体を供試排水で連続培養し、実験に用いた。
(4)実験装置
反応装置図を Fig6.7 に示す。反応容積は 500mL であり、内部に 100mL の包括固定化アナ モックス担体が充填されている(担体充填率 20%)。リアクタには pH コントローラが設置 されており、定常時は pH=7.4 となるよう調整した。また pH 変動試験時には、pH=6.25~8.6 となるよう、0.2N 塩酸を用いて調整した。実験は 30℃の恒温室内で行い、リアクタ内の水 温が 30℃の一定条件となるよう運転を行った。なお、滞留時間(HRT)は、2.4h の一定条 件とした。
T.Ellement1:EDTA=5g/L,FeSO4=5g/L
T.Ellement2:EDTA=15g/L,ZnSO4・7H2O=0.43g/L,CoCl2・6H2O=0.24,MnCl2・ 4H2O=0.99g/L,CuSO4・5H2O=0.25g/L,NaMoO4・2H2O=0.22g/L,NiCl2・ 6H2O=0.19g/L,NaSeO4・10H2O=0.21g/L,H3BO4=0.014g/L
Figure 6.7 Schematic illustration of a reactor for nitrogen removal test using anammox gel carrier.
Effluent
Gel carriers
Influent pH sensor Temp. sensor
Separator Water jacket
Stirrer HCl
120 6.4.2 結果
連続実験系において、槽内の pH を変動させ、アナモックス活性への影響を評価した。結 果を Fig.6.8 に示す。運転 54 日目までは安定した処理性能が得られていたが、運転 54 日 目に塩酸の添加を停止し、槽内の pH を 7.4 から 8.6 に上昇させたところ、活性は低下する 傾向を得た。次に、塩酸の添加を再開し、pH を 7.4 に戻すと、活性はすぐに回復する傾向 を得た。この結果から、pH が弱アルカリ性になると、アナモックス活性が低下することが 明らかとなった。
さらに設定 pH を 7.4 から 7.0 に下げたが、活性への影響は確認できなかった。その後、
pH を 7.0 から 0.25 ずつ pH=6.5 まで低下させたが、この場合も活性への影響は確認できな かった。しかしながら、pH を 6.25 に低下させたところ、活性は急激に低下した。活性低下 を確認した後、pH を 7.4 に戻し、運転したところ約6日後に活性は完全に回復した。これ らの結果から、弱酸性条件になるとアナモックス活性は大きく影響を受け、一旦影響を受 けると、回復に時間を要することが明らかとなった。
Figure 6.8 Effect of operation pH on anammox activity. Nitrogen loading (□), Nitrogen conversion rate(●). Bar shows pH.
0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 6.0 7.0
6.0 6.5 7.0 7.5 8.0 8.5 9.0 9.5
45 50 55 60 65 70
N-loading. N-conversion rate (kg-N/m3 /d) pH(-)
Time (d)
6.4.3 考察
アナモックス菌への pH の影響については、回分試験系においての報告が 1 例ある(2)。その 報告と本試験結果とを比較した結果を Fig.6.9 に示す。回分試験系の結果では、至適 pH は 8.0 と報告されており、pH=7.0 にかけて徐々に低下していることが報告されている。一方、
連続試験系による本試験結果では、pH=6.5 までその影響は確認できず、弱酸性領域でもア ナモックス活性を維持できる傾向を得た。この違いについては、アナモックス菌体の密度 の違いによると推察される。アナモックス反応は、水素を利用するため、結果として pH が 上昇する傾向にある。本試験のようにアナモックス菌が高密度のゲル内部に固定化されて いる場合、アナモックス反応に伴い、局所的に pH が上昇することが考えられる。そのため、
分散系の回分試験と本試験とを比較した場合、本試験の方が酸性側の領域において、高い 活性が維持できたと考えられる。本試験の結果から、包括固定化担体を用いたアナモック スプロセスは、pH6.5~7.6 の間で運転することが好ましいと考えられる。この制御範囲は 決して広い範囲とは言えず、アナモックスプロセスを安定して運転するためには、この範 囲に適正に制御することが重要であると考えられる。
著者らの経験として、アナモックス反応系に酸素が混入し、アナモックス活性が低下し た経験がある。この場合、硝化反応が生じ、pH の低下も同時に確認された。本試験結果を 踏まえると、アナモックス活性を阻害するのは、酸素の混入だけでなく、pH 低下による影 響も大きいと考えられる。特に立ち上げ初期においては、アナモックス活性が低いことか ら、廃水をアルカリ性に移行させる活性が低い。そのため、酸素混入による pH 低下の影響 が生じ易いと考えられる。アナモックスリアクタの立ち上げや、集積培養に失敗する例が 報告されているが、それらの要因として、この微妙な pH 変化が影響していると考えられる。
Figure 6.9 Relative anammox activity as a function of pH. Batch experiment (Strous et al.1997) (■) 0.0
0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2
6.0 6.5 7.0 7.5 8.0 8.5 9.0 9.5
Relative activity (-)
pH (-)
122 6.5 阻害要因の解明
6.5.1 方法 (1)供試汚泥
実験に用いた汚泥は、下水汚泥から集積培養したアナモックス汚泥を用いた(第 3 章)
(2)供試廃水
①アンモニア影響評価培地
pH とアンモニアが及ぼすアナモックス活性への影響を明らかにするため、初期 pH=7.4 お よび 9.0 において、Table6.5 に示す培地を調整し、それぞれ回分試験を行った。
Table 6.5 Synthetic medium for batch experiment (1)
No NH4-N NO2-N pH
1 0 0 9.0
2 100 0 9.0
3 250 0 9.0
4 500 0 9.0
5 1000 0 9.0
6 0 0 9.0
7 1000 0 7.4
8 1500 0 7.4
9 2000 0 7.4
10(Control) 0 0 7.4
②亜硝酸影響評価培地
pH と亜硝酸が及ぼすアナモックス活性への影響を明らかにするため、初期 pH=7.4 および 5.0 において、Table 6.6 に示す培地を調整し、それぞれ回分試験を行った。
Table 6.6 Synthetic medium for batch experiment (2)
No NH4-N NO2-N pH
11 0 1 5.0
12 0 10 5.0
13 0 50 5.0
14 0 100 5.0
15 0 100 7.4
16 0 225 7.4
17 0 250 7.4
18 0 275 7.4
19 0 300 7.4
20 0 325 7.4
21 0 430 7.4
③アナモックス活性測定培地
アナモックス活性を測定する際には、Table 6.7 に示す、無機合成廃水を用いて試験を行 った。
Table 6.7 Synthetic medium for batch experiment (3) Substrates Concentration unit
NaNO2 190(asN) mg/L
(NH4)SO4 150 (asN) mg/L
KHCO3 500 mg/L
KH2PO4 27 mg/L
MgSO4・7H2O 300 mg/L CaCl2・2H2O 180 mg/L T.Ellement S1 1 mL/L T.Ellement S2 1 mL/L
(3)供試担体
供試汚泥をポリエチレングリコール(PEG)のゲルで包括固定化し、3mm 角の立方体に整 形した(第4章参照)。PEG ゲル濃度は 15%、固定化したアナモックス汚泥量は 0.4%とし た。この担体を供試排水で連続培養し、実験に用いた。
(4)実験装置および操作方法
内容積 40mL のモノー型の試験管に、無機合成廃水を 30mL 注入した。試験管は水温 36℃
に設定された、温度勾配型のモノー式振とう培養機(ADVANTEC TOYO, Tokyo, Japan)に設 置し、内部の水温が一定となるようにした。連続培養装置から馴養済みのアナモックス担 体を約 3mL 採取し、 各培地(No.1~No.21)30mL の入った試験管に投入した。各培地で3 回洗浄した後、1時間、70rpm の条件で振とうした。その後、担体を培地(Table 6.7)で 3回洗浄した後、アナモックス活性を測定する試験を行った。振とう条件は 70rpm、水温 36℃とし、サンプル水は1時間ごとに 1mL 採取した。試験終了後、担体の正確な体積を測 定し、担体当たりの窒素除去速度を求めた。なお、アナモックス活性の評価は Control 系 の活性を 1 として、相対比で評価をした
T.Ellement1:EDTA=5g/L,FeSO4=5g/L
T.Ellement2:EDTA=15g/L,ZnSO4・7H2O=0.43g/L,CoCl2・6H2O=0.24,MnCl2・ 4H2O=0.99g/L,CuSO4・5H2O=0.25g/L,NaMoO4・2H2O=0.22g/L,NiCl2・ 6H2O=0.19g/L,NaSeO4・10H2O=0.21g/L,H3BO4=0.014g/L
124 Figure 6.10 Experimental facility for batch experiment
モノー型試験管
36 ℃
36 ℃
6.5.2 結果
(1)高 pH 条件におけるアンモニアの影響
pH 変化による活性低下の原因を解明するため、回分試験による検討を行った。まず、各 pH 条件におけるアンモニア濃度が及ぼすアナモックス活性について検討した。その結果を Fig.6.10 に示す。pH=7.4 の条件ではアンモニア 1000mgN/L の液で1時間振とうした後でも、
その後の回分試験で活性が低下しないことが明らかとなった。一方、pH=9.0 の条件で、ア ンモニア 1000mgN/L の液で1時間振とうすると、活性は大きく低下する傾向を得た。また、
アンモニア濃度が上昇すると、活性が大きくなる結果を得た。なお、pH=9.0 の蒸留水で振 とうするだけでは、活性がほとんど変化しないことがわかった。
これらの結果から、pH が高い条件でアンモニアが存在すると、活性が低下することが明 らかとなった。これは pH 上昇により、NH4+(イオン)が NH3(遊離アンモニア)となり、そ れがアナモックス活性を阻害するためであると推定した。
Figure 6.10 Relative anammox activity as a function of ammonium concentration and pH. Relative activity at pH=7.4 (■), Relative activity at pH=9.0 (●)
0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2
0 500 1000 1500 2000
Relative Activitiy (-)
NH4+ + NH3 (mg N / L)
126 (2)低 pH 条件における亜硝酸の影響
各 pH 条件における亜硝酸濃度が及ぼすアナモックス活性について検討した。その結果を Fig.6.11 に示す。pH=7.4 の条件では、亜硝酸濃度が 300mgN/L 以上となると活性が低下す る傾向が確認されたが、それ以下では影響はなかった。一方、pH=5.0 の条件だけでは、ア ナモックス活性は低下しないことが確認され、pH=5.0 で亜硝酸を 100mgN/L 添加すると、活 性は大きく阻害されることが明らかとなった。また、pH=5.0 の条件では、亜硝酸濃度が 100mgN/L に増加するに従い、活性が低下する傾向を得た。
これらの結果から、低 pH 条件下で亜硝酸が存在するとアナモックス活性は大きく阻害さ れることが明らかとなった。これは pH 低下により、NO2-(イオン)が HNO2となり、それが アナモックス活性を阻害するためであると推定した。
Figure 6.11 Relative anammox activity as a function of nitrite concentration and pH. Relative activity at pH=7.4 (●), Relative activity at pH=5.0 (■)
0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2
0 100 200 300 400 500
Relative Activity (-)
NO2- + HNO2 (mgN/L)
6.5.3 考察
本試験結果から、高い pH 条件だけではアナモックス活性は低下しないこと、また、pH が 高い条件でアンモニアが含まれるとアナモックス活性が阻害されることが示された。これ は、高 pH 条件において、遊離アンモニア(FA)が生成したためであると推察した。FA 濃度 の算出方法としては、次の式が報告されている(11)。
式 6.1
Kb is the ionization constant of the ammonium equilibrium equation and Kw is the ionization constant of water (Kb/Kw = e(6,344/273+˚C) )
FA 濃度は全アンモニア濃度と pH により支配されており、pH と全アンモニア濃度が高い と、FA 濃度も増加する。本試験で実施した条件について、式 6.1 を基に FA 濃度を算出する と、pH=9.0、全アンモニア濃度 100mg/L の条件では、FA 濃度は 63mg/L となり、このときす でに活性の低下が確認された。一方、pH=7.4 では全アンモニア濃度 1,500mg/L のときに FA 濃度が 69mg/L となり、このときに活性の低下がみられた。一方、連続処理試験では、pH=8.6 へ上昇させた場合、活性の低下がみられた。このときの槽内の全アンモニア濃度は 55.3mg/L であり、FA 濃度は 16mg/L と算出された。この結果から、FA 濃度が 16mg/L 程度となると、
アナモックス活性は低下すると考えられた。FA による活性阻害は、硝化反応でも確認され ており、FA 濃度が 10mg/L 以上となるとアンモニア酸化細菌(好気性)の活性が阻害される ことが報告されている(11)。アナモックス菌も同程度の FA に対する感受性を有しているこ とが明らかとなった。これらの結果から、アナモックス活性が FA により阻害されること明 らかとなり、安定したアナモックスプロセスの運転では、槽内の pH およびアンモニア濃度 の管理が重要であると考えられる。
一方、本試験結果から、遊離亜硝酸(FNA)によるアナモックス活性への影響が示された。
FNA の計算方法としては、次式が報告されている(11)。
Ka : the ionization constant of the nitrous equilibrium equation = e(-2,300/273+˚C)
回分試験の結果から、pH=7.4 の条件で、亜硝酸濃度 300mgN/L 以上となると活性が阻害さ れる傾向が確認された。このときの FNA 濃度は 0.068mg/L と算出された。また、連続試験 の際、pH を 6.25 へ変動させた場合、活性の低下がみられた。pH 変動前の槽内の亜硝酸濃 度は 25mg/L であったことから、このときの FNA 濃度は、0.091 mg/L と算出された。Anthonisen らは、FNA による硝化細菌への影響を評価しており、0.22mg/L 以上で阻害を受けることを
Total ammonia as N (mg/L) ×10pH Kb/Kw+ 10pH
FA as NH3(mg/L) = 17 × 14
Total ammonia as N (mg/L) ×10pH Kb/Kw+ 10pH
FA as NH3(mg/L) = 17 × 14 17 14
Total nitrite as N (mg/L) ×10pH Ka + 10pH
FNA as HNO2(mg/L) = ×46 14 46 14
128 FNA 濃度で影響を受けることが明らかとなった。
これらの結果から、FA 同様に安定したアナモックスプロセスの運転では、槽内の pH およ び FNA(亜硝酸)濃度の管理が重要であると考えられる。
最後に、今回得られた結果は、アナモックス菌の培養およびアナモックス菌を用いた廃 水処理技術の開発において、極めて重要な知見を得ることができたと考える。アナモック ス菌は、アンモニアと亜硝酸を基質として利用する一方、pH 変動により生じる FA および FNA に阻害を受ける。そのために運転 pH 範囲が狭い範囲に限られてしまう。特に、弱酸性 領域での微量の FNA は、アナモックス活性へ大きな影響を及ぼすことから亜硝酸の濃度お よび pH 管理は重要である。
また、この要因がアナモックス菌の培養およびプロセスの安定運転を難しくしていると 言え、アナモックス菌の集積培養の失敗や不安定性を引き起こしているのではないかと考 えられる。アナモックス菌が集積培養された後は、アナモックス反応により廃水の pH は上 昇する傾向にあり、pH 低下に伴う FNA 阻害は生じ難くい。しかしながら、アナモックス菌 の集積培養時やリアクターの立上げ時などでは、アナモックス活性が弱く、pH を上げる要 因が弱い。そして、微量の酸素が混入すると容易に硝化反応が生じ、pH を低下する。これ らの要因がアナモックス菌の培養を困難にしたのではないかと推察する。
6.6 結言
生物を利用した廃水処理システムでは水温およびpHは最も基本的な運転要因である。ア ナモックスプロセスにおいては、これら要因についての報告例は極めて少なく、本章で示 した結果は、安定したアナモックスプロセスを構築する上で、重要な結果を得ることがで きた。また、アナモックス菌の至適温度は 37℃であることや、アナモックス反応の活性化 エネルギーは 28℃付近に変曲点があり、6~28℃では 94kJ/mol、28~37 では 33 kJ/mol であることなど、アナモックス菌の基本特性を明らかにすることができた。これらの知見 は、微生物学上、極めて重要な知見であると言える。
また、アナモックス活性が水温6℃でも維持でき、0.32kg-N/m3/dの窒素除去活性を得ら れたことは、アナモックスプロセスを各種工場排水やゴミ浸出水など、その適用廃水を広 げる可能性を示す結果であり、水環境工学上、重要な結果を得ることができた。
一方、本章ではpH条件についても詳細な検討を行い、アナモックスプロセスはそのpH 制御範囲が狭いこと(pH6.5~7.6)を明らかにした。同時に、弱酸性域での活性阻害は、
アナモックスプロセスの大きな失活を招くことを示し、pH制御の重要性を示した。さらに、
その要因について検討し、アナモックス菌は弱アルカリ性領域では、遊離アンモニアによ り阻害されること、弱酸性領域では遊離亜硝酸により阻害をうけることを解明し、アナモ ックスプロセスの安定化に向けた重要な知見を得ることができた。
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