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(1)

  

歩行中のヒト足部に着目した力学モデル解析と その応用に関する研究

Study of the dynamic model analysis of the human foot complex during gait and its applications

2003 年 3 月

高嶋 孝倫 Takamichi TAKASHIMA

(2)

 人類の二足歩行の起源として諸説があるが,約400年前の化石にはその痕跡が見られるという.そのことによ り開放された手は様々なモノを創り上げてきた.今日の文化はまさに偉大なる創造物の結晶である.しかし,それ と引き替えに重力に抗して起立した人体構造には特に脊椎,そして足部に大きな負担を強いられる事になった.さ らに闊歩性二足歩行という人類独特の移動様式において安定化動歩行が実現されており,これは多くのサブシステ ムによって成立している.その一つは路面とのインターフェイスである足部構造にあると考えられる.足部は歩行 中にその形を変える.歩行周期の後半には足部は片持ち梁構造となり,さらなる負担が強いられ,最も大きな変形 が生じる.この負荷に抗する機構として最も顕著な特徴はアーチ構造にあり,生体足部の支持組織によって構成さ れる抗重力機構として捉えられる.この構造に疾病などによって破綻が生じた際には,支持構造を補助するための 装具が必要となる.また,生体足部を失い機能的に劣る義足足部を取り付けた場合などには歩行は不安定なものと なる.何れにおいても装具や義足足部の重要性は高く,ヒトの足部構造を規範とした構造になる.従って,ヒトの 足部構造,特に歩行中の動的な形態変化を定量的に解明することによって最適設計に近づくものと考えられる.

 そこで,本研究は,足に病変を有する患者のための足底装具や靴型装具の効果に対する評価手法の確立,あるい は,足部を失った切断者のより機能的な義足足部の開発などに具現化される足部障害者への機械工学的貢献を目的 とする.具体的な目標として,歩行中におけるヒト足部をモデル化し,運動学的,運動力学的視点から足部の挙動 を定量化するものである.そのために,パラメータとしてヒト足部の特徴であるアーチ構造のモーメント,および 粘弾性特性に着目した結果を導いた.効果的な足部力学モデルを構築するため,必要条件を次のように整理した.

①歩行中の形態変化に対応するもの.②必要最小限の関節を有するもの.③将来的に病的変形に対応可能なもの.

しかし,足部のアーチ構造が複合関節である点と,必要最小限の関節でモデルを提案したいという意図の間に矛盾 が生じる.そこで,第1段階として,先行研究がない歩行中の足部形状変化を詳細に捉えようとする意図から,X 線ビデオ撮影による足部の骨位置変化の計測を行い,まず力学モデルの基礎デザインが示した.次に,距腿関節,

距骨下関節,MP関節を含む3次元モデルを提案し,足部のアーチ構造と周囲の関節の関連性を定量的に示した.

さらにアーチ部の粘弾性特性を同定し,これによって歩行時のアーチ構造の存在意義を考察した.これらの実験を 通じたヒトの足に関する有益な知見と考察によって,障害者,あるいは高齢者に還元し得る技術を提案した.それ は,①高齢切断者を対象とした義足歩行の安定化を実現する義足足部のデザインと,②足底装具評価法への本モデ ル解析の応用である.

 本論文は以下に示す7章にて構成される.第1章では,ヒト足部の研究をテーマとした背景について,歩行の起 源にまで立ち返りアーチの存在意義に関する諸説を整理した上で,研究の意義を唱え,過去の研究動向を鑑みたう えで,本研究の新規性を示した.

 第2章では,足部形状変化を足内部に存在する28個の骨位置変化に立ち返り,videofluoroscopyを応用して実 測してた矢状面より観察可能な骨(踵骨,距骨,舟状骨,内側楔状骨,第1,第5中足骨)を撮像の較正空間に座 標化し,骨相互間における角度変化を算出した.座標化手法はテンプレートを用いた独自のものであり,これに よって算出された小関節の矢状面角度変化を結果として示した.結果は踵骨−第1中足骨間に集約されるアーチ構

概 要

(3)

造の角度変化は踵接地時から徐々にアーチ低下方向へ変化し,踏み切り期において最大約8度の変化を認めた.

アーチ内に存在する関節として距踵関節,距舟関節,楔舟関節,足根中足関節があり,これらの挙動を導き,最大 変化を示す部位が楔舟関節であることを確認した.この結果は次章より展開するモデル提案の基盤となるが,X線 ビデオは被爆のリスクや計測の煩雑さがあり,一般的な手法とは成り得ないため,別の簡便な手法が望まれること を述べた.

 第3章では,前章の解析結果を受け,矢状面における足部を2リンク1関節モデルが第1近似と考え,最も単純 化された足部モデルを提案した.このモデルから,本研究の問題領域である足部のアーチにおける角度変化,およ びモーメントを導出した.足アーチのモーメント解析は他の歩行解析では例がなく,固有名称がないため,これを 本論文では「アーチモーメント」と称する.導出に必要なパラメータは光学画像計測装置を使用した被験者の歩行 計測によって実測した.これは足部の皮膚上にマーカーを貼り付け,その位置をトラッキングする一般的計測手法 であるが,本来の足部変形である骨の位置変化と同等であるかは疑問の余地があった.これに関し,第2章で行っ た videofluoroscopy を用いて整合性が高いことを検証した.

 第4章では,距腿関節,距骨下関節,MP関節を含む3次元モデルとし,各関節運動とアーチの挙動との連動性 を確認した.距骨下関節は軸位に個人差があり運動の定量化は容易ではない.過去にも何例か研究があるが,本論 文で示された計測手法は光学画像計測による皮膚上マーカーが示す角度とX線により確認された骨自体の角度変化 との整合性を検証しており,計測値の信憑性は高い.しかも,生体に非侵襲であり,外乱がなく,可動域における 信憑性も高いことから,ここでも足部解析における光学画像計測手法の有効性が示された.従来より,距骨下関節 とアーチ構造の強度変化には相関があることが定性的に示されているが,本論文では,アーチモーメントとの間に は相関が認められないという結果を示した.MP関節は足底腱膜を介してアーチ形状変化に寄与していることを定 量的に確認した.

 第5章では,歩行中足部の stiffness定量化手法を提案した.静的な実験方法は存在するが,筋要素を含むため,

歩行中に変化する粘弾性特性を同定する手法は過去に見あたらず,新規性に富む試みである.アーチ部に回転バネ- ダッシュポッド系粘弾性要素を有するモデルを提案し,計測された床反力などのパラメータを導入することにより 求めた外力によるアーチモーメントT t( )=TFRF( )t +T tF( )I tθ˙˙( )は,内力を表すT t( )=kθ( )t +dθ˙( )t に等しいとの仮説

のもとに解析を行った.歩行周期を足部の力学的状態から4相に分割し,各層における粘弾性特性を最小二乗法に よって同定するものである.同定された粘弾性特性は足アーチの機械的インピーダンスを表したものと考えられる.

6名の被験者における解析結果として,足部の弾性係数kは立脚相終盤に有意に最大値を示し,粘性係数dは立脚 相初期に有意に最大値を示した.アーチの存在理由として様々な議論があり,①立脚相後半の足部がスプリング様 の構造であること,②立脚初期における足部は衝撃緩衝効果を認めることを定量的に示した.

 上記に示したモデル解析手法により,歩行中の足部で生じている力学的挙動を量的な変化として捉える事が可能 となった.定量化された物理量は過去の定説にも準ずるものであった.

 第6章では,以上に示したモデル解析の結果を受け,応用例として①足底装具の評価への応用,②安定化動歩行 を再現するための義足足部の設計試作を提案した.①に関しては従来からある足底圧分布計測では検出不可能で あった足の変形に関与する力学的な均衡をモーメント値によって評価する試みである.これによって従来のアーチ サポート形状は立脚中期までの効果は認めるものの,最大モーメントが発生する立脚後期には効果がないことを示 し,改良の必要性を呈示した.②では老人の切断者の増加を背景に義足歩行の安定化が求められており,そのため に外側に倒れないよう体重心を内側へ移動させる義足足部構造の設計コンセプトを提案しており,これは過去に例

(4)

がない.具体的には,ヒトの足部変形は内側と外側で異なり,内側が柔軟である実測データに基づき,義足足部の キールを内外側に分割し,それらに弾性比を持たせる構造を設計した.さらに,企業(今仙技術研究所)と協力し てプロトタイプを製作し,義足歩行に及ぼす効果を足底床反力作用点軌跡,体重心軌跡の定量化による検証を行っ た.高齢者の義足歩行は不安定要素を多く含み,最悪の結果である転倒,さらには骨折といった事故から,最後は

「寝たきり」という社会問題にまで発展する.このように,転倒防止はリハビリテーション分野において現在,強 く求められており,本論文で提案している新規開発の義足足部の貢献度は極めて高い.

 第7章では,本論文で得られた成果を整理し,研究目的が達成されたことを示すと共に総括を行っている.また,

今後の課題と展望として,より簡便な計測装置の開発やモデル解析結果を応用した老人用転倒防止靴などを提案し た.

 この様に,足部そのものの解明が成されて初めて疾病に対する治療法や,正確な装具療法,さらには安全で機能 的な義足足部が確立される事を考えれば足部研究の重要性は高い.ここで示した応用例は今後さらなる可能性を見 せると考えられる応用例の片鱗にすぎない.本研究の成果として提案した足部解析手法を応用する事により,今後,

個人差としての足部構造の相違や歩行条件による変化など,ヒトの足部を対象とした様々な研究に適用できる.こ の他にも病的変形を生じた足部のモデル解析,新しいスポーツシューズの開発,機械を用いた身体機能の補助,二 足歩行ロボットの機械的コンプライアンスを有する足部構造の開発などへ結びつき,将来の様々な応用が期待され る.本論文で示された歩行中のヒト足部のモデル解析とその応用例は,人間工学,リハビリテーション工学,バイ オメカニクスのみならず,ロボット工学,機械工学など,多くの工学分野に応用可能である.

(5)

第1章 序章 ... 1 1.1 足部研究の背景と本研究の位置づけ

1.2 ヒトの二足歩行と足部 1.3 足部モデル解析の提案 1.4 本論文の構成

第2章 X線ビデオを応用した疑似歩行中における足部形状変化の定量化 ... 12 2.1 はじめに

2.2 Videofluoroscopyによる計測 2.3 骨位置変化の定量化

 2.3.1 計測平面の較正  2.3.2 デジタイズ手法 2.4 足部小関節の角度変位

2.5 アーチ角度変化の瞬間中心同定 2.6 水平面における撮影とX線計測の限界 2.7 小括

第3章 足部の機能解剖学に基づく矢状面力学モデルの構築 ... 27 3.1 はじめに

3.2 解析手法

3.2.1 剛体リンクモデルを用いた一般的歩行解析手法

3.2.2 矢状面1軸2リンクによる単純化された足モデルの構築 3.2.3 アーチモーメントの定式化

3.3 モデル解析のための生体パラメータの取得 3.3.1 足部の物理定数

3.3.2 DLT法による3次元動作計測 3.3.3 床反力計測システム

3.3.4 被験者及び歩行条件

3.3.5 計測データの基本的処理計算法 3.4 アーチモーメントの定量化と考察

3.4.1 計測結果

3.4.2 DLT法による計測値の検証(X線DRFによる計測値との比較)

3.5 小括

論 文 目 次

  

(6)

第4章 バイオメカニカルに重要視される関節群を含む三次元モデル解析 ... 51 4.1 はじめに

4.2 三次元4軸力学モデルの構築 4.2.1 アーチ軸

4.2.2 TCJ 軸 4.2.3 STJ 軸 4.2.4 MPJ 軸

4.3 生体計測実験及び被験者

4.4 各関節角度・モーメント・パワーの定量化と考察 4.4.1 各関節部における結果と考察

4.4.2 総合的に観た足部の力学的挙動 4.5 小括

第5章 足アーチの粘弾性特性の同定とアーチ支持要素の総合的考察 ... 75 5.1 はじめに

5.2 関節粘弾性を付加したアーチのモデリングと粘弾性の同定 5.2.1 最適化手法を用いた粘弾性率の近似解

5.2.2 解析結果

5.3 同定されたアーチの粘弾性率からアーチ支持機構の考察 5.3.1 歩行中のアーチ構造変化に関する考察

5.3.2 アーチ支持要素としての靱帯群

5.3.3 筋張力によるアーチ支持力を含む総合的考察 5.4 アーチ支持機構の日内変化に関する考察

5.5 足底軟組織に関する考察 5.6 小括

第6章 足部モデル解析の応用 ... 93 6.1 はじめに

6.2 アーチモーメント解析による足底装具の評価 6.2.1 足底装具の使用状況と現況

6.2.2 足底装具使用時における足部挙動の変化

6.3 歩行中の足部機構解析結果に基づく義足足部の試作と評価 6.3.1 背景と開発のコンセプト

6.3.2 プロトタイプ義足足部の仕様と静特性 6.3.3 試歩行による客観的評価

6.4 小括  

(7)

第7章 まとめ ... 107 7.1 研究成果

7.2 足部モデル解析の可能性と将来

附録 ... 111 A1 足部構造に関する解剖学的・機能解剖学的記述

A1.1 骨格構造

A1.2 後足部のユニバーサルジョイント構造 A1.3 アーチ部を構成する中足部

A1.4 前足部における足指の関節 A2 立位安定性機構に関する記述 A3 二足歩行に関する基本的記述 A3.1 歩行解析用語の定義 A3.2 歩行解析手法 A3.3 正常歩行パターン A4 デジタルロウパスフィルター A5 座標変換手法

A6 被験者6名の足部解析データ A7 義足足部設計図

謝辞 ... 138

参考文献 ... 139

研究業績

(8)

1.1 足部研究の背景と本研究の位置づけ

 本研究の目的は,二足歩行というヒト特有の運動に起因する足部の変形を適切に表現できる 足部力学モデルを提案し,さらに計測実験,及び逆動力学解析によって歩行中の足部変形や力 学的挙動を明らかにすることとする.本研究の適用例として,足に病変を有する患者のための 足底装具や靴型装具の評価システムの開発や装具そのものの新しいデザインの提案,及び足部 を失った切断者の義足足部の開発などを考え,本研究における成果として示す.

 本研究の背景として足部疾患を有する患者,あるいは足部の問題に関する愁訴が多いという 事実がある.平成13年の厚生労働省の調査によると(1,2),肢体不自由により身体障害者と して認定を受けた人は175万人であり,昭和26年より増加の一途を辿る.骨関節障害,あ るいは麻痺性の障害など原因は様々であるが,下肢に関係する疾患による者を合計すると106 万人に達すると推測される.その殆どの症例において足部には何らかの症状が現れ,少なから ず何らかの手段によって立位歩行の支援策が講じられているものと考えられる.また,痛みは なく,治療対象とはならないまでも扁平足症状に悩む者は多く,足が疲れやすいという訴えを 聞く.また,外反母指症状に悩む者も多いが,決して先が尖った靴だけが原因ではなく,歩容 や筋張力に原因するとした説もあるが,定かではない(3)

 この様に多くの人が足部の症状に悩み,その対症療法の中で保存療法として装具療法が選択 され,実施されているのが現状である(4).この様な装具は患者個々の足を採型したモデルに 基づいて,義肢装具士が一個一個手作りで製作するものである.装具形状が生み出す直接的な 矯正力,つまり足底装具の場合はアーチサポートの高さや頂点の位置などが,患者に適合して いることが必要条件であることはいうまでもない.しかし,アーチサポートの適合は医師,義 肢装具士の視覚と患者の感覚(圧覚,痛覚)からのフィードバックによって評価されるのが一 般的であり,正確とは言い難い部分もある.

 現在行われている足底装具の評価方法は足底圧分布の解析によるものが主流である(例えば5).   

第1章

序  章

(9)

この手法は足底面とアーチサポート表面との間隙にフィルム状の圧センサーを挿入し,足底の 複数箇所における圧分布を測定することによって足の状態,つまりはアーチサポートの効果を 評価するものである(6).しかしながら,この手法はアーチサポートによって足内部にもたら された力学的効果を捉えているとは言い難く,足部の変形防止という見地からは有益とは言い 難い(7)

 この他に足底装具の定量的な評価方法としては床反力計を用いて床反力ベクトルパターンの 相違点や,床反力作用点軌跡の違いに着眼して行われた報告もあるが(8),どちらかというと 足底装具が及ぼす二次的な歩容の変化に着目するものであり,直接足の状態を表す物理量であ るとは考え難い.また床反力計が大がかりである点からも一般的な臨床現場で有効ではない.

 そこで,本研究における足部のモデル解析手法を適用することにより,足内部の力学的挙動 を知ることが可能と考えられ,換言すると足部を変形させようとする力の大きさを定量化する ことによって装具の定量的評価が可能となり,より適合性がよく効果的な装具,さらには新し いデザインによる装具の開発にも有効であると考えられる.将来的には本研究で得られた結果 を基に,簡便な評価システムを開発するといった方向へも発展性が予想される.

 足部そのものに対する研究のニーズは高い.前述のように,外反母指や扁平足といった足部 の変形は原因が特定できないものもあり,治療法は対症療法が適用されるのみであり,これら の病的なメカニズムや原因究明のために様々な研究が行われている(9 - 11).これらの研究は 屍体足部を用いたもの,あるいは現在ではコンピュータシミュレーション解析によるものが多 く,ヒト足部の研究はその方法論において大きく制限を受ける事が窺える.その一つに,ヘル シンキ宣言(12)により生体実験の実行に際して十分な倫理面の検討が行われるべきである事 はいうまでもないが,ヒト足部と類似する足部を有する動物が存在しないために動物実験の実 行も不可能である点が挙げられる.前述の代表的な疾患は更にリウマチや糖尿病などの原因疾 患を有する場合もあり,増加傾向にあることからも合併症としての足部疾患に関する保存療法,

手術法の研究は更に必要度を増すものと考えている.足部そのものの解明が成されて初めて疾 病に対する治療法や,正確な装具療法が確立される事を考えれば足部研究の重要性は大きい.

 また,疾患に限らず,ヒトの老化は誰にでも訪れる.筋力の老化は末梢の筋より始まるとい う説があり(13),下肢では足底の筋群や下腿部の筋群が加齢による筋力低下を引き起こし,こ れらの筋群によって運動を行っている足関節のコントロール性が若年期・壮年期に比較して減

(10)

少する事が示されている.それによって転倒の可能性が高まると懸念される.本研究は老人・

転倒という現在のキーワードに対処するための手段としても応用が期待される.さらに,ポジ ティブな応用例としてはスポーツシューズへの応用であろう.僅かでも記録更新を目指し,あ るいはスポーツ障害の予防を念頭に置いたシューズ開発の裏側にヒト足部の研究が根底として 存在する(例えば14)

1.2 ヒトの二足歩行と足部

 ヒトの足部は二足歩行のための必要不可欠な形状として,複雑な構造を有していると考えら れる.解剖学的には28個の骨が多数の靱帯で結合されて小関節を構成し,ヒト足部の特徴で あるアーチを形成する.足部は靱帯,及び多くの筋によって支持力を得てその形状を保ってい る.骨格構造に関する名称,単軸構造ではなくユニークな運動を行う足関節,及び最も著明な 特徴であるアーチ構造について,解剖学的および機能解剖学的な事項を附録 A1 に記述した.

 また,従来から通常の歩行解析においては足部は1個の剛体リンクとみなされ,足部自体の 変形は殆ど注目されていない.しかし,足部には機能解剖学的に重要な関節として,距骨下関 節,横足根関節,足根中足関節,中足指節関節(MP関節),及び足指の関節群が存在する.に も拘わらず,歩行中のこれら関節群の解析はあまり一般的ではないのが現状である.しかし,

これら関節部における力学的な均衡が崩れたケースでは,病的な足部変形を引き起こすため,

臨床の立場からは,装具療法や治療効果の評価を目指して,足部自体の変形の解析が必要と考 えられる.

 ヒトの二足歩行は闊歩性二足歩行と称され,他の動物に見られない特徴である.これは大股 で歩くことを意味している.二足歩行を開始した当初は不安定で不自然であったと思われるが,

長い年月を経て円滑な歩行へと進化の道を辿ったと考えられ,足も同様に進化を遂げて今日の 形状があると考えられている.

 ヒトがこの姿態で立ち,歩き始めた原点を探ると人類学に学ぶこととなる(15 - 17).渡辺 (1980)は二足歩行の獲得過程を次のように説いた(18).気候の寒冷化とともにそれまでの生活 地域であった森林の植物性食料が減少する.そこでヒトはサバンナ,草原へ草食動物を求めて 狩猟を行うことになる.集団での長時間の狩猟活動の後,捕獲した食料を運搬し,調理し,保 管することを始めたのである.これらの作業は上肢の働きを必要とし,結果として中枢機構は 発達し,巧緻動作を行う手が開放され,円滑でストライドが長い闊歩性二足歩行が開始された

(11)

というものである.Lovejoy(1988)は更にユニークな仮説として,狩猟以前にも果物や木の実 を,集落で待つ妊娠した女性に運ぶために手を使い,二本足で歩き始めたという興味深い生殖 戦略説を唱えている(19,20)

 移動様式の進化は骨格の形態変化を伴った.ヒトが二足による佇立,歩行,走行を可能にし たのは,ヒトが持つ他の動物に見られない足部構造が寄与するところが大きいとされる.ヒト の足の特徴はアーチ構造に代表され(21),このアーチもまた二足歩行とともに進化を遂げたこ とはオルドワイ渓谷に代表される化石の出土や(22,23)動物の足部との比較から様々に論じ られている(24 - 26).Kieth(1929)が示唆するように足の進化を知る事は足の治療にも大いに 役立つものと考えられている(27)

 しかし,例えばアーチの存在理由一つを取っても明確な理由が解明されておらず,推定の域 を出ていないのが現状であり,ヒトの足は実に不可解であるといえる.ヒト以外の動物で足部 にアーチを有する動物は殆ど存在しない(28).動物たちはそれぞれに環境と生活形態に適応し た足部と体形を有し,これもヒトと同じく淘汰と突然変異を繰り返した結果であろう.むろん その種が何らかの原因で途絶えない限りは進化の過程の一時期を形成した結果に過ぎず,ヒト も含めて数万年の未来,どのような体形と足部をもって生活しているのかという点では現在は 推論の域を出ない.

 陸上で生活する動物の例として準二足歩行を行うチンパンジーやゴリラの足部をみると,骨 格はほぼ類似しているが,足部のアーチ構造は存在しない.この事は移動様式として樹上を渡 り移る「ブラキエーション」が原因しているといった説がある(29).木に登り,木に掴まるた めに適応した足部の形態である.高速で疾走する四足獣を見ると,例えばウマに代表されるよ うな蹄で接地する動物がいる.これらの種類を蹄行型と称し,イヌなどは足指を全て接地する ために趾行型と称して区別する.因みにヒトやクマ,サルなど足底全体で接地するものは蹠行

(せきこう)型と称する.蹄行型と趾行型は少ない面で接地し,脚の先端は細く,付け根の駆 動部分は大きな筋が付着して太くなった構造を呈している.接地する部分はヒトのつま先にあ たり,一見して膝に見える部分は人の踵に相当する.また,この部分の筋付着部位はヒトより もレバーアームが長く,同等の筋張力から大きなモーメントが発生される構造である.先端が 細い構造は脚全体の慣性モーメントを減少し,振り出し力を軽減するための構造と考えられて いる.ヒト同様とはいえないが,足部にアーチ構造を持つ動物はゾウに代表される大型動物で ある.数トンにも及ぶ体重を支持するためなのか,あるいは別の理由からか足部にはアーチら しきものが存在する.しかしアーチの支持構造はヒトとは全く異なる構造である(28,30).ヒ

(12)

トは 100 mを 10 秒台で疾走するが,この理由は走行時にはヒトの足は趾行型に変化している ためである(Fig .1-1).

 ヒト足部アーチの存在理由について,諸説が存在する.水野は一連の研究において歩行以前 に佇立への寄与率が高い事を示唆している(24,31).これは,単なる突っ立ちではなく,安定 して自由さを十分に備えた,佇立にはなくてはならない機構であるという理由からである.ま た,歩行時でも接地直後の不整路面への対応時にはかなりの寄与率が推定されるが,このこと を確認した報告はみあたらない.Perryは踵接地から足底全体が接地するまでの緩衝効果を述 べている(32).また,つま先で地面を蹴り出す際のスプリングの効果という記述もある(33 ,

34).何れにせよアーチの存在意義は定量的に確認された事実は少なく,この存在意義を探る のも本研究の目的である.

 アーチは多くの組織によって支持されている.水野は自らの足を含む何名かの被験者に対し て,15kgのリュックサックを背負って過酷な長時間荷重を付加するという実験を行っている.

この結果,日内変化における僅かなアーチの低下は見られるが,殆ど変化のないもの,さらに は逆にアーチが挙上するものなど,興味ある結果を報告している.この結果が示すようにアー

Fig. 1-1 The skeletal structure of the human and animal leg, and change with locomotion type in human foot.(28)

Fe:femar

T:tibia F:fibla

:calcaneus

:metatarsal :phalanx

DOG

COW HORSE

BARE

HUMAN

Digitigrade type Ungurigrade type Plantigrade type

Plantigrade type at walking.

Digitigrade type at running.

(13)

チ支持組織の個人差が大きいことが解るが,詳細は明らかではない(35)

 足部のアーチを支持する要素としては受動的要素である靱帯,足底腱膜,そして能動的要素 である筋がある.これら支持要素の質的,あるいは量的な差異によってアーチ形状の個人差が あるものと考えられるが,明確に実測されてはいないようである(36)

1.3 足部モデル解析の提案

 ヒトの二足歩行の解析は古くから科学の対象であった.Hi p p oc r ate s( B C  4 6 0- 3 77 ) , Aristteres(BC 384-322)の時代から歩行に関する記述があり,Leonardo da Vinci(1452-1519) は「彼が動いていこうとする方向へ,より多くの体重をかけなければならない」と歩行時の体 重心移動に言及している.近代では写真技術を応用した Marey(188?),ガイスラー管を使用し た Browne & Fisher (1895)が歩行運動学の基礎を築き,1953 年以降の UCLA グループの研究 は二足歩行の解明に大きく寄与した(37).Elftman(1939)は床反力計を使用した力学解析を行 い(38),骨にピンマーカーを施して行った Levence(1948)による歩行時の下肢回旋角度の定量 化(39),Bresler(1950)が行った関節モーメント導出(40),そして足部の研究でも多くの実績 を残す Mann,Inman(1964)の歩行時の筋活動に関する一連の研究(41)などである.

 関節モーメント導出法は3次元動作解析技術の進歩によって現代の歩行解析の主流ともいえ る手法となっており,剛体リンクモデルを用いたニュートン-オイラーの逆動力学解析を基礎 とするものである(例えば42,43).一般的には進行方向である矢状面に着目した解析が行われ,

Fig. 1-2 に示すようなモデルが設定されるが,図示したように足部は1個の剛体モデルとし て表される.しかし,この研究の問題領域である足部は1個の剛体ではなく,歩行中の床反力 を受け止め,複雑に形を変えながら歩行に関与するものである.

 足部の研究としては歩行解析とは異なる分野として多く存在する.静力学的な解析として,

足底のTripod Supportをシェーマとしたものが1920年代の著書に存在するが原点は定かでは ない.Veres(1977)は幾何学的な図式解析手法を用いてアーチ部への負荷を推定した(44).こ れによってハイヒール靴の危惧が唱えられている.形状変化のみの記述ではHicks(1954)が複 雑に絡み合う足部の小関節が構成するアーチ構造と足底腱膜との関係を著している(45,46).  二足歩行とアーチの変形との関連は Elftman(1960)による説が定説とされている(47).これ は足部の構造が立脚期前半においては柔軟構造であり,後半においては強固な構造に変化する という記述である.この構造変化は距骨下関節の構造が大きく関与している.歩行中の体幹の

(14)

回旋が,下肢を伝わり,距骨下関節へと伝達される.ここで距骨下関節の関節軸が,矢状面に おいて約40度の角度をなしている構造により,これより前方の横足根関節へは長軸方向の回 旋となって伝わる(48).この一連の構造変化を F i g . 1 - 3 にまとめる.Isman,Inman; Human Walking(49),Mann; Biomechanics of a Foot and Ankle(50)など足のバイオメカニクスを 取り扱った多くの文献はこの説に従っている.構造変化は距骨下関節からさらに,横足根関節 を構成する距舟関節と踵立方関節の関節軸位が準パラレルになる時期と,直交して全く不一致 となる時期とでその性質が大きく変化すると解説されている.しかし,この記述は関節機構学 に基づいての記述であり,足部自体の変化を歩行中に実測するようなものではなかった.

 ダイナミックなアーチの解析として,山崎(1982)は足長の距離計測により角度に変換する歪 みゲージ式の角度計を自作し,歩行中のアーチ角度変化として導出した(51).同時に小型床反 力計を用いて3分割された足底の反力から足部の負荷を導出している.角度変化については Yang(1985),Kayano(1987)らが同様の装置を使用した一連の論文により,やや異なる結果を報 告し,医学的側面から見たアーチ支持機構について考察している(52 - 55).これらの結果を見 Fig. 1-2 The theoretical rigid link model for the

human gait analysis methods. There are three segments, thigh, shank, and foot, and three joints, hip, knee, and ankle joint. Each segment has its own mass and moment of inertia.

Foot segment

FRF

Ankle J.

moment

Thigh segment

Knee J.

moment Shank segment Hip J.

moment

(15)

ると,歩行中の足部は特に立脚相(片足支持期)において踵の内側と第1中足骨頭間の距離が 伸長することが確認されており,当然それに伴いアーチ角度も低下するものと考えられた.静 止時におけるアーチを計測した報告は数多く存在するが,歩行中のダイナミックな計測となる と最適な計測装置が存在せず,計測器自体が外乱となり現在でも困難な状況である.

 モーションキャプチャー技術の寄与により,何例か足部に適用した報告もなされている.

Scott & Winter(1993),Kidder(1996)らは足部内の推定関節点における負荷をモーメントと して解析した(56,57).力覚データはやはり小型のロードセルを用いている.これは解剖学的 な関節位置にボール継手モデルを構築し,横足根関節,足根中足関節,MP関節部のモーメン トを導くものであった.しかし,足部3点の位置計測データとフットプリントによって求めた 関節位置を同位させて各関節位置を推定する手法によるもので,刻一刻と変化する関節位置に 対応できるシステムではなかった.

 本研究においては汎用の床反力計とモーションキャプチャー装置を応用した計測により,歩 行中足部の解析を行い,義肢・装具開発の糸口となるような解析結果の導出を目指すものであ

Fig. 1-3 The changes of the foot conditions, rigid and flexible structures during a gait cycle.

CCJ TNJ STJ

TTJ Low arch High arch

CCJ

TNJ STJ

TTJ Early stance Terminal stance

Rigid Structure

Flexible Structure

(16)

る.しかし,足部の力学モデル解析を行い,アーチの変形に言及するためには正確なモーメン ト値を導出するシステムが必要となる.正確な運動学的計測値と運動力学的計測値を較成する 事により,また,足部の機能解剖学を熟知した上で単純化されたモデルを構築する事によって,

歩行中の足部内で生じている現象を具現化できるものと考えられる.ここで,本研究目標に有 益な足部モデルをデザインするにあたり,必要条件を次のように整理する.

①歩行中の形態変化に対応するもの.

②必要最小限の関節を有するもの.

③将来的に病的変形に対応可能なもの.

これらの点を踏まえて足部の力学モデル解析を実施した.

 また,現在までのところアーチの強度を定量化した研究は見あたらない.扁平足などの足部 障害は地球上の重力下において,二足歩行という独特の移動方法に伴って生じる負荷に抗しき れなくなった生体のアーチ支持機構が破綻をきたしたためと考えられるケースが多い.本研究 は,アーチ部の変形と力学的挙動を定量化し,次に,アーチ支持組織をモデル化する事によっ てアーチ支持機構の強度を同定する.これによってアーチ構造が破綻し,足部変形を生じた患 者の足部の評価,あるいは装具療法に代表される力学的な治療用装具の評価,検討に役立つも のと考えられる.さらには足部自体を失った切断者の義足足部,あるいは更に進んで二足歩行 ロボットの足部にも応用が期待される.

 人の足部構造はきわめて複雑であり,決して1個の剛体ではない.しかし,足部のモデル解 析を遂行するにあたり,足部の解剖学的組織の詳細を全て何らかの力学モデル要素に置き換え ても,結果を導く事は困難であり,また,歩行中の,さらには病的な足部変形に着目した本研 究の目的にそぐわない方法である.従って,足部の複雑構造を如何にして単純化した力学モデ ルとするかが第一の課題である.

 この様に多くの研究者がヒトの足の研究に取り組んでいるにもかかわらず,冒頭で述べたよ うに,アーチ支持機構の詳細については明白でない部分が多い.さらに,支持機構が破綻した 場合に変形足へと変化する機序も含めて,アーチ支持機構の力学的解析が本研究の目指すとこ ろであり,アーチ本来の存在理由にまで仮説を拡げながら行った.

(17)

1.4 本論文の構成

 本研究では足部の基本的な構造,つまり原点である足部のバイオメカニクスに立ち返り,総 合的足部解析手法を提案した後,前述の応用例に至る過程を論文にしたためる.本論文は以下 に示す7章にて構成される.第2章から第4章にかけて歩行中のアーチ構造に主眼をおいた力 学モデル解析を行った過程を示しており,第5章でそれまでの結果を基にアーチ部の粘弾性に 着目したシミュレーション解析結果を示す.そして,第6章にて本研究の目標に近づくような 応用例を紹介した.

 第2章では,歩行中における足部の力学モデル解析に先立ち,X線ビデオを応用しての足部 連続撮影を実施した.この解析は歩行中の足部形状変化を足部内の骨位置変化にまで立ち返り,

矢状面における距舟関節,舟楔関節,足根中足関節,踵立方関節の角度変化を定量化するもの であった.この結果として舟楔関節に最も大きな角度変化が確認された.さらに,副次的に得 られた結果として,第3章に記述した赤外線反射マーカーを体表に貼付して実測されたアーチ 角度変化とX線ビデオによる骨直接撮影から算出された角度変化は一致する事が確認された.

この事はモーションキャプチャーの有効性を示すものであり,足部のような複雑な部分の動作 解析においてもこの手法を応用する事が可能であることが確認された.

 第3章にて最も単純な矢状面2リンク1軸モデルを提案し,ニュートンオイラーの運動方程 式に基づく逆動力学解析からアーチ部の関節モーメントを導出した.運動方程式のパラメー ターを得るために,モーションキャプチャーによる生体計測を繰り返した.本研究は最終的に は臨床応用を目的とする事から,モデル解析に用いるモデルはなるべく単純化したいといった 意図によるものである.ここでの課題は1軸の位置をどこに決定するかであった.先行研究を 見ても,歩行中のアーチ変形に関する明確な記述はなく,第3章の結果を受け,歩行中のアー チ角度変化は舟状骨部を中心として起こると考え,足部の表面からも容易に触知出来る舟状骨 粗面をアーチの回転中心とする事を決定したものである.

 第4章では,歩行中のアーチは足部内の諸関節との連動性が高いことを踏まえ,また,足部 変形はアーチ以外の部分にも生じている事実により,これら諸関節を導入した3次元モデルを 構築しての解析を行った.この結果から,足部内の関節連動性について考察を行った.

 第5章では,前章までの結果を受けて,アーチ部に回転バネ - ダッシュポッド系粘弾性要素 を有するモデルを提案し,シミュレーション解析を行った.その結果,歩行周期を足部の力学 的状態から4相に分割した際の各層における粘弾性率を同定した.この結果により,従来から

(18)

説かれていた立脚初期における衝撃緩衝作用,および立脚後期における足部のスプリング効果 といった現象がバネ・ダンパーの数値解に現れた.粘弾性モデル解析手法を用いた足部解析の 報告は見あたらず,今後の様々な場面における足部解析において有効な物理量ではないかと考 えている.

 第6章ではこの解析手法の応用例として①足底板効果の解析,②歩行中の足部機構解析結果 に基づく義足足部のデザインを報告する.

 これらの研究結果を総括し,第7章にまとめる.また,総合的な考察として,歩行中におけ る足部の力学的挙動と足部モデル解析の可能性,及びその将来性について言及した.

 以上述べた本研究の流れを Fig. 1-4 に示す.

Fig. 1-4 The total design of this study.

第2章

X線ビデオ解析

第6章

モデル解析手法と結果の応用 第5章

アーチ部の粘弾性解析 第4章

3次元モデル化 第3章

単純化された足部モデル解析

生体計測

生体計測

アーチ角度変化 アーチモーメント

各関節間の 連係動作

アーチの強度を 同定

義足足部設計 装具評価手法

(19)

第2章

  X線ビデオを応用した疑似歩行中における   足部形状変化の定量化

2.1 はじめに

 モデル構築に先立って,関節の位置と運動軸については足の機能解剖学に学ぶことで解決で きた.しかしながら,単純化されたアーチモデル化のためには,アーチを矢状面2リンク1軸 モデルとして第1近似とするのが最も適していると考えられるが,軸位置の決定にあたり,参 考となるような報告は見あたらない.根本に立ち返って考えてみると,アーチ平低化をもたら すのは足部内に存在する小関節の微細な変位の総和である.また,本来アーチは複合関節であ り,歩行中の微細な形状変化は小関節部における歪みの集合である.本研究の第一段階として,

この複雑な足部形状変化を表現する力学モデル構築を行う.そこで,研究目標に有益な足部モ デルをデザインするにあたり,必要条件を次のように整理した.

  a. 歩行中の形態変化に対応するもの.

  b. 必要最小限の関節を有するもの.

  c. 将来的に病的変形に対応可能なもの.

 しかし,足部のアーチ構造が複合関節である点と,必要最小限の関節でモデルを提案したい という意図の間に矛盾が生じる.そこで,矢状面リンクモデルを構築するための段階として,

先行研究がない歩行中の足部形状変化を詳細に捉えようとする意図から,X線連続撮影による 足部の骨位置変化の計測を計画した.

 足部アーチを構成する小関節の荷重 / 非荷重時の変位を解析した研究としては,富永ら (1994)が荷重時X線側面撮影像よりアーチ構成部である足根骨関節部の横倉法による計測,及 びHibbs角を計測し,足根部の剛体バネモデルを用いることによって足根骨間関節の圧縮力を 導出している.これによると内側アーチの低下に伴い,各関節の圧縮力が低下するが,関節群 のなかでも楔舟関節に最も高い圧縮力を確認したことが報告されている(58).また,土門 (1999)らは屍体足にウェイトによって負荷を与え,その際の諸関節部における角度変位を導出

(20)

した実験を行い,楔舟関節部において最も大きな角度変位を報告している(59).しかし,何れ の報告も静的な実験結果であり,さらに後者は屍体足部による研究結果である.歩行動作中に おける足部内の小関節部の角度変化を解析した研究は見あたらない.そこで,本研究では先ず,

このアーチの形状変化を小骨間の変位として捉え,変位量を歩行運動中において定量化すると ころから始める.

 体内組織の可視化手段としてX線は有効と考えられ,これまでにも多くの足部計測への応用 例が報告されている.Saltzman(1995)らは平均年齢46歳の男女100名に対し,Calcaneo-first metatarsal angle の計測を行い,直接計測されたアーチ角度と体表面計測によるフットプリ ントからの足長と舟状骨高さとの相関を示している(60).Tanaka(1999)らは外反母指と踵骨外 反角との関係を報告した(61)

 骨の動きを可視化する手段としても同様であり,現時点においてX線以外にないと考えられ る.静止画像として記録するのであれば,被ばくを伴うX線撮影,透視,造影,被ばくを伴わ ない核磁気共鳴(MRI),超音波を用いたエコーなどがある.また,歩行という立位移動動作中 の足部を時系列に計測する手法はごく限られた方法に限定される.第1にX線を動画として記 録するX線透視(Videofluoroscopy),第2に Functional MRI,そして第3に超音波エコーな どが候補としてあげられた.Functional MRIを利用するにあたっては歩行動作が問題となる.

現存する Functional MRI はベッド上臥位でのみ計測可能であり,立位歩行という移動動作中 の足部を計測することは不可能である.また,超音波エコーについては画質が著しく劣るため に,ごく僅かな足部の骨位置変化を捉えることは不可能であると考えられた.そこで,今回は 画質に勝るX線 DRF 方式 Digital Radiography Fluorography (以下 DRF)を応用しての計測 を実施した.Videofluoroscopyを用いた解析としてはPerlman(1996)は立脚中期の前後におけ るCalcanal Pitchを報告している(62).しかし,結果は立脚中期前後における一瞬の画像(3 フレーム)による結果であった.その後,Wearing(1998)はCalcaneo-first metatarsal angle を報告している(63).この値はアーチの角度変化に近似するものと考えられる.Geffen(2001) はこの装置を応用し,足部の骨位置変化を計測した上で,有限要素法による骨歪みの解析結果 を報告している(64)

 本章では足部の中で生じた骨の位置変化をより詳細に捉えるために,矢状面より観察可能な 骨の全てを撮像の較正空間に座標化し,相互間における角度変化を算出した(65).第2章にお いては,Videofluoroscopyによる足部計測実験の詳細と画像データから位置データを導出する にあたり,今回行ったテンプレートを用いる手法によるデジタイズ法を述べ,これによって算

(21)

出された足部に存在する小関節の矢状面角度変化を結果として示した.

2.2 Videofluoroscopy による計測

 X線検査は生体を傷つけずに画像によって靱帯の内部構造や病変を形態的,機能的に把握で きる手段であり,現代の診療に欠くことのできない手段である.しかし,X線には被ばくとい う大きな問題があり,診療という本来目的以外にむやみに使用するべきではない.今回の計測 も同様であり,計測による被ばく量を正確に計算し,通常の健康診断や予測される不慮の疾病 の際に用いられるであろうX線被ばく量を加えて,更に余裕ある範囲内で行うべきである.ま た,被験者は防ばくエプロンを装着し,計測目標以外の部位への被ばくを極力避けるなどの配 慮は言うまでもない.

 DRF 方式には大別して Radiography-Fluroscopy (RF)方式,CT 撮影に用いられるスロット 方式,いわゆる Computer Radiography がある Imaging Plate 方式があり,今回は平面的な連 続撮影を目的とし,透視が可能なRF方式を応用して計測を行った.装置はDIAGNOST 97 DXTV

(PHILIPS社製)を用いた.この装置の本来の使用目的としては,バリウムを用いた胃の透視な どに使用されるオーバーテーブル型のTV透視撮影装置である.今回,この装置を応用した DRF 方式とは被写体で吸収を受けたX線を Image Intensifier(以下 I.I.)で光に変え,TV カメラで光信号を電気信号に変換し,デジタル化する装置である.I.I.は視野による描出制限 があるため広範囲の撮影は困難であるが,今回の計測では矢状面からの足部の撮影であり,十 分に視野範囲である.一次蛍光面で可視像に変換された蛍光像を,入力蛍光面に接して作られ た光電陰極によって光電子に変換する.光電子は 20 〜 30kV の負荷電圧を加えた集束電極と陽 極とで加速し,収束され(電子レンズ),出力蛍光面(二次蛍光面)に衝突し,再び可視像に 変換される.蛍光像を数千倍に増強する装置であり,X線TVには最も重要な部分である.

 次の段階で光学画像データをデジタルデータとして記録する装置が必要となり,これがDFプ ロセッサと呼ばれる部分である.そもそもこの装置は血管に造影剤を注入し,撮影されたデジ タル画像から造影剤注入前の画像を減算処理(subtraction)を行い,造影剤が満たされた血管 のみを抽出する目的で使用されている.Digital Subtraction Angiography: DSA と称され,

臨床現場では頻繁に用いられる.DF プロセッサは I.I. 出力画像を再度,光学系を通過させた 後,X線TVカメラで映像信号に変換し,A/D変換器にてディジタルイメージへと変換し,ディ スクなどへ記録すると同時に再度D/A変換されたデータをディスプレイ上に表示するものであ る.システムの概要図を Fig.2-1 に,DRF システムの性能を Table2-1 に示す(66)

(22)

Fig. 2-1 The procedure of X-ray Digital Fluorscopy and Image Intensifier.

Fig. 2-2 The situation of sampling.

Table. 2-1 Specifications of DRF system.

A/D Converter 8 bit sampling 10 MHz Image memory

speed max 7.5 frame/sec matrix 1024 x 1034 dot D/A Converter 8 bit

(23)

 今回の足部撮影方法について述べる.この装置は本来,撮影ベッド上に臥して局部にX線を 照射し,ベッド下部の撮影面にて受像するシステムである.今回は歩行中の足部がターゲット であるため,装置を 90 度縦回転した状態でX線照射位置までの高さ調整を行い,計測を試み た.計測装置のセッティングを Fig.2-2 に示す.先行研究から,変形が生じる時期は主とし て立脚期であるため,また装置の構造的制限から歩き抜けをすることは不可能であるため,踵 接地からつま先離地までの1立脚相のみの計測とした.ここで足部の回旋による計測誤差を除 去するために,試歩行台上に足部内側線と踵位置目標位置を指示し,目標位置に足部の位置と 角度を適合させることで対処した.撮影された連続画像の一例を Fig.2-3 に示す.画像精度 は 1024x1024x12 bit, 7.5frame/sec で記録する設定にて RUN 撮影を行い,X線焦点から画像 間の距離は 1,500 mm で,1立脚相を約 8〜9 frame/sec で記録可能であった.空間分解能 は0.8 mm/piccelであり,モデルを提案する以前の段階での計測目的には十分である.しかし,

本格的な足部の形状変化の計測においては前述の被ばくと,このサンプリング周波数の問題か ら後述する3次元計測装置を用いることが望ましいと考えられる.

Fig. 2-3 Digital radiographic images of human foot during stance phase of the gait by 7.5 flames per second.

2.3 骨位置変化の定量化

 2.3.1 計測平面の較正

 撮影された画像は digital image data である.この画像情報から撮影平面内の骨位置を特 定する時系列の座標系を得なければならない.このために先ず連続撮影中に撮影装置を固定し て撮影視野内の座標系を撮影画面内に原点および距離較正が可能な点を特定する必要がある.

(24)

そこで最初にプラスチック板に一定間隔で固定した金属球を撮影することにより,任意の原点 に対する xy 座標平面を較正した.具体的には Fig.2-4 に示すように,固定されたカメラにて プラスチック板に一定間隔にてマトリックス配置した直径1mmの金属球を撮影することにより 行った.また,X線は拡散することが一般的に知られており,同時に拡散による誤差を知るた めに,中心の金属球からの距離を比較することによって検証を行った結果,本実験条件下にお いては,ほぼ直線性を示しており,リニアライゼーション処理は必要とせず,距離較正を必要 とするのみであった.

 2.3.2 デジタイズ手法

 足部の骨の位置をX線像から特定する手法として横倉法(67,68)による関節中心点高さの 計測や,Hibbs 角による踵骨と第1中足骨の中心線とのなす角(69)が一般的な臨床現場では 用いられている.また,踵骨の角度を計測する Calcaneo Pitch や,距骨と踵骨が矢状面にお いてなす角を現す taro-calcaneal angle(70),距骨と中足骨間の角度を現す Meary 角,第1 中足骨傾斜角(71)などである.

Fig. 2-4 Calibration of the x-y coordinate system using the 1mm diameter lead balls placed on the sampling plane.

100mm 50mm

origin x

y

(25)

M1

CN NV

TR

CC Template

Fig. 2-5 Digitization of the positions of each foot bone using template method at the each frame.

a. The template and reference points for identification of bone in the foot.

b. digitizing method.

 これらの方法を参考に,この平面上に骨位置を座標化する独自の手法として,矢状面内にお ける足部の骨像を全て特定可能なテンプレートを作成し,これを用いて骨位置のデジタイズを 行った.今回はPCディスプレイ上で目視による骨特徴点の座標化を行った.この作業には NIH Image 1.62 を使用した.静止時の撮像から骨輪郭に対応する線分を決定しておき,この 位置関係を透明フィルムにプリントし,この基本パターンをテンプレートとして利用する方法 である.Fig.2-5 にテンプレート,及び骨座標化の概念図を示す.テンプレートの骨輪郭を ディスプレイ上でフレームごとの撮像にマッチングさせ,そのときの線分両端の特徴点に一致 する座標を記録し,骨を x-y平面座標系内の線分として認識する.結果として撮影された立脚 期8〜9フレームの各骨位置が時系列座標データとして得られる(Fig.2-6).

o y

x

1

2 4 3

+ +

CC:

Calcaneus

7

5 6 +

8 +

TL:

Talus

11 13

+

12

9+

10 16

14

15

17 +

25

24 19

18 21 20

26 27

NV:

Navicular

CB: Cuboid CN:

Cuneiforms M1: Metatarsal#1

M5: Metatarsal#5

(26)

Fig. 2-6 Videofluoroscopic pictures and to provide the stic pictures of each bones from digityzing X-Y coordinate data. (Subject::TT , male, 45, bodyweight::67 kg , footsize:: 26.5 cm) frame#01

frame#02

frame#03

frame#04

o y

x

o y

x

o y

x

o y

x

(27)

frame#05

frame#06

frame#07

frame#08

o y

x

o y

x

o y

x

o y

x

(28)

-2 0 2 4 6 8 10 2.4 足部小関節の角度変位

 得られた骨特徴点の座標から骨位置の時系列変化,及び相対する2骨間の相対的位置関係と して小関節の微小な角度変化が算出可能となる.結果は足部に特に問題のない健常者1名(著 者)の足部であり,6回の試行から平均および偏差を求めた.

 まず人の足を構成する主要素である内側アーチの角度変化を,アーチの両端を構成する踵骨 と第1中足骨間の角度に現れるものと仮定し導出を行った.6回の計測結果,及び平均と偏差 を Fig. 2-7 にそれぞれ示す.足底接地時から徐々に体重負荷に伴いアーチ角度は開大し,立 脚後期に約8度のピークを迎えた後に減少する.つま先離地後に足が前方へ移動すると撮像範

Fig. 2-7 Medial arch transformation angle were approximated by CC-M1,M2 motions.

-2 0 2 4 6 8 10

M1 - CC angle (6 trials)

(Means + SD. of 6 trials) M1 - CC angle

frame

frame deg.

deg.

(29)

Fig. 2-8 The results of angle changes of each major joints of foot during a stance phase.

-4 -2 0 2 4 6 8 10 -4 -2 0 2 4 6 8 10

-4 -2 0 2 4 6 8 10

-4 -2 0 2 4 6 8 10

TL - NV angle

TL - CC angle

NV - CL angle

CN - M1 angle deg.

deg.

deg.

deg.

(30)

囲から外れるため,DRF 方式では装置の制限からこれ以降の解析は不可能であり,つま先離地 直前までの立脚相におけるデータ解析となる.歩行動作時間に若干のヒューマンエラーがあり,

試行によっては9フレーム,または8フレームであるが平均値算出は8フレームまでとした.

 次にアーチ角度変化がどの小関節の支配を顕著に受けるのかを検証するために,観察可能な 全ての小関節について角度変位を算出した.内側アーチを構成する小関節群としては距踵関節

(CC-TL 間),距舟関節(TL-NV 間),楔舟関節(NV-CN 間),足根中足関節(CN-M1 間)の足 根部の小関節があり(附録 A1),各々の骨間の角度変位は Fig.2-8 に示すとおりである.横 軸は時系列順のフレーム番号で縦軸は小関節を構成する両側の骨がなす相対角度を示す.結果 からその中でもっとも大きな変化を示したのは楔舟関節(NV-CN 間)であり,矢状面内にお ける内側アーチの変化にはこの部分が大きく寄与していることを確認した.

 外側のアーチ形状変化についても定量化を行い Fig.2-9 に示すとおりである.CC-M5 間の 角度変位を外側アーチの変化に近似して算出結果を見ると,先ず分散の大きさが伺える.この 理由は,第5中足骨部は5本の中足骨が重なり合い,座標化の時点において非常に認識しづら かった点が原因するのではないかと考えられる.

 本来,足部は3次元的な骨の集合体であり,矢状面に固定して計測・解析を行うには限界が ある.次節における水平面の撮影像と矢状面像を合成し,3次元座標化を検討したが,装置形 状の制限から撮影が困難であり,断念した.

Fig. 2-9 Lateral arch angle transformations were approximated by CC-M5 motion.

-2 0 2 4 6 8 10

-2 0 2 4 6 8

10 CC - CB angle deg. CB - M5 angle

deg.

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