凍結融解試験方法の違いがコンクリートの劣化に及ぼす影響に関する一考察
住友大阪セメント株式会社 正会員 ○宮薗 雅裕 住友大阪セメント株式会社 正会員 中村 士郎 住友大阪セメント株式会社 正会員 小田部 裕一 住友大阪セメント株式会社 正会員 原田 修輔
1.はじめに
JIS A 1148では水中凍結融解(A法)と気中凍結水中融解(B法)の2種類の凍結融解試験方法が規格化さ
れている.一般にA法はB法よりも厳しい条件といわれており,二つの試験方法の適用に当たっては,試験 の対象とするコンクリートが使用される構造物と水の接触条件を考慮して使い分けるのがよいとされている.
試験方法の違いがコンクリートの劣化に及ぼす影響について,古くから研究が行われている1)が,最近の材料 を用いたもの,近年使用の増加している高強度コンクリートに関しては比較データがほとんど無いのが実情で ある.本稿では,水セメント比(以下 W/C),空気量をパラメータとした 10 種類のコンクリートについて,
凍結融解試験A法およびB法の比較試験を行い,試験方法の違いが劣化に及ぼす影響を考察した.
2.使用材料および配合
実験に用いたセメントは,普通ポルトランドセメントおよび低熱ポルトランドセメントである.細骨材は揖 斐川産川砂,粗骨材は西島産砕石を使用した.コンクリートの配合を表-1に示す.W/Cを25,37,45,55%,目 標空気量を2.0,3.0,4.5%に変化させ,所要の空気量となるようにAE助剤の添加量を調整した.
3.実験方法
凍結融解試験は JIS A 1148に従い材齢28日より開始 した.A法は試験槽内のブライン液およびダミー供試体 の中央部で温度を管理し,ダミー供試体の中央部が最低 温度-18℃,最高温度が5℃となるように設定した.1サ イクルに要する時間は3時間20分程度である.B法は 容積約600Lの試験装置を使用し試験槽内の室温または 水温およびダミー供試体の中央部で温度を管理し,ダミ ー供試体の中央部の温度が A 法と同様となるよう設定 した.1サイクルに要する時間は3時間30分程度であ る.30サイクル毎にたわみ振動の1 次共鳴振動数およ び質量を計測した.試験の終了は,A法,B法共に測定 不能となるか360サイクルまでとした.
4.実験結果および考察
A法および B法のnサイクルにおける相対動弾性係
数(以下Pn)の比較を図-1に示す.既往の研究におい
てはB法におけるPnの低下はA法に比べて小さいとす る報告1)が多く,本実験においても同様の傾向が認めら れた.Pnの低下が認められたW/C37~45%の範囲のコン クリートでは,セメント種類や空気量によらずPn がA
法で40%程度に低下した場合にはB法では80%程度に
キーワード 凍結融解試験方法,高強度コンクリート,相対動弾性係数,質量減少率
連絡先 〒551-0021 大阪府大阪市大正区南恩加島 7-1-55 住友大阪セメント(株) TEL:06-6556-2275
1 LC 8.0 55 44.5 170 309 794 1006 混和剤A
2 混和剤B
3 混和剤C
4 混和剤D
5 混和剤E
6 2.0±1.0 40.0 703 1071
7 3.0±1.0 40.0 693 1055
8 4.5±1.0 40.0 677 1032
9 2.0±1.0 49.0 761 804
10 3.0±1.0 65.0 49.0 748 791
12.0 45 NC
目標スラ ンプ
(cm)
21.0 No
4.5±1.0
G 備考
目標空 気量(%)
単位量(kg/m3)
W C S
25
781 45.0
37 セメ
ント
W/C (%)
s/a (%)
167 371
LC 混和剤F
969
164 443
170 680
表-1 配合表
図-1 A 法と B 法の相対動弾性係数比較 0
20 40 60 80 100
0 20 40 60 80 100
相対動弾性係数(A法)
相対動弾性係数(B法)
No.1 No.2
No.3 No.4
No.5 No.6
No.7 No.8
No.9 No.10
土木学会第64回年次学術講演会(平成21年9月)
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Ⅴ‑235
低下する傾向が認められた.
A 法の相対動弾性係数と質量減少率の比較を図-2 に示す.W/Cを45%としたNo.2~5は,Pnの低下に 伴い質量が減少し,W/Cを37%としたNo.6~8は,Pn の低下に伴い質量が減少した後増加に転じた. W/C を 25%とした No.9,10 は,Pn,質量ともにほとんど 変化せず,W/Cを55%としたNo.1は質量のみが大き く減少した.
B 法の相対動弾性係数と質量減少率の比較を図-3 に示す. No.2~8は,質量が減少した後増加に転じた.
No.9,10は,A法の場合と同様にPn,質量ともにほと んど変化せず,No.1 は質量のみがやや減少する傾向 が見られた.
図-2,3に示した,本実験で得られたPnと質量減 少率の関係には,W/Cと空気量に応じて2種類の劣 化パターンが認められた.
図-4a)に示すケース1(No.3~5)の場合,A法は
Pn,質量ともに減少するのに対して,B法では質量
が減少した後増加に転じる.A法ではスケーリング による質量減少が卓越するのに対して,気中凍結の B法では凍結時の表面含水率が比較的小さいためス ケーリングによる質量減少は少なく,劣化による組 織の緩みに伴う含水量の増加が質量を増加させたも の2)と推測される.図-4b)に示すケース2(No.6~8)
の場合,A法,B法ともにPnの低下とともに質量が 増加する.強度が60N/mm2程度を超える高強度コン クリートでは,水中凍結のA法においてもスケーリ ングがほとんど生じないため,A 法,B法とも劣化 とともに質量が増加したものと考えられる.
本実験の範囲では Pn の低下は認められなかった が,No.1のようにA法,B法ともにスケーリングに よる質量減少が生じ,同一サイクルにおけるPnの
低下および質量減少はA法の方がB法に比べて大きくなるケースもあると見られる.試験方法が異なる際 の劣化形態を比較すると,上記の3ケースに大別され,コンクリートの細孔構造や気泡(量,数)に応じて変 化するものと考えられる.
5.まとめ
1) 凍結融解試験における相対動弾性係数は,A 法で 40%程度まで低下した場合,同一サイクルの B 法にお
いて80%程度であった.
2) A法,B法で試験方法が異なると,相対動弾性係数と質量減少率の関係は異なる場合も認められた.
参考文献
田畑ら:札幌市の気象条件をモデル化した気中凍結水中融解試験,第3回コンクリート工学年次講演会論文集,1981,pp157~160 橘ら:高強度軽量コンクリートの耐凍結融解性に関する研究,第6回コンクリート工学年次講演会論文集,1984,pp237~240
図-4 劣化パターン
質量
減 増
相対動弾性係数
減 増
質量 A法 -
B法 -
劣化の進展方向
0 0
a) ケース1
(A法,B法で劣化が異なる)
b) ケース2
(A法,B法で同様の劣化)
図-2 相対動弾性係数-質量減少率比較(A 法)
図-3 相対動弾性係数-質量減少率比較(B 法)
0 20 40 60 80 100 120
-1 -0.5 0 0.5 1 1.5
質量減少率(%)
相対動弾性係数(%)
No.1 No.2 No.3 No.4 No.5 No.6 No.7 No.8 No.9 No.10
0 20 40 60 80 100 120
-1 -0.5 0 0.5 1 1.5
質量減少率(%)
相対動弾性係数(%)
No.1 No.2 No.3 No.4 No.5 No.6 No.7 No.8 No.9 No.10
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