学園マンガにおける女性教師の呼称 ―ジャンル、

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73

キーワード:学園マンガ,教師,自称詞,対称詞

要 旨

会話の中で使われる自称詞や対称詞は,相手との関係性をよく表す。「マンガが子ど もの意識を強く反映して」おり,「アンケートとは別の視点により,現実を反映した教 師イメージが描き出せる」という先行研究の指摘を受け,学園マンガの中の女性教師の

「自称詞」に焦点を当て,ジャンル,時代,校種,担当教科の観点から,その影響を探っ た。その結果,学園マンガに登場する女性教師キャラは「わたし」「あたし」を使用する 2パターンに大きく分けられることが分かった。それに対して少年マンガでは,「あたし」

を使用するキャラの割合が,近年になるにつれ減少した。また,中学校・高校を舞台と するものでは上記2つが全体の9割を占めているのに対し,小学校では「先生」が3割を 占めていることが特徴的であった。さらに文系科目担当教師は「わたし」4割弱,「あた し」6割弱に対し,理系・実技科目担当教師ではその逆の結果が出た。

0

.はじめに

学園マンガに登場する女性教師の「自称詞」に注目して,学園マンガの中の教師の描 かれ方について調査した。造り物の世界であるマンガでは,現実の教師・生徒の関係性 と違いが現れるのではないかと考えた。

1

.調査概要

1.1. 

分析対象・調査方法

山田(2004)が対象とした作品162に加え,宝島社『このマンガがすごい!』(2004,

2006〜2016版)に掲載された「作品のタイトル」または作品の紹介・説明文部分に,【教 師】【先生(ひらがな・カタカナ表記含む)】【ティーチャー】【教育実習生】【担任・副担任】

【理事長】の単語が見られたものを抽出し,調査対象とした。さらに2016年度の田中ゆ かり教授の特殊研究ゼミナールを受講した学生の協力により,対象作品を追加した。重

(  )

学園マンガにおける女性教師の呼称

―ジャンル、時代、校種、担当教科による違い―

河 瀬 結 衣

〈研究ノート〉

(2)

複を省いた計276作品のうち2016年6月現在で閲覧が不可能なもの,ジャンルの判断が つかなかったもの,学校の先生ではないもの(マンガ家の先生,塾の先生など)を抜い た少年マンガ78作品,少女マンガ96作品の計174作品を調査の対象とした。

一作品について1巻目に登場する教師の自称詞,対称詞を含む全セリフを抜き出しエ クセルに入力する。しかし,主に話しているキャラがいるコマ中で背景としてのみ登場 したり,1巻中1コマのみに登場したりする場合は調査対象に含めない。吹き出し内は,

句点で区切れると考えられる文を1文と考え,1つのセルに入力した。吹き出しがない 場合はその塊1つを1文とし,2つ以上の吹き出しに1文がまたがっている場合は,つな げて1つとして考えた。

なお,以下の分析ではキャラごとのセリフ数ならびに自称詞・対象詞の出現度数が 異なるため,観点ごとの比較に際しては主として百分比を用いる。本来,百分比は度

数100を超える場合に用いるべきものであるが,学園マンガという条件に合致し,テキ

スト調査の可能であった作品に登場するキャラの中にはセリフ数の少ないキャラがどう しても出てくる。そのようなキャラを捨象すると分析対象キャラ数が激減し,各観点で の比較が困難になる。サンプル数の少ないケースに百分比を用いることの問題は認識し つつも,本稿では条件に合致し調査可能であったキャラすべてを分析対象とすることに よって,サンプル数の少ない場合も一律百分比で比較することを優先する。

2

.女性教師の自称詞

女性教師は少年マンガで29キャラ,少女マンガで38キャラ登場した。以下では,そ の計67キャラのセリフの中に出てきた自称詞を含んだ986のセリフの分析を行った。

観点別分析において詳細を述べるが,「役割語」の主要な要素(金水敏 2003)である ことからも明かなように自称詞はキャラ造形に大きく関与する。本稿では条件にかなう

2.1. 

女性教師の自称詞(全体)(

n=986

(3)

75

キャラを広く分析対象としている。そのような調査方針で臨んだ結果として,ここでは 学園マンガに登場する女性教師キャラ全体としての自称詞出現傾向を把握しておきた い。

図2.1は,女性教師全体の使用した自称詞の割合を示している。なお,今回の調査で は,自称詞を「わたし」「あたし」「ぼく」「おれ」「先生」「その他」の6つに分類している。

「私」の漢字表記については「わたし」に分類する。これは,女性が普段使う自称詞とし て「わたくし」より「わたし」が多いという尾崎喜光(1995)の結果を踏まえている。「私」

と漢字で表記している場合,多くの読者が自然と「わたし」と読み,作者が「わたくし」

と読ませたい場合にルビを振ったり,ひらがな表記にするだろうと考えたからである。

女性教師全体でみると,「わたし」が約50%を占めており,次いで「あたし」が多い。

一般的に使われる自称詞が9割以上を占める結果になり,これは男性教師にも同じよう な傾向が表れている。男性教師は,「おれ」のみで6割を占めていて多く,それ以外は約

10%で「ぼく」「先生」「わたし」を使っていたが,女性教師の場合は,よく使う自称詞が

「わたし」「あたし」と2種類あり,それ以外に10%未満で「先生」があげられ,男性教師 の自称詞の使い方と違う傾向が現れた。

以下,2.1から主に「わたし」「あたし」について,必要に応じて「先生」について分析 を行う。キャラの自称詞の出現数については,各作品とも1巻分を調査対象にしたため それぞれ異なっている。1巻ごとの最大出現頻度は「わたし」少年マンガ58,少女マン

ガ63,「あたし」少年マンガ44,少女マンガ36,「先生」少年マンガ5,少女マンガ8で,

最小値はすべて0である。

2.1

.ジャンルによる比較

まずは,対象の女性教師を少年マンガ,少女マンガのジャンルに分けて比較した。

2.1.1. 

女性教師の自称詞(ジャンル別)

(  )

(4)

少年マンガでは,「ぼく」「おれ」が観察されている。「ぼく」は,あらゐけいいち「日常」

(『少年月刊エース』2007〜2015)のキャラが1回,「おれ」は,えびはら武司「まいっち んぐマチコ先生」(『少年チャレンジ』1980〜1982(以降さまざまな雑誌で単発掲載))の 麻衣マチコが1回使用したのみの事例である。主人公の麻衣マチコが,男になってしまっ たという設定のため,男ことばである「おれ」を使った。そのため,ほとんどの教師は 使わず(使った女性教師キャラも普段から使っているわけではない),特異な例だと言 える。

少年マンガ,少女マンガともに,「わたし」が多く,その次が「あたし」である。「わたし」

に関しては,少女マンガの方が7.4ポイント多く,「先生」に関しては,5.3ポイント少年 マンガの方が多い結果になった。

以下,「わたし」「あたし」「先生」について,キャラごとのそれぞれの自称詞の出現率 の図を示す。キャラごとの自称詞出現率は,そのキャラの自称詞出現度数のうち,「わ たし」「あたし」「先生」の出現率である。図2.1.2〜図2.1.4の左側に,キャラ番号,キャ ラ名,ジャンル(□が少年マンガ,☆が少女マンガ),当該自称詞の出現数/そのキャラ の自称詞のすべての出現数を表した。

「わたし」を使用したキャラは少年マンガで55.2%の16キャラ,少女マンガで55.3%

の21キャラだった。どちらのジャンルでも,キャラ全体の50%強が「わたし」を使用

している結果になり,特に使用するキャラの割合には違いがなかった。しかし,その 出現率には大きな差があった。100%「わたし」のみを使用したキャラは少年マンガでは 13.8%,少女マンガ28.9%だった。少女マンガのキャラの方が「わたし」を固定して使 うキャラが3分の1ほどで,少年マンガでは,他の自称詞も使用しつつ,「わたし」を使 用するキャラが多いことが言える。

図2.1.3には,「あたし」を使用しなかったキャラは示していない。少年マンガでは

37.9%,少女マンガ57.9%のキャラが「あたし」を使用した。少女マンガの方が「あたし」

を使用するキャラが多いことが分かる。また,少年マンガでは13.8%,少女マンガでは 28.9%のキャラが「あたし」のみを使用した。しかし,出現率に注目すると,出現率約 40%以下には少女マンガが集中している。「あたし」に関して,「あたし」を使うキャラ

えびはら武司「まいっちんぐマチコ先生」

(『少年チャレンジ』

1980

1982

)【少年マンガ】

(5)

77

2.1.2. 

女性教師のキャラ別自称詞(ジャンル別)の「わたし」の出現率

(  )

(6)

の割合は少女マンガの方が多く,また,「あたし」のみを使用するキャラも少女マンガ の方が多いが,その1キャラそれぞれの出現率を見ると,少年マンガの方が高いと言え る。

少年マンガでは,「あたし」をメインに使うが他の自称詞も用いるキャラが多く,少 女マンガでは他の自称詞を主に使っていて,ときどき「あたし」を使用するキャラがい るということが言える。

少年マンガでは65.5%,少女マンガでは23.7%のキャラが「先生」を使用した。自称 詞を「先生」しか使用しなかったのは6キャラとも少年マンガのキャラであった。女性 教師の「先生」の使用は,少年マンガの方が観察しやすいことが言える。これは,少年 マンガでは,女性教師が「みんなの憧れとしての先生」として描かれており,「先生」と いう立場を示しているためだと考えられる。

2.1.3. 

女性教師のキャラ別自称詞(ジャンル別)の「あたし」の出現率

(7)

79

2.1.4. 

女性教師のキャラ別自称詞(ジャンル別)の「先生」の出現率

巣山真也「学校のせんせい」

(『ガンガン

ONLINE

2009

2011

【少年マンガ】

えびはら武司「まいっちんぐマチコ先生」

(『少年チャレンジ』

1980

1982

【少年マンガ】

(  )

(8)

2.2. 

時代による比較

女性教師の登場した作品を1960年代から10年単位で区切って分類し,比較する。

どの時代でも,「わたし」「あたし」が80%から90%ほどを占めていて,しかし,「わ たし」「あたし」の割合は,時代ごとに大きく違う。各時代で,「わたし」が増加してい るのか,「あたし」が減少しているのか,以下で分析を行いたい。

図2.2.2,図2.2.3の左側に,キャラ番号,キャラ名,時代(60が1960年代,70が1970年代,

80が1980年代,90が1990年代,00が2000年代,10が2010年代),当該自称詞の出現数/ そのキャラの自称詞のすべての出現数を表した。また,上段が少年マンガ,下段が少女 マンガの結果である。これは,以下他の図でも同様である。

ᑡᖺ䝬䞁䜺 ᑡዪ䝬䞁䜺 ィ

㻝㻥㻢㻜ᖺ௦ 㻞 㻜 㻞

㻝㻥㻣㻜ᖺ௦ 㻝 㻣 㻤

㻝㻥㻤㻜ᖺ௦ 㻡 㻟 㻤

㻝㻥㻥㻜ᖺ௦ 㻟 㻝㻝 㻝㻠

㻞㻜㻜㻜ᖺ௦ 㻥 㻝㻝 㻞㻜

㻞㻜㻝㻜ᖺ௦ 㻥 㻢 㻝㻡

ィ 㻞㻥 㻟㻤 㻢㻣

2.2. 

女性教師のキャラ数(時代別)

2.2.1. 

女性教師の自称詞(時代別)

(9)

81

「わたし」に関して,少女マンガの方がその出現率が高いことが分かる。少年マンガ では,高いキャラも多いが,出現率が低いキャラも目立つ。それぞれの時代別に使用し たキャラの割合は,2010年代では73.3%(少年マンガ55.6%,少女マンガ100.0%),2000 年代では55.0%(66.7%,45.5%),1990年代は35.7%(33.3%,36.4%),1980年代以前は

50.0%である。1990年代以前はキャラ数が10未満なので,1990年代以降で比較すると,

徐々にその使用キャラ割合が増えている。しかし1キャラの「わたし」出現率を見ると,

2.2.2. 

女性教師のキャラ別自称詞(時代別)の「わたし」の出現率

(  )

(10)

2000年代がキャラごとに出現率にバラつきがある。

2010年代は少年マンガ22.2%,2000年代45.0%(少年マンガ11.1%,少女マンガ

72.7%),1990年代71.4%(66.7%, 72.7%),1980年代少年マンガ100.0%,1970年代 77.8%(100%,75.0%)で,全体的な傾向としては,近年になるにつれ,「あたし」が減 少していることが分かる。しかし,時代によって少年マンガ,少女マンガにあったりな かったりする結果になってしまったため,ジャンル別に見ていく。

全体的な傾向と同様,少年マンガでは使用するキャラの割合が減少していることが分 かる。さらにキャラごとのその出現率は1970年代から1990年代より,2000年代,2010

2.2.3. 

女性教師のキャラ別自称詞(時代別)の「あたし」の出現率

(11)

83

年代の方が低くなっていることが分かる。少年マンガでの女性教師キャラの自称詞「あ たし」は近年になるほど観察されにくくなっていると言える。

次に,少女マンガである。2010年代を除いて,少女マンガでは,「あたし」を使用す るキャラの割合には大きな差がないことが分かる。金水(2014)より,「あたし」を使用 するキャラは「『わたくし』が丁寧な表現であるのに対し,くだけた,俗語的な印象があ る。役割語としては,一般的な女性像を表す〈女ことば〉であり,特に活発,お転婆な 女性像を想起させる」とある。また「同様の女性像を担う自称詞として他に『わたし』が あるが,これに比べると「あたし」には堅苦しさのない,より自然体の女性像や,幼さ,

生意気さがイメージされる」ともある。2010年代以降の作品にはこのようなイメージの 女性は少女マンガでは描かれにくいと言える。

実際に,2010年代の作品で,少女マンガに女性教師が登場する場合,ミステリアスな キャラクター性で描かれたり (ヤマシタトモコ「ミラーボール・フラッシング」『FEEL

YOUNG』2008〜2011),謎のフェロモンを放ち男子生徒を翻弄するようなキャラクター

が描かれたり(ひさわゆみ「先生,おしえて」『デザート』2012),「大人の女性」として 表現されている作品が多かった。

ヤマシタトモコ

「ミラーボール・フラッシング」

(『

FFEL YOUNG

』(

2010

2011

2010

年代】

ひさわゆみ

「先生,おしえて」

(『デザート』

2012

2010

年代】

(  )

(12)

2.3. 

校種による比較

女性教師が描かれている学校を3種類に分けて比較した。以下表2.3に,それぞれの 校種ごとのキャラ数を示す。

どの校種でも,「わたし」「あたし」が多い。高校と中学校では,「わたし」「あたし」が

90%以上を占めているのに対し,小学校では70%ほどになっており,その代わり「先生」

が30%ほどを占めている。

「先生」について,キャラごとの出現率を図2.3.2で示して分析を行う。図中左側に,

キャラ番号,キャラ名,校種(小は小学校,中は中学校,高は高校),「先生」の出現数/ そのキャラの自称詞のすべての出現数を表した。

高校41.7%(少年マンガ61.5%,少女マンガ18.2%),中学校38.9%(83.3%,16.7%),

小学校83.3%(80.0%,85.7%)の割合のキャラが「先生」を使用した。高校,中学校では,

少年マンガ,少女マンガのそれぞれで割合が大きく違うが,これは,2.1で述べたとおり,

ᑡᖺ䝬䞁䜺ᑡዪ䝬䞁䜺 ィ

ᑠᏛᰯ 㻠 㻣 㻝㻝

୰Ꮫᰯ 㻣 㻝㻟 㻞㻜

㧗ᰯ 㻝㻢 㻝㻣 㻟㻟

୙᫂ 㻞 㻝 㻟

ィ 㻞㻥 㻟㻤 㻢㻣

2.3. 

女性教師のキャラ数(校種別)

2.3.1. 

女性教師の自称詞(校種別)

 

(13)

85

2.3.2. 

女性教師のキャラ別自称詞(校種別)の「先生」の出現率

片山ユキオ「花もて語れ」

(『月刊!スピリッツ』

2010

2012

『ビッグコミックスピリッツ』

2012

2014

【小学校】

棚園正一「学校にいけない僕と

9

人の先生」

(『

WEB

コミックアクション』

2014

2015

【小学校】

(  )

(14)

少年マンガでは女性教師が「みんなの憧れの先生」として描かれることが多かったので,

「先生」という立場を示すために,自称詞に「先生」を使うことが多かったと考えられる。

よって,少年マンガでは,意識的に「先生」を使っていると言える。

少年マンガ,少女マンガ共通して多かったのは小学校での「先生」の使用である。ど ちらも8割以上の女性教師が「先生」を使っている。これは男性教師同様,生徒の年齢 が下がると,「先生」を使用するという現実の世界と同じ傾向を表していると言える。

実際に小学校では,授業中など学校内の場面で「教師」という立場から話すようなこと が多かった。例えば,片山ユキオ「花もて語れ」(『月刊!スピリッツ』2010〜2012,『ビッ グコミックスピリッツ』2012〜2014)では,学芸会の練習で子どもを気遣う場面,棚園 正一「学校にいけない僕と9人の先生」(『WEBコミックアクション』2014〜2015)では,

具合が悪くなった主人公を気遣う場面が観察された。

また,「あたし」は,小学校ではかわいらしい教師キャラや,個性の強いキャラに,

高校でも個性的な女性に使われることが多かった。

みきもと凛「近キョリ恋愛」

(『別冊フレンド』

2007

2011

【高校】

原田妙子「

Chu.Chu.Chu

(『ぶ〜け』

1995

【小学校】

深谷かほる「ハガネの女」

(『

YOU

2007

2010

【小学校】

(15)

87

2.4. 

担当教科による比較

2.3までで見た女性教師のうち,小学校の教師を除いた44キャラを文系,理系,実技,

その他に分けて比較する。表2.4中の数字はキャラ数を表している。

文系では,2.1より,少女マンガのキャラの方が「あたし」を使用することが分かって いる。しかし,図2.4.1の文系では,表2.4からみられるキャラ数は少年マンガが多く少 女マンガが少ないにもかかわらず,「わたし」よりも「あたし」が多い結果になっている。

また表2.4より,理系でも,文系とは逆に少女マンガのキャラ数が多いにもかかわらず,

「あたし」より「わたし」の方が多い結果になっている。

以下,「わたし」「あたし」について分析を行う。なお,2.4において,「わたし」の最大 値は,少年マンガ58,少女マンガ63,「あたし」の最大値は44,少女マンガは34,最小 値は0である。

ᑡᖺ䝬䞁䜺ᑡዪ䝬䞁䜺 ィ

ᩥ⣔ 㻤 㻡 㻝㻟

⌮⣔ 㻠 㻤 㻝㻞

ᐇᢏ 㻜 㻠 㻠

䛭䛾௚ 㻝 㻜 㻝

୙᫂ 㻤 㻢 㻝㻠

ィ 㻞㻝 㻞㻟 㻠㻠

2.4. 

女性教師のキャラ数(担当教科別)

2.4.1. 

女性教師の自称詞(担当教科別)

(  )

(16)

図2.4.2,図2.4.3の左側に,キャラ番号,キャラ名,担当教科(文は文系科目,理は 理系科目),当該自称詞の出現数/そのキャラの自称詞のすべての出現数を表した。

「わたし」を使用したキャラは,全部のキャラのうち文系84.6%,理系58.4%だった。

文系の方が多くの割合のキャラが「わたし」を使っている。しかし,その1キャラ1キャ ラの「わたし」の出現率を見ると,理系のうち,星崎理都(八神健「密・リターンズ」『週 刊少年ジャンプ』1995〜1996)のみが98.3%であったが,それ以外の6キャラは100.0%

であり,1キャラごとの出現率が高い。文系では少年マンガで特に出現率の差がキャラ ごとに大きく開いている。少年マンガでの中央値は75.0%,少女マンガでは80.8%とい う結果になり,理系の出現率よりも低いことが分かる。そのため,図2.4.1の全体で観 察された「わたし」の割合は,文系より理系の方が多くなったのだと言える。

2.1で見た通り,教科別に分けても,少年マンガでは「あたし」の出現率が高いことが 分かる。文系では84.6%(少年マンガ75.0%,少女マンガ100.0%),理系50.0%(25.0%,

62.5%)の割合のキャラが「あたし」を使用している。また,女性教師の自称詞を含む 総セリフ数の平均は少年マンガ14.1,少女マンガ14.2である中,少年マンガの文系は

2.4.2 

女性教師のキャラ別自称詞(教科別)の「わたし」の出現率

(17)

89

20.0,少女マンガは26.2で,平均よりも多い結果になった。そのため,全体に対しての

「あたし」の割合もそれぞれ大きくなったのだと考える。文系では「わたし」「あたし」を 両方使い,理系のキャラは「わたし」派か「あたし」派に分かれることが分かった。

2.5. 

まとめ

以上,少年マンガと少女マンガに登場した女性教師キャラについて細かく分類して分 析を行ってきた。

男性教師キャラは「おれ」という1つの自称詞が全体の6割以上を占めていたが,女性 教師キャラは「わたし」「あたし」の2つが多いという結果になった。どちらが多いとい うのも,分類の仕方によって大きく違うことがあった。

「わたし」に関しては,少年マンガ,少女マンガともに半数以上の割合のキャラが使 用しており,他の分類でも大きな差はなかった。「あたし」の増減が,女性教師キャラ の自称詞を考えるうえで大事な点だと考える。

「あたし」はジャンル別に考えると,少年マンガの約4割のキャラが使用するのに対し,

少女マンガは約6割のキャラが使用していた。また,少女マンガで「あたし」を使用す るキャラの方が,「あたし」のみを固定して使用するキャラが多いことも分かっている。

2.4.3. 

女性教師のキャラ別自称詞(教科別)の「あたし」の出現率

(  )

(18)

「あたし」については,「一般的な女性像を表す〈女ことば〉であり,特に活発,お転婆 な女性を想起させる」ことや,「わたし」より「堅苦しさのない,より自然体の女性像や,

幼さ,生意気さがイメージされる」とあり,少年マンガの中の女性教師はあまりそのよ うな女性は描かれないのだということが言える。

しかし,少年マンガで「あたし」を使うキャラの割合は,時代によって大きく違った。

1980年代,1990年代の女性教師キャラの自称詞は「あたし」を多く使っている。「あたし」

を使うキャラは男子生徒の憧れの人であったり,たくさんの生徒に好かれたりするよう なかわいらしいキャラの女性教師に多かった。そのようなキャラが1980年代,1990年 代には多く描かれていた。

少女マンガでは,時代を問わず,体育教師のお転婆なキャラや,頼りない女性教師な どに「あたし」は使われていた。

2000年代,2010年代からは少年マンガでも少女マンガでも「わたし」を使うキャラの 高見まこ「いとしのエリー」

(『週刊ヤングジャンプ』

1984

1987

1980

年代】

岡崎つぐお「ただいま授業中!」

(『週刊少年サンデー』

1980

1983

1980

年代】

庄司陽子「生徒諸君」

(『週刊少女フレンド』

1977

1985

1980

年代・少女マンガ】

酒井美羽「教師にやらせな」

(『

Young ros

1997

1990

年代・少女マンガ】

(19)

91

方が多く見られ,キャラの系統も今までの「あたし」を使うようなキャラを描いていた 女性像と変わってきている。

近年になると描かれている女性教師が「お転婆」で「元気がいい」「かわいらしい」も のから,ミステリアスなキャラが多く描かれるようになっている。生徒たちを観察する ような姿だったり,一つ目の妖怪という独特なキャラ設定であったりするようなキャラ が描かれている。

特に時代によって「わたし」と「あたし」の使用するキャラの割合に変化が表れている。

新條まゆ「

SEX=LOVE2

(『

Cheese!

2006

2000

年代・少女マンガ】

犬飼茜「先生の白い嘘」

(『月刊モーニング・ツー』

2013

〜)

2010

年代・少年マンガ】

鮭夫「ヒトミ先生の保健室」

(『月刊

COMIC

リュウ』

2013

〜)

2010

年代・少年マンガ】

(  )

(20)

これは,時代ごとに描かれる女性像が変化しているからであると言える。

また,「先生」に関しては男性教師キャラと同じように,小学校になるほど増加して おり,小原(2007)と同じ結果になった。小学校と中学校では,男性教師と同じ割合の キャラが「先生」を使用している。しかし,高校になると,女性教師キャラの方が「先生」

を使うキャラの割合が増加しており,特に少年マンガの方が顕著である。それは2.1で 述べたように,「みんなの憧れの先生」として描かれることが多かったからだと考えら れる。

ヤマシタトモコ「ひばりの朝」

(『

FEEL YOUNG

2012

〜)

2010

年代・少女マンガ】

ムラタコウジ「野球部のヒロコせんせい」

(『月刊!スピリッツ』

2014

【少年マンガ】

(21)

93

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宝島社(2005)『このマンガがすごい! 2006・オンナ版』

宝島社(2006)『このマンガがすごい! 2007・オトコ版』

宝島社(2006)『このマンガがすごい! 2007・オンナ版』

宝島社(2007〜15)『このマンガがすごい! 2008〜2016』

田中ゆかり(1999)「大学生の呼称―場面・上下・性の異なる相手からの呼ばれ方―」『青山学院 女子短期大学総合文化研究所年報』7,青山女子短期大学,pp.105-120

山口重直 (1969)「教師―生徒関係の研究 「生徒の指導の面において,どの教師分類が生徒によ い印象を与えるか」について」市川市教育研究所(1969.No.76)

山田浩之(1999)「マンガの「熱血教師」はどこへ消えたのか」『論座』(50),朝日新聞社,pp.32- 37

山田浩之(2000)「少女マンガに見る現代の教師像――憧れの対象としての教師――」『松山大学 論集』12(3),松山大学,pp.65-84

山田浩之(2004)『マンガが語る教師像―教育社会学が読み解く熱血のゆくえ』昭和堂 吉田裕久(1990)「学校における先生・子供の呼称」『日本語学』9(9),明治書院,pp.25-31

[参考サイト一覧]

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(22)

一般社団法人日本雑誌協会http://www.j-magazine.or.jp/(最終閲覧日2017/01/12)

映画『暗殺教室〜卒業編』公式サイトhttp://www.ansatsu-movie.com/index.html(最終閲覧日 2017/01/12)

コミックシーモアhttp://www.cmoa.jp/(最終閲覧日2017/01/12)

電子書籍・漫画を読むなら ソク読みhttp://sokuyomi.jp/(最終閲覧日2017/01/12)

マンガ図書館Z http://www.mangaz.com/(最終閲覧日2017/01/12)

[付記]

本稿は,2016年度国文学科卒業論文として提出した「呼称からみる学園マンガ」(指導教員:

田中ゆかり教授)の5章「女性教師の自称詞」を中心に加筆・修正を加えたものである。

(かわせ ゆい,平成28年度国文学科卒業生)

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