Title
甲状腺へ単独転移をきたした腎細胞癌の1例
Author(s)
北村, 雅哉; 細見, 昌弘; 並木, 幹夫; 中野, 悦次; 園田, 孝夫;
三代, 康雄; 佐々木, 良二; 尾上, 謙三
Citation
泌尿器科紀要 (1988), 34(1): 147-150
Issue Date
1988-01
URL
http://hdl.handle.net/2433/119419
Right
Type
Departmental Bulletin Paper
Textversion
publisher
泌 尿 紀 要34:147∼150,1988 147
甲状腺へ単 独転移を きた した腎細胞癌 の1例
大 阪大 学 医 学 部 泌尿 器科 学 教 室(主 任:園 田孝 夫 教授)北
村
雅
哉 ・細
見
昌
弘： 並
木
幹
夫
中
野
悦
次 ・園
田
孝
夫
大阪大学医学部耳鼻咽喉科(主 任：松永
亨教授)
三
代
康
雄 ・佐 々木
良
二
大阪大学医学部付属病院病理部(主 任：北村
亘教授)
尾
上
謙
三
A CASE
OF
SOLITARY
METASTASIS
OF RENAL
CELL
CARCINOMA
TO
THE
THYROID
GLAND
Masaya
KITAMURA, Masahiro
HOSOMI, Mikio
NAMIKI,
Etsuzi
NAKANO and
Takao
SONODA
From the Department of Urology, Osaka University
(Director: Prof. T. Sonoda)
Yasuo
MISHIRO and
Ryozi
SASAKI
Frora the Department of Otorhinolaryngology, Osaka University
(Director: Prof. W. Matunaga)
Kenzo OUE
From the Department of Pathology, Osaka University Hospital
(Director: Prof. H. Kitamura)
A case of solitary metastasis of renal cell carcinoma to the thyroid
gland
is reported.
A 63-year-old-woman
had been found to have an abnormal
mass in the neck since April,
1986. She had a past history of right nephrectomy
owing to right renal tumor
6 months
earlier.
Histological examination
of the renal tumor revealed, common type, alveolar type, GI,
INFa
renal cell carcinoma.
No metastasis was found on abdominal
CT, chest tomography
and bone scintigram
at that time.
Radical thyroidectomy
was performed
on June, 23, 1986.
Histological
examination
by hematoxylin
and eosin staining revealed metastasis
of renal cell
carcinoma,
and immunohistochemical
technique ruled out primary
thyroid carcinoma.
Post-operatively no other metastasis was found
on head-chest-abdomen-CT,
chest-tomography
or
bone scintigram.
Therefore
no particular
adjuvant
therapy was performed
Key words: Thyroid metastasis, Renal cell carcinoma, Clear cell carcinoma, Thyroglobulin-immunohistochemistry
緒
言
腎 細 胞癌 の 甲状 腺 転移 は 決 して稀 な も の で は な い が,そ の多 くは 剖 検 時に 見 られ る 微 小な も ので,す で に 多 発性 に 転 移 を き た してい る.し か し,単 独 に 甲状 腺 へ転 移 を きた す こ とは非 常 に稀 で,本 邦 で は3例 の 報告 が あ る のみ で あ る. 今 回 わ れわ れ は 腎細 胞 癌摘 除 後4ヵ 月で 甲 状腺 へ の 孤立 性 転 移 を きた した1例 を経 験 した ので,若 干 の文 献的 考 察 を加 え報告 す る,148
症
患 者:F.T.,63歳,女 性 主 訴:左 前 頸 部 腫 瘤 家 族 歴:特 記 事 項 な し例
泌 尿紀 要34巻1号1988年 既 往 歴:1982年 ご ろ よ り高 血 圧 症 を 指 摘 さ れ 現 在 ま で 内 科 的 治 療 を 受 け て い る.1985年10月23日 に 右 腎 癌 に た い し 根 治 的 右 腎 摘 出 術 を 受 け た.組 織 診 断 はre-nalcellcarcinoma,commontype,alveoiartypc clearcellcubtype,Gl,INFα で 石 灰 化 は な く,当 時 の 骨 シ ン チ,腹 部CT,胸 部 断 層 撮 影 で,転 移 を 認 め な か っ た. 現 病 歴:1986年2月,左 前 頸 部 腫 瘤 を 指 摘 され る も 放 置 し て い た.同 年4月10日,し だ い に 腫 瘤 が 増 大 し き た た め 当 院 耳 鼻 咽 喉 科 を 受 診 し,甲 状 腺 癌 の 疑 い で 入 院 と な った. 入 院 時 現 症:身 長154cm,体 重56kg,血 圧158/ 98mmHg,脈 拍 数84/分,規 則 性.甲 状 腺 左 葉 に 直 径 約20mm,弾 性 や や 硬 の 腫 瘤,右 葉 に 直 径 約8mm, 弾 性 硬 の 腫 瘤 を 認 め る.左 前 頸 部 リ ソ パ 節 に 直 径7 mmの 腫 大 を2ヵ 所 認 め る.そ の 他 の 理 学 的 所 見 で は 異 常 な し. 入 院 時 検 査 成 績:一 般 検 血;RBC417×10`/mm3, Hbl2,09/dl,Ht37.5%,wBc4,700/mm3,Plt27 ×104/mm3.血 液 化 学;Na147mEq/l,K4.5mEq/l, CliogmEq/1,P5.6mg/d1,calo・9mg/dl,cr O.9mg/dl,TP7.3g/dl,Alb4.4g/dl、AIG1.5,GOT I3U/1,GPT7u/1,γ 一GTP14u/l,AlP77u/l, LDH304UII,T-Cho1.259mg/dl,LDL60】mg/ dl,vLDL453mg/dl,Chylomicron52mg/d1, HDL38mg/dl. 甲 状 腺 機 能;T412.9μ9/dl,T3185ng/dl,MT3U 25.2%,FT,index11.0,TSH4.OμU〆ml,TBG 34.0μg/ml,サ イ ロ イ ド テ ス ト陰 性,マ イ ク ロ ゾ ー ム テ ス ト陰 性. 尿 所 見;黄 色,pH5.5,蛋 白 陰 性,糖 陰 性.尿 沈 査 で は 赤 血 球1∼0/hpf,白 血 球1∼0/hpfで あ っ た. X線 学 的 所 見;胸 部 写 真 に て 軽 度 の 心 拡 大,大 動 脈 弓 の 延 長 を 認 め た.甲 状 腺99Tcシ ン チ グ ラ ム に て 左 葉coldnodule,頸 部 軟X線 撮 影 に て 右 葉 にring 状 の 石 灰 化 を 認 め た.頸 部CTで は 左 葉 に1コ の 10wdensityなmass,右 葉 や や 上 方 にcalcifiedno-duleを み とめ た(Fig.1).リ ンパ 節 の 腫 張 は 明 らか で は な か っ た. 乎 術所 見:頸 部基 部横 切 開 にて 甲状腺 全 摘 術,左 頸 部 リンパ節 郭 清 を行 った.右 下 極 に18×20mm,左 下 極 に 径20mm,左 中 部 に 径10mmの 黄 白色 の 腫瘍 を 認 めた,そ の 中心 部 に は凝 血 塊 ら し き ものが 見 られ た (Fig.2).右 上極 に10×5mmの 石 灰 化 を 認 め た. 病 理 組 織所 見1線 維性 被 膜 を 有 し,腫 瘍 実 質 は 大 き な水 様 に 明 る い細 胞 質 を も った 細 胞 の蜂 窩 状 増 殖 よ り な り,核 は比 較 的 小型 類 円型 で核 異 型,分 裂 像 に乏 し 16∵ヂ!澱
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% Fig.1.灘鑛
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続躯 響 ・ 驚 努 ㌃、 嚢・ 轟 以上 の 検査 所 見 に よ り甲状腺 癌 と診 断 し,1986年6 月23日,手 術 を 施 行 した...編
に 騨 ・,.捌 郷 購.磯 塑"一 脳 、ぐ.一. 一. Fig.2。Rcsectedthyroidglanddemonstrates threeyellowishmasses. 『Y題 汽 『' Fig.3.Histologicalexaminationofrenalcell carcinoma(rt).andthemetastatisto thethyroidgland(lt).showthesame pattern.(H&Estain,×100)北 村 ・ほ か:腎 細 胞 癌 ・甲状 腺 転 移 149
Table1.Solitarymetastasisofrcnalcellcarcinornatothe
thyroidglandreportedinJapanescliterature
casereport (year) agesexinterva1 (year) histology 1清 水(1978)46M 2江 崎(1979)53F 3島(1980)69F 4自 験 例(1986)63F 13clearcellcarc 7clearcellcarc 20clearcelicarc 1/2clearcellcarc noma noma noma noma い.腫 瘍 細 胞 の 周 辺 甲 状 腺 実 質 へ の 浸 潤 は 認 め られ な か っ た.病 理 組 織 学 的 所 見 は,1985年10月 の 腎 癌 摘 除 標 本 の 組 織 像 と ほ ぼ 一 致 し(Fig.3),細 胞 表 面 に サ イ ロ グ ロ ブ リ ンが 認 め られ な い こ と がPAP(pcroxi-dasc-antiperoxidase)法 に よ る 免 疫 組 織 学 的 検 査 で 確 認 さ れ た こ とか ら,本 症 例 は 腎 細 胞 癌 の 甲 状 腺 転 移 と判 断 さ れ た. 術 後 経 過:術 後 経 過 は 順 調 で 術 後 施 行 し た 頭 部,胸 部,腹 部CT,胸 部 断 層 撮 影,骨 シ ソ チ(99mTc-MD-P)に て も転 移 を 認 め な か っ た た め,術 後 のadjuvant 療 法 は 行 わ な い こ と と し,1986年8月20日 略 治 退 院 と な った.考
察
一般 に 悪 性 腫瘍 の 甲状 腺 へ の転 移 は 稀 で あ る といわ れ て い るが,実 際 に は 剖検 例 癌 死患 者 の うち24%i), 2α4%2)本 邦 で は森 ら に よる と4.1%a)と 比較 的 高 い 頻 度 で 認 め られ て い る.そ の 内訳 と しては 乳癌 肺 癌 か らの転 移 が 多い が,そ の 多 くはmicroscopicな 段 階 に とど ま って い る.こ れ は,甲 状 腺 の 高 い血 流 速 度 が腫 瘍 細 胞 の定 着 を 妨 げ る う え,高 酸 素,高 ヨー ド 状態 が 腫 瘍 細 胞 の発 育 を押 え る た め であ る と い わ れ て い る4・5).これ に た い して 臨 床 的 に診 断 で きる ほ ど の 腫瘤 を 形 成す る 甲状 腺 転移 は非 常 に 稀 で あ るが その 半 数以 上 は 腎 細 胞癌 の 転 移 で あ る6・7).しか も本症 例 の よ うに 他 臓 器 に 転移 に 認 め な い単 独 転移 は 極 め て稀 で,本 邦 では わ れ われ の調 べ得 た限 りで は今 まで3例 の 報告 が あ るの み で あ る(Table1)・ 腎癌 のstage4の 遠 隔 転移 と して は 甲状 腺 へ の単 独 転移 は きわ め て 特異 的 で,外 科 的 治 療 に よ り良 好 な 予 後 が期 待 で き る8・9)、これ は 他臓 器 へ の 転移 症 例 は cavalsystemを 介 して転 移 が 起 こ るた め既 に 広 範 な 播 種 が 生 じて い るの に た い して,甲 状 腺 へ の 単独 転 移 で は 傍 脊椎 静 脈 叢 を 介 して転 移 が起 こるた め と考 え ら てい る14). 甲状 腺 腫 が 腎細 胞 癌 の 初 発 症 状 で あ る 症 例 も あ り11}13),甲状 腺 原発 のclearcellcarcinomaと 腎細 胞 癌 の 甲 状腺 転 移 との 鑑 別 は難 し く,サ イ ログ ロ ブ リ ンの免 疫 組織 化学 的 検 索 に よ らなけ れ ぽ厳 密 に 鑑 別 で き な い,と の 報 告 も あ る15)Burtら16)は 抗 ヒ トサ イ ロ グ ロ ブ リ γを 用 い たPAP(peroxidase-antiperoxi-dase)法 で 甲 状 腺 原 発 の 乳 頭 腺 癌,濾 胞 腺 癌 の す べ て に サ イPグ ロ ブ リ ン を 認 め る 一 方,転 移 性 腫 瘍 の 全 て が サ イ ロ グ ロ ブ リ ン を 持 た な い こ と を 証 明 し,こ れ に よ っ て 甲 状 腺 の 腫 瘍 が 甲 状 腺 原 発 の も の か 転 移 性 の も の か を 鑑 別 で き る と し た 。 本 症 例 に お い て も 腫 瘍 細 胞 表 面 に サ イ ク グ ロ ブ リ ンは 認 め られ ず,本 例 の 甲 状 腺 腫 瘍 は 腎 よ りの 転 移 と 考 え られ た.結
語
1.63歳 女 性 に発 生 した 腎 細 胞癌 の 甲状 腺 へ の単 独 転移 症 例 を報 告 した. 2.自 験例 は われ わ れ が調 べ 得 た限 りで は本邦4例 目で あ る. 3.腎 細 胞癌 の 孤 立性 甲 状腺 転 移 の特 殊性 に つ い て考 察 した. 4.原 発 性 甲状 腺 癌 と腎 細 胞癌 の 甲状 腺 転移 との 鑑別 に お け る 免 疫 組 織化 学 的方 法 の有 用 性 に つ い て 考察 し た.文
献
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