Vol. 37. No. 6. 1993 (381)
〔原
者 〕
5% disc PAGEに
よ り測 定 し たHDL-cholesterol
亜 分 画
池
田
裕
SUMMARY
The cholesterol concentrations in the subfractions of high-density lipoprotein (HDL) were
mea-sured by means of 5% disc polyacrylamide-gel electrophoresis (PAGE). The cholesterols in
lipo-proteins separated from whole serum according to particle size by PAGE were stained by an
enzymic method and were subjected to densitometry. Although the cholesterols in chylomicron,
very low-, intermediate- and low-density lipoproteins did not entered into the 5% separating gel,
three major subfractions of the cholesterol in HDL (HDL-C) were sharply recognized in the gel
and were named fast HDL-C, mid HDL-C and slow HDL-C, from the anodic side, respectively.
Another subfraction of HDL-C appeared behind the slow HDL-C in patients with acute hepatitis
and obstructive jaundice, and was named upper HDL-C. Apolipoprotein (apo) A-I was detected
in all subfractions of HDL-C. ApoA-I in the particles of the upper HDL-C consisted of only
free apoA-I with pre-β mobility in the crossed immunoelectrophoresis, that is, apoA-II was absent
in the same particles.
The apoA-I/apoA-II
ratio in the mid HDL-C particles was higher than
that in the fast HDL-C particles.
The fast HDL-C particles also contained apoC-II
and apoC-III
but no apoE.
The mid HDL-C particles contained
apoE together
with apoC-II
and apoC-III.
The slow HDL-C particles contained apoE but no apoC.
The upper HDL-C particles contained
apoB-100 but not contained apoC or apoE.
The approximate
molecular
weight of the particles
of the subfractions was 180×103 for the fast HDL-C particles, 250×103 for the mid HDL-C particles, 410×103 for the slow HDL-C particles and 540×103 for tne upper HDL-C particles.The profile of the subfractions
of HDL-C obtained from a patient
with cerebral infarction
was
characterized
by the significant
reduction
in slow HDL-C and mid HDL-C,
being reflected in
the reduction
of HDL-with
apoE.
The profiles obtained
from patients with acute hepatitis or
obstructive jaundice were characterized
by the significant
reduction in fast HDL-C, by the increase
in slow HDL-C and by the appearance
of upper HDL-C.
These findings suggested
that fast
HDL-C, mid HDL-C and slow HDL-C are the cholesterol
in HDL3, the cholesterol
in HDL2a
and the cholesterol in HDL2b, respectively.
Key words: subfractions of HDL-C, upper HDL-C, HDL2b-C, HDL2a-C, HDL3-C, PAGE
緒 言
高比重 リポ蛋 白質 (HDL) が抗 動脈硬化 的役 割を果 た
して お り, そ の コ レ ス テ ロ ール (HDL-C) は 抗 動 脈 硬化
的 指 標 として 評 価 さ れて き た1). 近 年, HDLが 構 造 的 に
も機能 的 に も heterogeneous な リポ 蛋 白 質 で あ る こ と
The subfractions of the cholesterol in high-density lipoprotein determined by 5% disc polyacrylamide-gel electrophoresis.
Hiroshi Ikeda; 全 晃 会 内 科
Correspondence address: Hiroshi Ikeda, Internal Medicine, Zenkokai, Niwashirodai 1-30-4, Sakai 590-01, Japan.
略 号 一 覧 PAGE: polyacrylamide-gel electrophoresis, HDL-C: cholesterol in high-density lipoprotein (受 付 1993年4月21日, 受 理 1993年6月11日)
か ら, これ を 細分 画 に分 析 してHDL代 謝 研 究 や 臨 床 応 用 に 供 され て い る. 超 遠 心 法 に よ って, HDLは1.063∼ 1.1259/mlのHDL2と1.125∼1.210g/mlのHDL3に 分 画 され るが, さ らにHDL2はHDL2b (1.063∼1.100 g/ml) とHDL2a (1.100∼1.125g/ml) に 細分 画 さ れ て い る2). と ころ で, 電 気 泳 動 法 に よ る細 分 画 に 際 して は, polyacrylamide (PA) ゲ ル濃 度 を 連 続 的 に 増 加 さ せ て pore size を しだ い に 小 さ くす る こ と で 節 効 果 を 強 め, 粒 子 の大 き さ で分 析 す る方 法, つ ま り gradient gel
ele-ctrophoresis (GGE) が 採 用 さ れ て きた3,4). Anderson
ら3)は, 4∼30%の 濃 度 勾 配 を もつ 市 販 の 平 板 型 垂 直 ゲ
ル にHDL分 画 試 料 を 電 気 泳 動 して3分 画 に分 離 し, そ
れ ぞ れ が 超 遠 心 法 で 分 析 したHDL2b, HDL2a, HDL3で
あ る こ とを 示 した. 今 回 著 者 は, 5%の 均 一 濃 度 の 円柱
PAゲ ル を 用 い たPA gel disc electrophoresis (disc
PAGE) に よ って, 血 清 試 料 か ら直 接にHDL亜 分 画 中 の コ レス テ ロー ル を, 換言 す る と, HDL-Cの 亜 分 画 を ゲ ル上 に再 現性 よ く分 離 して 染 色 し, そ れ ぞ れ の濃 度 を 測 定 す る方 法 を 開 発 した. そ の 結 果, HDL-C亜 分 画 は 三 つ の 主 要 な 亜 分 画 (陽極 側 か ら fast HDL-C, mid HDL-C, slow HDL-Cと 仮 称 し た) と, そ の 陰極 側 に非 常 に薄 い亜 分 画 (upper HDL-Cと 仮 称 し た) として 確 認 ざれ た. 主 要 亜 分 画 は, 陽 極側 か ら粒 子 サ イ ズ の小 さ い順 に, 超 遠 心 法 で のHDL3の コ レス テ ロ ール (HDL3-C) とHDL2a-CとHDL2b-Cに 相 当 す る と考 え られ た. 方 法 A. HDL-C亜 分 画 測 定 法 I. 5% disc PAGE 1) 5%分 離 ゲ ル 作 製 A試 薬 (Tris 36.6gに48mlの1N HClと0.23ml のTEMEDを 添加, 精 製 水 を加 えて100mlに して, pH8.9に 調 整) の2容 量 と, C試 薬 (acrylamide 15g とBIS acrylamide 0.735gに 精 製 水 を 加 え て100ml) の5容 量 と, G試 薬 (ammonium persulfate 0.14g/dl) の8容 量 の 混合 液 を5×80mmの ガ ラス 管 に 入 れ, 注 射 針 で 水 を 重 積 して 水 平 界 面 形 成 し室 温 で 重 合 固 化. 上 部 の水 を 除 く. 2) 濃縮 ゲ ル の 重積 B試 薬 (Tris 5.98gに48mlの1N HClと0.46ml のTEMEDを 添 加 し精 製 水 を 加 え て100ml. pH6.7)
の1容 量 と, D試 薬 (acrylamide 20gとBIS
acryl-amide 5gに 精 製 水 を 加 え て100ml) の1容 量 と, E試 薬 (Riboflavin 4mg/dl) の1容 量 と精 製 水5容 量 の混 合 液 か ら0.2mlを 分 離 ゲ ル上 に 重積 し, 水 を重 積 して 水 平 界 面形 成 し て 蛍 光灯 下 で 光 重 合 固 化. 上 部 の 水 を 除 く. 3) 試 料 ゲ ル の重 積 B試 薬 ・D試 薬 ・E試 薬 と20% sucrose の 等 容 量宛 の 混 合 液 と, これ と等 容 量 の血 清 試 料 と を混 合 し, そ の 0.2mlを 濃縮 ゲ ル 上 に 重 積 し, さ ら に泳 動 緩 衝 液 (Tris 3gと glycin 14.4gを 精 製 水1000mlに 溶 解) で 泳 動 管 を満 た し, 光 重 合 固 化. 4) 電 気 泳 動 ゲ ル管 を disc PAGE用 電 気 泳 動 槽 (常光) の上 部 槽 に接 続 し, 上下 槽 に緩 衝 液 を 入 れ, 冷 蔵 庫 内 で泳 動 管1 本 に つ き4mAで 通 電. 先 行 albumin 帯 が泳 動 管 下 端 ま で1cmに 達 す る と終 了 す る. II. 乾 熱 処 理 長 注 射 針 をゲ ル 管 壁 に沿 って 挿 入 し, 注 水 し なが らゲ ル管 を 回転 して ゲ ル を水 中 に落 し, 濃 縮 ゲ ル を切 り離 し て か ら12×100mmの 試 験 管 壁 に移 し, 斜 位 に架 けて 80℃の 乾 熱器 に入 れ る. 5分 後 に 取 り出 して 室 温 で放 熱 し, 冷 蔵 庫 で 冷 却 して 染 色 操 作 に 移 る. III. 総 コ レス テ ロー ル (TC) 染 色 不 溶 性 ジホ ル マ ザ ン染 色 法6)に よ るTC染 色 酵 素 試 薬 液 (コー コ レス トA, 日本 ケ ミフ ァ) の0.5mlを ゲ ル に 注 ぎ, ゲ ル を転 が して 全 面 を湿 らせ, 密 栓 して 冷 蔵 庫 内 で 水 平 に保 存. 酵 素 液 が ゲ ル に浸 潤 し た8時 間 後 に37℃ で30分 incubate す る. 余 分 の酵 素 液 は10%酢 酸 で 洗 い 出す. IV. 固 定 ・洗浄 ガ ラス管 に10%酢 酸 を 入 れ て 酵 素 反 応 を 停 め, 40分 後 に 数 回 水 洗 す る. V. HDL-C亜 分画 濃 度 の計 測 ゲ ル を570nmで デン シ トメ トリー (Auto Scanner, Helena) す る. ゲ ル背 景 に濁 りが 生 じた 際 は亜 分 画 ゲ ル を 切 り出 して, 泳 動 に 供 しな い ゲ ル を 切 断 し て亜 分 画 を 挟 ん で デ ン シ トメ ト リー した. 各 亜 分 画 比 に, リンタ ン グ ス テ ン酸MgCl2沈 降法 で 分 離 し たHDLに つ い て測 定 して お い たHDL-C値 を 乗 じて亜 分 画 内TC濃 度 を 求 め る. B. 種 々濃 度 の分 離 ゲ ル作 製 3.75%PA分 離 ゲ ル はA試 薬 とC試 薬 とG試 薬 の混 合 比1:2:5と して 作 り, 4.68%ゲ ル は混 合 比 を2: 5:9と して 作 製 し た. C. HDL-C亜 分 画 測 定 値 の 再 現 性 の検 討 I. 同時 電 気 泳 動 にお け る再 現 性 HDL-Cが58mg/dlの 健 康 女 性 か ら得 た 血 清 試 料 を,
10本 の5%PAゲ ル に 同 時 に 電 気 泳 動 し た 際 の fast HDL-C, mid HDL-C, slow HDL-Cの 測 定 値 の 変 動 係 数 (CV) を求 めて 評 価 した. II. 5回 電 気 泳動 を繰 り返 した 際 の再 現 性 同 時 に 作製 し た5%PAゲ ル を 用 い て, 上 記 試 料 を5 回 電 気 泳 動 した 際 の, HDL-C亜 分 画 測 定 値 のCVを 求 め て 評 価 し た, D. HDL-C亜 分画 か ら の リポ蛋 白質 の 回収 同 一 試 料 を 同 時 に disc PAGEに 供 し, 1本 のゲ ル を TC染 色 し, そ の 淡 黄 色 albumin 帯 と他 の 無 染 色 ゲ ル の albumin 帯 を 一致 させ て並 べ て, 染 色 亜分 画 に一 致 す る部 分 を 切 り出 した. 切 り出 し た ゲ ル か ら電 気 泳 動 的 に, 蛋 白質 回収 装 置 (マ ック ス イー ル ド, ATTO) を 用 いて 透 析 膜 を張 った 回 収 カ ップ に 蛋 白 質 を 回 収 し た. 最 終 容 量 は0.4mlと し, 脱 塩操 作 (デザ ライザ ーI, ATTO) 後 に次 の 検 査 に供 した. I. 脂 質 構 成 比 の分 析 薄 層 ク ロ マ トグ ラ フ ィ ーに よ って 分 別 され た 脂 質 成 分 を, 水 素 炎 イ オ ン化 検 出装 置 で 定 量 的 に 自動 分 析 す る シ ンク ログ ラフ7)に よ って 分 析 した. II. ア ポ 蛋 白質 の検 出
1) ア ポ 蛋 白質A-I (apoA-I) と apoA-IIの 免 疫
電 気 泳 動
Grabar の方 法8)に準 じて, 0.06M Barbital 緩 衝 液 を
含 有 す る1% agarose (LE, FMC) ゲ ル 上 に並 列 し て 作
った 試 料 孔 へ, fast HDL-C亜 分 画 (fast 亜 分 画) と mid
亜 分 画 か ら回 収 し た試 料 は それ ぞ れ0.008mlを, 抗 原 量 が 少 な か った slow 亜 分 画 と upper 亜 分 画 か ら得 た 試 料 は2倍 量 を 注 入 し, 180volt で60分 間 電 気 泳 動 し て, 側 溝 へ 抗 apoA-I抗 血清 と抗 apoA-II抗 血 清 を 0.2mlず つ 交互 に注 入 し た. 2日 間 incubate し, 免 疫 沈 降 線 以 外 は 生 理 的 食 塩 水 に2日 間 浸 け て 除 蛋 白 し, 沈 降 線 を Coomassie Brilliant Blue R-250で 蛋 白 質染 色 し た.
2) ApoA-I連 立 ・交差免 疫 電 気泳 動9)
Agarose ゲ ル 電 気 泳 動 で pre-β位 に 出 現 す る apoA-I only particle10)を検 出す る た め に, Laurell の 方 法11) を 改良 し て 既報9)の ご と く行 っ た.
3) ApoC-II, apoC-III, apoE, apoB-100の 検 出
Ouchterlony 法12)に よ るゲ ル 内免 疫 拡 散 法 で 行 った.
E. HDL亜 分画 の 分子 量 の推 定
粒 子 の 脂 質 を 失 わ ず に 電 気泳 動 し, ま たTC染 色 へ の
阻 害 を 避 け るた め にSDSを 含 有 しな い5% disc PAゲ
ル を 用 い, 蛋 白質 変 性 剤 や加 熱 に よ る試 料 前処 理 を省 略
し た. High molecular weight protein kit (thyroglo-bulin: MW=669×103, apo-ferritin: MW=440×103,
catalase: MW=232×103, lactate dehydrogenase: MWF=140×103, bovine serum albumin: MW=67×
103; Pharmacia) も 同 様 に し て 血 清 試 料 と 同 時 に 泳 動 し
た. 較 正 蛋 白 質 を 泳 動 し た ゲ ル は ゲ ル 管 か ら取 り 出 し て Coomassie Brilliant Blue R-250で 染 色 し, 血 清 を 泳 動
し た ゲ ル はTC染 色 し, albumin の 位 置 に 対 す る 較 正 蛋 白 質 お よ びHDL-C亜 分 画 の 泳 動 距 離 の 比 (相 対 距 離) を 計 測 し た. 較 正 蛋 白 質 の 相 対 距 離 を 横 軸 に, 分 子 量 を 縦 軸 に plot し, そ の 結 線 上 にHDL-C亜 分 画 の 相 対 距 離 を plot す る こ と で そ の 大 略 の 分 子 量 を 推 定 し た. 成 績 1. 乾 熱 処 理 効 果 同 じ血 清 試 料 を 同時 に5% disc PAGEに 供 し, 1本 のゲ ル は乾 熱 処 理 を省 略 し, 別 の1本 は 乾 熱 処 理 後 に TC染 色 操 作 に移 った 際 に, 2時 間 後 の比 較 で は 前 者 の ゲ ル は無 変 化 だ が, 乾 熱処 理 を し た後 者 で は染 色 試 薬 の ゲ ル 内浸 潤 が 明 白で あ り, 8時 間 後 に incubate して 比 較 す る と後者 のTC染 色 帯 が前 者 の もの よ り も鮮 明 で あ った. 2. 分離 ゲ ル濃 度 の選 択
Fig. 1の ゲ ルNo. 1は, 3.75%PAゲ ル に Sudan
Black Bで 脂 質 前 染 色 した 血 清 を 電 気泳 動 し た リポ蛋 白
Fig. 1. Selection of a suitable concentration of separating gel to determine subfractions of HDL-cholesterol.
A gel in lane 1 shows the fractions of lipopro-teins (LP). Other gels show the subfractions of HDL-cholesterol (C). Sample is hyperbilirubinemic serum. Lane 1 and lane 2: 3.75% gel, Lane 3:
4.68% gel, lane 4: 5.0% gel, pb: pre-β LP, m: mid band, b: β LP, a: α LP, Y: yellow albumin, U: upper HDL-C, S: slow HDL-C, M: mid HDL-C, F: fast HDL-C.
質 分 画 で あ り, これ と同 時 に, No. 2は3.75%ゲ ル を 用 いて, No. 3は4.68%ゲ ル を用 いて, No. 4は5% ゲ ル を用 い て 急 性 肝 炎 患者 か ら得 た高 bilirubin 血清 を, それ ぞ れ電 気 泳 動 後 にTC染 色 を した結 果 で あ る. 3.75 %分 離 ゲ ル を用 い た 場 合, Sudan Black Bに よ る脂 質 前 染 色 法 で はHDL亜 分 画 が 得 られ な い の に, TC後 染色 法 で は超 低 比 重 リポ蛋 白 質 (VLDL)・中 間 比 重 リポ 蛋 白 質 (IDL)・低 比 重 リポ蛋 白質 (LDL) のTCが, pre-β
リポ蛋 白質 (pre-β LP)・mid band・βLPの 位 置 に認
め られ, HDLのTCは 陽 極側 か ら fast HDL-C・mid HDL-C・slow HDL-Cと 仮 称 した主 要3亜 分画 と up-per HDL-Cと し て 出 現す る. しか し, fast HDL-Cが albumin 位 の bilirubin 帯 に接 して 分 離 で き ない. 分 離 ゲ ル 濃 度 を4.68%に す る とVLDL・IDL・LDLが 出 現 し な くな るが, fast HDL-Cは bilirubin 帯 か ら完全 に離 れ た. 5%分 離 ゲ ル で は亜 分 画 が さ らに sharp に な る. よ って, 血 清 試 料 か らHDL-C亜 分 画 を測 定 す るに は5%PAゲ ル が 至 適 と考 え た. 3. 試 料 の選 択 健康 女 性10名 か ら得 た血 清 を試 料 と した 場合 と, そ の血 清 か ら リ ンタ ングス テ ン 酸MgCl2沈 降 法 で 得 た HDL分 画 を 試 料 と した 場 合 のHDL-Cの 主 要3亜 分 画 比 は, fast HDL-Cに 関 して は 前 者 が44.4±4.3%で 後 者 が46.3±5.1%で あ り, mid HDL-Cに 関 して は 前 者 が37.1±5.2%で 後 者 が36.6±4.2%で あ り, slow HDL-Cに 関 して は 前者 が18.3±3.7%で 後者 が17.6± 5.6%で あ った. そ して, 前 者 と後 者 との 間 に, そ れ ぞ れ の亜 分 画 比 につ いて の 有 意 差 を 認 め な い. よ って, HDL-Cの 主 要3亜 分 画 を測 定 す る 際 に, 5%PAゲ ル を 用 い れ ばHDLの か わ りに 血清 を 試 料 とし て も差 し支 え な い と考 え た. 4. HDL-C亜 分 画 測 定 法 の再 現 性 同 時 電 気泳 動 に 際 して の fast HDLC, mid HDL-C, slow HDL-Cの 測 定 値 のCVは, そ れ ぞ れ3.2, 3.8, 3.8%で あ り, 5回 電 気 泳 動 を 繰 り返 した 際 の測 定 値 の CVは, そ れ ぞ れ4.2, 4.6, 4.9%で あ った. 5. HDL亜 分画 の脂 質 構 成 比 60歳 の 健 康女 性 例 を Fig. 2上 段 に 示 す が, fast 亜 分 画 と mid 亜 分 画 の脂 質 構 成 比 に 明 らか な 相 違 は な い が, これ らに 比 し て slow 亜 分 画 で は エ ス テ ル 型 コ レス テ ロ ー ル (EC) の構 成 比 が 低 い. 同年 齢肝 癌 末 期 患者 血 清 (TC=170mg/dl, ト リグ リセ リ ド (TG)=62mg/dl, bili-rubin=10.5mg/dl) の 分 析 を Fig. 2下 段 に示 す が, 全 亜 分 画 で のECの 構 成 比 が 健 康 例 に 比 し て低 く, リン脂 質 (PL) の構 成 比 が 高 い. と くに fast 亜 分 画 と upper 亜 分 画 で のEC構 成 比 の低 下 が 著 し く, 逆 にTGの 構 成 比 が 増 高 して い た. 6. HDL亜 分 画 の ア ポ 蛋 白 質 構 成 Fig. 3上 段 は upper HDL-C分 画 比 が 高 い肝 癌 末 期 患 者 血 清 か ら回 収 したHDL亜 分 画 を 試 料 とし て, 抗 apoA-I抗 血 清 と抗 apoA-II抗 血 清 を 用 い た免 疫 電気 泳 動 の 結 果 で あ り, apoA-I免 疫 沈 降 線 はHDL亜 分 画 の 全 部 か ら出 現 す るが, apoA-II免 疫 沈 降線 は upper 亜 分 画 か らは 出 現 しな い (矢印 の 部 位 に). ま た, slow 亜 分 画 か ら も認 識 で きな か った 例 もあ り, ア ポ 蛋 白質 構 成 を括 め た Table 1に は (±) と表 示 し た. な お, apoA-1免 疫 沈 降 線 は agarose 電 気 泳 動 で は pre-β位 と α位 に2本 出 現 して い るの で, 抗 apoA-I抗 血 清 を用 いた 交 差免 疫 電 気 泳 動 に よ り pre-β位 の apoA-Iと α位 の apoA-Iの 比 を定 量 的 に 観 察 した 結 果 が Fig. 3下 段 で
あ る. ApoC-II, apoC-III, apoE, apoB-100の 存 在 は
Ouchterlony 法 に よ る免 疫 沈 降 線 出現 の有 無 で 判 断 し
て Table 1に 示 し た.
7. HDL亜 分 画 の 分 子 量 の 推 定
Fig. 4の ゲ ルNo. 1とNo. 8は 高 分 子 量 較 正 蛋 白質
を, No. 2か らNo. 7は さ ま ざ ま な 患者 血 清 を 同時 泳 動
して, 前 者 を 蛋 白質 染 色 し後 者 をTC染 色 し た結 果 で あ
る. No. 7は0.1%SDS含 有 ゲ ル を 用 い た結 果 で, TC
染 色 帯 は 出現 しな い. 見 か け の分 子量 として, fast 亜 分 Fig. 2. Lipids compositions in subfractions of
HDL-cholesterol.
Fast, mid, slow and upper indicate the subfrac-tions of HDL-C. Est Chol: esterified cholesterol, TG: triglycerides, PL: phospholipids.
画 が180×103, mid 亜 分 画 が250×103, slow 亜 分 画 が 410×103, upper 亜 分画 が540×103と 推 定 し た. 8. HDL亜 分 画 の臨 床 的 意 義 Fig. 5の 左 図 は 陳 旧性 脳 硬 塞 患者 血 清 か ら, 右 図 は 肝 癌 末 期 患 者 血 清 か ら得 たHDL-C亜 分 画 の デ ンシ ドグ ラ フで あ り, そ れ ぞ れ の亜 分 画 内 コ レス テ ロー ル 濃 度 を 下 表 に示 した. 脳硬 塞 例 で は mid HDL-Cの 著 減 が 特 徴的 で あ り, 肝癌 末 期 例 で は fast HDL-Cが 著 減 す る反面 で slow HDL-Cの 増 加 と upper HDL-Cの 明 白 な 出 現 が 特 徴 的 で あ る. 考 案 超 遠 心 法 で分 析 し たHDLは heterogenequs な リポ 蛋 白 質 分画 で あ るた め, さ らに 細 か く1.063∼1.100g/
Fig. 3. Immunoelectrophoresis
for apoA-I
and
apo-II
(upper)
and
crossed
immunoelectro-phoresis for apoA-I
in subfractions
of
HDL-cholesterol.
An arrow shows the absence of a immunoprecip-itin against apo A-II. Upper, slow, mid and fast
indicate the subfractions of HDL-C. a: α mobility, pb: pre-β mobility, O: the origin in the first
dimensional electrophoresis, F: free apoA-I, B: bound apoA-I.
Table 1. The distributions of apolipoproteins in subfractions of HDL-cholesterol.
(+)=+ or
-Fig. 4. The approximate molecular weights of subfractions of HDL-cholesterol.
Lane 1 and lane 8 show the calibration proteins stained by Coomassie Brilliant Blue R-250. Lanes of 2, 3, 4, 5 and 6 show the subfractions of HDL-C but the subfractions did not appear in a gel of lane 7 which contained 0.1% SDS.
Fig. 5. The subfractions of HDL-cholesterol. The left densitogram was obtained from a patient with cerebral infarction and the right was ob-tained from a patient with hepatic cancer.
mlのHDL2b, 1.100∼1.125g/mlのHDL2a, 1.125∼ 1.210g/mlのHDL3に 分 離 され て い る. Anderson, Nichols らは密 度 勾 配 超 遠 心 法 で 得 たHDL分 画 を 比 重 ご とに12分 画 に 分 け, 各 分 画 を4∼30% GGEで 泳 動 した 結 果, そ れ ぞ れ の 泳 動 距 離 は 高 比 重 の もの か ら順 に 大 き くな って いて, 総 合 的 に は3分 画 に大 別 で き た2). 後 に彼 らは, これ らの分 画 をHDL3, HDL2a, HDL2bと して 示 し た3). HDL-C測 定 法 の 一 つ に, cellurose acetate 膜 を支 持 体 に し た り13), agarose ゲ ル を支 持 体 に して14)電気 泳 動 後, 酵 素 法 に よ るTC後 染 色 を して αリ ポ蛋 白質 (αLP) 分 画 のTCをHDL-Cと して 計 測 す る 方 法 が 知 られ て
い る. しか し, 著 者 も cellurose acetate (Helena) を用
い て 泳 動 後 にTC, TG, PLを 別 々 に後 染 色 し た が15),
αLPの 亜 分 画 は認 め なか った. 浦 田 ら16)は既 成 の3%
PAゲ ル を用 い る市 販 の disc PAGEキ ッ ト (LipoPhor
system, Quantimetrix, USA) で 電 気泳 動後 にTC染
色 を した 結 果, コ ン トロー ル 血清 で は 単 一 で あ っ た α LP帯 が 高 脂 血 症 患 者血 清 で は2本 に分 離 した こ とか ら, こ れ ら をHDL2のTC (HDL2-C) とHDL3のTC (HDL3-C) と して い る. し か し, 著 者 が 対 照 血 清 を試 料 と して 自家 製 の3%PAゲ ル を用 いて Tris-Glycin 緩 一衝 液 で disc PAGEを 行 い, TC後 染 色 を し た 結果 で は,
ゲ ル 上 に pre-β LP (VLDLに 相 当), mid band (IDL),
β LP (LDL) のTC染 色 帯 の他 に, 陽 極 側 に3本 のTC 染 色 帯 を 認 め た. リンタ ング ス テ ン酸MgCl2に よ る沈 降 法 で 得 たHDLを 試 料 と して も, この3分 画 が 出 現 し た ことか ら, これ らを 陽極 側 か ら順 に fast HDL-C, mid HDL-C, slow HDL-Cと 仮 称 した. そ して, 周 産 期 母 子 間 に はHDL-C亜 分 画 につ いて の相 関性 が な い こ と を報 告 し た17). 今 回 の研 究 はHDL-C亜 分 画 測 定 法 を臨 床 検 査 法 として 満 足 で き るよ うに, つ ま り, 再 現 性 よ く, 多 数 検 体 処理 が可 能 な方 法 として 確 立 す るた め に行 った. Disc PAGEは 原 法5)に 準 じて 作 製 し た分 離 ゲ ル上 に 濃 縮 ゲ ル と試 料 ゲ ル を 重積 し た が, 試 料 ゲ ル の濃 縮 効 果 を 省 略 す る と染 色 帯 が鮮 鋭 で は な くな る. 分 離 ゲ ル が3 %ま た は3.75%の 場 合, VLDL・IDL・LDLへ のTC分 布 と同時 にHDL-C亜 分 画 が認 め られ る が, fast HDL-C と yellow alb とが 分 離 し ない. 4.68%ゲ ル や5%ゲ ル の場 合 は荷 電 効 果 よ りも分 子 節 効 果 の ほ うが 優 位 と な
って, fast HDL-Cは yellow alb か ら完 全 に 分 離 す る.
つ ま り, 脂質 とア ポ 蛋 白質 の複 合 体 で あ るHDLの 分 析
が, GGEの 手 法 に よ らず と も5% disc PAGEで 十 分
に 可能 で あ った. しか も, VLDL・IDL・LDLが5%分 離 ゲ ル 中 に は泳 動 して こな い た め に, 血 清 試 料 か ら直 接 にHDL・C亜 分 画 を得 る こ とが で きた. この 方 法 で 留 意 す べ き点 は, TC染 色 液 をゲ ル 周 の全 域 に均 一 に十 分 に 浸 潤 させ る こ とで あ るが, この 問題 は 著者 が考 案 した 乾 熱 処 理 操 作 で解 決 で きた と思 わ れ た. 乾 熱処 理 後 に室 温 で 放 熱 す る際 に, 試 験 管 壁 に ゲ ル よ り蒸 発 し た水 分 が結 露 し, ゲ ル 容 積 の 減 少 が わ ず か な が ら観 察 され る. 水 分 が 減 じた ゲ ル は添 加 され たTC染 色 液 を 速 か に 吸収 す る こ とが, 無 処 理 ゲ ル と の比 較 で 明 白で あ った. そ の結 果, HDL亜 分 画 のTC染 色 性 が 恒 常 的 ・均一 的 に な っ た と思 われ, 事 実, 再 現 性 テ スト の成 績 が 満 足 で き る も の とな っ た.
肝 胆 道 疾 患 で は, fast HDL-C, mid HDL-C, slow
HDL-Cの 主 要3亜 分 画 の 他 に, これ らの 陰 極 側 に1ま た は2本 の淡 いTC染 色 帯 が 出 現 す る. これ を upper HDL-Cと 仮 称 した. これ ら亜 分 画 中のTGも 後 染 色 で きた が, PLの 後 染色 の 際 には 亜 分 画 か ら広 く拡散 して 染 ま った. そ の た め に 各 亜 分 画 か らの 回 収 物 の 脂質 構 成 比 (Fig. 2) で はPLの 百 分 比 が 低 値 とな っ た. 対 照 で は slow 亜 分 画 で のECの 構 成 比 が 低 値 で あ るが, 肝癌 例 で は す べ て の亜 分 画 のTCと くにECの 構 成 比 が 低 く, こ と に fast 亜 分 画 と upper 亜 分 画 で の低 下 が著 し く, そ の 反 面, TGの 構 成 比 が増 大 して い た. HDL-C亜 分 画 の ア ポ 蛋白 質 構 成 は Table 1に 総括 し た. ApoA-Iは す べ て の亜 分 画 に分 布 した が, agarose ゲ ル 免 疫 電 気 泳 動 に よ り pre-β位 と α位 に 分 離 で きた (Fig. 3). これ は, Levy and Fredrickson がHDL試 料
か ら発 見 した 所 見10)と一 致 し, α位 の も の はHDLに 結
合 した bound apoA-Iで, pre-β位 の もの は apoA-I
only particle with lipids と考 え られ て お り, free apo
A-Iと 称 され て い る. そ の 血 中濃 度 は 高 脂 血 症18)・腎
不 全19)・肝胆 道 疾 患9)で 増 大 す る. 各 亜 分 画 か らの回 収 物 に つ い て 交 差 免 疫 電 気 泳 動 で 定 量 的 に観 察 す る と,
upper 亜 分画 で はす べ て が free apoA-Iで, slow 亜 分
画 で は 大 部分 が free apoA-Iで あ り, mid 亜 分 画 と
fast 亜 分 画 に も認 め た (Fig. 3). ApoA-IIは upper 亜
分 画 に は 存 在 しな い こ と が 判 明 し, slow 亜 分 画 で も detect で きな い症 例 も経 験 した. 免 疫 沈 降線 の長 さ の比
較 で 半 定 量 的 に, apoA-I/apoA・II比 は fast 亜 分 画 よ
り も mid 亜 分 画 の ほ うで 大 きい. 免 疫 拡 散 法 で の検 討
で upper 亜 分 画 に apoB-100を 認 め た が, upper 亜 分
画 の 本 質 につ い て は, さ ら に症 例 を集 積 して 検討 す べ き
で あ ろ う. Slow 亜 分 画 に は apoEを 認 め た が apoC-II
Vol. 37. No. 6. 1993 (387)
apoC-IIIと と も にapoEが 存 在 し た が, fast 亜 分 画 に は apoC-IIとapoC-IIIは 存 在 す る が apoEは 存 在 し な か っ
た. ち な み に, Weisgraber and Mahley20)は heparin-sepharose affinity chromatography に よ っ てHDL2を
分 析 し て, HDL2-without apoEとHDL2-with apoEと apoB-containing lipoprotein に 分 け ら れ た と し て い る.
Fig. 5に, HDL-C濃 度 が 同 じ で も 基 礎 疾 患 に よ っ て HDL-C亜 分 画 の profile が 異 な る こ と を 示 し た. 脳 硬
塞 例 で は apoE含 有 亜 分 画 のTCす な わ ち slow HDL-Cと mid HDL-Cの 著 減 が 特 徴 的 で あ る が, 肝 癌 例 で は fast HDL-Cの 減 少 と slow 亜 分 画 比 の 上 昇 と upper 亜
分 画 の 出 現 が 特 徴 的 で あ っ た. ち な み に, 田 中 ら21)は 高 速 液 体 chromatography に よ る 分 析 で, 脳 硬 塞 群 で は HDL2-CもHDL3-Cも 低 下 し て い る の に, 肝 硬 変 群 で はHDL3-Cの 低 下 が 特 徴 的 で あ る と 報 告 し て お り, 著 者 の agarose 免 疫 固 定 電 気 泳 動 に よ る 分 析 で は, HDL-apoEは 脳 硬 塞 群 で は 著 減 し22), 急 性 肝 炎 群 で は 血 清 apoEの 大 部 分 がHDL-apoEで あ っ た23). HDL-C亜 分 画 の 見 か け の 分 子 量 を 計 測 し た 結 果, fast 亜 分 画 が180×103, mid 亜 分 画 が250×103, slow 亜 分 画 が410×103, upper 亜 分 画 が540×103と 推 定 で き た. 以 上 の, 亜 分 画 の 脂 質 ・ア ポ 蛋 白 質 構 成 の 特 徴 と病 態 で の変 動, お よ び, 見 か け の分 子 量 な ど か ら考 察 し て, fast HDL-CはHDL3-Cで あ り, mid HDL-Cは HDL2a-Cで, slow HDL-CはHDL2b-Cで あ ろ う と考 え ら れ た. 本 論 文 要 旨は 第43回 電 気 泳 動 学 会 総 会 で 発 表 した. 文 献
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旨
GGEの 手 法 に よ らず に5% disc PAGEを 応 用 し て,
HDL亜 分 画 のTC (HDL-C亜 分 画) を 血清 試 料 か ら直 接 に 分 別 測定 す る方 法 を 確 立 した. 分 離 ゲ ル上 に染 色 さ れ た 三 つ の 主 要HDL-C亜 分 画 を, 陽 極 側 か ら fast HDL-C, mid HDL-C, slow HDL-Cと 仮 称 し たが, 肝 胆 道 疾 患 で は slow 亜 分 画 の後 方 に さ らに upper HDL-Cが 出現 す る. 亜 分 画 粒 子 の 脂質 ・アポ蛋 白質 構 成 の特 徴 と病 態 で の変 動 や み か け の分 子 量 な ど を測 定 して 考 察 す る と, fast HDL-CはHDL3-Cで あ り, mid HDL-C はHDL2a-Cで, slow HDL-CはHDL2b-Cで あ る と推 測 され た.
