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前腕近位端粉砕骨折に対する骨接合術の一例

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前腕近位端粉砕骨折に対する骨接合術の一例

市立士別総合病院 整形外科 伊 藤 雄 人 濱 田 修

Key words :Comminution of metaphysis(骨幹端粉砕)

Dislocation fracture of elbow(肘関節脱臼骨折)

LCP metaphyseal plate(LCPメタフィジアルプレート)

Locking Compression Plate(ロッキングコンプレッションプレート)

要旨:直達外力による尺骨および橈骨近位端の粉砕を伴う肘関節脱臼骨折に SYNTHES 社の LCP metaphyseal plate を用いて骨接合を行なった.受傷当日はデブリードマン,洗浄及び脱臼の可及 的整復を行ない,創閉鎖,Kirschner 鋼線による内固定と外固定を行なった.受傷後14日目に LCP metaphyseal plate を用いて観血的骨接合術を施行.良好な固定性を得,術後4日目より持続性他 動関節運動装置(CPM)を用いて可動域訓練を開始した.術後12週にて肘関節屈曲130°,伸展−5°,

回内30°,回外80°と良好な可動域を得,骨癒合も良好である.近年,骨折治療において多用され る Locking Compression Plate(LCP)について考察した.LCP metaphyseal plate は screw と plate の locking 機構はそのままに,一方のプレートエンドが薄く作られており骨端部の骨折において bending や創閉鎖に有利である.

は じ め に

尺骨近位端および橈骨近位端の粉砕を伴う肘 関節脱臼骨折 の 一 例 にSYNTHES社 のLCP metaphyseal plateを用いて骨接合術を行ない 良好な結果を得たので報告する.

6歳,男性.金属棒を削る旋盤にて作業中,

金属棒が何らかの原因で曲がってしまい,それ が高速で回転を続けて前腕近位を強く叩き,受 傷,当院を受診した.

右前腕近位に橈側,尺側,背側,計3ヵ所の 開放創を伴う開放性脱臼骨折(Gustilo )で あった.神経血管損傷はなかった(図−1).

当日は,デブリードマン,洗浄および脱臼の可 及的整復を行なった.橈骨頭が粉砕し不安定性 が 強 か っ た た め , 肘 頭 か ら 尺 骨 々 幹 部 へ Kirschner鋼線を1本刺入し,ドレーン留置,

創閉鎖,長上肢シーネ固定とした(図−2).

術後,創部の感染徴候なく,軟部組織の状態の 落ち着いた術後14日目に観血的骨接合術を施行 した(図−3).尺骨は後方approachにて8 穴のLCP metaphyseal plateを用い,粉砕し た第三骨片をtipにして戻し固定した.橈骨は Henryの前方approachで進入し,輪状靭帯を 一時的に切離した後,頚部にsmall screw,骨 幹部に6穴のLCP metaphyseal plateを用い て固定した.骨折部の固定性は回内外運動に対

図−1 初診時 X 線像

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しても良好であり,内側および外側・後外側の 軟部組織による不安定性は認めなかった.その ため早期可動域訓練に耐えられると判断した.

内固定後4日目に外固定を除去し,CPM 用いて可動域訓練を開始した.また同時に自動 での回内外運動を許可した.術後4週でCPM を終了し,愛護的な他動可動域訓練を開始し た.術後12週 に て , 肘 関 節 屈 曲 10°・ 伸 展

−5°,前腕回内30°・回外80°の可動域を獲得 し,右手での食事やタオルを絞る動作も可能と なっている(図−4).橈骨,尺骨とも仮骨形 成がみられ骨癒合も良好である.

関節内骨折の治療原則は,解剖学的整復と強 固な内固定であり,早期可動域訓練が可能であ れば,良好な結果につながる.また,肘関節脱 臼骨折においては靭帯及び軟部組織の安定性を 図−2 受傷日術後 X 線像

図−3 内固定術後 X 線像

図−4 術後12週可動域

北整・外傷研誌 Vol. 2 3. 2 0 0 7 − 6 5 −

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得ることも重要である1,2).本症例においては,

骨折部は粉砕していたが,関節面は比較的保た れていたこと,直達外力であったため靭帯損傷 を合併しなかったこと,及び強固な内固定がで きたことにより,術後早期に良好な機能的回復 を得ることができた.

Locking Compression plate(LCP)は高い 角度安定性と初期固定力を持つとされ,近年,

様々な部位の骨折治療において多用されてきて い る .LCP metaphyseal plate screw platelocking機構はそのままに一方のplate endが薄く作られており,骨端部の骨折におい

bendingや創閉鎖に有利なように開発され

ている.尺骨近位端,橈骨近位端,上腕骨遠位 端等の骨折がこのplateの良い適応とされてい る.肘頭部の粉砕骨折の際にはtension band wiringよりもplate固定のほうが有利とする 報告も多くなっている3).使用されるplate 伝統的なものとしてDCP plate,一方の端を cutした1/3円plate(hook plate),anatomi- calなものとしてMayo clinic congruent elbow plate,フツロ社肘頭プレートシステム等があ り,一長一短である.肘頭の骨折では関節面の 整復と関節の径の維持が重要である.長さを保 持することは,locking機構の得意とする部分 であり,1/3円plateより厚く,DCPより薄 い,それでいて従来のplate systemよりも固 定力の期待できるこのplateの有用性は高い.

一方でLCPの問題点であるが,plate設置

の時点でscrewの方向性が決まってしまうた

め,plate endが骨軸とずれてしまった場合,

screwが骨にわずかしかかからないということ

が起こりうる.またguideの設置を慎重に行 なわないと,screw headscrew hallが不適 切にかみ合ってしまうこともある.そのような 場合でもtorque limitation付きドライバーで カチッといかにも効いた感じにさせられてしま い,それが固定力の低下や金属抜去の際の不具 合につながることがあるので注意が必要であ る.また,初期固定力があまりに良好なため.

過度な可動域訓練によってplateが折損した症 例も報告されている4).骨片間にかかる応力が

plateの骨折近傍部へ集中してしまうことが折

損の原因と考えられている.LCPを使用する 際の注意点は,適切な位置にplateを設置 し,それを保持する(MIPOを用いる際には,

特に慎重にplateと骨軸を合わせる)screw guideを 適 切 に 設 置 し て ,screw plate lockingを確実に行なう.screwの位置と本 数を考慮し,plateにかかるストレスを分散さ せることである.この3点に充分注意して,

LCPを用いることにより骨折治療の成績向上 が期待できる.

前腕両骨の近位端粉砕骨折をLCP metaphy- seal plateを用いて固定し,短期間のfollow はあるが良好な可動域を得た一例を報告した.

関節近傍の骨折において,より強固な内固定材 料としてLCP metaphyseal plateは一つの選 択肢となりうると考えられた.

1)吉田竹志:肘関節脱臼(肘靭帯損傷).MB Orthop25;18:53−57.

2)南野光彦:肘関節脱臼を伴った橈骨頭および橈骨頚部骨折の治療経験.骨折 23;25:7

−76.

3)田嶋光:肘頭骨折の手術手技.関節外科10月増刊号 25;24:64−70.

4)武村憲冶ほか:鎖骨骨幹部骨折に対するLocking Compression Plate(LCP)の使用経験.骨 折 25;27:22−25.

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