The Japanese Association of Management Accounting
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日本 管 理 会 計 学 会 誌
管 理 会 計 学 1999 年 第7巻 第1・2合 併 lj’
論 文
取 引業 者の 最 適 所 要 量 管理 と サ プ ラ イ チ ェ ー ン の
全 体 最 適 に関 す る一 考 察
三 田 洋幸*
〈論 文 要 旨〉
サ プ ラ イチ ェ ーン に関 わ るさま ざ まな非効率は, サ プ ラ イ チ ェ ーン の 物理的な制約,
すな わち, 需 要の不 確 実 性, 調 達 り一ドタ イム の 長 さ
, 計 画 サ イクル の 長 さ とい っ た 制 約の中で, 取引業者が そ れ ぞ れ に自己の利益 を 最 大化し よ うとして決定し た所 要量
(保 有 在 庫+調 達 量 ) 政 策を実 行 することで もた ら される と考 えら れる .
本稿で は,そ の ような 問題 意 識に基づ き,取引業者が 自己の利 益 を最大化する最適所 要 量 を決 定 する ときの意 思 決 定プロ セ ス をモ デ ル化 し, そ れ が 小 売 業 者, 販 社,メ ーカ ーとい っ た サ プライ チ ェ ・・一ン を構成する取 引 業者の業態に よっ て異 な る構 造を持つ こと を示 す.さら に, 最 適 所 要 量の 相 違 が 業 者 間 取 引の需 給バ ラン ス に与 える影 響 を分 析 し,
サ プライ チ ェ ーンの非効率を生 じ さ せ る要 因を摘出 する.
サ プラ イ チ ェ ーン の 非効率を生 じ さ せ る阻害要因 は,(1)小 売 需 要の 加法 性,(2)市 場 成 長 期の需 要の水 増 効 果, (3)市場 立 上 げ 期の需 要 抑 制 効 果で あ り, さ らに, (4)トレー
ド ・プロ モーシ ョ ン の不 適 切な 運用は,こ れ ら阻害要 因を助 長 する可 能 性が ある こ と を 指 摘 した.
さ ら に,サ プライ チェ ーンの
効 率を高め る 成功 要 因を探 索し,(1)地域 内小 売 店 在 庫の 一元 管 理
, (2)小 売 店の 選 択と集 中,(3)最 終 需 要 ・在 庫 情 報の 共有,(4)VMI 方式の 導入,
(5)市場導入直後の トレード ・プロ モ ーシ
ョ ン 強 化, (6)市場 成 熟 期の トレード ・プロ モ ーシ ョ ン の制 限の6つ を摘出 し た.
〈 キ ーワー ド 〉
サ プライ チェ ーン ・マ ネジメ ン ト,全体 最 適,最適所 要 量,収 益 構 造,Bullwhip 効 果,
VMI
1999 年 2月 受 付 1999年 4月 受埋
* 中 央クーパ ース ・アン ド・ライブラン ド コ ンサルテ ィ ング,マ ネジン グアソシエ イッ兼ニ ュ ーポート大 学 助 教 授.
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1. は じめ に
製 品 需 要の変 化が著 しい 今 臼の経 営 環 境におい て , 原 材 料の 調 達か ら最 終 顧 客 まで の ビ ジ ネス ・シス テム の あ り方が 企業収益 に イン パ ク トを与える大 きな要 因とし て関心が高まりつ
つ ある . この よう な 大局 的 視 点 か ら変革を しよ うとする こ と は, 企 業 が 単 独で取 り組ん だの で は 限界があ り, 大 きな成 果 を期待す る こ と がで きない こ と が課題 になっ てい る. 製品 を供 給 す る に は, 原 材 料 ・部 品 供 給 業 者 ,メ ーカ ー, 卸 業 者 ,小 売 業 者 とい っ た複 数の 取 引 業 者 を経 由する こ と が普通であ り.そ れ らの個 別行動に ゆ だ ね たの で は, 全体最適か ら は か な り 隔 たっ た もの になる か らで ある .
こ の ような, 製品供給に 関わ る川上 か ら川下 まで の ビ ジネス ・シ ス テ ム を変革す る技 法と
し て , サ プラ イチ ェ ーン ・マ ネジメ ン トが近年 注 目さ れて い る。サ プ ラ イチ ェ ーン ・マ ネ ジ
メ ン ト は, 各取引 業者の ビ ジネス ・プロ セ ス を 川 上 か ら 川 ドまで連 続 的に捉 えるこ とで, 新
しい ビ ジネス ・シ ス テム を展 開 し, 同時に取 引 業 者の役 割 分 担 を再 構 築 する こ とで , サプラ
イチェ ーン の 全体 最適を向 Eさせ よ うとす る試み で ある. ビ ジネス ・シス テ ム を実 現する に 当たっ て は, 先 進 的な情 報 技 術 ・ロ ジス テ ィ ッ クス 技 術をフ ル に活 用す る.
サ プ ラ イ チェ ーン ・マ ネジメ ン トの 問題 を複 雑 に して い る背景に は ,サプラ イチ ェ ーンが
さま ざ ま な要 素に よっ て構 成さ れ る複 雑 なシ ス テ ム で あ り, その特 性 を捉え る こ と が 困難に なっ て い るこ と が あげ ら れ る.圓 川 [2]は, サ プラ イ チ ェ ーン の 複雑さ を助長する 要因 と
して , (1)需 要の 不確実 性, (2)サ プ ラ イ チェ ーン の リー ド タ イム
, お よ び(3)各取 引 業者の 自主 的 な 意思決定の 3点 を挙げてい る.一方 ,H .L. Lee [3]は , サ プラ イチ ェ ー ン の非 効 率 を ブル ウ ィ ッ プ効 果(Bullwhip Effect)と称 して ,その発生原 因と して,(1)需 要 予 測の 多 段 階増 幅, (2)バ ッチ オーダーに よ る変 化の 増 幅, (3)価 格 変 動によ る先 買い , (4)品 切不安
に対 する水 増し発注の 4点を挙 げて い る.
取 引 業 者はマ ーケ テ ィ ン グ活 動 を通 じて 需 要 をコ ン トロ ール しようとするが , それで も需 要は 市場の 多様性 に応 じ て逐次変 化 す る. この とき, 需 要変化に直 ちに対 応で きれ ば 問 題は 少ない が, 現 実のサ プ ラ イ チ ェ ーン に は物理的な り一 ド タ イムが あ る た め
, 変 化へ の 対 応 に
遅 れ が 生 じて し ま う.そ れ を回 避 し よ うと して ,各取引業者は,発注在庫 管理,生産管理, チャ ネル 政策等に関 する さ まざま な意思 決 定 を行 うわけで あ る が,そ れ ら が 自己 目的の た め
に行わ れる結 果と して 全体 最 適 を阻 害 する こ と が少 な くない の で ある.
こ の よう な 問 題 意 識 に 基づ き, 本 研 究は, 以下 の 目的で サ プラ イ チ ェ ーン の マ ネジメ ン ト ・コ ン トロ ール の あ り方 を研 究しよ うとする もの で ある.
(1)取引業者の 収益構造 を精 緻 にモ デル 化す る こ とで , 需 要の 不確 実性に 対 処 し な が ら,
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取 引 業 者の最 適 所 要 量 管 理 とサ プ ラ イ チェ ーン の全 体 最 適 に 関 す る一考 察
自己の経済的利益 を最大 化する た めの 最適所 要量の 構 造を分析する.
(2)そ の よ うな最 適所 要量に基づい て調達を行 う取引業者の ビヘ イ ビ ア が サプライチェ ー ン の 非 効 率 を生 じ さ せ る こ と を考察 し,サ プラ イ チ ェ ー ン の 全 体 最適を阻害す る本 質 的 な 要 因 を解 明 する.
2. サプラ イ チ ェ ー ン全体 最 適の 意 味
サ プ ラ イ チ ェ ーン を全体最適の 観点か ら変革 し ようとする場 合 に, 単一製 品を取 り上げて その 収 益 性 を分析す る だけで は不 十 分で ある。 なぜ なら ば, 取引業者は複 数の 製 品を扱 っ て
い るこ と が普通 で あ り, 取 引業者の利 益 は そ れ らの 製 品 間の 取扱量 に よっ て 大 き く変化す る
か らで ある. 例 えば, 小 売 業 者は.競合 関係にある複数メ ーカ ーの 製品 を扱 っ て お り, 自分
の儲 けを増や す 回転の 速い 製 品の取扱い を優洗 し ようとするで あろ う. 店 頭ス ペ ース 効 率や
仕入 予算に対 す る制 約が大きい 場合 に は, 販売効 率が低い製 品 を店頭か ら排除 し よ うとする
で あろう.
一方, サ プラ イ チ ェ ー ン の 構 造 変 革 を通 じて , 全 体 と して 超 過 収 益が生 じ させ る こ と が で きる.そ れ に ともない ,超 過収 益 を最 終 顧 客や取 引 業 者とで シェ ア する こ とで 取 引 拡 大の 良 循 環 を形 成 する こ とで がで きる. もし, ある メ ー カー
が 自社 製 品の販売状 況が十 分で な く, もっ と売れ て然るべ き と考えるな ら ば, その 超過収 益を小売店に充当するこ とに よっ て , 当 該 製 品の扱い を増や す ように仕 向 ける こ ともで きる . 当 該 製 品の 店 頭 露 出度が高 まれ ば, 現 行の マ ーケ テ ィン グ施策も相 乗 効 果的 に高 ま る 叮能性 も あ る し,そ れ ら に よっ て , 製品需 要 が一段 と顕 在 化さ れ る 良循 環が形 成 され れ ば, 取 引 業 者は それ ぞれ 利 益 を増 加 させ る こ と が
で きる わけで ある.サ プラ イ チ ェ ー ン の 全体最適は, 生産 ・流通 プロ セ ス の 変 革を通 じて ,
製 品需 要を一段 と顕在化 さ せ る良循 環を形 成 するこ とで , 製 品の 競争力を高め る こ とに よっ
て もた ら さ れ る わ けで ある.
こ の ような視 点に立つ と,サ プ ラ イチ ェ ーンの 全体 最 適 を 以 下の ように定 義 する こ と がで きる .
「取引業者の ビジネス ・モ デル を再構築するこ とで,サ プラ イ チ ェ ーン全体とし ての 超 過収 益 を 生 じ さ せ る と と もにサ プラ イ チ ェ ーンに 関与 する各取 引 業 者の利 益 を一斉に向上 さ せ る.」
3. 取 引業 者の収 益 構 造
取 引業 者の ビヘ イ ビ ア 分析 に先 立 ち ,取引業 者の 収益構造 を精 緻に構造 化 する こ とで , サ プラ イ チ ェ ー ンの 非効 率 要 因に よっ て 取 引 業者の 利 益が どの ように影響を受け る か分 析 す
る . 製 品の 販 亮 に伴 う売 上高 ,製 造 費 用, 販売費 用 とい っ た一般 的な損益の み な らず, 製品
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調 達の 過 不 足か ら 生 じ る販売機会損 失, 売 残 り損 失お よび在庫 維持費用 な ども考慮 する必 要
がある .
3.1 晶切 れ 損 失
製 品の 需 要が供給量 を 上 回っ た場 合に は品 切れ が発生する.小売業 者は, 晶切 れ が 生 じる と, 他の 小 売業者に売上 を奪わ れ る と考え る し, 販 社の 場 合 には, 自杜の 収益が減るこ とも
さ るこ と な が ら, 小売業者 との 取 引 関係を悪 化 さ せ るこ とを 危惧 する .メーカ ーは, 自社 製 品の 代 りに競合 会 社の 製 品が購 入 される と考 えるわけで ある . 品 切れの数 量を明確に捉える
こ と は現 実 的に は困 難で はある が , 取 引業 者は品 切れ が もた らす販売機 会損失 をな くそ うと 明確に意識 し てい る.
い ま, 販 売 価 格が p, 調 達 変動費が v の ときに, 品 切れ がnu 個 発 生 し た ときの 品 切 損 失 U
は, 次 式で 与 えら れ る .
σ 一(ρ 一v) nu (1)
こ こ で , 調達変動 費とは, 小 売 業 者や販 社に とっ て は仕入 lrス トで あ り, メ ーカ ーに とっ て
は製造 変動費で ある.
3.2 売 残 り在 庫 損失
製 品の供 給 量よ り も需 要が下 回っ た場 合に は, 売 残 り在庫 損 失が発生する. 売残 り在庫損 失 とは,ある販 売サ イ クル に おい て , 通常の販売 価格で 販売 し たの で は売 残 りが で て し ま う
ときに, それを処 分 するの に必 要な コ ス トで あ る.
(1)亮 残 り処 分 損 益
製 品 を在庫 と して持 ち越せ ない 場 合に は, 売れ残 りを廃棄するこ と に伴 う損失が発 生 する 。 製品 が 売れ残っ て しまい そ うなときには, た だ黙 っ て見て い る わけで は な く, まず値下げ販 売を し で,そ れ で も売れ残 っ た製 品 を廃 棄 する とい っ た手順 を踏むこ とに なる. し た が っ て ,
売 残 り処 分 損益は,値 下 げ販 売 に よっ て 得た収益 と,売れ残 り品 を廃 棄し た損失 とを相殺す
る ことで 与えら れ る .
値下げ 販 売 は, 最善の 場 合 に は, 僅かに値 下 げを し た だ けで 売 り切 るこ と もで きる だ ろ う
し, 柑 当 な値下 げ をしない と売れ ない こ ともある だろ う,た だ し, あま り安 くしす ぎる とバ ーゲ ン狙い の 顧 客が増 えて し まうの で,現実的に は , 限 界 利 益がゼ ロ に なる販 売 価 格 を値 引 きの 下 限 と仮 定する、する と, 値下げ販売か ら得ら れ る収益 は, 最善で も通常 販 売 時の 限界 利 益 を 上 限 と し, 値 下 げ 幅を大 きく す る につ れ て 限界利 益がゼ ロ になるまで低 減 し てい くの
で , 平 均 的に は, 通 常 販 売 時に得 ら れ る限 界 利 益 の 1/2程 度 と考 えて も大 きく は相違し ない