旧東ドイツ経済における外国資本
佐 々 木 昇
は じ め に
東西ドイツの統一にともなって,旧東ドイツは社会主義計画経済から市 場経済に移行することになった。旧東ドイツの市場経済への移行の出発点に なったのは 1990 年7月の両ドイツ間に結ばれた「通貨・経済・社会同盟」であっ た。この同盟に基づいて東ドイツ市場が実質的に西ドイツ市場と統合される と,西ドイツや西側資本との競争から守られていた障壁がなくなり,競争力 の劣る多くの東ドイツ企業が破綻し,東ドイツ経済は急速に崩壊へと向かっ ていった。
旧東ドイツの市場経済への移行は,まず国営企業の民営化から始まった。
この民営化は,国営資産を全て信託公社に移管し,この公社が国営企業を民 間に売却するという方法で進められた。しかし旧東ドイツには市場経済の下 での経営技術を持った人材はなく,また多くの企業の設備は,更新を必要と していたが,このための資本も不足していた。他方で,経済の崩壊によって 大量の失業者が生まれ,雇用問題が深刻化していた。このため信託公社によ る民営化では,できるだけ多くの雇用と投資を確保することに重点が置かれ,
売却先として,十分な資本と必要な経営技術を持った西ドイツ系資本や外資
系資本が優先されたのであった(1)。
その後の旧東ドイツの経済発展において,西ドイツ系あるいは外資系企業 の参加が必要とされたことは,信託公社による民営化が終了した後でも状況 は同じであった。
本稿は,まず信託公社の資料に基づいて,旧東ドイツの民営化過程にお いて外資系あるいは西ドイツ系資本がどの程度の比重を占めたのか,またど のような特徴を持ったのかを考察した。次いで,ドイツ連邦銀行の直接投資 残高統計によって,旧東ドイツへの外国直接投資という視点から旧東ドイツ 経済への外国資本の全体的な参入状況とその特徴を考察した。最後に,労働 市場・職業調査研究所の企業調査による資料に基づいて,上記の資料では十 分に取り扱われていなかった西ドイツ系企業の実態を含めて,外資系および 西ドイツ系企業の生産性や技術能力を東ドイツ系企業と比較しながら検討し た。こうした検討を通して,統一後の東ドイツ経済において外資系および西 ドイツ系企業が果たしている役割とその性格を考えてみたい。
第1節 国営企業の民営化と外国企業
ドイツが統一する前の社会主義体制の下にあった旧東ドイツでは,企業の ほとんどは国営であった。統一以後,旧東ドイツの市場経済への移行にとも なって,旧国営企業は民営化されていった。統一後,比較的早い段階で民営 化されたのは,小規模な小売業,レストラン,薬局などで,これらは 2,5000 社余りで,このほとんどは旧東ドイツの人々の手に渡った(2)。旧東ドイツ企 業の民営化において大きな課題となったのは,比較的少数の工業部門を中心 とした巨大コンビナート企業の民営化であった。
こ れ ら 旧 東 ド イ ツ 企 業 の 管 理 は, 連 邦 財 務 省 所 管 の「 信 託 公 社
(Treuhandanstalt)」に移され,信託公社によって民営化されることになった。
この信託公社による民営化は,1990 年7月の「通貨・経済・社会同盟」発 効以後,本格的化したが,崩壊した旧東ドイツ経済の再建と市場経済への移 行のために,民営化は急がれた。信託公社による民営化は,1994 年 12 月末 までの4年半程で終わった。この信託公社による保有資産の処理と売却先 の件数を示したのが,第1表である。1994 年末までに処理された信託公社 保有資産のうち,310 件が地方自治体に移管され,1,588 件が再民営化,す なわち元の所有者に返還された。また全体の 54%に当たる 6,546 件が民営化 され,全体の3割に相当する 3,718 件が,倒産ないし清算された。さらに,
192 件の資産は民営化できず,信託公社の後継機関に移転された。1994 年末 までに信託公社によって処理された総件数は,民営化できなかったものを含 めると 12,354 件で,これから後継機関に移転した件数と清算した件数を除 くと,信託公社保有資産の民営化件数は 8,444 件となる。このうち,地方自 治体への所有権の移転と旧所有者への返還以外のものをみると,2,983 件が
MBO
やMBI
を通じて主に旧東ドイツ系投資家に売却され,2,703 件が西ド イツ系投資家に,そして 860 件が,外国人投資家に売却された。西ドイツ系処理形態 売却先
件数 構成比% 件数 構成比%
破産 地方自治体 再民営化 民営化
計 総計
3,718 310 1,588 6,546
12,162 192 12,354
30.6 2.5 13.1 53.8
100.0
地方自治体 元の所有者 MBO/MBI 西ドイツ投資家 外国人投資家
計 信託公社保有
310 1,588 2,983 2,703 860 8,444 192
3.7 18.8 35.3 32.0 10.2 100.0
出所)BVS,
Abschlussbericht der Bundesanstalt für vereinigungsbedingte Sonderaufgaben ;Jindra,J., Internationalisation Theory and Technological Accumulation
,palgrave macmillan,2012,Tablel 1.第1表 信託公社による保有企業の処理と売却先(1994 年 12 月末)
企業への売却は,民営化件数の 32%を占めたが,外国人投資家への売却は 10%程であった(3)。信託公社が保有資産の民営化に際して重要視したのは,
売却・民営化された企業が約束した投資額と雇用数であったが,外国人投資 家への信託公社保有企業の売却によって 155,000 人の雇用と 258 億マルクの 投資が約束された。
さらに細かく見ておくと,外国人投資家に売却された資産 860 件のうち,
企業体として売却されたのは 241 件にとどまり,残りの 619 件は,企業経営 にとって必ずしも必要としない,企業体の中核的部分から切り離された資産 であった。信託公社が民営化のために売却した資産のうち企業として売却 した件数は 6,546 件であり,このうちで外国人投資家に売却されたのは 3.7%
を占めたにすぎない(4)。確かに,件数で見ると外国人投資家のウェイトは比 較的小さいようにみえるが,後で考察するように,外国人投資家は西ドイツ 投資家とともに,投資の引受額や雇用者の引受数でも一定のウェイトを占め,
比較的規模の大きい,資本集約的企業の買収で重要な役割を担ったのである。
なお,MBOを通じた民営化は,経営陣による自社株買いであるから,民 営化資産が旧東ドイツ市民の手に渡った可能性が高いが,旧東ドイツの経営 者には西側の経営技術が欠けており,資金的な困難にも直面していたから,
信託公社は
MBO
による民営化には消極的であり,MBOが実現したのはベ ルリンのような限定された地域か,東ドイツ地域以外からの投資家が見つか らない場合に限定された。さらに実行されたMBO
による買収には,かなり の西ドイツの投資家が含まれていることも指摘されており,必ずしも東ドイ ツ市民による買収とはいえない側面もあった。このように旧東ドイツ企業の 民営化から東ドイツ市民は排除されることが多く,信託公社による旧東ドイ ツ国営企業の売却では,市場経済の下での十分な経営ノウハウや豊富な資金 を持った西ドイツや西側外国企業が優先されたのである。さらに信託公社が,保有資産の売却先として西ドイツ企業と並んで外資系企業も優先したのは,
東ドイツ地域の市場経済への移行と経済の再建には,西ドイツ資本だけでは 十分ではなく,できるだけ多くの外国資本を引きつける必要性があったからで ある。また同時に外国資本の導入は,旧東ドイツ企業の民営化において西ド イツ資本一辺倒にならないようにバランスをとるという意味も持っていた(5)。
上記の信託公社の民営化における外資系企業による買収について,1994 年 12 月末の時点での,外国人投資家へ売却された信託公社保有企業の外国 人投資家国別構成を示したのが第2表である。これによると,民営化(売却)
の件数では,上位 10 ヶ国が全体の 85%を占めている。またドイツ周辺の西 欧・中欧諸国が,4分の3を占める。件数ではスイスが 139 件で最も多く,
次いでイギリスの 124 件,オーストリアの 100 件,オランダの 96 件などと なっている。しかし,ドイツ周辺国の買収規模は相対的に小さく,これに 対して主要国であるイギリスやフランスは1件当たりの買収規模は大きい。
ヨーロッパ以外ではアメリカとカナダの投資家への売却が多いが,とくにア メリカは投資の引受額が全体の4分の1を占めて最も多い。これに次いで投
民営化(売却)
件数
投資引受額 100 万 DM
構成比
% 雇用引受数 構成比
% スイス
イギリス オーストリア オランダ フランス アメリカ イタリア ベルギー デンマーク カナダ その他 全世界
139 124 100 96 89 78 38 30 26 10 130 860
1,191 2,825 1,016 1,191 5,456 6,335 702 1,535 545 1,849 3,126 25,771
4.6 11.0 3.9 4.6 21.2 24.6 2.7 6.0 2.1 7.2 12.1 100.0
19,474 16,666 16,323 10,577 25,428 15,073 4,897 4,329 3,196 16,955 22,025 154,943
12.6 10.8 10.5 6.8 16.4 9.7 3.2 2.8 2.1 10.9 14.2 100.0 出 所 )BVS, 同 書 ;Leiner,R.,"Auslandische Investoren im Privatisierungsprozess", Schmude,J.(Herg),Neue Unternehmen in Ostdeutschland-Neuaufbau und Umstrukturierung der
Unternehmenslandschaft,Springer 1998,Table 3.
第2表 外国人投資家に売却された信託公社保有企業の売却先国別構成
資の引受額が多いのは 21%のフランスであるが,同国は雇用の引受数でも 全体の 16%を占め,最大であった。投資家を国別に見た特徴は,スイス,オー ストリア,オランダの投資家は,比較的資本集約度の低い部門へ投資してい るのに対して,フランス,アメリカ,カナダの投資家は,資本集約的な部門 へ投資したといえる。また,比較的意外に受け止められているのは,世界的 にみて主要な投資家である日系企業の投資活動が活発でなかったことである。
この理由のひとつと考えられるのは,日系企業は,旧東ドイツ時代に投資家 として大きな成果をあげ,情報ネットワークを確保していたが,旧東ドイツ の体制崩壊と市場経済への移行によってそれが失われたため,東ドイツ市場 への参入のための十分な情報が得られなかったためと考えられている(6)。
さらに,この外資系企業によって買収された信託公社保有企業の産業別の 構成を示したのが,第3表である。最も多く買収された産業分野は,買収件 数全体の4分の1を占めた小売・運輸・サービス業の 213 件である。これら の多くはコンビナート工業企業からサービス企業として分離され,個別に民 営化された経営体である。同じような状況下にあったのが,買収件数で2番 目に多く,全体の2割を占めた鉄鋼・機械部門である。また,地方自治体へ
民営化(売却)
件数
投資引受額 100 万 DM
構成比
% 雇用引受数 構成比
% エネルギー・水・鉱業
化学・石油・プラスチック・ゴム 土石
鉄鋼・機械・自動車 電子・精密機器 食品・飲料・タバコ 繊維・皮革・木工・紙 建設
小売・運輸・サービス その他
全産業
32 57 81 174 62 63 66 78 213 34 860
3,313 6,958 2,342 4,899 733 868 764 672 2,639 2,583 25,771
12.9 27.0 9.1 19.0 2.8 3.4 3.0 2.6 10.2 10.0 100.0
5,561 16,653 13,295 32,278 12,765 5,647 5,698 28,881 15,839 18,326 154,943
3.6 10.7 8.6 20.8 8.2 3.6 3.7 18.6 10.2 11.8 100.0 出所)Leiner,R.,
op.cit
.,Table 4.第3表 外国人投資家に売却された信託公社保有企業の産業別構成
の所有権の移転などのために外国人投資家による買収は限られたものであっ たエネルギー・水道・鉱業部門を除いた他の部門でも,外国人投資家による 買収対象においては分離された経営体の占める割合は非常に大きかった。外 国人投資家による買収の産業部門を投資と雇用の引受について見ると,投資 を最も多く引き受けたのが化学・石油・ゴム部門の 40%,土石部門の 33%,
鉄鋼・機械部門の 29%などである。外国人投資家による投資引受は,投資 財部門のうちの資本集約的な産業にかなり集中している。これらの部門は,
貿易依存度が大きいだけでなく,資本集約的な部門の企業を売却するために 信託公社が,投資促進策や補助をおこなった部門であり,外国人投資家はこ うした補助政策を利用しながら投資したことが伺われる。さらに化学部門は,
フランスの
Elf
石油による石油精製部門の買収のように,投資が少数の巨大 プロジェクトに集中していることが特徴である。他方,雇用の引受も,化学・石油・ゴム部門の 29%,土石部門の 26%,鉄鋼・機械部門の 14%など,投 資の引受と同じ傾向を持っているが,異なるのは建設業による雇用引受の割 合が比較的大きいことである。これは,統一後の急速なインフラ整備などか ら生まれた建設ブームが大きな要因である。上記の投資財産業に対して,資 本集約度の低い繊維・皮革・木工・紙産業や食品・飲料産業のような消費財 産業や商業・サービス・運輸産業のような第三次産業の買収では,アメリカ の
Coca-Cola
のような巨大企業の参入も含まれているが,多くは地域的な販 売市場に依存した中小企業であったために投資と雇用の引受の割合も相対的 に少なかった(7)。外国人投資家による信託公社企業の買収の性格については,240 社程の企 業体の買収についてみるとより明白になる。第4表は,信託公社によって民 営化された企業体を買収した外国人投資家と国内投資家の産業構成を比較し たものである。外国人投資家の買収では 63%が製造業企業であり,この部 門の買収が 47%にとどまる国内投資家と比べると,外国人投資家の買収が
製造業に集中していることがわかる。しかもこのうち,原料・生産財部門の 企業の買収が大きな比重を占めている。この部門は,企業数では製造業全体 の 23%であるが,雇用数では製造業全体の約半分を占める。さらにこの部 門では,化学産業や土石産業などの寡占的産業に買収が集中し,外国人投資 家が,寡占的な利益が得られる部門を中心に東ドイツ市場に参入を図ろうと したことが伺われる(8)。
上記のような外資系企業の買収が,東ドイツの民営化全体においてどの程 度のウェイトを占めたのかを考えておこう。信託公社がその任務を終えた 1994 年 12 月末時点で,信託公社が保有する資産の民営化において外国人投 資家が買収した資産件数の割合は,上述のように 860 件で全体の 10%であっ た。さらに,外国人投資家によって引き受けられた投資額と雇用数の民営化 全体で引き受けられた投資額と雇用数に占める割合を計算すると,雇用数で は 10%,投資額では 12%である。民営化全体に占める外国人投資家の割合は,
ほぼ1割であるが,1件当たりの買収額や雇用引受数をみると,外資系企業 は,民営化企業平均の2倍近くあり,また雇用者1人当たりの投資額では,
外資系企業は民営化企業全体の平均を上回っており,旧東ドイツの民営化に 外国投資家への売却 国内投資家への売却 企業数 % 雇用数
(千人) % 企業数 % 雇用数
(千人) % エネルギー・水
鉱業 製造業
原料・生産財 投資財 消費財 食品・滑好品 建設業 商業 サービス業
総計
2 1 160 37 61 38 24 27 19 29 238
0.8 0.4 66.4 23.1 38.2 24.7 15.0 11.2 7.9 12.0 100.0
1.7 3.9 50.8 24.9 16.2 4.5 5.1 20.9 1.0 2.7 80.9
2.0 4.7 62.7 49.1 32.0 8.9 10.0 25.8 1.2 3.4 100.0
194 19 2,776 460 1,298 590 428 767 656 1,390 5,802
3.3 0.3 46.7 16.6 46.8 21.2 15.4 12.9 11.0 23.4 100.0
53.5 18.6 488.1 92.9 269.6 69.7 60.0 149.8 68.9 136.6 915.5
5.8 2.0 53.3 19.0 55.2 14.3 11.5 16.4 7.5 14.9 100.0 出所)Leiner,R.,op.cit.,Table 6.
第4表 外国人投資家へ売却された信託公社企業の産業構成
おいて外資系企業は件数に占める割合以上に大きな役割を果たしていること を物語っているのである(9)。
第2節 旧東ドイツにおける外国直接投資
これまでは旧東ドイツの民営化における信託公社保有企業の外資系企業に よる買収状況について考察してきたが,これは外資系企業の初期の参入状況 の把握にとどまる。そこで,次にドイツ連邦銀行が公表している直接投資残 高統計によって,外国直接投資という視点から最近時点までの旧東ドイツに おける外国資本の参入状況を検討していこう。
第1図のように,ベルリンを除く旧東ドイツ諸州への外国直接投資残高 は,1991 年の6億 6,500 万ユーロから 2011 年の 279 億 8,200 万ユーロへ 42 倍に増加している。この期間の推移をみると,1998 年まで増加した投資は,
これ以後 2002 年頃まで停滞し,これ以後再び増加し,2006 年とリーマン・
ショックの影響を受けた 2009 年に投資の減少がみられるが,趨勢としては
(百万ユーロ)
出所)Deutsche Bundesbank,Ergänzende Tabellen zur Statistischen Sonderveröffentlichung 10.
第1図 旧東ドイツへの外国直接投資
2011 年まで増加してきている。各州別の投資の推移を示した第2図をみれ ばわかるように,2007 年まで旧東ドイツにおける外国直接投資をリードし てきたのは,ザクセン-アンハルト州であった。同州への外国直接投資は,
1995 年から 1997 年の間に急増した後,1999 年から 2001 年まで減少し,そ の後 2007 年まで再び増加に転じている。そして 2009 年に再び減少を繰り 返している。ザクセン-アンハルト州への外国投資をリードしたのは
Dow Chemical や Elf 石油などの化学・石油産業であり
(10),2007 年の同州への外 国直接投資残高は,60 億 3,800 万ユーロで,ベルリンを除く旧東ドイツの諸 州のなかで最大の外国投資受け入れ州であった。しかしその後の投資の減少 によって 2011 年の残高は,46 億 3,100 万ユーロとなり,第4位に後退した。2008 年にザクセン-アンハルト州を抜いて旧東ドイツにおける外国直接投 資の最大の受け入れ州になったのは,ブランデンブルク州であった。ブラン デンブルク州は,2007 年から投資が急増して,2009 年,2011 年とわずかな 減少を繰り返しているが,2011 年でも 77 億 5,300 万ユーロで,ベルリンを 除く旧東ドイツ諸州のなかで最大の受け入れ州になっている。これに次ぐの
出所)Deutsche Bundesbank,Ergänzende Tabellen zur Statistischen Sonderveröffentlichung 10.
第2図 旧東ドイツ諸州への外国直接投資
(百万ユーロ)
は,ザクセン州の 71 億 4,000 万ユーロで,第3位は,メクレンブルク-フォ アポンメルン州の 62 億 3,200 万ユーロであった。
これまではベルリンを除く旧東ドイツについて考察したが,ベルリンにつ いては,ドイツ連邦銀行は旧東ベルリンと旧西ベルリンを区分した統計を公 表していないので,ベルリン全体について考察する。連邦銀行の投資残高統 計によると,ベルリンへの外国直接投資は,統一直後の時点でベルリンを除 く旧東ドイツ諸州の合計額を大幅に上回っていた。その後,旧東ドイツ諸州 への投資が増加したため,2000 年までベルリンへの投資は旧東ドイツ諸州 への投資を下回っていた。統一後間もなくベルリンは統一ドイツの首都とさ れたが,2007 年以後首都機能のベルリンへの移転が進むにつれて,多くの 企業の本店や支店などがベルリンに設立されるにともなって外国直接投資も 増加した(11)。2001 年以後ベルリンへの投資は,旧東ドイツ諸州への投資を 不断に上回っているのである。2011 年のベルリンへの外国直接投資は前年 より減少したものの 298 億ユーロに達している。
上記のように,旧東ドイツへの外国直接投資は大きく増加してきたといっ ても,ドイツが統一したときの旧東ドイツ地域への投資は非常にわずかで あったから,投資規模はまだ依然として小さいものにとどまっている。2011 年のベルリンを除く旧東ドイツ諸州への外国直接投資の全ドイツへの投資に 占める割合は 4.8%にすぎず,ベルリンでも6%である。ベルリンを除く旧 東ドイツの
GDP
が全ドイツのGDP
に占める割合は,11%で,GDPの割合 に比べて外国直接投資の割合は半分以下である。また,ベルリンのGDP
の 全ドイツに占める割合は,3.9%で,外国直接投資の割合がこれを上回って いることは,ベルリンがドイツ最大の都市で,また首都でもあるという特別 な要因に基づいているものと考えられるのである(12)。2011 年の旧東ドイツへの外国直接投資の国別構成を示したのが,第5表 である。ドイツ全体への外国直接投資のうち,EUからの投資は 76%を占め
るが,ベルリンを含まない旧東ドイツ新5州では,EUからの投資は 87%,
ベルリンでも 82%と,EUからの投資の比率が非常に高い。国別にみると,
ベルリンを含まない新5州では,オランダが 24%と最も大きく,ルクセン ブルク 9.8%,イギリス 6.7%,スイス 6.6%,オーストリア 4.3%などで,ド イツの周辺国からの投資が多いのが特徴である。オランダからの投資では,
ザクセン州とザクセン-アンハルト州の2州への投資が 86%を占める。ル クセンブルクからの投資も,メクレンブルク-フォアポンメルン州とザクセ ン州へ3分の2が投下されている。また,オランダとルクセンブルクからの 投資は,持株会社を通した投資が多いことが明らかにされている(13)。ベル リンへの投資は,旧東ドイツ新5州への投資合計を上回っているが,このこ とは,旧東ドイツ地域への外国直接投資は,ベルリンへ集中する傾向が強い ことを物語っている。ベルリンへの投資で最も多いのはフランスの 24%で,
新5州の7倍近くをベルリンに投資している。これに次ぐのが,ルクセンブ ルクの 14.7%で,新5州への投資の 1.6 倍をベルリンに投資している。オラ
ドイツ全体 旧東ドイツ地域
ドイツ全体 旧東ドイツ地域
新5州 ベルリン 新5州 ベルリン
100万ユーロ 100 万ユーロ 構成比% 構成比%
EU ベルギー フランス イタリア ルクセンブルク オランダ オーストリア スウェーデン スペイン イギリス スイス アメリカ 日本 全世界
435,298 9,468 47,061 38,667 82,571 134,585 24,956 16,587 12,684 47,342 37,590 48,904 15,717 569,654
24,478 n.a.
1,048 776 2,729 7,182 1,201 n.a.
n.a.
1,881 1,675 873 n.a.
27,982
24,330 1,323 7,171 152 4,383 4,236 777 2,229 2,612 395 450 1,365 23 29,846
76.4 1.7 8.3 6.8 14.5 23.6 4.4 2.9 2.2 8.3 6.6 8.6 2.8 100.0
87.5 n.a.
3.7 2.8 9.8 25.7 4.3 n.a.
n.a.
6.7 6.0 3.1 n.a.
100.0
81.5 4.4 24.0 0.5 14.7 14.2 2.6 7.5 8.8 1.3 1.5 4.6 0.1 100.0 第5表 旧東ドイツ地域への外国直接投資の地域別構成(2011 年末残高)
出所)Deutsche Bundesbank,
Ergänzende Tabellen zur Statistischen Sonderveröffentlichung 10 .
ンダも 14.2%を占めるが,オランダの対ベルリン投資は,新5州への投資を 下回る。これら以外では,スペインの 8.8%,スウェーデンの 7.5%などが比 較的大きな割合を占める。また,スイスからの投資は,ベルリンよりもブラ ンデンブルク州を中心に新5州に投下されている。ヨーロッパ以外ではアメ リカの投資規模が比較的大きいが,アメリカの場合はどちらかといえばベル リンにより多くの投資がおこなわれている。
ドイツ連邦銀行は,直接投資残高以外に,国別にみた外資系企業数,その 売上高,およびその雇用者数を公表しているので,これを主要国について示
ベルリンを除く旧東ドイツ
総数 1社当たり
企業数 売上高
(10 億ユーロ)
雇用数
(千人)
売上高 (100万ユーロ )
雇用数 ( 人 ) EU
フランス イタリア ルクセンブルク オランダ オーストリア スウェーデン イギリス スイス アメリカ 全世界
668 81 n.a.
94 164 79 n.a.
63 135 71 945
51.2 9.3 n.a.
8.5 10.7 2.9 n.a.
2.4 5.5 2.3 61.2
109 10 n.a.
16 25 10 n.a.
7 17 7 140
76.6 114.8 n.a.
90.4 65.2 36.7 n.a.
38.1 40.7 32.4 64.8
163 123 n.a.
170 152 127 n.a.
111 126 99 148 ベルリン
EU フランス イタリア ルクセンブルク オランダ オーストリア スウェーデン イギリス スイス アメリカ 全世界
684 65 16 128 140 119 21 62 55 67 876
55 23 1.7 5 4.8 0.6 4 5.1 1.7 1.3 59.5
82 12 4 9 18 3 9 5 7 5 96
80.4 353.8 106.3 39.1 34.3 5.0 190.5 82.3 30.9 19.4 67.9
120 185 250 70 129 25 429 81 127 75 110 出所)Deutsche Bundesbank,
Ergänzende Tabellen zur Statistischen Sonderveröffentlichung 10 .
第6表 旧東ドイツにおける外資系企業の企業数,売上高,雇用数(2011 年)したのが第6表である。ベルリンを除く旧東ドイツ諸州の企業数では,オラ ンダの 164 社とスイスの 135 社がとくに多く,売上高では 107 億ユーロのオ ランダに次いで,フランスの 93 億ユーロの規模が大きい。雇用数では,や はりオランダの2万5千人が最も多いが,これに次いでスイスの1万7千人 とルクセンブルクの1万6千人がほぼ並んでいる。またベルリンの企業数で は,オランダの 140 社,ルクセンブルクの 128 社,オーストリア 119 社が多 いが,売上高をみると,フランスの 230 億ユーロが他国に比べてとくに大き い。これに次ぐのがイギリスの 51 億ユーロ,ルクセンブルクの 50 億ユーロ,
オランダの 48 億ユーロである。雇用数ではオランダが1万8千人でリード し,フランスは1万2千人である。ここで注目すべきは1社当たりの売上高 と雇用数である。フランスはベルリンを除く新5州でもベルリンでも1社当 たりの売上規模が最大で,外資系の平均を大幅に上回っていることである。
すなわちフランスの対東ドイツ投資の1社当たりの規模は大きく,しかも1 社当たり雇用数は,投資額ほど大きくはないから,比較的資本集約的な投資 をおこなっていることが推察されるのである。これに対して直接投資額の大 きいオランダ,ルクセンブルク,オーストリアは,企業数は多いが,1件当 たりの規模は比較的小さく,また相対的に労働集約的な投資をおこなってい るといえる。
次に,2011 年における旧東ドイツへの外国直接投資の産業別構成を検討 していこう。第7表によれば,ベルリンを除いた旧東ドイツの新5州への外 国投資では製造業が半分を占めており,ドイツ全体への投資では製造業は3 割余りを占めるにすぎないから,ここでは製造業への投資の割合が高いこと がわかる。このなかでとくに大きなシェアを占めているのは,化学産業の 9.4%で,金属製造・加工業や機械産業,電機産業がこれに続いている。製 造業以外では,運輸業や持株会社の比重が大きい。この新5州への投資に対 してベルリンへの投資では,製造業への投資は2割余りで,比較的小さく,
製造業以外ではエネルギー供給の 33%が大きなウェイトを占める。エネル ギー部門については,ドイツが原子力を廃止して,再生可能エネルギーの供 給を拡大する政策をとっているために,例えば新5州への投資額は不明であ るが,アメリカ企業がブランデンブルク州に太陽光発電所建設の計画を発表 するなど,ドイツ全体でこの部門では外国企業の参入が活発になっている(14)。 またベルリンはドイツの最大都市ということもあり,商業と不動産・住宅業 の需要が多いことからこれらの産業への直接投資も多い。
さて,これまでの考察で旧東ドイツにおける外国資本の地域別および産業 別の構成は,ある程度明らかになり,いくつかの特徴も確認できた。さらに,
ドイツ全体 旧東ドイツ地域
ドイツ全体 旧東ドイツ地域
新5州 ベルリン 新5州 ベルリン
100 万ユーロ 100 万ユーロ 構成比% 構成比%
鉱業 製造業
食品 化学 薬品
ゴム・プラスチック ガラス・陶磁器・土石 金属製造・加工 金属製品 精密機械 電機 機械 自動車 エネルギー 建設 商業 運輸 情報・通信 金融・保険 不動産・住宅 持株会社 その他サービス 全産業
5,255 182,615 7,298 21,762 19,725 7,271 7,515 6,454 6,779 11,619 8,457 22,920 7,162 23,080 2,559 69,971 9,848 44,522 96,811 26,667 81,533 12,973 569,654
n.a.
14,090 336 2625 n.a.
464 686 1,093 367 n.a.
819 852 n.a.
n.a.
105 641 3,860 214 n.a.
779 1,646 318 27,982
n.a.
6,253 15 n.a.
1,165 54 69 -
316 537 113 619 -
9,766 137 3306 249 2,322 1,629 2,957 836 40 29,846
0.9 32.1 1.3 3.8 3.5 1.3 1.3 1.1 1.2 2.0 1.5 4.0 1.3 4.1 0.4 12.3 1.7 7.8 17.0 4.7 14.3 2.3 100.0
n.a.
50.4 1.2 9.4 n.a.
1.7 2.4 3.9 1.3 n.a.
2.9 3.0 n.a.
n.a.
0.4 2.3 13.8 0.8 n.a.
2.8 5.9 1.1 100.0
n.a.
21.0 0.1 n.a.
3.9 0.2 n.a.
- 1.1 1.8 0.4 2.1 -
32.7 0.5 11.1 0.8 7.8 5.5 9.9 2.8 0.1 100.0 第7表 旧東ドイツ地域への外国直接投資の産業別構成(2011 年末残高)
出所)Deutsche Bundesbank,
Ergänzende Tabellen zur Statistischen Sonderveröffentlichung 10 .
旧東ドイツの統一以後の経済再建に外国企業がどのような役割を果たしたの かを知るためには,旧東ドイツの各産業部門において,外資系企業がどの程 度の比重を占めているのかを明らかにすることが重要である。しかし,ドイ ツ連邦銀行は,旧東ドイツにおける外資系企業の産業別の雇用数や売上高に ついては公式の資料としては公表していない。そこで,これに関してドイツ の研究者が,連邦銀行から得た資料として研究論文のなかで公表している資 料を示したのが,第8表である。この表は,ベルリンを除く旧東ドイツの各 産業の雇用と売上高において,外資系企業がどの程度のウェイトを占めたの かを示している。ただし,この表の年度は 1999 年であり,比較的古い資料 であることや,多くの未公表あるいは不明のか所が含まれているため,必ず しも十分な資料とはいえないが,連邦銀行による資料で入手できる最も新し い産業別の雇用や売上高に関する資料である。これによると 1999 年の旧東 ドイツ製造業雇用に占める外資系企業雇用の割合は,10%であった。これ
雇用 売上高
(千人) % (10 億 DM) %
製造業 食品 紙 化学
ゴム・プラスチック 陶磁器・土石 金属製造・加工 機械
電機 精密機械 自動車 商業 運輸・通信
不動産・企業サービス 全産業
51 1 1
×
× 3 6 6 3 2 3 5 2 3 74
10.0 1.2 12.0
×
× 8.5 30.3 9.6 12.3 12.8 11.0 n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
24.8 0.8 0.6
×
× 1 2.9 1.6 0.8 0.4 2.7 4.3 0.6 0.8 34.6
17.5 3.0 24.0
×
× 10.7 45.4 11.7 14.3 14.7 18.9 n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
第8表 旧東ドイツ産業における外資系企業の占める割合(1999 年)
注)×は,データの秘匿のため不明
出所)Bellmann,L.,P.Ellguth,R.Jungnickel,op.cit.,Table 1.
に比べて売上高に占める割合は 17.5%になり,雇用に比べて外資系企業は売 上高規模が大きいことを示している。製造業の内訳では,雇用において金属 製造・加工業が大きな比重を占める。この産業は売上高でも大きな比重を占 めているから,この部門では外資系企業の果たす役割は非常に大きいといえ る。これ以外では紙製造部門の売上高で外資系企業は大きな比重を占めるし,
電機,精密機械,自動車の各産業でも 14%から 19%と比較的大きな比重を 占める。これらの産業は雇用よりも売上高の比重が大きいことから,旧東ド イツ国内企業に比べて外資系企業の企業規模は大きく,また資本集約的性格 が強いことが推察できる(15)。ただし,この資料では比較的大きなウェイト を占めると考えられる化学産業については不明となっており,外資系企業に ついての十分な参入状況を伺いしることはできない。またドイツ連邦銀行の 直接投資残高統計は,旧東ドイツにおける外国直接投資の規模を過小にし か示していない。それは,この統計が外国投資として把握するのは直接旧 東ドイツに投資されたものであり,すでに旧西ドイツに進出した外国企業か ら旧東ドイツへ投資されたものは把握されていないからである。このうえに 当然ではあるが,旧東ドイツに進出した西ドイツ系多国籍企業については,
示されていない。例えば,2007 年頃まで外国投資が比較的低調であったザ クセン州では,Infineon, Porsche, Volkswagen, Bosch などの多くの西ドイツ系 多国籍企業が進出したことは,この統計にはまったく反映されていないので ある(16)。
第3節 外資系,西ドイツ系,東ドイツ系企業の生産性と技術革新能力
そこで,旧東ドイツにおける外国資本について,もうひとつの資料である 労働市場・職業調査研究所の企業調査(IAB-Betriebspanel)の資料に基づいて,
さらに検討していこう。この資料は,企業を過半数支配によって外資系,西
ドイツ系,および東ドイツ系に区分し,またこれらの企業の売上高,雇用数,
および投資額を明らかにしている。ただし,この調査が対象にしている企業 の単位は,企業体全体ではなく,東ドイツ地域に存在する個別の経営体である。
以下に考察する
IAB
企業調査は,2001 年の 1,800 社の製造業企業を対象にし た調査である(17)。この資料では,これまで明らかでなかった西ドイツ系企業 の実態を把握することができ,また売上高,雇用数,および投資額が明らか にされているため,より詳しい企業経営の状況を考察することが可能である。この
IAB
企業調査によれば,第9表のように 2001 年の東ドイツ製造業にお ける外資系,西ドイツ系,および東ドイツ系企業の占める割合は,企業数で は外資系 1.6%,西ドイツ系 15%で,東ドイツ系企業が 80%であり,企業数 では東ドイツ系企業が圧倒的に多い。しかし,雇用数をみると,外資系企業 の割合が 9.7%,西ドイツ系が 37.8%と,外資系と西ドイツ系企業の合計が半 分近くに達して,東ドイツ系は 47.5%になり,さらに売上高になると,外資 系 14.7%,西ドイツ系 50.2%と両者で 65%に達し,東ドイツ系企業は 30%に とどまる。投資についても売上高とほぼ同じような状況である(18)。このよう にIBA
企業調査によれば,外資系および西ドイツ系企業は,東ドイツ市場に おいて企業数は比較的少ないが,雇用や売上高では非常に大きなウェイトを 占めていることがわかるのである。旧東ドイツ経済において,西ドイツ系企業を外資系に含めて考えた場合に,
企業数 2001 年
雇用数 2001 年
売上高 2000 年
投資額 2000 年 外資系企業
西ドイツ系企業 東ドイツ系企業 その他
1.6 15.0 80.4 3.0
9.7 38.8 47.5 5.0
18.9 46.2 30.0 4.9
15.2 47.4 34.4 3.0
注)その他は,公企業,過半数所有のない企業,および所有が不明の企業。出所)
IAB-Betriebspanel 2001;
Günther,J.,op.cit.,
Table 4.第9表 外資系,西ドイツ系,東ドイツ系企業の企業数,雇用数,売上高,投資額の構成(%)
外資系企業の占めるウェイトは,同じく社会主義経済から市場経済に移行し た東ヨーロッパ諸国と比べても決して小さくない。第3図によれば,2001 年 の製造業雇用に占める外資系企業のウェイトは,東ヨーロッパ主要国のなか で東ドイツの 48%が最も高く,売上高でも 65%の東ドイツは,73%のハンガ リーに次いで大きい。投資ではハンガリーの 78%,スロバキアの 73%,チェ コの 69%に次いで 65%であったが,これも決して低いウェイトとはいえない のである(19)。
また,企業数に比べて雇用や売上高で大きな比重を占めていることは,外資 系および西ドイツ系企業は,東ドイツ系企業に比べて企業規模が大きいことを 物語っている。この外資系および西ドイツ系企業のなかには,多くの多国籍企 業が含まれているが,実際に,これらの企業規模を比較したのが第 10 表である。
2003 年の外資系企業の1社当たりの雇用数は 137 人で,西ドイツ系企業が 57 人,そして東ドイツ系企業 12 人であり,外資系企業の規模は東ドイツ系企業 の 10 倍以上であり,西ドイツ系企業でも5倍近い規模である。そして西ドイ ツ系企業の規模は,外資系,東ドイツ系企業の中間に位置することがわかる。
(単位:%)
スロベニア ポーランド 東ドイツ チェコ スロバキア ハンガリー
雇用 売上高 投資
第3図 東ヨーロッパ製造業における外資系企業の参入割合(2001 年)
出所)
Wirtschaft im Wandel
, 2-2005,S.48.こうした企業規模の相違から生まれる結果のひとつが,生産性の相違であ る。第 11 表に示されるように,2000 年の雇用者1人当たり売上高で表示した 売上高生産性では,25 万1千ユーロの外資系企業は,7万2千ユーロの東ド イツ系企業の 3.5 倍であり,15 万ユーロの西ドイツ系企業は,東ドイツ系企 業の2倍であった。この関係は,雇用者1人当たり粗付加価値で計った付加 価値生産性についてもほぼ同じで,外資系企業は,東ドイツ系企業の 2.4 倍で,
西ドイツ系企業は2倍であった。
この生産性の相違は,企業規模のほかに部門構成の相違によっても規定さ れる。第4図は,外資系および西ドイツ系企業と東ドイツ企業の製造業部門 構成の比較を示したものである。これによると,外資系および西ドイツ系企 業のウェイトが高い部門は,電機,機械,化学部門などで,これらは比較的 生産性が高い産業である。これに対して東ドイツ企業のウェイトが高いのは,
食品・飲料・たばこ,繊維・繊維製品産業などで,これらの産業は相対的に 生産性が低い産業である。このように,生産性の高い部門が高いウェイトを
1998 年 2001 年 2003 年 外資系企業
西ドイツ系企業 東ドイツ系企業
115 47 11
123 52 12
137 57 12
出 所 )IAB-Betriebspanel;Günther,J.& O.Gebhardt,"Eastern Germany in the Process of Cathing Up",Eastern European Economics,Vol.43,No.3,Table 3.
第 10 表 外資系,西ドイツ系,東ドイツ系企業の企業規模(1企業当たり雇用数の平均)
売上高生産性
(雇用者当たり売上高)
付加価値生産性
(雇用者当たり付加価値)
外資系企業 西ドイツ系企業 東ドイツ系企業 全企業
251.4 149.7 71.6 119.1
78.3 64.2 32.6 48.6
注)付加価値は粗付加価値。出所)
IAB-Betriebspanel 2001
;Günther,J.,op.cit .,Table 13.
第 11 表 売上高生産性と付加価値生産性(2000 年) (単位:1,000 ユーロ)
占める外資系および西ドイツ系企業の生産性が高くなり,生産性の低い部門 のウェイトが高い東ドイツ企業の生産性が低くなることは当然の結果といえ るが,このような規模の相違や部門構成の相違に基づく生産性の相違を調整 しても,外資系および西ドイツ系企業と東ドイツ企業の生産性の相違は存在 する(20)。この相違を生みだしているのは,技術革新能力の差である。
OECD
は,技術を「ハイテク」,「中位技術のなかのハイテク」,「中位技術 のなかのロウテク」,および「ロウテク」に分類しているが,EUの統計機関 は,この分類を基礎にしながら,「中位技術のなかのハイテク」を「ハイテク」に含め,「中位技術のなかのロウテク」を「中位技術」として,技術を「ハイ テク」,「中位技術」,「ロウテク」の3分類に修正分類している(21)。これを旧 東ドイツにおける外資系・西ドイツ系企業と東ドイツ系企業の生産が,どの 技術に分類されるのかを調べて,その構成を示したのが第 12 表である。2001 年の外資系・西ドイツ系企業では,「ハイテク」に分類された企業の生産物の 割合は 40%を占めるのに対して,東ドイツ系企業の生産で「ハイテク」に分
(単位:%)
第4図 外資系,西ドイツ系企業と東ドイツ系企業の産業構成比較(2001 年)
出所)
IAB-Betriebspanel
;Günther,J.,op.cit
.,Chart 4.東ドイツ系企業 外資系・西ドイツ系企業 精密機器
電機 自動車 機械 金属加工 再生品 金属 非鉄 ゴム・プラスチック 化学 紙・不製品 繊維・皮革 食品・飲料・タバコ
家具類 4.5 8.78.7 7.0 9.3 7.0 3.7 7.9 3.7 1.7 3.3
13.6
7.7 13.6
12.7 22.7
3.0 3.0 2.3 2.3 2.3 1.7 1.7
1.4 9.8
5.8 5.8 2.9 6.16.16.1 0.9 6.2
13.0 2.5 9.9
6.5 6.5
6.1 18.8
0.0 5.0 10.0 15.0
18.8
20.0 25.0
類された割合は 21%であった。逆に,「ロウテク」に分類された外資系・西ド イツ系企業の生産割合は 35%であるのに対して,東ドイツ企業は 43%もあった。
このように,東ドイツ経済において外資系・西ドイツ系企業は,「ハイテク」生 産を担う割合が高いのに対して,比較的多くの東ドイツ系企業が,「ロウテク」
生産に従事していることがわかるのである。IAB企業調査は,外資系企業や東 ドイツ系企業の製品開発や
R&D
活動についても調査している。この調査では,製品開発について以下の3つのタイプに分類している。ひとつは,「既存の製品 の改良やさらなる開発」,2つ目は,「市場には既に存在しているが,企業にとっ ては新しい製品の開発(製品の多様化)」,3つ目は,「まったく新しい製品の開 発」である。外資系,西ドイツ系,東ドイツ系のそれぞれの企業の活動のなかで,
上記3つの製品開発のタイプが占める割合を示したのが第 13 表である。これに よると,3つの製品開発のどのタイプでも,開発活動に関わっている企業の割 合は,外資系企業が最も高く,続いて西ドイツ系企業,そして最も低いのが東 ドイツ系企業となっている。とくに製品開発としては,最も高い技術が要求さ
(単位:%)
ロウテク 中位技術 ハイテク 外資系・西ドイツ系企業
東ドイツ系企業
34.6 43.3
25.0 35.7
40.4 21.0
第 12 表 各企業が従事する技術水準の割合(2001 年)注)外資系と西ドイツ系,東ドイツ系企業それぞれのうちに占める割合。
出所)
IAB-Betriebspanel 2001
;Günther,J.,op.cit
.,Table 6.(単位:%)
製品開発
R&D 活動 既存の製品の改良
やさらなる開発 製品の多様化 新製品の開発 外資系企業
西ドイツ系企業 東ドイツ系企業 全企業
66.4 47.8 38.8 40.5
39.8 29.1 25.1 25.7
30.2 12.3 10.8 11.4
46.7 22.9 10.7 13.3
第 13 表 外資系,西ドイツ系,東ドイツ系企業の製品開発(1999-2000年)と R&D 活動(2001 年)注)外資系と西ドイツ系,東ドイツ系企業それぞれのうちに占める割合。
出所)
IAB-Betriebspanel 2001
;Günther,J.,op.cit
.,Table 8.れる第3のタイプの「まったく新しい製品の開発に関与している企業の割合は,
外資系企業では 30.2%であるのに対して,東ドイツ系企業では 10.8%にとどまっ ているのである。同じ傾向が,
R&D活動についてもみられる。 R&D
活動に関わっ たのは,外資系企業の 46.7%と,半分近くに達したのに対して,東ドイツ系企 業では 10.7%と,1割程度しかなく,西ドイツ系企業は,この中間の 22.9%であっ た。製品開発と並んでもうひとつの重要な技術革新が,組織構造の革新である。
これには,組織構造上の重要な革新の導入,より進んだ経営技術の実行,およ び新しいまたは重要な変化を遂げた企業戦略の実行などが含まれる(22)。第 14 表に示されるように,IAB企業調査は,組織上の革新について9つのタイプに 分類している。この表からも明らかなように,製品開発や
R&D
活動と同じよう に,外資系企業や西ドイツ系企業は,東ドイツ系企業に比べて組織革新につい てもより積極的であることがわかる。「購買または販売ルートの再編」,「部門ま たは経営職務の再編」や「責任制の再配置」,また「組織上の変更に関連した 環境」,そして「品質管理の改善」などでは,外資系企業・西ドイツ系企業は 東ドイツ系企業に比べてより積極的に取り組んでいることを示しているのである。外資系・
西ドイツ系企業 東ドイツ系企業 全企業 企業内生産の拡大
製品やサービスの購入の拡大 購入や販売チャンネルの再編成 部門や経営職務の再編成 責任制の再配置 チームワークの導入 自己の便益計算の導入 組織変更に関連した環境 品質管理の改善 最低ひとつの組織変更
15.2 11.5 24.0 20.9 14.2 9.1 8.2 13.9 47.7 61.2
19.6 10.9 14.5 7.3 8.7 7.5 3.8 5.5 30.8 46.7
18.8 10.8 16.0 9.8 9.5 7.6 4.5 7.1 33.6 48.6
第 14 表 外資系,西ドイツ系,東ドイツ系企業の組織変更(1999-2000 年) (単位:%)注)外資系と西ドイツ系,東ドイツ系企業それぞれのうちに占める割合,複数回答。
出所)IAB-Betriebspanel 2001;Günther,J.,op.cit.,Table 9.
最後に,東ドイツに進出した外資系企業がどの市場に向けて事業活動をおこ なっているのかについて考えてみよう。企業がどの市場を志向して活動してい るのかということ自体は,その技術革新能力を示すものではないが,国際取引 に関与している企業ほど激しい競争関係にさらされているから,技術的な優位 を獲得するのにより積極的であるといえる(23)。第 15 表は,外資系企業,西ド イツ系企業,東ドイツ系企業それぞれの,主な販売市場を示したものである。
このなかで外資系企業は,東ドイツ市場へ 40.9%を供給しているが,外国市場 へも 29.5%を販売している。これに次いで外国市場への販売の割合が高いのは,
西ドイツ系企業の 20.4%であり,外資系・西ドイツ系企業は相対的に外国市場 への依存が大きいといえる。また西ドイツ系企業の販売先は,東ドイツ市場向 けの 37.3%よりも,出身地である西ドイツ市場向けが 42.3%で,これを上回っ ており,西ドイツ市場向けのために東ドイツへ進出してきたという性格が強い。
これに対して東ドイツ系企業は,東ドイツ市場への販売が 61.3%と高い値を示 しており,外国市場向け販売は 9.3%にすぎないから,東ドイツ系企業はもっぱ ら東ドイツ国内向けの生産をおこなっているといえる。こうした販売市場とい う点からみても,外国市場への依存度が大きい外資系企業ほど技術的優位の獲 得指向がより強く,逆に国内市場への依存度が大きい東ドイツ系企業は,相対 的に技術革新の指向は弱いといえる。また,西ドイツ系企業の技術革新指向は,
外資系企業と東ドイツ系企業のほぼ中間に位置するといえるのである。
東ドイツ市場 西ドイツ市場 外国市場 外資系企業
西ドイツ系企業 東ドイツ系企業 全企業
40.9 37.3 61.3 45.5
29.6 42.3 29.3 36.2
29.5 20.4 9.3 18.3
第 15 表 外資系,西ドイツ系,東ドイツ系企業の販売市場(2000 年)(売上高の割合:%)
出所)
IAB-Betriebspanel 2001
;Günther,J.,op.cit .,Table 11.
む す び
旧東ドイツ経済における外資系あるいは西ドイツ系企業の参入は,1990 年7月の「通貨・経済・社会同盟」の発効が出発点であった。ここから基本 的に旧東ドイツの市場経済への移行と国営企業の民営化が始まったからであ る。信託公社による国営企業の民営化は,旧東ドイツ経済が崩壊し,雇用問 題が深刻化するなかで進められた。このため信託公社による民営化は,旧東 ドイツ経済の構造を再編成することよりも,国営企業の売却を急いで,投資 の促進と,なによりも雇用の確保が優先された。
信託公社による民営化では,民営化件数の 32%が西ドイツ系投資家に売 却され,10%が外資系投資家に,合わせて4割以上が東ドイツの外部から の投資家に売却されている。MBOによる買収も 35%あったが,これも必ず しも全てが東ドイツ系投資家による買収とはいえない。民営化資産を買収し た外資系投資家の国別の構成では,件数ではドイツ周辺国が多いが,これら の国は比較的小規模で資本集約度の低い資産を買収している。これに対して フランスやアメリカの投資家は,1件当たりの規模が大きく,比較的資本集 約的な部門に参入していることがわかる。外国人投資家による買収の産業別 構成では,小売・運輸・サービス業のような小規模な買収の件数が多いが,
投資額では投資財部門のうちの資本集約的な産業にかなり集中している。外 国人投資家の買収は,製造業が中心で,なかでも寡占的な性格が強い資本集 約度の高い産業部門に大きな比重を置いていることが特徴である。西ドイ ツ系投資家についての詳細は信託公社が公表した資料からはわからないが,
IAB
の企業調査による資料から類推すれば,外資系投資家ほど大規模ではな いが,西ドイツ系投資家による買収もほぼ同じ特徴を持っているといえる。さらに,ドイツ連邦銀行による直接投資残高統計によると,1991 年から