• 検索結果がありません。

雑誌名 奈良教育大学紀要. 人文・社会科学

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "雑誌名 奈良教育大学紀要. 人文・社会科学"

Copied!
12
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

奈良教育大学学術リポジトリNEAR

リーダー養成における大学・大学院改革の視点 ― 教育改革国民会議の提言を通して―

著者 八尾坂 修

雑誌名 奈良教育大学紀要. 人文・社会科学

巻 50

号 1

ページ 193‑203

発行年 2001‑10‑15

その他のタイトル A Study of the Reform on the University and Graduate School from the Viewpoint of Leader Preparation

URL http://hdl.handle.net/10105/481

(2)

Bull.Nara Univ.Educ..Vol.50,No.1(Cult&Soc.),2001  

リーダー養成における大学・大学院改革の視点  

一教育改革国民会議の提言を通して−  

八尾坂  

修   奈良教育大学学校教育講座(教育経営学教室)  

(平成13年4月27日受理)  

キーワード:教養教育(リベラルアーツ教育),プロフェッショナル・スクール,修士号取得  

に実施する.(多大学院入学者選抜に当たっては,他大学   出身者,社会人なども公平に受け入れるよう完全に開か   れたものとする.   

そこでまず,「学部教育で特に重視する分野」として   各大学がどのような意見をもっているかをみてみよう.  

大学基準協会が行なった全国の大学院研究科長(600人)  

の意識(1997年)では「基礎的な専門科目中心の教育」  

(72.2%),「専門の基礎的教養となる教育」(51.2%),  

「実務的な専門教育」(29.8%),「リベラルアーツ教育  

(一般教養的教育や外国語教育)」(25.9%)となってい   る.これまで全般的には一般教養的授業科目の卒業要件   単位の減少率が高くなっているとの指摘がみられた(2).  

この調査によれば,学部段階においては,「基礎的専門   科目」を中心に,「専門の基礎的教養となる教育」を重   視し,一部の学問分野においては「実務的な専門教育」  

「リベラルアーツ教育」に力点を置く傾向がみられるわ  

けである.   

この点,大学審議会答申「グローバル時代に求められ  

る高等教育のあり方について」(2000年11月22日)は  

「学部段階において,広い視野を持った人材の育成を目  

指す教養教育を中心とした教育プログラムの提供」を推  

進することとしていた.逆に教育改革国民会議ではあえ   て教養教育(リベラルアーツ教育)としている(下線,  

筆者).   

この二者の教養教育は先述の大学基準協会の調査にお  

ける教養教育(一般教養的教育や外国語教育)と同じ意   味の教養教育=狭義の一般教育的意味合いではない.大   学設置基準は「教育課程の編成に当たっては,大学は,  

学部等の選考に係る専門の学芸を教授するとともに,幅   広く深い教養及び総合的な判断力を培い,豊かな人間性  

を滴養するよう適切に配慮しなければならない」(19条   2項)と規定している.ここでの教養は明確に専門と区  

別されるが,アメリカのリベラルアーツ(専門職以外の    1.本稿の意図  

教育改革国民会議最終報告(2000年12月22日)では,  

17の提言の一つとして「リーダー養成のため,大学・大   学院の教育研究機能を強化する」ことを挙げている.す   なわちわが国には,政治,経済,環境,科学技術,その   他新しい分野で世界をリードし,社会の発展に寄与して   いく高い志と識見を持ったリーダーが必要であるとす   る.しかも,博士号や修士号などを有する専門家が活躍   する諸外国と伍していくためには,今以上に高い専門性   と教養を持った人間の育成が求められることから,大   学・大学院の構成と役割を改革すべきことを提示する.   

具体的な提言の視点は,①学部における教養教育(リ   ベラルアーツ教育)と専門基礎を中心にした教育,大学   院への飛び入学,インターンシップのあり方,②大学院   の形態と社会人への開放,(卦プロフェッショナル・スク   ールの整備,④国家公務員や教員に対する修士号取得の   要求(1)などである.そこで本稿では,上記の視点につ   いて今日的実態をふまえつつ,それとの関わりで今後あ   るべき大学・大学院の姿を考察することにする.  

2.大学学部教育のあり方と大学院への開放  

(1)教養教育(リベラルアーツ)の位置   

教育改革国民会議最終報告では,まず具体的に以下の   視点を示す.①学部では教養教育(リペアルアーツ)と   専門基礎を中心に教育を行なうこととする.大学院へは   優秀な学生が学部の3年修了から進学することを大幅に   促進し,このようなことがごく普通にみられるようにす   る.なお,学部で卒業する者は4年でさらに専門的な学   習をし,社会に出てすぐに活躍できるよう,産業界など  

との連携交流を図るインターンシップ(企業や行政機関,  

教育機関,NPOなどにおける就業体験)などを積極的  

(3)

八尾坂   修   

ンシップの拡大にともない,受入れ先の確保も重要な課   題である.  

(2)社会人等の入学機会確保と大学側の姿勢   

先述の大学院研究科長の調査(97年度)によると,修   士課程で平均63.9%,博士後期過程で73.9%,博士課程  

(一貫制)で平均64.8%がそれぞれ自校出身者であるが,  

90年度調査より自校出身者の比率は低くなっている.ま   た,各研究科はできる限り多種多様な学生を受け入れる   べく努力しているようである.また,留学生を除き,社   会人や女性の学生比率が増加しつつある.専門分野別に   みると,とくに社会科学領域の研究科において社会人学   生の受け入れに積極的である.政策科学系研究科の70%  

においては,学生の過半数を社会人が占める状況にある.  

続いて多いのは看護学・保健学系,教育学系の研究科で   あり,大学院全学生のうち平均30%を社会人が占めてい   る(7).   

今後の大学院への進学動向に基づく推計では,2010年   度において社会人を含めた全入学者は,修士課程約8万   7,000人,博士課程2万3,000人となり,そのなかで社会   人学生の割合は各々17〜18%を占めると予測されてい  

る.   

このような趨勢に対して,社会人受け入れのための制   度は表1に示すとおりである.「社会人特別選抜」「科目   など履修生制度」「昼夜開講制」の実施が上位を占めて  

いる.   

このような社会人のための大学院進展状況に対し,実   際に入学した社会人(大学を卒業してから一定期間を経   たのちに大学院に入学した者という広義の概念)は,は   たして大学院に対していかなる期待をいだいていたであ   ろうか.この点,「修士号,博士号を効率よく取れる」  

という学歴向上のみでなく,「広い視野の獲得,自分の   幅を広げること」「論理的な思考力を身につけること」  

といった基本的能力,さらに職務拡大に関わった仕事を   離れた,あるいは仕事に有益な「人脈の形成」「通学当   時の業務に直接役立つ専門知識の獲得」を期待している  

ことがわかる(8).   

さらに,博士学位取得を目的とするドクターコースに   おける社会人学生の多くは,常勤職在職者,退職社会人   のいずれも,若年学生と同じく,大学教員もしくは公的   研究機関研究職を志望している事実がみられる(9).   

大学院への進学拡大のなかで,大学審議会答申「21世   紀の大学像と今後の改革方策について」(1998年10月26   日)では,雇用機会の試算として,雇用市場のうち「大   学・短大の教員」の拡大は期待できないとし,研究者と   して企業等に雇用される者も含め,全体的に「企業等」  

への就職がその大半を占めることを予測している.この   ことは政策的に拡大の意図があった博士課程における高   

194   

専門分野)の考えでもない(3).むしろ大学の個性化が   求められているなかで,各大学の文化に根ざした独自の   教養教育を構築することが肝要である.   

次に,飛び級的な「学部3年で大学院進学」はいかが  

なものであろうか.大学学長の意識(日経リサーチによ  

る656人のうち496人回答)では,この改革案に「賛成」  

(39.3%),「反対」(20.0%),「どちらともいえない」  

(38.7%),「無回答」(2.0%)という結果で,評価が定ま   っていないのが実情である.   

賛成する理由としては,学部教育だけでは不十分とい   う意識が強く,学生や社会のニーズの高まりをあげてい   るわけではない.これに対し,反対の理由としては「大   学教育は学部数育が中心であるべき」(61.6%)が最も  

高く学部教育軽視にもつながりかねない提言への抵抗感  

が強い.どちらともいえないと答えた学長は,その理由  

として「学部の性格によって事情が異なる」「個々の大   学の選択に任せるべき」を挙げているものが圧倒的に多  

いい   

まずは学部教育の沈滞を生じさせないようなカリキュ  

ラム内容,履修方法の質的改善を図る方途を第一義的に  

検討すべきであろう.この点,たとえば2000年4月から   設置された東北大学法学部の「選択的6年制カリキュラ  

ム」の導入は多機能型大学院の先端である.高度化・専  

門化した社会のなかで学ぶべき新たな先端的科目内容が   多くなり,4年間では対応しきれなくなっているという   問題認識がある.学部4年を修了して学士号を取得する   従来の学部卒業コースを維持しつつ,この6年制は学部   4年次から修士課程2年次の3年間に先進的・専門的科  

目を学び,高度職業専門人としての能力と知識の養成を   図るねらいがある.法学・政治学の専門分野の調査研究   および論文作成の手法(リーガル・リサーチ)や判例批  

評・判例分析の手法等に関する演習や講義が開講されて  

いる(5).   

4年次の飛び入学ではなく,このような学部4年と大   学院2年の一体化した専門教育の充実は今後促進される  

べきである.   

ところで,学部4年で卒業する者に対するインターン  

シップ自体は否定すべき理由はない.ただ実施の時期を  

考えた場合,学部4年次は就職活動や進学準備,卒論作   成に時間をかける度合いが高いのも事実であり,2−3   年段階で就業体験することが自己の進路確立にとって望  

ましいであろう.   

インターンシップは大学教育の改善充実,学生の学習   意欲の喚起,職業意識の育成にとって有意義である.現   状では大学186校(実施率29.9%),参加学生数1万9,650  

人,短大81校(実施率14.7%),参加学生数3,453人,高  

専48校(実施率77.4%),参加学生数4,423人である(6).  

いずれの機関も年々実施率が高まっているが,インター  

(4)

表1社会人受入れのための現行制度  

制   度    概   要   

社会人特別選抜  社会人を対象に.ノト論文や面接等を中心に行う入学者選抜  

【平成10年度実施状況】240大学院,319大学    夜間大学院    社会人の通学上の利便のため,夜間に授業を行う大学院等    昼夜l乳清別大学院  【平成11年皮実施状況】夜   間:16大学院,50大学   

昼夜開講制:173大学院,00大学    利口等履修生制度  授業科目が開講されている大学の学生以外の着でも.その授業科目  

を履修し,正規の単位を取得することができる制度  

【平成9年度実施状況】231大学院,511大学   

専門大学院    高度頂門職業人養成に特化した実践的教育を行う大学院の修士課程  

【平成12年皮から制度化】2大学院(一橋大学,京都大学)   

大学院修士課程  大学院修二」二課程の年限を短期又は長期に弾力化したコース    1年制コース   【平成12年暖から制駿化】   

長期在学コース  

通信制大学院    【平成12年俊美施状況】6大学院,8研究札19専攻   

修二1二課程   

(聖徳大学,日本大学,明星大学,彿敦夫学,帝京平成大学,東亜  

大学)   

(出典)『我が国の文教施策』(平成12年度),2000年,p.191に基づき作成   度専門職養成と社会人学生の意識に潜在する研究者志向  

への転換の禿離をどう埋めるかを,カリキュラム開発,  

履修方法の柔軟化等の観点からも検討する余地を残して   いよう.   

大学院における社会人のための教育が重視されるなか   で,学習者である社会人が自らの生き方を振り返り,学   習意欲を高め,直面するさまざまな課題を乗り越えてい   く力量を向上させる,社会人としてのエンパワーメント   をより可能とする姿勢が大学教員側の意識に求められて   くる(10).社会との連携を進めるうえでの大学院側の問   題点として「大学における研究と社会のニーズとのギャ  

ップ」「大学院としての財政上の問題」「教員の理解不足」  

を挙げていることからも首肯できる.多様化した社会の   ニーズを先取りするとともに,職務経験を活かして専任   教員として教育・研究に従事する社会人教員の活用も重   要である.  

(3)大学における社会人活用の現況   

このような社会との連携上の問題を改善し,しかも社   会の変化に適応した大学院教育の展開を図り,大学側,  

学生にも新たな息吹をもたらす上で社会人教員の果たす   役割が期待される.社会人教員については,法的根拠と   して現行の大学設置基準(14条,15条)や大学院設置基   準(9条)で規定する教員資格である「専攻分野につい   て,特に優れた知識および経験を有する者」が該当する.   

社会人教員としては,大学での非常勤講師あるいは客   員教授的立場で大学の教育・研究に参画する教員もみら   れるが,今後はこれまでの職務経験を活かして専任教員   として教育・研究に従事する社会人教員が求められる.  

この点,大学院研究科における社会人教員採用の必要性   は約6割の研究科で必要性を認識している状況にある.  

研究科の領域別では,文系の場合,「国際的分野」(46%)  

に最も必要性を認め,次いで「経済・マスコミ分野」   

(27%),「官界等で実績のある実務経験者」(23%)とな   っており,「先端的分野」(13%)での必要性は低い.他   方,理系では「先端的分野」での必要性をあげる研究科   が7剖を超え,その他の分野での必要性が低い(11〉のが   特徴的である.   

近年における社会人教員の(採用前に官公庁,民間企  

業,自営業の者)採用状況をみると,1997年度は3,203  

人で全体の採用者の34.3%を占めている.そのなかで,  

国立・私立とも社会人採用者数全体は年々増加の傾向に  

あるが,私立の方が人数・割合ともにほぼ年々増加の傾   向にある.ただ社会人教員については,大学からの招特   により採用された割合が高く,公募による採用者数は社  

会人教員の採用者数の9分の1ないし10分の1の状況で  

ある(12) 

.また,先述のごとく,社会人教員の必要性は  

認められていても,実際社会人を採用する大学は少数で   ある.実際,社会人から教員を採用した大学院研究科の  

比率は17.4%(国立20.6%,公立14.7%,私立15.4%,  

931研究科のうち162研究科)(13〉に過ぎず,社会人対象   の特別選考のあり方,契約任期制も含め,今後検討の余   地がある.  

3.プロフェショナル・スクールヘの期待と展望  

(り プロフェショナル・スクールと研究者養成大学院    大学院には,社会で必要とされる実践的な専門能力を   身につけるためのプロフェッショナル・スクール(高度   専門職業人養成型大学院)と研究者養成のための大学院  

(研究者養成型大学院)と多様な形態で設けることを教   育改革国民会議は提言している.   

この点,これまでの大学院改革によって大学院の量的   拡充が図られてきたのも確かである.かつて大学審議会  

答申「大学院の量的整備について」(1991年)では,  

2000年における大学院の規模について「全体としては,   

(5)

八尾坂   修   

35.8%,「研究者養成型」は各々3.7%,10.7%,3.6%,  

さらに「学部教育特化」は各々2.4%,8.9%,17.6%で   あった(16).   

このように,国立大学では両タイプを兼ね備えた大学   院志向が強い傾向がみられるのに対し,公立大学は「研   究者養成型」,私立大学は「プロフェッショナル・スク   ール」をめざす傾向にある.  

(2)プロフェッショナル・スクールの位置   

ところで,高度専門職業人養成からみると,これまで   いくつかの大学で専修コースや実務能力の育成を重視し   た社会人を対象とした研究科を設置していたのも事実で   ある.たとえば,1978年に大学院として発足した慶応義   塾大学大学院経営管理研究科修士課程「専修コース」  

(1991年設置),京都大学大学院法学研究科修士課程「専   修コース」(1992年設置)等が挙げられる(17)が,一般の   学生とともに社会人・職業人にも開放していたのが特徴   的である.しかし,我が国の修士課程全般についてみた   場合,研究者養成と高度専門職業入着成のカリキュラム,  

教育方法上の区別が明確でなく,また学生間の習熟水準,  

学生側の大学院教育に対するニーズに分化がみられるこ   となどの指摘もみられ, すみわけ について論議され   てきたのも確かである.   

大学院設置基準の改正(1998年9月)で「10車 高度   の専門性を要する職業等に必要な高度な能力を専ら養う   ことを目的とする修士課程」を置く大学院として「専門   大学院」(プロフェッショナル・スクール)が新たに制   度化されることになった(31条〜36条).図1に示すよ   うに,専門大学院はビジネス界等での指導者養成に特化   し,カリキュラム,担当教員,対象学生,専攻分野も従   来の大学院と異なることが察し得よう.  

(3)現状の専門大学院の特色   

教育改革国民会議最終報告は,「企業との共同プロジ   ェクトなどを通じた高度な技術的能力を有するエンジニ   アの育成や,ビジネス・スクール,ロー・スクールなど   の経営管理,法律実務,金融,教育,公共政策などの分   野の専門家の養成を行うプロフェッショナル・スクール   を多様な形態で整備する」と提言した.   

実際,わが国では前述の大学院設置基準改正を受け,  

2000年4月に最初の専門大学院として,一橋大学大学院   に国際企業戦略研究科「経営・金融専攻」,京都大学大   学院に医学研究科「社会健康医学系専攻」が設置された.  

また2001年4月には青山学院大学大学院国際マネジメン   ト研究科に専門大学院として「国際マネジメント専攻」  

(修士課程.博士後期課程への道もある)が設置された.   

ここでは,現在開設されている前二者の特徴について  

述べることにしたい.   

196   

少なくとも現在(1991年)の規模の2倍程度に拡充する  

ことが必要である」と提言したことから,大学院の規模  

拡充(入学定員増,研究科・専攻の設置)とともに,多  

様な大学院教育を展開しているのも確かである.   

国公私立全体で651大学のうち,約7割にあたる479大   学に大学院がおかれているが(2000年度),大学院の在   学者は1999年度19万1,125人(修士課程13万2,118人,博   士課程5万9,007人)であり,1993年度当時の9万8,650   人(修士課程6万8,739人,博士課程2万9,911人)に比  

較し,1.94倍の規模となっている.大学院への進学動向  

および修了者の雇用機会に基づく将来推計によると,  

2010年における大学院在学者数は,進学動向に基づく試   算で約25万人,雇用機会に基づく試算では約22万人から  

約24万人の結果となっている(14).しかも今後,新たな   産業分野の創出,成長によって高度な専門知識・能力を  

具備した人材へのニーズが生じることも想定され,25万  

人以上の規模拡大が推計される状況にある.   

このような量的進展のなかで,今後の大学院改革のね   らい,特色について,先述の全国の大学院の研究科長へ  

の意識調査によると,修士(博士前期)課程について最   も多く選択されたのは「高度専門職業人養成機能の強化」  

であり,回答した696研究科の576機関(82.8%)がこれ  

を選んでいる.続いて多いのは「社会人再教育機能の強   化」(65.8%)であり,「高度な学術研究機能の強化」  

(45.8%)や「研究者養成機能の強化」(44.0%)は前二   者に比較し(半数近い選択を示しているが)低くなって   いる.   

また,博士(博士後期)課程は,「高度な学術研究の   強化」(76.5%)と「研究者養成機能の強化」(81.3%)  

が上位にあるが,回答した497研究科の57.1%が「高度  

専門職業人養成機能の強化」を,また46.5%が社会人再  

教育機能の強化」を挙げていることを注視する必要があ  

る(15)  .とくに,工学や理系領域では研究者養成ととも  

に専門職業人養成,社会人再教育を強化目標に掲げる度   合いが高いのである.このことは,大学審議会答申「大  

学院制度の弾力化について」(1998年)を受けて行なわ   れた大学院設置基準の改正(1989年)により,博士課程  

の目的としてこれまでの研究者養成とともに,高度に専   門的業務に従事する人材の養成を規定し,制度的に目的   にかかわる変革を示したことに,多くの大学院が対応し   たことと考えられる.   

この点,前述の大学学長アンケート(日経リサーチに  

よる650人のうち496人,76.3%回答)においても,「プ  

ロフェッショナル・スクール,研究者養成型大学院とも  

に持つ大学を目指す」が44.2%に及んでいる.しかも  

「ともに持つ大学」をめざすのは,国立(63.4%),公立  

(55.4%),私立(38.0%)であるが,「プロフェッショナ  

ル・スクール」をめざすのは各々28.0%,23.2%,  

(6)

専門大学障  

〈目標〉  

・研究者華成と高ま専門職業人養成    の混在  

くカリキュラム〉  

・研究者養成を指向するアカ・デミッ    クなカリキュラムが主洗  

〈担当教員〉  

浄土号を右し.研究業欄が新著な   

着筆  

(実際的実務経験の欠如)  

く対象学生〉  

・学雛新卒者が主体  

・このほか,社会人,留学生が若干  

(分野〉  

・文,法.経済,理,工,農 等   

あらゆる専門分照  

、目IIl  

・高度専門職葉人養成に特化  

(米国のプロフェッショナル・ス    クールに対応するもの)  

〈カリキュラム〉  

・特化した実践的カリキュラム  

(ケーススタディ,エクササイズ   

等の実践的技法を修得させる教育   

手法の採用)  

・実際場面(実際現場)の重視  

(フィールドワーク,インターン   

シップ等)  

〈担当教員〉  

・MBA等の学位を宿し,実際的な   

実務経験を有する者が相当数  

〈対象学生〉  

・社会人.留学生等で実務経験を有   

する者が主体   く分野〉  

・経営管理.法律案務.ファイナ    ンス.国際開発・協九 公共政策,   

公衆衛生   

我が国の産業    社会や国際社    会を担う    ビジネスエリ    ート等の襲成    に特化  

∠叩t、  

数貝基準は  

従来の2倍  

(相当数の  

実務錐験が  

必要)  

日本版ビジ   ネス・スク  

ール,ロー・  

スクール等   の制度化   図1 わが国における専門大学院の特徴  

(平成12年度),2000年,p.187  

ナンス理論の基礎」「金融データ分析の基礎」および   

「企業金融論の基礎」)を履修したうえで,数学知識の度    合いを背景に金融証券市場分析,ポートフォリオ選択お   

よびデリパティプ開発・管理に関する高度の実務的教育   

を受けることになっている.  

なお,選考方法は一次の書類審査(研究計画書として   

A4,11枚を含む),二次の口述試験からなり,とくに   

筆記試験はない.ただ出願書類のなかに,評価報告書を   

求め,そのなかで図3に示すように,志療者の職業上の   

経験・能力を知る者(上司など)による客観的で信頼度    の高い能力評価を要求しているのが特徴的である.  

(∋ 京都大学大学院医学研究科「健康医学系専攻」(19)  

本専攻はまず,限定された医療資源をどのように用い   

れば最も多くの人々が医療の恩恵を被ることができるの   

かを追求することが,先進諸国,開発途上国を問わず,   

避けてとおれない重要な課題と捉えている.この課題に    対処するため,「社会における人間」の健康を保持・増    進し,医療と保健,福祉の有効性,効率性,倫理性など    についての教育研究をし,広く公衆衛生分野で活躍でき   

る国際的な高度な専門職業人の養成を行うこととしてい   

る.  

本専攻は修士課程(22名募集,実務者レベル)2年と    博士後期課程(11名募集,研究者,教育者レベル)3年   

に区分されるが,前者の修士課程が専門大学院としての    性格を有する.ただ本専攻の場合,出願資格として社会   

人(1年以上病院・企業等に勤務経験を有する者)のみ   

ならず,新卒者にも開かれているのが先述の一橋大と異    なる.また,修士論文の代りに課題研究が求められてい    る.この課題研究は,自己の研究のテーマごとに,研究    アイデアから研究プロトコルの作成,データ収集と解析,   

結果の考察,プレゼンテーションまで実際に経験させる    のを特徴としている.このように,わが国では専門大学    院として,一定の設置基準のもとでさまざまな目的,正   

(出典)『我が国の文教施策』   

① −一橋大学大学院国際企業戦略研究科「経営・金融専  

攻」(18)   

まず専門大学院の位置づけについて図に示しておく  

(図2参照).固からわかるように,専門大学院としての  

「経営・金融専攻」は「金融戦略コース」と「国際経営  

戦略コース」からなる.専門大学院設置の必要性として,  

日本におけるこれまでの経済社会システムがグローバル  

化・ボーダレス化の波に対応できず,企業の国際競争力   も低下の一途をたどっている現状が挙げられる.このよ   うな事態に的確に対応するには,グローバルな視野に加   え,高度な専門知識と戦略的思考を身につけたスペシャ  

リストが必要不可欠であるわけである.教官の4割は実  

務経験者であるのが特徴的である.   

専門大学院としての「経営・金融専攻」の独自の特徴  

は以下の点にある.   

第1に,日本発の「知」と欧米から学べる「知」を融  

合し,ユニバーサルに通用する枠組みの構築をめざすこ  

とである.日本と欧米のベストプラクティスを学ぶこと   によりグローバル化に対応することにある.   

第2に,実学にも力点をおくことにより,実務と理論  

の両面から教育体系を整備することである.実務経験を   有する多くの教員によって,ケース・スタディ,フィー   ルド・ワーク,シミュレーション,実験等の幅広い教育  

手法を用いている、   

第3に,受講者として日本と外国の有識者・社会人を   対象とし,しかも日本語による授業を4月から,英語に  

よる授業を10月から開講することによってグローバル化   に対処しようとしている点である.   

カリキュラムの特色を示せば,国際経営戟略分野の場  

合,図に示すA(コア科目),B(機能科目),C(選択  

科目),D(フィールド科目),E(個人スキル向上科目)  

の五つの科目グループからなる体系的な編成となってい   る.また金融戦略分野の場合,Aの基礎科目(「ファイ  

(7)

八尾坂   修   198  

租税・公共政策コース   国際経営戦略コース  

経営法楕コース   l∧品川T;lXalldPll‖icPnlicy)  企業敲鴫コース   (l爪Iernillion;l‖iusinessSlralegy)   

●夜潤ぃl子1本譜での椎葉  ●晃閏・英語での授業  ●夜間・廿本譜での授業  ●昼間・英語での授業   

●対象は企業・官公げに  ●対象はアジア緒園の政  ●対象は金融横間・商社・  ●対象はIヨ本及び海外の    おいて実務耗顆を有す  腑部門で財政・税務に  サービス等の企業にお  企業において実務経験    る者    挑わった経験を有する  いて英動線放を有する  を有する者(日本及び   

●走貝8名   者(アジアの学生)    者    外国の学生)  

●定月8名    ●定員20名    ●走月20名  

●授業料日  

経常法務総合関越   ●授業料目   ●授菜科目    ●授業料目   現代企葉法   公共部門の綬済学   ファイナンス理論の基礎  棍争戦略   

l室=賢法務戦略論    公共政策のためのミクロ  金融データ分析の基礎  削織   A   

知的財経戦略論   経済学   企業金融偏の基礎  A  データ・アナリシス  

税務戦略論  

マクロ緑酒政策の理論      ポートフォリオ投資論  マーケテイング   

現代収引法    計塵紙済約手法の基碓  リスク管理論1(市城リ  コーポレート・ファイナ   

企薬黄t.t法    利親理論   

スク)   

ンス   B   

ビジネス紛争処理法  税務行政1(直接税)    リスク管理論2(信用リ  技術とオペレーション・   

倒舵法    税務行政2(間接税)   

スク)   

マネジメント    知的成果物保護法    租税政策1(直接税)    橋井価格理論    情報技術と淡争   

租税政策2(間接税)   

挽業法   派生証券理論1A(価格  Eコマースと次世代技術   

l憂l際知的1け産法    糾税政策3(国際課税)  理論)    グローバル・シチズンシ   

骨相i逓倍法    社会保障の耗消分斬    派生誰券理論1B(価格理  ップ   C   

不動産法    規制政範と公企業の経済  論)    フィールド・リサーチ    企業経営と保険    分析    派生証券理論2(証券化  ナレッジ・マネジメント    経営組織法1(コーポレー  1主観経済と財政・金融政策  理論)    コーポレート・ガバナン   

トガバナンスと法)    アジアの経済発展    派生証券理論3(数値技術)  スと戦略   

経常軌赦法2(M&Aの法勝)  国際経済と金融    金融数理1(マルチンゲ  アントルプルナーシップ    企葉法の経済分析    ワークショップ(カレント  ール理論)    国と企業    金融閥係法    トピックス)    金融数理2(確率解析)  イノベーション・マネジ    金融商■ち才一と法    地方財政    財務戟廟偏    メント   

企業ファイナンス法  公共投資プロジェクトの  企業経理・財務    財務評価と企業改革    妓争政堆と法    #済分析    欧州の企業財膀    リーダーシップ   D    国際傲争法    アジア経国の和税政策  金融資産運用論    製品開発と技術戦略   

l享l際樅清と法    論■文指導    短期売買・取引    プレゼンテーション・ス   

企業誹税    演習    証券市場    キル   

利税政特と法   アジアの金融市場   交渉とゲーム理論  E  

演習   修士論文演習   修士論文演習  

図2 −橋大学大学院国際企業戦略研究科の概要  

11itotsubashiUniversityGraduateSchoolofInternationalCorporateStrategy(ICS)  

(出典)国際企業戦略研究科募集要項(2001年度)に基づき作成  

ベラルアーツ(文理)学部・大学以外の専門職学部(大   学)の総称であり,独立の大学として存続するものと総   合大学の一学部となっているものがある.とくに大学院   レベルの課程のみを指す方向にある.大学院としてのプ   ロフェッショナル・スクールに進学するためには,一般   に総合大学の文理学部やリベラルアーツ・カレッジにお   いて,専攻分野に応じた準備教育とともに教養面を重視  

した普通教育を受けることになっている.   

確,内容を有する課程が設置されそうである.  

(4)アメリカのプロフエツショナル・スクールからの   示唆   

このような専門大学院としてプロフェッショナル・ス  

クール構想は,アメリカを範としている.アメリカのプ  

ロフェッショナル・スクールに目を向ければ,医学,工  

学,法学,経営・管理,教育,行政,公衆衛生など,リ  

(8)

図3 評価報告者からみた志展着の能力評価視点  

(出典)国際企業戦略研究科募集要項(2001年度)に基づく   

業後ただちに入学することは少ない.   

履修専攻は修士,博士いずれも「行政,計画,社会政   策(APSP)」,「人間の発達と心理(HDP)」,「言語  

と識字プログラム(L&T)」の三つの柱からなるが,  

これらの専攻のなかに多くのコースが設けられている.   

わが国からみた特徴的コースとして,修士課程に校長  

職(学校管理職)養成コースや中途(midcareer)理数  

科教員養成コース(21),博士課程としてユニークな都市  

教育長(urban superintendent)養成コースが挙げられ  

る.この都市教育長コースは,アメリカ大都市地域に蔓   延する貧困,子どもの学習環境の悪化,高校中途退学者   の増加といった危機的状況のなかで,それらに対応でき   る識見,指導力を具備した教育長の養成を目的としてい  

る.履修内容は11カ月(8月から翌年6月)のコース履   修,続いて6カ月から9カ月に及ぶ大都市地域での実習  

から構成される.実際に教育行政のトップの立場にある   意思決定者を指導・助言者として指導を受ける.この実   習の後,自己の職場に戻り,博士号取得のため都市部の  

学区に直面するさまざまな現実の教育問題について詳細   な実証的分析からなる論文(analytic paper)を提出す  

ることになっている.   

今後のわが国におけるプロフェッショナル・スクール   を考えた場合,カリキュラム,教育方法上の特化,志願  

者の修学力量の判定は重要なことであるが,それととも  

に関連コースに密着した豊富な実務経験と研究能力を具  

備した教員をいかに確保するかも課題である.アメリカ   の場合,プロフェッショナル・スクールの博士課程を修   了した者が教壇に立つ機会が多いのも確かである.また,  

ロースクール構想も本格化し,ロースクールに限らず,  

わが国のプロフェッショナル・スクールに対して社会か  

らの修了学位に対する肯定的評価の高まり,職業市場の   拡大へと連結することがいっそう求められる.   

典型的な例として,ハーバード大学を取り上げてみる.  

この大学はハーバード・カレッジとラドクリフ・カレッ   ジの二つの文理カレッジと代表的な11の大学院レベルの  

スクールからなる.11のスクールのうち,文理大学院  

(GraduateSchoolofArtsandSciences)は研究者養成   を志向した修士・博士プログラムを設置している.しか   し他の10スクールは,プロフェッショナル・スクールと   して位置づけられているが,博士プログラムのみをもつ   医学や歯学などを除き,修士課程では概して専門職業人   養成をめざし,博士課程では主に研究者養成の傾向があ  

るといってよい.  

10のプロフェッショナル・スクールは,法律(Law  

School),ビジネス(Graduate Schoolof Business   Administration),医学(MedicalSchool),歯学  

(SchoolofDentalMedicine and DentalSchool),神学  

(DivinityandTheologicalSchooIs),教育学(Graduate   Schoolof Education),工学(Engineering Schooland   Graduate SchoolofEngineering),政治学(John F.  

KennedySchoolofGovernment),公衆衛生(Schoolof   Public Health),意匠・デザイン(Graduate Schoolof   Design)である(20).   

このような大学院は,研究者養成の課程と専門職養成   の課程においてめざす教育目標,カリキュラム,履修方   法,進路等,明白な相違があるわけである.   

それではさらに今後のわが国への示唆として,アメリ   カの教育系分野のプロフェッショナル・スクールを取り   あげてみる.教育分野のプロフェッショナル・スクール   設置もわが国で期待されるところであるが,代表的,先   駆的なハーバード大学教育学大学院をみた場合,歴史的   な研究者養成とともに専門職養成の機能を果たしてき   た.修士(最低1年),博士(修士含めて最低3年)の  

いずれの課程もほとんどの学生は職務経験(平均7年間)  

を有している.日本のこれまでの大学院のように大学卒  

(9)

八尾坂   修   

に対してすでに1988年に修士の学位を基礎資格とする専   修免許状制度が創設された.1996年には国立の教員養成   系大学・学部のすべてに大学院が設置された.教職の職   務内容について高度化・多様化が著しい状況のなかで,  

修士課程の教育を受けた教員の割合をいっそう高めるこ   とが求められる.また,修士号や専修免許状を取得しよ   うと努力すること自体が形式的・外的な意味づけよりも   むしろ教師自身にとって教育的意義をもつという考え方   もある.つまり,教師として生徒に対する最も大きな教   育的影響は教師自身の生き方である.人生に対して積極   的に自己改革していく姿勢それ自体が生徒に対する効果   的反映となるのである.   

かつて,1949年の教育教員免許法では校長の免許状と   して1級,2級の普通免許状のほか,5年間有効な仮免   許状(1回限り更新可)を発行していた.更新を1回に  

したのには以下の理由がある.「更新を1回に限定した   のは,10年間にはほとんどの者は上記の,すなわち2級   の普通免許状を得ることができるだろうし,また10年間   に2級の普通免許状を得られないような向上心のない者   には教育職貝の職を退いてもらった方がよいと考えられ   るからである」(25).このような当時の更新制,さらには   それに基づく上進別の考え方も自己研鎖としての修士号   取得への問いかけとなっていよう.   

修士号取得への期待は,以下に示すように大学院の意   識において高いのも確かである.国立の教育大学長・教   育学部長(以下,学部長と略)の意識調査(26)では,す   べての学校種教員に対して修士号取得の比重を高めるこ  

とに90%以上が賛成しており,しかも10年後に期待する   目標値(修士号の取得)としては,いずれの校種につい   ても20%以上を目標に掲げる回答は80%以上に及んでい   る.教養審答申(1998年10月)も一つの試算例(40歳未   満の現職教員の15〜23%を対象に2010年度末までの10年  

間に修士の学位または専修免許状の取得)を出している  

が,大学院における学びの機会拡大という点では同一の   方向にあるといえる.   

また,学部長の意識のほか一般大学長(以下,学長と   略)の意識においていずれも,大学院修了者としてとく   に指導的教育関係者についてその比重を高めること,基   礎資格とすること,さらには10年後の目標値(最大値   50%)を高めることを支持する度合いが高い傾向がみら   れる.このことはカリキュラム内容の質的充実として,  

たとえば「教育課程経常」「教育法制」「リーダーシップ」  

「学校改善の理論と実践」「現代の教育課題」といった広   く学校経営にかかわる教育内容の充実も期待されている   ことを意図しよう(27).  

(2)大学院での拡充と履修コースの弾力化   

学長調査・学部長調査のいずれも,修士課程における   

200   

(5)専門職学位の品質管理   

今後わが国では,学部段階における幅広い教養教育を   受けた者を対象として,高度専門職業人の養成を目的と  

し,職業資格との関連も視野に入れた新しい形態の大学   院制度を検討するとともに,関連して専門職学位の創設   は重要な課題である(大学審議会答申「グローバル化時  

代に求められる高等教育の在り方について」2000年11月  

22日).  

1991年に学位規則が改正され,専門分野別による学位  

の種別が廃止された.学位種別によって大学院における   教育・研究指導が硬直化しがちになり,学際的な領域の   発展への対応を阻害することの考えがあったのである.  

しかしながら各研究科の目的の明確化のために,とくに   今日期待されている高度専門職業人養成の視点からは,  

専門分野による学位種別の廃止は検討の余地があろう.  

むしろ各専門職業に対応した学位設定が国際化における  

通用性,市場価値の点からも有意義である.アメリカで  

はむしろプロフェッショナル・スクールによって授与さ  

れる修士号が,専門職として通用する学位として産業界  

や専門職業団体によって高い評価を得やすいのである  

(ZこZ)  

ただ,今後我が国で留意すべきは,学位の品質  

(quality)管理である(23).所定の単位取得と標準年限で   博士号を取れる道を開くことの前に,大学院拡充化,つ  

まり修士課程は全国の大学の約70%,博士課程は52%に  

達している状況のなかで高度専門職業人養成,研究者養   成いずれにしても国際的な有効性,評価をもつ共通水車  

の研究科を構築するアカウンタビリティが大学側に求め  

られているといえよう.  

4.教具に対する修士号取得の要求と大学院教育  

のあり方  

(1)修士号取得への期待   

教育改革国民会議において国家公務員や教師について   は原則として修士号取得を要件とすることが提言されて  

いる.アメリカの例をみても,現職教員の半数が修士号   を取得している状況にあり,州や地方の教育委員会にお  

いても修士号や博士号を取得した教職歴のある専門職ス  

タッフを配置している.   

わが国では,公立学校の教員採用者において大学院修  

了者は小学校4,4%,中学校8.2%,高校15.3%,障害児  

教育諸学校9.5%と伸びつつある(1997年度).しかし,  

教員全体(国・公・私立)における大学院修了の学歴を  

有する者の割合は小学校1.5%,中学校3.2%,高校9.2%  

に過ぎない(24)(1998年度).   

大学における教員養成を原則とした現行の制度が1949  

年に制定されて以来,すでに半世紀を経ているが,教員  

(10)

在学を容易にするために,「現職教員派遣枠の拡張」「休  

業制度の創設」を支持する度合いが高く,しかも学部長  

調査にとくにその傾向がみられる.研修等定数の設置に  

より,今日1,000人近くの現職教員が国立の教員養成系   大学院等に1年または2年のフルタイムで在学してい  

る.研修等定数の充実に配慮することは必要であるが,  

一定の財政的制約を考えると,平成13年度からはじまっ  

た大学院修学休業制度(2呂)の活用によって学習意欲のあ  

る現職教員にできる限り在学の機会を拡大する措置を解  

することも重要である.   

ただし,これまで職務命令による長期研修としての大  

学院への派遣希望に際しては,教育委員会への同意手続  

きを踏まなくてはならないことになっている.今後派遣  

もしくは休業のいずれかの措置で大学院に入学するにし  

ても,教育委員会は研修機会の平等性を図る必要から,  

可能な限り具体的に推薦手続きや選考基準を明確にして  

おくことが求められよう.   

さらに,「修士課程修了者の給与待遇の改善」も修士  

号取得を勧めるうえで無視できない.今後大学院の拡充  

を進めるうえで昼夜開講制あるいは夜間大学院,通信制   の大学院といったどのタイプの大学院で学ぶにせよ,修   士レベルの教育を受け,専修免許状を取得した現職教員   に対して,昇給や退職手当の算定においてこの差異を生   じさせないことは当然である.その他の処遇改善として   は,休業給付のあり方について既存の育児休業制度との   バランス関係にも留意することも検討課題である.   

さらに,東京学芸大学大学院には2001年4月から標準   修学年限1年の短期特別コース(12専攻,各専攻2名募   集)が設置された.入学志望者の要件は,「現職教員等  

であり,教育実践や研究論文等のすでに十分な実績をも   ち,修士論文のテーマとなり得る研究課題とその準備が  

あり,1年の在籍で修了要件の全ての単位を修得し修士   論文を完成できる実績や資質能力を持つ者」となってい   る.この点,高度専門職業入着成の「1年課程の特化さ   れた大学院」についての意識は,先の学長・学部長調査   いずれも「条件を整備した上で推進」が多くを占めてい   る.このことは,ともかく1年制(2年未満)を制度化   するにしても,従来の教育水準を下げることには首肯で  

きないことを示している.現行の1年を基準としつつ,  

各大学の裁量で弾力的に実施することも考えられる.   

それとともに,現状からみて,1年間のフルタイムで  

は時間的にも修士論文作成の余裕はなく,場合によって  

は2年以上を要する状況もみられる.仮に1年課程を設  

置したとしても,修士論文を数年後に提出できる制度も  

検討されてよいだろう.また,大学院入学前に科目等履   修生として大学院での単位を取得した場合に,一定単位  

まで修了単位として認定する方法も必要である.   

さらに,長期在学コース(現行の2年間の標準在学年   

数を超える在学予定期間を弾力的に設定)も,政策上検   討の余地がある.このコースについては在学年数の上限  

を設けるべきか否か,一つの判断基準になる.上限を4  

年と考える声が大きいが,授業科設定の現実的問題もあ   る.学習機会の同等負担の考え方からすれば修了に必要  

な最低修得単位数を総額として1単位あたり,あるいは   履修科目月数に応じて授業料を設定することも考えられ  

よう.   

(注)  

(1)教育改革国民会議『教育改革国民会議報告一致育を変える    17の提案』2000年12月22日.  

(2)岩山太次郎,示村悦二郎編『大学院改革を探る』エイデル    研究所,1999年,pp.118−119.  

(3)舘昭『大学改革 日本とアメリカ』玉川大学出版部,1997    年,pp.17−23.  

(4)『日本経済新聞』2000年12月23日,朝刊,教育面.  

(5)東北大学大学院法学研究科 2000年版案内.  

(6)文部省編『我が国の文教施策一文化立国に向けて(平成    12年度)』大蔵省印刷局,pp.191−192.  

(7)岩山太次郎,示村悦二郎,前掲書,pp.103−108.  

(8)(財)労働問題リサーチセンター「大学院等における社会  

人の自己啓発の現状およびその支援のあり方に関する調   査」   

『企業福祉』19巻437号,1996年,pp.29−40.  

(9)柳田雅明「大学院ドクターコース社会人在学者へのカリキ   ュラム対応」『カリキュラム研究』6号,1997年,  

pp.113−124.  

(10)早野喜久江,青島祐子,筑波幸恵「社会人学習者にとって  

の夜間大学院の意味一束洋大学夜間大学院の場合」『高等   

教育と生涯学習』(日本の社会教育42集)1998年,  

pp.136−145.  

(11)岩山太二郎,示村悦二郎,前掲書,pp.190−193.  

(12)高橋誠「データにみる社会人教員の採用者数の推移」   

『IDE』411号,1999年9月.  

(13)岩山太二臥示村悦二郎,前掲書,pp.192.  

(14)大学審議会答申『21世紀の大学像と今後の改革方策につい    て』1998年10月26日,pp.26−29.  

(15)岩山太二郎,示村悦二郎,前掲書,pp.146.  

(16)前掲『日本経済新聞』教育版.  

(17)関連論文として小野桂之介「ビジネス・リーダー育成とプ    ロフェッショナルスクール」『IDE』1998年11月,pp.46−  

51.  

(18)一橋大学大学院国際企業戦略研究科 経営・金融専攻 金    融戦略コース学生募集要項(2001年度),および担当事務    官からのインタビュー(2000年12月,2001年4月)に基づ  

く.  

(19)京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻(修士課程),   

(後期博士課程)学生募集要項(2001年度)に基づく.  

(20)HarvardAlumniDirectory1995に基づく.  

(21)八尾坂修『アメリカ合衆国教員免許制度の研究』風間書房,   

1998年,とくに「第4章 校長・教育長免許制度の現状と    報告」,「第7章 80年以降における教員不足と教職資格特   

別プログラムの特質」,pp.139−176, pp.236−262参照.  

(22)山田礼子『プロフェッショナルスクール』玉川大学出版部、   

1998年,pp.26−44.  

(23)大崎仁「大学院重視の課題」『IDE』2000年10月号,pp.  

2−4.   

(11)

八尾坂  

修   

(27)八尾坂修「学校管理職の養成と選考・研修一学校指導者の    意識−」「教育制度学研究」(日本教育制度学会),4号,   

1997年,pp.87−89.  

(28)大学院修学休業制度は,国・公立学校の現職の教員が,教    職経験を通じて培った自らの課題意識をもとに,国内外の    大学院で学び専修免許状を取得する為に,1年から3年の    間,休業(無給)できる制度.   

202   

(24)文部省『学校教員統計調査報告書』1998年,p.10乱95.113.  

(25)内藤誉三郎・坂本彦太郎監修『例解・教育職員免許法』時    事通信社,1949年,pp.32−33.  

(26)八尾坂修「善成・研修における大学院の役割は何か」国立   

大学協会教員養成特別委員会『大学における教員養成一今    後の教員養成と教育系学部の在り方について・調査結果と   

考察』2000年,pp.76−80.  

参照

関連したドキュメント

大村市雄ヶ原黒岩墓地は平成 11 年( 1999 )に道路 の拡幅工事によって発見されたものである。発見の翌

90年代に入ってから,クラブをめぐって新たな動きがみられるようになっている。それは,従来の

quarant’annni dopo l’intervento della salvezza Indagini, restauri, riflessioni, Quaderni dell’Ufficio e Laboratorio Restauri di Firenze—Polo Museale della Toscana—, N.1,

 大正期の詩壇の一つの特色は,民衆詩派の活 躍にあった。福田正夫・白鳥省吾らの民衆詩派

現実感のもてる問題場面からスタートし,問題 場面を自らの考えや表現を用いて表し,教師の

[r]

雑誌名 金沢大学日本史学研究室紀要: Bulletin of the Department of Japanese History Faculty of Letters Kanazawa University.

例えば,立証責任分配問題については,配分的正義の概念説明,立証責任分配が原・被告 間での手続負担公正配分の問題であること,配分的正義に関する