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環境配慮義務の法的根拠の手掛かりのために

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(1)

好美清光 著「信義則の機能について」再読:

環境配慮義務の法的根拠の手掛かりのために

Rereading "The Function of Fair and Equitable Principle" by Seikoh Yoshimi: For a Clue in Examining the Legal Basis of Environmental

Consideration Obligation

金井 憲一郎

Kenichiro Kanai

要旨:日本社会は、超高齢人口減少社会に突入し、相次ぐ豪雨災害等気候変動に伴う 環境変化による環境問題等様々な困難な問題の渦中にある。そのような環境問題を民 法学の観点から解決する方法としてどのような方法があるかにつき、1962 年の好美清 光著「信義則の機能について」論文の再読がその示唆になるのではないか検討する。

すなわち、一般条項としての信義誠実の原則を活用することである。本稿では、第一 に、好美論文の内容を概観し、第二に、最近生起した裁判例を環境問題として紹介し たうえで、第三に、その事例から、いわゆる環境配慮義務を引き出すことの可能性に つき述べたうえで、第四に、その義務の法的根拠を信義則から導くことができ、ひい ては、本義務が第五次環境基本計画の出発点になるのではないかと問題提起をするも のである。

キーワード:信義則、機能的分類論、環境配慮義務、第五次環境基本計画、地域循環 共生圏

Abstract: Japanese society has entered a super-aged population decline society, and is in the midst of various difficult problems such as environmental problems because of environmental changes caused by climate change such as successive heavy rain disasters. Regarding what kind of method is available to solve such environmental problems from the viewpoint of civil law, I will examine whether the rereading of the 1962 Seikoh Yoshimi's "The Function of Fair and Equitable Principle " paper might be a suggestion. That is, to utilize the principle of faith and trust as General Terms. In this paper, firstly, I will give an overview of the contents of Yoshimi's paper, secondly, to introduce a recently-occurring court case as environmental problems, and thirdly, it is possible to draw out so-called Environmental consideration obligation from this case. From the above, fourthly, I raise the question that the legal basis of the obligation can be derived from fair and equitable principle, and that this obligation may be the starting point of the Fifth Basic Environmental Plan.

Keywords: fair and equitable principle, Functional classification theory,

Environmental consideration obligation, The Fifth Basic Environment Plan,

Circulating and Ecological Economy

(2)

1.

はじめに

近年、日本社会は、目まぐるしいスビートで社会変化が進み、人口減少超高齢社会の真っ ただ中にある。加えて、環境問題は、相次ぐ豪雨災害、強烈化している多数の台風の到来、

高温に見られる気候変動にともなう環境の変化等、これまでの考え方では解決不可能な状 況になっているのではないかという懸念は誇張であろうか。

ところで、かかる状況下においても、信義誠実の原則(民法

1

2

項)(principle

of faith and trust)、いわゆる信義則(fair and equitable principle)は、民法 1

2

項という私法の一般 法に規定されており、一般条項として他の法領域においてもその適用を行うことで、社会に 生起する複雑な法的諸問題を解決する働きがあるとされていることは、広く知られている1。 法律学を学んだことがあるものにとって、信義則を知らないものはいないと言ってよい程 の基礎原則であり、基礎概念である。この信義則とその機能につき、今なお、圧倒的影響力 を及ぼしている論文として、1962年に書かれた好美清光の「信義則の機能について」(一橋 論叢第

47

巻第

2

号、73-90頁)(以下、「好美論文」という)があり、信義則について考える 必読文献となっている。

本稿では、この約

60

年前に書かれた好美論文を改めて再読し、その内容である信義則の 機能を問い直し、現下の日本社会において、困難な問題として生起している環境問題解決の ためのアプロ―チの糸口として、信義則を用いることが有効な解決方法ではないかと問題 提起してみることとしたい。

以下では、好美論文の内容を概観したうえで、その核心的部分である、信義則の機能を踏 まえて、信義則の環境法の領域への適用可能性につき、近時の裁判例を紹介し、その中で考 えられる環境配慮義務の法的根拠として、一般条項たる信義則に求めることはできないか を探り、その義務を肯定することにより、信義則が架け橋となり、第五次環境基本計画が実 現されていくのではないかと問題提起することとしたい。

2.

好美論文の主たる内容

2.1 好美論文の内容

まず、好美論文の内容を見ることにしよう。問題提起と機能的分類論に分かれる。

(1)問題提起

好美は、次のようにいう2

われわれの問題にかぎっても、普遍的かつ明確な規範に代って裁判官の恣意的 かつ素朴な衡平という感情の登場により、予測可能性の要請に不可欠な法的安定 性が疎外される危険性は否定しえない。・・中略・・しかし他方、現実には、裁判 所における信義則の適用は早くから確固たる法として適用しているのみならず、

(3)

昭和二二年以降、明文規定(民一条二項)としての根拠をもつに至った現在では、個 別的事案に具体的妥当な解決を付与し、さらには法の発展の足掛かりをも与えう る本原則の適用を否定しようとすることは、もはや問題とならない。

われわれにとっての問題は、いわば諸刃の剣ともいうべき本原則の適用の妥当 性を、いかにして確保するかにある。・・・なるほど一般条項は、裁判官がその下 に事実関係をおけば直ちに結論がでるという、それ自身完結している「適用可能な」

法規の構成要件を備えてはいない。その内容は、各事件の個別的事情の下に一回ご とに裁判官によって実現されるべき要請であり、同様の事実関係の下で同じ扱い がなされうるよう、裁判官が判決の中で定型化しなければならない基準の一般的 指針を与えているにとどまる。したがってその具体的内容は、裁判官によって充た さなければならない性質のものであり、かかる判例の蓄積により醇化され、一定の 法制度にまで高まる性質のものではある。しかしながら、一般条項に限らず、そも そも係争事件の汲み尽しえざる多様性をもつ具体的事実関係に対する、裁判官に よる-一般的表現をもたざるをえない-法規の適用というものは、たんなる認識の論 理的分析的推論行為にとどまりうることは滅多になく、多くの場合、そこでは、複 数の可能な評価の中からの選択が問題となる。つまり、判決は、選択行為による一 定 の 価 値 実 現 を 、 し た が っ て そ の か ぎ り で 、 そ れ 自 体 、 法 の 新 た な る 形 成

(Rechtsneubildung)をしているのであり、大陸法といえども、 law in making

の性質を

もつことは否定しえない。ただ、このことは、法規が不明確・あいまいな表現をし ているほど大きく、それゆえに一般条項においてとくに顕著に現れる、というにす ぎない。そこでは将来のあるべき法との間にも一線を画しがたいものとなりうる が、しかしそれにもかかわらず、それはあくまでもやはり、-右に述べた性質を本 来もつ-「法の適用」、「解釈」の問題の枠をこえるものではありえないし、またあ ってはならないのである(憲七六条)。だとすれば、信義則の適用における裁判官の 判決技術は、法の適用・解釈一般と同様に、-必ずしも表現されてはいないが-すで に立法者自身によって予定されている命令、秩序の枠組みの範囲内にとどまるか、

あるいは、「条理」、「事物論理的構造」等々の争われざる基本命題に基づかなけれ ばならない筈である(Wieacker, S.19)。

このような認識の下においてのみわれわれは、生起する判決例に流され追随す ることなく、あるいは神々の争いのうちの一つの特定の世界観からでもなく、まさ しく法的に、それらをあるいは支持し、あるいは批判する正しい立場を獲得するこ とができるであろう。・・・このようにみてくれば、われわれのなすべき問題は、

信義則の適用と称してなされている法の解釈の広汎にして豊饒な領域、発展を、裁 判官の制定法に対する関係という基本問題-私自身まだ確信をもつに至っていない が-との関係で機能的に分類し、それぞれの類型のもつ意味を検討し、そのあるべ

(4)

き限界をもさぐることでなければなるまい。実際、このような視点からみるとき、

現実に適用している信義則の多様な諸機能は、従来なされてきたような信義則一 般としての統一的な決定を不可能なものたらしめているのである。

(2)機能的分類論3

好美は、その積極果敢な問題提起を受けて、信義則の機能を次の四つに分類している。

①職務的機能は、「裁判官が既存の法規によってすでに予定されている構図、枠をこえるこ となく、法規自身のより詳細かつ具体的な実現にすぎないもの」4とされ、この機能は、規 準的機能と制限的機能に分けられるとし、前者を「信義則が近代において最初に問題となっ た債務者による給付の方法 ・態様 等の規制」とし、後者を「債権者(ないし原告)の債務者(な いし被告)に対する給付請求(権利行使)の規制」5に分類しつつ、好美は次のようにいう6

a.予め立法者、法規によって計画されていた秩序、価値の裁判官による意味適合

的な具体化にすぎない。一見、裁判官がかなり自由に法を創造しているようにみ えても、それは結局、立法技術というものはたえず生起する具体的な事件の多様 性のすべてをカバーしうるほど枝葉末節に至るまで明文化しえないことと、たま たまわれわれの法典の基礎となった一九世紀ドイツ普通法学理論の歴史的被制約 性等により、現行法規が不備であることによるのであり、裁判官の活動は、すで に法規自体の秩序枠内に潜在している法を顕在化させるにすぎず、「信義則は債 権法を支配する最高の指導原理である」との周知の命題の枠内にとどまるもので ある。

b.債務者に対する「規準的機能」

(a)債務の履行の方法・態様等 適法な履行ありといえるかどうかに関して、履行

期、時間、場所、方法等が信義則により決せられるべし、とされるのは、すべて これに属する。

(b)従的義務 (Nebenpflichten) 明示的に合意された主たる義務等の実現・保護に

有用ないし不可欠な手段的義務は、たとえ明示の合意なくしても、信義則上、当 然発生すべし、と解される。これには、注意義務、通知義務、告知義務、保護義 務、競業避止義務、一定の不作為義務等がある。主たる義務についての契約締結 前、存続中、終了後のいずれを問わないし、場合によっては―たとえば保護義務

―契約外的関係においても生じうる。

c.債務者に対する「制限的機能」

(a)協力義務 契約者相互は、共通の目的実現のために協力すべき義務がある。

「深川渡」事件における買主の履行場所問い合わせ義務(大判・大一四・一二・

三・民集四巻六八五頁)、履行の提供、準備における債権者の協力義務、さらには

(5)

信義則の援用による受領遅滞の諸効果等々。さらには明文化されている過失相殺 を支配する思想。

(b)右の諸場合における信義則の適用は、すでに法規上明確な債権の内容を修正し

ているのではなく、立法者の予定している計画、秩序の枠内で、その不備を補充 しているにすぎない。

(c)この場合の信義則の適用による法解釈は、古典的な意味での裁判官の本来の職

務に属することであり、一度判例としての先例が出るや、その後はさほどの困難な く踏襲され、通用しうるものである。

(d)信義則は、本機能においては、主として債権法関係に適用されるが、しかしなが

ら、物権法においても(相隣関係、地役権等々)、親族・相続法、会社法、訴訟法、

さらには公法においても、そこで両当事者間に履行、履行請求という権利義務関係 があり、あるいは「特別関係」

Sonderverbindung

が存するかぎりで、適用されうる。

(e)強行法規への信義則の導入の可能性については、本機能に関するかぎり問題と

なりえない。本機能は、所与の法規の秩序計画の意味適合的な具体化にすぎないの で、そもそも法規を破るということ自体、起りえないからである。

②衡平的機能は、「当事者の権利主張ないし防御方法の妥当性の要請、つまり、法倫理的 振舞いへの要請を裁判官が掲げ、実質的正義を問題とする場合である」7とされつつ、好美 は次のようにいう8

a.法規の予定された秩序計画の実現、具体化ではなく、法規をはみ出る法形成が問

題となる。この点で、職務的機能の名の下に総括した諸場合と異なる。これは、法 規外の根拠に基づき、倫理的振舞い、実質的正義、衡平を求めるものであり、正に この本来の志向のゆえに、必然的に古法の

aequitas

やイギリスの

equity

と同様に、

一定の事実関係の判断にあたり、法規の所与のシェーマを踏みこえる評価をする に至る。そしてこれが、やがて確固とした判例となり、体系化され、ついには新し い制度形成物となっていく。ローマ法ならびに普通法学の伝統を直接継承してい るドイツでは、制定法規上の根拠をもたないにもかかわらず、この機能はきわめて 重大な役割を果たすものとして活躍させられている。すなわち、これは、制定の時 代的制約を免れない法規の、その後の発展のための正当な役割を果たし、硬直した 法規、法体系に社会的倫理の血を通わせるものであり、信義則の諸種の機能の中心、

支配者である。沿革的には、いわゆる

exceptio doli

はこの場合にあたり、従来わが 国で信義則の抽象的理念的意味が研究された際、その対象とされたものの多くも これにほかならない。

(6)

③社会的機能は、「すでに法典が予定し規定している対象でありながら、社会の進展に伴 って既存の法典の枠組みでは妥当な解決がえられず、これを裁判官が実際上の必要性に基 づき、権利の社会的使命、目的をも考慮して、ふみ越え修正していくものである」9とされ るとしつつ、好美は次のようにいう10

a.法規の実現行為としての職務的機能にせよ、法規の枠をはみ出る衡平的機能にせ

よ、それらはいずれも法規に反する・ ・ ・ものではなかった。しかるにここでは、立法者 による秩序計画はすでに一義的に規定されているにもかかわらず、真正面から それ 反して・ ・ ・

(contra legem)、法規を修正

・ ・する機能を営む。

b.職務的機能においても衡平的機能においても、そこで実現される法は、普遍妥当

な非歴史的なものであったが、ここで登場するものは、すぐれて特殊=歴史的社会 的性質のものである。

c.このような固定した明文規定と変遷する社会とのギャップを埋めるために、判例

が法文を限定・修正する手段として始めはガズイスティッシュに信義則や権利濫 用理論を利用し、やがて同種の判例が蓄積してくると、いわば判例法による成文法 の改廃が行われて、ついには、法文所定の権利自体はそれだけの範囲でしか存在し ないのだと解されるに至り、一般条項の問題から脱していく。

④権能授与的機能は、「時代の問題性に適合させるべく、判例が法規を打破し、法規に反

して

contra logem、新しい裁判官法を創造していく場合である」

11とされつつ、好美は次の

ようにいう12

a.裁判官の権能という点から捉えるとき、たんなる法規の適用ではなく、特殊の歴

史的事情の下に、ひとしく裁判官の法修正ないし創造的機能が現れている。

b.この種の裁判官による法の創造は、社会的変化が従来と同じ尺度での判断を不正

なものにしてしまうにせよ、歴史的な法意識自体が変化するにせよ、法規と公けの 法意識との間にギャップが生じたときに行われる。歴史的現実に規定される人間 の法設定というものは、そもそも、超時間的に通用しうる実質的規範化なるものを 不可能なものたらしめている。だとすれば、確かに、裁判官に法創造的機能は当然 に属すべきだということはできないが、しかし他方“傷つき得ざる意欲”としての 制定法も、立法者も、彼の計画が条件付き、期限付きの性格のものであることを、

賢明に慎重に洞察しなければならない筋合いのものである。したがってこのよう な場においては、裁判官は自己の良心の危険の下に振舞わざるをえない。彼の判決 は、彼が周知の裁判官としての活動領域の限界内にとどまっている限り適法であ る。しかし、この限界自体については、―あるいはこれを越える場合には―彼は、

(7)

自分の善意による衡平が法意識を傷つける結果になるのではないかという恐怖に おののきながら、自らの危険の下に決定しなければならない。

c.このような裁判官による法の踏み越え、新創造の所産については、立法者はこれ

を法典化することができるし、またすべきである。このようにして、古い法の犠牲 の下になされた裁判官の法突破の状態が、ふたたび法規となっていくのである。

2.2 若干の分析

(1)好美の問題提起に対して

ごく簡単に好美論文の内容につき概観してきたが、好美論文で第一に、繰り返し参照され るべき重要な点は、その問題提起にあるというべきであろう。とりわけ、「裁判官の制定法 に対する関係」からの考察に留意する必要がある。すなわち、信義則をはじめとする一般条 項の内包する予見可能性の確保できないという危険性等を考慮し、およそ法規の適用にお いては、複数の法規からの選択の問題であり、そこには必ず評価が行われる。具体的な事実 関係において、一般条項であろうが、法規であろうが、この危険性は同様に存在しているの であり、前者の性質から後者よりも顕著に顕れるに過ぎないというのである。好美の指摘は、

60

年経った日本社会を見渡しても、日々新しく内外に生じる諸問題を法的に解決する場 合に生起し得る法律問題を解決するために遡る視点として重要である。この問題提起を受 けて、「裁判官の制定法に対する関係」から、信義則の有する機能を分析することで、一般 条項であるが故に有する今後生じる新たな法律問題を内包する具体的事件に与える解決の 指針となるという積極的側面、そして予測可能性を阻害するという危険性の消極的側面、と のバランス、信義則の適用の限界を画することができるというのである13

そこで、好美は、裁判官の法創造的役割の少ないもの、言い換えれば、予測可能性の危険 性が少ないものから順に、職務的機能(規準的機能、制限的機能)、衡平的機能、社会的機能、

権能授与的機能の四つに分類したのである。

(2)機能的分類論に対して

第一に、民法学者である好美は、職務的機能のうち、債務者に対する「規準的機能」につ いては、債権法の領域である債務の履行の方法・態様等をまず掲げつつ、債権者に対する「制 限的機能」として、債権法における諸制度しての受領遅滞の諸効果等を指摘している。しか し、われわれの検討しようとしている、現代的な課題としての環境問題の法的解決にあたっ ては、好美のいう従的義務の指摘が重要である。それは、「主たる義務についての契約締結 前、存続中、終了後のいずれを問わないし、場合によっては、―たとえば保護義務―契約外 的関係においても生じうる」14と述べている点であり、この義務は、「社会的接触」soziale

Kontakt

という概念を用い、信義則の適用領域を広げる必要15を示唆していることは注目す

べきである。職務的機能においては、信義則は主として債権法関係に適用されるとしつつ、

(8)

相隣関係等の物権法等の私法のみならず、公法においても、両当事者間に履行、履行請求と いう権利義務関係、あるいは「特別関係」が存する限りで適用されうるという指摘も示唆的 である。

第二に、衡平的機能については、好美は、制定の時代的制約を免れない法規の性質から、

その後の発展のための正当な役割を果たすため、硬直した法規、法体系に社会的倫理の血を 通わせるためのものであるという指摘は強調されるべきである。

第三に、社会的機能については、上記二つの機能は法規に反するものではなかったが、明 文規定と変化する社会で生起し得るギャップを解決するために、判例が法文をガズイステ ィッシュに信義則を利用し、やがて同種の判例が蓄積してくると、法文所定の権利自体はそ れだけの範囲でしか存在しないとされ、一般条項の問題から離脱していく好美の指摘も、将 来的に生じるであろう、次に検討する環境問題を考える場合忘れてはならないだろう。

第四に、権能授与的機能については、好美は、裁判官の法修正ないし創造的機能が現れる として、裁判官による法の踏み越え、新しく創造した解釈を立法者はこれを法典化すること ができるだけできなくして、すべきであるとされ、法的問題となって解決のための裁判官に よる法突破という踏み込んだ解釈が、ふたたび法規となっていくとされているのは、四つの 機能のうち、信義則の機能を「裁判官の制定法に対する関係」からして、最大化したそれと 評価することができ、次章以下を検討する際にも考慮すべき指摘であろう。

それでは、われわれの問題として、現在の環境問題を法的に解決するために、好美のいう、

信義則の機能を考えることで示唆はないだろうか。次に、今後も各地で発生が予想される興 味深い裁判例を見て、具体的に考えてみることとしよう。

3.

最近の環境問題への信義則の今日的適用の検討

続いて、

2.で概観した好美の主張する信義則を踏まえつつ、現下の日本社会で緊急性の高

い社会問題としての環境問題につき、近時の裁判例を紹介し、そこで考えられる、いわゆる 環境配慮義務について述べ、その義務の根拠として信義則の適用できる可能性はないかに ついて探ってみることとしよう。

3.1

ある環境問題をめぐって-シロアリ駆除の薬剤散布による化学物質過敏症の再発と使用 者責任が問題となった事例16

(1)事案

佐賀地判平成

28

10

18

日判決判時

2347

122

頁の、シロアリ駆除の薬剤散布によ る化学物質過敏症の再発と使用者責任が問題となった事件である。事案は以下のとおりで あった。Xは、妻が所有している建物(以下、「本件建物」という)に居住していたところ、自 身が化学物質過敏症である旨

Y(不動産管理、建築、リフォーム等を目的とする株式会社)の

(9)

従業員

A(本件建物の南側に隣接する住宅(以下、「B

邸」という)の外壁塗装工事等の工事を 請け負い、当該工事の現場責任者)に説明していたにもかかわらず、Aは

X

の住居の隣家

B

邸においてシロアリ駆除の薬剤(シロアリ防除用土壌処理剤であるステルス

SC

を水で

200

倍に希釈した液体、以下「本件薬剤」という)を散布をするように下請業者に指示を出した

(以下、

「本件散布行為」という)。その結果、化学物質過敏症の再発により、Xは体調不良に 陥るとともに、住居が化学物質に汚染され居住できなくなり、治療費や住居の使用利益相当 額の損害等が生じた旨主張し、

Y

に対して使用者責任による損害賠償請求権(民法

715

条)に 基づき、賠償金

3132

5702

円及びこれに対する不法行為の日である平成

23

12

3

日 から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求め、Y の責任を 肯定した事案である。主たる争点として、本件散布行為について

Y

に過失が存在するかが 問題となった。

(2)判決

①Xから

A

に対する養生措置の要請について

「Aは、平成

23

11

月下旬、

B

邸の外壁塗装等の工事を実施する旨の挨拶をする ために、本件建物を訪問し、Xと面会した。この際、Xは、Aに対し、Xが化学物 質過敏症に罹患していること、外壁塗装作業を実施する前に本件建物の三階南側 の居室部分の窓に養生措置を行うこと、塗装作業は北風時に実施してもらいたい ことを伝えた。

これに対して、

A

は、養生措置を行うことは了解したものの、風向きは一定でな いため、十分に対応しきれない旨回答した。

A

は、上記面会を受け、本件建物の三 階南側の居室部分の窓にビニールシートによる養生措置を行った。」

②Xからの化学物質過敏症の申し出と本件散布行為

「Aは、平成

23

12

1

日、本件建物を訪問したところ、Xは、Aに対し、化学 物質過敏症との診断名が記載された平成

14

4

8

日付

C

医師作成の診断書及び 化学物質過敏症について記載された新聞記事・・・を手渡し、改めて、Xが化学物 質過敏症である旨を説明するとともに、化学物質を利用する工事を実施する際に は、事前に

X

に対して連絡するように求めた。Aは、同年

12

3

日、午前

9

30

分から

11

時にかけて、Xに事前に連絡することなく、下請業者に

B

邸の床下に本 件薬剤を散布させた。」

③Xの化学物質過敏症の発症と治療、入院

「Xは、事前連絡を受けていなかったことから、午前

9

30

分頃、本件建物の窓 を開けていたところ、本件薬剤の影響によって、体調の異常を感じたため、本件建 物から避難した。・・

X

は、平成

23

12

8

日、

D

診療所を受診し、喘鳴及び咳・

痰との診断を受け、専門医による診療及び適切な加療を要するとの診断を得た。X は、平成

23

12

16

日、

E

病院を受診し、平成

24

1

10

日から同月

18

日ま

(10)

での間、化学物質からの回避を目的として

E

病院のクリーンルームに入院した。」

④Aの過失と

Y

の責任について

「本件薬剤は希釈した散布濃度であっても、これを吸引し、あるいは、これに曝露 することで体調不良を引き起こす危険性を有しており、そのため、その散布に当た っては周囲へ飛散しないように注意することが求められているところ・・、これま で建築業に従事し現場責任者を務めていた

A

としては、これらの本件薬剤の危険 性を当然認識すべきであったといえる。加えて、

A

は、本件散布行為に先立ち平成

23

12

1

日に

X

から診断書を見せられた上で、化学物質過敏症に罹患してお り、実際に外壁塗装作業実施をした際にも体調不良に陥った旨の説明を受け、事前 通告を求められていたところ・・、Aが

X

に対して本件薬剤を散布する旨を事前 に通告することが困難であったという事情は本件全証拠によっても認められない。

以上のような本件の事情に照らせば、Aは、少なくとも

X

に対して本件薬剤を散 布する旨を事前に通告すべき義務を負っていたと解するのが相当であり、事前通 告をすることなく本件散布行為を実施させた

A

には同義務に違反した過失がある といわざるを得ない。」

3.2

環境配慮義務

(1)本判決における私人間における環境配慮義務の問題性17

本件は、化学物質過敏症に罹患している近隣住民

X

は、自身が事前に化学物質過敏症に 罹患している旨

A

に説明し、本件散布行為の日時を事前に

A

X

に通告することができた にもかかわらず、X に隣家において本件散布行為を行うことを事前に通告することを怠っ たことに民法

709

条の過失を

A

に認め、Yの民法

715

条の使用者責任を肯定した。今後も 多く生起し得る都市生活における今日的な環境問題18であると評価することができよう。

本判決が「Aは、少なくとも

X

に対して本件薬剤を散布する旨を事前に通告すべき義務 を負っていたと解するのが相当」と判断しているのは、環境配慮義務を負っていると理解す ることもできそうである。本件は、

Y

のような建築関係を目的とする会社は、化学的過敏症 の存在について一定程度の知識を有することは不可欠であり、X の事前の申し出があった ことからしても、

A

の対応は杜撰だったことは否めず、環境配慮義務違反があった事例と評 価し得るのではなかろうか。

それでは、環境配慮義務とはいかなる義務であろうか。そもそもこの義務の概念の内容は、

特に義務の主体をどう考えるのかにつき論者によって様々であることに留意しなければな らない。現在、環境基本法

19

条を根拠として、国の環境配慮義務を考える学説がある19一 方で、国、地方公共団体、事業者、国民それぞれに環境配慮義務を把握する有力な見解20が ある。後者の見解は、小賀野晶一が主張するものであり、環境配慮義務を一般的環境配慮義 務と具体的環境配慮義務とに分解し、前者を一般的に要求される義務とし、後者を特定の者

(11)

に対して具体的に要求される義務としたうえで、前者の法的根拠として民法の信義則の規 定の存在を看過できないと述べている21, 22。一般的環境義務は、民法や行政法などの一般的 規範として要請されるもので、人々が一般的に負担すべき義務であり、他方の具体的環境配 慮義務は、行政法、民法など実定法に規定として明示され、あるいは、実定法の規定の解釈・

運用の結果として導き出され、あるいは判例法としても要請されるものであるとされ、環境 配慮義務の実質的根拠は地球益だとされている23。本稿では、環境配慮義務の内容につき後 者の小賀野説と考え、小賀野のいう一般的環境配慮義務のその法的根拠として信義則を看 過できないというのは、好美論文のいう信義則 機能 から考察することでさらにより一層 説得力が増すことになるのではないかと考えるものである。

(2)好美論文からみた私人間における環境配慮義務の法的根拠

それでは、環境配慮義務の法的根拠として信義則を看過できないとすれば、さらにどのよ うに考えることができるのか。これまで、概観してきたように、好美論文における信義則の 四つの機能から考えることができるように思われるのである。すなわち、一般的環境配慮義 務は、社会的機能、権能授与的機能として、広く気候変動等の環境問題に対処するために一 般的環境配慮義務を考え、さらに、一般的環境配慮義務は、衡平的機能にもその根拠を求め ることができると考える。それを前提として、職務的機能から、当事者間における環境配慮 義務を考えることができると同時に、小賀野説がいう、安全配慮義務のように社会的接触を 媒介に一般的環境配慮義務24を認めることができる。

他方で、具体的環境配慮義務内容は、これまでの判例を分析しつつ、今後の判例の積み 重ねによる規範的考察によってより精緻に解明していく必要があるであろう。地球温暖化 に見られるような地球環境が危機的状況にあることに鑑みれば、信義則の権限授与的機 能、社会的機能から一般的環境配慮義務は肯定すべきであり、衡平的機能から現代におけ る一般的環境配慮義務を肯定したうえで、具体的環境配慮義務につき、個々の具体的事例 である判例の分析をするなかから、信義則の職務的機能における規準的機能としての義務 内容を検討していく段階に入っているように思われる25

このように、広く環境権の裏側としての規範論としての環境配慮義務は、環境権という 権利論の裏返しとして、義務論としての環境配慮義務は、四つのそれぞれの信義則の機能 からも、その法的根拠して信義則を用いることができるように思われるのである。より細 かく小賀野のいう環境配慮義務を好美の信義則の

4

つの機能との関係で分析すれば、権限 授与的機能、社会的機能、衡平的機能から一般的環境配慮義務を、そして規準的機能から 具体的環境配慮義務を観念することができるのではなかろうか。

しかしながら、好美のいう

4

つの機能には、前述したとおりそれぞれ「裁判官の制定法 に対する関係」から段階があり、権能授与的機能、社会的機能、衡平的機能、職務的機能 の順序で、信義則の負の側面である予測可能性の確保の問題が立ち現れてくることに留意 する必要がある26

(12)

以上から、本件においては、Xと

A

との間での交渉の経緯からすれば、Xの申し出に従 い、散布行為の着手日時を

A

が連絡していれば、Xは在宅しない等という事前の選択もあ ったと考えられる27ことから、一般的環境配慮義務については、肯定し得るのではないか と考える28, 29

(3)環境配慮義務と第五次環境基本計画

ところで、

2018

4

月第五次環境基本計画が策定された30。ここでは、詳細に立ち入るこ とはできないが、わが国の抱える環境の課題は、経済のそれ、社会のそれと相互に連関・複 雑化しており、環境・経済・社会の統合的向上が求められるとされている。本計画の基本的 方向性として、地域循環共生圏の創造、公害を克服し優れた環境技術や「もったいない」な ど循環の精神や事前と共生する伝統を有する我が国だからこそできるという世界の範とな る日本の確立、その二点を通じた、持続可能な循環共生型の社会(「環境・生命文明社会」) の実現と、目指すべき社会の姿としている。この地域循環共生圏とは、地域には森、川、里、

海が存在しており、農山漁村、そして都市と地域によって多様であり、各地域がその特性を 生かした強みを発揮することで、地域・ ・ ・資源・ ・ ・を活かし 、自立 ・分散型 社会・・・・形成・・・・、地域・ ・ ・の 特性

・・・・

に応じて・ ・ ・ ・補完・ ・ ・、支え合う もの

(傍点

筆者) 31をその内容としている。上記課題、基本 的方向性以外にも、SDGs等の国際的潮流、6つの重点戦略を支える環境政策等きわめて内 容豊かなものである。

本基本計画を画餅にしないためには、その基本計画の実施の出発点に有力説の唱える環 境配慮義務があると考えねば、実現不可能であろう。すなわち、好美のいう信義則の機能を 改めて踏まえつつ、この信義則が、第五次環境基本計画の根底を流れているであろう環境配 慮義務を根拠づけるものであり、あえていえば、本計画の法律学からの架け橋になるのが信 義則であって、その具体的な表れとして規範としての環境配慮義務を設定することができ るのではなかろうか32。とりわけ第五次環境基本計画のキー概念である上記地域循環共生圏 は、信義則によって肯定された、一般的環境配慮義務をすべてのものが負っている社会にな ることが前提にならねばならないのではあるまいか33

4.

結語に代えて

以上述べてきたように、好美論文の約

60

年前の問題提起は、信義則につき現代でも投じ るものであり、本論文が今なお色あせることなく、一定の学問的状況、実務のあり様を詳細 に客観的に淡々と記述された書物である『新注釈民法(1)総則』、これは民法学者、法曹実務 家のバイブルで困ったときに参照する文献であるが、これにも大きく取り上げられている ことにも表れているといえよう34。10 年先をも見通せない早い速度での社会変革の中にあ って、一般条項の中核的存在である信義則の機能を問い直すことは、法に関与するもの、ひ いては日本国民全体にとって不可避な態度というべきである。なかんずく、その機能を主張

(13)

したそもそもの出発点である、好美の問題提起こそ常に立ち返るべき対象ではなかろうか。

好美論文は、民法の財産法に限定したうえで、信義則の考察を進めている35。しかしながら、

好美の提示した信義則の四つの可能を改めて問い直し、本稿で若干の検討を行った環境問 題の領域でも十分信義則の機能を考慮したうえで、当該環境問題の解決にアプロ―チして 応用することは可能であろうし36、その営為によってわれわれが今後の世代のために環境問 題の民法的解決の糸口になり得るのではあるまいか37。今後もなお一層環境配慮義務が問題 となり得る判例等を詳細に分析しつつ、その義務内容を検討吟味することはさらに必要で あることはいうまでもない。その際、常に好美のいう信義則の機能に立ち返って、それを法 的根拠とすることができるか検討していくことが必要となるのではなかろうか。本稿は、メ モ程度の域を出ない浅い考察に留まったが、これまでの判例の事案の分析やこれから集積 していくであろう判例を緻密にみていくこと、そして信義則が第五次環境基本計画に与え る影響等さらに残された課題の検討については、他日を期すことにしたい。

最後に、2020 年、われわれが経験した世界的な新型コロナウィルスによる感染症パンデ ミックは、これから種々このウィルスの発生原因につき科学的に詳細な分析がなされてい くであろうが、人間の環境に対する配慮の欠如が関わっているのではないかと言われてい るようである。気候変動もしかりである38。好美論文の提示した

4

つの機能を有する信義則 は、想定し得ない今後の社会の変化、とりわけ環境問題を取り扱う環境法の領域にも新たな 法律学の役割を付与する媒介項になるのではないか。With コロナの時代においては、人間 に対してだけではなく、環境に対しても、どのような立場であれ信義則を根拠とした環境配 慮義務を負った生活をおくることによって、次世代へよりよい環境を残すことが我々に課 せられた最大の責任ではないか39, 40。よりよい環境が前提になることによってのみ、人間の 生活、経済活動等がそれぞれの立場で活発に行われ、ひいては、人間の福祉向上につながる ことは明らかである。

信義則の機能に関する好美論文は、向後も想定外の困難な法的な問題が日本社会に生起 した場合においてその解決の糸口を与え続ける導きの書であり、必読文献であり続けると いえよう41

1 山野目章夫編集『新注釈民法(1)総則(1)』[吉政知広]131-180頁、特に

159-161

頁(有斐閣、

2018

年)。最も新しい文献として、石川博康「日本における信義則論の現況」(大村敦志責任編 集『民法研究 第

2

集 第

8

号[東アジア編

8](通巻 15

号)』所収(信山社、2020年)23-43頁が あり、信義則論の議論の現在につき良い概観を与えている。

2 好美清光「信義則の機能について」一橋論叢第

47

2

73-75

頁(1962年)

3 好美・前掲論文注

2)78-90

頁。

4 好美・前掲論文注

2)78

頁。

5 好美・前掲論文注

2)78

頁。

6 好美・前掲論文注

2)80-81

頁。

7 好美・前掲論文注

2)78

頁。

(14)

8 好美・前掲論文注

2)84

頁。

9 好美・前掲論文注

2)79

頁。

10 好美・前掲論文注

2)87

頁。

11 好美・前掲論文注

2)79

頁。

12 好美・前掲論文注

2)88-89

頁。

13 石川・前掲論文注

1)43

頁は、信義則やそれを基礎とする諸法理につき「日本の民法は、裁 量的な解決をもたらし得る裁判所への信頼を背景として、それらをより柔軟に活用する可能性 を許容する方向へ進みつつあると観ぜられる」としつつ、「信義則という法原則に委ねられたそ のような強力な力を、日本の法実務と学説は、そして、日本の取引社会は、果たして適切に統 御していくことができるのか。我々は、期待と恐れをもって、見守り続けなければならない」

という。石川の指摘は、好美のいう「裁判官の制定法に対する関係」をさらに具体的に自覚さ せるものと評価し得よう。

14 好美・前掲論文注

2)82

頁。

15 好美・前掲論文注

2)83-84

頁は、「『権利義務関係』を厳密にいうと、契約締結前ないし終了 後の通知義務、保護義務等の根拠が失われはしないか」と疑問を呈しつつ、「相隣地所有者相 互、隣室の同居人相互等に何らのいわゆる従的義務も認められなくなる」とされ、ドイツの学 者は、・・保護義務などの従的義務を主たる義務の有無を問わずに肯定している」とし、「今少 し、信義則の適用領域を拡げる必要がありはしないか」とされる。本稿との関係で重要な指摘 である。

16 拙稿 判例評釈「環境法研究第

45

号」43-46頁(2020年)を参照し、まとめたものである。

17 拙稿・前掲判例評釈注

16)48-51

頁を参照しつつ、加筆修正したものである。

18 小賀野晶一「民法の現代化と都市生活法の形成」千葉大学法学論集

19

1

号(2004年)123 頁以下は、居住と生活を基盤とした都市生活という概念を設定し、具体的問題を民法の現代化 の視点から考察される。

19 大塚直『環境法 第

4

版』(有斐閣、2020年)141頁、北村喜宣『環境法 第

5

版』(弘文堂、

2020

年)105-107頁、同

288

頁など。多数説がこの見解をとっている。

20 小賀野晶一「環境配慮義務論-環境法論の基礎的検討」千葉大学法学論集

17

3

号(2002 年)21-83頁を起点として、環境配慮義務をその後の小賀野教授の環境法の考え方の基本に据え られている。

21 小賀野晶一「環境問題と環境配慮義務-地球環境主義の条件と課題」環境法研究

40

号(有斐 閣、2015年)27頁は、環境配慮義務は民法における安全配慮義務論を参考にしているとし、同 論を民法の信義則に基づき、判例法において形成された理論であるとされる。

22 小賀野・前掲論文注

20)36

頁以下。最も新しいものとして、小賀野晶一「環境権の諸相」環 境法研究

44

号(2019年)11頁は、環境配慮義務の根拠として、判例における受忍限度論、実定 法の根拠としての環境立法における責務規定をも挙げている。

23 小賀野晶一『基本講義 環境問題・環境法』(成文堂、2019年)82-87頁、特に

84-85

頁。地 球益とは、地球が存続することによって獲得される利益であり、持続的に保全、創造されるべ き地球の利益であるとされる。さらに、小賀野・前掲論文注

22)11

頁。

24 小賀野・前掲論文注

20)52

頁。

25 ちなみに、野村好弘「最近における都市生活と法的問題点」法律のひろば

43

9

号(1990 年)4-8頁は、都市問題の変化とその特色について触れつつ、本稿で紹介したシロアリ駆除事例 等の都市生活の法的問題点を考えていく視点として、信義誠実の原則をも挙げながら、市民法 原理として確立するべきとされていたことも重要である。

26 石川・前掲論文注

1)43

頁参照。石川が信義則に対して期待と恐れをもって見守ることの必 要を説いていることを想起したい。

27 ある種の意思決定が

X

A

でなされていたとみることができ、建築関係者

A

の近隣

X

に対 するリスクコミュニケーションの問題となるのではないか(拙稿・前掲判例評釈注

16)51-52

頁。)

28 なお、小賀野・前掲論文注

20)52

頁は、「一般的環境配慮義務が不法行為上の義務かそれと も契約法上の義務かを観念的に問うことは、あまり意味がない。一般的配慮義務の源は、その

(15)

いずれにもみいだすことができると考えられるからである」とされるが、好美のいう信義則の 職務的機能からすると、小賀野の一般的環境配慮義務も契約法上の義務とされるように思われ る。一般的環境配慮義務の法的性質については、今後の判例研究を踏まえた研究の課題とし、

留保したい。とまれ、好美のいう信義則の機能的分類論を前提とすれば、一般的環境配慮義務 が認められ得るのではないか。

29 したがって、Xに対する

A

の散布行為日時の事前告知義務は、本件においての一般的環境配 慮義務の主たる内容であり、契約法上の義務と解され、それに違反した

A

という履行補助者に よる

X

の債務不履行責任(民法

415

条)とも考えられ得るのではなかろうか。

30 環境省ホームページ「第五次環境基本計画の概要 2018年

4

月」

(https://www.env.go.jp/press/files/jp/108981.pdf)(2020年

12

24

日閲覧)の参照を乞う。大 塚・前掲書注

19)155-158

頁。

31 前掲注

30)・第五次基本計画参照。

32 石川・前掲論文注

1)42

頁は、「信義則によって実定法秩序へ媒介される規範は、事案の背後 に存在する取引慣行や社会的文脈に基づく内在的規範などにとどまるものではなく、当該取引 によってより外在的な要素、すなわち、消費者公序のような民法とは異質な原理に基づく法政 策的要請も、信義則を通じて一般法秩序の中に組み込まれ得る」ことになるとされ、さらに、

「信義則は、社会規範を法規範へと架橋するだけでなく、民法とは異質の法原理を民法内部に 媒介することによって民法の秩序に多様性を生み出すとともに、法規範の個別性と典型性の間 に適切な均衡をもたらすといった点において、民法の体系構造上の核心的部分を担う法原則と して位置づけられるべきものである」とされる。環境配慮義務につき信義則を根拠として考え る場合にも示唆的な見解といえよう。

33 小賀野・前掲論文注

20)51

頁は、「一般的環境配慮義務の形式的根拠としてはまず、環境基 本法、環境基本計画(下線 筆者)を柱とする環境法制の整備、発展を挙げることができる」と しつつ、「それは質・量ともに充実してきたが、それら法令等を横に貫くことが可能な規範とし て、一般的環境配慮義務が存在する」と指摘されていた。

34 吉政・前掲書注

1)等をはじめして、多くの民法学の体系書・教科書は、好美の「信義則の機

能」の議論に依拠しているものが多い。

35 好美・前掲論文注

2)76

頁。

36 吉政・前掲書注

1)159-161

頁は、信義則の隣接法領域における適用につき、私法のみなら ず、行政法、民事訴訟における訴訟行為を挙げているが、好美のいう信義則の機能から思考を 深めれば、環境法の領域においても、信義則の適用の余地はあり、その信義則の適用の具体的 適用は、環境配慮義務の形で現われるとみることができるのではないか。

37 ちなみに、国際私法学者の山内惟介は、国際環境問題につき、伝統的法律学の体系を墨守 するのではなく、地球社会法学の観点から「伝統的理解に基づく訴訟実務の現場では、・・相当 に難しいものと予測される。それでも、双方当事者の意見を擦り合わせるという従来型(2項対 立型)の視点にとどまらず、一般条項(信義誠実の原則、権利濫用論、公序良俗論)の名において 地球社会全体の利益(地球公益)を考慮する余地があるようにみえる」と述べている(山内惟介

『地球社会法学への誘い』(信山社、2018年)43頁)。本稿で紹介した環境問題としてのシロア リ駆除のための薬剤散布は、近隣住民の都市生活における環境を阻害しているものとみること ができる。この近隣住民の都市生活における環境の集積が、山内のいう「地球社会全体の利益 (地球公益)」そのものではないか。さらに、世界中で危機的な状況と言われている地球温暖化 問題において、いかなる当事者もそれぞれ立場で、二酸化炭素の削減に配慮した活動が求めら れることも想起しなければならない。

38 なお、2020年

11

19

日、衆議院は地球温暖化対策に国をあげて取り組む決意を示す「気候 非常事態宣言決議」を採択した。「数十年に一度といわれる台風・豪雨が毎年のように発生し、

深刻な被害をもたらしている」と警鐘を鳴らしつつ、「温暖化問題は気候変動の域を超えて、気 候危機の状況に立ち至っている」と強調している。「一日も早い脱炭素社会の実現」を掲げ、経 済活動の再設計や取り組みの抜本的強化を「国を挙げて実践していく」という決意も盛り込ま れた。参議院本会議も、2020年

11

20

日に同様の決議を採択した(2020年

11

20

日朝日新 聞朝刊

36

面)。これは、気候変動の事態から超えて、すでに気候危機と今日の現状を把握し、

(16)

市民や企業、自治体などの関心を高め、行動を促すねらいがあるものであろう。この決議の背 景にあるのは、実質的には本稿の依拠する環境配慮義務を認めているものと評価することがで きるのではなかろうか。

さらに、気候変動適応法に基づく初めての気候変動影響の総合的な評価報告書が

2020

12

17

日に公表された。参照

https://www.env.go.jp/press/files/jp/115261.pdf(2020

12

24

日閲覧)。参考資料として、同日、気候変動影響評価報告書詳細も公表されている。参照

https://www.env.go.jp/press/files/jp/115262.pdf(2020

12

24

日閲覧)。多角的な見地から 総合的な気候変動にかかる影響を分析しており、この報告書を踏まえれば、われわれはそれぞ れの立場の行動、つまりより一層環境配慮義務を負った社会生活をおくらなければならないか がいかに差し迫っているか知られよう。

39 2020年

9

16

日に発足した菅義偉内閣は、2050年までにカーボンニュートラル、脱炭素社 会を構築すると宣言した。これから

30

年の間に経済や生活それぞれのパラダイムシフトが国民 の理解の下で行われることになるであろう。国民の日々の生活において、それぞれの立場でよ り一層気候変動よりさらに深刻な気候危機という環境の中にあって、信義則を根拠にした一般 的環境配慮義務を順守していくことが求められるといえよう。

さらに、2020年

12

20

日日経新聞朝刊

1

面によれば、環境省が近くまとめる地球温暖化対 策推進法改正案に、「2050年までに温暖化ガスの排出量を実質ゼロにする」目標を明記し、

2021

1

月に召集する通常国会に提出されるようである。

40 本稿の「はじめに」で述べたように、信義誠実の原則は、英語では、principle of faith and

trust

とされている。とりあえず、尾崎哲夫『法律英語用語辞典【第三版】』(自由国民社、2009

年)541頁参照。trust、すなわち信託、あるいは信託法理とこの一般条項たる信義則との関連に ついては、環境問題の法的解決の観点から、別稿で検討する予定である(拙稿「環境問題と信託 法理」小賀野晶一・浦木厚利・松嶋隆弘編『一般条項の理論・実務・判例(仮)』(勁草書房、近 刊予定)所収)。

41 好美清光先生は、2019年

11

5

日、満

90

歳をもって天寿を全うされた。筆者は、1992年 学部の

4

年次に好美ゼミに入り、修士課程時代の指導教授が好美先生であった。当時未熟だっ た私は、進路に確たるものがなく、同課程終了後、企業に就職した。厳しいご指導やゼミの後 の、いつも笑顔をこぼされつつ、ビールを飲みながらの学食における夕食の会話が特に約

30

年 経った今でも昨日のことのように、多摩丘陵の四季折々のキャンバスの景色とともに思い出さ れる。複雑化する環境問題と環境配慮義務を重視する有力説との相互関係につきさらに検討す るためには今一度好美論文に立ち返る必要があるのではないかと考えてきた。未だ不完全なメ モ程度の域を出ず甚だ拙いものではあるが、考えに考えた結果、本稿をここに発表し、賜った 学恩に感謝しつつ、好美先生に捧げたい。

Received on 24 December 2020

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