CH3CH2COCH2COCH3およびCH3CH2COCH2COCH2CH3 のラマン,赤外ならびにNMRスペクトル
浜田圭之助・森下浩史・永田孝信・薬師寺孝
(昭和54年10月31日受理)
TheRaman, InfraredandNMRSpectraof
CH3CH2COCH2COCH3andCH3CH2COCH2COCH2CH3
Keinosuke HAMADA,Hirofumi MoRISHITA,Takanobu NAGATA and Takasi YAKUSIZI
Faculty of Education,NagasakiUniversity,Nagasaki852
(Received Oct.31,1979)
AbstraCt
2,4‑hexanedione should be expected to be of Cs for a rigid structure and be of
C3v for a non‑rigid one, and 3,5‑heptanedione should be expected to be of Cs or C2v, for a rigid structure and be of D3d for a inon‑rigid one. However an exhaustive
and unambiguous interpretation of the vibrational spectra of these Β‑diketone have not been achieved, and the obtained proton NMR spectra of 2,4‑hexanedione and 3,5‑heptanedione strongly support non‑rigid models with the rotating CH2, and CO
groups, respectively; C3v for 2,4‑hexanedione and D3d for 3,5‑heptanedione.
序 論
n−ブタンおよびn−ペンタンの分子構造については,分子内回転を伴う non−rigid D3d 構造をとることを前報で述べた1,2)。またメチルエチルケトンおよびジェチルケトンについて も,それぞれ分子内自由回転を伴ったCさびおよびか3d構造として説明することができた1・3)。本 論文ではこれらの分子の構造類似分子である2,4−ヘキサンジオンおよび3,5−へブタンジオン の構造について検討を試みた。
β−ジケトンについてはケト型とエノール型の互変異性体の存在が明らかにされている。こ のためにスペクトルは複雑となり,これらの振動スペクトルについてはこれまでにまだ完全な
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浜田圭之助・森下浩史・永田孝信・薬師寺孝IR gas,160mm KRS−5
Rama
Iiquid,一78℃十 ●
Ar 4880A
IR gas,4mm
1.5m Ce!1
KRS−5
Raman hquid Af,4880A
I R
gas,550mm KRS−5
Raman
liquid
A霊,4880A
I R S・1几/Cε2
KRS−5
Raman hquid
A霊,4880A.一一の・^・・…D.呪.,..__._.殉._.._一....9第.κ..^.隈..AA9..._.角... ・_._9
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訓 ωFig.1
3000 2500 2000 1500 1000 500 0cゴ1 Raman and infrared spectra of CH3CH2CH2CH3,CH3CH2COCE2COCH3,
CH3CH2CH2CH2CH3and CH3CH2COCH2COCH2CH3.
Fig . 2
3000 2'>0. o Raman and infrared spectra of CH3COCH2COCzH5' CH8COC2H5'
2000 1500 Iono 500
C2H5COCH COC2H5' C2H5COC2H5'
CH COCH COCH3 and CH3COCH3 '
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浜田圭之助・森下浩史・永田孝信・薬師寺孝翠閃
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Fig.3
3.0 4.0 5.0 6.0 7.0 8・0 9・0 10・0 て Proton NMR spectra of CH3CH2COCH2COCH2CH3,CH3CH2COCH2(職,
CH3COCH2COCH2CH3,CH3COCH2CH3,CH3COCH2COCH3and CH3COCH3。
びジエチルケトンのラマン,赤外およびNMRスペクトルと比較することにより,標記β一 ジケトンの各種スペクトルの帰属を試みた。
実験,結果およぴ考察
2,4一ヘキサンジオンおよび3,S一ヘプタンジオンは文献に従って合成した10・11)。ラマンスペク の トルはAr+レーザ(4880A)使用のJEOL JRS−SIB型分光器で測定した。赤外スペクトル
はShimadzu IR−450型分光器(光学分質,K』RS−5)を用いて測定した。NMRスペクトル はJEOL JNM−PS−!oO型分光器(100MH:z)で測定した。なお内部標準試料としてテトラ メチルシラン(TMS)を使用した。
2,4一ヘキサンジオン分子の可能な構造およびその既約表現は
Cs:29,A (R,ρ:1R)+19.A (R∫1R)C3〆 g、41(R,P」1R)+L42(歪召)+10E(R∫1R)*1 であり,
3,5一ヘプタンジオン分子の可能な構造およびその既約表現は
Cs : 34Aノ(R,1り」1R) 十23/1 (R∫1R)
C2び:18・4、(R,P:1R)+IL42(R)+16.8、(R:1R)+12B2(R;1R)
D、4: 5且19(R,ρ)+1且、篇(ia)+5・4、〆1R)+5E8(R)+6E%(1R)*1 である。
2,4一ヘキサン!ジオンおよび3,5一ヘプタンジオンの振動スペクトルはFig,1およびFig.2 に示した。これらのスペクトルはn一アルカンやケトンのスペクトルに似ているが少し複雑な スペクトルを示している。このことについては互変異性体の存在によりこれらのスペクトルが 複雑化したものと考えられる。
プロトンー:NMRスペクトルをFig.3に示した。得られたβ一ジケトンのスペクトルはケ ト型として予想されるスペクトルよりも複雑なスペクトルを示しており,互変異性体の存在は 明らかである。これらのスペクトルではケトンとの比較により,τ値で8付近にカルボニル基 に隣接したメチル基のプロトンに由来するシグナルが出現しているのが容易にわかる。またτ 値で9付近にエチル基内のメチルのプロトンのシグナル(トリプレット)が,そして7.6付近にメ
チレンのプロトンのシグナル(カルテット)が現われている。これらの多重線はそれぞれのスペ クトルで何れも等間隔を示しており,エチル基内のメチルとメチレンのプロトンがそれぞれ等 価でなければならない。このことはこれ等の互いの基に対してそれぞれの基が自由に回転して いる場合にのみ可能であって,これ等の分子が分子内自由回転を伴う1inear C−C−C−C.C℃
の構造をとることを支持するものである。
互変異性体の存在のために,標記β・ジケトン分子の振動スペクトルの完全な帰属はでき ず,今後の研究に侯つものであるが,NMRスペクトルにおいて,それぞれの分子でエチル基 中のCH,とCH,間のカップリング定数が等しい値を示したことは,炭素鎖をlinearとし た分子内回転を伴うC、びおよびD、4構造でないと説明され得ない。
本研究に使用したレーザ・ラマン分光器は文部省科学研究費補助金で購入したものである。
またNMRは本学薬学部のスペクトロメーターにより測定した。関係当局に厚く感謝するもの
である。
*1分子内のCH,およびCOをそれぞれ1個の回転体として:おり,従ってこれらの既約表現
にはそれぞれの基の固有な振動は含まれていない。
16 浜田圭之助・森下浩吏・永田孝信・薬師寺孝
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