当院小児入院患者における市中感染型 MRSA の分子疫学解析
1)
京都府立医科大学附属病院臨床検査部,
2)京都府立医科大学感染制御・検査医学教室,
3)同 小児科学教室,
4)
国立国際医療研究センター病院 AMR 臨床リファレンスセンター
木村 武史
1)安本 都和
1)倉橋 智子
1)山田 幸司
1)谷野 洋子
1)京谷 憲子
1)廣瀬 有里
1)小森 敏明
1)児玉 真衣
2)藤友結実子
2)4)中西 雅樹
2)家原 知子
3)藤田 直久
2)(平成 30 年 2 月 13 日受付)
(平成 30 年 8 月 6 日受理)
Key words : Community-acquried MRSA, Staphylococcal cassette chromosome mec, sequence type, PCR-based open reading frame typing (POT)
要 旨
1990 年代以降,入院歴などのリスクを持たない人が市中で感染する市中感染型 MRSA(CA-MRSA)の 蔓延が世界的に問題になっている.近年,院内での CA-MRSA 増加も報告されてきており,当院でも PCR- based ORF typing(POT)法の導入後,小児入院患者での CA-MRSA 推定株の優位を確認した.しかしそ の疫学は不明な点が多い.そこで 2003,2008,2013 年において当院小児入院患者より分離された MRSA 株 を対象に MRSA クローンの細菌学的特徴および疫学を把握する目的で,SCCmec タイピング,multilocus se- quence typing(MLST)等の分子疫学解析による検討を薬剤感受性,病原因子検索を含め実施した.SCCmec 型は 2003 年以降,NewYork/Japan クローンを中心とする II 型から IV 型への転換が進行し,2013 年には 入院株中 IV 型の割合が 78.6% に達した.また入院 IV 型 46 株のうち ST8 が 82.6%,CC8 が 93.5% を占め,
同時に少なくとも 7 種類のクローンが推定された.病原因子については PVL 産生株は認められなかったが,
入院 IV 型 46 株中 10 株(21.7%)より tst が検出された.いずれも ST8 で,そのうち 9 株は潜在的に病原性 が高いとされる ST8 CA-MRSA/J と推察された.POT 法については,POT1 値と SCCmecII 型,IV 型,CC 5,CC8 との間にそれぞれ一定の関連性が認められることを確認した.今後,クローンの動向を把握するこ とは感染症診療や感染対策の基礎として重要性を増すと考えられる.また POT 法は,限界はあるが日常検 査としてそれらを補完する分子疫学解析法として有用である.
〔感染症誌 92:855〜862,2018〕
序 文
1961 年に英国でメチシリン耐性黄色ブドウ球菌 mechicillin resistant Staphylococcus aureus (MRSA)が 初めて分離されてから半世紀以上が経過した.その間,
MRSA は 医 療 施 設 関 連 型 MRSA:healthcare- associated MRSA(HA-MRSA)として,主に院内で 伝播する重要な薬剤耐性菌のひとつとされてきたが,
1990 年代以降,市中での感染例が報告されるように なり,市中感染型 MRSA : community-acquired
MRSA(CA-MRSA)と呼ばれるようになった
1). CA-MRSA については,2000 年に Centers for Dis- ease Control and Prevention(CDC)によって,①入 院後 48 時間以上が経過した,②過去に MRSA の検 出歴がある,③過去 1 年内に手術歴,人工透析,入院 歴,療養施設の利用歴がある,④カテーテルや医療器 具の体内留置がある,という条件のいずれかに該当す る患者から分離された MRSA を HA-MRSA,すべて に合致しない場合を CA-MRSA とする臨床定義が示 され,それが広く用いられてきた
2).しかしその後 Staphylococcal cassette chromosome mec(SCCmec)
の構造など CA-MRSA の細菌学的特徴が明らかにな るにつれ,HA-MRSA の臨床的定義を満たす株の多
原 著別刷請求先:(〒602―8566)京都市上京区河原町通広小路上 ル梶井町 465
京都府立医科大学附属病院臨床検査部 木村 武史
くが CA-MRSA の細菌学的特徴を有するという事例 等が示されるようになり,臨床的定義に基づく HA- MRSA と CA-MRSA との区分は次第に困難になって きている
3).この背景として,市中株が院内に浸潤,定 着するといった事象が流行クローンの転換を伴って起 きていることも一因として挙げられるが,これらを踏 まえ,最近は SCCmec 型など細菌学的特徴で区分する ことが一般的である.米国では Panton-Valentine leu- kocidin(PVL)産生を特徴とする USA300 型を中心 とした CA-MRSA が院内でも優勢になりつつあり
4), 我が国でも近年,PVL 産生株の検出率は低いものの 院内における CA-MRSA の増加が報告されてきてい る.当院においても 2013 年小児病棟で MRSA アウ トブレイクを経験した後,PCR-based open reading frame typing(POT)法を導入し,特に小児における
CA-MRSA 推定株の大幅な増加を確認したが,その
クローン型や分布など不明な点は多い.また一般に細 菌の特定クローンが病原因子や薬剤感受性と密接な関 連性を有することが解明されつつあり,その動向を把 握することは感染症診療や感染対策の基礎として重要 性を増している.
そこで今回,2013 年より後方視的に 5 年単位の各 年(2013,2008,2003 年)において当院小児患者よ り分離された MRSA 株を対象に,MRSA クローンの 変遷と院内での CA-MRSA 株の細菌学的特徴を把握 する目的で検討を行った. multilocus sequence typing
(MLST)などによる解析を実施し,さらに POT 法 の日常検査における分子疫学解析法としての有用性に ついて評価した.
方 法
1.対象
当院入院および外来の小児(15 歳以下)から検出 さ れ−80℃ で 保 存 さ れ た MRSA 初 代 分 離 株(2003 年 58 株,2008 年 38 株,2013 年 69 株の計 165 株)を SCCmec タイピング,POT 法,薬剤感受性試験の対 象とした.材料の内訳は鼻腔(n=74),皮膚・開放性 膿(n=32),耳分泌物(n=16),喀痰・呼吸器材料(n
=15),便(n=6),尿(n=4),血液・血管カテーテル
(n=4),その他(n=14)であった.また年齢分布は 1 歳未満が 88 株(53.3%),1〜5 歳が 43 株(26.1%),6〜
15 歳が 34 株(20.6%)であった.このうち SCCmec IV 型の入院株(n=46)についてはさらに MLST および 病原因子検索を実施した.また SCCmecIIa 型の代表 株(POT 型:93-190-103)に つ い て も MLST を 実 施 した.なお,入院株の定義は入院 48 時間以降に採取 された検体からの分離株とした.外来株は当院入院履 歴がない患者からの株とし,入院 48 時間以内に採取 された検体からの分離株も含めた.
2.DNA 抽出
対象株 DNA は brain heart infusion(BHI)寒天培 地に一晩純培養した集落より,シカジーニアス DNA 抽出試薬(関東化学)を用い,添付文書に従って抽出 した.またこのテンプレート DNA をすべての解析に 使用した.
3.SCCmec タイピング
現在 SCCmec 型は I〜XI 型まで報告されているが,
今回は臨床株より主に検出される I,II,III,IV,V 型を分別する PCR を Boye らの方法で実施した
5).こ のうち IV 型の 入 院 株 に つ い て は Iwao ら の プ ラ イ マ ー セ ッ ト を 用 い IVl 型 を 推 定 し た
6).な お,HA- MRSA および CA-MRSA の細菌学的定義として前者 は I,II,III 型を,後者は IV,V 型を保持している ものとした.
4.MLST 解析
Enright らの方法で行い7),各株染色体上にある 7 つのハウスキーピング遺伝子(arc,aroE,glpF,gmk,
pta,tpi,yqiL)領域の塩基配列データを基に MLST
データベース(www.mlst.net)にアクセスして allele 番号,次いで sequence type(ST)を決定した.さ らに eBURST(version 3:saureus.mlst.net/eburst)
にアクセスして clonal complex(CC)を決定した.
5.POT 型解析
Cica Geneus Staph POT KIT(関東化学)を用い た.添付文書に従って 2 組の multiplex PCR を実施 し,得られたアガロース電気泳動像より計 23 の open reading frame(ORF)の有無を判定し,それらを基 に POT 型を決定した.次に POT1 値が 89,91,93,
73,75,77 および 104,106,108,110 を示す株をそ れぞれ SCCmecII 型,IV 型と推定し,SCCmec タイピ ングの結果より SCCmec 型推定能を評価した.さらに SA2259(POT1-5),MW0919(POT1-6)の ORF が 陽 性・陰 性 お よ び 陰 性・陽 性 を 示 す 株 を そ れ ぞ れ CC5,CC8 と推定し,MLST の結果より CC 型推定能 を評価した.
6.病原因子
毒素性ショック症候群毒素遺伝子 toxic shock syn- drome toxin-1 gene (tst)については Mehrotra らの
8), 白血球特異的溶解毒素遺伝子 gene encoding Panton- Valentine leukocidin(lukF-PV)については Stegger らの方法を用いて PCR を実施し
9),それらの有無を判 定した.
7.薬剤感受性
入院,外来株のうち SCCmecII 型と IV 型の 2 群に つ い て,erythromycin (EM),clindamycin (CLDM),
minocyclin (MINO),gentamicin (GM),levofloxacin
( LVFX ), sulfamethoxazole-trimethoprim ( ST ),
Fig. 1 Transition of SCCmec types of MRSA iso- lated from children in the University Hospital Kyoto Prefectural University of Medicine over a ten-year period
I: inpatiants O: outpatients NT: nontypeable
0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
70%
80%
90%
100%
2003 I 2003
O 2008 I 2008
O 2013 I 2013
O NT Type Ϭ Type ϫ Typeϩ (n=36) (n=22) (n=24) (n=14) (n=42) (n=27)
Fig. 2 Distribution of sequence types among SCCmec typeIV isolated from inpatients (n=46)
83%ST8 ST380
9%
ST1516 2%
ST5 2%
ST882% ST97 2%
imipenem/cilastatin(IPM/CS),計 7 薬 剤 の 微 量 液 体希釈法試験をドライプレート 栄研 (栄研化学)を 用いて実施した.耐性基準は clinical and laboratory standards institute(CLSI)のブレイクポイント(M 100-S25,IPM/CS は M100-S22)で非感性と判定され たものとした.
8.統計学的解析
2 群(II 型と IV 型)の有意差は Fisherʼs exact test で検定した.統計解析ソフトは EZR(埼玉医療セン ター,自治医科大学)を用いた.
9.倫理的配慮
本検討で得られた情報はそれ以外の目的に使用しな いこと,また検討に用いた菌株は,患者個人情報と連 結しないよう付番し匿名化された状態で保管,解析を 実施することなどに配慮した.
結 果
1.SCCmec タイピング
入院株に占める II 型の割合は 2003 年以降 94.4%,
41.7%,11.9% と減 少 し た の に 対 し,IV 型 の 割 合 は 2.8%,54.2%,78.6% と大幅な増加を認めた.2013 年 は新たに V 型が 7.1% を示し,IV,V 型の合計は全体 の 85.7% を 占 め た.外 来 株 は 入 院 株 と ほ ぼ 同 様 の SCCmec 型分布を示した(Fig. 1).また IV 型入院 46 株のうち,IVl 型と推定される株が 9 株(19.6%)確 認された.
2.MLST 解析
IV 型入院 46 株について,ST 型は ST5 (n=1),ST 8 (n=38),ST88 (n=1),ST97 (n=1),ST380 (n=4),
ST1516(n=1)の 6 種類が見られたが,ST8 が全体 の 82.6% を占めた(Fig. 2).CC は CC5(n=1),CC8
(n=43),CC88(n=1),CC97(n=1)と CC8 が 全 体
の 93.5% を占めた.また入院株で IIa 型の代表株は ST 5 であった.
3.MRSA クローン
IV 型入 院 46 株 に お い て,ST 型 で 6 種 類,IVl サ ブタイプも含めると少なくとも 7 種類のクローンが推 定された(Table 1).また 2003 年の入院株は II 型が 主 体 で あ る が,そ の 97% よ り IIa 型 を 示 す kdpC の ORF が POT 法で検出された.IIa 型代表株は ST5 の MLST 結果と併せ,NewYork/Japan クローンと判定 された.その他の IIa 株も CC5 を反映する SA2259 の ORF をすべて保持していた.
4.POT 型解析
2013 年入院株(n=42)の POT 型は全部で 20 種類 確認 さ れ た.POT1 値 が 106 の 株 が 32 株(76%)を 占 め,そ の う ち 最 も 優 位 な 型 は 106-137-80 で 17 株
(40.5%)見 ら れ た.2003 年 入 院 株(n=36)の POT 型は 20 種類で POT1 値が 93 の株が 33 株(91.7%)あ り,そ の う ち 93-190-103 型 が 最 も 多 く 7 株(19.4%)
を占めた.POT 法で II 型と推定された 83 株のうち タイピングで 81 株が一致し, 2 株は IV 型を示した. IV 型と推定された 70 株はすべて一致した.POT 法によ る II,IV 型の推定的中率はそれぞれ 97.6%,100% で あった(Table 2).
次に POT1 値が 108 を示す株は CC5 に属し,POT の ORF のうち SA2259(POT1-5)が陽 性,MW0919
(POT1-6)は陰性であった.同様に 106,122 を示す
株は CC8 に属し SA2259 は陰性,MW0919 は陽性で
あり,104 を示す株は CC88,CC97 に属し両者とも陰
性であった.CC5,CC8 と推定された株は MLST で
もそれぞれ同じ結果に判定された(Table 3).
Table 1 Molecular characteristics of SCCmec typeIV isolated from inpatients (n=46) CC estimated clones pathogenic genes
POT scores POT-ORFs
tst lukF-PV
SA2259 MW0919
5 ST5, SCCmec IV (n=1) − − 108-154-106 +(1/1) −
8 ST8, SCCmec IVl (n=9) +(9/9) − 106-9-2, 106-9-80, 106-9-88 106-15-96, 106-59-88, 122-191-80
− +(9/9)
ST8, SCCmec IV (n=29) +(1/29) − 106-51-40, 106-11-113, 106-129-0, 106-137-2, 106-137-64, 106-137-80, 106-155-116, 106-217-80, 106-217-88
− +(29/29)
ST380, SCCmec IV (n=4) − − 106-9-80, 106-137-80, 106-201-80 − +(4/4)
ST1516, SCCmec IV (n=1) − − 122-191-120 − +(1/1)
88 ST88, SCCmec IV (n=1) − − 104-178-113 − −
97 ST97, SCCmec IV (n=1) − − 104-3-1 − −
Table 2 Predictive value of SCCmec type estimated by POT1 scores (n=165)
POT1 scores
1)No. of strains with the following SCCmec types
Predictive value (%)
I II III IV V NT type II type IV
89, 91, 93, 73, 75, 77 (estimated SCCmecII) 0 81 0 2 0 0
97.6 100
104, 106, 108, 110 (estimated SCCmecIV) 0 0 0 70 0 0
others 0 0 0 2 6 4
1) POT1 scores were calculated on the presence of ORFs as follows: mecA; 64, IS1272; 32, kdpC; 16, ccrA2; 8, SA2259; 4, MW0919; 2, mecI; 1.
NT: nontypeable
Table 3 Profiles of POT-ORFs on genomic islets of SCCmec typeIV isolates from inpatients (n=46) and clonal complex (CC) determined by MLST
ORFs on genomic
islets estimated CC
No. of strains with the following sequence types
CC5 CC8 CC88 CC97
SA2259 MW0919 ST5 ST8 ST380 ST1516 ST88 ST97
+ − 5 1 0 0 0 0 0
− + 8 0 38 4 1 0 0
− − others 0 0 0 0 1 1
5.病原因子
IV 型入院 46 株中 10 株(21.7%)より tst が検出さ れた.何れも ST8 であり,そのうち 9 株は IVl 型と 推定された.lukF-PV はすべての株において認められ なかった(Table 1).
6.薬剤感受性
入院,外来計 165 株を 2 群で比較した場合,IV 型 群は II 型群に対し ST,GM を除くすべての薬剤につ いて有意に感性を示した.特に IPM/CS,MINO の 耐性率は両群で顕著な乖離を示した(Table 4).GM は IV 型群の方が有意に耐性であり,ST は両群とも 優れた感性を示した.
考 察
当院の小児入院患者分離株を対象とした検討におい て,2003 年以降の 10 年間でその遺伝子型がほぼ単一
の NewYork/Japan ク ロ ー ン(SCCmecIIa,CC5)か ら多様な SCCmecIV 型,CC8 クローンへ大きく転換 したことを確認した.MRSA クローンは SCCmec 型 と ST 型の組合せにより定義されるが,詳細な IV 型 サブタイピングを実施すれば,実際の SCCmecIV 型 入院株クローンは 7 種類以上になると推測された.
2013 年には V 型も出現しており,これらは院内にお ける CA-MRSA クローン多様化の進行を示唆してい る.
市中における CA-MRSA クローンの生成と伝播の
メカニズムについては未だ十分に解明されていない
が,健康人が保持する methicillin-resistant coagulase-
negative Staphylococci(MRCNS)が SCCmecIV の
リ ザ ー バ ー と な り,多 様 な 遺 伝 型 背 景 を 持 つ
methicillin-susceptible Staphylococcus aureus(MSSA)
Table 4 Minimum inhibitory concentration (MIC, mg/L) of SCCmec typeII (n=81) and typeIV (n=74) isolates
1)Antimicrobial agent
SCCmec
type %R Range MIC
50MIC
90 p valueEM II 100 >8 >8 >8 <0.05
IV 68.9 < _ 0.5- >8 >8 >8
CLDM
2)II 100 < _ 0.25- >4 >4 >4 <0.05
IV 68.9 < _ 0.25- >4 < _ 0.25 >4
MINO II 60.4 < _ 0.5- >16 16 16 <0.05
IV 6.8 < _ 0.5-16 < _ 0.5 < _ 0.5
GM II 40.7 < _ 1- >32 < _ 1 >32 <0.05
IV 81.1 < _ 1- >32 32 >32
LVFX II 84 < _ 0.5- >16 4 >16 <0.05
IV 59.5 < _ 0.5- >16 4 8
ST II 2.5 < _ 0.25-8 < _ 0.25 < _ 0.25 0.498
IV 0 < _ 0.25-1 < _ 0.25 < _ 0.25
IPM/CS II 71.6 < _ 0.5- >16 16 >16 <0.05
IV 2.7 < _ 0.5- >16 < _ 0.5 < _ 0.5
1) A total of 155 SCCmec typeII and IV isolates from both inpatients and outpatients were tested
2) Resistance to CLDM was determined by both the MIC and inducible clindamycin resistance test according to CLSI guidelines.
が SCCmec の水平伝播によって種々の CA-MRSA ク ローンに転換されることが要因のひとつと考えられて いる
10).2001〜2003 年における市中の健康な小児を対 象とした調査によれば,健常児の 30% から MRCNS が検出され,そのうちの 46% は SCCmecIV を保持し ていた
11).2000 年代初頭の市中において SCCmecIV を持った MRSA がある程度存在しており,その後,
様々な環境要因を介しながら,多様な遺伝子型背景を 持つクローンが市中で伝播し,徐々に院内に浸透して いったことが推測される.ただ,その浸透経路や,な ぜ小児に顕著なのかについては明確な理由は不明であ る.今 回 の 検 討 で,2003 年 当 時 の 外 来 株 に お け る SCCmecII 型の割合が入院株と同様に高いことが示さ れた.これは大学病院である当院の外来患者,特に小 児は他の医療機関の入院や受診などの頻度が比較的高 いと考えられ,市中における本来の医療リスクを持た ない集団を直接反映していないためと推定される.市 中で SCCmecIV を獲得した株が院内に侵入したと仮 定した場合,定着と浸透には幾つかの要因が推察され る.まず生物学的な特徴として,IV 型は II 型と比べ 増殖速度が速いこと,ポリプロピレンなどの人工物上 での長期生存率が高いことなどが報告されている.さ らに IV 型に固有の表層蛋白(接着因子)も定着に関 与していると考えられる.また,新生児の MRSA 鼻 腔キャリアーは同一クローンを便からも排出している とする報告がある
12).常在菌叢が確立していない新生 児の場合は,便などの処理を介した伝播のリスクが成 人より高い可能性があり,CA-MRSA の定着と伝播 機構の解明が望まれる.
近年,MLST や全ゲノムシーケンス解析等により 細菌が持つ個々のクローンの特性が解明されつつあ る.流行クローンの転換に伴って薬剤感受性や病原性 も変わる可能性があるが,当院で見られた薬剤感受性 パターンの変化もクローン転換を反映する指標の一つ と言える.今回の検討で IV 型株の 22%(n=10)より tst が検出され,何れも ST8(CC8)であった.sec-sel- tst などのスーパー抗原関連遺伝子群はゲノム上の pathogenicity island(PI)にコードされており,通常 NewYork/Japan クローンの様な II 型の CC5 系統ク ロ ー ン が 保 持 し て い る.CC8 系 統 ク ロ ー ン は CA- MRSA として世界各地でみられ,代表的なものとし て USA300 型があるが,PVL は産生するものの tst は 保持していない
4).今回の tst 保有株は Iwao らが初め て報告した ST8 CA-MRSA/J である可能性が高いと 考える.これは CC8 クローンが NewYork/Japan ク ローンからスーパー抗原遺伝子群を取り込んだ新しい タイプの CA-MRSA であり,その特徴は tst 陽性, lukF- PV 陰性,かつ SCCmec 構造内に新しいタイプの表層 蛋白 spj を持つことである
6).今回検出された株を ST8 CA-MRSA/J と仮定するなら,遅くとも 2008 年には 当院入院患者に存在したことになる. ST8 CA-MRSA/
J の場合,従来の NewYork/Japan クローンと比較し て toxic shock syndrome toxin-1(TSST-1)発現量が 多く潜在的に病原性が高いと考えられ6),また実際に 全身播種性重症感染症の症例報告もされており
13),今 後の動向に注意が必要である.
一方 PVL 産生株については,欧米と異なり国内で
は現時点で比較的稀とされている.これまで報告され
た検出率は 10.5% 以下で,母集団,材料,地域の違い に よ っ て 異 な る が,多 く は 2.3% 以 下 と 極 め て 低
い
14)〜16).当院の検討でも PVL 産生株 は 認 め ら れ な
かった.しかし 1980 年前後における複数の病院保存 株での調査によると,当時は ST30, SCCmecI や ST30,
SCCmec IV 型が主流で,しかもその半数近くが PVL を産生していたとされている17).その後 ST30 系統ク ローン は 減 少 し,代 わ っ て ST5 の NewYork/Japan クローンが優勢となった.この様に時代と共に主要ク ローンも大きく変遷し,それに伴って病原因子の発現 様式も変化していることが推察される.
これらのクローン解析には SCCmec タイピングや MLST などの分子疫学解析法が必要であるが,コス トや労力を要し日常検査の一環として実施するのは困 難である.そこでルーチン検査法として実施可能な POT 法について,分子疫学解析法としての可能性を 評価した.本法は元来, pulsed-field gel electrophoresis
(PFGE)法と同様にある特定の場所,期間において 検 出 さ れ た 菌 株 間 の 相 違 を 判 別 す る 方 法 と し て Suzuki らによって開発された遺伝子タイピング法で ある
18).菌株タイピングは 15 種のプロファージ ORF の有無により決定されるが,POT 法に特徴的なのは,
同時に SCCmec 領域や genomic island(GI)領域の ORF も検出することにより,シーケンスを行うこと なくクローンの系統を推定するという別の疫学的アプ ロ ー チ が 可 能 な 点 に あ る.POT 型 は POT1-POT2- POT3 の 3 つの数字の組合せで表現されるが,このう ち POT1 値がクローンの系統を反映している.今回 SCCmecII, IV 型の推定的中率はそれぞれ 97.6%, 100%
であったが,他の報告でも 95% 以上の精度で推定が 可 能 で あ る こ と が 確 認 さ れ て い る
14)15).ま た HA- MRSA, CA-MRSA の代表株である N315 および MW2 が small genomic islets(SGIs)領域に保持する ORF
(SA2259:POT1-5 お よ び MW0919:POT1-6)の パ ターン比較より,CC5,CC8 を推定することも可能で ある
19).さらなるデータ検証が必要であるが,少なく とも今回検討した株については MLST の結果との一 致が確認された.現時点で POT 法は日常検査のなか でクローンの動向を把握できる唯一の検査法と言え る.ただし POT 値より具体的にクローンを推定する ことは原理的に困難である.またプロファージは比較 的頻繁に組み換えや挿入配列の取り込みを受ける可動 性領域でもあり,同一株でも時間経過と共に POT 値 が変動する可能性がある.POT 法は短時間で比較的 簡易に実施できる有用な分子疫学検査法ではあるが,
これらの特性を踏まえ総合的評価の指標の一つとして 利用することが望まれる.
今回の調査の限界点は一大学病院における小児分離
株に限定した検討であることが挙げられる.より広範 な地域と年齢層を含み,臨床的評価も加味した検証が 必要である.
MRSA はこの半世紀の間に世界中に伝播,拡散し てきたが,地域や時代によって優勢なクローンが大き く異なっている.特に CA-MRSA クローンの多様性 は顕著であり,従来の HA-MRSA とは異なる細菌学 的特徴も加味した感染対策が必要とされている.今後 新たな病原因子を持った優勢なクローンが出現する可 能性もあるが,それらへの対処も含め MRSA クロー ンの動向を監視していくことが重要になると考える.
利益相反自己申告:著者藤田直久は株式会社堀場製 作所の共同研究講座に所属している.
文 献
1
)Moellering Jr RC:MRSA : the first half cen- tury. J Antimicrob Chemother 2012;67:4―11.
2
)Minnesota Department of Health:Community- associated methicillin-resistant Staphylococcus aureus in Minnesota. Disease Control Newsletter 2004;32:61―72.
3
)Maree CL, Daum RS, Boyle-Vavra S, Matayoshi K, Miller LG : Community-associated methicillin-resistant Staphylococcus aureus iso- lates causing healthcare-associated infections.
Emerg Infect Dis 2007;13:236―42.
4
)David MZ, Daum RS:Community-associated methicillin-resistant Staphylococcus aureus : epide- miology and clinical consequences of an emerg- ing epidemic. Clin Microbiol Rev 2010;23:
616―87.
5
)Boye K, Bartels MD, Andersen IS, Moeller JA, Westh H:A new multiplex PCR for easy screening of methicillin-resistant Staphylococcus aureus SCCmec types Ⅰ-Ⅴ. Clin Microbiol Infect 2007;13:725―7.
6
)Iwao Y, Ishii R, Tomita Y, Shibuya Y, Takano T, Hung WC, et al.:The emerging ST 8 methicillin-resistant Staphylococcus aureus clone in the community in Japan : associated infec- tions, genetic diversity, and comparative genomics. J Infect Chemother 2012;18:228―
40.
7
)Enright MC, Day NP, Davies CE, Peacock SJ, Spratt BG:Multilocus sequence typing for characterization of methicillin-resistant and methicillin-susceptible clones of Staphylococcus aureus. J Clin Microbiol 2000;38:1008―15.
8
)Mehrotra M, Wang G, Johnson WM:Multiplex PCR for detection of genes for Staphylococcus aureus enterotoxins, exfoliative toxins, toxic shock syndrome toxin 1, and methicillin resis- tance. J Clin Microbiol 2000;38:1032―5.
9
)Stegger M, Andersen PS, Kearns A, Pichon B,
Holmes MA, Edwards G, et al.:Rapid detection,
differentiation and typing of methicillin-resistant Staphylococcus aureus harbouring either mecA or the new mecA homologue mecA
LGA251. Clin Micro- biol Infect 2012;18:395―400.
10
)Barbier F, Ruppe E, Hernandez D, Lebeaux D, Francois P, Felix B, et al.:Methicillin-resistant coagulase-negative Staphylococci in the commu- nity : high homology of SCCmecⅣa between Staphylococcus epidermidis and major clones of methicillin-resistant Staphylococcus aureus. J In- fect Dis 2010;202:270―81.
11
)Jamaluddin TZMT, Kuwahara-Arai K, Hisata K, Terasawa M, Cui L, Baba T, et al.:Extreme ge- netic diversity of methicillin-resistant Staphylo- coccus epidermidis strains disseminated among healthy Japanese children. J Clin Microbiol 2008;46:3778―83.
12
)Nakao A, Ito T, Han X, Lu YJ, Hisata K, Tsuji- waki A, et al.:Intestinal carriage of methicillin- resistant Staphylococcus aureus in nasal MRSA carriers hospitalized in the neonatal intensive care unit. Antimicrobial Resistance and Infec- tion Control 2014;3:14.
13
)Hagiya H, Hisatsune J, Kojima T, Shiota S, Naito H, Hagioka S, et al.:Comprehensive analysis of systemically disseminated ST8/non-USA300 type community-acquired methicillin-resistant Staphylococcus aureus infection. Intern Med 2014;53:907―12.
14
)Maeda T, Saga T, Miyazaki T, Kouyama Y, Ha- rada S, Iwata M, et al.:Genotyping of skin and soft tissue infection (SSTI)-associated methicillin- resistant Staphylococcus aureus (MRSA) strains among outpatients in a teaching hospital in Ja-
pan : application of phage-open reading frame typing (POT) kit. J Infect Chemother 2012;
18:906―14.
15
)細谷志乃,伊藤輝代,三澤成毅,吉池高志,小 栗豊子,平松啓一:皮膚科外来患者由来 MRSA 株に見られる新規 MRSA クローンの出現状況.
感染症誌 2014;88:840―8.
16
)Yanagihara K, Araki N, Watanabe S, Kinebuchi T, Kaku M, Maesaki S, et al.:Antimicrobial sus- ceptibility and molecular characteristics of 857 methicillin-resistant Staphylococcus aureus iso- lates from 16 medical centers in Japan (2008- 2009 ) : nationwide survey of community- acquired and nosocomial MRSA. Diagn Micro- biol Infect Dis 2012;72:253―7.
17
)Ma XX, Ito T, Chongtrakool P, Hiramatsu K:
Predominance of clones carrying Panton- Valentine leucocidin genes among methicillin- resistant Staphylococcus aureus strains isolated in Japanese hospitals from 1979 to 1985. J Clin Mi- crobiol 2006;44:4515―27.
18
)Suzuki M, Tawada Y, Kato M, Hori H, Mamiya N, Hayashi Y, et al.:Development of a rapid strain differentiation method for methicillin- resistant Staphylococcus aureus isolated in Japan by detecting phage-derived open-reading frames. J Appl Microbiol 2006;101:938―47.
19
)Suzuki M, Matsumoto M, Takahashi M, Hayak- awa Y, Minagawa H:Identification of the clo- nal complexes of Staphylococcus aureus strains by determination of the conservation patterns of small genomic islets. J Appl Microbiol 2009;
107:1367―74.
Changing Molecular Epidemiology of Methicillin-Resistant Staphylococcus aureus Isolated from Children in the University Hospital Kyoto Prefectural University of Medicine over a Ten-Year Period
Takeshi KIMURA
1), Towa YASUMOTO
1), Satoko KURAHASHI
1), Yukiji YAMADA
1), Yoko TANINO
1), Noriko KYOTANI
1), Yuri HIROSE
1), Toshiaki KOMORI
1), Mai KODAMA
2), Yumiko FUJITOMO
2)4),
Masaki NAKANISHI
2), Tomoko IEHARA
3)& Naohisa FUJITA
2)1)