はじめに
小児科において,肺炎や中耳炎は日常診療で普 遍的にみられる疾患である.これまでは,培養検 査を行っても結果が得られるには数日間かかるた め,経験的治療として初診時から何らかの抗菌薬 を投与することが少なくなかった.しかし,この ことがウイルス性疾患など本来抗菌薬の不要な多 くの児に抗菌薬を投与して,近年の耐性菌の増加
の一因となったと考えられている.また,感受性 が低い抗菌薬を投与して,疾患が重症化・遷延化 するという場合も少なくない.これらの問題点を 解消するために,初診時に速やかに原因菌が判定 できる迅速検査が求められている.
Streptococcus pneumoniae
は 小 児 の 髄 膜 炎 や 肺 炎,中 耳 炎 の 原 因 と し て
Haemophilus influenzaeと並んで重要な原因菌である.
S. pneumoniaeによ る感染症では尿中に菌に由来する抗原が排出され ることが知られており
1)2),その抗原を検出するこ
小児感染症患者における Streptococcus pneumoniae 尿中抗原 迅速検出キットの有用性の検討
旭川厚生病院小児科
坂 田 宏
(平成 15 年 3 月 26 日受付)
(平成 15 年 5 月 20 日受理)
原 著
2002 年 2 月から 11 月までに当院小児科に入院した生後 4 カ月から 14 歳までの肺炎 82 名と細菌性髄 膜炎 3 名の小児について,尿中Streptococcus pneumoniae抗原,末梢白血球数,血清 CRP 値,上咽頭培養・
血液培養を行い,髄膜炎の児では髄液のS. pneumoniae抗原と髄液の培養も行った.尿中抗原の測定は肺 炎球菌尿中抗原迅速検出キット(NOWS. pneumoniaeurinary antigen test,Binax,USA)を使用した.
細菌性髄膜炎 3 名の中では 2 名が陽性であった.この 2 名は髄液でも抗原陽性を示した.血液・髄液 培養からS. pneumoniaeが検出された.抗原陰性であった 1 名はHaemophilus influenzaeが血液・髄液か ら分離された.
肺炎 82 名の上咽頭からS. pneumoniaeが検出されたのは 52 名,肺炎患者で尿中抗原が陽性であった児 は 39 名であった.抗原陽性者の上咽頭からS. pneumoniaeが検出されたのは 38 名,尿中抗原陰性者 44 名では上咽頭からS. pneumoniaeが検出されたのは 14 名であった.その結果,本検査の感度は 73.1%,特 異度は 96.8% であった.本検査は小児においても初期治療での抗菌薬の選択に重要な情報が得られ,有 用と考えられた.
〔感染症誌 77:606〜610,2003〕
要 旨
別刷請求先:(〒078―8211)旭川市 1 条通 24 丁目
旭川厚生病院小児科 坂田 宏
Key words: Streptococcus pneumoniae, pneumonia, meningitis, rapid diagnosis, urinary antigen
とによって迅速診断を行うキットが開発されてい る.成人ではその有用性に関する報告
3)4)が認めら れるので,小児での検討を行ったので報告する.
対象と方法
2002 年 2 月から 11 月までに当院小児科に入院 した生後 4 カ月から 14 歳までの肺炎 82 名と細菌 性髄膜炎 3 名の小児について,尿中
S. pneumoniae抗原,末梢白血球数,血清 CRP 値,上咽頭培養・
血液培養を行い,髄膜炎の児では髄液の
S. pneu-moniae
抗原と髄液の培養も行った.肺炎の診断は
胸部 X 線で行い,百日咳やマイコプラズマ,クラ ミジア,アデノウイルス,RS ウイルスなど他の検 査で原因が判明した例は含めなかった.
尿中抗原用の尿は, 入院後 24 時間以内に採取さ れた中間尿を用い, 原則的に採取後 12 時間以内に 測定した.測定は肺炎球菌尿中抗原迅速検出キッ ト(Now
S. pneumoniaeurinary antigen test,Bi- nax,USA) を使用した.測定方法は付属の専用綿 棒を頭部まで完全に検体に浸し,専用台紙に設け られた 2 つの穴のうち下側の穴から綿棒を差し込 み,上側の穴から充分に見えるまで入れる.試薬 を下側の穴に 3 滴滴下した後,台紙を折り曲げて 張り合わせる.尿が穴を通してクロマト資材に吸 収される.15 分後に,台紙の窓に反応による線が 認められる.陽性の場合には上側のコントロール による線と下側に検体の線の 2 本,陰性の場合に はコントロールによる線のみが現れる.
上咽頭培養の検体は鼻腔より綿棒をつきあたる まで挿入し,スワブを採取した.綿棒を培地に塗 抹 し た 部 分 の み に コ ロ ニ ー が 認 め ら れ た 時 に 1+, 白金耳で塗抹して培地のほぼ 3 分の 2 以下の 面積にコロニーが認められた場合を 2+,同じく 培地のほぼ全面に認められ,純培養状態を 3+と した.培地全体でも数個のコロニーしか認められ ない時には少量と表現した.
成 績
対象とした 82 名の年齢分布を Fig. 1 に示す.1 歳以下の児が 38 名と,ほぼ半数を占めていた.髄 膜炎の 3 名はいずれも 1 歳以下であった.
肺炎 82 名の中で尿中抗原が陽性を示した患者 は 39 名であり,髄膜炎 3 名の中では 2 名が陽性で
あった.この 2 名は髄液でも抗原陽性を示した.
血液・髄液培養から
S. pneumoniaeが検出された.
抗原陰性であった 1 名は
H. influenzaeが血液・髄 液から分離された.
肺炎 82 名の上咽頭から
S. pneumoniaeや
H. in- fluenzaeが 検 出 さ れ た の は 69 名 で,内 訳 は
S.pneumoniae
単独が 46 名,H. influenzae 単独 が 17 名,両者が検出されたのは 6 名であった.肺炎患 者で尿中抗原が陽性であった児は 39 名で, そのう ち上咽頭からも
S. pneumoniaeが検出されたのは 38 名,尿中抗原陰 性 者 44 名 で は 上 咽 頭 か ら
S.pneumoniae
が検出されたのは 14 名であった.そ
の結果,本検査の感度は 73.1%,特異度は 96.8%
であった.
上咽頭から分離された
S. pneumoniaeの菌量と 尿中抗原の成績を Fig. 2 に示した.菌量が 2+と 3+での抗原陽性率は約 90%, 菌陰性だと 3.2%,
その中間では約 60% と菌量が多いほど陽性率は 高かった.
Fig. 1 Age distribution and results of rapid urinary antigen test in patients with pneumonia
Fig. 2 Relation between results of rapid urinay anti- gen test and counts of S. pneumoniaecolonies cul- tured from nasopharyngeal swabs
対象とした児にはウイルス性も含まれていると 考え,当院の正常値を越えた CRP 0.6mg! dl 以上 の症例 63 名で同様な検討を行った. 抗原陽性者は 31 名で,全員の上咽頭から
S. pneumoniaeが検出 された.抗原陰性者は 32 名で 10 名の上咽頭から
S. pneumoniae
が検出された.この場合の感度は
75.6%,特異度は 100% であった.S. pneumoniae が検出されなかった 22 名の中で,13 名から
H. in- fluenzaeが検出された.上咽頭から
S. pneumoniaeが分離された 52 名における CRP 値と上咽頭培養 の成績を Fig. 3 に示した.CRP 値が 2mg! dl を越 えると,尿中抗原が陽性となる例が多かった.そ こで, CRP 値を 2mg
!dl 以上の 49 名で検討を行う と感度は 85.1% と上昇し,特異度は 100% であっ た.
H. influenzae
が上咽頭から 3+で,
S. pneumoniaeが検出されず,H. influenzae による肺炎と考えら れた 13 名と CRP 値が 0.5mg
!dl 以下で,上咽頭か ら
S. pneumoniaeも
H. influenzaeも検出されず,ウ イルス性と考えられた 6 名では全員尿中抗原は陰 性であった.
考 案
本キットは免疫クロマトグラフィー法を利用し て,尿中に排泄された
S. pneumoniaeの莢膜多糖抗 原を検出している.検体中に抗原が存在すると,
キットの台紙のニトロセルロース膜に含まれた着 色粒子を有するウサギ抗莢膜多糖抗原と結合す る.そして,膜内を拡散し下側に固相化されたウ サギ抗莢膜多糖抗原と結合することによってピン
クから紫色に着色し,陽性ラインを形成する.ま た,上側に固相化されたヤギの抗ウサギ血清抗体 と結合し,同様にコントロールラインとして認識 されることになる.
Gutierrez ら
3)はこのキットを市中肺炎の成人 452 名に使用し,
S. pneumoniaeによる肺炎患者 27 名 中 19 名(70.4%) ,Mycoplasma や Chlamydia
などの
S. pnemoniae以外の原因による肺炎患者で
は 156 名中 16 名 (10.3%) ,原因菌が判明しなかっ た肺炎患者では 269 名中 69 名(25.7%)が尿中抗 原 陽 性 で あ っ た と 報 告 し て い る.そ し て 感 度 70.4%,特異度 89.7% であり,本検査が有用である と結論している.また,Farina ら
4)も市中感染によ る肺炎の成人 104 名の検討で感度 77.7%,特異度 98.8% と報告している.本邦では小林ら
5)が 66 名 の成人の肺炎に本検査を試み,22 名が抗原陽性で あ り,そ の 中 の 6 名 が 血 液 ま た は 喀 痰 か ら
S.pneumoniae
が分離されたと報告している.
小 児 で は Neuman ら
6)は
S. pneumoniae菌 血 症 の児 24 名と対象の児 72 名で検討し,感度 95.8%,
特異度 93.0% であり本検査の有用性を報告して いる.一方,Adegbola ら
7)は肺炎症状がない小児 102 名で鼻咽頭培養と本検査を行ったところ,89 名が鼻咽頭から
S. pneumoniaeが検出され,その中 の 49 名が尿中抗原陽性であったとし, 本検査は保 菌者でも陽性になると結論している.Hamer ら
8)も健康な小児の成績で,鼻咽頭に
S. pneumoniaeが検出された児では 138 名中 30 名, 検出されない 児では 71 名中 3 名で尿中抗原が陽性であったと している.そして,栄養状態が良くない児や発展 途上国の小児では
S. pneumoniaeの保菌者が 80%
以上とかなり多いため,本キットの使用には充分 な注意が必要であるが,保菌者が少ない年齢や先 進国では有用な検査であることを強調している.
本邦における小児の
S. pneumoniae保菌者の比 率は 60% 程度とけして低くはない
9)ので,陽性の
成績から
S. pneumoniaeが原因菌と断定すること
はできない.やはり,培養検査やグラム染色,血 液検査の成績などと合わせて判断しなければなら ない.また,S. pneumoniae による肺炎後 1 カ月経 過しても尿中抗原が陽性であったという報告
10)が
Fig. 3 Relation between CRP and results of rapid uri-nary antigen test in patients with pneumonia iso- latedS. pneumoniaefrom nasopharyngeal swabs
認められる.著者の症例の中でも,2 週間前に
S.pneumoniae
による中耳炎で,抗菌薬治療した児
で,培養では菌が検出されなかったが尿中抗原が 陽性を示した 1 例が含まれている.成績の解釈に は保菌や既往の可能性などを考慮しなければなら ないが, 約 15 分で結果が判明する本検査の迅速性 は,抗菌薬を選択するにあたって臨床家に初診時 でも重要な情報を提供するものである.現在,こ のキットは研究用のみの使用に限定されているの で,早期に保険診療でも使用可能になることが期 待される.
また本試薬は本来尿を検体としているが,今回 は 3 名の髄膜炎患者の尿と髄液で検査を行った.
その結果,
S. pneumoniae髄膜炎の 2 名で尿・髄液 ともに陽性,H. influenzae 髄膜炎の 1 名では陰性 となり,髄液でも有用性が示唆された.Marcos らも細菌性髄膜炎の患者を対象に尿と髄液を検査 し,感度・特異度も 100% であったと報告してい る
11).ただ, 偽陽性が多いことを指摘する報告
12)も 有り,今後さらに検討が必要である.
稿を終えるにあたって,検査に多大なご協力をいただい
た当院臨床検査技術部門志賀 誠臨床検査技師ならびに
菊地祐美子臨床検査技師に深謝いたします.なお,本論文 の内容の一部は第 30 回日本小児呼吸器疾患学会(2002 年 11 月,千葉)にて口演した.
文 献
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3) Gutierrez F , Masia M , Rodriguez C , Ayelo A , Soldan B, Cebrian L,et al.:Evaluation of the im- munochromatographic Binax NOW assay for de- tection ofStreptococcus pneumoniae urinary anti- gen in a prospective study of community-
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4)Farina C, Arosio M, Vailati F, Moioli F , Goglio A:Urinary detection ofStreptococcus pneumoniae antigen for diagnosis of pneumonia. New Micro- biol 2002;25:259―63.
5)小林隆夫,松本哲也,舘田一博,磯貝建次,木村
一博,内田 耕,他:肺炎球菌尿中抗原迅速検出
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6)Neuman MI, Harper MB:Rapid antigen assay for the diagnosis of pneumococcal bacteremia in children:A preliminary study. Ann Emerg Med 2002;40:399―404.
7)Adegbola RA, Obaro SK , Biney E , Greenwood BM : Evaluation of Binax NOW Streptococcus pneumoniae urinary antigen test in children in a community with a high carriage rate of pneumo- coccus. Pediatr Infect Dis J 2001;20:718―9.
8)Hamer DH, Egas J, Estrella B, MacLeod WB, Grif- fiths JK, Sempertegui F:Assessment of the Bi- nax NOWStreptococcus pneumoniaeurinary anti- gen test in children with nasopharyngeal pneu- mococcal carriage . Clin Infect Dis 2002 ; 34 : 1025―8.
9)Masuda K, Masuda R, Nishi J, Tokuda K, Yoshi- naga M, Miyata K:Incidences of nasopharyngeal colonization of respiratory bacterial pathogens in Japanese children attending day-care centers. Pe- diatr Int 2002;44:376―80.
10)Marcos MA, Jimenez de Anta MT, de la Bella- casa JP, Gonzalez J, Martinez E, Garcia E,et al.:
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11)Marcos MA , Martinez E , Almela M , Mensa J , Jimenez de Anta MT:New rapid antigen test for diagnosis of pneumococcal meningitis. Lancet 2001;357:1499―500.
12)Alonso-Tarres C, Cortes-Lletget C, Casanova T, Domenech A:False-positive pneumococcal anti- gen test in meningitis diagnosis. Lancet 2001 ; 358:1273―4.
Evaluation of Rapid Urinary Antigen Test Kit for
Streptococcus pneumoniaein Children with Pneumonia or Meningitis
Hiroshi SAKATA
Department of Pediatrics, Asahikawa Kosei Hospital