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前者はより重篤で治療抵抗性であり,再発率も高 い

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(1)

クリプトコックス髄膜炎は Cryptococcus neofor- mans による真菌性髄膜炎で,基礎疾患を有する患 者に発症することが多いが, 健常人にも発症する.

前者はより重篤で治療抵抗性であり,再発率も高 い

1)

.C. neoformans は土壌や鳩の糞中に生息し,

吸入により肺に初感染巣を形成する.中枢神経親 和性が高いため,初感染巣より血管内に侵入し,

血行性に髄膜炎を発症する.ラテックス凝集法に よるクリプトコックス抗原価の測定は,感度,特 異度ともに高く診断,予後および治療効果判定に 有用といわれる

2)

.しかし, 血清と髄液の抗原価の 経時的推移を詳細に検討した報告は少ない.今回 我々は,重篤な基礎疾患を有する患者に発症した クリプトコックス髄膜炎の 3 例について,血清と 髄液の抗原価を経時的に測定し治療経過との関連 性を検討しえたので報告する.

クリプトコックス髄膜炎の臨床的検討

―クリプトコックス抗原価の推移を中心として―

虎の門病院呼吸器科

岸 一馬 本間 栄 中谷 龍王 中田紘一郎

(平成 14 年 11 月 13 日受付)

(平成 14 年 12 月 2 日受理)

1996 年から 2000 年までに当科に入院したクリプトコックス髄膜炎 3 例について,臨床像,血清と髄液 のクリプトコックス抗原価の推移,薬剤感受性を検討した.ラテックス凝集反応を用いた抗原価は,パ ストレックスクリプトコックス(富士メビオ,東京)とセロダイレクトクリプトコックス(栄研化学,

東京)の 2 つのキットで測定した.3 例の基礎疾患は,1)肝硬変,2)非ホジキンリンパ腫と粟粒結核,

3)悪性胸腺腫と SLE であった.髄液の墨汁染色は 2 例に陽性で,3 例ともCryptococcus neoformansが培 養された.血清の抗原価は髄液よりも高値を示し,セロダイレクトの抗原価の方がパストレックスより も高値であった.血清と髄液の抗原価(セロダイレクトクリプトコックス)の最大値はいずれも 1,024 倍以上であった.治療は,AMPH-B+5-FC の全身投与の他,2 例で FLCZ+AMPH-B 髄注,FLCZ+5- FC+AMPH-B 髄注を併用した.治療後,血清と髄液の抗原価は低下したが,非ホジキンリンパ腫と粟粒 結核を有する重症例では抗原価の低下が緩徐であった.髄液の抗原価(セロダイレクトクリプトコック ス)が治療開始より 8 倍未満になるまでの期間は,1.7 から 7.3 カ月で,血清の抗原価が 8 倍未満に低下 した症例はなかった.5 種類の抗真菌剤に対する最小発育阻止濃度(MIC)は AMPH-B では 0.06〜0.25 µg!ml,5-FC では 4〜8µg!ml,FLCZ では 2〜8µg!ml,MCZ では 0.125〜0.5µg!ml,ITCZ では 0.03〜0.125 µg!ml であった.血清と髄液の経時的抗原価測定は,クリプトコックス髄膜炎の治療効果の判定に有用 であった.

〔感染症誌 77:150〜157,2003〕

別刷請求先:(〒105―8470)東京都港区虎の門 2―2―2

虎の門病院呼吸器科 岸 一馬

Key words: cryptococcal meningitis, cryptococcal antigen

(2)

a a

b b

対象と方法

対象は 1996 年より 2000 年までに当科に入院し たクリプトコックス髄膜炎の 3 例で,臨床経過,

血清および髄液のクリプトコックス抗原価の経時 的推移,および C. neoformans の薬剤感受性を検討 した.

ラテックス凝集反応を用いたクリプトコックス 抗原価は,パストレックスクリプトコックス(富 士メビオ,東京)とセロダイレクトクリプトコッ クス(栄研化学,東京)の 2 つのキットで測定し た.

薬剤感受性検査は,amphotericin B (AMPH-B) , flucytocine(5-FC) ,fluconazole (FLCZ) ,micona- zole(MCZ),itraconazole(ITCZ)の 5 剤に対す る最少発育阻止濃度(MIC)を寒天平板稀釈法に より測定した(ビー・エム・エル,東京) .

症例 1:68 歳,女性.

主訴:全身倦怠感.

既往歴:1986 年より肝硬変(C 型肝炎) . 現病歴:1995 年 9 月,咳嗽,喀痰が出現し,近 医に通院していた.抗生剤により症状は一時改善 したが,再び増悪することを繰り返すため,1996 年 8 月当院に入院した.胸部 X 線上移動する浸潤 影を認め,TBLB では器質化肺炎の所見であった た め,Bronchiolitis Obliterans Organizing Pneu- monia(BOOP)と診断し,プレドニゾロン 30mg ! 日を開始した.その後陰影の改善を認め,9 月に退 院した.しかし,10 月より全身倦怠感が出現した ため,再入院した.

入院時現症:身長 151.5cm,体重 36.5kg,体温 36.4 度.全身状態不良.意識傾眠.項部硬直なし.

胸部聴診所見に異常なし.腹部理学的所見に異常 なし.下腿浮腫あり.

入院時検査:血液生化学では血糖が 404mg ! dl と高値でカリウムは 2.8m mol ! l と低下していた.

総ビリルビン 3.9mg ! dl,AST 126IU ! l ,ALT 173 IU ! l と上昇していた.白血球数は 5,100 ! µ l と正常 で,CRP は 1.7mg ! dl であった.尿検査では糖が 4+であった.

胸部 X 線:ステロイド投与前の胸部 X 線(Fig.

1a)では右下肺野に BOOP による浸潤影を認めた が,今回入院時の胸部 X 線(Fig. 1b)では浸潤影 は改善していた.

入院後経過 (Fig. 2) :糖尿病に対して,インスリ ン療法を開始し,血糖は改善したが,全身倦怠感 は持続した.11 月発熱し,静脈血培養で C. neofor- mans が同定された.髄液検査では,細胞数 82! µl,

Fig. 1 a:Chest roentgenogram showed infiltrative shadow in the right lower lobe due to bronchiolitis obliterans organizing pneumonia.

b:After steroid therapy, chest roentgenogram re- vealed improvement of infiltrative shadow.

クリプトコックス髄膜炎の臨床的検討 151

(3)

糖 54mg ! dl,蛋白 41mg ! dl であった.墨汁染色で 酵母様真菌を認め,培養で C. neoformans が検出さ れた.抗原価(以下セロダイレクトクリプトコッ クス)は血清が 256 倍,髄液が 128 倍であった.

以上よりクリプトコックス敗血症,髄膜炎と診断 し,11 月 29 日より FLCZ 200mg! 日静注と 5-FC 5,500mg ! 日の内服を開始,ステロイドは漸減し た.これにより,全身倦怠感は改善し,髄液の抗 原価は 8 倍未満に低下したが,AST 222IU ! ,ALT 160IU ! l と上昇したため,1997 年 1 月 14 日 FLCZ を中止した.2 月 7 日より AMPH-B を 1mg ! 日よ り開始し 15mg ! 日まで増量した.以後,血清と髄 液の抗原価は順調に低下した.髄液のクリプト コックス抗原価が 1 倍まで低下したため AMPH- B を中止し,5 月 31 日より ITCZ 200mg! 日の内 服に変更して,7 月 30 日に退院した.尚,入院中 に細菌性肺炎を繰り返したが,抗生剤の投与で改 善した.3 月に気管支鏡洗浄液を培養したが,クリ プトコックスは検出されなかった.

11 月 15 日の血清抗原価は 16 倍であった.味覚 異常が出現したため,ITCZ を中止し,5-FC のみ 継続した.腹部超音波検査で肝細胞癌を認め,以 後,全身状態が不良となり通院が不可能となった ため,1998 年 6 月 16 日転院した.

症例 2:41 歳,女性.

主訴:頭痛.

既往歴:特記事項なし.

現病歴:98 年 12 月左下肢の疼痛,腫脹が出現 し,当院循環器センターに入院した.下肢静脈血 栓症の診断で,下大静脈フィルターを留置した.

99 年 1 月発熱し,腹部超音波検査で傍大動脈リン パ節腫大,両側卵巣周囲の mass を認めた.2 月 1 日開腹手術を施行,傍大動脈リンパ節生検より悪 性リンパ腫 (non-Hodgkin s lymphoma, diffuse,

mixed,B cell type)と診断した.また,卵管の分 泌物と胃液よりガフキー 2 号,尿よりガフキー 1 号が検出され,何れも結核菌と同定された.胸部 X 線でびまん性粒状影を認めたため,粟粒結核と 診断し,当科に転科した.isoniazid,rifampicin,

ethambutol,pyrazinamide による 4 剤併用療法を 開始し,尿の結核菌の陰性化,胸部 X 線所見の改 善を認めた.一方,悪性リンパ腫に対しては,

CHOP 療法(cyclophosphamide ! doxorubicin ! vin- cristine ! predonisolone)を 5 クール施行し完全寛 解となった.6 月頭痛が出現したため,腰椎穿刺を 施行したところ,墨汁染色が陽性で, C. neoformans が検出された.

現症:身長 154cm,体重 50kg,体温 36.8 度.意

Fig. 2 Clinical course of case 1

(4)

識清明.項部硬直なし.胸部聴診所見に異常なし.

神経学的所見に異常なし.

検査所見:白血球数 7,200 ! µ l,CRP 0.1mg ! dl,血 沈 7mm ! h と炎症反応は陰性であった.髄液の細 胞数は 260! µl,蛋白は 335mg! dl と著増し,糖は 13mg ! dl と低下していた.抗原価は,血清が 4,096 倍,髄液が 2,048 倍と著しく高値であった.

治療経過(Fig. 3) :悪性リンパ腫と粟粒結核の 治療中に発症した重症のクリプトコックス髄膜炎 のため,7 月より FLCZ 400mg ! 日内服と AMPH- B の静注(5mg ! 日より 25mg ! 日まで増量)ならび に週 2 回の髄注(1mg)を開始した.これにより,

頭痛は消失したが,白血球数が 1,100 ! µ l と低下し たため,9 月 AMPH-B の静注を中止し,白血球数 は回復した.抗真菌剤開始後,血清と髄液の抗原 価はゆっくりと低下した.2002 年 2 月,髄液の抗 原価が 4 倍迄低下したため,退院した.その後近 医に通院しているが,2002 年 10 月現在までクリ プトコックス髄膜炎の再発は認めていない.

症例 3:76 歳,男性.

主訴:歩行障害,意識障害.

既往歴:1993 年,悪性胸腺腫に対して,放射線 治療,化学療法を施行後,1996 年,多発性肺転移

を認めた.1998 年,悪性胸腺腫に伴う SLE,赤芽 球癆と診断され,プレドニゾロン 30mg ! 日内服中 であった.

現病歴:1999 年 9 月,血清ナトリウム濃度 123 m mol! l と低下を認め,10 月より歩行時ふらつ き,異常な言動が出現した.11 月 7 日,転倒し,

血清ナトリウム濃度が 113m mol ! l と低下したた め入院した.

入院時現症:身長 155cm,体重 42kg,体温 36.4 度.意識傾眠.項部硬直なし.胸部聴診所見に異 常なし.腹部理学的所見に異常なし.下肢の深部 腱反射低下.神経学的所見 で は finger nose test と heel knee test で decomposition あり.

検査所見:血算では Hb 10.2mg! dl と軽度の貧 血を認めた.Cr 1.6mg ! dl,BUN 25mg ! dl と SLE による腎障害を認めた.血清ナトリウム濃度は 113m mol ! l ,浸透圧は 247mOsm ! kg と低下して いたが,尿浸透圧は 331mOsm ! kg と血清浸透圧 より高く,尿中ナトリウムも持続排泄されている こ と か ら,SIADH と 考 え た.CRP は 1.2mg ! dl, ESR は 72mm ! h であった.胸部 X 線では両側に 多発結節影を認め,CT ガイド下針生検で悪性胸 腺腫の肺転移と組織診断した.

Fig. 3 Clinical course of case 2

クリプトコックス髄膜炎の臨床的検討 153

(5)

入院後経過(Fig. 4) :SIADH の原因検索のた め,髄液検査を施行した.髄液の初圧 190mmH

2

0,

細胞数 502 ! µ l,蛋白 163mg ! dl と増加し,糖は 27 mg ! dl と低下していた.墨汁染色は陰性であった が,C. neoformans が培養された.髄液のクリプト コックス抗原は 2,048 倍であった.以上より,クリ プトコックス髄膜炎による SIADH と診断した.

腎障害のため AMPH-B 静注は行わず,FLCZ 100 mg ! 日 と 5-FC 1,500mg ! 日 の 経 口 投 与 お よ び AMPH-B 0.5mg の髄注を週 2 回 施 行 し た.そ の 後,意識および歩行障害,低ナトリウム血症は速 やかに改善した.血清と髄液の抗原価は順調に低 下し,2000 年 3 月髄液の抗原価が 8 倍未満となっ たため退院した.以後,FLCZ と 5-FC の内服を継 続し,クリプトコックス髄膜炎の再発は認めな かったが,2000 年 11 月 21 日誤嚥性肺炎で死亡し た.

真菌学的検査所見

1.菌消失までに要した期間

髄液の菌消失までに要した期間は,症例 1 が 15 日,症例 2 が 14 日,症例 3 が 8 日であった.

2.クリプトコックス抗原価(Table)

血清と髄液の抗原価を比較すると,3 例ともに

血清の抗原価が髄液の抗原価より高値を示した.

パストレックスクリプトコックスとセロダイレク トクリプトコックスの抗原価を比較すると,セロ ダイレクトの方がパストレックスよりも高値を示 した.

抗原価(セロダイレクトクリプトコックス)の 最高値は,血清ならびに髄液ともに 1,024 倍以上 であった.髄液の抗原価が治療開始より 8 倍未満 になるまでに要した期間は,症例 1 が 1.7 カ月,症 例 2 が 7.3 カ月,症例 3 が 3.6 カ月であった.一方,

血清の抗原価は,3 例ともにこの期間内には 8 倍 未満に低下しなかった.

3.薬剤感受性(Table)

AMPH-B,5-FC,FLCZ,MCZ,ITCZ に対する MIC は,AMPH-B:0.06〜0.25 µ g ! ml,5-FC:4〜

8 µ g ! ml,FLCZ:2〜8 µ g ! ml,MCZ:0.125〜0.5 µ g ! ml,ITCZ:0.03〜0.125 µ g ! ml であった.

クリプトコックス髄膜炎は基礎疾患を有する免 疫不全患者の日和見感染症として発症することが 多く,悪性リンパ腫などのリンパ球系腫瘍,自己 免疫疾患に対するステロイド療法患者,糖尿病,

後天性免疫不全症(AIDS)などに好発する.自験

Fig. 4 Clinical course of case 3

(6)

Table Mycological Examination Data The antifungal drug susceptibility test M.I.C(µg/ml)The time between the beginning of treatment and CSF  cryptococcal antigen titers falling to less than  8 (mo.)Maximun antigen titer caseCSFSerum ITCZMCZFLCZ5―FCAMPH―BPastrex/Serodirect Pastrex/ Serodirect Pastrex/ Serodirect  0.1250.5  880.250.4/1.78/1,024256/1,0241 0.03 0.25 240.064.3/7.3256/2,0481,024/4,0962 0.06 0.125480.062.2/3.6128/2,048256/2,0483

例では,症例 1 が肝硬変,症例 2 が悪性リンパ腫 と粟粒結核,症例 3 が悪性胸腺腫と SLE,と重篤 な基礎疾患を有し,いずれもステロイド治療中で あった.特に,症例 2 は悪性リンパ腫と粟粒結核 の双方に対して化学療法中で著しい免疫不全状態 であった.

発症機序は, C. neoformans の吸入により肺に初 感染巣をつくり,次いで血行性に髄膜炎を発症す る.一般に肺の初感染病巣は不顕性であり,肺ク リプトコックス症を伴わずに髄膜炎を呈するもの が多い

1)3)4)

.自験例では,症例 1 は BOOP と肺炎,

症例 2 は粟粒結核,症例 3 は悪性胸腺腫の多発肺 転移といずれも呼吸器疾患を有していたが,これ らの肺病変よりクリプトコックスは検出されな かった.

初発症状は徐々に進行する全身倦怠感や食欲不 振などの非特異的症状で,主な症状は頭痛,発熱 である.傾眠,異常行動,意識障害などの精神状 態の変化がみられることもある.自験例は,症例 1 が全身倦怠感,症例 2 が頭痛,症例 3 は歩行障害 と 意 識 障 害 が 初 発 症 状 で あ っ た が,症 例 3 は SIADH による低ナトリウム血症が症状に先行し て認められた.項部硬直や Kernig 徴候などの髄 膜刺激症状を呈する症例は少ないといわれ,自験 例でも全例で認められなかった.

髄液所見は,一般に初圧上昇(180mmH

2

O 以 上),細胞数増加(リンパ球優位),糖低下 (40mg ! dl 以下),蛋白上昇(40mg ! dl 以上)で,自験 3 例 も同様の所見であった.髄液の墨汁染色は,症例 1 と 2 が陽性,3 は陰性で,分離培養より 3 例とも

C. neoformans が検出され,診断が確定した.

血清学的診断としては,抗体感作ラテックス凝 集反応による抗原検出法が標準的方法である.こ の方法は,C. neoformans の可溶性莢膜多糖類抗原 を検出する方法であり,感度,特異度ともに優れ ている

5)

.自験 3 例は,セロダイレクトクリプト コックスとパストレックスクリプトコックスの 2 つのキットを用いて抗原価を測定した.セロダイ レクトクリプトコックスの感度はクリプトコック ス髄膜炎 100%,肺クリプトコックス症 81.8%,皮 膚クリプトコックス症 75% で, 特異度は血液およ

クリプトコックス髄膜炎の臨床的検討 155

(7)

び髄液を検体とする場合,それぞれ 100%,95%

であった

2)

.また,HIV 陽性者を対象としたパス トレックスクリプトコックスの感度は 100%,特 異度は 97% と報告されている

6)

.但し,セロダイ レクトクリプトコックスとパストレックスクリプ ト コ ッ ク ス の 最 小 抗 原 検 出 濃 度 は,そ れ ぞ れ 1.56〜6.25ng ! ml,50ng ! ml で,セロダイレクトク リプトコックスが良好である

5)

自験例の抗原価は, 髄液よりも血清, パストレッ クスクリプトコックスよりもセロダイレクトクリ プトコックスの方が高値であった.血清と髄液の 抗原価は,抗真菌剤開始後より低下したが,重症 例(症例 2)では緩徐であり,治療効果判定に有用 と考えた.治療開始より髄液の抗原価(セロダイ レクトクリプトコックス)が 8 倍未満になるため に 要 し た 期 間 は,症 例 1:1.7 カ 月,症 例 2:7.3 カ月,症例 3:3.6 カ月で,最も著しい免疫能低下 状態にあった症例 2 が最長であった.一方,血清 の抗原価(セロダイレクトクリプトコックス)が 8 倍未満に低下した症例はなく,症例 1 では約 1 年後でも 16 倍であった.髄液の培養は,3 例とも に 15 日以内に陰性化したが, 抗原価は菌陰性化後 も長期間高値を示した.

治療は AMPH-B と 5-FC の併用療法が基本で,

投 与 期 間 は 6 週 間 併 用 が 標 準 と さ れ る

1)7)8)

. AMPH-B は髄液移行が不良であるため,時に髄注 が必要となる.また,最近では FLCZ 単独療法も 有効と報告されている

4)

.症例 1 は全身状態が不 良 で あ っ た た め,AHPH-B よ り 副 作 用 の 軽 い FLCZ+5-FC で治療を開始した.その後,FLCZ により肝障害の増悪を認めたため,AMPH-B へ変 更した.そして,髄液の抗原価が 1 倍となってか ら,ITCZ へ変更して退院した.症例 2 は,最重症 例であったため,FLCZ の内服と AMPH-B の静注 および髄注を施行した.症例 3 は腎障害のため FLCZ+5-FC の 内 服 と AMPH-B の 髄 注 を 行 っ た.3 例ともに症状の改善,菌の陰性化,抗原価の 低下を認め,再発を認めていない.

薬剤感受性について, 神永ら

3)

は, AMPH-B 0.1〜

0.39 µ g ! ml,5-FC 0.05〜0.2 µ g ! ml,MCZ 0.2〜0.78 µg! ml と報告して い る.自 験 例 で は,AMPH-B

0.06〜0.25 µ g ! ml と ITCZ 0.03〜0.125 µ g ! ml が良 好であった.

治療終了基準として,田代ら

1)

は,1)臨床症状 の改善,2)髄液所見の正常化,3)髄液の墨汁染 色および培養陰性,4)血清または髄液のクリプ トコックス抗原価 8 倍未満,をあげている.しか し,クリプトコックス抗原が血清中に長期間残存 することから,抗原が陰性となることを治療終了 の目安とするべきでない, とする意見もある

9)

.自 験例でも血清の抗原価は長期間陽性であり,必ず しも血清抗原価が陰性となるまで,治療を継続す る必要はないと思われた.

重篤な基礎疾患を有するクリプトコックス髄膜 炎は予後不良である.非 AIDS 患者において,Dis- muskes ら

7)

は,治療前の血清抗原価 32 倍以上は 予後不良因子であり,治療終了時に髄液または血 清の抗原価が 8 倍以上では再発率が高いと述べて いるが,治療終了時 8 倍以上と未満で生存率に差 はなかっ た と す る 報 告 も あ る

10)

.Saag ら

11)

は,

AIDS 合併クリプトコックス髄膜炎について,傾 眠,鈍麻などの精神状態異常があり,髄液抗原価 が高く (1,024 以上) ,髄液中白血球数 20 ! mm

3

未満 の症例は予後不良と述べている.また,神経以外 の感染巣の存在,低ナトリウム血症,頭痛の欠如 なども予後不良因子といわれる

7)10)

.自験例は,い ずれも血清および髄液抗原価が 1,024 倍以上で,

予後不良と考えられたが,治療経過は順調であっ た.

謝辞:クリプトコックス抗原の測定をしていただいた 順天堂大学血液内科森健先生に深謝いたします.

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A Clinical Study of Cryptococcal Meningitis

―Sequential Changes of Cryptococcal Antigen Titers―

Kazuma KISHI, Sakae HOMMA, Tatsuo NAKATANI & Koichiro NAKATA

Division of Respiratory Diseases, Toranomon Hospital

We reviewed the clinical manifestations, sequential changes in cryptococcal antigen titers in se- rum and cerebrospinal fluid(CSF) , and the antifungal drug susceptibility of Cryptococcus neoformans in three patients with cryptococcal meningitis between 1996 and 2000. Cryptococcal antigen titers were measured using the latex agglutination method with Pastrex Cryptococcus(Fuji Mebio, To- kyo)and Serodirect Cryptococcus(Eiken Chemical, Tokyo) . The underlying systemic diseases in the three patients were liver cirrhosis, non-Hodgkin s lymphoma associated with miliary tuberculosis, and malignant thymoma associated with systemic lupus erythymatosus. The CSF samples showed positive indian ink staining in two of the three patients and C. neoformans was cultured from all three.

The cryptococcal antigen titers in serum were higher than those in the CSF. The serum and CSF cryptococcal antigen titers measured by Serodirect Cryptococcus were higher than those measured by Pastrex Cryptococcus. The maximum titers of antigen in serum and CSF measured by Serodirect Cryptococcus were greater than 1,024 in all three patients. The treatment regimens used for the three patients were amphotericin-B(AMPH-B)and flucytosine(5-FC) , fluconazole(FLCZ)and in- trathecal AMPH-B, FLCZ and 5-FC, and intrathecal AMPH-B, respectively. The antigen titers in se- rum and CSF decreased after treatment in all three patients. The antigen titers decreased slowly over 7.3 months in the most seriously ill patient who had non-Hodgkin s lymphoma associated with miliary tuberculosis. The time between the beginning of treatment and CSF cryptococal antigen tit- ers falling to less than 8 was 1.7 to 7.3 months in the three patients, but the serum titers did not de- crease to less than 8 during this period. The minimum inhibitory concentration was 0.06―0.25 µ g ! ml for AMPH-B, 4―8 µ g ! ml for 5-FC, 2―8 µ g ! ml for FLCZ, 0.125―0.5 µ g ! ml for miconazole and 0.03―

0.125 µg! ml for itraconazole. The measurement of sequential changes in cryptococcal antigen titers in serum and CSF was useful for evaluating the response to treatment.

クリプトコックス髄膜炎の臨床的検討 157

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Table Mycological Examination Data The antifungal drug susceptibility test M.I.C(µg/ml) The time between the beginning of treatment and CSF  cryptococcal antigen titers falling to less than  8 (mo.) Maximun antigen titer caseCSFSerum ITCZMCZFLCZ5―FCAMPH―BP

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