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Fig.. Simplified distribution map of the pre-aso volcanic rocks adapted from Geological Survey of Japan Map Series 1: 50,000, Ono and Watan

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阿蘇火山の活動は,カルデラ形成期(270−90 ka; 渡辺, 2001; 松本ほか, 1991)の大規模火砕流噴火(1 ∼ Aso-4)を主体とする活動と,後カルデラ期(90 ka 以降; 渡辺, 2001),つまりカルデラ内に複数の成層火山,単成火山が形 成される活動に大別される.カルデラ形成前(270 ka より 前)には同地域に溶岩流出を主体とした火山活動があった (鎌田, 1985).それらの噴出物はカルデラ形成期以降の噴出 物と岩石学的特徴が異なることから,小野(1965)によって 先阿蘇火山岩類とよばれた. カルデラ形成期の火山噴出物は,珪長質から苦鉄質,また は苦鉄質から珪長質という化学組成のサイクルを示すことか ら,小野・渡辺(1983)は組成累帯した大規模な単一のマグ は じ め に マ溜りモデルを提案した.Hunter(1998)は全岩化学組成, 鉱物化学組成,同位体データによってそのモデルの妥当性を 裏付けた.一方,後カルデラ火山活動期になると,大規模な 珪長質マグマ溜りは消滅し,小規模な複数のマグマ溜りが形 成された(三好ほか, 2005)とされる. これに対し,先阿蘇火山岩類に関する岩石学的研究はこれ まで行われていない.その一因として,先阿蘇火山岩類の活 動年代や化学的性質が阿蘇火山を特徴付けるものではない (小野・渡辺, 1985)ため,阿蘇火山の活動から区別されてき たことが考えられる.しかし,カルデラ火山における長期的 なマグマ溜りの化学的進化を理解するためには,カルデラ形 成前に活動したマグマの特性,岩石学的特徴を明確にし,カ ルデラ形成期以降の火山噴出物との比較研究を行うことは重 要である.

Pre-caldera volcanism in the Aso area(2.2−0.43 Ma), central Kyushu, is characterized by effusive eruptions of multiple lava flows. To clari-fy the chemical evolution of the magma chamber beneath the Aso area, we investigated the petrological characteristics of these lavas where exposed in the caldera wall.

The pre-caldera lavas are divided into eight types with distinct pet-rographic and compositional characteristics: A. cpx-ol basalt, B. ol-2px andesite, C. ol-hb-2px andesite, D. 2px andesite, E. hb-2px andesite, F. hb andesite, G. 2px-hb dacite, and H. bt-hb rhyolite. Incompatible trace element modeling demonstrated that these eight types did not origi-nate via simple fractional crystallization.

The phase assemblages and abundances of phenocrysts of the pre-caldera andesite-rhyolite differ from those of the pre-caldera-forming and post-caldera andesite−rhyolite. In addition, the pre-caldera andesite-rhyolite contain relatively low concentrations of incompatible trace elements compared to the caldera-forming and post-caldera andesite-rhyolite. These observations may indicate that the physical conditions and/or chemical compositions of the source materials that gave rise to the andesite-rhyolite magmas differed between the pre-caldera and caldera-forming stages.

Abstract

Keywords: Aso, pre-caldera volcanism, petrography, bulk-rock geochemistry

阿蘇カルデラ外輪山に分布する先阿蘇火山岩類の岩石記載と全岩化学組成

三好雅也

*†

古川邦之

**

新村太郎

***

下野まどか

長谷中利昭

Masaya Miyoshi*†, Kuniyuki Furukawa**, Taro Shinmura***, Madoka Shimonoand Toshiaki Hasenaka

2008年 5 月 17 日受付. 2009年 8 月 3 日受理.

熊本大学大学院自然科学研究科

Graduate school of Science and Technology, Kumamoto University, Kurokami 2-39-1, Kumamoto 860-8555, Japan

現所属; 京都大学大学院理学研究科附属地球

熱学研究施設

Present address; Beppu Geothermal Research Laboratory, Institute for Geothermal Sci-ences, Kyoto University, Noguchibaru, Beppu, Oita 874-0903, Japan

** 愛知大学経営学部

Faculty of Economics, Aichi University, Kurozasa 370, Miyoshi-cho, Nishikamo-gun, Aichi 470-0296, Japan

*** 熊本学園大学経済学部

Faculty of Economics, Kumamoto Gakuen University, Oe 2-5-1, Kumamoto 862-8680, Japan

Corresponding author; M. Miyoshi, miyoshi@bep.vgs.kyoto-u.ac.jp

Petrography and whole-rock geochemistry of pre-Aso lavas from the caldera wall of Aso volcano,

cen-tral Kyushu

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そこで本論では,広範囲から先阿蘇火山岩類を採取し,そ れらの斑晶鉱物組合せ,SiO2含有量に基づき,岩質的に 8 タイプに区分した.そして,単純な分別結晶作用により,苦 鉄質タイプから珪長質タイプが導かれる可能性について検討 した.また,先阿蘇火山岩類とカルデラ形成期以降の火山噴 出物の記載岩石学的特徴,全岩化学組成の比較を行った.も ちろん,本論で全ての先阿蘇火山岩類をカバーすることは不 可能であるし,タイプ間の単純な分別結晶作用の検討のみで 先カルデラ火山活動期の詳細なマグマ供給系を明らかにする ことはできない.しかし,詳細な地質学的分類が不可能であ る先阿蘇火山岩類について,その全体的な岩石学的特徴を把 握する先行的研究として上記のような検討は意義があると考 えられる. 阿蘇カルデラの大きさは南北約 25 km,東西約 18 km で, 火山地質の概略

Fig. 1. Simplified distribution map of the pre-Aso volcanic rocks(adapted from Geological Survey of Japan Map Series 1: 50,000, Ono and Watanabe, 1985). The pre-Aso volcanic rocks are divided into five types by Ono and Watanabe(1985): biotite rhyolite; hornblende dacite; horn-blende andesite; pyroxene andesite; basalt. Data sources of K−Ar ages: *Kaneoka and Kojima(1970); **Ono et al.(1982); ***Kamata (1985); ****Watanabe et al.(1989); *****Matsumoto et al.(1991).

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日本では屈斜路カルデラに次ぐ.阿蘇カルデラ外輪山は,主 に先阿蘇火山岩類(溶岩および火砕岩類)とそれらを被覆す るカルデラ形成期火砕流堆積物から構成され(小野・渡辺, 1985),両者の間には不整合(河成礫層)が認められる(小 野, 1965).先阿蘇火山岩類の分布範囲の大部分を溶岩が占め ており(小野・渡辺, 1985),カルデラ形成前の火山活動では 溶岩流の噴出が卓越していたことがうかがえる.現在地表で 確認できる先阿蘇火山岩類の岩質は,玄武岩から流紋岩まで 幅広いが,安山岩が最も卓越している(Fig. 1; 小野・渡辺, 1985).小野・渡辺(1985)は,先阿蘇火山岩類を,かんら ん石玄武岩,輝石安山岩,角閃石安山岩,角閃石デイサイト, 黒雲母流紋岩の 5 タイプに分けて記載した(Fig. 1). 上記 5 タイプの岩石の K−Ar 年代報告値は以下のとおりで ある.かんらん石玄武岩: 約 2 Ma(小野ほか, 1982),約 0.7−0.6 Ma(NEDO, 1991),輝石安山岩: 約 0.8 Ma(兼岡・ 小嶋, 1970),約 0.8 Ma(鎌田, 1985),約 0.8−0.5 Ma(渡辺 ほか, 1989),約 0.8−0.36 Ma(NEDO, 1991),角閃石安山 岩 : 約 0.5−0.8 Ma(渡辺ほか, 1989),約 0.6−0.4 Ma (NEDO, 1991),角閃石デイサイト: 約 0.6 Ma(NEDO, 1991), 黒雲母流紋岩: 約 0.4 Ma(兼岡・小嶋, 1970, NEDO, 1991). 上記報告値は,かんらん石玄武岩の一部(約 2 Ma)を除く 大部分の岩石の年代値が 0.8−0.4 Ma の範囲に入り,この期 間が先カルデラ火山活動の最盛期であったことを示す. 上記活動の後,270−90 ka のカルデラ形成噴火によって先 阿蘇火山岩類の原地形は破壊され,残存部の大部分が火砕流 堆積物など,より新期の堆積物によって覆われている.その ため先阿蘇火山岩類の露出は断片的であり,噴出物の境界を 確認することができない.これらのことから,先カルデラ活 動期に何枚の溶岩流が噴出したのかは不明であり,層序を確 立することは困難である. 鎌田(1985)は,九州中北部の鮮新統火山岩が,広大な台 地を形成する溶岩流を主体とすることから,当時の火山活動 が,平板な割れ目を供給火道とする複数の単成火山の活動が 主体であったと主張した.また,これらの火山活動が約 5 Ma以降に開始した地溝の形成に付随していること,その噴 出物が陥没部分を充填していることも指摘した(鎌田, 1985). 上述した先阿蘇火山岩類の産状,活動時期は,鎌田(1985) が示した九州中北部鮮新統の大規模溶岩流とそれぞれ一致, 重複している. カルデラの内側には 90 ka 以降に噴出した後カルデラ期火 山噴出物および現在活動中の中岳を含む中央火口丘群が分布 している(Fig. 1). 本研究では,カルデラ外輪山およびその周辺域の広い範囲 (Fig. 2)から先阿蘇火山岩類 43 試料を採取して岩石記載お よび全岩化学分析を行った.岩石記載では,偏光顕微鏡を用 いて各溶岩試料の斑晶鉱物組合せ,組織の記載,斑晶粒径の 測定,斑晶モード組成の測定を行った.全岩化学組成の分析 には,北九州市立自然史・歴史博物館の蛍光 X 線分析装置 (Philips 製 PANalytical MagiX PRO)を使用した.分析手

分析手法および試料のタイプ分け,分布,年代

順は,Mori and Mashima(2005)に従った.モード組成と 全岩化学組成を Table 1 および 2 に示す. 先阿蘇火山岩類に関する先行研究はほとんどないため,そ れらの詳細な地質学的・岩石学的分類は不可能である.よっ て本論では,斑晶鉱物組合せ,SiO2含有量に基づくタイプ区 分(A ∼ H)を行った(Table 3). 各タイプの岩型,分布域あるいは試料採取地点とおよその 噴出年代は以下のとおりである.タイプ A には,阿蘇カルデ ラ外輪山南東縁の高森たかもりに分布する玄武岩溶岩(試料名: TMPA49, TMPA49B, PAS-BA04, PAS-BA05)(約 0.7 Ma: NEDO, 1991),長なが尾野お のに分布する玄武岩溶岩(試料名: PAS-BA07, PAS-BA07B)(約 2 Ma: 小野ほか, 1982; 約 0.6 Ma: NEDO, 1991)が含まれる.タイプ B には,カルデラ外輪山 西縁立 たて 野 の 火口瀬の北壁(試料名: TTPA45, TTPA46)および カルデラ外輪山南西縁一いちノの峯みね南東に分布する溶岩(試料名: PRAS28)が含まれる.記載岩石学的特徴の一致から,地蔵峠じぞうとうげ 西方の岩脈(約 0.5 Ma; 渡辺ほか, 1989)は,タイプ B に含 まれると考えられる.タイプ C には,カルデラ外輪山北西縁 狩 かり 尾 お から的 まと 石 いし

付近(試料名: BCPA40, BCPA41, BCPA43), カルデラ(外側)南部矢部や べ町まち付近(試料名: PRAS11)に分布 する溶岩が含まれる.タイプ D には,カルデラ外輪山北縁大だい 観 かん 峰 ぼう (試料名: Daikanbo)(約 0.8 Ma: 鎌田, 1985 または約 0.5 Ma: NEDO, 1991,同北東縁坂梨 さかなし (試料名: PRAS15), 同西縁立野火口瀬北壁(試料名: TTPA44U, TTPA47, TTPA48),同南東縁長谷峠は せ と う げ付近(試料名: HYPA35, HYPA51) (約 0.6 Ma: NEDO, 1991),カルデラ(外側)南西部権現山ごんげんやま 北部(試料名: PRAS18, PRAS22, PRAS26)に広く分布する 溶岩が含まれる.記載岩石学的特徴の一致から,カルデラ東 縁妻 さい 子ヶ し が 鼻 はな の溶岩(約 0.8 Ma: 兼岡・小嶋, 1970),同南西縁 本谷 ほんたに 越 ごえ 南東谷の岩脈(約 0.8 Ma: 渡辺ほか, 1989)はタイプ Dに含まれると考えられる.タイプ E には,カルデラ外輪山 南西縁一ノ峯南東(試料名: PRAS25),同北縁兜岩かぶといわ(試料名: Fig. 3. Reported eruption ages of pre-Aso volcanic rocks:(A)ol− cpx basalt;(B)ol−2px andesite;(C)ol−hb−2px andesite;(D)2px andesite;(E)hb−2px andesite;(F)hb andesite;(G)2px−hb dacite;(H)hb−bt rhyolites. Data sources of K−Ar ages: Kaneoka and Kojima(1970); Ono et al.(1982); Kamata(1985); Watanabe et al.(1989); NEDO(1990); Matsumoto et al.(1991).

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BCPA54)(約 0.4 Ma: NEDO, 1991),同北西縁狩尾から的 石付近(試料名: KDPA38, BCPA42)(約 0.4 Ma: NEDO, 1991),カルデラ(外側)南部矢部町付近(試料名: PRAS12, PRAS13)に分布する溶岩およびカルデラ外輪山南西縁高城たかじょう 山 やま 南部から地蔵峠じぞうとうげ(試料名: HYPA29,HYPA30)(約 0.6 Ma: 渡辺ほか, 1989),同南東縁清栄山せいえいざん(試料名: HB-AN)に分布 する岩脈が含まれる.タイプ F には,カルデラ外輪山南西縁 一ノ峯南東に分布する溶岩(試料名: PRAS24, PRAS27)が 含まれる.記載岩石学的特徴の一致から,渡辺ほか(1989) の地蔵峠(中央)岩脈(約 0.5 Ma)はタイプ F に含まれる と考えられる.タイプ G には,カルデラ外輪山南縁部高千穂た か じ ょ う 野やに分布する溶岩(試料名: PRAS30, PRAS30B)が含まれ る.タイプ H には阿蘇カルデラ外輪山東縁の坂梨(試料名: BT-RH),妻子ヶ鼻(試料名: PRAS16, PRAS17)に分布する 流紋岩溶岩(約 0.4 Ma: 兼岡・小嶋, 1970, NEDO, 1991)が 含まれる. 古川ほか(2008, 本特集号)は,岩石の露出が比較的良い カルデラ北西壁において,火山噴出物が分布する標高を基に それらの推定層序を示している.カルデラ北西壁にはタイプ B,C,D,E が分布しており,それらのうち B は最下位に位 置するが,それ以外(C, D, E)はほぼ同じ標高に分布するた め,上下関係は不明瞭である.

Table 1. Modal analysis of representative rock samples from each type of pre-Aso volcanic rocks.

: Sample localities are shown in Fig. 2.

Abbreviations: ol=olivine; opx=orthopyroxene; cpx=clinopyroxene; hb=hornblende; bt=biotite; gm=groundmass; ph=phenocryst.

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カルデラ全域における各タイプの噴出年代を Fig. 3 に示 す.タイプ C,G の年代値は報告がなく不明であるが,それ ら以外では,タイプ A の一部を除く全てが 0.8−0.4 Ma の間 に噴出している.よって噴出順序などの規則性は明瞭ではな い.また,複数タイプがほぼ同時期に噴出しているため,活 動したマグマの化学組成に系統的時間変化は認められない (Fig. 3). 立野地域に産出する TTPA33,TTPA33B(Fig. 2)の 2 試料は高い K2O含有量を持つ両輝石デイサイト溶岩である (Table 2).それらの K2O含有量は先阿蘇火山岩類の特徴と は大きく異なる.これらの試料は他の先阿蘇火山岩類と同様 の標高に分布しているが,噴出年代が報告されていないため 先阿蘇火山岩類かどうかは不明である.よって TTPA33, TTPA33Bの 2 試料に関する議論は古川ほか(2008, 本特集 号)に譲る. 前章で区分した 8 タイプについて,記載岩石学的特徴を述 べる.本研究では,長径が 0.3 mm 以上ある結晶を斑晶とし た. 1.かんらん石単斜輝石玄武岩(タイプ A; Fig. 4.A) 斑晶は斜長石(2.5 mm 以下, 27−46 vol.%),かんらん石 (1.6 mm 以下, 3−14 vol.%),単斜輝石(0.8 mm 以下, 5 vol.%以下),鉄チタン酸化鉱物(0.5 mm 以下, 1 vol.%以 記載岩石学的特徴 Table 2. Major and trace element data for samples of pre-Aso volcanic rocks.

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下)である.長尾野で採取した試料中のかんらん石斑晶は, 大部分がイディングサイト化しているが,高森付近に産する 溶岩試料中のそれは新鮮である.単斜輝石斑晶は自形∼半自 形で存在する.斜長石斑晶は自形∼半自形で存在し,周縁部 や内部に汚濁帯をもつものが多い.かんらん石+単斜輝石+ 鉄チタン酸化鉱物,かんらん石+斜長石+鉄チタン酸化鉱物 からなる集斑晶がみられる.石基はかんらん石,輝石,斜長 石,鉄チタン酸化鉱物からなり,インターグラニュラー組織 を示す.石基に含まれる輝石は鏡下で単斜輝石,斜方輝石の 識別をすることが困難であるため,輝石と記す.以下同様. 2.かんらん石両輝石安山岩(タイプ B; Fig. 4.B) 斑晶は斜長石(4 mm 以下, 28−39 vol.%),かんらん石 (1.5 mm 以下, 1−4 vol.%),単斜輝石(2 mm 以下, 5−8 vol.%),斜方輝石(2 mm 以下, 1−3 vol.%),鉄チタン酸化 鉱物(0.5 mm 以下, 1 vol.%以下)である.かんらん石斑晶 は自形∼半自形である.単斜輝石,斜方輝石ともに自形∼半 自形で存在し,まれに単斜輝石の反応縁をもつ斜方輝石がみ られる.斜長石斑晶は自形∼半自形で存在する.清澄な斜長 石斑晶と,周縁部の溶融組織や周縁部または中央部に汚濁帯 をもつ斜長石斑晶が共存している.単斜輝石+斜方輝石+斜 長石+鉄チタン酸化鉱物からなる集斑晶がみられる.石基は 輝石,斜長石,鉄チタン酸化鉱物,ガラスからなり,インタ ーサータル組織またはハイアロオフィティック組織を示す. Table 2.(continued)

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3.かんらん石普通角閃石両輝石安山岩(タイプ C; Fig. 4.C) 斑晶は斜長石(4 mm 以下, 25−31 vol.%),かんらん石 (1.5 mm 以下, 1 vol.%以下),単斜輝石(4 mm 以下, 5−7 vol.%),斜方輝石(2 mm 以下, 1−3 vol.%),普通角閃石(3 mm以下, 1 vol.%以下),鉄チタン酸化鉱物(0.5 mm 以下, 1−2 vol.%)である.かんらん石斑晶は自形∼半自形で存在 する.単斜輝石,斜方輝石斑晶ともに自形∼半自形で存在す る.まれに単斜輝石の反応縁をもつ斜方輝石斑晶がみられる. 普通角閃石斑晶は半自形∼他形で存在し,周縁部のみがオパ サイト化した斑晶と,完全にオパサイト化した斑晶が共存し Table 2.(continued)

Table 3. Criteria for classifying the pre-Aso volcanic rocks into eight types.

K−Ar age data source: a: NEDO(1991); b: Ono et al.(1982); c: Watanabe et al.(1989); d: Kamata(1985); e: Kaneoka and Kojima(1970). Abbreviations are the same as Table 1.

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Fig. 4. Microscopic photographs of the pre-Aso volcanic rocks:(A)ol−cpx basalt;(B)ol−2px andesite;(C)ol−hb−2px andesite;(D)2px andesite;(E)hb−2px andesite;(F)hb andesite;(G)2px−hb dacite;(H)hb−bt rhyolites. Abbreviations: ol = olivine; cpx = clinopyroxene; opx = orthopyroxenea; hb = hornblende; bt = biotite; pl = plagioclase

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ている.斜長石斑晶の多くは自形∼半自形で存在するが,ま れに周縁部に溶融組織をもつ丸みを帯びた斑晶もそれらと共 存している.清澄な斜長石斑晶と,周縁部の溶融組織や汚濁 帯,中央部の蜂の巣状組織をもつ斜長石斑晶が共存している. 単斜輝石+斜方輝石+鉄チタン酸化鉱物,単斜輝石+斜方輝 石+斜長石+鉄チタン酸化鉱物からなる集斑晶がみられる. 石基は輝石,斜長石,鉄チタン酸化鉱物,ガラスからなり, インターサータル組織またはハイアロオフィティック組織を 示す. 4.両輝石安山岩(タイプ D; Fig. 4.D) 斑晶は斜長石(4 mm 以下, 22−31 vol.%),単斜輝石(2 mm以下, 2−11 vol.%),斜方輝石(2 mm 以下, 6 vol.%以 下),鉄チタン酸化鉱物(0.5 mm 以下, 1−2 vol.%)である. 単斜輝石,斜方輝石ともに自形∼半自形で存在する.まれに 単斜輝石の反応縁をもつ斜方輝石がみられる.斜長石斑晶は 自形∼半自形で存在する.清澄な斜長石斑晶と,周縁部の溶 融組織や汚濁帯,中央部の蜂の巣状組織をもつ斜長石斑晶が 共存している.単斜輝石+斜方輝石+斜長石+鉄チタン酸化 鉱物からなる集斑晶がみられる.石基は輝石,斜長石,鉄チ タン酸化鉱物,ガラスからなり,ハイアロオフィティック組 織を示す. 5.普通角閃石両輝石安山岩(タイプ E; Fig. 4.E) 斑晶は斜長石(2 mm 以下, 21−31 vol.%),単斜輝石(2 mm以下, 2−5 vol.%),斜方輝石(2 mm 以下, 2 vol.%以下), 普通角閃石(3 mm 以下, 3 vol.%以下),鉄チタン酸化鉱物 (0.5 mm 以下, 2 vol.%以下)である.単斜輝石,斜方輝石斑 Fig. 5. Major elements(TiO2, Al2O3, Fe2O3,

MgO, CaO, Na2O, K2O and P2O5)vs. SiO2for

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晶ともに自形∼半自形で存在する.まれに単斜輝石の反応縁 をもつ斜方輝石斑晶がみられる.普通角閃石斑晶は半自形∼ 他形で存在し,周縁部のみがオパサイト化した斑晶と,完全 にオパサイト化した斑晶が共存している.斜長石斑晶は自形 ∼半自形で存在する.清澄な斜長石斑晶と,周縁部または中 央部に汚濁帯や蜂の巣状組織をもつ斜長石斑晶が共存してい る.単斜輝石+斜方輝石+斜長石+鉄チタン酸化鉱物からな る集斑晶がみられる.石基は輝石,斜長石,鉄チタン酸化鉱 物,ガラスからなり,インターサータル組織またはハイアロ オフィティック組織を示す. 6.普通角閃石安山岩(タイプ F; Fig. 4.F) 斑晶は斜長石(2 mm 以下, 19−26 vol.%),普通角閃石(2 mm以下, 1 vol.%以下),鉄チタン酸化鉱物(0.5 mm 以下, 2 vol.%以下)である.普通角閃石斑晶は半自形∼他形で存在 し,周縁部のみがオパサイト化した斑晶と,完全にオパサイ ト化した斑晶が共存している.斜長石斑晶は自形∼半自形で 存在し,清澄な斜長石斑晶と,周縁部または中央部に汚濁帯 や蜂の巣状組織をもつ斜長石斑晶が共存している.普通角閃 石+斜長石+鉄チタン酸化鉱物からなる集斑晶がみられる. 石基は主に斜長石,鉄チタン酸化鉱物,ガラスからなり,ハ イアロオフィティック組織またはハイアロピリティック組織 を示す. 7.両輝石普通角閃石デイサイト(タイプ G; Fig. 4.G) 斑晶は斜長石(2 mm 以下, 18−20 vol.%),単斜輝石(1 mm以下, 1 vol.%未満),斜方輝石(1 mm 以下, 1 vol.%未 満),普通角閃石(1 mm 以下, 7−11 vol.%),鉄チタン酸化 鉱物(0.5 mm 以下, 2−3 vol.%)である.単斜輝石,斜方輝 石の大部分は自形∼半自形で存在するが,まれに周縁部に溶 Fig. 6. Trace elements(Ba, Rb, Sr, Ni, V, Zr, Nb, Y, Cr)vs. SiO2for the pre-Aso

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融組織をもつものもみられる.普通角閃石斑晶は半自形∼他 形で存在し,周縁部のみがオパサイト化した斑晶と,完全に オパサイト化した斑晶が共存している.斜長石斑晶は半自形 ∼他形で存在し,大部分の斜長石斑晶が周縁部の溶融組織や 周縁部,中央部に汚濁帯や蜂の巣状組織をもつ.石基の大部 分はガラスからなり,斜長石,鉄チタン酸化鉱物からなるハ イアロピリティック組織を示す. 8.普通角閃石黒雲母流紋岩(タイプ H; Fig. 4.H) 斑晶は斜長石(2 mm 以下, 5 vol.%以下),普通角閃石(2 mm以下, 1 vol.%未満),黒雲母(1 mm 以下, 1 vol.%以下), 鉄チタン酸化鉱物(0.4 mm 以下, 1 vol.%以下)である.普 通角閃石は半自形∼他形で存在する.まれに完全にオパサイ ト化した普通角閃石斑晶が仮像としてみとめられる.黒雲母 斑晶は自形で存在する.斜長石斑晶は自形∼半自形で存在し, 中央部から周縁部まで清澄な斜長石斑晶が多い.普通角閃 石+斜長石+鉄チタン酸化鉱物からなる集斑晶がみられる. 石基の大部分はガラスからなり,流理構造がみとめられる. Fig. 7. Rb−Nb, Rb−Zr and Rb−Sr diagrams for the eight types from pre-Aso volcanic rocks. Shaded areas and thick dotted lines show the com-positional ranges formed by simple fractional crystallization. Symbols are the same as Figs. 5 and 6.

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先阿蘇火山岩類の SiO2組成変化図を Fig. 5 および 6 に示

す.TiO2,Al2O3,Na2O,MnO,P2O5,Sr,Ni,Nb,Y,Cr

を除く各元素は,おおよそ直線的な組成変化を示す.安山岩 組成(SiO2含有量 54−62 wt.%)のタイプ B,C,D,E,F はばらつきが大きく,すべての元素で重複している.これら 安山岩タイプと,A の境界は,SiO2含有量 53 wt.%付近で ある.安山岩タイプと G の境界は,SiO2含有量 62−64 wt.% 付近である.タイプ G と H の境界は,SiO2含有量 66−72 wt.%付近である.タイプ H の普通角閃石黒雲母流紋岩は, 今回扱った試料中最も SiO2含有量が高い. 1.先阿蘇火山岩類にみられる多様な岩石タイプの成因 先阿蘇火山岩類が示す多様な化学組成の成因として様々な プロセスが考えられるが,本論では単純な分別結晶作用によ って苦鉄質タイプから珪長質タイプが生成する可能性につい て Rb−Nb,Rb−Zr,Rb−Sr 図を用いて検討する(Fig. 7). タイプ A ∼ G に含まれる斑晶鉱物(かんらん石, 単斜輝石, 斜方輝石,普通角閃石,斜長石,鉄チタン酸化鉱物)の鉱 物−メルト間の分配係数(Green, 1994; Rollinson, 1993) 考     察 全岩化学組成 と , 各 タ イ プ の 最 も 液 相 濃 集 元 素 に 乏 し い 試 料 ( A :

TMPA49, B: PRAS28, C: BCPA40, D: PRAS15, E: HB-AN, F: PRAS27, G: PRAS30)の斑晶モード組成(Table 1)を用い て見積もられる各試料の Rb,Nb,Zr,Sr のバルク(分別相 全体の)分配係数(D 値)は次のとおりである.玄武岩∼安 山岩である A,B,C,D,E,F の Rb,Nb,Zr の D 値はい ずれも 0.1 以下,Sr の D 値はそれぞれ 1,1.4,1.2,1,1.3, 1.8,デイサイトである G の Rb,Nb,Zr,Sr の D 値はそれ ぞれ 0.1 以下,1.1,0.2,2.4 となる.鉄チタン酸化鉱物の 鉱物−メルト間の分配係数には,マグネタイトのそれを使用 した.上記 D 値を用い,各タイプの最も液相濃集元素に乏 しい試料の単純な分別結晶作用によって形成されうる組成範 囲を推定し,Fig. 7.a-7.j 中に影あるいは太破線で示した. Rb−Zr,Rb−Sr 図において,A の最も液相濃集元素に乏し い試料を親マグマ(A 親マグマ, 以下同様)と仮定すると, その分別結晶作用で生成されると期待される娘マグマの組成 範囲から B ∼ H 全てが外れる.このことは,A 親マグマの 単純な分別結晶作用によって他タイプは導かれないことを示 す.Fig. 7.d,7.e,7.f は,B 親マグマの単純な分別結晶作用 によって E の一部が導かれる可能性があること,C,G,H は導かれないことを示す.E 親マグマ,F 親マグマは B 親マ グマよりも Rb にやや乏しいため,B 親マグマの分別結晶作 Fig. 8. Incompatible trace elements vs. SiO2for

the pre-Aso volcanic rocks, caldera forming stage pyroclastic flow deposits(Aso-1 to Aso-4) and post-caldera volcanic products. Data sources: Hunter(1998); Miyoshi et al.(2005). Thick lines indicate Low−K, Medium−K, High− K and Shoshonite rock series boundary (LeMaitre et al., 1989; Rickwood, 1989).

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用によってそれらを生成することはできない.Fig. 7.g, 7.h,7.i は,C 親マグマの娘マグマの組成範囲付近に D,E の一部がプロットされることから,それらが C 親マグマから 分別結晶作用によって導かれる可能性を示す.一方,B,F, G,H は娘マグマの範囲から外れるために,それらは C 親マ グマの分別結晶作用によって生成されない.また,B 親マグ マ,F 親マグマは,C 親マグマよりも Rb に乏しいため,C 親マグマの分別結晶作用によってそれらを生成することはで きない.Fig. 7.j,7.k は,D 親マグマ,E 親マグマの単純な 分別結晶作用によって他タイプが生成されないことを示す. Fig. 7.m,7.n,7.o は,F 親マグマの単純な分別結晶によっ て G,H は生成されないこと,G 親マグマの単純な分別結晶 作用によって H は生成されないことを示す. 以上に述べたとおり,先阿蘇火山岩類に見られる大部分の 珪長質岩石タイプ(B, C, F, G, H)は,本研究で仮定したタイ プ A ∼ G 親マグマの単純な分別結晶作用では生成されない と考えられる(Fig. 7).B 親マグマ(PRAS28)と,その分 別結晶作用によって生成されうる E(TTPA44),C 親マグマ (BCPA40)と,その分別結晶作用によって生成されうる D (TTPA48),E(BCPA54)は,いずれもカルデラ西部に分布 しており,空間的に近接している.このことは,それらの間 に分別結晶作用による成因関係が認められるという考察と矛 盾しない. 上記一部の岩石を除き,先阿蘇火山岩類の大部分は,ある 親マグマの分別結晶作用とは別の組成進化プロセスによって 導かれた可能性がある.例えば,タイプ C,G の詳細な噴出 年代は不明であるが,A の一部を除く大部分の先阿蘇火山岩 類が 0.8−0.4 Ma の 40 万年間に活動している.ほぼ同時期に 複数タイプのマグマが活動していたという事実は,異なるタ イプ間でマグマの混合が起こり得た可能性を示唆している. 先阿蘇火山岩類の斑晶鉱物が示す非平衡組織(反応縁, 汚濁 帯, 周縁部の溶融組織など)は,マグマ混合が起こっていた 可能性を支持する.SiO2組成変化図上のプロット(Figs. 5, 6)は一本の直線に近似できないため,玄武岩質マグマ(A) と流紋岩質マグマ(H)の単純な二端成分マグマ混合では先 阿蘇火山岩類の組成多様性は説明できないが,その他のタイ プ間では混合が起こっていた可能性がある.また,古川ほか (本特集号)は,カルデラ北西壁に分布する先阿蘇火山岩類 が幅広い Sr,Nd 同位体比(0.7042−0.7045, 0.5127−0.5128) を示すことから,先カルデラ火山活動期のマグマ組成への地 殻物質の関与の可能性を示している. 先阿蘇火山岩類が示す組成多様性は,マントルからの玄武 岩質マグマ(A)の供給と,それに伴う地殻内マグマ進化プ ロセス(地殻混成作用,地殻部分溶融,マグマ混合,分別結 晶作用など)の複合によって生成された可能性があるが,本 研究で得られたデータのみからでは特定できない.今後,先 阿蘇火山岩類の鉱物化学組成や同位体組成のデータを加え, 制約を与える必要がある. 2.先阿蘇火山岩類とカルデラ形成期,後カルデラ期火山 噴出物との比較 まず,先阿蘇火山岩類とカルデラ形成期以降の火山噴出物 の記載岩石学的特徴を比較する. カルデラ形成期以降の安山岩∼流紋岩質火山噴出物の主な 斑晶鉱物組合せは斜長石(5−40 vol.%)+単斜輝石(5 vol.% 以下)+斜方輝石(10 vol.%以下)であり,普通角閃石,黒 雲母斑晶が含まれることはまれである.カルデラ形成期噴出 物の中では Aso-4 火砕流堆積物に普通角閃石が 0.5−4 vol.% 含まれ,後カルデラ期噴出物の中では本塚火山デイサイト溶 岩に普通角閃石微斑晶が 1 vol.%未満,高野尾羽根流紋岩溶 岩に黒雲母斑晶が 1 vol.%程度含まれるのみである(小野・ 渡辺, 1985; 三好ほか, 2005; Kaneko et al., 2007). 一方,先阿蘇火山岩類の安山岩(タイプ B, C, D, E, F)の 斑晶鉱物組合せは,カルデラ形成期以降の安山岩に比べて多 様である.単斜輝石(5−10 vol.%)+斜方輝石(1−5 vol.%) に加え,タイプ B にはかんらん石が 1−5 vol.%,C にはかん らん石と普通角閃石がそれぞれ 1 vol.%程度,E には最多で 3 vol.%以下の普通角閃石が含まれる.F には 1 vol.%以下の 普通角閃石が含まれるが,単斜輝石,斜方輝石が含まれない. 唯一,タイプ D のみにカルデラ形成期以降の安山岩と同様の 斑晶鉱物組合せ(単斜輝石+斜方輝石+斜長石+鉄チタン酸 化鉱物)および類似の量比(それぞれ 2−10 vol.%, 6 vol.% 以下, 20−30 vol.%, 1−2 vol.%)を有する岩石が認められる. 先阿蘇火山岩類のデイサイト(G)は,後カルデラ期デイサ イト同様にガラス質であるが,比較的粗粒な普通角閃石斑晶 (3 mm 以下)を 5−10 vol.%程度含む点で異なる.先阿蘇火 山岩類の流紋岩(H)は,後カルデラ期流紋岩(高野尾羽根 溶岩: 渡辺, 2001)と同様に黒雲母斑晶(1 vol.%以下)を含 むが,普通角閃石斑晶を少量(1 vol.%未満)含み単斜輝石, 斜方輝石斑晶を含まない点で異なる.先阿蘇火山岩類の玄武 岩(A)の斑晶鉱物組合せ(かんらん石+単斜輝石+斜長石 鉄チタン酸化鉱物)は後カルデラ期玄武岩のそれと同様であ る.しかし,後カルデラ期玄武岩に 1 %程度含まれる単斜輝 石の反応縁をもつ斜方輝石斑晶(三好ほか, 2005)は,A に は全く見られない.また,両者の斑晶量比は概ね類似してい るが,先阿蘇火山岩類の玄武岩(A)のうち,高森地域から 採取された試料の中には,まれにかんらん石斑晶を 1 0 vol.%以上含むものがあり,この特徴は後カルデラ期玄武岩 の記載岩石学的特徴とはやや異なる. 次に,全岩化学組成を比較する.いくつかの先行研究は, 先阿蘇火山岩類が阿蘇カルデラ形成期以降の火山噴出物と比 較して SiO2含有量に対する K2O含有量が乏しいことを指摘 している(例えば, 小野・渡辺, 1985; Kamata, 1989; 渡辺, 2001など).今回,先阿蘇火山岩類は K2Oのみではなくその 他の液相濃集元素(P2O5, Ba, Rb, Zr, Nb, Y)にも乏しい傾向 が明らかになった(Fig. 8).詳しくみると,先阿蘇火山岩類 の玄武岩(A)とカルデラ形成期以降の玄武岩(SiO2含有量 49−53 wt.%)の液相濃集元素組成は概ね一致するのに対し, 安山岩∼流紋岩(SiO2含有量 54−73 wt.%)の液相濃集元素 組成に大きな違いがみられる(Fig. 8).SiO2−K2O図では, 玄武岩はいずれも Medium-K の領域にプロットされる一方, 先阿蘇火山岩類の安山岩∼流紋岩が Medium-K から High-K の領域に,カルデラ形成期以降の安山岩∼流紋岩噴出物は

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Medium-Kから Shoshonite の領域に各々プロットされる (Fig. 8).P2O5,Ba,Rb,Zr,Nb,Y についても K2Oと同様 の傾向が示された(Fig. 8). 以上,先阿蘇火山岩類とカルデラ形成期以降噴出物を比較 すると,特に安山岩∼流紋岩の全岩化学組成,とりわけ液相 濃集元素において顕著な違いが明らかになった.ほぼ同等の SiO2含有量を示す安山岩∼流紋岩を比較しても,先阿蘇火山 岩類とカルデラ形成期以降の噴出物とでは,異なる斑晶鉱物 組合せ,斑晶量比を示す.この違いが生じた原因について, いくつかの可能性が考えられる. 第一の可能性は,先カルデラ火山活動期とカルデラ形成期 以降で,マグマ混合の端成分となる珪長質マグマの起源が異 なったことである.例えば古川ほか(2008, 本特集号)は, 同位体データなどから,先カルデラ火山活動期およびカルデ ラ形成期の珪長質マグマは主に地殻物質の溶融によって生成 されたこと,両火山活動期で溶融した地殻物質の岩石学的性 質が異なる可能性があることを指摘している.つまり,地殻 溶融によって生成される珪長質端成分マグマの岩石学的性質 が異なったために,それらと苦鉄質マグマが混合して生成さ れる安山岩∼流紋岩マグマの特徴が異なった可能性がある. もう一つの可能性は,先カルデラ火山活動期とカルデラ形成 期以降で,マグマ溜りの物理条件が異なったことによって, 分別結晶作用による組成変化トレンドが異なったことであ る.例えば,マグマ溜り内の酸化還元状態の違いにより,分 別結晶作用の組成変化トレンドは大きく異なる.特に SiO2 量に対する液相濃集元素含有量は大きく変化する可能性があ る(金子ほか, 2006; Furukawa, 2006). 上記のような可能性に対して制約を与えるためには,今後, 先阿蘇火山岩類の同位体データを追加し,そのマグマ起源を 明らかにする必要がある.また,先カルデラ火山活動期のマ グマ溜り内の物理条件を決定するためには先阿蘇岩類の鉱物 化学組成を追加する必要がある. 1.先阿蘇火山岩類の大部分は,斑晶鉱物組合せと全岩化学 組成に基づいて,以下の 8 タイプに区分できる.A: かん らん石単斜輝石玄武岩,B: かんらん石両輝石安山岩,C: かんらん石普通角閃石両輝石安山岩,D: 両輝石安山岩, E: 普通角閃石両輝石安山岩,F: 普通角閃石安山岩,G: 両 輝石普通角閃石デイサイト,H: 普通角閃石黒雲母流紋岩. 2.斑晶モード組成と液相濃集元素組成を用いた考察により, 先阿蘇火山岩類のうち,A,B,C,F,G,H の 6 タイプ は分別結晶作用による成因関係を示さないことが明らか になった.よって先カルデラ火山活動期の阿蘇地域直下 は,分別結晶作用のみが主体的に起こっていた場ではな かったと考えられる. 3.先阿蘇火山岩類とカルデラ形成期,後カルデラ期の火山 噴出物との比較から,カルデラ形成前後で特に安山岩∼ 流紋岩で記載岩石学的特徴,全岩化学組成が大きく異な ることが明らかになった.カルデラ形成期以降の安山岩 ∼流紋岩がほとんど角閃石,黒雲母斑晶を含まないのに ま  と  め 対し,先阿蘇火山岩類の安山岩∼流紋岩にはそれらの斑 晶が含まれることが多い.また,先阿蘇火山岩類の安山 岩∼流紋岩はカルデラ形成期以降のそれらに比べて SiO2 含有量に対する液相濃集元素含有量が乏しいという特徴 がある. 本研究を行うにあたり,財団法人深田研究所の「平成 18 年度深田研究助成金」を使用しました.蛍光 X 線分析の際 には北九州市立自然史・歴史博物館の森 康博士にご指導を いただきました.電力中央研究所の三浦大助博士には本特集 号へ投稿する機会を与えていただきました.論文の改善にあ たって,茨城大学理学部の藤縄明彦准教授および匿名査読者 の方,編集委員の古川竜太博士,国立科学博物館の佐野貴司 博士には大変有益なコメントをいただきました.熊本大学理 学部の学生であった森永麻衣子氏には試料採取を手伝ってい ただきました.以上の方々に厚くお礼申し上げます.

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English translation from the original written in Japanese

(要 旨)

三好雅也・古川邦之・新村太郎・下野まどか・長谷中利昭,2009,阿蘇カルデラ外輪山に分布 する先阿蘇火山岩類の岩石記載と全岩化学組成.地質雑,115,672−687.(Miyoshi, M., Furukawa, K., Shinmura, T., Shimono, M. and Hasenaka, T., 2009, Petrography and whole-rock geochemistry of pre-Aso lavas from the caldera wall of Aso volcano, central Kyushu. Jour. Geol. Soc. Japan, 115, 672−687.)

阿蘇火山直下のマグマ溜りの化学的進化を明らかにするため,先阿蘇火山岩類の岩石記 載と全岩化学組成分析を行った.それら溶岩は,斑晶鉱物組合せと全岩化学組成の異なる 8タイプに区分できる.液相濃集元素のモデル計算結果は,先阿蘇火山岩類が示す組成多 様性が単純な分別結晶作用では導かれないことを示した.さらに,先阿蘇火山岩類とカル デラ形成期以降噴出物を比較した結果,特に安山岩∼流紋岩の斑晶鉱物組合せ,量比に顕 著な違いがみられること,前者が後者に比べて SiO2含有量に対する液相濃集元素含有量が 乏しい特徴があることが明らかになった.これらの結果は,先カルデラ火山活動期からカ ルデラ形成期の間に,安山岩∼流紋岩マグマの起源物質化学組成や生成時の物理条件など に変化が生じたということを示唆している.

参照

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項   目  単 位  桁   数  底辺及び垂線長 m 小数点以下3桁 境界辺長 m  小数点以下3桁

長期的目標年度の CO 2 排出係数 2018 年 08 月 01 日 2019 年 07 月 31 日. 2017年度以下

(A)3〜5 年間 2,000 万円以上 5,000 万円以下. (B)3〜5 年間 500 万円以上

1 100超え 191 75超え~100以下 233 50超え~75以下 267 20超え~50以下 186 10超え~20以下 129 5超え~10以下 145 1超え~5以下 51 1以下 1203 計 102.69

1 100超え 191 75超え~100以下 233 50超え~75以下 267 20超え~50以下 186 10超え~20以下 129 5超え~10以下 145 1超え~5以下 51 1以下 1203 計 102.69