• 検索結果がありません。

Title Author(s) 弾性表面波フィルタの高角形化と GHz 帯携帯電話用デュプレクサへの応用に関する研究 井上, 将吾 Citation Issue Date Text Version ETD URL DOI rights

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2022

シェア "Title Author(s) 弾性表面波フィルタの高角形化と GHz 帯携帯電話用デュプレクサへの応用に関する研究 井上, 将吾 Citation Issue Date Text Version ETD URL DOI rights"

Copied!
149
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

Title 弾性表面波フィルタの高角形化とGHz帯携帯電話用 デュプレクサへの応用に関する研究

Author(s) 井上, 将吾 Citation

Issue Date Text Version ETD

URL http://hdl.handle.net/11094/469

DOI rights

Note

Osaka University Knowledge Archive : OUKA Osaka University Knowledge Archive : OUKA

https://ir.library.osaka-u.ac.jp/

Osaka University

(2)

弾性表面波フィルタの高角形化と GHz 帯 携帯電話用デュプレクサへの応用に関する研究

2008 年 3 月

井上 将吾

(3)
(4)

内容梗概

本論文は、著者が株式会社富士通研究所 ペリフェラルシステム研究所 メディア デバイス研究部(現 佐藤フェロー室)において行った“弾性表面波フィルタの高角形 化と GHz 帯携帯電話用デュプレクサへの応用に関する研究”をまとめたもので、6 章 から構成されている。以下、その各章について内容の梗概を述べる。

第1章 序論

携帯電話用デュプレクサの中で、唯一未だ SAW デュプレクサが実現されていない 北米エリアの1.9 GHz帯PCS(personal communications service)用デュプレクサを取り 上げ、現状のSAW(surface acoustic wave)技術では実現が困難であることを示すとと もに、実現の課題を明らかにする。さらに、PCS用SAWデュプレクサ実現のための研 究の現状を概観し、本研究の目的と課題を明らかにする。

第2章 SAW励振効率の低減によるラダー型SAWフィルタの急峻化

本章では、ラダー型SAWフィルタの基本構成要素であるSAW共振器をモード結合 理論により解析し、カットオフ特性を急峻にするための電極設計指針を明らかにする。

この結果をもとに、間引き共振器、及び、位相反転共振器を提案し、これを用いたラ ダー型SAWフィルタを試作・評価し、その有効性を示す。

第3章 斜め放射の抑制によるラダー型SAWフィルタの低損失化

本章では、損失要因としてLSAW(leaky surface acoustic wave)の斜め放射に着目 し、SAWの導波モード解析により共振器の斜め放射を理論解析する。この結果をもと に、斜め放射を抑制できるナローフィンガー共振器を提案し、試作・評価により斜め 放射の抑制効果を実証する。さらに、提案した共振器を適用したラダー型 SAW フィ ルタを試作・評価し、低損失のフィルタ特性が得られることを示す。

第4章 リアクタンス効果によるDMSフィルタの急峻化及び低損失化

本章では、DMS(double mode SAW)フィルタの外部にリアクタンス素子を付加する ことで低周波側のカットオフ特性を急峻にできることを見出し、このリアクタンス効果の

(5)

実現構造として、寄生リアクタンスを利用した外部リアクタンス素子不要構造を提案す る。さらに、小型並列接続構造、バルク波放射抑制構造、斜め放射抑制構造を提案・

適用し、DMS フィルタを低損失化する。以上の技術を用いて、PCS 用デュプレクサ Rxフィルタに適用可能な、高角形 DMSフィルタを実現する。

第5章 高角形SAWフィルタを用いた1.9 GHz帯PCS用デュプレクサの作製 本章では、第 2章から第 4 章の研究で得られた高角形ラダー型 SAW フィルタ、及 び、DMSフィルタをそれぞれTx、Rxフィルタとする、1.9 GHz帯PCS用デュプレクサ を設計・作製する。作製した PCS 用デュプレクサのフィルタ特性、温度特性、耐電力 性を評価し、実用レベルの性能であることを示す。

第6章 結論

本章では、本研究で得られた結果を総括し、今後の課題を明らかにするとともに、

将来展望について述べる。

(6)

目 次

第 1 章 序論 ··· 1

1.1 本研究の背景··· 1

1.2 PCS用SAWデュプレクサ実現の課題··· 3

1.3 本研究の目的と課題··· 7

1.4 本論文の構成··· 8

第 2 章 SAW 励振効率の低減によるラダー型 SAW フィルタの急峻化··· 10

2.1 緒言··· 10

2.2 ラダー型SAWフィルタの動作原理··· 10

2.2.1 1ポートSAW共振器··· 11

2.2.2 ラダー型SAWフィルタの構成と動作原理··· 14

2.3 ラダー型SAWフィルタの急峻化のための理論解析··· 17

2.3.1 カットオフ特性の急峻化法··· 17

2.3.2 モード結合理論を用いたΔf縮小のためのSAW共振器の解析··· 18

2.4 間引き共振器と位相反転共振器の提案··· 29

2.4.1 間引き・位相反転共振器の構造··· 29

2.4.2 モード結合理論を用いた間引き・位相反転共振器のシミュレーション···· 32

2.4.3 実験結果··· 40

2.4.3.1 共振器単体特性の評価結果··· 41

2.4.3.2 ラダー型SAWフィルタへの適用··· 42

2.5 結言··· 45

第 3 章 斜め放射の抑制によるラダー型 SAW フィルタの低損失化··· 46

3.1 緒言··· 46

3.2 斜め放射の導波モード解析··· 48

3.2.1 LSAWの導波条件と共振器の非導波周波数範囲の特定··· 48

3.2.2 導波モード解析による斜め放射の周波数依存性の導出··· 51

3.3 ナローフィンガー共振器の提案··· 56

(7)

3.3.1 ナローフィンガー共振器の構造と斜め放射係数の計算··· 56

3.3.2 2次元シミュレーションによる斜め放射の可視化··· 58

3.3.3 実験結果··· 64

3.3.3.1 共振器単体の評価結果··· 65

3.3.3.2 ラダー型SAWフィルタへの適用··· 69

3.4 結言··· 74

第 4 章 リアクタンス効果による DMS フィルタの急峻化及び低損失化 ··· 75

4.1 緒言··· 75

4.2 DMSフィルタの動作原理と従来特性··· 76

4.3 DMSフィルタの急峻性の向上··· 82

4.3.1 リアクタンス素子を付加したDMSフィルタ構成の提案··· 82

4.3.2 遷移幅と抑圧度のLg及びCc依存性··· 86

4.3.3 寄生リアクタンスを利用したLC効果型 DMSフィルタ構造の提案··· 88

4.4 DMSフィルタの低損失化··· 90

4.4.1 共用反射器を用いた小型並列接続構造··· 90

4.4.2 周期変調グレーティングを用いたバルク波放射抑制構造··· 93

4.4.3 バスバー部厚膜化構造による斜め放射の抑制··· 96

4.4.3.1 DMSフィルタにおける斜め放射の解析··· 97

4.4.3.2 バスバー部厚膜化構造の提案··· 98

4.5 従来DMSフィルタとの比較··· 101

4.6 結言··· 104

第 5 章 高角形 SAW フィルタを用いた 1.9 GHz 帯 PCS 用デュプレクサの作製 ····105

5.1 緒言··· 105

5.2 デュプレクサの設計と作製··· 105

5.2.1 デュプレクサの基本構成と動作原理··· 105

5.2.2 SAWフィルタの設計と作製··· 109

5.2.3 パッケージの設計と作製··· 111

5.3 デュプレクサの評価··· 114

(8)

5.3.1 フィルタ特性··· 114

5.3.2 温度特性··· 116

5.3.3 耐電力性··· 118

5.4 結言··· 120

第 6 章 結論 ···121

謝辞 ···126

参考文献 ···127

関連発表論文···134

(9)
(10)

1 第1章 序論

1.1 本研究の背景

1885 年、Rayleigh によってその存在が理論的に証明された弾性表面波(surface acoustic wave:SAW)[1]は、固体表面を伝搬する波動であり、もともと地震学の分野 で発見され、研究が進められた。SAW の伝搬速度は約4000 m/s と電磁波に比べて 10万分の1程度であるため、マイクロ波帯信号処理デバイスの小型化が期待できたこ とから、エレクトロニクスの分野でも SAW の研究が行われるようになった。1965 年、

White らによって圧電基板上で効率よく SAW の送受信ができる、すだれ状変換器

(interdigital transducer:IDT)が発明されて以来[2]、様々なデバイスが考案され、通 信機器を中心に広く利用されてきた。1970年代後半にSAWデバイスとして始めて実 用化されたカラーTV受像機用中間周波数(intermediate frequency:IF)フィルタ[3]を はじめとして、パルス伸張・圧縮用分散型遅延線[4], [5]や電圧可変発振器(voltage controlled oscillator:VCO)用共振器[6], [7]、各種センシングデバイス[8], [9]のほか、

デジタル信号処理用コンボルバ[10], [11]やSAWと光の相互作用を利用した光変調 素子[12]など、多岐にわたる応用分野が開拓され、情報通信社会の基盤を広く支え てきた。

SAW デバイスの応用分野の中で、携帯電話に代表される移動体通信用フィルタが 近年最も活発に研究が行われている。図1.1に、ヘテロダイン復調と直交変調を用い た一般的な携帯電話端末のブロック図を示す。携帯電話端末に用いられる複数の SAWフィルタの中でも、特に、低挿入損失特性の要求が厳しいRF(radio frequency) 帯(800~1900 MHz)の送信(Tx)フィルタ及び受信(Rx)フィルタの研究が盛んに行 われている。ハイパワーを扱う送信回路のTxフィルタには、耐電力性に優れたラダー 型SAWフィルタ[13]が用いられることが多い。一方、差動受信回路のRxフィルタには、

平衡-不平衡変換(バランス変換)機能を持たせることができるダブルモード型 SAW

(double mode SAW:DMS)フィルタ[14]が一般的に用いられる。また最近、一部のシ ステムの携帯電話端末のデュプレクサには、ラダー型SAWフィルタを用いたSAWデ ュプレクサが用いられるようになった。

(11)

2

図1.1 ヘテロダイン復調と直交変調を用いた携帯電話端末のブロック図

LNA Mix.

VCO

HPA Mix.

IF mod.

TCXO IF

Demod. I/Q

Baseband logic

I/Q

Synth. Synth.

VCO Antenna

Duplexer Dup-Tx

Dup-Rx Rx

Tx

SAW filter

SAW filter

デュプレクサとは、送信信号と受信信号を分離すると同時に、必要な周波数帯域の 信号のみを取り出すデバイスである。デュプレクサは、アンテナ共用器またはアンテ ナ分波器とも呼ばれる。FDD(frequency division duplex)システムにおいては、周波 数領域で送受信信号を分離するため、デュプレクサが必要となる。本研究を開始した 2000 年頃、世界各国の携帯電話で使用されていた周波数帯のうち、デュプレクサが 必要なFDDシステムが使用する周波数帯は表1.1に示す3帯域であった。

表1.1 デュプレクサが必要なFDDシステムが使用する周波数帯

EAMPS US 824-849 869-894

J-CDMA JPN 887-925 832-870

PCS US 1850-1910 1930-1990

Band Area Tx band [MHz] Rx band [MHz]

いずれの周波数帯も、デュプレクサには大型の誘電体フィルタが用いられてきたが、

1998年に、誘電体デュプレクサに取って代わり、体積比1/8となる EAMPS(extended advanced mobile phone system)用SAWデュプレクサが開発され[15]、携帯電話端末

(12)

3

の小型化に大きな貢献を果たした。その後、J-CDMA(Japan code division multiple access)用SAWデュプレクサも実用化され、800 MHz帯SAWデュプレクサの技術開 発は一段落した。しかしながら、北米で使用される 1.9 GHz 帯の PCS(personal communications service)用SAWデュプレクサは実現されておらず、携帯電話端末の 小型化を制限していた。国内外の主力 SAW デバイスメーカが総力を挙げて PCS 用 SAW デュプレクサの研究開発を進めていたが実用レベルに到達していなかった。本 研究はこのような背景のもとに、PCS用の1.9GHz帯SAWデュプレクサを実現するた めの課題解決を通して、SAWフィルタを高性能化するために行われたものである。

最近では、2.1 GHz帯のWCDMA(wideband CDMA)システムのサービスが開始さ れた。周波数帯が PCS に近いため、PCS 用 SAW デュプレクサの技術の応用で

WCDMA 用 SAW デュプレクサも実現可能と考えられる。このような理由からも、PCS

用SAWデュプレクサの研究開発を行うことは非常に意義深いと考えられる。

1.2 PCS用SAWデュプレクサ実現の課題

PCS 用 SAW デュプレクサの実現が困難であることを説明するために、まず、デュプ レクサの動作原理を簡単に述べる。

デュプレクサは、図1.1に示したようにDup-TxフィルタとDup-Rxフィルタを、Ant端 子を共通端子として並列接続した構成である。Tx端子に入力した送信信号は、Txフ ィルタを通過し、Ant端子から出力される。一方、Ant端子で受信された受信信号は、

Rxフィルタを通過し、Rx端子から出力される。また、送信信号をRx 端子に通過させ ない特性(アイソレーション特性)もデュプレクサの重要な役割の一つである。

図1.2上段のグラフは、EAMPS用SAWデュプレクサにおける送受信信号のパワー 通過率の周波数特性を模式図に描いたものである。送信信号のパワー通過率は太 線で、受信信号のパワー通過率は細線で示してある。TxフィルタはTx帯域が通過域

(パワー通過率が最大)で、Rx帯域が阻止域(パワー通過率が最小)となるように設計 される。Tx帯域のパワー通過率(損失と定義する)は-3 dB程度、Rx帯域のパワー通 過率(抑圧度と定義する)は-40~-50 dB程度が要求される。一方、Rxフィルタは、Rx 帯域が通過域で、Tx 帯域が阻止域となるように設計される。Rx 帯域の損失は-4 dB 程度、Tx帯域の抑圧度は-50 dB程度が要求される。800 MHz帯のEAMPSの送受 信帯域間の周波数差(ガードバンドと呼ばれる)は、20 MHzであり、フィルタの遷移周

(13)

4

波数幅を20 MHz以下にしなければならない。

図1.2 EAMPS用デュプレクサの周波数特性と PCS用デュプレクサに要求される周波数特性

824 849 869 894

Frequency [MHz]

Power transmissibility [dB]

Rx filter Tx filter

Tx band

(25 MHz) Rx band (25 MHz)

Power transmissibility [dB]

1850 1910 1930 1990

Frequency [MHz]

Tx band

(60 MHz) Rx band

(60 MHz) Guard band

(20 MHz)

2) Steeper cut-off 1) Lower

insertion loss

PCS band EAMPS band

Tx filter

Rx filter

I.L. I.L.

Att. Att.

-3.5 dB -4.0 dB

-50 dB

-42 dB

(14)

5

ここで、EAMPS用SAWデュプレクサの周波数特性をもとに、PCS用SAWデュプレ クサ実現の問題点を説明する。PCS 用デュプレクサの特性は、基本的には EAMPS 用デュプレクサの特性を両システム間の周波数倍率(2.24倍)で周波数軸上に伸張し たものとなる。このようにしてPCS 用 SAWデュプレクサの特性を模式的に描いたもの が図 1.2 下段の破線グラフである。中心周波数が 2.24 倍高いにもかかわらず、PCS のガードバンドは EAMPS と同じ 20 MHzである。このガードバンドが極めて狭いこと がPCS用SAWデュプレクサ実現の問題点であり、現状のSAWフィルタでは損失及 び抑圧度の仕様をとても満足できない。したがって、図 1.2 下段の実線グラフで示す ようなPCS用SAWデュプレクサを実現するためには、SAWフィルタの角形特性を向 上しなければならない。具体的な課題として、SAW フィルタ特性のうち次の 2 つの改 善が必須である。

1) 通過帯域の低損失化(特に、ガードバンド側の帯域端部)

2) ガードバンド側のカットオフ特性の急峻性向上

上記 1)、2)の改善度が大きいほど「高角形」であると言うことにする。上記 1)、2)の達

成度を表す指標として、PCS 用デュプレクサの要求仕様をもとに、Tx、Rx フィルタそ れぞれに「遷移幅」を以下のように定義する。

・Txフィルタの遷移幅…高周波側のパワー通過率が-3.5 dBから-42 dBになるのに 必要な周波数幅

・Rxフィルタの遷移幅…低周波側のパワー通過率が-50 dBから-4.0 dBになるのに 必要な周波数幅

遷移幅が狭いほど、ガードバンド側の帯域端部の損失が小さい、あるいは、カットオフ 特性が急峻であることを表し、高角形のSAWフィルタであることを意味する。

ここで、PCS用SAWデュプレクサ実現のために必要な遷移幅を見積もる。理論上の 必要遷移幅はガードバンドと同じ20 MHzであるが、製造ばらつきと環境温度変化に よるフィルタの周波数変動を考慮する必要があり、実際の必要遷移幅は 20 MHz より も小さくなる。1.9 GHz帯 SAWフィルタの製造ばらつきによる周波数変動量は、一般

(15)

6

的に2 MHz(0.1%)程度と考えられる。また、RF-SAWフィルタ用圧電基板として一般

的な、回転 Y カット LiTaO3(LT)基板を用いた場合の周波数温度係数(temperature coefficient of frequency:TCF)は約-35 ppm/℃であり、-35℃~+85℃の温度範囲での

1.9 GHz帯SAWフィルタの周波数変動量は8 MHz(0.4%)程度と見積もられる。した

がって、製造ばらつきと温度特性を考慮した実際の必要遷移幅はわずか 10 MHz

(0.5%)しかない。

既に実用化されているEAMPS用SAWデュプレクサの遷移幅は、800 MHz帯で約 10 MHzであることを考えると、1.9 GHz帯のPCS用SAWデュプレクサを実現するに は、SAWフィルタの遷移幅を現状の半分以下に改善しなければならない。

このような状況を打破するために、実質の必要遷移幅を拡大してPCS 用SAWデュ プレクサを実現しようとする研究がある。具体的な手法を以下に示す。

1) PCSシステムのTx、Rx帯域それぞれを低域側と高域側に2分割し、低域側用 デュプレクサと高域側用デュプレクサをスイッチで切り替える手法

2) SAWフィルタのTCFを改善する手法

1)の手法[16]によれば、実質の必要遷移幅は40 MHzにまで拡大し、SAWデュプレク

サ自体は容易に実現できる。しかしながら、2 つのデュプレクサと 3 つのスイッチが必 要となり、コスト・サイズ面で不利であり、スイッチ制御が必要なため回路設計の複雑 化を招くなどの問題がある。2)の手法には2通りの方法が提案されている。1つは、LT 基板裏面に LT よりも小さな線膨張係数を持つウエハを直接接合する方法[17], [18]

で、TCFを約-10 ppm/℃まで改善でき、実質の必要遷移幅を16 MHz程度まで拡大

できる。しかし、ウエハ接合界面からの反射波が不要応答(スプリアス)としてフィルタ 特性に現れるなどの諸問題を抱えている。もう1つのTCF改善方法は、IDT上にLT と逆符号の周波数速度係数(temperature coefficient of velocity:TCV)を持つ材料を 堆積する方法[19]-[21]である。この方法も-13 ppm/℃程度まで TCFの改善が期待で きる有望な技術ではあるが、現状損失が大きく、フィルタの遷移幅が増加してしまって いるのが問題である。

こ れ に 対 し 、SAW よ り も Q 値 の 優 れ た 圧 電 薄 膜 共 振 器 (film bulk acoustic resonator:FBAR)[22]-[24]を用いて PCS 用デュプレクサを実現しようとする研究があ

(16)

7

る[25], [26]。FBAR は電極膜と圧電膜の薄膜多層構造であり、共振周波数はこれら

の膜厚により決定する。したがって、膜厚制御が非常にシビアで製造歩留まりが悪く、

さらなる研究開発が必要である。

筆者は上記1)、2)いずれの手法も用いずに、SAWフィルタの設計技術を革新し、低 損失化と急峻化、すなわち高角形化を徹底的に追求することにより、直接遷移幅 10 MHzを目指す方法を選択した。なぜなら、電極設計の技術革新でPCS用SAWデュ プレクサが実現できれば、従来からの製造装置・製造プロセスの流用が可能なため、

迅速に安定した量産体制を確立でき、しかも、製造コストを最も低く抑えられる最善の 方法であると判断したからである。

1.3 本研究の目的と課題

本研究の目的は、低損失で急峻なカットオフ特性を有する高角形 SAW フィルタの 設計手法を確立することであり、この成果を北米携帯電話向け 1.9 GHz 帯 PCS 用 SAW デュプレクサに応用することにより、その有用性を実証する。デュプレクサの Tx フィルタには800 MHz帯デュプレクサと同じラダー型SAWフィルタを用いるが、Rxフ ィルタには DMS フィルタを採用することにした。なぜなら、DMS フィルタの低周波側 のカットオフ特性は、ラダー型 SAW フィルタよりも急峻で、低周波側の抑圧度も大き いからである(ただし、損失が大きい)。DMS フィルタを用いたデュプレクサの報告例 はなく、初の試みである。

本研究の目的を達成するためには、以下のような課題があった。

1) ラダー型SAWフィルタのカットオフ特性の急峻化(Txフィルタ)

この課題に対し、本研究では間引き共振器及び位相反転共振器構造を 提案し、これを用いて急峻なカットオフ特性を有するラダー型SAWフィルタを 実証する(第2章)。

2) ラダー型SAWフィルタの低損失化(Txフィルタ)

この課題に対し、本研究ではSAWの導波モード解析を行ない、損失の主 要因である SAW の斜め放射を抑制できる低損失フィルタ構造を提案・実証 する(第3章)。

(17)

8

3) ダブルモード型SAW(DMS)フィルタの急峻化及び低損失化(Rxフィルタ)

この課題に対し、本研究では DMS フィルタにリアクタンス素子を付加した 新たなフィルタ構成、及び、この構成の実現構造として寄生リアクタンスを利 用した外部リアクタンス素子不要構造を提案し、優れたカットオフ特性が得ら れることを実証する(第 4 章)。さらに、DMS フィルタの小型並列接続構造、

斜め放射抑制構造、バルク波放射抑制構造を提案・適用し、DMS フィルタ の低損失化を実現する(第4章)。

これらの結果で得られた低損失で急峻なカットオフ特性を有する高角形ラダー型 SAWフィルタとDMSフィルタを用いて、1.9 GHz帯PCS用SAWデュプレクサを試作・

評価し、実用レベルのデュプレクサ特性を実証する(第5章)。

1.4 本論文の構成

本論文の構成と各章のつながりを示すブロックダイヤグラムを図1.3に示す。

第2章では、SAWの励振効率を低減する間引き共振器及び位相反転共振器構造 を提案し、試作・評価により、急峻なカットオフ特性を有するラダー型 SAW フィルタを 実証する。

第 3 章では、損失の主要因である SAW の斜め放射の理論解析を行い、斜め放射 抑制構造を提案し、試作・評価した結果を述べ、ラダー型 SAW フィルタの低損失化 を実証する。

第4章では、DMSフィルタにリアクタンス素子を付加する構成、及び、寄生リアクタン スを利用した実現構造を提案し、試作・評価により、急峻なカットオフ特性を有する DMS フィルタを実証する。さらに、DMS フィルタの小型並列接続構造、斜め放射抑 制構造、バルク波放射抑制構造の適用によるDMSフィルタの低損失化についても述 べる。

これらの結果得られた高角形SAWフィルタを用いて、第5章では、1.9 GHz帯PCS 用SAWデュプレクサを試作・評価した結果を述べる。

第6章では、本研究で得られた結果を総括し、今後の課題を述べる。

(18)

9 第1章 序論

第2章 SAW励振効率の低減による

ラダー型SAWフィルタの急峻化

(Txフィルタ)

第3章 斜め放射の抑制による

ラダー型SAWフィルタの低損失化

(Txフィルタ)

第4章 リアクタンス効果による DMSフィルタの急峻化 及び低損失化

(Rxフィルタ)

第5章 高角形SAWフィルタを用いた1.9 GHz帯PCS用デュプレクサの作製

第6章 結論

図1.3 本論文の構成

(19)

10

第2章 SAW励振効率の低減によるラダー型SAWフィルタの急峻化

2.1 緒言

ラダー型 SAW フィルタ[13]は、低挿入損失・広帯域で耐電力性に優れている [27]-[30]という特長を有することから、携帯電話端末でもハイパワーを扱う送信回路の Txフィルタや、デュプレクサ用フィルタとして多用されている。しかしながら、第 1章で 述べたように、従来技術を用いたラダー型SAWフィルタでは、PCS用デュプレクサに 要求される角形特性を満足することができない。そこで筆者は、PCS 用デュプレクサ に適用可能な、高角形のラダー型SAWフィルタの設計技術の開発を試みた。デュプ レクサのTxフィルタにラダー型SAWフィルタを適用することを想定し、通過帯域高周 波側の角形特性を向上する。本章では、ラダー型SAWフィルタのカットオフ特性を急 峻にするための電極設計手法を提案する。そして、第3章で通過帯域端部の低損失 化手法を提案し、これらの技術を組み合わせることでPCS用デュプレクサのTxフィル タの要求仕様を満足する高角形のラダー型SAWフィルタを実現する。

本章ではまず、ラダー型 SAW フィルタの動作原理を概説する。そして、ラダー型 SAWフィルタの基本構成要素であるSAW共振器をモード結合理論により解析し、カ ットオフ特性を急峻にするための電極設計指針を明らかにする。この結果をもとに、

間引き共振器、及び、位相反転共振器を提案し、これを用いたラダー型 SAW フィル タを試作・評価した結果について述べる。

2.2 ラダー型SAWフィルタの動作原理

ラダー型 SAWフィルタは、図 2.1 に示すように 1 ポート SAW共振器を複数個、電 気的に梯子型(ラダー型)に接続した構成で、SAW 共振器をインピーダンス素子とし て利用するフィルタである[31]-[33]。SAW 共振器をインピーダンス素子として利用す るフィルタの概念自体は、1975 年に報告されている[34]。直列、並列に接続された共 振器はそれぞれ「直列共振器」、「並列共振器」と呼ばれる。本節ではまず、1 ポート SAW 共振器について説明し、これを用いたラダー型 SAW フィルタの動作原理を述 べる。

(20)

11

図2.1 ラダー型SAWフィルタの構成

Input Output

Series resonator

Parallel resonator 1 port SAW

resonator

2.2.1 1ポートSAW共振器

初めに、ラダー型SAWフィルタの基本構成要素である1ポートSAW共振器につい て説明する。図2.2に、その構造を示す。圧電基板の表面に、Alなどの金属でIDTと グレーティング反射器が形成された構造で、フォトリソグラフィ技術を用いて作製され る。この構造の基本概念は、1970 年に Ash により提案され[35]、1974 年には Staples によって水晶基板を用いてQが10000を超える共振器が報告された[36]。

Port 1

Piezoelectric substrate IDT

Grating reflector

図2.2 1ポートSAW共振器の構造と共振原理 Port 2

Grating reflector Busbar

Busbar standing waveSAW

λ

(21)

12

1ポート SAW共振器は、IDTにおいて励振したSAWがグレーティング反射器間を 往復し、ファブリペロー型共振器として機能する。共振周波数近傍においては、共振 器内部で左右に伝搬する SAW が振幅を強め合い、定在波となってエネルギーを蓄 積する。この定在波の様子も図2.2に示してある。なお、共振周波数frは、近似的に

λ

g r

fv (2.1)

で決定される。vgはIDT・グレーティング反射器下のSAWの伝搬速度で、λはIDTの 周期である。

ここで、図2.2の1ポートSAW共振器におけるポート1-2間の電気的動作を考える。

SAW共振器は、図2.3に示すようなLCの等価回路(Butterworth-Van Dyke:BVDモ デルと呼ばれる)として表現できることが知られている[33]。C1L1 は動キャパシタンス、

動インダクタンスと呼ばれ、SAW の機械的共振を表している。R1は動抵抗と呼ばれ、

SAW の伝搬損失や電極指の抵抗損などを等価的に表現している。C0は、IDT の静 電容量で制動容量と呼ばれる。

Port 1 Port 2

R1 C1 L1

C0 Resonance

Anti-resonance

図2.3 1ポートSAW共振器の電気的等価回路

図2.3の回路は二重共振回路であり、2つの共振周波数が存在する。説明を簡単に するために、R1のない純リアクタンス回路とすれば、そのアドミタンスY(インピーダンス Z)は、

(22)

13

⎟⎟⎠

⎜⎜ ⎞

− −

=

= 1

1

1 1 2 0 1

C L C C

Z j

Y ω ω (2.2)

である。ωは角周波数である。式(2.2)のアドミタンス特性を模式的に描くと、図 2.4 の ようになる。

図2.4 1ポートSAW共振器のアドミタンス特性 Frequency

Admittance (log scale)

Resonance frequency (fr)

Anti-resonance frequency (fa)

第 1 の共振は C1L1による直列共振(機械的共振)で、アドミタンスは最大となり、

ポート 1-2 間は交流的に導通状態となる。この共振周波数frは、式(2.2)で Y = ∞と おけば、ω = 2πfの関係を用いて

1

2 1

1 C fr L

= π (2.3)

で与えられる。frから周波数を上げると、C1L1C0も加わった並列共振が起こる。こ のときアドミタンスは最小となり、ポート1-2 間は交流的に遮断状態となる。これは反共 振と呼ばれ、反共振周波数faは、式(2.2)でY = 0とおいて、

(23)

14

0 1 1

1 0 1

2 1 1

C f C

C L

C C

fa = r⋅ +

+

= π 2.4

で与えられる。

ラダー型 SAW フィルタは、以上説明した 1 ポート SAW 共振器の二重共振特性を 巧みに利用してバンドパス特性を実現する。次節でその構成と動作原理を述べる。

2.2.2 ラダー型SAWフィルタの構成と動作原理

図2.5 ラダー型SAWフィルタの構成 Symbolisation of SAW resonator

Rp Rp Rp Rp

Rs Rs Rs Rs

frs fap

Input Output

Basic unit

Rs

Rp

ラダー型 SAW フィルタは、図2.5 に示すように 1 ポート SAW共振器を複数個、電 気的に梯子型(ラダー型)に接続した構成である。1ポートSAW共振器は、同図のよう に記号化して表すのが一般的である。バンドパス特性は同図の点線で囲んだ基本区 間の特性の重ね合わせで決定される。基本区間は、直列共振器 Rs と、並列共振器

(24)

15

Rpの2つの共振器で構成される。基本区間を多段に縦続接続する場合は、同図のよ うにミラー反転して接続する。これは、基本区間どうしのイメージインピーダンスを合わ せて、段間でのインピーダンスミスマッチを無くすためである。同図のラダー型SAWフ ィルタは、基本区間が 4 個縦続接続されているので 4 段ラダーフィルタと呼び、共振 器構成の記述方法として、「Rs-Rp-Rp-Rs-Rs-Rp-Rp-Rs」のように表現される。

基本区間どうしの接続点において連続配置された2 つのRpまたはRsは、1つに合 成されることもある。2 つのRpを合成したRpは IDTの静電容量をRpの2倍にしたも のを用い、2つのRsを合成したRsはIDTの静電容量をRsの1/2倍にしたものを用い る。

RsRpは互いに共振周波数をわずかに変え、Rpの反共振周波数fapRsの共振周 波数 frsがおよそ一致するように設計する。したがって、式(2.1)からもわかるように、Rs

RpのIDT周期はわずかに異ならせる必要がある。

インダクタとキャパシタから構成される定K形フィルタのインピーダンス整合条件[37]

から、ラダーフィルタのインピーダンス整合条件を導くと、近似的に次式が得られるこ とが知られている[38]。

(

0

)

2

0 0

1 C R

C s p

= ω

× (2.5)

ここで、C0sC0pRsRpのIDT静電容量で、ω0はフィルタの中心角周波数、Rはフ ィルタ通過帯域で整合すべきインピーダンス(実数)である(通常R = 50 Ω)。C0sC0p

の積が式(2.5)を満たすようにIDTを設計することで、ラダー型SAWフィルタのインピ ーダンス整合を取ることができる。また、C0sC0p の比率を変えることで、通過帯域外 の抑圧度をコントロールできることも知られている。ただし、C0p/C0s を大きくして帯域外 抑圧度を増すほど帯域内の損失は増加する(損失と抑圧度はトレードオフの関係)。

次に、ラダー型SAWフィルタの動作原理を述べる。図2.5の基本区間のみを取り出 して、1 段ラダーフィルタの動作を見てみる。1 段ラダーフィルタの RsRpを分解して 共振器単体で挿入損失特性を見たものが、図 2.6 (a)である。直列共振器 Rs単体の 通過特性を実線で、並列共振器 Rp 単体の通過特性を破線で示してある。Rs単体で は、共振周波数 frsと反共振周波数 fasの間を遷移周波数域とするローパスフィルタと

(25)

16

して機能する。Rp単体では、共振周波数 frpと反共振周波数 fapの間を遷移周波数域 とするハイパスフィルタとして機能する。先に述べたように、fapfrsがおよそ一致するよ うに設計すれば、RsRpの挿入損失特性が合成され、図2.6 (b)に示すようなバンドパ スフィルタを形成できる。

図2.6 SAW共振器とラダー型SAWフィルタの通過特性

Insertion loss [dB]

(a) Resonator response

Frequency Series resonator (Rs)

Parallel resonator (Rp)

frs

fas fap

frp

Insertion loss [dB]

Frequency

(b) Ladder filter response Pass band

Attenuation band Attenuation band

Rs Rs Rp

Rp

Rp Rs Rp Rs

(26)

17

2.3 ラダー型SAWフィルタの急峻化のための理論解析

本節ではまず、ラダー型SAW フィルタのカットオフ特性を急峻にするために共振器 に要求される特性を示す。そして、この要求特性を実現するための設計指針を得るた めに、SAW共振器の理論解析を行う。

2.3.1 カットオフ特性の急峻化法

図2.7をもとに、ラダー型SAWフィルタのカットオフ特性を急峻にする方法を考える。

1つの方法として、共振器の共振周波数と反共振周波数の周波数差Δfを小さくするこ とが考えられる。図 2.7 の破線で示したように、直列共振器の共振・反共振間隔(Δfs) を縮小すれば、高周波側のカットオフ特性を急峻にできることがわかる。同様に、並 列共振器の共振・反共振間隔(Δfp)を縮小すれば、低周波側のカットオフ特性を急峻 にできる。

本研究では、1ポートSAW共振器のΔfを縮小することにより、ラダー型SAWフィル タのカットオフ特性を急峻にする。2.3 節で、共振器のΔf を縮小するための設計指針 を理論解析にて明らかにし、2.4節で、Δfを縮小する共振器構造を提案する。

図2.7 Δfの縮小によるラダー型SAWフィルタの急峻化原理 Δfp Δfs

Insertion loss [dB]

Frequency frs

fas fap

frp

Steeper cut-off

(27)

18

2.3.2 モード結合理論を用いたΔf縮小のためのSAW共振器の解析

本節では、1ポートSAW共振器のΔfを縮小するための設計指針を得るために、モー ド結合(coupling-of-modes:COM)理論[39]を用いて、SAW 共振器の解析を行う。

SAW の振る舞いを精度よく解析できるモード結合理論は、SAW デバイスの設計・解 析のための標準ツールとして多用されている。

解析手順としては、まず、SAW デバイス用モード結合方程式からSAW共振器のア ドミタンスを導出する。次に、このアドミタンスが最大/最小となる周波数である共振/

反共振周波数を近似的に定式化する。そして、求めた共振/反共振周波数の、

COM パラメータ依存性を計算し、Δfへの影響が大きい COM パラメータを特定する。

この結果からΔfを縮小するための指針を得る。

u+(x)

u-(x)

I(x)

V ejωt

x y

z p

図2.8 モード結合解析のためのIDTモデル Busbar

Busbar

IDT unit

x= 0 x= L

初めに、SAWデバイス用モード結合方程式について説明する。図2.8にモード結合 解析のための IDT モデルを示す。一方のすだれ状電極は接地され、もう一方には V ejωtなる電圧が印加されている。バスバーのx方向長さはRF信号の波長に比べて十 分短いので、V の位相は x によらず一定と考えることができる。I(x)はバスバーを流れ る電流で、pはIDTのグレーティング周期である。u±(x)は、+x方向と-x方向に伝搬

(28)

19

するSAWの変位ベクトルのxyz成分のうち、いずれか1つの成分(例えばSTカッ ト水晶基板で最大変位を持つ z 成分)の複素振幅(スカラー量)を表したものである。

SAW変位のx、y、z成分のうち、いずれか1つの成分の値がわかれば、この値を用い

て比例計算によりその他の成分の値を求めることができる(比例定数は、一般的な有 限要素法解析などにより決定できる。)。例えば ST カット水晶基板の場合、x 変位成 分はz変位成分の0.65倍で、y変位成分はz変位成分の0.15倍である。また、u±(x) は、|u±(x)|2 = 1が1Wの機械的SAWパワーに相当するように規格化し、[W0.5]の次 元を持つ量として扱う。モード結合解析は、SAWの伝搬方向(x方向)のみを考慮した 1次元解析で、横方向(y 方向)及び深さ方向(z 方向)は考慮していない。しかしなが ら、本論文3.3節及び4.4.2節で述べるように、SAWの横方向への回折や深さ方向へ のバルク波放射は無視できるほど小さいため、1 次元解析でも十分な精度が得られる。

図2.8のIDTにおけるモード結合方程式は、以下のように表現できる[40]。

( ) ( ) ( )

( ) ( ) ( )

⎟⎟

⎜⎜ ⎞

⎛+

⎟⎟−

⎜⎜ ⎞

⎛+ +

+

∂ =

⎟⎟⎠

⎜⎜ ⎞

⎛−

⎟⎟+

⎜⎜ ⎞

⎛−

∂ =

+

+ +

p j x V

p j j x x

u j x u x j

x u

p j x V

p j j x x

u j x u x j

x u

ζ π κ π

β

ζ π κ π

β

2 exp exp

2 exp exp

* * 12 12

(2.6)

ここで、βは IDT 下を伝搬する SAWの波数、κ12、κ12* はモード間結合係数で、ζ、ζ* は SAW の励振効率を表す変換係数である。u±(x)を式(2.7)のように表現し直し、式 (2.6)に代入することで、U+(x)と U-(x)に対するモード結合方程式が式(2.8)のように表 される。

( ) ( )

⎟⎟

⎜⎜ ⎞

= ±

± p

j x x

U x

u π

exp m (2.7)

( ) ( ) ( )

( )

j U

( )

x j U

( )

x j V x

x U

V j x U j x U x j

x U

u u

* * 12 12

ζ κ

θ

ζ κ

θ

− +

+

∂ =

+

∂ =

+

+ +

(2.8)

(29)

20

式(2.8)中の θu はβπ / pであり、SAWの波数のブラッグ条件からのずれを表してい る。θu を自由表面下での SAW 速度 vfreeと角周波数ω 及び自己結合係数κ11を用い て記述すると、式(2.9)のようになる。なお、κ11は、自由表面下でのSAW速度を基準と したときの、IDT下を伝搬する SAW速度の変化量を表すパラメータである。

p vfree

u

κ π

θ = ω + 11− (2.9)

さらに、バスバーを流れる電流I(x)に関して次式が成り立つ。

( )

j U

( )

x j U

( )

x j CV x

x

I =− ζ − ζ + ω

+ 4

4 *

(2.10)

ここで、Cx 方向の単位長さ当たりのIDT の静電容量である。式(2.8)及び式(2.10) がSAWデバイス用モード結合方程式であり、4つの独立パラメータを用いて記述され ることがわかる。4つのCOMパラメータを以下に整理する。

・ θu [m-1] (detuning factor):SAWの波数のブラッグ条件からのずれ

・ κ12 [m-1] (mutual coupling coefficient):モード間結合係数

・ ζ [Ω-0.5m-1] (transduction coefficient):電圧からSAW歪みへの変換係数

・ C [Fm-1] (capacitance):x方向の単位長さ当たりのIDTの静電容量

次に、SAWデバイス用モード結合方程式から図2.9 (a)に示す1ポートSAW共振器 のアドミタンスを導出する。手順として、まず、モード結合方程式の一般解を用いて反 射器の反射特性を求める。そして、この反射特性をIDT端の境界条件として、共振器 のアドミタンス特性を導く。

(30)

21

Li Lr

Lr

Lg Lg

IDT Reflector Reflector Gap Gap

(a) Resonator

0

Lr x

U+(0) U-(0)

U+(Lr) U-(Lr)

Li/2 x 0

-Li/2 U+(-Li/2)

U-(-Li/2)

U+(Li/2) U-(Li/2)

(b) Reflector (c) IDT

図2.9 1ポートSAW共振器の解析モデル

式(2.8)と式(2.10)のSAWデバイス用モード結合方程式を解くと、一般解

( ) ( ) ( )

( ) ( ) ( )

( )

=

{

( )

( )

+

}

+ +

+

− Γ

=

+ +

Γ +

=

+

+

+

+

+

+

L

p p

p p

dx CV j x U j x U j x

I

V x j c

x j c

x U

V x j c

x j c

x U

0

* 4

4

exp exp

exp exp

ω ζ

ζ

ξ θ θ

ξ θ θ

(2.11)

を得る[40]。ここで、c+、c-は境界条件で決まる定数である。θp は反射波と結合した摂 動モードの波数で、

( )

( )

( )

⎪⎪

⎪⎪

>

<

<

=

12 2

12 2

12 2 2

12

12 2

12 2

κ θ κ

θ

κ θ θ κ

κ θ

κ θ θ

u u

u u

u u

p j (2.12)

(31)

22 である。また、

κ12

θ θpu

=

Γ+ (2.13)

は+x方向の伝搬波に対する反射係数であり、

*

κ12

θ θpu

=

Γ (2.14)

は-x方向の伝搬波に対する反射係数である。一方、

2 12

*

p u

θ κ ζ

ξ+ =ζθ (2.15)

は+x方向の伝搬波に対する励振係数であり、

2

* 12

*

p u

θ ζκ θ

ξ (2.16)

は-x 方向の伝搬波に対する励振係数である。ξ±の単位は[Ω-0.5]である。図 2.8のよ うに、IDT の単一周期(点線で囲んだ部分)が左右対称で、基板材料に自然一方向 性[41]がない場合、IDT周期の中心を原点に選べばκ12とζは実数となり、

12

0 κ

θ θpu

= Γ

= Γ

=

Γ + (2.17)

12

0 θ κ

ξ ζ ξ

ξ = + = = +

u

(2.18)

(32)

23 となる。

解析する共振器の構成は図2.9 (a)に示した通りで、IDTの長さをLi、反射器の長さ をLr、反射器と IDT間のギャップを Lgとする。反射器は、図2.9のようにグレーティン グ電極を電気的に接続した短絡グレーティング反射器とすることで、電気的再励起効 果により大きな反射率が得られる[40]。したがって、多くの場合、短絡グレーティング 反射器が用いられる。まず、短絡グレーティング反射器(図2.9 (b))の入力端x = 0に おける反射係数を求める。ここでは、V = 0であり、出力端x = LrにおいてU-(Lr) = 0 である。したがって、式(2.11)より、

(

j pLr

)

c

c =−Γ0 +exp−2 θ (2.19)

となる。式(2.11)及び式(2.19)を用いて入力端x = 0における反射係数Γは、

( ) ( ) ( )

(

p r

)

r p

L j

L j U

U

θ θ 2 exp 1

2 exp 1 0

0

2 0

0 −Γ −

− Γ −

=

= Γ

+

(2.20)

で与えられる。次に共振器の中の IDT(図 2.9 (c))を考える。反射器の影響を考慮す ると、IDT端x =±Li/2において、

( ) ( )

( ) ( )

(

/2

)

0

2 / 2

/

2 / 2

/

=

Γ

×

=

Γ

× +

= +

+

+

i

t i

i

t i

i

L I

L U L

U

L U L

U

(2.21)

の関係が成立する。ここで、Γtは、

(

g

)

t =Γexp −2jβ0L

Γ (2.22)

である。β0は自由表面下の SAW の波数である。これらの条件式に式(2.11)を代入す ると、

(33)

24

(

0

)

exp

(

/21

) (

1 0

)

exp

(

/2

)

0

i p t

i p t

t

L j L

V j c

c ξ θ θ

+ Γ

Γ

− +

− Γ

− Γ

Γ

− −

=

=

+ (2.23)

を得る。式(2.23)を再び式(2.11)に代入すれば、

( ) ( ) ( )

V CL j V L jL

jc L

I i i

p i p

i ξ ζ ω

θ

ζ +Γ θ − +

=

+ + 0 sin /2 8 0

1 16 2

/ (2.24)

となるので、式(2.24)から図2.9 (a)に示したSAW共振器の入力アドミタンスYは、

( ) ( ) ( ( )( )( ) )

i

t t i

p i

p u

i L L j j CL

j L

Y θ θ ω

κ θ

ζ +

⎥⎥

⎢⎢

⎡ −

⎭⎬

⎩⎨

Γ + Γ

Γ

− Γ + +

= +

1

1 1

1 2 1

/ cot 2

8 / 1

0 1 0

12 2

(2.25)

と導出される。

次に、求めた入力アドミタンス Y から、共振器の共振周波数と反共振周波数を求め る。反射特性を主として反射器により得る共振器を想定すれば、式(2.25)において、

pLi| ≪ 1と近似でき、

( )( )

( )( ) (

j L

)

j C

j L Y

i p t

t u

i ω

θ κ

θ

ζ +

⎪⎭

⎪⎬

⎪⎩

⎪⎨

⎧ +

+ Γ

− Γ +

Γ + Γ

− +

−1

0 0 12

2

2 1 / 1

1

1 1

8 (2.26)

を得る。また、反射器長が十分に長いとすると、|θpLr| ≫ 1の近似ができる。ここで、

(

g

)

t ≅Γ0exp−2jβ0L

Γ (2.27)

と仮定し、

( )

jφ

0 ≅exp

Γ (2.28)

(34)

25 と表現すれば、式(2.26)は、

( )

( ) (

L j L

)

j C

j L Y

i p g u

i ω

θ φ

φ β

κ θ

ζ +

⎪⎭

⎪⎬

⎪⎩

⎪⎨

+

− −

− +

−1 0

12 2

2 / 2

/ tan

2 / 1 tan

8 (2.29)

と表される。アドミタンス Y が最大となる共振周波数は、式(2.29)の右辺の中括弧内を 0とおいて、

( )

(

/2

)

tan

2 / 2 tan

/ 0

φ φ θp i = β Lg

L

j (2.30)

の解として与えられる。通常の SAW共振器では IDT と反射器間にギャップを設けな いので式(2.30)においてLg = 0とし、式(2.9)及び式(2.12)を代入すれば共振周波数fr

は、

( )

⎭⎬

⎩⎨

⎧ − − −

= 11 12 2 2/ 2

2 i

free

r L

p

f v π κ κ

π (2.31)

と求まる。式(2.31)から、共振周波数frは自由表面速度vfreeとIDTのグレーティング周 期pの他に、自己結合係数κ11とモード間結合係数κ12、IDTの長さLiの5つのパラメ ータで決定することがわかる。

一方、反共振周波数faは、アドミタンス Y の虚部 Im[Y]が 0 となる周波数なので、式 (2.29)でIm[Y] = 0とおいて、

( ) ( )

(

/2

)

tan

2 / 8 tan

2 1

0 12

2

φ φ β κ

θ ω

θ ζ ⎟⎟⎠≅

⎜⎜ ⎞

− + g

u p

i L

j C

L (2.32)

の解として与えられる。ここで、変換係数ζは、

(35)

26 p

C k ω

ζ η 2

= 2 (2.33)

と記述できる[40]。ηはIDT内の電荷分散による励振効率の低下の割合で、エレメント 係数と呼ばれる[42]。k2は基板材料の電気機械結合係数である。Lg = 0を想定し、式 (2.33)及び式(2.9)、式(2.12)を代入することで式(2.32)は、

2 1 1 2 2

2

12 11 2 2 2

11 2

12 ≅−

⎪⎪

⎪⎪

⎪⎪

⎪⎪

⎟⎟

⎜⎜

⎛ − + +

⎟ −

⎜⎜

⎛ − +

κ π κ

π κ η

π κ π

p v

p f

k p

v f L

free free a

a

i (2.34)

となる。式(2.34)の解が反共振周波数faであり、faは、vfreep、κ11、κ12Li、η2k2の6つ のパラメータで決定することがわかる。

ここで、Δf ( = fafr)のパラメータ依存性を考える。vfreepに関しては、共振周波数 と反共振周波数を同様に変化させると考えられることから、Δf を変化させないと考えら れる。したがって、Δfを変化させる可能性のあるパラメータはκ11、κ12、Li、η2k2の4パラ メータである。

まず、式(2.31)からκ11、κ12、Liに対する frの変化を計算した結果を図 2.10 に示す。

RFフィルタ用として一般的な 36°Y カットLT 基板上のAl 電極からなるSAW 共振 器を想定し、文献[39]より、パラメータの中心値は、κ11×p = 0.108、κ12×p = 0.094と した。また、Li = 200 p、p = 2.48 μmとした。グラフは、各パラメータの中心値を基準と した相対値でプロットしてある。frLi依存性は極めて小さいことがわかる。κ11、κ12に 対するfrの変化は大きく、κ11、κ12が大きいほど、共振周波数が低くなることがわかる。

次に、式(2.34)からκ11、κ12、Li、η2k2に対する faの変化を計算した結果を図 2.11 に 示す。グラフは、各パラメータの中心値を基準とした相対値でプロットしてある。式 (2.34)は解析的に解けないため、ニュートン法による数値計算で fa を求めた。κ11、κ12Liの中心値は図 2.10 と同じ値を用い、k2の中心値は 36°Y カット LT 基板を想定し て文献[40]からk2 = 0.085とした。η は、図2.8に示すシングル電極のIDTの場合、

次式で与えられる[40]。

(36)

27

0.5 1 1.5

0.97 0.98 0.99 1 1.01 1.02 1.03

Relative value of κ11, κ12, Li Relative resonance frequency fr

Li κ12

図2.10 κ11、κ12、Liに対する共振周波数frの変化 κ11

0.5 1 1.5

0.97 0.98 0.99 1 1.01 1.02 1.03

Relative value of κ11, κ12, Li, η2k2 Relative anti-resonance frequencyfa

Li κ12

図2.11 κ11κ12Li、η2k2に対する反共振周波数faの変化 η2k2

κ11

図 2.11 κ 11 、 κ 12 、 L i 、 η 2 k 2 に対する反共振周波数 f a の変化η2k2
図 2.21 位相反転率共振器を用いた PCS-Tx 用ラダー型 SAW フィルタの特性(実験)ExperimentSteepercut-offPass band(PCS-Tx)Attenuation band(PCS-Rx)
図 3.1 偏光検出法による LSAW の斜め放射の観測例   本研究では、LSAW の斜め放射に着目し、放射を抑制することで共振器を低損失 化し、高角形のラダー型 SAW フィルタを実現する。本章では、まず、 LSAW 共振器の 斜め放射を理論解析し、この結果をもとに、斜め放射を抑制できる「ナローフィンガー 共振器」を提案する。そして、この共振器及びこれを適用したラダー型 SAW フィルタ を作製・評価した結果を述べる。  (斜め放射が見やすくなるようコントラスト調整したため、IDT部分は白く飽和している
図 3.6 y 方向のモードプロファイルの計算結果例
+4

参照

関連したドキュメント