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分担研究報告書

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Academic year: 2022

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厚生労働科学研究費補助金(循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業)

分担研究報告書

松本における在宅酸素療法患者の緊急時・災害時の対応に関する問題

研究分担者  藤本  圭作      信州大学医学部保健学科検査技術科学専攻   

   

           

A. 研究目的

  東日本大震災以後、災害弱者に対する災害対策 の検討が、行政や医師会など様々な単位で見直さ れている。本研究班では在宅酸素療法を施行され ている患者に対し、緊急時・災害時の問題点を明 らかにすることを目的とした全国規模のアンケー ト調査が行われた。今回、松本市内の調査結果を まとめ、現状と課題について検討した。

B. 研究方法

【対象】松本市内で在宅酸素療法施行中の患者 443 名 

【方法】緊急時・災害時に対する対応について、

自記式調査用紙による意識調査を行った。調査内 容は、HOT 実施年数、病気の種類、酸素機器の種 類、酸素が急に使えなくなり困った経験(以下、

困った経験)の有無と対処内容、緊急時の対応の 説明を受けた認識、酸素が使えなくなった場合の 体調の変化、自宅で酸素が使えなくなった場合の 対処、外出先で酸素が使えなくなった場合の対処 等である。また酸素の効果について、強く感じる を 10、全く感じないを1とした 10 段階で答えて

もらった。 

調査用紙が入った封書を、酸素業者を介して配 布を依頼し、同封した返信用封筒にて郵送法にて 回収した。 

【調査期間】 

  平成 24 年 12 月〜平成 25 年 7 月 

【分析方法】回収した調査票の各項目について単 純集計を行った。またχ2検定による比較・検討を 行った。統計処理は SPSS を使用した。 

(倫理面への配慮) 

対象者に調査の主旨、調査の参加は自由意志であ ること、同意した場合のみ無記名で返送するよう 明記し、質問紙の返送を持って本調査に同意した とみなした。

C. 研究結果

199 名から回答を得た(回収率 44.9%)。  1.対象者の概要 

対象者の HOT 実施期間を図1に示す。疾患別で は COPD が 108 名(56%)と最も多く、間質性肺炎、

心不全共に 26 名(13%)、次いでがん(3%)、喘息

(2%)、神経筋疾患(2%)などであった。酸素機器 研究要旨:在宅酸素療法(以下 HOT)施行患者に対し、緊急時・災害時の問題点を明らかにすること を目的とした全国規模のアンケート調査が行われ、その中で松本市内の調査をまとめ、現状と課題 について検討した。199 名(回答率 44.9%)の分析によると、酸素が急に使えなくなり困った経験 ありは 26 名(13%)で、緊急時対応についての説明を受けたという認識は酸素業者からが 51.3%と 最も多く、看護師、医師からは 2 割前後と少なかった。酸素の効果を感じている群の方が、酸素が 急に使えなくなった場合に体調がすぐに悪化すると思う傾向が見られ、災害、特に停電時の対応を 繰り返し説明したり、シュミレーションを通して行うこと等で自助力を高める必要性が示唆された。

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22  の種類は 83%が酸素濃縮器と携帯酸素ボンベを使 用し、液体酸素は 9%、酸素濃縮器のみは 6%であ った。酸素が急に使えなくなった場合の体調の変 化で、すぐに悪くなると思うは、70 名(36%)で あった(図2)。安静時・労作時・就寝時酸素流量 の平均は各々、1.31±1.11L(SD)、1.90±1.36L、

1.37±1.08L で、酸素の効果の平均スコアは 7.43

±2.29 であった。 

 

 

2.困った経験 

経験ありは 26 名(13%)で、その内訳は酸素濃 縮器の故障 15 名が最も多く、次いで停電 12 名で あった。その時の対処は、酸素業者に連絡が最も 多く、予備携帯酸素使用、かかりつけ医に連絡、

何もせず我慢の順であった。 

3.酸素が使えない場合の対応 

緊急時の対応について説明を受けたという認識 は、酸素業者から 51.3%と最も多く、看護師 22.1%、医師 19.6%と少なかった(図3)。酸素

が使えなくなることによる体調が、すぐに悪くな る群と変らない・すぐに悪くならない群に分けて 見たところ、酸素の効果と有意差が見られ、酸素 の効果が平均以上の群の方がすぐに悪化すると答 える傾向が見られた。また、困った経験の有無と 有意差がみられ、困った経験ありの群の方が、体 調がすぐに悪化すると答える傾向が見られた(表 1)。 

    災害等で酸素が使えない時を想定して一番初め にする対応を尋ねたところ自宅にいる時では、携 帯酸素を使うが最も多く、酸素業者に電話する、

かかりつけ医に電話する、動かず我慢の順であっ た(図4)。酸素が使えないことによる体調の変化 として、すぐに悪化する群とすぐに悪化しない・

変らない 2 群との比較では、近所の病院・診療所 に行くと有意差が見られ、すぐに悪化しない・変 らない方が近医に行く傾向が見られた(表2)。 

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  また外出先の対応では、手元の予備の携帯酸素 を使う、酸素業者に電話する、自宅に戻るまで我 慢、家族に助けてもらう、の順であった(図5)。 困った経験の有無との比較において、自宅でまで 我慢すると有意差が見られ、経験が無い方が自宅 まで我慢する傾向が見られた(表3)。 

 

D. 考察

今回、地域に暮らす HOT 患者を対象に災害時の 対応について調査を行った。地域で暮らす住民の 災害時の対策については、自助、共助、公助のそ れぞれの役割が大切1)5)と報告されており、その 視点で考察した。 

1.自助力向上の必要性 

大部分が電気による酸素供給機(酸素濃縮器)

を用いている HOT 患者は、停電により酸素吸入が 途絶えることによる病状の悪化や生命の危機が危 惧される。そこで自助については、停電時の対応 として携帯酸素の予備の備えとスムーズな切り替 えが必要となる。今回調査の結果では、過去に酸 素が急に吸えなくなった経験は 1 割程度であった。

その原因は停電よりも機器の故障の方が多かった が、業者によると、寒冷により酸素が流出しない トラブルが原因と予想される。 

酸素が急に使えない場合の対応について説明を 受けた、という認識は業者からが最も多かったも のの全体の半数のみで、医療職から説明を受けた と認識している割合は 2 割程度と少なかった。HOT 患者は高齢者が多いので、繰り返し説明したり、

その手順を習得できるように、実際に訓練(シュ ミレーション)をすることによって自助力を高め ることに必要かと思われる。酸素の効果を平均以 上に感じている方が、酸素を使えなくなると、体 調がすぐに悪化すると思っている傾向が見られた ことや、酸素が急に使えなくなり困った経験があ る方が、体調が悪化する、と答える傾向が見られ

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24  たので、災害時等、緊急時にはさらに不安も増強 しパニックになることも予想される。落ち着いて 対応ができるように、患者の自覚症状や生活背景 を見極めた教育や指導、訓練が大切と思われる。

酸素が急に使えない場合を想定した指導は口頭の みでなく、シュミレーションを通して経験できる 場が必要かと思われ、外来時や訪問看護等利用し ている場合は専門職がその役割を担う必要がある と思われる。 

2.公助としての松本市の取り組み 

松本市は長野県中央に位置し、人口は約 24 万人 である。H23 年 6 月 30 日に東北地方太平洋沖地震 の誘発地震とされる、震度 6 の直下型地震が発生 した。日本列島の中部を横断する「糸魚川−静岡 構造線断層帯」の一部とされる牛伏次寺断層とい う活断層があり、30 年以内にマグニチュード(M)

8 程度の大地震が起こることが危惧されている。

松本市は医師会、歯科医師会、薬剤師会、広域消 防局の協力のもとに平成 18 年災害時医療救護活 動マニュアルを作成、平成 23 年に改定版1)、H25 年松本広域圏災害時医療連携指針2)に至っている。

HOT 患者に対しては、酸素流用が 3ℓ未満の場合は HOT センターへの誘導、医療救護所での対応を、3

〜5ℓ以上の高流量の場合は、予め案内された医療 機関の対応とするなどの、程度別の対応の場作り が考えられている。 

3.共助としての地域の支え合いと連  携の重要性 

地域で生活し、酸素療法などの医療依存度が高 い災害弱者に対しては共助となる支え合いが必要 であるが、松本市は災害時要援護者登録を呼びか け、その居住地区の区長や民生委員が安否確認を 行うシステムを作っている。災害要援護者の対象 は HOT 患者・児の他に、身体障害者、要介護 3〜5、

難病、妊婦、乳幼児などの約 83000 人が対象とな っている。その内、H26 年 2 月現在までの登録さ れている対象者数は HOT 以外の災害要援護者を含 めると約 9900 人で、HOT 患者の登録は約 1 割と報 告している。 

三塚ら3)によれば、東日本大震災後に酸素供給 に関する行動を起こさず、安否確認の遅れがあっ た患者に酸素中断の傾向があったと報告している。

したがって、災害発生時にどう行動すべきか、安 否確認の方法と共に前もって決めておくことなど の個々の災害時アクションプラン(個別支援計画)

が必要だと報告している。在宅人工呼吸器を使用 している神経難病療養者の災害時個別支援計画は 取り組み始めているが4)、5)、HOT 患者の場合も特 に、独居など生活背景が脆弱だったり、高流量で 療養されている場合などは、個々の災害時アクシ ョンプラン(個別支援計画)が重要になるであろ う。さらに災害時は停電時の対応、安否確認、移 動支援が必要であり、避難所や HOT センターへの 移動支援は家族だけでなく、地域の理解と助け合 いが欠かせない。医療情報が記載されている手帳 やカード等の携帯もまた必要だろう。 

ある HOT 業者は阪神淡路大震災を契機に災害対 応支援マップシステムを作成し6)、東日本大震災 時にも瞬時に、被災患者リストが作成され、即座 に安否確認と酸素配送が開始されたとのことであ り 7)、酸素業者の迅速な対応は大変心強い。酸素 業者や訪問看護ステーションなどと情報共有しな がら、特にハイリスク患者に対しては、地域ぐる みの取り組みが重要であり、平時から良好な地域 連携の構築が、非常時における HOT 患者の救済に 生きてくると思われる。 

 

文献 

1)松本広域圏災害時医療連携指針      平成 25 年 6 月 

2)災害時医療救護活動マニュアル    平成 23 年 7 月 

3)三塚由佳他:東日本大震災時の在宅酸素療法患 者の行動と災害時アクションプラン  日本呼吸 ケアリハビリテーション学会誌  第 23 巻  第 1 号  pp72−77  2013. 

4)厚生労働科学研究費補助金  難治性疾患克服 研究事業「重症難病患者の地域医療体制の構築

(5)

に関する研究」班  災害時難病患者支援計画策 定検討ワーキンググループ  災害時難病患者支 援計画を策定するための指針、2009. 

5)hpp://www.hukushihoken.metro.tokyo.jp/iry o/nanbyo/nk.shien/net.jigyou/index.html 東 京都福祉局:東京都在宅人工呼吸器使用者災害 時支援指針 全 87 頁、平成 24 年 3 月.   

6)大山幸雄、伊藤史、今井弘子他:     

災害時の緊急対応−HOT プロバイダーの役割

(新潟中越地震)−、日呼管誌、15:339−344、

2006. 

7)松本忠明:東日本大震災における在宅酸素療法 への対応。日本胸部臨床、71:232−242、2012. 

E. 結論

  酸素の効果を感じている群の方が、酸素が急に 使えなくなった場合に体調がすぐに悪化すると思 う傾向が見られ、災害、特に停電時の対応を繰り 返し説明したり、シュミレーションを通して行う こと等で自助力を高める必要性が示唆された。ま た、酸素業者や訪問看護ステーションなどと情報 共有しながら、特にハイリスク患者に対しては、

地域ぐるみの取り組みが重要であり、平時から良 好な地域連携の構築が、非常時における HOT 患者 の救済に生きてくると思われた。 

F.研究発表   1.論文発表

1. 木田厚瑞、藤本圭作、茂木  孝、矢内  勝。

大災害時に備え慢性重症の呼吸器疾患の対応 策をどのように構築するか。呼吸  33(3): 222-233, 2014.

2. 高橋宏子、藤本圭作、木田厚瑞。在宅酸素療 法患者の緊急時・災害時の対応に関する問題 に関する研究。日本呼吸ケア・リハビリテー ション学会誌に投稿中。

  2.学会発表

1. 藤本圭作。ランチョンセミナー。酸素療法の現 状と課題−運動時・睡眠時低酸素血症を中心に

−。第 53 回日本呼吸器学会学術講演会。東京 国際フォーラム、東京、2013年4月21日。

 

参照

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