厚生労働科学研究費補助金(健康安全・危機管理対策総合研究事業)
研究報告書
公衆浴場等施設の衛生管理におけるレジオネラ症対策に関する研究
感染源解明のための環境調査
研究分担者 磯部 順子 富山県衛生研究所 研究協力者 金谷 潤一 富山県衛生研究所 研究協力者 小澤 賢介 デンカ生研株式会社
研究要旨 本研究では,浴槽水,シャワー水および市中河川水におけるLegionella 属菌の 汚染状況調査と,感染源となり得る環境検体周辺の空気中のLegionella属菌の棲息状況に ついて,直接平板培養法だけでなく,アメーバ共培養法も併用して調査した.また,患者 検体から最も多く分離されているLegionella pneumophila 血清群1(以下Lp1)を環境検 体から効率よく検出するため,抗Lp1抗体で感作した免疫磁気ビーズ(LP1 IMB)を用い てLp1を選択的に濃縮する方法について検討した.
Legionella属菌の検出率は,浴槽水で8/40検体(20.0%),シャワー水で10/29検体(34.5%)
であった.アメーバ共培養法による分離結果は,浴槽水,シャワー水あわせた69検体中10 検体(14.5%)で,平板培養法の18検体(26.1%)に比べ,アメーバ共培養法で低かった.
河川水からは3/4回の調査でLegionella属菌が分離され,その検出率は浴槽水やシャワー 水より高かった.エアロゾルの調査については,道路沿い99検体,浴室内16 検体から,
直接培養法およびアメーバ共培養法においてLegionella属菌は分離されなかった.しかし ながら,遺伝子検査法では道路沿い検体で69.7%(69/99検体),浴室内検体で75.0%(12/16 検体)から Legionella 属菌の遺伝子が検出された.その 16S rRNA 遺伝子のコピー数
(copies/m3)は,道路沿い検体で60.6,浴室内検体で71.0であった.降水量が10 mm以 上の日で遺伝子量が多い傾向であった(t検定 = 0.073).Lp1 IMBを用いたLp1の選択的 濃縮については,Lp1 の回収率が25.0〜50.0%であったのに対し,Lp6,Lp5 では7.1%,
9.6%,L. bozemaniiやL. cherii,L. anisaについては,0.0〜0.01%と,Lp1で高かった.
また,直接平板培養法で Lp1 が分離されなかった実際の浴槽水検体から,IMB 法で Lp1 を分離することができた.
以上の結果から,道路沿いのエアロゾルは浴室内のそれと同様のリスクを含むことを示 したものと考える.今後,条件を変えながら検討することで,レジオネラ症の罹患のリス クの一端が明らかになるものと期待できる.一方,Lp1 IMB法については,Lp1の選択的 濃縮に有用であることが示された.雑菌を除去する工程を加えるなど,検出感度をあげる ことができれば,感染源の特定に有用な方法となることが期待される.
A.研究目的
レジオネラ症は,感染症発生動向調査に よると,平成 27 年の全国での届出数が 1,587件と,統計を取り始めた2000年から の 16 年間でもっとも多かった.本疾患は 2003 年の尿中抗原検査の保険適用により 全国的に届出数が増加傾向を示し始めたが,
それから既に 10 年以上が経過した現在で も増加傾向は続いている1). 一方,富山県 におけるレジオネラ症の発生状況は全国と 同様の傾向であるだけでなく,その罹患率 は全国の中でもっとも高い状況が続いてい る 1).そして,本疾患の感染源は,富山県 でも,全国でも特定された事例は多くはな い.
そこで,レジオネラ症の発生を予防する ため,感染源を明らかにすることを目的と して,富山県の公衆浴場の浴槽水とシャワ ー水,河川水中のLegionella属菌の棲息状 況を調査した.今年度はアメーバ共培養法 についても検討した.また,これまでの調 査でLegionella属菌が検出された環境検体 からの感染様式を明らかにするため,検体 採取近辺で空気中に浮遊するLegionella属 菌を調査した.一方,患者検体から最も多 く分離されているLegionella pneumophila
血清群 1(以下 Lp1)を環境検体から効率
よく検出するため,抗Lp1抗体で感作した 免疫磁気ビーズ(IMB)を用いて選択的濃 縮法によるLp1の分離について検討した.
B.研究方法
1.感染源調査(浴槽水・シャワー水・河川 水)
①検体
調査対象は,公衆浴場の浴槽水,シャワ
ー水および河川水とした.浴槽水とシャワ ー水については,対象施設の選定と採水を 厚生センター職員に依頼した.河川水につ いては,富山市の街の中心部を流れる 4河 川を対象とした.
②調査期間と試料
浴槽水とシャワー水の試料は,平成28年 9月〜12月に11施設で採取された40検体 および29検体である.シャワー水について は,温度を40℃に設定後,約 10 秒間流出 させた後,容器に採取した.河川水の試料 は,富山市内を流れる4河川5地点(図1)
で5,6,9,10月に採取した20検体であ
る.
③Legionella属菌の分離
Legionella 属菌の分離は,厚生労働科学
研究費補助金(健康安全・危機管理対策総 合 研 究 事 業 )「 公 衆 浴 場 等 に お け る
Legionella 属菌対策を含めた総合的衛生管
理手法に関する研究」の精度管理ワーキン ググループが推奨する浴用水の方法 2)に準 じて行なった.
濃縮方法:浴用水1,200 ml,シャワー水 500 ml,河川水1,000 mlは,メンブランフ ィルター(直径47 mm,0.2 μm,ミリポア 社ポリカーボネート ISOPORE)で吸引ろ 過し,フィルターを100倍濃縮量となる滅 菌蒸留水で1分間ボルテックスしたものを 試料とした.
培養法:浴槽水,シャワー水は濃縮,非 濃縮検体いずれについても,未処理,酸処 理(0.2M KCl-HCl,pH2.2で等量混合後5 分間静置),加熱処理(50℃20 分アルミバ スで加熱)を行い,その100 lをGVPC培 地(日水製薬)にコンラージ棒で広げて35℃
で培養した.ただし,酸処理検体は,200 l
について同様に培養した.また,濃縮液1 ml
に PYGC 培地で 30℃1週間培養したアメ
ーバ増菌液(古畑らの報告 3))を添加し,
35℃で1か月培養した(アメーバ共培養法).
培養液を酸処理液(0.2M KCl-HCl,pH2.2)
と等量混合後,室温で15分静置した.混合 液200 μlをGVPC培地にコンラージ棒で 広げて,35℃で7日間培養した.河川水は,
濃縮検体5 mlについて,上記に示したアメ ーバ共培養法を実施した.
④分離されたLegionella属菌の同定 同定は,平板に発育したLegionella属菌 様のコロニーについて,森本の報告4)した 斜光法で特異的な形態を観察し,血液寒天
培地とBCYE-α培地(ビオメリュー)に移
植し,システインの要求性を確認した.次 に,BCYE-α 培地にのみ発育したコロニー について,レジオネララテックステスト
(OXIDO)とレジオネラ免疫血清(デンカ 生研)により血清群を決定した.
Sequence-Based Typing法による遺伝子 型 (ST) の決定 は,European Working Group for Legionella Infectionsの方法に 従って実施した
(http://www.hpa-bioinformatics.org.uk/leg ionella/legionella_sbt/php/sbt_homepage.
php).
2.エアロゾル調査
主に雨天の日の道路沿い 99 検体および 浴用施設の浴室内16検体について,エアー サンプラ(コリオリスμ)を用いてエアロ ゾルを捕集した.道路沿いのエアロゾルに ついては,6 月〜11 月にかけて,県内 12 地点で捕集した.浴室内のエアロゾルにつ いては,10月〜12月にかけて12施設で捕 集した.なお,12検体は9施設のミスト発
生装置(稼働中)周辺の浴槽水付近で捕集 した.15 mlの溶液(0.005% Tween 80液)
中に300 l/minの条件で10分間捕集した.
遺伝子検査法は,捕集液2 mlを用いて行 った.15,000 rpmで5分間遠心後の沈殿に 100 l のキレックス溶液を添加し,100℃
で10分加熱後,遠心上清をDNA溶液とし た.定量PCRは,Cycleave PCR Legionella (16S rRNA) Detection Kit(タカラバイオ)
を用いた.
直接培養法による検査は,捕集液100 μl をGVPC培地(日水製薬)にコンラージ棒 で広げて,35℃で7日間培養した.
アメーバ共培養法による検査は,浴用水・
シャワー水・河川水と同様に行った.
3.免疫磁気ビーズによるLp1の選択的濃 縮法の検討
①免疫磁気ビーズ作製方法
Lp1 IMBはデンカ生研で作製した.Lp1
以外の血清群に対する交差反応を吸収後,
硫安分画にて粗精製し,至適感作濃度(ビ ーズに結合しやすい抗体の濃度)とした抗 体を磁気ビーズに感作し,Lp1 免疫磁気ビ ーズ(Lp1 IMB)とした.
②使用菌株と菌懸濁液作製法
菌株は表1に示した.これらの菌を滅菌 生理食塩水にてマックファーランド 2.0 に 調整し,その−5乗もしくは−6 乗まで10 倍段階希釈し,検体とした.菌懸濁液100 l
をBCYE-α培地(ビオメリュー)にコンラ
ージ棒で拡げ,35℃で7日間培養し,菌数 を測定した.
③IMBによるLp1濃縮法
浴槽水検体もしくは菌懸濁液 1 ml に IMB 1滴(およそ25 l)を滴下し,10分 毎に転倒混和しながら30分間吸着させた.
ビーズを磁石で集め,滅菌生理食塩水で洗 浄した.この操作(洗浄)を2回実施した 後,最終的に生食 100 l もしくは 200 l に懸濁,ボルテックスでよく混和し,IMB 検体とした.この IMB 検体 100 l を
BCYE-α培地,GVPC培地のどちらか1枚
もしくは両方にコンラージ棒で拡げ,35℃
で7日間培養した.
④IMBの性能試験
−5乗,−6乗希釈したレジオネラ菌懸濁 液1 mlを③の方法で濃縮分離した(単一血 清群での回収率).また,L. pneumophila の2血清群またはL. pneumophilaと他の 菌種の懸濁液をそれぞれ1:1,あるいは1:
9 に混合したものを検体とし,③の方法で Lp1 を濃縮分離した(混合血清群での回収 率).分離平板に発育した菌数を数え,②で 求めた推定菌数に対する回収率を比較した.
菌数が多い場合には 12〜24 個のコロニー について,レジオネラ免疫抗血清を用いて 血清群別を行い,その比率から発育菌数を 求めた.また,平板上で蛍光を発する菌に ついては蛍光を指標として菌数を区別して 数えた.
⑤Lp1 IMBによる浴槽水からのLp1検出 浴槽水検体を用いて,③に従い,Lp1 の 分離を試みた.
(倫理面への配慮)
本研究は,研究機関内外の倫理委員会等 における承認手続きが必要となる研究には 該当しない.
C.研究結果
1.浴槽水・シャワー水におけるLegionella 属菌検出状況
浴槽水及びシャワー水から検出された Legionella属菌の菌数および菌種(血清群)
を表2に示した.Legionella属菌が検出さ れたのは,浴槽水で4/11施設(36.4%)か ら 8/40 検体(20.0%),シャワー水で 5/11 施設(45.5%)から10/29検体(34.5%)で あ っ た . Legionella 属 菌 数 が 1,000 CFU/100 mlを越えたものは浴槽水2検体 で,いずれも塩素注入されていない施設で あった.Legionella 属菌が分離されたシャ ワー水の水質は8検体(80%)が井戸水で あった.その菌数が最も多かったのは温泉 水を利用し,遊離残留塩素濃度(以下残塩 濃度:mg/l)が 0.2 以下のシャワー水であ った.浴槽水から分離されたLegionella属 菌で最も多かったのはLp6,次いでLp1で あった.シャワー水で最も多かったのは Lp5とLp15であった.
次に,今年度実施したアメーバ共培養法 によるLegionella属菌の分離結果について,
通常の直接平板培養法と比較した結果を表 3 ①〜③に示した.Legionella 属菌の検出
率(表3①)は,69検体中,平板培養法で
18検体(26.1%),アメーバ共培養法で10 検体(14.5%)と平板培養法で高かった.
L. pneumophila では,アメーバ共培養法 でのみ検出された血清群は認められなかっ た(表 3②).これ等の結果について表3③ で相関を見ると,平板培養法で Legionella 属菌のみ分離された検体が10件で,アメー バ共培養のみ陽性となった 2検体はどちら もシャワー水で,分離されたのは Lp6 と UTであった.
河川水におけるLegionella属菌の月別の 検出率と分離された菌を表 4 に示す.6 月 を除き,Legionella 属菌が検出され,その
検出率は浴槽水やシャワー水よりも高かっ た.データは示していないが,地点1で検 出率(3/4検体,75%)が高かった.また,
分離されたのは,L. pneumophilaが多かっ た.分離されたLp1のSTは,ST127であ った.
2.バイオエアロゾルLegionella属菌検出 状況
道路沿い99検体,浴室内16検体につい て調査した結果,直接培養法およびアメー バ共培養法においてLegionella属菌は分離 されなかった(表5).しかしながら遺伝子 検査法においては,道路沿い検体で 69.7%
(69/99検体),浴室内検体で75.0%(12/16 検体)からLegionella属菌の遺伝子が検出 さ れ た .16S rRNA 遺 伝 子 の コ ピ ー 数
(copies/m3)は,道路沿い検体で60.6,浴 室内検体で71.0であった.
道路沿い検体について,降水量,平均気 温,平均湿度ごとの検出率などを比較した
(表6).エアロゾル捕集当日の降水量が10 mm 未満と以上の日で,コピー数の幾何平 均が49.7と88.1となり,10 mm以上の日 で遺伝子量が多い傾向であった(t 検定 = 0.073).
3.免疫磁気ビーズによるLp1の選択的濃 縮法の検討結果
Lp1を含む供試菌(表1)のLp1 IBMに よる回収率結果を表7に示した.全体とし てみると,Lp1 の回収率が 25.0〜50.0%で あったのに対し,Lp6,Lp5では7.1%,9.6%,
L. bozemaniiやL. cherii,L. anisaについ ては,0.0〜0.01%と低かった.−5 乗より
−6乗希釈液での回収率が高い菌株が多く,
50%を超える回収率が,菌株 No. 3,4,5 の希釈液で認められた.
Lp1とそれ以外のLegionella属菌懸濁液 を混合した場合の結果は図2,3に示した.
等量混合した場合(図2)では、Lp1 の回 収率は16回中12回(75.0%)で40.0%以 上を示し、他の菌の回収率より高かった.
しかしながら,7回目,15回目では,これ らは同一日に実施しているが,Lp1 は平板 上にそれぞれ 6個,2 個のみ発育が認めら れただけで,その回収率は 2%以下と低か った.
一方,Lp1と他のLegionella属菌懸濁液 を1:9で混合した場合,1〜11回目(11/17,
64.7%)でLp1の回収率は40.0%以上であ ったが,14 回目を除き、12〜17 回目の試 験では回収率は 10%以下と低かった.12,
13回目は前述の等量混合の7,15回目と同 一日に実施した.6 回目の実験も同一日に 実施したが、Lp1の回収率は10.6%と高く はなかった。表には記載していないが、13 回目の実験は2 重測定したが、もう一方の
結果も9.1%と、10%以下の回収率であった。
次に,実際の浴槽水の 100 倍濃縮水に
Lp1 IMBを用いたときの培養結果について,
直接培養法と比較した結果を表 8に示した.
IMBを用いた場合にLp1が分離されたのは 2検体で,逆に直接培養法のみでLp1が分 離されたのも2 検体であった.結果が異な った4検体の詳細を改めて表8の下段に示 した.IMB法のみでLp1が分離された検体 で は , 直 接 培 養 法 の 結 果 は , 1 検 体 が Legionella属菌陰性,1検体(590 CFU/100 ml)はLp1は分離されなかったものの,Lp3,
Lp4,Lp5 が分離された.直接培養法のみ
で Lp1 が分離された 2 検体はどちらも Legionella属菌の菌数は少なかった.
D.考察
2007年から2016年にわが国におけるレ ジオネラ症患者から分離され,レファレン スセンターで解析されたレジオネラ属菌は,
85.1%がLp1であった.そして,このLp1 のSBTの遺伝子型をMinimum Spanning Treeで解析すると,129/410株(31.4%)
は浴槽水グループに,165/410株(40.2%)
は土壌・水溜り分離株グループに近いこと がわかっている 5).しかしながら,実際に は感染源が判明した事例は極めて少ない状 況である.平成26年度のレファレンスセン ター収集株の中で,推定感染源からの環境 検体分離株のPFGEが臨床検体分離株と一 致したのは6例のみであった 6).
このような背景を踏まえ,本研究では,
実際に感染源となり得る環境検体中のエア ロゾルまたはミスト中のLegionella属菌を 証明し,とりわけ,水溜りなど,これまで 直接的な感染源とは証明されていない環境 のリスクを明らかにしようと試みた.残念 ながら,直接平板培養,アメーバ共培養法,
どちらの培養法でもLegionella属菌を分離 することはできなかった.しかしながら,
遺伝子検出法では 60〜70%の検体で陽性 となり,空気中にLegionella属菌が浮遊し ていることが示唆された.また,興味ある ことに,道路沿いで採取した検体(69.7%)
におけるLegionella属菌の遺伝子の検出率 は,浴室内のミスト発生装置周辺で採取し た検体(75.0%)と比較して大きな差は認 められなかった.このことは,道路沿いの エアロゾルは浴室内のそれと同様のリスク を含むことを改めて示したものと考える.
今後,晴天の日やエアロゾルの発生のない 屋内における検出率や遺伝子量と比較する
ことで,雨天の日の道路沿いや浴用施設の 浴室内におけるレジオネラ症罹患のリスク が明らかとなる可能性が示唆された.なお,
アメーバ共培養については,これまでの報 告7)でも直接培養法に比べ,検出率が低い と報告されており,本年の結果もそれと同 様の結果であった.この原因は明らかでは ないが,環境中ではアメーバへの感染が増 殖の重要な過程となっていることから,共 培養については検査法の検討が必要である と思われる.
レジオネラ症の感染源を特定することは,
感染拡大を防止するために重要となる.そ のためには,患者喀痰から多く分離される Lp1 を標的として分離を試みる必要がある.
しかしながら,感染源となるような,すな わち衛生管理の不十分な浴槽水はLp1だけ でなく,他の血清群の L. pneumophila を はじめ,いわゆる雑菌も多く検出される場 合が多いため,標的とするLp1の検出が困 難となる場合が多い.一部のLegionella属 菌は選択分離培地上で蛍光を発するなど,
視覚的に鑑別可能であるが,多くはコロニ ー形状だけでLp1と特定することはできな い.そのため,Lp1 を検出するには多くの コロニーについて血清群を調べるなど,時 間と労力がかかることが大きな課題である.
本年度,Lp1を標的としたIMBを用いた選 択的濃縮分離法は,一部で十分な回収率が 得られなかったが,多くの場合で本法が有 用であることを示した.回収率が低かった 実験結果の原因は不明であるが,ある特定 の日の実験では,ビーズ濃縮法を用いない 培養平板でも菌数が少なく、菌の状態に問 題があった可能性があり、結果として回収 率が低くなったのかもしれない。IMB法は
これまでにも様々な菌種での検査法8)に採 用されている事からも,その有用性が高い という結果は信頼できるものと考える.本 年の実際の浴槽水において Lp1 IMB を使 用した培養法で,従来の直接平板培養法で 検出できなかったLp1を検出した意義は大 きい.残念ながらこのLp1は患者由来株と SBTが異なっていたため,感染源特定には 至らなかったが,このIMB法はレジオネラ 症の感染源の特定に一助となることが明ら かとなった.さらに検出感度を高めるため,
Lp1 以外の菌を除去する方法として,酸処 理法や熱処理法などを検査工程に加える検 討が必要と思われる.
結語
感染源となり得る環境(エアロゾル)検 体から Legionella 属菌の遺伝子を検出し,
ヒトへの感染経路の一端を証明することが できた.しかしながら,直接,菌を分離す ることはできなかったため,継続した調査 が必要である.一方,IMBについては,感 染源調査に有用と思われるため,検出感度 の向上を目指し,実用化に向けて具体的な 使用手順などの検討が必要である.
謝辞
本実態調査を実施するにあたり,富山県 生活衛生課,各厚生センター,富山市保健 所の担当者および採水にご協力いただいた 浴用施設の皆様に深謝いたします.
E.参考文献
1) 国立感染症研究所感染症発生動向調査 週報.
http://www.nih.go.jp/niid/ja/allarticles/sur
veillance/239-idwr/data/6998-idwr-sokuh o-data-j-1652.html.
2) 森本 洋,他.Legionella属菌検査法の 安定化に向けた取り組み.厚生労働科学研 究費補助金(健康安全・危機管理対策総合 研究事業)「公衆浴場等におけるLegionella 属菌対策を含めた総合的衛生管理手法に関 する研究」 平成24年度総括・分担研究報 告書 93-131.
3) 古 畑 勝 則 , 他 .2002. 土 壌 か ら の
Legionella 属菌の分離状況.日本防菌防黴
学会誌.30:555–561.
4) 森本 洋.2010.分離集落の特徴を利用 したLegionella属菌分別法の有用性.日本 環境感染誌 25:8-14.
5) レジオネラレファレンスセンター会議 報告.2016年.衛生微生物技術協議会第 37回研究会.
http://www.nih.go.jp/niid/images/lab-man ual/reference/H28_Legionnaires.pdf.
6) レジオネラレファレンスセンター会議 報告.2015年.衛生微生物技術協議会第 36回研究会.
http://www.nih.go.jp/niid/images/lab-man ual/reference/H27_Legionnaires_2.pdf.
7) Akiko Edagawa et al. 2015.
Investigation of Legionella
Contamination in Bath Water Samples by Culture, Amoebic Co-Culture, and
Real-Time Quantitative PCR Methods.
Int J Environ Res Public Health.
12:13118-13130.
8) 工藤由起子,他.2015.腸管出血性大腸 菌O26,O103,O111,O121,O145およ び O157 の食品からの検出における選択増 菌培地および酵素基質培地の検討.日本食
品微生物学会誌.32:60-66.
F.研究発表 論文発表
Jun-ichi Kanatani, Junko Isobe, et al.
2017. Prevalence of Legionella Species Isolated from Shower Water in Public Bath Facilities in Toyama Prefecture, Japan. J Infect Chemother. Epub ahead of print. doi: 10.1016/j.jiac.2017.01.002.
報告
磯部順子,金谷潤一,他:富山県における 浴用水中Legionella属菌の分離状況(2015 年)富山県衛生研究所年報.39,61-67,2016.
G.知的財産権の出願・登録状況 なし
図 1 平成 28 年度市中河川水採水 地点
表 6.道路沿いエアロゾルにおけるLegionella 属菌検出状況 表 5.エアロゾル中のLegionella 属菌検出状況
表7.IMB によるLegionella 属菌(単一血清群)の回収率
図 3.Lp1 菌の混合比を 1/10 にした場合の回収率の比較
表 8.実検体(浴槽水)における Lp1 の分離状況
(免疫磁気ビーズと通常培養法との比較)