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感 覚 を 楽 し む﹁ 場 ﹂を つ く る │ ﹁ タ ッ チ & ト ー ク ﹂を 通 じ て 学 ん だ こ と

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Newsletter of The National Museum of Modern Art, Tokyo [Dec. 2015-Jan. 2016] 10

  キュレーター研修に際し私が特に関心を持ち︑重点的に取り組んだのが︑鑑賞プログ 1

ラム﹁タッチ&トーク﹂である︒このプログラムの最大の特徴は︑ギャラリートークの中

に︑作品に﹁触る﹂時間が含まれていることである︒もちろん展示室にある作品を触るの

ではなく︑工芸館ではこのプログラム専用の参考作品を準備している︒参考といっても

ラインナップは本格的で︑重要無形文化財保持者︵︶による作品も多数含まれ

る︒美術館では通常︑鑑賞といえば﹁見る﹂ことを意味する︒そこに﹁触る﹂行為が加わ

ることで︑鑑賞体験はどのように変化するのだろう︒また︑こうした鑑賞の試みは︑美術館にとってどのような意義を持つだろうか︒本稿で︑私が見た﹁タッチ&トーク﹂の現場を振り返りながら改めて考えてみたい︒

2

&﹂

  工芸館では今夏︑﹁こども+おとな工芸館 ピカ☆ボコ﹂展が開催された︒﹁オノマトペ

で読みとく工芸の魅力﹂という副題のとおり︑思わず擬声語で表現したくなる作品が多数展示されていた︒会期中︑三歳から小学校三年生を対象とする﹁こどもタッチ&トー

ク﹂を見学した︒二年生以上とそれ以下の二組に分け︑各組にトーカー一名︑サポート

スタッフ二︑三名が同行する︒

  始まる前の子どもたちの表情は︑実に様々だ︒保護者と別れて不安そうな顔︑何が 起きるのかわくわくした顔︑緊張した顔⁝⁝︒三者三様の彼らの眼が︑展示室に入った瞬間に揃ってキラリと光る︒その眼

は面白そうな未知のものを絶対に見逃さ

ない︒ガイドがトークを開始する︒﹁どれ

が一番好き?﹂という質問に︑思い思いに作品を選ぶ子どもたち︒﹁ジロジロめがね﹂

で︑意中の作品を観察している子もいる

1

︒﹁ジロジロめがね﹂は︑鑑賞体験の少ない子ども向けに考案された双眼鏡型

のツールで︑眼鏡を覗きたいという意欲を活用して子どもが作品鑑賞に自然と集中することを目的としたものだ︒ガイドの声が

けで︑選んだ作品のどこが好きなのか言葉にしていく︒ガラスの作品が﹁キラキラしてて好き﹂という子や︑言葉にできず精一杯の思いで指をさしてくれた子︒見る角度によっ

て形が変わって見える作品を発見した子は︑嬉しそうに他の子に教えていた︒

  進行していく中で︑子どもの手が作品に接触しそうになる場面が何度か見られた︒

もちろん︑展示作品には触れないことは︑事前にガイドから伝えられている︒しかし︑熱心に見ているうちに我知らず体が動いてしまうらしく︑ガイドに言われて初めて事態に気づくと︑自分でも驚くようだ︒

  見ることと触ることがほぼ不可分な子どもにとって︑﹁さわってみようコーナー﹂が楽し

いことは言うまでもなく︑持ち上げたり裏返したりと熱心に鑑賞する姿が見られた︒展覧会のテーマに合わせ︑様々な手ざわりや表情の作品が十点程用意されていた︒大人の場合は︑この機会に色々な作品に触ってみようとする人がほとんどだが︑とくに年少の子

ほどその意識は希薄のようだ︒むしろ︑気に入った一点に集中し﹁これは私のもの﹂と心

に定めた作品を︑舐めるように撫でたりひっくり返したりする姿が多く見られた︒

  ﹁こどもタッチ

&

ーク﹂では︑最後に工作を実施する︒これは視覚や触覚から得た

イメージを自身でも作りだしてみることで︑鑑賞の記憶を定着させることを主な目的と

したものだ︒今回は薄い金属板を細い棒で引っかいて凹凸で模様を描き︑エンブレムを作った︒﹁ピカピカ﹂する素材の特性や︑自分の手で﹁ボコボコ﹂を作りだす喜びを各々に感じながら集中して作業を楽しむ様子が見られた︒

感 覚 を 楽 し む﹁ 場 ﹂を つ く る │ ﹁ タ ッ チ & ト ー ク ﹂を 通 じ て 学 ん だ こ と

松 﨑 な つ ひ

図1  会場で「橋本真之《運動膜・切片群》」を観察

(2)

11 Newsletter of The National Museum of Modern Art, Tokyo [Dec. 2015-Jan. 2016]

3

意味

  研修中に参加した一般向けの﹁タッチ

&

ーク﹂では︑厳かに恭しく作品を扱

う様子がしばしば見られた︒おそらく﹁本物の貴重な作品﹂に触れているという高揚感や畏怖に似た思いが︑自然とこれら

の振る舞いを引き出すのだ︒それは年を重ねて物の真価を知った大人特有の︑作品理解のひとつのかたちであろう︒他方︑﹁貴重品に触る﹂という期待感は︑子ども

の場合ほとんどない︒極端に言えば︑作品と非・作品との区別もあまりしていない︒その分︑彼らはとても豊かにもの自体への反応を見せる︒例えば︑繊細そうな薄い陶器は︑そっとやさしく手に取るが︑頑丈そう

な厚みのあるガラスのオブジェは︑扱いにそこまでの躊躇がみられない

繰り返しているはずだが︑私たちは普段それを意識することはない︒そう考えると︑﹁見 使って対象を把握し︑自分の周りの世界を拡げていく︒大人になってもそのプロセスを 生まれたばかりの赤ちゃんは︑誰に教わらなくとも︑見る︑触れる︑舐めるなど五感を 反応は︑子どもが直感的に素材の性質や形状を把握していることを示すのではないか︒ 2︒こうした

る﹂ことの殿堂である美術館という場所で︑あえて見る以外の鑑賞を体験することは︑私たちが日頃無意識に五感を通じて多くの情報を享受していることを再確認するため

の︑ひとつの仕掛けになり得るのではないだろうか︒

4

活躍

  ﹁タッチ&トーク﹂および﹁こどもタッチ&トーク﹂の進行は︑工芸館専属のボランティ

アであるガイドスタッフが担っている︒最後に︑見事な進行によってプログラムを支える

ガイドスタッフについても書き記しておきたい︒

  本番に至るまでのガイドたちの努力は並大抵ではない︒展覧会前から勉強会や資料

の読み込みを行い︑各自がガイドプランを作って当日に臨んでいる︒また︑どのガイド

も単なる知識の披露に陥らないよう練習を重ね︑参加者との対話を重視した進行を行っている︒工芸館の研究員が一丸となって全面的なサポートを行っていることも見逃 せない︒担当者任せにせず館全体で取り組む姿勢は︑ボランティアによる充実したプロ

グラムの実施には欠かせない要素であろう︒

  研修期間と重なった﹁青磁のいま﹂展の﹁タッチ&トーク﹂での一コマを例に挙げよう︒

さわってみようコーナーの作品の中に出品作家で人間国宝の三浦小平次作の香炉が

あった︒愛らしい小平次作品は展示室でも人気の的だったが︑いざ目の前にすると遠慮

や戸惑いを感じているようだった︒それを察したガイドが﹁ぜひ持ち上げてみて﹂と声を

かけながら︑丸みをおびた香炉を両手で包み込むようにしてみせた︒その動作に誘われ

るように手に取った女性から﹁意外と重たい!﹂﹁厚みがあるのね﹂などと感想が出て︑

その後は他の人も積極的に作品を手に取り始めた︒参加者の立場に寄り添って一緒に作品を楽しもうとするガイドの対応が︑豊かな鑑賞体験を引き出した︒

  ﹁タッチ&トーク﹂は︑見るだけでなく触るという体験を通じて豊かな鑑賞の﹁場﹂を

もたらす優れた仕組みだが︑美術館︵︶と来館者︑そして両者をつなぐ媒介者として

のボランティアガイドの存在があることで︑その場はより充実したものとなる︒私にとっ

て今回の研修は︑鑑賞活動における新たな視点を得るとともに︑生涯学習の場として

の美術館という装置が決して単独では存在し得ないことを︑肌で感じる貴重な機会と

なった︒︵

後記  松﨑なつひ氏は︑平成二十六年度に工芸館でキュレーター研修を受けられた︒所属館でも様々なプログラムに従事されているが︑ボランティアガイドの導入を検討中で

あることから︑当館ではボランティアである工芸館ガイドスタッフの活動︑特に﹁タッチ&トーク﹂の運営の実地調査に重点をおかれた︒﹁タッチ&トーク﹂はガイドスタッフに

よる鑑賞プログラムだが︑毎回展示内容が変わり︑素材技法︑形式も多様なので準備は相当量となる︒そのため工芸館ではガイドスタッフと研究員とが日頃から交流し︑協同

する意識をもって臨んでいる︒ガイド当日の表舞台と︑その背後にある勉強会やスタッ

フ間の交流にも参加した松﨑氏には︑第三者であると同時に当事者としての視点も期待できる︒今回は夏季イベント時に再び来館いただき︑子ども向けという局面に集約された鑑賞プログラムのあり方︑そしてボランティアの活用について考察していただ

いた︒︵

図2  さわってみようコーナーで

「高橋禎彦《つぶつぶボウル》」を満喫

参照

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