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小児期の肥満とやせ ―生活習慣との関連について―

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(1)

総  説 

小児期の肥満とやせ

生活習慣との関連について

昭和大学医学部衛生学公衆衛生学講座(公衆衛生学部門)

落合 裕隆  白澤 貴子  大津 忠弘 南里妃名子  星野 祐美  小 風  暁

は じ め に

 わが国の肥満傾向児の出現率は 2006 年度以降,

減少傾向となっているものの,2012 年度における 肥満傾向児の出現率は,男子は 9 歳以上の各年齢で 10%前後(8.4 〜 11.4%),女子は 9 歳以上の各年齢 で 8%前後(7.2 〜 8.6%)であった

1)

.これは,小 学校中学年〜高校生では,男子の約 10 人に 1 人,

女子の約 13 人に 1 人が肥満傾向であることを示し ている.

 一方,2012 年度における痩身傾向児の出現率は,

男子は 9 歳以上の各年齢で 1.4 〜 3.4%,女子は 9 歳以上の各年齢で 1.9 〜 4.2%であり,肥満傾向児 に比べて低いものの,2006 年度以降,概ね増加傾 向となっている

1)

.したがって,今後はさらに増加 する可能性が考えられる.

 小児期における肥満・やせは,様々な弊害をもた らすことがこれまでの研究から明らかとなってき た.小児の肥満・やせを予防するためには,「小児 期の肥満・やせがもたらす弊害」について認識し,

「小児期の肥満・やせと関連する生活習慣」につい て知り,今の生活環境を変えるか,今の生活環境の 中でより良い生活習慣を身につけていくことが必要 である.

 そこで本稿では,「小児期における肥満・やせの 弊害」と「小児期の肥満・やせと生活習慣の関連」

について述べる.

小児期における肥満・やせの弊害  1.肥満による弊害

 肥満とは,脂肪組織に脂肪が過剰に蓄積した状態 である

2)

.小児の肥満は,「肥満度 20%以上」によ り判定され,「20%≦肥満度< 30%」は軽度肥満,

「30%≦肥満度< 50%」は中等度肥満,「肥満度 50%以上」は高度肥満に分類される

3)

.また,先行 研究における小児肥満症の診断基準には,肥満症の 定義:「肥満症とは肥満に起因ないし関連する健康 障害(医学的異常)を合併する場合で,医学的に肥 満を軽減する治療を必要とする病態をいい,疾患単 位として取り扱う」が示されている

4)

 小児期における肥満は,成人肥満同様に高血圧,

糖尿病などの健康障害をもたらす

5)

.例えば肥満小 児では,約 3 〜 5%が高血圧,約 10%が正常高値血 圧であり,非肥満小児と比べ明らかに血圧の異常頻 度が高いことが報告されている

6)

.また,耐糖能異 常は,4 〜 10 歳の肥満小児のうち 25%,11 〜 18 歳 の肥満小児では約 20%にみられることも示されて いる

7)

 小児肥満には,学校生活への不適応などの精神社 会的諸問題も存在することが報告されている

6)

.佐 竹は,肥満小児の性格・心理的傾向として,消極 的・非活動的ということを示し,消極的で非活動的 な生活は,人とのコミュニケーションや学習意欲に 悪い影響を与え,さらに肥満が進むだけでなく精神 的にも不安定になっていく可能性を述べている

8)

.  小児肥満は,そのかなりの部分が成人の肥満に移 行することが知られている

9)

.さらには,13 歳まで の脂肪蓄積は成人の肥満,糖代謝,総コレステロー ルおよび LDL-コレステロールと相関していること も報告されている

10)

.小児期に肥満となりそのまま

(2)

成人肥満に移行した例と,成人期に肥満となった例 を比較すると,肥満の期間は,前者の方が長いこと になる.肥満による健康障害は,肥満の期間が長い ほど多いとされているので,このことからも小児期 からの肥満対策がいかに重要であるかが分かる

11)

.  したがって小児肥満は,小児期において心身の健 康障害をもたらすのみならず,成人期の健康におい ても影響を及ぼすため,公衆衛生上,非常に重要な 問題である.

 2.やせによる弊害

 やせとは,身長に対して体重が著しく少ない状態 であるが,小児期では体重が減少あるいは増加不良 である状態を指すこともある

12)

 やせは,病的意義のない「体質性やせ」と原疾患 のある「症候性やせ」に大別される

13)

.やせをきた す主な病態としては,①摂取エネルギー不足,②摂 取エネルギーの喪失(嘔吐,下痢,腎疾患),③消費 エネルギー量が多い(代謝の亢進),④吸収した栄養 を利用できない(栄養利用不全)が挙げられる

14)

.  やせの二次的障害としては,成長障害,貧血,骨 粗鬆症などがみられる

15)

.さらに,思春期女子のや せは,性腺機能不全による無月経,将来的には不妊 のリスクを高め,思春期やせ症による高度のやせは 脳萎縮・精神障害・突然死(心不全,不整脈)をき たす

13)

.また,学童期においてやせていることは,

子ども自身が「自分は弱々しい」という自己イメー ジを持つことがあり,さらには周囲の子どもたちか ら体格のことを指摘されると傷つき,自尊感情の低 下を招くことがあることも報告されている

16)

.  したがって,小児期におけるやせは,身体的にも 精神的にも影響を与えると考えられる.

肥満・やせと生活習慣

 これまで,小児肥満と生活習慣との関連について の研究が行われてきたが,小学校・中学校に通学す る学童・生徒を対象とした大規模な疫学研究は,本 邦においては少ない.また,小児期のやせと生活習 慣との関連については,ほとんど行われていないの が現状である.

 埼玉県伊奈町(2013 年 8 月 1 日における人口:約 44,000人

17)

)では,1994 年度より児童(小学 4 年生),

1997 年度より児童・生徒(小学 4 年生・中学 1 年生)

を対象に小児生活習慣病予防検診および健康実態調

査を実施してきた.昭和大学医学部衛生学公衆衛生 学講座公衆衛生学部門では,当初より同検診に関わ り,その結果を報告してきた

18‑20)

 本稿では,2004 〜 2009 年のデータを基に,小児 期の肥満・やせと生活習慣との関係について検討を 行った結果を示す.肥満度が

20%以下の者をやせ,

20%〜+20%の者を標準,+20%以上の者を肥満 と定義した

1)

.肥満度は,(実測体重

標準体重)

÷

標準体重

×

100(%)で算出した.標準体重は,文部 科学省の性別・年齢別・身長別標準体重を用いた

1)

.  解析対象者(性・年齢・身長・体重のデータに欠 損がない者)となった小学 4 年生 2,509 人と中学 1 年生2,106人の特性を表1に示す.小学4年生のうち,

肥満の割合は 8.3%(208 人),やせは 2.1%(53 人)

であった.学校の授業以外で運動を「しない」と回 答した者は,18.7%であった.96.8%の者が毎日朝 食をとっており,睡眠時間の中央値は 9 時間であっ

表 1 解析対象者の基本特性(学年別)

基本特性 小学 4 年生

(N = 2,509)

中学 1 年生

(N = 2,106)

男子の割合(%) 51.7 50.6

年齢(歳) 9.0 12.0

身長(cm) 134.6 153.6

体重(kg) 29.8 43.3

Body mass index(kg/m2 16.4 18.1

肥満度(%)

2.6

4.4

肥満の割合(%) 8.3 8.7

やせの割合(%) 2.1 4.9

運動(学校の授業以外)を

しない(%) 18.7 17.6

毎日,朝食をとる(%) 96.8 94.3

食べるスピード(%)

 速い 17.7 19.8

 ふつう 56.6 59.6

 遅い 25.8 20.6

睡眠時間(時間) 9.0 8.0

表中の値は中央値,または割合(%)

肥満度が+20%以上の者

肥満度が

20%以下の者

(3)

た.約 2 割の者が食べるスピードが「速い」と回答 しており,「遅い」者は,25.8%であった.中学 1 年生の肥満児の割合は 8.7%(183 人),やせは 4.9%

(103 人)であった.学校の授業以外で運動を「し ない」者は 17.6%であり,94.3%の者が毎日朝食を とっていた.食べるスピードが「速い」者および

「遅い」者の割合は,それぞれ 20%前後であった.

睡眠時間の中央値は,8 時間であった.

肥満との関連  1.運動について

 小学 4 年生・中学 1 年生では,肥満群は標準群に 比べて,学校の授業以外で運動を「しない」と回答 した者の割合が高かった(表 2).この傾向は,中 学 1 年生において顕著であり,男女に分けて解析し た際も同様であった.先行研究

21,22)

において,運動

は過体重/肥満のリスクを減少させる因子として報 告されている.したがって,小児肥満を予防するた めに運動は重要であると考えられる.特に中学生で は,学校の授業以外での運動習慣を形成することが 肥満予防に有効であるかもしれない.学校の授業以 外での運動の機会を作る取り組みとしては,両親を 含めた家族ぐるみでの活動(運動)が,両親のみな らず子どもの肥満予防にも効果的であると考えられ る.実際,両親が子どもの活動性に影響を与えるこ とが報告されており

23)

,活動的な両親の子どもは,

活動的でない両親の子どもに比べて,活動的である ことが示されている

24)

 2.食べる速さについて

 小学 4 年生および中学 1 年生の両方において,肥 満群は標準群に比べて,食べるスピードが速い者の 割合が高かった(表 2).食べる速さと過体重/肥

表 2 肥満群と標準群の特性比較(学年別)

小学 4 年生 中学 1 年生

肥満群

(N=208)

標準群

(N=2,248) P 値 肥満群

(N=183)

標準群

(N=1,820) P 値

男児の割合(%) 57.7 51.2 0.071 58.5 50.7 0.044

年齢(歳) 9.0 9.0 0.366 12.0 12.0 0.053

身長(cm) 136.5 134.3 <0.001 155.1 153.4 0.007

体重(kg) 42.2 29.4 <0.001 60.1 42.8 <0.001

Body mass index(kg/m2 22.4 16.2 <0.001 24.9 18.0 <0.001

肥満度(%) 29.3

3.6 <0.001 29.7

4.9 <0.001

運動をしない(%) 19.7 18.6 0.709 26.4 16.1 <0.001

毎日,朝食をとる(%) 97.6 96.7 0.508 93.4 94.3 0.591

食べるスピード(%)

 速い 34.3 16.4 <0.001 33.3 19.2 <0.001

 ふつう 55.2 56.8 56.7 60.5

 遅い 10.5 26.7 10.0 20.3

睡眠時間(%)

 9 時間未満 35.1 27.3 0.030 30.6 34.2 0.289

 9 〜 9.9 時間 54.3 57.9 54.6 48.6

 10 時間以上 10.6 14.9 14.8 17.3

表中の値は中央値,または割合(%)

ウィルコクソンの順位和検定,またはカイ二乗検定

中学 1 年生については,8 時間未満,8 〜 8.9 時間,9 時間以上の割合

(4)

満の関連については,これまでにも多く報告されて

いる

25‑29)

.ゆっくりかめば食べ物が口腔内にとどま

る時間が長くなり,それが満腹信号となる

30,31)

こと から,ゆっくりと食べることを通じて食事における 過剰なエネルギー摂取の減少が期待でき,結果とし て肥満の予防につながる可能性がある.実際に,最 近の研究

32)

においてもゆっくりと食べることは,

食事におけるエネルギー摂取を減少させることが示 されている.したがって,「ゆっくりとよくかんで 食べる」ことを意識させるような食育が,肥満予防 に重要であると考えられる.

 3.睡眠について

 小学 4 年生では,体格(肥満・標準)と睡眠時間 に関連が認められた(表 2).近年,睡眠不足が過 体重/肥満のリスク因子であるという研究が報告さ

れている

33‑37)

.先行研究では,睡眠不足が肥満を引

き起こすメカニズムとして①〜③のような機序が示 されている

38)

 ①睡眠が不足すると,レプチン(脂肪細胞で分泌 される食欲抑制物質

39)

)が減少し,食欲が増進する.

その結果,カロリー摂取量が増加し肥満となる.

 ②睡眠が不足する(睡眠時間が短くなる)ことに よって食べる機会が増加し,カロリー摂取量が増加 して肥満となる.

 ③睡眠不足により疲労が増加し,身体活動量が減 少することによって消費エネルギー量が減少し,肥 満となる.

 したがって,小児肥満の予防には,良い睡眠習慣 を形成することが重要であると考えられる.

 2006 年度の児童生徒の健康状態サーベイランス

表 3 やせ群と標準群の特性比較(学年別)

小学 4 年生 中学 1 年生

やせ群

(N = 53)

標準群

(N = 2,248) P 値 やせ群

(N = 103)

標準群

(N = 1,820) P 値

男児の割合(%) 52.8 51.2 0.810 35.0 50.7 0.002

年齢(歳) 9.0 9.0 0.107 12.0 12.0 0.490

身長(cm) 136.7 134.3 0.007 152.6 153.4 0.619

体重(kg) 25.0 29.4 <0.001 34.4 42.8 <0.001

Body mass index(kg/m2 13.5 16.2 <0.001 14.7 18.0 <0.001 肥満度(%)

21.4

3.6 <0.001

22.2

4.9 <0.001

運動をしない(%) 17.3 18.6 0.810 28.9 16.1 0.001

毎日,朝食をとる(%) 96.2 96.7 0.846 95.2 94.3 0.731

食べるスピード(%)

 速い 5.8 16.4 0.008 5.9 19.2 <0.001

 ふつう 50.0 56.8 50.0 60.5

 遅い 44.2 26.7 44.1 20.3

睡眠時間(%)

 9 時間未満 28.3 27.3 0.246 30.1 34.2 0.666

 9 〜 9.9 時間 49.1 57.9 50.5 48.6

 10 時間以上 22.6 14.9 19.4 17.3

表中の値は中央値,または割合(%)

ウィルコクソンの順位和検定,またはカイ二乗検定

中学 1 年生については,8 時間未満,8 〜 8.9 時間,9 時間以上の割合

(5)

事業報告書によると,小学 3・4 年生の約 3 割の者 が睡眠不足を感じており,その理由として男女とも に「なんとなく夜ふかししてしまう」が約 4 割,「家 族みんなの寝る時間が遅いので寝るのが遅い」と回 答した者は約 3 割であった

40)

.したがって,良い睡 眠習慣を形成するためには,本人のみならず,家族 ぐるみでの取り組みが必要であると考えられる.

やせとの関連  1.運動について

 中学 1 年生においては,やせ群の方が標準群に比 べて運動をしない者の割合が高かった(表 3).さ らにこの傾向は,男女に分けて解析した際にも同様 であった.最近の縦断研究において,低い身体活動 量はやせと有意に関連することが報告されてい る

41)

.また,やせている者の多くは,不規則な食生 活や運動不足により,筋肉量が多くを占める除脂肪 量が減少している,いわゆる運動不足型の不健康な やせ体型であることも報告されている

42)

.したがっ て,子どもの健やかな成長のためには,運動の実施 が重要であると考えられる.

 2.食べる速さについて

 小学 4 年生と中学 1 年生において,体格(標準・

やせ)と食べるスピードには有意な関連が認めら れ,やせ群では,標準群に比べて食べるスピードが 遅い者の割合が高かった(表 3).中学 1 年生を対 象とした先行研究においても,食事の速度が遅い,

量が少ないこととやせの関連が報告されている

43)

. しかしながら,やせと食べる速さに関する疫学研究 は少なく,因果関係の解明については,さらなる研 究の蓄積が必要である.

ま と め

 小児期における肥満・やせは,身体的にも精神的 にも影響を及ぼす.それゆえ,小児の肥満・やせを 予防することは,非常に重要である.

 小児の肥満・やせは,運動・食行動・睡眠などの 生活習慣と関連していることから,小児の健やかな 成長のためには,「運動の実施」,「ゆっくりとよく かんで食べる」,「良い睡眠習慣を形成する」ことが 重要であると考えられる.

謝辞 本研究にご協力いただきました全ての児童・生徒,

そしてその保護者の方々に心から感謝申し上げます.ま た,埼玉県伊奈町教育委員会,埼玉県伊奈町小児生活習 慣病予防検診実施推進協議会(会長,鳥山義仁先生),東 京慈恵会医科大学内科学講座(糖尿病・代謝・内分泌内 科)の関係者各位に感謝申し上げます.

文  献

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42) 橋本令子,村田光範.思春期の肥満とやせ.産 婦治療.2005;91:532‑537.

43) 王 紅兵,陳 暁莉,金山ひとみ,ほか.中学 1 年生の生活習慣と痩せとの関連について 富 山スタディの結果より.日衛誌.2005;60:268.

〔受付:8 月 9 日,受理:8 月 26 日,2013〕

参照

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3であり,男女で体格の 差はなかったが,男児の方が有意に低 値であったと報告している 4)

小児生活習慣病予防健診

平成12年1月15日 第47巻 日本公衛誌 第1号 87 学童期ダウン症者の肥満と生活習慣 カワナ ハツコ 川名はつ子 ノナカ コウイチ 野中 浩一 タカキ ハルヨシ 高木 晴良 テズカ フ

平成11年9月15日 第46巻 日本公衛誌 第9号 811 小児肥満における食生活パターンおよび両親の体格の関連 イヅノ タカシ 伊津野 孝 ヨシダ カツミ 吉田 勝美

 小児期肥満の70%前後は成人期まで続き動脈硬化性

の肥満の頻度は 8.83%,中 1(12 歳)は 10.42%で あり,学齢期小児の 10 人に 1 人が肥満傾向と報告 されていた.伊奈町においては,小 4

血圧Ⅰ度、高血圧Ⅱ度以上、治療中の 5 群に、血糖は随時血糖を用いて正常(随時血糖 140mg/dl 未満) 、境界型(随時血糖 140 以上 200mg/dl 未満)

肥満度で十 20% から十 40% 未満,十 40% か ら + 60% 未満, +60% 以上のものの 3 群に分けて,高脂